説明

電磁干渉抑制体

【課題】焼却時に有害物質を発生せず、難燃性を有し、且つ外観性に優れた、高い複素透磁率を持つ電磁干渉抑制体を提供する。
【解決手段】高分子バインダーであるアクリル樹脂、アクリルゴム、エチレン酢酸ビニル共重合体、エチレン−プロピレン−ジエンゴム、あるいはアクリロニトリルブタジエンゴム、あるいはその混合物に軟磁性金属粉末を充填し、難燃剤として、300℃以上の分解温度の特性を有した、赤リン及び窒素系化合物の混合物または窒素系化合物を添加する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子バインダーに軟磁性金属粉末を充填した電磁干渉抑制体に関するもので、特に、高周波数帯を用いた情報通信機や電子機器の電磁ノイズの干渉による、情報通信機や電子機器の信号劣化および誤動作などの抑制に好適な電磁干渉抑制体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、コンピュータをはじめとするデジタル機器におけるクロックの高速化に伴い、デジタル機器から発生する電磁ノイズの放射レベルが増大する傾向にあり、発生した電磁ノイズの干渉によりデジタル機器内部の信号劣化や誤動作を引き起こす危険性がある。そこで近年、例えば、デジタル機器内部に設けた高周波を発生させる回路等、電磁ノイズの発生源、および電磁ノイズの発生源の近傍、更に高周波電流の流れる箇所に電磁干渉抑制体を配置して、電磁ノイズの放射を抑制する電磁ノイズ対策が採られるようになってきている。
【0003】
電磁干渉抑制体の電磁ノイズに対する抑制効果は、電磁干渉抑制体の特性を示す複素透磁率に依存しており、電磁干渉抑制体の複素透磁率の実数部が大きいほど磁束の収束効果が高く、複素透磁率の虚数部が大きいほど損失効果が高いという、電磁ノイズに対する抑制効果を有する。
【0004】
電磁干渉抑制体において、複素透磁率を大きくし、電磁ノイズに対して優れた電磁干渉抑制効果を有する電磁干渉抑制体および電磁障害抑制方法が特許文献1に開示されている。
【0005】
特許文献1には、不要電磁波の干渉によって生ずる電磁障害を抑制する為の電磁干渉抑制体であって、扁平軟磁性粉末30〜80体積%と結合剤20〜70体積%とを含有する。この電磁干渉抑制体は、(1)加圧および結合剤の架橋が行われ、且つ実比重/理論比重が0.6以上であるか、(2)加圧および結合剤の架橋が行われ、表面抵抗率が104Ω/□以上であり、実比重が2.8以上であり、さらに実比重値dと特定周波数(100MHz〜3GHz)における複素比透磁率(虚数部)μ”との積が式:d×μ”>35の関係にあるか、実比重値dと特定周波数(13.56MHzおよび100MHz〜1GHz)における複素比透磁率(実数部)μ’との積が式:d×μ’>25の関係にあることで、電磁干渉抑制効果を有する電磁干渉抑制体が記載されている。
【0006】
一方、電気機器に用いられるケーブルや樹脂成形加工品は、発火等の事故防止の観点から、不燃性、自己消火性、あるいは難燃性を有する材料が使用されている。更に、近年、環境問題にも対応できるよう環境に負荷がかかりにくい材料で構成されることが求められてきている。
【0007】
更に、電気機器に用いられるケーブルや樹脂成形加工品で使用する材料では、難燃性の他に、ケーブルや樹脂成形加工品の変形や、気泡、割れ等の外観異常が無く、見栄えの良し悪しを示す外観性に優れることも必須要件であり、また、機械的特性を向上させる目的で強化材を配合する場合もある。特許文献2には、機械的特性を向上させる目的で強化材を配合しても、外観性に優れ、高い難燃性を有した難燃性樹脂組成物が開示されている。
【0008】
特許文献2には、熱可塑性樹脂に、赤リン(A)と、テトラゾール系化合物、シリコンパウダー、ポリリン酸メラミン、含水ケイ酸マグネシウム、含水ホウ酸カルシウム、バーミキュライトからなる群より選ばれた少なくとも1種の化合物(B)とを配合することで、機械的特性を向上させる目的で樹脂組成物に強化材を配合しても、耐熱性が低下しない難燃性樹脂組成物が記載されている。
【0009】
【特許文献1】特開2006−032929号公報
【特許文献2】特開平11−246778号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
電気機器に用いられるケーブルや樹脂成形加工品に難燃性を付与する目的で、従来は、使用する樹脂に有機ハロゲン系難燃剤等を添加する場合があり、焼却すると有害物質が発生する可能性がある為、廃棄の際に分別して管理しなければならなかった。そこで、有機ハロゲン系難燃剤等の代わりに、例えば、赤リンやメラミンシアヌレート等を配合した樹脂組成物が提案されており、例えば、特許文献2に記載の難燃性樹脂組成物の技術を用いれば、機械的特性を向上させ、且つ難燃性を有するケーブルや樹脂成形加工品を得ることができる。
【0011】
電磁干渉抑制体においても、例えば、特許文献2に記載の難燃性樹脂組成物のように、有機ハロゲン系難燃剤等を用いずに難燃性を付与することが望ましい。ここで、特許文献2に記載の難燃性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂と強化材からなる樹脂組成物に難燃剤を添加して難燃性を付与したものであり、樹脂に異質の材料を充填した充填物を対象としている点で、高分子バインダーからなる樹脂に軟磁性金属粉末を充填しておもな構成物となす電磁干渉抑制体と基本な構成が似ており、特許文献2に記載の難燃性樹脂組成物に添加する難燃剤の構成が、電磁干渉抑制体に添加する難燃剤の構成に応用することが考えられる。
【0012】
しかしながら、特許文献2に記載の難燃性樹脂組成物は、樹脂に機械的強度を付与する為に、樹脂100重量部に対してガラス繊維からなる強化材を200重量部以下配合することが好ましいとしているのに対して、電磁干渉抑制体においては、例えば、特許文献1に記載の電磁干渉抑制体では、電磁ノイズに対して優れた電磁干渉抑制効果を得る為に、樹脂100重量部に対して磁性粉末からなる充填材を700重量部程度配合する必要があり、両者間で、樹脂に充填する異質の材料の充填比率が全く異なっていることから、特許文献2に記載の難燃性樹脂組成物に添加する難燃剤の構成を、電磁干渉抑制体に用いることは困難である。
【0013】
したがって、焼却時に有害物質を発生せず、磁干渉抑制体に難燃性を付与する為には、電磁干渉抑制体に焼却時に有害物質を発生しない難燃剤を用いる技術が必要となるが、従来、当該技術の開示がなく、実現が困難であった。
【0014】
本発明の目的は、上記課題を解決し、焼却時に有害物質を発生せず、難燃性を有し、且つ外観性に優れた、高い複素透磁率を持つ電磁干渉抑制体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明によれば、軟磁性材料からなる軟磁性金属粉末と高分子バインダーと難燃剤を含有する電磁干渉抑制体であって、前記高分子バインダーはアクリル樹脂、アクリルゴム、エチレン酢酸ビニル共重合体、エチレン−プロピレン−ジエンゴム、アクリロニトリルブタジエンゴムの中から選択される一種または二種以上の高分子材料からなり、前記難燃剤は、300℃以上の分解温度を有し、且つ赤リン及び窒素系化合物の混合物または窒素系化合物からなることを特徴とする電磁干渉抑制体が得られる。
【0016】
また、本発明によれば、前記混合物は、50質量%以下の量の赤リンを含有することを特徴とする電磁干渉抑制体が得られる。
【0017】
また、本発明によれば、前記窒素系化合物は、テトラゾール系化合物及び/又はメラミン系化合物からなることを特徴とする電磁干渉抑制体が得られる。
【0018】
また、本発明によれば、前記テトラゾール系化合物は、ビステトラゾール・ジアンモニウム(C2810)であることを特徴とする電磁干渉抑制体が得られる。
【0019】
また、本発明によれば、前記メラミン系化合物は、平均粒径が3μm以下のメラミンシアヌレートであることを特徴とする電磁干渉抑制体が得られる。
【0020】
また、本発明によれば、前記高分子バインダーは、架橋基を持たないアクリルゴムであることを特徴とする電磁干渉抑制体が得られる。
【0021】
本発明では、電磁干渉抑制体を構成する高分子バインダーに、軟磁性金属粉末の充填に適した、アクリル樹脂、アクリルゴム、エチレン酢酸ビニル共重合体、エチレン−プロピレン−ジエンゴム、あるいはアクリロニトリルブタジエンゴムのいずれか一つ、あるいはその混合物を用いることによって、加熱し加圧して作製する電磁干渉抑制体の外観性を確保し、且つ軟磁性金属粉末を高分子バインダーに高い充填率で充填でき、高い複素透磁率を持つ電磁干渉抑制体を得ることができる。
【0022】
更に、本発明において、電磁干渉抑制体を構成する難燃剤を、分解温度が300℃以上の、赤リン及び窒素系化合物の混合物または窒素系化合物とし、更に、赤リン及び窒素系化合物の混合物において、窒素系化合物に対する質量比で100%以下の量の赤リンを含有させることによって、焼却時に有害物質を発生せず、高い難燃性を電磁干渉抑制体に付与することができる。
【0023】
更に、本発明において、電磁干渉抑制体を構成する難燃剤の窒素系化合物に、テトラゾール系化合物、またはメラミン系化合物、またはテトラゾール系化合物とメラミン系化合物の混合物を用いる、特に、テトラゾール系化合物としてビステトラゾール・ジアンモニウム(C2810)を用いることによって、焼却時に有害物質を発生せず、より高い難燃性を電磁干渉抑制体に付与することができる。
【0024】
更に、本発明において、電磁干渉抑制体を構成する難燃剤の窒素系化合物に、メラミン系化合物のメラミンシアヌレートを用い、平均粒径を3μm以下とすることで、メラミンシアヌレートの総表面積をより大きくでき、反応効率をより高めることができることから、より高い難燃性を電磁干渉抑制体に付与することができる。
【0025】
更に、本発明において、電磁干渉抑制体を構成する高分子バインダーに、架橋基を持たないアクリルゴムを用いることによって、高分子バインダーへの軟磁性金属粉末の充填率をより高くし、難燃剤の反応効率を円滑にできることから、より高い複素透磁率と、より高い難燃性を電磁干渉抑制体に付与することができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、本発明に係る高分子バインダーであるアクリル樹脂、アクリルゴム、エチレン酢酸ビニル共重合体、エチレン−プロピレン−ジエンゴム、あるいはアクリロニトリルブタジエンゴム、あるいはその混合物に軟磁性金属粉末を高い充填率で充填し、更に、難燃剤として、300℃以上の分解温度を有する、赤リン及び窒素系化合物の混合物または窒素系化合物を添加することによって、焼却時に有害物質を発生せず、高い難燃性を有し、且つ外観性に優れた、高い複素透磁率を持つ電磁干渉抑制体を得ることができる。
【0027】
更にまた、難燃剤を構成する窒素系化合物として、テトラゾール系化合物及び/又はメラミン系化合物を添加する、または、テトラゾール系化合物としてビステトラゾール・ジアンモニウム(C2810)を添加する、または、メラミン系化合物として平均粒径を3μm以下に制御したメラミンシアヌレートを添加する、または、高分子バインダーに架橋基を持たないアクリルゴムを用いることで、より高い難燃性と、より高い複素透磁率を電磁干渉抑制体に付与することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0029】
本発明の実施の形態に係る電磁干渉抑制体は、少なくとも、軟磁性金属粉末と、高分子バインダーと、難燃剤で構成し、混練機で、軟磁性金属粉末を高分子バインダーおよび難燃剤と共に混合し、混練して均一に分散し、軟磁性金属粉末を含む混練物を得た後、その混練物を溶剤で溶解したスラリー(塗液)を得て、スラリー(塗液)を基材に塗布し、乾燥させて混練物のシートを得る。引き続き、これら混練物のシートを加熱プレス成形機で所定の厚みに加工し、本発明の実施の形態に係る電磁干渉抑制体を得る。
【0030】
本発明の実施の形態に係る軟磁性金属粉末は、周波数3MHzにおける透磁率が10以上300以下であり、1MHzから10GHzの周波数範囲における高周波の電磁ノイズの抑制に適した軟磁性材料からなる軟磁性金属粉末であれば良く、抑制対象とする電磁ノイズの周波数及びコスト等を考慮し適宜選択するのが好ましく、Fe−Si−Al合金、純鉄、Fe−Si合金、Fe−Si−Cr合金、Ni−Fe合金、Mo−Ni−Fe合金やアモルファス合金などが使用でき、Fe−Si−Al合金粉末が特に好ましい。
【0031】
また、本発明の実施の形態に係る高分子バインダーは、ハロゲンを含有せず、粉末充填性が高い樹脂であれば良く、コスト等を考慮し適宜選択するのが好ましく、アクリル樹脂、アクリルゴム、エチレン酢酸ビニル共重合体、エチレン−プロピレン−ジエンゴム、あるいはアクリロニトリルブタジエンゴム、あるいはその混合物が使用でき、架橋基を持たないアクリルゴムが特に好ましい。
【0032】
また、本発明の実施の形態に係る難燃剤は、300℃以上の分解温度を有する、赤リン及び窒素系化合物の混合物または窒素系化合物であれば良く、コスト等を考慮し適宜選択するのが好ましく、赤リン及び窒素系化合物の混合物を用いる場合、混合物中に50質量%以下の量の赤リンを含有させるのがさらに良い。更に、窒素系化合物には、テトラゾール系化合物、メラミン系化合物、あるいはその混合物が使用でき、テトラゾール系化合物は、ビステトラゾール・ジアンモニウム(C2810)が特に好ましく、メラミン系化合物は、平均粒径が3μm以下であるメラミンシアヌレートが特に好ましい。
【実施例】
【0033】
以下、本発明の実施例について具体的に説明する。まず、後に説明する本発明の実施例、及び比較例に対して行った評価内容について説明する。評価した特性は、(1)複素透磁率、(2)難燃性、(3)表面外観、(4)充填性の4つの特性とし、以下の方法で評価した。
【0034】
(1)複素透磁率
複素透磁率の測定は、インピーダンスマテリアルアナライザーで、1MHzから1000MHzの周波数範囲の複素透磁率を測定した。
【0035】
(判定基準)
測定して得られた複素透磁率は、複素透磁率の実数部及び虚数部で示し、実数部及び虚数部とも値が大きいほど電磁ノイズに対して大きな抑制効果を示し、特性が優れていることを示す。電磁ノイズの抑制効果を得る為に必要な複素透磁率の値は、周波数3MHzにおける実数部で80以上とし、周波数10MHzにおける虚数部で10以上とした。
【0036】
(2)難燃性
電磁干渉抑制体の難燃性の評価は、一般的な家電機器用プラスチック材料の難燃性の評価に用いられる、UL94規格に規定のUL94V−20mm垂直燃焼試験法に準じて試験を行い、評価した。UL94V−20mm垂直燃焼試験法では、長さ127mm、幅12.7mm、厚み0.3mmの試験片を5本用い、試験片個々に、試験片を垂直に保ち、試験片の下端にバーナーの火(20mm炎)を10秒間接炎させた後で炎を取り除き、試験片に着火した火が消える時間を測定した。更に、火が消えると同時に2回目の接炎を10秒間開始し、1回目と同様にして着火した火が消える時間を測定した。燃焼時間の評価は、個々の試験片における1回目及び2回目の接炎後に測定した各回ごとの燃焼時間と、5個の試験片における1回目の接炎後に測定した燃焼時間と2回目の接炎後に測定した燃焼時間を合算した合計燃焼時間で行った。また、落下する火種により試験片の下方に設置した綿が着火するか否かについても同時に評価した。
【0037】
(判定基準)
1回目と2回目の燃焼時間、試験片の下方に設置した綿への着火の有無などの燃焼挙動から、UL94規格に規定のUL94Vの判定基準に準じて難燃性の等級を判定した。UL94規格に規定のUL94Vの判定基準を表1に示した。難燃性の等級は、V−0が最高のものであり、以下V−1、V−2、となるにつれて難燃性が低下する。
【0038】
【表1】

【0039】
(3)表面外観
電磁干渉抑制体の表面外観は、作製した電磁干渉抑制体の表面を目視観察し、以下の判定基準で評価した。
【0040】
(判定基準)
良好:目視で判別できる変形、気泡、割れ等の外観異常がない。
不良:目視で判別できる変形、気泡、割れ等の外観異常がある。
【0041】
(4)充填性
電磁干渉抑制体に対する軟磁性金属粉末の充填性を評価する指標として、電磁干渉抑制体の比重を用いた。比重測定は、アルキメデス法で測定した。
【0042】
(判定基準)
電磁ノイズの抑制効果を得る為に必要な軟磁性金属粉末の量としては、比重で2.8以上が必要であり、比重が大きいほど高い電磁ノイズの抑制効果が得られるが、比重が4.0を超えると電磁干渉抑制体の機械的強度が低下する。よって、充填性の評価は、2.8以上で4.0未満の範囲の中で、より値が大きいものを優れていると評価した。
【0043】
次に、以下に説明する本発明の実施例、及び比較例で用いる唯一の軟磁性金属粉末は、原料にFe−Si−Al合金を用い、アトライタ(粉砕機)で、より高い透磁率が得られる偏平形状粉末にFe−Si−Al合金を加工し、作製した。
【0044】
(実施例1乃至15)
次に、表2の実施例1乃至4、及び表3の実施例5乃至8、及び表4の実施例9ならびに実施例10、及び表5の実施例11乃至14、及び表6の実施例15に示す各種材料を混練機で混合し、混練して均一に分散させ軟磁性金属粉末を含む混練物を得た後、その混練物を溶剤で溶解してスラリー(塗液)を得て、スラリー(塗液)を樹脂シートからなる基材に塗布し、乾燥させた後、当該基材を剥離して混練物のシートを得た。更に、加熱プレス成形機を用い、表2乃至6の実施例1乃至15に示す成形温度で加熱するとともに加圧し、当該混練物のシートを厚み0.3mmに加工し、本発明の実施の形態に係る電磁干渉抑制体を得た。尚、実施例1乃至15に用いた難燃剤は、300℃以上の分解温度を有するものである。
【0045】
次に、(1)複素透磁率、(2)難燃性、(3)表面外観、(4)充填性の4つの特性について評価を行い、評価結果を表2乃至6に示した。
【0046】
【表2】

【0047】
【表3】

【0048】
表2に示されるように、実施例1及び実施例2は、難燃剤として、平均粒径を3μm以下に制御したメラミンシアヌレートを用いた電磁干渉抑制体である。実施例1及び実施例2の電磁干渉抑制体の作製及び評価の結果、実施例1及び実施例2とも、周波数3MHzにおける複素透磁率の実数部の値は90以上であり、且つ周波数10MHzにおける複素透磁率の虚数部の値は19以上であり、電磁ノイズに対して大きな抑制効果を当該電磁干渉抑制体に付与できた。更に、難燃性は、UL94Vの難燃性等級V−0が得られ、電磁干渉抑制体の表面外観は極めて良好であり、比重は3.0と十分な充填性が得られた。
【0049】
次に、表2の実施例3及び実施例4、更に、表3の実施例5乃至8に示されるように、実施例3乃至8は、実施例2の難燃剤として用いた赤リン及び窒素系化合物の混合物において、50質量%(実施例2)含有している混合物中の赤リンの含有量を、2質量%(実施例3)、10質量%(実施例4)、25質量%(実施例5)、35質量%(実施例6)、48質量%(実施例7)、52質量%(実施例8)にそれぞれ置き換え作製した電磁干渉抑制体である。
【0050】
表2及び表3に示すように、実施例3乃至8の電磁干渉抑制体の作製及び評価の結果、実施例3乃至8は、いずれも、周波数3MHzにおける複素透磁率の実数部の値は90であり、且つ周波数10MHzにおける複素透磁率の虚数部の値は19であり、電磁ノイズに対して大きな抑制効果を当該電磁干渉抑制体に付与できた。更に、難燃性は、UL94Vの難燃性等級V−0が得られ、電磁干渉抑制体の表面外観は極めて良好であり、比重は3.0であり、高い充填性が得られた。
【0051】
更に、図1は、実施例2乃至8の難燃性評価結果における、5試料の合計燃焼時間を示す図である。図1に示すように、実施例2乃至8は、全て、UL94Vの難燃性等級V−0の規格内(5試料の合計燃焼時間:50秒以下)の燃焼時間となった。しかし、難燃性の評価項目である5試料の合計燃焼時間において、難燃剤を成す混合物中の赤リンの含有量が、2質量%である実施例3、10質量%である実施例4、25質量%である実施例5、35質量%である実施例6、48質量%である実施例7、50質量%である実施例2の全てが33秒以下であるのに対して、赤リンの含有量が52質量%である実施例8は、38秒であり、実施例2乃至7の合計燃焼時間より増加した。
【0052】
よって、本発明に係る電磁干渉抑制体において、難燃剤として、赤リン及び窒素系化合物の混合物を用いる場合、混合物中の赤リンの含有量を50質量%以下とすることによって、より高い難燃性が得られた。
【0053】
【表4】

【0054】
表4に示すように、実施例9及び実施例10は、実施例2の難燃剤として用いたメラミンシアヌレート(平均粒径:0.5μm)を、テトラゾール系化合物のビステトラゾール・ジアンモニウム(C2810)に置き換えて作製した電磁干渉抑制体である。更に、実施例10は、実施例9の高分子バインダーとして用いた架橋基のあるアクリルゴムを架橋基のないアクリルゴムに置き換えて作製した電磁干渉抑制体である。
【0055】
実施例9及び実施例10の電磁干渉抑制体の作製及び評価の結果、実施例9及び実施例10とも、周波数3MHzにおける複素透磁率の実数部の値は100以上であり、且つ周波数10MHzにおける複素透磁率の虚数部の値は20以上であり、電磁ノイズに対して大きな抑制効果を当該電磁干渉抑制体に付与できた。更に、難燃性は、UL94Vの難燃性等級V−0が得られ、電磁干渉抑制体の表面外観は極めて良好であり、比重は3.0以上であり、高い充填性が得られた。
【0056】
特に、実施例10は、実施例9と比較して、周波数3MHzにおける複素透磁率の実数部の値が10大きく、且つ周波数10MHzにおける複素透磁率の虚数部の値が3大きく、電磁ノイズに対してより大きな抑制効果が得られた。更に、実施例10は、難燃性の評価を行った燃焼試験の5試料の合計燃焼時間において、実施例9より14秒短くでき、より高い難燃性が得られた。更に、実施例10は、比重で実施例9より0.1大きくでき、より高い充填性が得られた。
【0057】
【表5】

【0058】
次に、表5に示されるように、実施例11乃至14は、実施例2の電磁干渉抑制体において、高分子バインダーとして用いたアクリルゴム(架橋基あり)を、本発明に係る高分子バインダーである、アクリル樹脂(実施例5)、エチレン酢酸ビニル共重合体(実施例6)、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(実施例7)、アクリロニトリルブタジエンゴム(実施例8)にそれぞれ置き換え作製した電磁干渉抑制体である。
【0059】
実施例11乃至14の電磁干渉抑制体の作製及び評価の結果、実施例11乃至14は、周波数3MHzにおける複素透磁率の実数部の値は95であり、且つ周波数10MHzにおける複素透磁率の虚数部の値は19であり、電磁ノイズに対して大きな抑制効果を当該電磁干渉抑制体に付与できた。更に、難燃性は、UL94Vの難燃性等級V−0が得られ、電磁干渉抑制体の表面外観は極めて良好であり、比重は3.0と十分な充填性が得られた。
【0060】
【表6】

【0061】
次に、表6に示されるように、実施例15は、実施例2の電磁干渉抑制体において、難燃剤として用いた、赤リン及び平均粒径が0.5μmのメラミンシアヌレートの混合物を、平均粒径が0.5μmのメラミンシアヌレートに置き換え作製した電磁干渉抑制体である。
【0062】
実施例15の電磁干渉抑制体の作製及び評価の結果、実施例15は、周波数3MHzにおける複素透磁率の実数部の値は95であり、且つ周波数10MHzにおける複素透磁率の虚数部の値は19であり、電磁ノイズに対して大きな抑制効果を当該電磁干渉抑制体に付与できた。更に、難燃性は、UL94Vの難燃性等級V−0が得られ、電磁干渉抑制体の表面外観は極めて良好であり、比重は3.0と十分な充填性が得られた。
【0063】
よって、本発明の電磁干渉抑制体によれば、焼却時に有害物質を発生せず、難燃性を有し、且つ高い複素透磁率を持つ電磁干渉抑制体を実現することができた。
【0064】
(比較例1乃至6)
表7の比較例1乃至3、及び表8の比較例4乃至6に示す各種材料を混練機で混合し、混練して均一に分散させ、軟磁性金属粉末を含まない混練物、及び軟磁性金属粉末を含む混練物を得た後、その混練物を溶剤で溶解したスラリー(塗液)を樹脂シートからなる基材に塗布し、乾燥させた後、当該基材を剥離して混練物のシートを得た。更に、加熱プレス成形機を用い、表7の比較例1乃至3、及び表8の比較例4乃至6に示す成形温度で加熱するとともに加圧し、当該混練物のシートを厚み0.3mmに加工し、比較例の軟磁性金属粉末を含まない難燃性樹脂組成物、及び比較例の電磁干渉抑制体を得た。
【0065】
次に、(1)複素透磁率、(2)難燃性、(3)表面外観、(4)充填性の4つの特性について評価を行い、評価結果を表7及び表8に示した。
【0066】
【表7】

【0067】
【表8】

【0068】
表7に示されるように、比較例1は、従来技術の難燃性樹脂組成物であり、高分子バインダーにナイロン6を用い、難燃剤に赤リンとポリリン酸メラミンを用い、本発明に係る実施例1乃至9の電磁干渉抑制体における、難燃性及び表面外観の比較を目的として作製した。その為、軟磁性金属粉末を含んでいない。
【0069】
比較例1の難燃性樹脂組成物の作製及び評価の結果、比較例1は、難燃性で難燃性等級V−0が得られ、難燃性樹脂組成物の表面外観は良好であった。更に、本発明に係る実施例1乃至9の電磁干渉抑制体と比較例1の難燃性樹脂組成物を比較した結果、本発明に係る実施例1乃至9の電磁干渉抑制体の難燃性及び表面外観の特性は、比較例1の難燃性樹脂組成物の難燃性及び表面外観の特性と同等以上であった。
【0070】
比較例2は、比較例1の難燃性樹脂組成物の構成に、軟磁性金属粉末を充填して作製した電磁干渉抑制体であり、従来技術の難燃性樹脂組成物を用い、本願発明と同様な効果を有する電磁干渉抑制体が得られるか比較検証したものである。
【0071】
比較例2の電磁干渉抑制体の作製及び評価の結果、比較例2は、複素透磁率の値が極めて低く、測定不能であった。更に、難燃性では規定時間に自己消火ができず、UL94Vの難燃性等級で規格外となった。更に、電磁干渉抑制体の表面外観は、表面に変形や気泡が多数みられ外観不良であり、比重も1.7と低く、充填性もよくない。
【0072】
よって、従来技術の難燃性樹脂組成物の構成に軟磁性金属粉末を充填しても、本願発明と同様な効果を有する電磁干渉抑制体を得ることができなかった。
【0073】
比較例3は、比較例2の電磁干渉抑制体において、高分子バインダーとして用いたナイロン6を、アクリルゴム(架橋基あり)に置き換え作製した電磁干渉抑制体である。
【0074】
比較例3の電磁干渉抑制体の作製及び評価の結果、比較例3は、周波数3MHzにおける複素透磁率の実数部の値は60であり、且つ周波数10MHzにおける複素透磁率の虚数部の値は12であり、電磁ノイズに対して十分な抑制効果を得ることが困難であった。更に、電磁干渉抑制体の表面外観は良好であったが、比重は2.5であり、十分な充填性が得られず、更に、難燃性は、UL94Vの難燃性等級V−1で、V−0が得られなかった。
【0075】
よって、従来技術の難燃性樹脂組成物の構成において、高分子バインダーをアクリルゴム(架橋基あり)とし、軟磁性金属粉末を充填しても、本願発明と同様な効果を有する電磁干渉抑制体を得ることができなかった。
【0076】
次に、表8に示されるように、比較例4は、比較例3の電磁干渉抑制体において、難燃剤として用いたポリリン酸メラミンを、平均粒径が15μmのメラミンシアヌレートに置き換え、作製した電磁干渉抑制体である。
【0077】
比較例4の電磁干渉抑制体の作製及び評価の結果、比較例4は、周波数3MHzにおける複素透磁率の実数部の値は80であり、且つ周波数10MHzにおける複素透磁率の虚数部の値は17であり、電磁ノイズに対して大きな抑制効果を当該電磁干渉抑制体に付与できた。更に、電磁干渉抑制体の表面外観は良好であり、比重が2.8で充填性も十分であったが、難燃性は、UL94Vの難燃性等級V−1で、V−0は得られなかった。
【0078】
よって、高分子バインダーをアクリルゴム(架橋基あり)とし、難燃剤を平均粒径が15μmのメラミンシアヌレートとし、軟磁性金属粉末を充填しても、本願発明と同様な効果を有する電磁干渉抑制体を得ることができなかった。
【0079】
比較例5は、比較例4の電磁干渉抑制体において、難燃剤として用いた平均粒径が15μmのメラミンシアヌレートを、平均粒径が8μmのメラミンシアヌレートに置き換え作製した電磁干渉抑制体である。
【0080】
比較例5の該電磁干渉抑制体の作製及び評価の結果、比較例5は、周波数3MHzにおける複素透磁率の実数部の値は85であり、且つ周波数10MHzにおける複素透磁率の虚数部の値は19であり、電磁ノイズに対して大きな抑制効果を当該電磁干渉抑制体に付与できた。更に、電磁干渉抑制体の表面外観は良好であり、比重が2.8で充填性も十分であったが、難燃性は、UL94Vの難燃性等級V−1で、V−0は得られなかった。
【0081】
よって、高分子バインダーをアクリルゴム(架橋基あり)とし、難燃剤を平均粒径が8μmのメラミンシアヌレートとし、軟磁性金属粉末を充填しても、本願発明と同様な効果を有する電磁干渉抑制体を得ることができなかった。
【0082】
比較例6は、実施例3の電磁干渉抑制体において、難燃剤として用いた、分解温度が300℃以上のテトラゾール系化合物であるビステトラゾール・ジアンモニウム(C2810)を、分解温度が280℃のテトラゾール系化合物である5−フェニルテトラゾール(C764)に置き換え作製した電磁干渉抑制体である。
【0083】
比較例6の電磁干渉抑制体の作製及び評価の結果、比較例6は、周波数3MHzにおける複素透磁率の実数部の値は100であり、且つ周波数10MHzにおける複素透磁率の虚数部の値は22であり、電磁ノイズに対して大きな抑制効果を当該電磁干渉抑制体に付与できた。更に、電磁干渉抑制体の表面外観は良好であり、比重が3.1で充填性も十分であったが、難燃性は、UL94Vの難燃性等級V−1で、V−0は得られなかった。
【0084】
よって、本発明に係る電磁干渉抑制体において、難燃剤を分解温度が300℃以上のテトラゾール系化合物ではなく、分解温度が300℃未満のテトラゾール系化合物とすると、本願発明と同様な効果を有する電磁干渉抑制体を得ることができなかった。
【0085】
次に、図2は、1MHzから1000MHzの周波数範囲で測定した、実施例1乃至4及び比較例3乃至5の複素透磁率の実数部を示す図であり、図3は、1MHzから1000MHzの周波数範囲で測定した、実施例1乃至4及び比較例3乃至5の複素透磁率の虚数部を示す図である。
【0086】
上述の通り、表2乃至8に記載の複素透磁率の実数部及び虚数部の評価は、実数部で周波数3MHzにおける測定値を用い、虚数部で周波数10MHzにおける測定値を用いて行ったが、図1及び図2に示すように、1MHzから1000MHzの周波数範囲において、比較例3及び比較例4は、本発明の実施例1乃至9の電磁干渉抑制体における複素透磁率の実数部及び虚数部の値には達しておらず、比較例5は、本発明の実施例2の電磁干渉抑制体における複素透磁率の実数部及び虚数部の値と同等の値が得られ、比較例6は、本発明の実施例3の電磁干渉抑制体における複素透磁率の実数部及び虚数部の値と同等の値が得られており、すでに説明した表2乃至8に記載の複素透磁率の実数部及び虚数部の評価結果と同じ評価結果が得られた。
【0087】
よって、上述の通り、本発明の電磁干渉抑制体によれば、高分子バインダーに、アクリル樹脂、アクリルゴム、エチレン酢酸ビニル共重合体、エチレン−プロピレン−ジエンゴム、あるいはアクリロニトリルブタジエンゴム、あるいはその混合物を用いることで、加熱し加圧して作製する電磁干渉抑制体の外観性を確保し、且つ軟磁性金属粉末を高分子バインダーに高い充填率で充填でき、難燃剤に、300℃以上の分解温度を有する、赤リン及び窒素系化合物の混合物または窒素系化合物を用い、更に、窒素系化合物に、テトラゾール系化合物及び/又はメラミン系化合物を用いることで、UL94Vの難燃性等級V−0を付与でき、更にまた、テトラゾール系化合物としてビステトラゾール・ジアンモニウム(C2810)を用い、または、メラミン系化合物として平均粒径を3μm以下に制御したメラミンシアヌレートを用い、または、高分子バインダーに架橋基を持たないアクリルゴムを用いることで、UL94Vの難燃性等級V−0の中でも、より高い難燃性を電磁干渉抑制体に付与することができることから、焼却時に有害物質を発生せず、高い難燃性を有し、且つ外観性に優れた、高い複素透磁率を持つ電磁干渉抑制体を得ることができる。
【0088】
以上、実施例を用いて本発明の形態を説明したが、本発明は、この実施例に限られるものでなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で部材や構成の変更があっても本発明に含まれる。すなわち、当事者であれば、当然なしえるであろう各種変形、修正もまた本発明に含まれることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】実施例2乃至8の難燃性評価結果における5試料の合計燃焼時間を示す図。
【図2】実施例1乃至4及び比較例3乃至5の複素透磁率の実数部を示す図。
【図3】実施例1乃至4及び比較例3乃至5の複素透磁率の虚数部を示す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軟磁性材料からなる軟磁性金属粉末と高分子バインダーと難燃剤を含有する電磁干渉抑制体であって、前記高分子バインダーはアクリル樹脂、アクリルゴム、エチレン酢酸ビニル共重合体、エチレン−プロピレン−ジエンゴム、アクリロニトリルブタジエンゴムの中から選択される一種または二種以上の高分子材料からなり、前記難燃剤は、300℃以上の分解温度を有し、且つ赤リン及び窒素系化合物の混合物または窒素系化合物からなることを特徴とする電磁干渉抑制体。
【請求項2】
前記混合物は、50質量%以下の量の赤リンを含有することを特徴とする請求項1記載の電磁干渉抑制体。
【請求項3】
前記窒素系化合物は、テトラゾール系化合物及び/又はメラミン系化合物からなることを特徴とする請求項1乃至2記載の電磁干渉抑制体。
【請求項4】
前記テトラゾール系化合物は、ビステトラゾール・ジアンモニウム(C2810)であることを特徴とする請求項3記載の電磁干渉抑制体。
【請求項5】
前記メラミン系化合物は、平均粒径が3μm以下のメラミンシアヌレートであることを特徴とする請求項3記載の電磁干渉抑制体。
【請求項6】
前記高分子バインダーは、架橋基を持たないアクリルゴムであることを特徴とする請求項1乃至5記載の電磁干渉抑制体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−153462(P2010−153462A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−327591(P2008−327591)
【出願日】平成20年12月24日(2008.12.24)
【出願人】(000134257)NECトーキン株式会社 (1,832)
【Fターム(参考)】