説明

電着金属剥離装置及びこれを用いた電着金属分離装置

【課題】電着金属のカソードからの自動での剥ぎ取りを可能にするとともに、電着金属やカソードの種類に柔軟に対応することができ、種々の電着金属の剥離を行うことができる電着金属剥離装置及びこれを用いた電着金属分離装置を提供する。
【解決手段】平板形状を有するカソード10の面上に電着した電着金属50を剥離する電着金属剥離装置であって、前記カソードの下部を保持し、前記カソードを立てた状態で固定する固定手段60と、前記カソードの面を押圧して前記カソードを反らし、前記カソードの上部側から前記電着金属の一部を剥離させる押圧剥離手段80と、前記電着金属の一部が前記カソードから剥離した状態で、回転部材101を前記カソード側から前記電着金属を外側に払い出す方向に回転させながら前記電着金属の上端部に接触させ、前記カソードと反対側に開くように前記電着金属を曲げ変形させる電着金属変形手段100と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、平板形状を有するカソードの面上に電着した電着金属を剥離する電着金属剥離装置及びこれを用いた電着金属分離装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、銅などの金属の電解精製は、電解液で満たされた電解槽内に、カソードとアノードを交互に並べた状態で通電し、カソードの両面に金属を電着させることにより行われる。カソードには繰り返し利用が可能なパーマネントカソードとして、ステンレス製の薄板などが一般的に用いられ、カソードの両面に電着した金属は、電解槽から引き上げた後に剥がし取られる。
【0003】
従来の電着金属の剥ぎ取り方法について、図を用いて説明する。
【0004】
図1は、電着が終了し、電解槽から引き上げられたカソード10の状態を示す概略図である。カソード10はステンレス製の板状部材である。カソード10の両サイド部には、樹脂製のエッヂカバー20が嵌め込まれる。カソード10の上部には、カソード10を電解槽に吊り下げるためのビーム30が設けられる。
【0005】
また、ビーム30の下部には二つの角穴40が設けられており、この角穴40にカソード10の搬送装置のフックを掛けて、吊り下げ搬送を行う。電解槽から引きあげられた状態のカソード10には、両面に電解精製された電着金属50が形成されている。
【0006】
図2は、従来の電着金属の剥離方法に用いられる搬送装置70に、カソード10が取り付けられた状態を示した図である。図2において、カソード10は搬送装置70上に載置され、ビーム30の両面が搬送用ガイド35により支持され、両サイド部のエッヂカバー20の下部がコの字固定具60により固定されている。
【0007】
動作としては、カソード10は、図1に示すように、電解槽に吊り下げるためのビーム30を上にして鉛直方向に立てた状態で、図2に示すような搬送装置70にてカソード面と平行方向に搬送され、インラインのフレキシング装置前で一度停止する。
【0008】
図3A〜図3Bは、フレキシング装置を用いた従来の電着金属の引き剥がし工程を示した図である。図3Aは、フレキシング装置に電着金属50が形成されたカソード10が設置された状態を示した図である。図3Aに示すように、電着金属50が形成されたカソード10の両面にフレキシング押し具81及び受け金具90が設けられている。フレキシング押し具81は、カソード10面の略中央部に設けられ、例えば、直径φ50mmで水平方向長さが500mmの円柱形状を有する。受け金具90は電着金属50の上側に設けられ、例えば直径φ50mmで水平方向長さが1200mmの円柱形状を有する。
【0009】
図3Bは、フレキシング押し具81を用いた電着金属部分剥離工程を示した図である。図3Bに示すように、フレキシング押し具81により、カソード10の中央付近が50mmほど押込まれる。このときカソード10は、弓なりに湾曲し、カソードの凸面側の電着金属50の上側が剥がれる。受け金具90は、電着金属50の上側が剥がれた際に、電着金属50が剥がれすぎてアノード10から剥離してしまい、転倒するのを防止する役割を果たす。電着金属10の剥離現象は、フレキシング時に電着金属50の面内方向に発生する引っ張り応力が、電着金属50のカソード10に対する付着力より大きくなるために発現すると考えられる。フレキシングにより電着金属50の上側から剥がれる理由は、電着金属50の下側はカソード10の下を取り囲むように電着金属50がつながっているため、付着力が強いからであると考えられる。フレキシング押し具81がカソード10から離れると、カソード10の湾曲変形は弾性変形のため、元の平らな状態に戻る。フレキシング中にカソード10から離れた状態にあった電着金属50は、カソード10が元の平らな状態に戻ると、カソード10と同様に平らになり、カソード10と平行に接した状態になる。以上のようなフレキシングの動作は、カソード10の両面に対して交互に同様に行われる。
【0010】
図3Cは、チゼリング装置を用いた従来の電着金属完全剥離工程を示した図である。図3Bに示したフレキシングが終了したカソードは、次のチゼリング装置前まで搬送され、一時停止する。チゼリング装置では、図3Cに示すように、電着金属50とカソード10との間に空いたわずかな隙間にくさび状のチス刃100が上から下に挿入され、電着金属50は完全にカソード10から剥ぎ取られる。
【0011】
また、電着金属と陰極板との間にチゼルを挿入して引き剥がす工程の前に、電着金属の上部側を開口し、外側に向かって折り曲げる癖付け工程を設けた電着金属剥ぎ取り方法と、かかる方法を、陰極板の下部側を両側から保持する下部ガイドと、陰極板の上部側であって癖付けを行うべき部分に電着金属の表面近傍に配置される上部ガイドと、陰極板の中央部付近を左右から押圧する押圧部材と、開口させた電着金属の上部側を折り曲げることによりチゼルの挿入を容易にするための隙間を確保する癖付け部材と、を備えてなる癖付装置により行う発明が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2008−231501号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、図1〜3において説明した従来の電着金属剥離方法では、時々電着金属とカソードの間のすき間が狭い、またはすき間曲がっているために、チス刃が電着金属の上端面に引っかかり、電着金属を自動で剥ぎ取ることができない場合がある。このような場合には、作業員による手動剥ぎ取り作業が必要となるため、単位時間当たりの処理枚数の低減要因の一つとなっていた。
【0014】
また、特許文献1に記載の電着金属剥ぎ取り方法及び癖付装置では、癖付け部材が断面略直角三角形の楔状をなす癖付け部材を用いているため、電着金属の折り曲げ角度を調整することができず、折り曲げ角度を変更するためには、癖付け部材を交換しなければならず、種々の電着金属剥ぎ取りに対応することが困難であるという問題があった。
【0015】
そこで、本発明は、これまでフレキシング実施後にも電着金属とカソードのすき間が小さく、曲がっているため、次工程のチゼリングにおける電着金属のカソードからの剥ぎ取りが自動で行えなかったものを、ほぼ確実に自動で剥ぎ取りを可能にするとともに、電着金属やカソードの種類に柔軟に対応することができ、種々の電着金属の剥離を行うことができる電着金属剥離装置及びこれを用いた電着金属分離装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するため、本発明の一態様に係る電着金属剥離装置は、平板形状を有するカソードの面上に電着した電着金属を剥離する電着金属剥離装置であって、
前記カソードの下部を保持し、前記カソードを立てた状態で固定する固定手段と、
前記カソードの面を押圧して前記カソードを反らし、前記カソードの上部側から前記電着金属の一部を剥離させる押圧剥離手段と、
前記電着金属の一部が前記カソードから剥離した状態で、回転部材を前記カソード側から前記電着金属を外側に払い出す方向に回転させながら前記電着金属の上端部に接触させ、前記カソードと反対側に開くように前記電着金属を曲げ変形させる電着金属変形手段と、を有することを特徴とする。
【0017】
また、前記回転部材は、回転軸に偏心して支持された部材であってもよい。
【0018】
また、前記回転部材は、回転軸に垂直な断面形状が楕円形状の楕円柱であってもよい。
【0019】
また、前記回転部材の外周には、小型のローラーが複数設けられていてもよい。
【0020】
また、前記回転部材の回転角度を制御することにより、前記電着金属の曲げ変形の開き角度を調整する制御手段を更に備えてもよい。
【0021】
また、前記押圧剥離手段及び前記電着金属変形手段は、前記カソードの面の両側に設けられていてもよい。
【0022】
また、前記電着金属側と対向する前記電着金属の一部剥離が発生する位置には、一部剥離した前記電着金属を受ける受け金具が設けられていてもよい。
【0023】
また、前記電着金属変形手段により上端部が曲げ変形された電着金属が面上に電着したカソードを、チゼリング装置に搬送する搬送手段を更に備えてもよい。
【0024】
本発明の他の態様に係る電着金属分離装置は、前記電着金属剥離装置と、
前記上端部が曲げ変形された箇所にチス刃を挿入して下降させ、前記電着金属を前記カソードから完全に剥離するチゼリング装置と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、フレキシング工程中に電着金属とカソードのすき間をチス刃が確実に入る大きさまで、電着金属の上端をカソードとは反対方向に塑性変形させることができる。これにより、次のチゼリング工程において、非定常的な作業員による手動剥ぎ取り作業を無くすことができ、単位時間当たりの処理枚数を増大させ、電解精製全体の生産性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】電着終了後に電解槽から引き上げられたカソードの状態を示す概略図である。
【図2】カソードが搬送装置によって搬送される状態を示す概略図である。
【図3A】フレキシング装置に電着金属が形成されたカソードが設置された状態を示した図である。
【図3B】フレキシング押し具を用いた電着金属部分剥離工程を示した図である。
【図3C】チゼリング装置を用いた従来の電着金属完全剥離工程を示した図である。
【図4】本発明の実施例1に係る電着金属剥離装置の一例を示した側面構成図である。
【図5A】実施例1に係る金属電着剥離装置に電着金属が面上に付着したカソードが搬入された状態を示した図である。
【図5B】電着金属のカソードからの一部剥離が発生した状態を示した図である。
【図5C】電着金属変形機の回転部材が電着金属上端部と接触した状態を示した図である。
【図5D】電着金属が押し曲げられた状態を示した図である。
【図5E】電着金属部分剥離工程が終了した状態を示した図である。
【図6】実施例2に係る電着金属剥離装置の回転部材の一例を示した構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図面を参照して、本発明を実施するための形態の説明を行う。
【実施例1】
【0028】
図4は、本発明の実施例1に係る電着金属剥離装置の一例を示した側面構成図である。なお、図1、図2、図3A〜図3Cにおいて説明した電着金属剥離装置は、一般的な電着金属剥離装置の構成を示しているため、本実施例においても、共通する構成要素については、同一の参照番号を付すものとする。
【0029】
図4において、実施例1に係る電着金属剥離装置は、カソード10と、ビーム30と、搬送用ガイド35と、固定具60と、搬送装置70と、フレキシング装置80と、受け金具90と、電着金属変形機100と、制御器130と、支柱110と、横梁120と、制御器130とを備える。また、関連構成要素として、剥離対象となる電着金属50が、カソード10の面上に形成されている。
【0030】
本実施例に係る電着金属装置は、搬送装置70上に固定具60が設けられ、固定具60上にカソード10が設置されており、固定具60がカソード10の下部を支持している。カソード10の上部には、ビーム30が設けられ、カソード10を上部から支持している。ビーム30の両側には、搬送用ガイド35が設けられ、搬送装置70がカソード10を搬送する際の方向を定めるガイドとなる。カソード10の面に垂直な両側には、カソード10を両側から挟むように2本の支柱110が設けられている。また、2本の支柱110の上端部を接続するように、横梁120が設けられている。支柱110の両内側には、フレキシブル押し具81と、受け具90と、電着金属変形機100が、各々カソード10を挟むように各々設けられている。また、横梁120には、搬送用ガイド35が支持されている。更に、電着金属変形機100には、制御器130が接続されている。
【0031】
カソード10は、電着工程で陰極となる電極であり、電着金属50が付着する対象となる金属である。上述のように、カソード10は、繰り返し利用が可能なパーマネントカソードとして、ステンレス製の薄板などが用いられてよい。なお、電着工程は、一般に、金属等の電解液で満たされた電解槽にカソード10とアノードが対向配置され、カソード10とアノードの間に電流を流すことにより、カソード10の両面に電着金属50が形成される。電着工程により、両面に銅等の金属が電着したカソード10は、洗浄等の必要な処理を経て、本実施例に係る電着金属剥離装置に搬入される。
【0032】
ビーム30は、カソード10を上方から支持する部材である。また、搬送用ガイド35は、ビーム30を両側から支持し、搬送装置70がカソード10を搬送する際に、搬送方向をガイドする。
【0033】
固定具60は、カソード10の下部を支持し、カソード10を立てた状態で固定支持する手段である。固定具60は、例えば、図2で示したように、コの字型に形成され、カソード10を両側から挟んで固定するように構成されてもよいし、他の形状又は構造で構成されてもよい。固定具60は、カソード10を略垂直に立てた状態で固定支持することができれば、種々の手段を用いることができる。
【0034】
搬送装置70は、カソード10を搬送する手段である。搬送装置70は、本実施例に係る電着金属剥離装置への搬入と、本実施例に係る電着金属剥離装置からの搬出の双方を行うように構成してよい。本実施例に係る電着装置へのカソード10の搬入は、上述のように、電着工程を経て両面に電着金属50が形成されたカソード10について行われる。つまり、搬送装置70が、電解槽から本実施例に係る電着装置へのカソード10の搬送を行う。
【0035】
一方、本実施例に係る電着金属剥離装置では、電着金属部分剥離工程を行い、電着金属50の一部剥離を行う。よって、電着金属部分剥離工程の後は、電着金属50をカソード10から完全に剥離する電着金属完全剥離工程を行う必要がある。電着金属完全剥離工程は、一般的に、チゼリング装置と呼ばれる分離装置で行われるため、搬送手段70は、本実施例に係る電着金属剥離装置で電着金属50の一部剥離を行った後は、チゼリング装置にカソード10を搬送する。チゼリング装置では、チス刃150を用いて電着金属50のカソード10からの分離が行われる。よって、搬送装置70は、各工程を行う各装置間でのカソード10の搬送を行う。
【0036】
なお、搬送装置70は、カソード10を搬送することができれば、種々の構成とされてよいが、例えば、搬送レールを備え、搬送レール上をカソード10が移動するような構成とされてもよい。
【0037】
フレキシング装置80は、電着金属50が形成されたカソード10の面上の中央領域を横方向(水平方向)に押圧し、カソード10を反らせ、カソード10の上部から電着金属50の上端部を剥離させるための押圧剥離手段である。フレキシング装置80は、フレキシング押し具81と、シリンダ82と、駆動部83とを有する。フレキシング押し具81は、カソード10の中央部を、カソード面に略垂直に押圧する手段であり、カソード10の中央付近の高さで、紙面と垂直な水平方向に延在して設けられ、円柱状の形状を有する。フレキシング押し具81が、カソード10の中央領域を押圧することにより、カソード10を反らせ、電着金属50の上部を剥離させる。電着金属50は、数mm程度、例えば7mm程度の厚さを有する金属薄板であり、カソード10に押圧力を付与して反らした場合のカソードと電着金属の間のせん断応力が、カソードと電着金属の間の接着力以上になると、電着金属50の一部がカソード10から剥離する。カソード10の下面には、電着金属50が両面に跨るように連続膜として付着しているが、カソード10は、電着金属50は両面で連続しておらず、片面にそれぞれ付着しているので、上端部の方が下端部よりも付着力が弱く、カソード10の上部の電着金属50が最初に剥離し始める。なお、電着金属50の剥離は、電着金属50の上辺の総てでほぼ同時に発生することが好ましいので、フレキシング押し具81は、円柱状に水平方向に延在した形状となっており、カソード面10に平行に設けられる。
【0038】
このように、フレキシング装置80は、カソード10の中央部分に、カソード面に略垂直に押圧力を印加することにより、カソード10を反らし、電着金属50を部分剥離させ、カソード10と電着金属50との間に隙間を生じさせる。なお、フレキシング押し具81は、シリンダ82の伸縮移動により、カソード面に垂直に、水平方向に移動する動作を行う。シリンダ82の駆動は、駆動部83により行われる。駆動部83には、例えば、モータが収容され、シリンダ82を、カソード面に垂直に、水平方向に駆動できるように構成されている。駆動部83は、例えば、制御器130に接続され、フレキシング押し具81の駆動タイミングが制御されるように構成されてもよい。
【0039】
受け金具90は、電着金属50の上側が剥がれた際に、電着金属50が剥がれすぎてアノード10から剥離してしまい、転倒するのを防止する手段である。受け金具90は、支持部材91を介して、支柱110に支持されている。受け金具90は、一部剥離した電着金属50が剥がれ過ぎて転倒するのを防止すべく、電着金属50の上部と対向するとともに、電着金属50に接近した位置に設けられる。また、受け金具90も、フレキシング押し具81と同様に、紙面に垂直な方向に延在する柱状の形状を有することが好ましい。
【0040】
電着金属変形機100は、フレキシング装置80によるカソード10の押圧により、カソード10から一部剥離した電着金属50の上端部を外側に曲げ変形させ、カソード10と電着金属50との間に隙間を形成するための電着金属変形手段である。電着金属変形機100は、回転部材101と、回転軸102と、支持部材103とを備える。また、電着金属変形機100は、制御器130に接続され、回転部材101の回転駆動が制御されるようになっている。
【0041】
回転部材101は、回転しながら一部剥離した電着金属50の上部と接触し、電着金属50にカソード10から離れる向きの横方向(水平方向)の力を与え、電着金属50を外側に開くように塑性変形される手段である。よって、回転部材101は、フレキシング押し具81がカソード10を押圧して反らし、電着金属50の上部が剥離したときに、下面が電着金属50の上部に接触するような位置に配置される。また、回転部材101は、電着金属50が外側に開く力を与えるように、電着金属50の上端部をカソード10から離れるように払い出すような方向に回転する。つまり、図4においては、右側の回転部材101は反時計回りに回転し、左側の回転部材101は時計回りに回転する。
【0042】
回転部材101は、偏心した状態で回転軸102に回転可能に支持されることが好ましい。偏心して回転軸102に支持されることにより、回転部材101の回転ストロークを大きくすることができるので、電着金属50に効率的に外側に開く力を付与することができる。
【0043】
回転部材101は、回転軸102に垂直な面の断面形状が横長形状であり、カソード10に平行に延在する柱形状であることが好ましい。横長形状を有することにより、回転軸102に偏心した状態で取り付けたときに、回転部材101の回転ストロークを大きくすることができ、効率的に回転部材101の回転による横方向に開く力を電着金属50に付与することができる。また、回転部材101の回転軸102に垂直な面の断面形状を横長形状とすることにより、回転部材101が電着金属50の上端部に接触した後、電着金属50とカソード10との隙間に入り込んで電着金属50に外側に開く力を与える際の回転部材10と電着金属50との接触面積を大きくすることができる。これにより、電着金属50とカソード10との間の隙間を広げる方向の力を電着金属50に効率的に付与することができる。なお、図4においては、回転部材101は、回転軸102に垂直な面の断面形状が楕円形状であり、カソード面に平行に延在する楕円柱の形状を有するとともに、回転軸102に偏心した状態で支持されている。これにより、柔らかく電着金属50に接触するとともに、電着金属50とカソード10との間の隙間に回転部材101が容易に入り込み、電着金属50を確実に外側に曲げ変形させることができる。
【0044】
回転部材101の回転角度は、要求される電着金属50の開き角度に応じて、種々設定されてよい。つまり、電着金属50を大きく開きたい場合には、回転部材101を1回転させるか、又は1回転未満の比較的大きな所定角度で回転させればよい。一方、電着金属50の開き角度を小さくしたい場合には、1回転未満で、かつ比較的小さな所定角度で回転させればよい。これにより、回転部材101を交換しなくても、カソード10及び電着金属50の種類等に応じて回転角度を設定することができ、所望の開き角度で電着金属50を曲げ変形させることができる。なお、回転部材101の回転角度の設定及び制御は、制御機130により行うようにしてよい。
【0045】
支持部材103は、回転部材101を回転可能に支持するための部材であり、先端に回転軸102が設けられる。また、支持部材103は、回転部材101を回転可能に支持できれば、種々の構成とされてよいが、例えば、図4に示すように、支柱110に支持されて構成されてもよい。
【0046】
支持部材103は、伸縮可能なシリンダとして構成されてもよい。これにより、回転部材101のカソード10との距離を調整することができ、回転部材101の回転角度の制御と合わせて、より適切な電着金属50の曲げ変形を行うことができる。なお、支持部材103をシリンダとして構成する場合には、フレキシング装置80と同様に、モータ等の駆動源を内蔵し、シリンダを伸縮駆動させればよい。伸縮距離は、制御器130で行うようにしてよい。
【0047】
このように、本実施例に係る電着金属装置は、次の電着金属完全剥離工程において、チス刃が電着金属50とカソード10間の最適な位置に挿入できるように、回転部材101と電着金属50の上端の距離、角度が自由に調整できる調整機構も必要に応じて備えることにより、電着金属50の寸法や位置などが変更になった場合にも対応できるようになっている。
【0048】
支柱101は、フレキシング装置80、受け金具90、電着金属変形機100及び横梁120を固定支持するための手段であり、カソード10の両側を挟むように設けられる。フレキシング装置80、受け金具90及び電着金属変形機100は、種々の手段により固定支持されてよいが、例えば、図4に示すような支柱101を設けてこれに固定支持するように構成してもよい。
【0049】
横梁120は、搬送用ガイド35を固定支持するために手段である。横梁120は、支柱110に支持されて構成される。
【0050】
制御器130は、電着金属変形機100の回転部材101の回転角度を制御するための手段である。回転角度の制御は、運転者が、条件に応じて設定を行うようにしてもよいし、カソード10と電着金属50の種類、サイズ等の条件から、制御器130が自動的に設定制御を行う構成としてもよい。制御器130は、所定の電子回路や、プログラムにより動作するCPU(Central Processing Unit、中央処理装置)を備えたマイクロコンピュータとして構成されてもよい。また、上述のように、制御器130は、電着金属変形機100の支持部材103がシリンダとして構成されたときには、支持部材103を併せて制御するように構成されてよいし、また、フレキシング装置80の押圧タイミングも併せて制御するように構成されてもよい。
【0051】
次に、図5A〜図5Eを用いて、実施例1に係る金属電着剥離装置の動作例について説明する。図5A〜図5Eは、本実施例に係る電着金属剥離装置による電着金属部分剥離工程の一連の動作を示した図である。なお、図5A〜図5Eにおいて、今まで説明した構成要素と同様の構成要素については、同一の参照符号を付し、その説明を省略する。また、図5A〜図5Eにおいては、動作説明に必要な構成要素のみが示されている。
【0052】
図5Aは、実施例1に係る金属電着剥離装置に、電着金属50が面上に付着したカソード10が搬入された状態を示した図である。本実施例に係る電着金属剥離装置は、フレキシング装置80の近辺に設置するもので、フレキシングによりカソード10から剥がれた電着金属50の上端外側に、楕円柱の回転部材101を水平方向に配置する。この楕円柱の回転部材101の長さは、電着金属50の幅より若干長く、偏心した回転軸102を有して一方向に回転する。また、回転部材101と同じ側には、電着金属50に対向する上部に、受け治具90が配置されている。
【0053】
図5Bは、フレキシング装置80の押圧駆動により、電着金属50のカソード10からの一部剥離が発生した状態を示した図である。図5Bにおいて、フレキシング装置80が起動し、フレキシング押し具81がカソード10の中央領域を押圧する。これにより、カソード10が反り、カソード10から電着金属50の上部が一部剥離する。一部剥離した電着金属50は、受け治具90に接触し、剥離が抑制されている。電着金属50が受け治具90に接触することで、回転部材101と電着金属50の位置が接近し、回転部材101が電着金属50の上方に位置する状態となる。ここで、電着金属変形機100の回転部材101が回転を開始する。
【0054】
図5Cは、電着金属変形機100の回転部材101が回転し、電着金属50の上端部と接触した状態を示した図である。ここで、回転部材101は、電着金属50の上端部と接触する下面が、電着金属50をカソード10側から外側に払い出すような向きに回転する。
【0055】
図5Dは、電着金属50が押し曲げられた状態を示した図である。図5Dにおいて、回転部材101が電着金属50とカソード10との隙間に入り込み、電着金属50にカソード10から離れる方向の力を印加している。これにより、電着金属50の上端部が、カソード10と反対側に押し曲げられ、塑性変形する。なお、受け治具90は、電着金属50を受け、電着金属50の曲げ変形の支点となる。
【0056】
このように、図5B〜図5Dに示すように、フレキシング押し具81が最も押込まれた状態において、偏心回転する楕円柱の回転部材101の先端は、フレキシングによりカソード10から剥がれた電着金属50の上端をカソード10側からカソード10とは反対側に回転しながら押し曲げるため、電着金属50の上端をカソード10とは反対側に塑性変形させる。このとき、電着金属50の上端のカソード10が無い側は、受け金具90に押し付けられる。つまり、電着金属50の上端のカソード10とは反対側に設置した受け金具90は、電着金属50の上端の曲がる範囲を制限するため、電着金属50の上端の屈曲位置を決める役割を果たす。
【0057】
図5Eは、電着金属部分剥離工程が終了した状態を示した図である。図5Eにおいて、フレキシング押し具81が元の状態に戻り、カソード10の押圧は終了する。このとき、電着金属50は、カソード10の面上にある状態に戻るが、電着金属50の上端部は、カソード10側から外側に開くように曲げ変形が施され、カソード10と電着金属50との間の隙間が確保できた状態となっている。なお、実際に行った例では、図5Eにおいて、フレキシング押し具81が引き込まれても、電着金属50の塑性変形された上端とカソード10の間には約3mm程度の隙間が空くように、回転部材101の楕円柱の取り付け位置を事前に調整した。
【0058】
図5Eの電着金属部分剥離工程の後は、搬送装置70によりチゼリング装置に電着金属50が形成されたカソード10を搬送し、電着金属完全剥離工程を行う。チゼリング装置では、チス刃150をカソード10と電着金属50との間に挿入し、挿入したチス刃150をカソード10の下部まで下降させることにより、電着金属50をカソード10から完全に剥離し、分離する。このとき、本実施例に係る電着金属剥離装置により、電着金属50の上端部が外側に開き、カソード10との隙間が形成されているため、容易にチス刃150がカソード10と電着金属50との間に挿入され、電着金属50のカソード10からの分離を容易かつ確実に行うことができる。
【0059】
従来の電着金属剥離装置を用いた場合、チゼリングにおけるチス刃が電着金属とカソードとの間に挿入できず、作業員による手動剥ぎ取り作業は、処理カソード1000枚当り、両面合わせて5枚程度の頻度で発生していたが、実施例1に係る電着金属剥離装置を導入したことで、処理カソード1000枚当り、両面合わせて1枚程度まで低減した。
【0060】
なお、搬送装置70を含めた本実施例に係る電着金属剥離装置と、チゼリング装置とで、電着金属分離装置を構成する。電着金属分離装置により、カソード10から電着金属50の分離を総て自動で行うことができる。
【実施例2】
【0061】
図6は、実施例2に係る電着金属剥離装置の回転部材の一例を示した構成図である。実施例2に係る電着金属剥離装置においては、回転部材104の構成のみが実施例1に係る電着金属装置と異なり、その他の構成要素については、実施例1に係る電着金属剥離装置と同様であり、図4の構成をそのまま適用できるので、全体構成の図示を省略する。また、実施例1において説明した構成要素と同様の構成要素には、同一の参照符号を付し、その説明を省略する。
【0062】
実施例2に係る電着金属剥離装置も、フレキシング装置80の近辺に設置するが、実施例2に係る電着金属剥離装置においては、フレキシングによりカソード10から剥がれた電着金属50の上端外側に横倒しにした短い楕円柱の回転部材104を複数水平方向に配置する。また、図6に示すように、各短い楕円柱の回転部材104の外周には、小型のローラー105が配置されている。このような短い楕円柱の回転部材104を複数連ねたものの全長は、電着金属50の幅より若干長く、偏心した回転軸102を有して一方向に回転する。
【0063】
このように、短い水平長さの楕円柱からなる回転部材104を複数設け、回転部材の電着部材50と接触する先端部に小型ローラー105を設け、電着金属50の曲げ変形を行うようにしてもよい。先端に小型ローラー105が設けられているため、電着金属50の上端部に接触する際に、電着金属50の上端に傷が付くことを確実に防止することができる。
【0064】
なお、実施例2に係る電着金属剥離装置も、実施例1の図5A〜図5Eで説明した動作を行うことにより、電着金属50を曲げ変形させ、カソード10と電着金属50との間の隙間を確保することができる。
【0065】
実際に、実施例2に係る電着金属剥離装置を試作して実施したところ、従来の電着金属剥離装置では、チゼリングにおけるチス刃が電着金属とカソード間に挿入できず、作業員による手動剥ぎ取り作業は、処理カソード1000枚当り、両面合わせて5枚程度の頻度で発生していたが、実施例2に係る電着金属剥離装置を導入したことで、処理カソード1000枚当り、両面合わせて1枚程度まで低減した。
【0066】
また、電着金属剥離装置の楕円柱の回転部材104と接触する電着金属50の上端のカソード10側の面は、回転部材104の外周部に小型のローラー105がついているため、押し曲げ時の摩擦による引っかき傷のようなものはなく、電着金属50のカソード10側の他の面と同様に平滑だった。
【0067】
このように、実施例2に係る電着金属剥離装置によれば、電着金属50の上端部に傷が発生することを確実に防止しつつ、自動化により生産性を向上させることができる。
【0068】
以上、本発明の好ましい実施例について詳説したが、本発明は、上述した実施例に制限されることはなく、本発明の範囲を逸脱することなく、上述した実施例に種々の変形及び置換を加えることができる。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明は、電着金属を電極から剥ぎ取る電着金属の剥離装置に利用することができる。
【符号の説明】
【0070】
10 カソード
20 エッヂカバー
30 ビーム
35 搬送ガイド
40 角穴
50 電着金属
60 固定具
70 搬送装置
80 フレキシング装置
81 フレキシング押し具
82 シリンダ
83 駆動部
90 受け金具
91 支持部材
100 電着金属変形機
101、104、106 回転部材
102 回転軸
103 支持部材
105 ローラー
110 支柱
120 横梁
130 制御器
150 チス刃

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平板形状を有するカソードの面上に電着した電着金属を剥離する電着金属剥離装置であって、
前記カソードの下部を保持し、前記カソードを立てた状態で固定する固定手段と、
前記カソードの面を押圧して前記カソードを反らし、前記カソードの上部側から前記電着金属の一部を剥離させる押圧剥離手段と、
前記電着金属の一部が前記カソードから剥離した状態で、回転部材を前記カソード側から前記電着金属を外側に払い出す方向に回転させながら前記電着金属の上端部に接触させ、前記カソードと反対側に開くように前記電着金属を曲げ変形させる電着金属変形手段と、を有することを特徴とする電着金属剥離装置。
【請求項2】
前記回転部材は、回転軸に偏心して支持された部材であることを特徴とする請求項1に記載の電着金属剥離装置。
【請求項3】
前記回転部材は、回転軸に垂直な断面形状が楕円形状の楕円柱であることを特徴とする請求項1又は2に記載の電着金属剥離装置。
【請求項4】
前記回転部材の外周には、小型のローラーが複数設けられていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の電着金属剥離装置。
【請求項5】
前記回転部材の回転角度を制御することにより、前記電着金属の曲げ変形の開き角度を調整する制御手段を更に備えることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の電着金属剥離装置。
【請求項6】
前記押圧剥離手段及び前記電着金属変形手段は、前記カソードの面の両側に設けられていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の電着金属剥離装置。
【請求項7】
前記電着金属側と対向する前記電着金属の一部剥離が発生する位置には、一部剥離した前記電着金属を受ける受け金具が設けられていることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載の電着金属剥離装置。
【請求項8】
前記電着金属変形手段により上端部が曲げ変形された電着金属が面上に電着したカソードを、チゼリング装置に搬送する搬送手段を更に備えたことを特徴とする請求項1乃至7のいずれか一項に記載の電着金属剥離装置。
【請求項9】
請求項8に記載の電着金属剥離装置と、
前記上端部が曲げ変形された箇所にチス刃を挿入して下降させ、前記電着金属を前記カソードから完全に剥離するチゼリング装置と、を有することを特徴とする電着金属分離装置。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図5D】
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【図5E】
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【図6】
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