説明

電磁ノイズ抑制部材

【課題】GHz帯域の周波数を有する高周波電磁ノイズに対して優れた抑制効果を発現することが可能であり、しかも、熱伝導率に優れ、放熱性能を十分に高めることが可能な、電磁ノイズ抑制部材を提供する。
【解決手段】本発明による電磁ノイズ抑制部材は、例えば、バインダ(結合剤)として機能する樹脂中に、磁性粉及び炭素粉が含有されてなるものであって、電磁ノイズ抑制部材における磁性粉及び炭素粉の合計含有割合が、40〜80vol%とされ、同時に、磁性粉の含有割合が20〜60vol%に、且つ、炭素粉の含有割合が20〜60vol%に調整されており、さらに、電磁ノイズ抑制部材としての複素誘電率εの虚数部ε"の値は、1GHzにおいて200〜1500とされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁ノイズ対策に用いられる電磁ノイズ抑制部材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電子機器において伝送される信号の電磁ノイズを抑制するために、回路の近傍や伝送線路の周囲等に、電磁ノイズ抑制シートや複合磁性シートといった電磁ノイズ抑制部材を配置する手法が広く用いられている。例えば、電磁ノイズ抑制シートを携帯電話の内部等に用いた場合、電磁場閉じ込め効果により、機器内の信号ラインや集積回路(IC)から発生する高周波磁界成分による対向ライン等への誘導結合が抑制される(デカップリング効果)。また、IC等から延出する信号線に電磁ノイズ抑制シートを適用することにより、信号線へのインピーダンス付加効果による高周波成分が抑制される(フィルタ効果)。さらに、高速回路を接続するフレキシブルケーブル等に電磁ノイズ抑制シートを用いることにより、ケーブルに重畳するコモンモード電流成分が抑制される。
【0003】
ところで、デジタル電子機器等で使用される電気信号の高速化及び高周波化に対応するため、電子回路設計は、近年、ますます多様化してきており、電子部品や伝送信号の複合化に応じて抑制すべき電磁ノイズの周波数も多様化且つ広帯域(例えば、kHz〜GHzオーダーまで非常に幅広い周波数範囲)化している。
【0004】
これに対応するべく、電磁ノイズ抑制シート等に用い得る電磁波吸収材料の一例として、特許文献1には、誘電体(但し黒鉛を除く)及び/又は磁性体と共に、誘電体調整剤として、固定炭素分97%以上、灰分が3%以下、及び、揮発分が3%以下である黒鉛を含有したものが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−278137号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、上記特許文献1に記載された電磁波吸収材料は、所望の周波数帯域で高い電磁波吸収性能を実現することを企図したものであり、特に、材料設計において無反射条件を達成するための調節パラメータとして、材料組成物中に含有する誘電体材料の複素誘電率(ε)に着目したもの、すなわち、電磁波吸収特性における誘電損失を重視したものと推察される。しかし、本発明者らが、この従来の電磁波吸収材料について、その電磁ノイズ抑制効果の周波数特性を評価したところ、特にGHz領域の高周波帯域を有する電磁ノイズに対する抑制効果(特に、ノイズ発生源から波長程度以内の近傍界用としての抑制効果)が未だ不十分であることが判明した。
【0007】
また、近時、例えば半導体プロセッサ等の電子部品は、微細化及び作動(クロック)周波数の高速化に伴って、高電流による発熱が顕著となっており、しかも、その高密度化及び高集積化がますます進んでいることから、かかる電子部品からの放熱を外部に効率よく排出すること(放熱効果の向上)、及び、そのような電子部品からの熱を遮ること(断熱効果の向上)は、電子機器の動作安定性や信頼性を確保する観点から、極めて重大な課題となっている。しかし、本発明者らの知見によれば、上記従来の電磁波吸収材料では、そのような要求を十分に満たすことも困難な傾向にある。
【0008】
そこで、本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであり、GHz帯域の周波数を有する高周波電磁ノイズに対して優れた抑制効果を発現することが可能であり、しかも、熱伝導率に優れ、放熱性能を十分に高めることが可能な、電磁ノイズ抑制部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明による電磁ノイズ抑制材料は、磁性粉及び炭素粉が樹脂中に含有されてなるものであって、磁性粉及び炭素粉の合計含有割合が40〜80vol%であり、磁性粉の含有割合が20〜60vol%であり、且つ、炭素粉の含有割合が20〜60vol% であり、さらに、複素誘電率εの虚数部ε"の値が、1GHzにおいて200〜1500である。
【0010】
ここで、本明細書における「炭素粉」とは、炭素を主原料とする(炭素質の)粉体又は粉末を意味し、特に、導電性を有するものが好適に用いられる。その具体例としては、グラファイトやグラフェン等が挙げられる。導電性炭素繊維(アクリル繊維(PAN系)又はピッチ(石油、石炭、コールタール等の副生成物:PITCH系)を高温で炭化(酸素を遮断した状態で加熱)することにより形成される炭素繊維、フラーレン及びカーボンナノチューブ等の微細な黒鉛結晶構造を有するものを粉砕して得られる粉体又は粉末を用いてもよい。
【0011】
また、本明細書における「vol%」とは、体積百分率であって、バインダ(結合剤)となる樹脂中に、磁性粉及び炭素粉が混合されて成形(例えば、プレス成形)された電磁ノイズ抑制部材のその成形後の実測体積Vと、同量の磁性粉及び/又は炭素粉の質量m及び理論密度ρとから、下記式(1);
vol%=m/ρ/V×100 … (1)、
を用いて算出される値を示す。なお、上記理論密度ρは、磁性粉及び炭素粉のいずれか単独物については、その真密度を示し、磁性粉及び炭素粉の混合物については、具体的には、[磁性粉の真密度]×[混合物の合計体積に対する磁性粉の体積]+[炭素粉の真密度]×[混合物の合計体積に対する炭素粉の体積]によって算出することができる。
【0012】
ところで、電磁ノイズ抑制部材の特性は、一般に、主として、その部材が設置される電磁波環境とその部材を構成する材料の磁気的及び電気的な物性に依存し得る。これらのうち、電磁場環境は、例えば、電界(電場)強度Eを磁界(磁場)強度Hで除した量である波動インピーダンスE/Hを一つの指標とすることができる。参考までに、ノイズ対策が必要な伝送線路等の周囲におけるE/Hの値は、例えばTEM(Transverse Electromagnetic Wave)波の120π(Ω)(約400Ω程度)を標準とすると、大きい場合にはその10倍程度又はそれ以上のオーダー、小さい場合には標準の1/10又はそれ以下のオーダーとなる。
【0013】
また、材料の磁気的及び電気的な物性としては、複素透磁率μの実数部μ'及び虚数部μ"、並びに、複素誘電率εの実数部 ε'及び虚数部ε"が、一般に用いられる。それらのうち、複素透磁率の実数部μ'は磁場の閉じ込め効果を表し、複素誘電率の実数部ε'は電場の閉じ込め効果を表す。なお、μ'又はε'の値が大きいほど閉じ込め効果が高い(すなわち、電磁ノイズ抑制効果が高い)傾向にある。一方、複素透磁率の虚数部μ"は磁気損失効果を表し、複素誘電率の虚数部ε"は誘電損失効果を表す。なお、μ"又はε"の値が大きいほどエネルギ損失が大きい(すなわち、電磁ノイズ抑制効果が 高い)傾向にある。さらに、本発明者らの知見によれば、GHz帯においては、因子μ'による電場閉じ込め効果や因子μ"による磁気エネルギ損失効果よりも、因子ε'による電場閉じ込め効果及び因子ε"による誘電エネルギ損失効果の方が、電磁ノイズ抑制により有効に寄与することが判明している。
【0014】
これに対し、上述した構成を有する電磁ノイズ抑制部材においては、磁性粉及び炭素粉の合計含有割合が40vol%以上であるので、GHz帯域の周波数を有する高周波電磁ノイズに対する抑制効果を十分に得ることが可能な程度(その用途が近傍界用であっても)に、複素誘電率εの虚数部ε"の値が高められる。また、磁性粉及び炭素粉の合計含有割合が80vol%以下であるので、電磁ノイズの抑制の観点から不都合な電磁反射が生起されない程度に、複素誘電率εの虚数部ε"の値が制限される。その際、電磁ノイズ抑制部材における磁性粉の含有割合が20vol%以上であるので、GHz帯域における挿入損失に対し、磁性粉による磁気損失効果が有意に寄与し得る。また、電磁ノイズ抑制部材における炭素粉の含有割合が20vol%以上であるので、GHz帯域における挿入損失に対し、炭素粉による誘電損失効果も有意に寄与し得る。
【0015】
また、上述した構成を有する電磁ノイズ抑制部材は、電磁ノイズ抑制部材の複素誘電率εの虚数部ε"の値が、1GHzにおいて200〜1500であるので、電磁ノイズに対して挿入損失(特に、誘電損失)を増大させ、且つ、不都合な電磁反射の発生を抑止することにより、GHz帯域において優れた電磁ノイズ抑制効果が高められる。特に、電磁ノイズ抑制部材の複素誘電率εの虚数部ε"の値を上述の範囲に調整することにより、ノイズ発生源から波長程度以内の近傍界用としての抑制効果が格段に高められる。
【0016】
さらに、上記の電磁ノイズ抑制部材は、その複素誘電率εの虚数部ε"の範囲に応じて、電磁ノイズ抑制部材の正弦正接(tanδ=複素誘電率εの虚数部ε"/複素誘電率εの実数部ε')の値が、1GHzにおいて0.35〜1.5であると好ましい。
【0017】
また、上記の電磁ノイズ抑制部材は、熱伝導率が、5W/mK(評価法はレーザフラッシュ法による)以上のものであると好ましい。このように構成すると、上述した特許文献1に記載された電磁波吸収材料の熱伝導率(評価法は不明だが、最大1.2W/mK:特許文献1の実施例9参照)に比して、熱伝導特性が格段に高められたものとなるため、電磁ノイズの抑制効果だけではなく、優れた放熱効果を得ることも可能となる。
【0018】
上記の電磁ノイズ抑制部材は、近傍界用であることが好ましく、具体的には、電子部品貼着用電磁ノイズ抑制部材或いはLSI貼着用電磁ノイズ抑制部材であることがより好ましい。さらに、上記の電磁ノイズ抑制部材は、ヒートシンク兼電磁ノイズ抑制部材であることが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明の電磁ノイズ抑制部材によれば、磁性粉及び炭素粉が40〜80vol%の合計含有割合で樹脂中に含有(磁性粉の含有割合が20〜60vol%、且つ、炭素粉の含有割合が20〜60vol%)されており、加えて、電磁ノイズ抑制部材の複素誘電率εの虚数部ε"の値が、1GHzにおいて200〜1500であるので、GHz帯域といった高周波電磁ノイズに対して優れた抑制効果を奏することができ、また、熱伝導率に優れるので、従来に比して優れた放熱効果及び遮熱効果を実現することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】ΔHを算出するための磁場強度の測定を行なっている状態を概略的に示す斜視図である。
【図2】表1に示す複素誘電率εの虚数部ε"と磁場抑制効果ΔHをプロットしたグラフである。
【図3】表1に示す正弦正接tanδと磁場抑制効果ΔHとをプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。なお、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。また、図面の寸法比率は、図示の比率に限定されるものではない。さらに、以下の実施の形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明をその実施の形態のみに限定する趣旨ではない。またさらに、本発明は、その要旨を逸脱しない限り、さまざまな変形が可能である。
【0022】
本実施形態による電磁ノイズ抑制部材は、バインダ(結合剤)として機能する樹脂中に、所定量の磁性粉及び炭素粉を含む樹脂組成物を、適宜の所望の形状(例えば、シート状、フィルム状等)に成形することにより得られる。
【0023】
磁性粉は、一般の電磁ノイズ抑制シート等に用いられるものであって、粉体又は粉末として得られるものを適宜選択して用いることができ、特に限定されない。その具体例としては、例えば、Fe,Fe−Si合金,Fe−Si−Al合金,Fe−Si−Al−Ni合金,Fe−Si−Cr合金,Fe−Si−Cr−Ni合金,及びFe−Ni合金などのFe基結晶粉末や、アモルファス粉末、並びに、Mn−Znフェライト,Cu−Znフェライト,Mg−Znフェライト等の各種フェライト等が挙げられる。これらのなかでも、高透磁率を確保する観点からFe−Si−Al合金が好ましく、所謂センダスト組成のものがより好ましい。センダスト組成のFe−Si−Al合金粉としては、例えば、特開2009−262960号公報に記載されているものが例示される。なお、磁性粉の寸法形状は、特に制限されないが、透磁率を高める観点から、扁平形状であることが好ましい。
【0024】
また、炭素粉は、前述したグラファイト(黒鉛)粉やその他の炭素質粉を適宜選択して用いることができ、特に限定されない。これらの中でも、材料コストを低減して経済を向上させることができる観点から、黒鉛粉が有用であり、さらに工業用途で用いられている導電性に優れる黒鉛粉が特に有用である。また、樹脂中での炭素粉の分散性を高める観点からは、その平均粒子径が1μm〜500μmのものが好適である。さらに、樹脂中での炭素粉の面方向における熱伝導率を高める観点からは、その形状が燐片状の形状のものが好適である。
【0025】
さらに、バインダとして用いる樹脂(バインダ樹脂)は、一般の電磁ノイズ抑制シート等に用いられるもの、例えば、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、各種合成ゴム等を適宜選択して用いることが可能であり、特に限定されない。その具体例としては、例えば、(メタ)アクリル系樹脂,ポリエステル系樹脂,ポリエチレン系樹脂,ポリスチレン系樹脂,塩化ビニル系樹脂,塩素化ポリエチレン系樹脂,ポリ酢酸ビニル系樹脂,ポリアミド系樹脂,及びポリオレフィン系樹脂等の熱可塑性樹脂や、フェノール系樹脂,エポキシ系樹脂,シリコーン系樹脂,及びメラミン系樹脂等の熱硬化性樹脂等の各種樹脂、天然ゴム,クロロプレン系ゴム,ブタジエン系ゴム,スチレンブタジエン系ゴム,イソプレン系ゴム,シリコーン系ゴム,エチレンプロピレン系ゴム,クロルスルホン化ゴム,ニトリル系ゴム,アクリロニトリルブタジエンゴム,(メタ)アクリル系ゴム,及びポリウレタン系ゴム等を含む各種ゴム、オレフィン系エラストマー,スチレン系エラストマー,スチレンブタジエン系エラストマー,ポリアミド系エラストマー,及びポリエステル系エラストマー等の熱可塑性エラストマー等が挙げられる。
【0026】
また、電磁ノイズ抑制部材の成形方法は、当業界で公知の手法を適宜採用でき、特に限定されない。例えば、磁性粉、炭素粉、及びバインダ樹脂を混合および/または混練して得た樹脂組成物(混合物又は混練物)を、プレス成形・押出成形等することによってシート状に成形する方法や、磁性粉、炭素粉、及びバインダ樹脂を適宜の有機溶媒中に分散させて得た樹脂組成物(分散液)を、ドクターブレード法等の周知の方法によって所定の厚さに製膜した後、有機溶媒を揮散させて乾燥してから、例えばカレンダーロール法等の周知の方法を用いて圧延することによりシート状に成形する手法等が知られている。なお、電磁ノイズ抑制部材をこのようにシート状に成形する場合、そのシートの厚さは、特に制限されず、適宜設定可能である。電磁ノイズ抑制部材に要求される電磁ノイズの遮断性や適用する機器等における空間的な制約等に依存するものの、シートの厚さは、通常、数十μm〜数cmに設定される。
【0027】
本実施形態の電磁ノイズ抑制部材においては、磁性粉及び炭素粉の合計含有割合が、40〜80vol%(40vol%以上80vol%以下)であることが必要とされる。また、同時に、磁性粉の含有割合が20〜60vol%(20vol%以上60vol%以下)、且つ、炭素粉の含有割合が20〜60vol%(20vol%以上60vol%以下)であることが必要とされる。磁性粉及び炭素粉の合計含有割合が40vol%未満であると、複素誘電率εの虚数部ε"の値が、190以下となり、GHz帯域の周波数を有する高周波電磁ノイズに対する抑制効果が不十分となるため、不適である。また、磁性粉及び炭素粉の合計含有割合が80vol%を超えると、複素誘電率εの虚数部ε"の値が、1600以上となり、電磁ノイズの抑制の観点から不都合な電磁反射が生起されるため、不適である。磁性粉及び炭素粉の含有割合が各々20vol%以上とすることにより、複素誘電率εの虚数部ε"の値が200以上となり、GHz帯域における挿入損失に対し、磁性粉による磁気損失効果と炭素粉による誘電損失効果とが両立される。
【0028】
本実施形態の電磁ノイズ抑制部材においては、上記の配合組成を採用することにより、電磁ノイズ抑制部材の複素誘電率εの虚数部ε"の値を、1GHzにおいて200〜1500(200以上1500以下)の範囲内の値に調節することができ、その結果、後述する実験評価等から、電磁ノイズのエネルギ損失を効果的に増大させ、且つ、不都合な電磁反射の発生を有効に防止してGHz帯域における優れた電磁ノイズ抑制効果を実現し得ることが確認された。また、この場合、電磁ノイズ抑制部材の正弦正接tanδは、1GHzにおいて0.35〜1.5(0.35以上1.5以下)の範囲内の値に調整される傾向にあることも確認された。
【0029】
より具体的には、上述の組成であれば、1GHzを超えるような周波数を有する高周波電磁ノイズに対し、下記式(2)で表される磁場抑制効果の指標の一つであるΔH(単位は[dB]。この値が小さいほど磁場抑制効果が高いと言える。)が、従来のシートに比較して−10dB程度低下すること、換言すれば、1GHzを超えるような電磁ノイズの高周波成分を、従来に比して格段に抑制し得ることが確認された。なお、本発明者らの知見によれば、かかる高周波数帯域においては、電磁損失に対する誘電損失の寄与は、磁気損失と同等又はそれ以上であり、よって、かかる条件においては、ΔHの大小は、磁気損失のみならず誘電損失の大小の傾向をも表す指標となり得る。
【0030】
ΔH=20×log(HNSS/H0) …(2)
式(2)中、HNSSは、以下に説明する磁場強度の測定方法において、電磁ノイズ抑制部材を用いた場合の磁場強度を示し、H0は、同測定方法において、電磁ノイズ抑制部材を用いない場合の磁場強度を示す。
【0031】
ここで、図1は、上記ΔHを算出するための磁場強度の測定を行なっている状態を概略的に示す斜視図である。同図において、ベースシートB上には、マイクロストリップライン(MSL;例えば、特性インピーダンス50Ω;幅30mm×長さ140mm)が形成されており、その一方端Tは50Ωで終端されており、他方端Sには、ネットワークアナライザNに接続された入力信号ラインLsが接続されている。また、マイクロストリップライン(MSL)の延在方向の中央部は、本実施形態による電磁ノイズ抑制部材である電磁ノイズ抑制シート1で覆われており、ベースシートBの1mm上方に、磁界プローブMFPが設置されている。
【0032】
この磁界プローブMFPは、測定信号ラインLmを介してネットワークアナライザNに接続されている。ネットワークアナライザNは、例えば、シグナルジェネレータとスペクトルアナライザを兼ねており、図1に示す状態において、ネットワークアナライザNから0dBの入力信号がマイクロストリップライン(MSL)の他方端Sへ入力され、そのときの磁界プローブMFPの出力電圧VsをネットワークアナライザNで測定する。次に、電磁ノイズ抑制シート1を用いない、つまり、マイクロストリップラインMSLを電磁ノイズ抑制シート1で覆わないこと以外は、上記と同様にして、磁界プローブMFPの出力電圧V0をネットワークアナライザNで測定する。
【0033】
そして、上記式(2)は、下記式(3)で表されるとおり展開することができ、磁界プローブMFPのアンテナ係数AFが未知であっても、磁界プローブMFPの出力電圧Vs,V0から、ΔHを算出することができる。
ΔH=20×log(HNSS/H0)=20×log{(AF・Vs)/(AF・V0)} …(3)
【0034】
なお、本実施形態の電磁ノイズ抑制部材の複素誘電率εの虚数部ε"の値は、1GHzにおいて250〜1400(250以上1400以下)の範囲であることが好ましい。この範囲にすると、電磁ノイズに対して損失効果(特に、誘電損失)を増大させ、且つ、不都合な電磁反射の発生を抑止でき、GHz帯域において優れた電磁ノイズ抑制効果を実現できる。
【0035】
また、本実施形態の電磁ノイズ抑制部材は、1GHzにおける正弦正接tanδが0.35〜1.5(0.35以上1.5以下)の範囲内であることが好ましい。
【0036】
さらに、本実施形態の電磁ノイズ抑制部材は、熱伝導率が5W/mK以上であることが好ましい。このようにすると、GHz帯域の周波数を有する高周波電磁ノイズに対して優れた抑制効果を発現できるのみならず、放熱性能が十分に高められた、高性能な電磁ノイズ抑制部材が実現される。
【0037】
本実施形態の電磁ノイズ抑制部材は、所望の形態で使用することができる。例えば、上述したようにシート状に形成された電磁ノイズ抑制部材は、図1に示す如く、電磁ノイズの防御又は抑制対象であるマイクロストリップライン(MSL)等の電子デバイスや電子回路の一部又は全部を、平らに又は一重に包む如く覆うように設置されてもよく、或いは、ノイズ対策の対象物を二重(二段重ね)以上の多重(多段重ね)に覆うこともできる。また、シート状に形成された電磁ノイズ抑制部材は、電磁ノイズの遮蔽対象であり放熱源でもあるLSI等の電子部品のパッケージ一面に貼着してもよい。さらには、本実施形態の電磁ノイズ抑制部材は、例えば、山折り・谷折りパターンが連設されたひだや折り目を有するプリーツ状に折り畳んだ構造を有する形態で用いることもできる。このような形態で用いることにより、電磁ノイズ抑制シートの面方向への熱拡散効果を活用し、電子部品で発生する熱を縦、横、高さのいかなる方向にも効果的に拡散させることが可能となり、その結果、放熱効果を一段と向上させることができ、上述した電磁ノイズ抑制機能のみならず、ヒートシンク機能をも備えた、電磁ノイズ抑制部材を実現することができる。
【実施例】
【0038】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0039】
(実施例1〜16並びに比較例1及び2)
磁性粉としてセンダスト系(Fe−Si−Al系)の軟磁性扁平粉(平均粒径70μm)を用い、炭素粉としてグラファイト粉(平均粒径40μm)を用い、バインダ樹脂としてアクリル系樹脂を用い、これらの混合割合が異なる種々の混合物をプレス成形することにより、電磁ノイズ抑制部材としての複数の電磁ノイズ抑制シート(実施例1〜18)を作製した。また、炭素粉を含まないこと以外は、実施例の電磁ノイズ抑制シートと同様にして、比較例1及び2のシートも作製した。
【0040】
(電磁ノイズ抑制効果の評価)
実施例1〜14及び比較例1の電磁ノイズ抑制シートに対し、先述した図1に示す測定方法を用いて(入力信号の周波数:6GHz)磁場抑制効果ΔHを測定した。各電磁ノイズ抑制シートにおける成分レシピ(磁性粉及び炭素粉の各含有割合、並びに、それらの合計含有割合)、及び磁場抑制効果ΔHの結果を、ε"及びtanδ(入力信号の周波数:1GHz)と併せて表1にまとめて示す。また、電磁ノイズ抑制部材の複素誘電率εの虚数部ε"に対する磁場抑制効果ΔHをプロットしたグラフを図2に示すとともに、正弦正接tanδに対する磁場抑制効果ΔHをプロットしたグラフを図3に示す。
【0041】
【表1】

【0042】
(熱伝導率の測定)
実施例15、16及び比較例2の電磁ノイズ抑制シートの熱伝導率を、レーザフラッシュ法により測定した。得られた結果を、各電磁ノイズ抑制シートにおける成分レシピ(磁性粉及び炭素粉の各含有割合、並びに、それらの合計含有割合)とともに、表2にまとめて示す。
【0043】
【表2】

【0044】
なお、上述したとおり、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を変更しない限度において様々な変形が可能である。例えば、電磁ノイズ抑制部材として、磁性粉、炭素粉、及びバインダ樹脂に加えて、適宜の添加剤、例えば、必要に応じて難燃剤等の各種添加剤を含んでいてもよい。また、電磁ノイズ抑制シート1の形状は、平膜状やプリーツ状に限らず、コルゲート状やハニカム状であってもよい。さらに、電磁ノイズ抑制シート1が適用される対象は、半導体装置等の電子部品に制限されず、伝送線路や他の電子部品に対して使用可能なこと(特に近傍界用として有用である)は言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0045】
以上説明したとおり、本発明の電磁ノイズ抑制部材によれば、電磁ノイズ対策における広帯域化が可能であり、また、それのみならず、GHz帯域の周波数を有する高周波電磁ノイズに対して優れた抑制効果を発現することができ、しかも、放熱性にも極めて優れ、且つ、製造コストを低減させることも可能であるので、種々の電子部品を搭載する機器、装置、モジュール、システム、デバイス等、及びそれらの製造や放射電磁ノイズ(EMI)除去等の電磁ノイズ対策に広く且つ有効に利用することができる。
【符号の説明】
【0046】
1…電磁ノイズ抑制シート(電磁ノイズ抑制部材)、B…ベースシート、Lm…測定信号ライン、Ls…入力信号ライン、MFP…磁界プローブ、MSL…マイクロストリップライン、N…ネットワークアナライザ、S…他方端、T…一方端。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性粉及び炭素粉が樹脂中に含有されてなる電磁ノイズ抑制部材であって、
前記磁性粉及び前記炭素粉の合計含有割合が40〜80vol%であり、
前記磁性粉の含有割合が20〜60vol%であり、
前記炭素粉の含有割合が20〜60vol%であり、且つ、
複素誘電率εの虚数部ε"の値が、1GHzにおいて200〜1500である、
電磁ノイズ抑制部材。
【請求項2】
正弦正接tanδの値が、1GHzにおいて0.35〜1.5である、
請求項1又は2記載の電磁ノイズ抑制部材。
【請求項3】
磁性粉及び炭素粉が樹脂中に含有されてなる電磁ノイズ抑制部材であって、
熱伝導率が5W/mK以上である、
電磁ノイズ抑制部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−186384(P2012−186384A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−49494(P2011−49494)
【出願日】平成23年3月7日(2011.3.7)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】