説明

電磁式係合装置

【課題】装置の大型化を抑制できる電磁式係合装置を提供する。
【解決手段】電磁式係合装置5は、電磁コイル18の磁力にて吸引されるアーマチュア20と、カム機構6の推力にて回転板26に押し付けられる可動カム部材10と、を有し、アーマチュア20及び可動カム部材10は、係合状態へ切り替えられる際に、電磁コイル18にて吸引されるアーマチュア20とともに可動カム部材10が同一方向に移動でき、かつカム機構6の推力が可動カム部材10からアーマチュア20へ伝達しないように、組み合わされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁コイルの磁力とともにカム機構の推力を利用して係合対象と係合する係合状態へ切り替え可能な電磁式係合装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電磁式クラッチとして、電磁コイルに吸引されたアーマチュアがヨークの摩擦面と接触することによってカム機構のカム部材間に差回転が生じ、その差回転に伴うカム機構の推力がアーマチュアに伝達されてヨークの摩擦面にアーマチュアが押し付けられて係合状態が保持されるものが知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−263208号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の電磁式クラッチは、ヨークの摩擦面に押し付けられるアーマチュアに電磁コイルが発生させる吸引力とともにカム機構が発生させる推力が作用するので、アーマチュアをそれらの力に耐えるように耐久性及び強度を確保する必要がある。そのため、装置の大型化を招くおそれがある。
【0005】
そこで、本発明は、装置の大型化を抑制できる電磁式係合装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の電磁式係合装置は、電磁コイルの磁力とともにカム機構の推力を利用して係合対象と係合する係合状態へ切り替え可能な電磁式係合装置において、前記電磁コイルの磁力にて吸引される第1部材と、前記カム機構の推力にて前記係合対象に押し付けられる第2部材と、を有し、前記第1部材及び前記第2部材は、前記係合状態へ切り替えられる際に、前記電磁コイルにて吸引される前記第1部材とともに前記第2部材が同一方向に移動でき、かつ前記カム機構の推力が前記第2部材から前記第1部材へ伝達しないように、組み合わされているものである(請求項1)。
【0007】
この電磁式係合装置によれば、係合状態へ切り替える際に第1部材が電磁コイルにて吸引されると、第2部材も第1部材とともに同一方向に移動するが、カム機構が発生させる推力は第2部材から第1部材へは伝達されない。従って、電磁コイルが発生させる吸引力に対応して第1部材を、カム機構が発生させる推力に対応して第2部材をそれぞれ構成できる。そのため、第1部材と第2部材とを一体に構成する場合のように吸引力とともに推力に耐え得るような構成が要求されないので、装置の大型化を防止できる。しかも、第1部材及び第2部材がそれぞれ果たす機能に特化した材料や構造を個別に選定できるので、設計自由度が向上する。
【0008】
本発明の電磁式係合装置の一態様において、前記第1部材及び前記第2部材のそれぞれに互いに対面する状態で設けられた係合部を更に有し、前記第1部材に設けられた前記係合部が前記第2部材に設けられた前記係合部に対して前記第1部材が吸引される方向の後方に位置してもよい(請求項2)。この態様によれば、係合状態に切り替えられる際に第1部材が吸引されると、第1部材の係合部が第2部材の係合部に係合して第1部材とともに第2部材が移動できる。そして、カム機構の推力によって第2部材が移動すると、第2部材の係合部がその後方に位置する第1部材の係合部から離れることができるので、推力が第2部材から第1部材へ伝達することが阻止される。
【0009】
本発明の電磁式係合装置の一態様において、前記カム機構は、共通の軸線を中心として相対回転可能に組み合わされた一対のカム部材を有しており、前記一対のカム部材のいずれか一方のカム部材が前記第2部材として設けられ、前記一対のカム部材のいずれか他方のカム部材と前記第1部材とが前記軸線上に配置され、かつ前記軸線方向への移行を許容しつつ前記軸線を中心とした相対回転を阻止するスプライン係合によって組み合わされていてもよい(請求項3)。この態様によれば、第1部材と第2部材とが他方のカム部材を基準として共通の軸線上に配置されるので、第1部材と第2部材との半径方向に関する位置精度を向上させることができる。
【発明の効果】
【0010】
以上説明したように、本発明の電磁式係合装置によれば、係合状態へ切り替える際に第1部材が電磁コイルにて吸引されると、第2部材も第1部材とともに同一方向に移動するが、カム機構が発生させる推力は第2部材から第1部材へは伝達されないから、装置の大型化を防止できるとともに設計自由度が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】第1の形態に係る電磁式係合装置が組み込まれた動力伝達装置の一部を示した断面模式図。
【図2】第2の形態に係る電磁式係合装置が組み込まれた動力伝達装置の一部を示した断面模式図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(第1の形態)
図1は本発明の第1の形態に係る電磁式係合装置が組み込まれた動力伝達装置の一部を示した断面模式図である。動力伝達装置1は自動車の自動変速機に搭載されて使用される。動力伝達装置1は軸線Ax方向に延びる回転軸2を有しており、その回転軸2は軸線Axの回りに回転可能な状態で不図示のベアリングを介してケース3に支持されている。電磁式係合装置5は回転軸2のケース3に対する固定及びその固定を解除するブレーキ装置として動力伝達装置1に搭載されている。
【0013】
電磁式係合装置5は、回転軸2の外周に配置されたカム機構6と、ケース3に固定された電磁駆動部7と、カム機構6とケース3との間に配置された摩擦機構8とを備えている。カム機構6は軸線Axを共通の軸線として互いに組み合わされた一対のカム部材9、10を有している。一対のカム部材9、10の間には周方向に並んだ複数(図では一つ)のカムボール11が介在しており、そのカムボール11は各カム部材9、10に形成された周方向に並ぶ複数のV字溝12、13にて保持されている。各V字溝12、13は、各カム部材9、10を半径方向外側から見た場合にV字状に形成されていて、回転軸2の回転方向に関して深さが徐々に浅くなるように構成されている。
【0014】
一対のカム部材9、10のうち、図の右側に位置する固定カム部材9はケース3に固定されている。他方の可動カム部材10は相手方の固定カム部材9及び回転軸2のそれぞれに対して相対回転でき、かつ軸線Ax方向に移動できる状態で固定カム部材9と組み合わされている。一対のカム部材9、10は、図1に示された位相が一致した状態から相対回転して位相がずれた状態に変化すると、その相対回転に伴ってカムボール11の位置がV字溝12、13の浅い位置に変化する。これによって、カム機構6は、可動カム部材10を固定カム部材9から離れる方向に移動させる推力を発生させる。電磁式係合装置5には、一対のカム部材9、10にこうした相対回転が解放時に生じることを抑制するため、固定カム部材9に接近する方向に可動カム部材10を付勢するリターンスプリング15が設けられている。リターンスプリング15は図1の左方向の移動がシム16にて阻止されている。
【0015】
電磁駆動部7は電磁コイル18と、ケース3に固定されて電磁コイル18を保持するヨーク19とを有している。電磁駆動部7は電磁コイル18に電力が供給されると図の破線で示すように磁界Aが形成されて電磁力を発生させる。その電磁力によって可動カム部材10の外周側に配置されて可動カム部材10と組み合わされたアーマチュア20が吸引される。アーマチュア20はヨーク19から一体的に軸線Ax方向に延びる円筒部21の内周にスプライン係合されていて、円筒部21の内周右端に装着されたシム22にて抜け止め及び位置決めされている。そのスプライン係合によってアーマチュア20は軸線Ax方向にのみ移動が許容され、ヨーク19(ケース3)に対する相対回転移動は阻止される。
【0016】
可動カム部材10とアーマチュア20とは互いに別部品として独立した部材である。可動カム部材10及びアーマチュア20は可動カム部材10に設けられた係合部10aとアーマチュア20に設けられた係合部20aとがスラストベアリング23を介在させて互いに対面した状態で組み合わされている。なお、スラストベアリング23は省略することもできる。可動カム部材10に設けられた係合部10aは半径方向外側に、アーマチュア20に設けられた係合部20aは半径方向内側にそれぞれ突出している。アーマチュア20の係合部20aは可動カム部材10の係合部10aに対して、アーマチュア20が吸引される方向(図1の左方向)の後方に位置している。従って、アーマチュア20が電磁駆動部7にて吸引されると係合部20aにて可動カム部材10が押されるので、可動カム部材10はアーマチュア20とともに同一方向に移動する。アーマチュア20は本発明に係る第1部材に、可動カム部材10は本発明に係る第2部材にそれぞれ相当する。
【0017】
摩擦機構8は、ヨーク19に形成された取付穴19aの内周面に対して軸線Ax方向のみの移動を許容するようにスプライン係合され、かつ回転軸2の外周に対して半径方向のクリアランスを確保しつつ配置された2枚の固定板25と、回転軸2の外周に対して軸線Ax方向のみの移動を許容するようにスプライン係合された係合対象としての2枚の回転板26とを有している。一方の回転板26は2枚の固定板25の間に配置され、他方の回転板26は右側の固定板25と可動カム部材10との間に配置されている。
【0018】
電磁駆動部7によって、可動カム部材10がアーマチュア20とともに左方向に移動すると、カム機構6のカムボール11とV字溝12、13との間に隙間が生じ、固定カム部材9と可動カム部材10とが差回転可能な状態となる。そして、これらの移動量(ストローク量)が増すと、可動カム部材10と摩擦機構8の回転板26とが接触を開始し、その接触に伴う摩擦によって可動カム部材10と固定カム部材9とが差回転してカム機構6が上述した推力を発生させる。その推力によって、可動カム部材10は更にストロークして摩擦機構8の各板25、26を左方向に押し込む。これにより、一方の回転板26は2枚の回転板25に、他方の回転板26は右側の固定板25と可動カム部材10とにそれぞれ挟み込まれる。可動カム部材10による回転板26への押し付け力が増すと固定板25、回転板26及び可動カム部材10の相互間に生じる摩擦力が増加してこれらが同一速度に、つまり回転板26と一体回転する回転軸2がケース3に対して静止する。これにより、図1に示した解放状態から可動カム部材10が回転板26と係合する係合状態へ切り替えられる。
【0019】
本形態は、カム機構6の推力によって可動カム部材10が移動すると、可動カム部材10の係合部10aがその後方に位置するアーマチュア20の係合部20aから離れることができるので、カム機構6の推力が可動カム部材10からアーマチュア20へ伝達することが阻止される。可動カム部材10及びアーマチュア20の各ストローク量は係合状態に切り替えられた場合に可動カム部材10がアーマチュア20から離れるように設定されている。
【0020】
本形態のカム機構6はいわゆるセルフロック機能を有するように、回転軸2に生じ得るトルクを考慮してカムボール11及び各V字溝12、13の幾何学的条件が設定されている。これにより、電磁式係合装置5は、図1の解放状態から係合状態へ切り替えられると電磁駆動部7の吸引力等の外力を要せずに係合状態が維持される。なお、係合状態から解放状態へ切り替える場合には、電磁駆動部7への通電を停止しつつ回転軸2を係合時と逆回転させてカム機構6のセルフロックを解除する。そのセルフロックが解除されると、リターンスプリング15の弾性力によって可動カム部材10が右方向に移動してアーマチュア20と接触する。その接触後には可動カム部材10とともにアーマチュア20も右方向に移動して図1に示した解放状態へ切り替えられる。なお、カム機構6がセルフロック機能を有しないように上記幾何学的条件を設定して実施することも可能である。
【0021】
第1の形態によれば、係合状態へ切り替える際にアーマチュア20が電磁コイル18にて吸引されると、可動カム部材10もアーマチュア20とともに同一方向に移動するが、カム機構6が発生させる推力は可動カム部材10からアーマチュア20へは伝達されない。従って、電磁コイル18が発生させる吸引力に対応してアーマチュア20を、カム機構6が発生させる推力に対応して可動カム部材10をそれぞれ構成できる。そのため、アーマチュア20と可動カム部材10とを一体に構成する場合のように吸引力とともに推力に耐え得るような構成が要求されないので、装置の大型化を防止できる。しかも、アーマチュア20及び可動カム部材10がそれぞれ果たす機能に特化した材料や構造を個別に選定できるので設計自由度が向上する。
【0022】
(第2の形態)
次に、本発明の第2の形態を図2を参照しながら説明する。図2は本発明の第2の形態に係る電磁式係合装置が組み込まれた動力伝達装置の一部を示した断面模式図である。この形態は第1の形態の変形例に相当するため、第1の形態と共通する構成には同一の参照符号を図2に付して重複する説明を省略する。電磁式係合装置40は図1の形態と同じようにブレーキ装置として動力伝達装置1に搭載されている。
【0023】
電磁式係合装置40はアーマチュア41を有しており、そのアーマチュア41の構成及びその取り付け方法が第1の形態の場合と異なっている。アーマチュア41は、可動カム部材10の係合部10aと対面する係合部41aを有し、その係合部41aは第1の形態と同様に係合部10aに対してアーマチュア41の吸引方向の後方に位置している。アーマチュア41は、係合部41aが固定カム部材9の外周部に対して軸線Ax回りの相対回転が不能でかつ軸線Ax方向の移動が許容されるようにスプライン係合されている。アーマチュア41の軸線Ax方向の抜け止めはシム42にて行われている。これにより固定カム部材9とアーマチュア41とは共通の軸線Ax上に配置される。カム機構6の各カム部材9、10は軸線Axを中心として相対回転可能に組み合わされているので、第2部材である可動カム部材10とこれに組み合わされる第1部材であるアーマチュア41とが軸線Ax上に正確に配置されることとなる。これにより、可動カム部材10とアーマチュア41との半径方向に関する位置精度を向上させることができる。
【0024】
また、アーマチュア41が固定カム部材9の外周部に対してスプライン係合されているので、ヨーク19の円筒部21(図1参照)を省略できる。そのため、ヨーク19の小型化に寄与するとともに、破線で示した磁界Bからも理解できるようにアーマチュア41が磁路断面積に有利な形状となってその磁路断面積が第1の形態に比べて凡そ2倍に増加するので電磁コイル18による吸引力が向上する。
【0025】
本発明は、上記の各形態に限定されず、本発明の要旨の範囲内において種々の形態にて実施できる。上記の各形態では、本発明の電磁式係合装置をブレーキ装置として利用した形態であるが、本発明を2つの回転要素間に介在させるクラッチとして実施することも可能である。
【0026】
上記の各形態では係合状態でのトルク容量を増やすために、複数枚の固定板25と回転板26とを備えた摩擦機構8を採用したがこの形態は一例にすぎない。例えば、単一の回転板26を可動カム部材10とケース3との間に挟み込むようにして実施することもできる。
【符号の説明】
【0027】
5、40 電磁式係合装置
6 カム機構
9 固定カム部材
10 可動カム部材(第2部材)
10a 係合部
18 電磁コイル
20、41 アーマチュア(第1部材)
20a、41a 係合部
26 回転板(係合対象)
Ax 軸線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電磁コイルの磁力とともにカム機構の推力を利用して係合対象と係合する係合状態へ切り替え可能な電磁式係合装置において、
前記電磁コイルの磁力にて吸引される第1部材と、前記カム機構の推力にて前記係合対象に押し付けられる第2部材と、を有し、
前記第1部材及び前記第2部材は、前記係合状態へ切り替えられる際に、前記電磁コイルにて吸引される前記第1部材とともに前記第2部材が同一方向に移動でき、かつ前記カム機構の推力が前記第2部材から前記第1部材へ伝達しないように、組み合わされていることを特徴とする電磁式係合装置。
【請求項2】
前記第1部材及び前記第2部材のそれぞれに互いに対面する状態で設けられた係合部を更に有し、
前記第1部材に設けられた前記係合部が前記第2部材に設けられた前記係合部に対して前記第1部材が吸引される方向の後方に位置している、請求項1に記載の電磁式係合装置。
【請求項3】
前記カム機構は、共通の軸線を中心として相対回転可能に組み合わされた一対のカム部材を有しており、
前記一対のカム部材のいずれか一方のカム部材が前記第2部材として設けられ、
前記一対のカム部材のいずれか他方のカム部材と前記第1部材とが前記軸線上に配置され、かつ前記軸線方向への移行を許容しつつ前記軸線を中心とした相対回転を阻止するスプライン係合によって組み合わされている、請求項1に記載の電磁式係合装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−193765(P2012−193765A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−56628(P2011−56628)
【出願日】平成23年3月15日(2011.3.15)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)