説明

電磁接触器の製造方法及びこの方法で使用する保持治具

【課題】カプセル構造の品質の信頼性を向上させることができる電磁接触器の製造方法を提供する。
【解決手段】ベース板4とキャップ8のキャップフランジ部8aとを互いに密着させ、ベース板側からレーザ光17を照射してベース板及びキャップフランジ部をレーザ溶接することでベース板及びキャップが一体化された第1組立て部品18を形成する。次いで、消弧室1に固定端子2及び接続部材3が固定されてなる第2組立て部品19の接続部材フランジ部3bと第1組立て部品18のベース板とを互いに密着させ、第1組立て部品側からベース板に向けてレーザ光20を照射してベース板及び接続部材フランジ部をレーザ溶接することで前記第1組立て部品及び前記第2組立て部品を一体化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電流路に介挿された固定接触子及び可動接触子を備えた電磁接触器の製造方法及びこの方法で使用する保持治具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の電磁接触器のガス密閉型構造(以下、カプセル構造品という)として、図5に示す構造のものが知られている(例えば、特許文献1)。
図5のカプセル構造品は、セラミック製の消弧室1内部に、固定接点26、可動接点27aを有する可動端子27、可動軸28、接触バネ29等が組み込まれている。また、キャップ8内には可動軸28が連結された可動鉄心30、復帰バネ31が組み込まれている。ここでは、力プセル構造に関することなので、内部構成については説明しない。
【0003】
消弧室1と固定端子2及び消弧室1と接続部材3は、ろう付けにより接合されている。すなわち、消弧室1の上側側壁面に、一対の例えば銅製の固定端子2が所定間隔を保って貫通してろう付けにより接合されているとともに、消弧室1の開口端部1aに、接続部材3の凸状に形成された筒部3aがろう付けにより接合されている。
また、図5の符号4は、可動軸28が挿通する開口穴4aを形成したベース板であり、キャップ8のフランジ部8aとベース板4及び接続部材3のフランジ部3bとベース板4が、レーザ溶接により接合されている。
【0004】
図6は、従来のカプセル構造品の製造方法を示すものである。先ず、図6(a)で示すように、ベース板4及びキャップ8のフランジ部8aの仮付け固定を行なった後、キャップ8側からキャップ円筒壁8bに沿ってフランジ部8aに入射させたレーザ光11により円周溶接を行なう。この際、キャップ円筒壁8bに対してレーザ光11が極めて接近する(互いの距離は1mm以下である)。
【0005】
レーザ光11は近赤外光であり、色で光軌道を目視できない(透明なので軌道が確認できない)。そこで、キャップ円筒壁8bとレーザ光11とが干渉しないように(遮光されないように)、厳密に部品位置決めの段取りセットをしなければならない。
したがって、ベース板4及びキャップ8をレーザ溶接により組立てする際には、レーザ光11が干渉しないように治具や部品精度を向上しなければならず、量産化の面で問題がある。
【0006】
レーザ光11の入射角を、例えば溶接深さに影響しない範囲に傾斜する、例えば入射角5°の傾斜レーザ光12で溶接すればキャップ円筒壁8bと傾斜レーザ光12との距離が大きくなるので干渉のリスクは少なくなる。
しかし、傾斜レーザ光12の入射角を設定するには、レーザ溶接時の溶け込み深さを確認して、影響のない角度を確認しておかなければならないという煩わしい作業が発生するという問題がある。
【0007】
また、レーザ溶接の際には、多数のスパッ夕(火花の粒)が発生し、キャップ円筒壁8bに付着、或いは、すす状になってキャップ円筒壁8bに付着する。キャップ円筒壁8bは金属材料(例えば、ステンレス鋼SUS304)なので、ウエス(布)などで拭き取れぱ付着物や変色物はおよそ取り除くことができる。しかし、レーザ溶接の際には、必ず、キャップ円筒壁8bの壁面を清浄する作業が伴うという問題がある。
【0008】
また、通常、レーザ溶接は、溶接時にシールドガスを用いて溶接ビード面の品質(変色防止、割れ・ピンホール防止)を確保するために、レーザ光と同軸方向からシールドガスが噴き出すレーザ一体型シールドガスヘッドが使われる。しかし、この場合も、キャップ円筒壁8bに沿って入射するレーザ光11、または、入射角5°程度の傾斜レーザ光12との距離が非常に小さいため、寸法形状レベルで判断するとレーザ一体型シールドガスヘッドを使用することはできない。そこで、特殊の超小型のレーザヘッドを設計・製作する、或いは、レーザ光が発振するレーザ光軸加工へッドとシールドガスノズルとを分離したシールドガスノズルを、キャップ円筒壁8b付近に設置しなければならないという問題点がある。しかしこのような分離型のシールドガスノズルは、溶接冶金学的には品質上問題はないものの、やはりビード表面が変色するという問題点がある。ビード表面が変色していると製品上見栄えが良くないばかりか、微細な割れやピンホールなどの欠陥を見落としたりすることがあり、やはり変色を抑えなけれぱならないということになる。
【0009】
一方、図6(b)に示すように、消弧室1、固定端子2及び接続部材3を一体化した第1組立て部品13の接続部材3と、キャップ8及びベース板4を一体化した第2組立て部品14のベース板4とを仮付け固定した後に、消弧室1側から消弧室1の外壁に沿って接続部材3のフランジ部3bに入射させたレーザ光15により周方向溶接を行なう。
【0010】
この場合も、図6(a)と同様に、消弧室1の外壁とレーザ光15とは極めて接近しており、消弧室1の外壁とレーザ光15とが干渉しないように位置決め段取りしなければならない。また、レーザ光を少し傾斜させてレーザ溶接する方法は、図6(a)と同様であるが、この場合、傾斜させた傾斜レーザ光16を、長方形状の溶接線となるように相対的に走査しなければならないので、前述した分離型のシールドガスノズルをレーザ照射部のすぐ横に設置してレーザ溶接しなければならない。この際、長方形状の溶接線上のコーナー部(円弧部)でのガスシールドが追随しにくくなったりしてシールド効果が低下する、いわゆるビード表面の変色という問題点が発生しやすい。
【0011】
ここで、図6(a)では、ベース板4と比較して板厚が薄いキャップ8のフランジ部8a側からレーザ溶接を行っており、図6(b)も、ベース板4と比較して板厚が薄い接続部材3のフランジ部3b側からレーザ溶接を行なっているので、レーザ出力も小さくできるというメリットはある。しかし、図6(a)、(b)のレーザ溶接は、溶接速度が小さく、溶け込み深さも小さく、全体板厚のうち溶け込み深さの度合い(比率)も小さい場合、或いは、溶接部に気孔が発生した場合には、ガスの逃げ口が確保しにくくポロシティ(気孔)が発生しやすいという問題も発生する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2001−68573号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
以上より、本発明は上記に記載した様々な問題点に鑑みてなされたものであり、気密性を確保し、スパッタの付着を防止し、ビード表面の変色を防止し、ポロシティの発生を抑制することで、カプセル構造の品質の信頼性を向上させることができる電磁接触器の製造方法及びこの方法で使用する保持治具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために、本発明の第1の実施の形態に係る電磁接触器の製造方法は、開口穴を有するベース板と、一端が開放した有底筒状のキャップ円筒部及びこのキャップ円筒部の開放端面に設けた前記ベース板と密着可能なキャップフランジ部を有するキャップと、壁面を貫通して固定した固定端子を有し、一端を開放した桶状の消弧室と、この消弧室の開放端面に一端が密着して固定された筒部及び当該筒部の他端に設けた前記ベース板と密着可能な接続部材フランジ部を有する接続部材と、を備え、前記ベース板と前記キャップの前記キャップフランジ部とを互いに密着させ、前記ベース板側からレーザ光を照射して前記ベース板及び前記キャップフランジ部をレーザ溶接することで前記ベース板及び前記キャップが一体化された第1組立て部品を形成する第1溶接工程と、前記消弧室に前記固定端子及び前記接続部材が固定されてなる第2組立て部品の前記接続部材フランジ部と前記第1組立て部品の前記ベース板とを互いに密着させ、前記第1組立て部品側から前記ベース板に向けてレーザ光を照射して前記ベース板及び前記接続部材フランジ部をレーザ溶接することで前記第1組立て部品及び前記第2組立て部品を一体化する第2溶接工程と、を備えたことを特徴とする電磁接触器の製造方法である。
【0015】
また、本発明の第2の実施の形態に係る電磁接触器の製造方法は、前記第1溶接工程において、前記ベース板側のレーザ溶接部の周囲の溶接空間及び前記キャップフランジ部側のレーザ溶接部の周囲の溶接空間に、無酸化雰囲気となるシールドガスが供給されているとともに、前記第2溶接工程において、前記ベース板側のレーザ溶接部の周囲の溶接空間及び前記接続部材フランジ部側のレーザ溶接部の周囲の溶接空間に、無酸化雰囲気となるシールドガスが供給されていることを特徴とする電磁接触器の製造方法である。
【0016】
また、本発明の第3の実施の形態に係る電磁接触器の製造方法は、前記ベース板の板厚は、前記キャップフランジ部及び前記接続部材フランジ部の板厚より厚く設定されていることを特徴とする電磁接触器の製造方法である。
また、本発明の第4の実施の形態に係る電磁接触器の製造方法は、前記第1溶接工程において、前記ベース板及び前記キャップフランジ部の板厚を合わせた寸法と同一の溶け込み深さのレーザ溶接、或いは、前記ベース板及び前記キャップフランジ部の板厚を合わせた寸法より僅かに超えた溶け込み深さの貫通レーザ溶接を行なうとともに、前記第2溶接工程において、前記ベース板及び前記接続部材フランジ部の板厚を合わせた寸法と同一の溶け込み深さのレーザ溶接、或いは、前記ベース板及び前記接続部材フランジ部の板厚を合わせた寸法より僅かに超えた溶け込み深さの貫通レーザ溶接を行なうことを特徴とする電磁接触器の製造方法である。
【0017】
一方、本発明に係る電磁接触器の製造方法で使用する保持治具は、前記第1溶接工程でレーザ溶接を行なう前記ベース及び前記キャップを保持し、前記第2溶接工程でレーザ溶接を行なう前記第1組立て部品及び前記第2組立て部品を保持する保持治具であって、上方からレーザ光が垂直入射するように上部が開口した治具本体を備え、この治具本体の内部空間は、前記第1溶接工程において、互いに密着した前記ベース板及び前記キャップフランジ部より上部の上部溶接空間と、前記ベース板及び前記キャップフランジ部より下部の下部溶接空間とに区画されるとともに、前記第2溶接工程において、互いに密着した前記ベース及び接続部材フランジ部より上部の上部溶接空間と、前記ベース板及び前記接続部材フランジ部より下部の下部溶接空間とに区画されており、前記上部溶接空間及び前記下部空間の各々の空間に、前記治具本体に設けたガス配管から前記シールドガスが供給されることを特徴とする電磁接触器の製造方法で使用する保持治具である。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る電磁接触器の製造方法によれば、第1溶接工程では、ベース板側からレーザ光を照射してベース板及びキャップフランジ部をレーザ溶接し、第2溶接工程では、第1組立て部品側からベース板に向けてレーザ光を照射してベース板及び前記接続部材フランジ部をレーザ溶接しており、レーザ光とキャップ及び消弧室との干渉を防止してレーザ溶接を行なうことができるので、スパッ夕が抑制されてウエス(布)などによる拭き取り作業が不要となるとともに、生産性を大幅に向上させることができる。
【0019】
また、第1溶接工程及び第2溶接工程のレーザ溶接部は無酸化雰囲気となるシールドガスで覆われているので、溶接ビード表面の変色も無い。
また、第1溶接工程及び第2溶接工程のベース板の板厚は、キャップフランジ部及び接続部材フランジ部の板厚より厚く設定されており、レーザ溶接も、2枚の板厚寸法と同一の溶け込み深さのレーザ溶接、或いは、2枚の板厚寸法より僅かに超えた溶け込み深さの貫通レーザ溶接を行なっているので、溶接部内に発生しやすかったポロシティを抑制することができる。
【0020】
また、本発明に係る電磁接触器の製造方法で使用する保持治具によると、治具本体内部に設けた上部溶接空間及び下部空間の各々の空間にガス配管からシールドガスを供給することで、レーザ溶接部の周囲の溶接空間を無酸化雰囲気とすることができ、溶接ビード表面の変色を確実に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明に係る電磁接触器のガス密閉型構造を製造する際の第1溶接工程を示す図である。
【図2】本発明に係る電磁接触器のガス密閉型構造を製造する際の第2溶接工程を示す図である。
【図3】本発明に係るガス封入式の電磁接触器のガス密閉型構造を製造する際の第1溶接工程を示す図である。
【図4】本発明に係るガス封入式の電磁接触器のガス密閉型構造を製造する際の第2溶接工程を示す図である。
【図5】本発明に係る電磁接触器のガス密閉型構造を示す断面図である。
【図6】従来の電磁接触器のガス密閉型構造の製造手順を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を実施するための形態(以下、実施形態という。)を、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図5で示した構成と同一構成部分には、同一符号を付してその説明を省略する。
図1及び図2は、電磁接触器のガス密閉型構造(以下、カプセル構造品という)の製造方法の1実施形態を示すものである。
本実施形態は、図1に示すように、ベース板4及びキャップ8をレーザ溶接で一体化して第1組立て部品18を形成する第1溶接工程と、図2に示すように、第1組立て部品8のベース4及び第2組立て部品19の接続部材3を溶接する第2溶接工程とを有する方法である。なお、図2に示すように、第2組立て部品19は、消弧室1、固定端子2及び接続部材3が予めろう付けで接合されたものである。
【0023】
図1に示す第1溶接工程は、ベース板4及びキャップ8のフランジ部8aの仮付け固定を行なった後、これらの部材を保持治具(不図示)で保持し、ベース板18側から垂直入射したレーザ光17によりベース板18及びキャップ8のフランジ部8aの円周溶接を行なうことで第1組立て部品18を形成する。
ここで、ベース板4の板厚は、キャップ8のフランジ部8aの板厚より大きく、例えば、ベース板4の板厚1.6mm、フランジ部8aの板厚0.5mmの場合には、溶け込み深さをおよそ2.1(=0.5+1.6)mmにするレーザ溶接、或いは、2.1mmを僅かに超えた貫通レーザ溶接にする。
【0024】
この第1溶接工程は、垂直入射のレーザ光17の周辺に干渉物が存在せず、スパッ夕の火花粒が周囲の部品に付着することも無い。したがって、第1溶接工程の段取り作業では、保持治具の位置や円周溶接を行なう際のレーザ溶接条件などの初期設定をしておけば良い。
また、図2に示す第2溶接工程は、消弧室1、固定端子2及び接続部材3を一体化した第2組立て部品19と、キャップ8及びベース板4を一体化した第1組立て部品18とを、レーザ光20で溶接する工程である。
【0025】
すなわち、第2溶接工程は、第2組立て部品19の接続部材3のフランジ部3bと、第1組立て部品18のベース板4との仮付け固定を行なった後、これら第1及び第2組立て部材18,19を保持治具(不図示)で保持し、垂直入射のレーザ光26にて、長方形の周上をレーザ溶接する。
ベース板4の板厚は、接続部材3のフランジ部3bの板厚より大きく、例えば、ベース板4の板厚1.6mm、フランジ部3bの板厚0.8mmの場合には、溶け込み深さをおよそ2.4(=0.8+1.6)mmにするレーザ溶接、或いは、2.4mmを僅かに超えた貫通レーザ溶接にする。
【0026】
この第2溶接工程も、垂直入射のレーザ光20の周辺に干渉物が存在せず、スパッ夕の火花粒が周囲の部品に付着することも無い。ここで、キャップ円筒壁8bへの付着を懸念するのであれば、精度不要の円筒状キャップ治具をキャップ円筒壁8bに覆っておけばよい。
したがって、第2溶接工程の段取り作業も、保持治具の位置や溶接を行なう際のレーザ溶接条件などの初期設定をしておけば良い。
なお、本発明のキャップフランジ部がフランジ部8aに対応し、本発明の接続部材フランジ部がフランジ部3bに対応している。
【0027】
次に、図3及び図4は、ガス封入式のカプセル構造品の製造方法の1実施形態を示すものである。なお、図1及び図2で示した構成と同一構成部分には、同一符号を付して説明は省略する。
本実施形態は、第1溶接工程においてベース板4及びキャップ8を固定するために、第2溶接工程において第1及び第2組立て部品18,19を固定するため、以下に示す構造の保持治具21を使用している。
【0028】
保持治具21は、図3に示すように、上部が開口する溶接空間22を設けた治具本体21aと、溶接空間22の下部に設けた載置部21bと、溶接空間22を形成した治具本体21aの内周壁から突出している環状隔壁部21cと、環状隔壁部21cより上部の溶接空間22である上部溶接空間22aと、環状隔壁部21cより下部の溶接空間22である下部溶接空間22bと、上部溶接空間22aにシールドガス(Nガス、Arガス、Heガスなど)を供給するガス配管21d、21eと、下部溶接空間22bにシールドガスを供給するガス配管21f、21gと、を備えている。
【0029】
載置部21bは、図3に示すように、キャップ8のキャップ円筒壁8bの下端面を載置するキャップ載置部21b1と、消弧室1に固定された固定端子2を載置する固定端子載置部21b2と、を備えている。
また、環状隔壁部21cは、同一の外周形状に形成したベース板4及び接続部材3のフランジ部3bより僅かに大きな環状に形成されており、この環状隔壁部21cには、上部溶接空間22a及び下部溶接空間22bの間を連通する複数の連通穴21c1が形成されている。
【0030】
上記構成の保持治具21を使用したカプセル構造品の製造方法は、先ず、第1溶接工程において、図3に示すように、ベース板4に仮固定したキャップ8がベース板4に対して上部に位置するように配置し、ベース板4を環状隔壁部21cの内周縁部に対向させながら、キャップ8のキャップ円筒壁8bをキャップ載置部21b1上に載置する。
次いで、ガス配管21d、21eから上部溶接空間22aにシールドガスを供給し、ガス配管21f、21gから下部溶接空間22bにシールドガスを供給し、保持治具21の上方から垂直入射したレーザ光17によりベース板18及びキャップ8のフランジ部8aの円周溶接を行なうことで、第1組立て部品18を形成する。
【0031】
この際、シールドガスが供給された上部溶接空間22a及び下部溶接空間22bは無酸化雰囲気とされるので、レーザ溶接部である上部側ビード23a、下部側ビード23bともに金属の地金の色となり、ビード表面が変色しない。
次に、第2溶接工程において、第2組立て部品19の接続部材3のフランジ部3bと、第1組立て部品18のベース板4との仮付け固定を行なう。
【0032】
次いで、図4に示すように、第2組立て部品19を、接続部材3が消弧室1に対して上部に位置するように配置し、ベース板4及び接続部材3のフランジ部3bを環状隔壁部21cの内周縁部に対向させながら、消弧室1に固定された固定端子2を固定端子載置部21b2上に載置する。
次いで、ガス配管21d、21eから上部溶接空間22aにシールドガスを供給し、ガス配管21f、21gから下部溶接空間22bにシールドガスを供給し、保持治具21の上方から垂直入射したレーザ光20によりベース板18及び接続部材3のフランジ部3bの長方形の周上をレーザ溶接することで、第1組立て部品18及び第2組立て部品19を結合する。
【0033】
この際、シールドガスが供給されている上部溶接空間22a及び下部溶接空間22bは無酸化雰囲気とされるので、レーザ溶接部である上部側ビード24a、下部側ビード24bともに金属の地金の色となり、ビード表面が変色しない。
また、第1溶接工程におけるベース板4及びキャップ8のレーザ溶接、第2溶接工程における第2組立て部品19の接続部材3と第1組立て部品18のベース板4とのレーザ溶接に共通するものであるが、溶接時に例えば、出力2kWのファイバーレーザにて高速溶接を行うとポロシティ(気孔)の発生が抑制される。ここでいう高速溶接とは、本件の板厚しベル(2枚重ねの厚さ)の場合、少なくとも3m/minを超える溶接速度である。
【0034】
また、板厚が大きい部材から板厚が薄い部材にレーザ照射して裏側まで貫通溶接すると(例えば、第1溶接工程ではベース板4からキャップ8のフランジ部8bにレーザ照射して裏側まで貫通溶接すること、第2溶接工程ではベース板4から接続部材3のフランジ部3bにレーザ照射して裏側まで貫通溶接すること)、ポロシティが貫通溶接時に下側に抜けるために、貫通溶接でない場合に比ベてかなりポロシティを抑制することができる。
【0035】
また、2種類の部材を表側から裏側まで溶接する貫通溶接では、レーザ出力をさらに増加させていっても外観上裏ビードの幅はあまり変わらず、下側に抜けるスパッタ量だけが次第に増加するだけなので、必要最低限のレーザ出力でよい。
なお、レーザの種類としては、ビーム品質が極めて良いファイバーレーザ、あるいはディスクレーザなどが良い。これらのレーザは、ビーム品質が極めて高い(M2値=1.1:光の回折限界に近い値)ためである。長焦点距離のレンズ(F=300〜550mm)を使用しても集光ビーム径を小さく確保できるだけでなく。ビームの集光角が小さくできるので、狭小幅で深い溝の底までレーザ光が届くという特徴(途中の壁に光が干渉しない)があるからである。もちろん従来のYAGレーザやC02レーザでも構わないが、ビーム品質の点で上記のような狭小幅で深い溝の底に対応できるかが難しい点であることに注意が必要である。
【符号の説明】
【0036】
1…消弧室、1a…開口端部、2…固定端子、3…接続部材、3a…筒部、3b…フランジ部、4…ベース板、4a…開口穴、8…キャップ、8a…フランジ部、8b…キャップ円筒壁、26…固定接点、27…可動端子、27a…可動接点、28…可動軸、29…接触バネ、30…可動鉄心、31…復帰バネ、17…レーザ光、18…第1組立て部品、19…第2組立て部品、20…レーザ光、21…保持治具、21a…治具本体、21b…載置部、21b1…キャップ載置部、21b2…固定端子載置部、21c…環状隔壁部、21c1…連通穴、21d〜21g…ガス配管、22…溶接空間、22a…上部溶接空間、22b…下部溶接空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
開口穴を有するベース板と、
一端が開放した有底筒状のキャップ円筒部及びこのキャップ円筒部の開放端面に設けた前記ベース板と密着可能なキャップフランジ部を有するキャップと、
壁面を貫通して固定した固定端子を有し、一端を開放した桶状の消弧室と、
この消弧室の開放端面に一端が密着して固定された筒部及び当該筒部の他端に設けた前記ベース板と密着可能な接続部材フランジ部を有する接続部材と、を備え、
前記ベース板と前記キャップの前記キャップフランジ部とを互いに密着させ、前記ベース板側からレーザ光を照射して前記ベース板及び前記キャップフランジ部をレーザ溶接することで前記ベース板及び前記キャップが一体化された第1組立て部品を形成する第1溶接工程と、
前記消弧室に前記固定端子及び前記接続部材が固定されてなる第2組立て部品の前記接続部材フランジ部と前記第1組立て部品の前記ベース板とを互いに密着させ、前記第1組立て部品側から前記ベース板に向けてレーザ光を照射して前記ベース板及び前記接続部材フランジ部をレーザ溶接することで前記第1組立て部品及び前記第2組立て部品を一体化する第2溶接工程と、を備えたことを特徴とする電磁接触器の製造方法。
【請求項2】
前記第1溶接工程において、前記ベース板側のレーザ溶接部の周囲の溶接空間及び前記キャップフランジ部側のレーザ溶接部の周囲の溶接空間に、無酸化雰囲気となるシールドガスが供給されているとともに、
前記第2溶接工程において、前記ベース板側のレーザ溶接部の周囲の溶接空間及び前記接続部材フランジ部側のレーザ溶接部の周囲の溶接空間に、無酸化雰囲気となるシールドガスが供給されていることを特徴とする請求項1記載の電磁接触器の製造方法。
【請求項3】
前記ベース板の板厚は、前記キャップフランジ部及び前記接続部材フランジ部の板厚より厚く設定されていることを特徴とする請求項1又は2記載の電磁接触器の製造方法。
【請求項4】
前記第1溶接工程において、前記ベース板及び前記キャップフランジ部の板厚を合わせた寸法と同一の溶け込み深さのレーザ溶接、或いは、前記ベース板及び前記キャップフランジ部の板厚を合わせた寸法より僅かに超えた溶け込み深さの貫通レーザ溶接を行なうとともに、
前記第2溶接工程において、前記ベース板及び前記接続部材フランジ部の板厚を合わせた寸法と同一の溶け込み深さのレーザ溶接、或いは、前記ベース板及び前記接続部材フランジ部の板厚を合わせた寸法より僅かに超えた溶け込み深さの貫通レーザ溶接を行なうことを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の電磁接触器の製造方法。
【請求項5】
請求項2に記載の電磁接触器の製造方法で使用され、前記第1溶接工程でレーザ溶接を行なう前記ベース及び前記キャップを保持し、前記第2溶接工程でレーザ溶接を行なう前記第1組立て部品及び前記第2組立て部品を保持する保持治具であって、
上方からレーザ光が垂直入射するように上部が開口した治具本体を備え、
この治具本体の内部空間は、前記第1溶接工程において、互いに密着した前記ベース板及び前記キャップフランジ部より上部の上部溶接空間と、前記ベース板及び前記キャップフランジ部より下部の下部溶接空間とに区画されるとともに、前記第2溶接工程において、互いに密着した前記ベース及び接続部材フランジ部より上部の上部溶接空間と、前記ベース板及び前記接続部材フランジ部より下部の下部溶接空間とに区画されており、
前記上部溶接空間及び前記下部空間の各々の空間に、前記治具本体に設けたガス配管から前記シールドガスが供給されることを特徴とする電磁接触器の製造方法で使用する保持治具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−54980(P2013−54980A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−193550(P2011−193550)
【出願日】平成23年9月6日(2011.9.6)
【出願人】(000005234)富士電機株式会社 (3,146)
【出願人】(508296738)富士電機機器制御株式会社 (299)