説明

電磁波漏洩の抑制方法

【課題】電磁波漏洩の抑制するための、金属板と金属板が重なった部分の隙間を塞ぐ絶縁体の厚さや絶縁体同士の位置を規定する、電磁波漏洩の抑制方法を提供する。
【解決手段】金属製筐体の金属板と金属板が重なった部分の金属板間に挟みこんだ絶縁体によって漏洩する電磁波を抑制する、電磁波漏洩の抑制方法であって、電磁波の周波数をf(GHz)とした場合に、絶縁体の厚さh(mm)は、以下の式を満足する厚さとする。h<f×1/10

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子機器の金属製筐体で金属板と金属板が重なった部分のすき間から漏洩する電磁波を抑制する、電磁波漏洩の抑制方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
OA・電機製品には、製品内部に組み込まれた電子回路からの漏洩電磁波をシールドすることが求められている。これは、漏洩電磁波が他のOA・電機製品を誤作動させる可能性があるだけでなく、心臓ペースメーカなどの電子機器を誤作動させて、使用している人へ影響を及ぼす可能性があるためである。
【0003】
OA・電機製品の筐体は、鋼板やアルミ板等の金属で作製されている場合が多い。そして、金属製の筐体内部に電磁波の発信源がある場合に、金属板が重なった部分を溶接など連続的な接合を施さない限り、隙間ができてしまい、ここから電磁波が漏洩することが問題となる。
【0004】
このため、電磁波シールド用ガスケットを、金属板と金属板の間に挟んで、電磁波の漏洩を抑制することが広く行われている。例えば、特許文献1には、電磁波シールド用ガスケットとして、スポンジ状の芯材の周囲にシート状の導電性シートを覆設したもの、また特許文献2には、導電性の布で弾性体を被覆したものがそれぞれ開示されている。
【0005】
このように、柔軟な材料の周囲を導電体で被覆するもの、つまり、隙間を導電体で塞ぐ方法が主流となっている。しかし、電磁波シールド用のガスケットは製造方法が複雑で価格が高いという問題がある。
【0006】
これに対して、本発明者らは特許文献3において、簡便かつ高精度に漏洩電磁波の強度を評価する電磁波漏洩の評価方法および装置を開示し、金属板と金属板が重なった部分の隙間を、導電体ではなく、絶縁体で塞いでも電磁波漏洩を抑制する効果があることを見出した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平10−93281号公報
【特許文献2】特開平10−284869号公報
【特許文献3】特開2009−58324号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献3に開示した技術では、絶縁体の厚さや絶縁体同士の位置関係が電磁波の減衰にどのように影響するかについては明らかにされておらず、具体的な電磁波漏洩の抑制方法となっていなかった。
【0009】
本発明では、これら従来技術の問題点に鑑みなされたものであり、電磁波漏洩を抑制するための、金属板と金属板が重なった部分の隙間を塞ぐ絶縁体の厚さや絶縁体同士の位置を規定する、電磁波漏洩の抑制方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】

[1] 金属製筐体の金属板と金属板が重なった部分の金属板間に挟みこんだ絶縁体によって漏洩する電磁波を抑制する、電磁波漏洩の抑制方法であって、
前記電磁波の周波数をf(GHz)とした場合に、前記絶縁体の厚さh(mm)を次の(2)式を満足する厚さとすることを特徴とする電磁波漏洩の抑制方法。
【0011】
【数2】

【0012】
[2] 上記[1]に記載の電磁波漏洩の抑制方法において、
前記絶縁体同士の距離w(mm)を、電磁波の透過する方向に対して直角に、次の(3)式を満足する距離とすることを特徴とする電磁波漏洩の抑制方法。
【0013】
【数3】

【発明の効果】
【0014】
本発明は、電磁波の周波数に対応した、絶縁体の厚さならびに絶縁体同士の距離を規定するようにしたので、これに基づいた筐体設計ならびに製作を行えば十分な電磁波漏洩の抑制効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係る電磁波漏洩の抑制方法を概説する図である。
【図2】本発明に用いる絶縁部を示す図である。
【図3】絶縁体の厚さを変化させた場合の電磁波の減衰特性例を示す図である。
【図4】電極間距離を変えた場合の電磁波の減衰特性例(1−2GHz)を示す図である。
【図5】電極間距離を変えた場合の電磁波の減衰特性例(4−8GHz)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1は、本発明に係る電磁波漏洩の抑制方法を概説する図である。金属製の筐体内部に電磁波の発信源があり、筐体の金属板重ね合わせ部の隙間(電磁波の透過部)から電磁波が筐体の外に漏洩している様子を示している。
【0017】
電磁波を図1に示すように透過させて、電磁波の透過部の出口から出てきた電磁波の電界強度を測定し、電磁波の減衰量を次の(1)式で求める。
【0018】
【数1】

【0019】
(1)式における基準となる状態とは、金属板が重なった部分の電磁波の透過する方向に対する長さLは30mmであり、電磁波の透過部の幅が200mm(図1における電極を設置しない場合)であり、電磁波の透過部における金属板間の隙間(h0)が1mm(導電部に挟み込む金属板の厚さで調節)である。この基準となる状態における、電磁波の透過部の出口から出てきた電磁波の強度(電磁波の電界強度)を基準とする。
【0020】
図2は、本発明に用いる絶縁部を示す図である。図2(a)および(b)は、上面図および側面図をそれぞれ示す。絶縁部は、金属板に厚さh、長さ30mmの絶縁体を挟み込んで形成されている(金属板の厚さの合計はh0-hとなる)。絶縁体の厚さhならびに幅wを変化させて、絶縁部の形状を変えている。なお、絶縁体としては、固体の絶縁体(誘電体、樹脂、接着剤等)、気体、真空、気体あるいは真空と固体の絶縁体の混合物のいずれかを使用できる。以下では、絶縁体として紙を用いて、絶縁体の厚さh(紙の重ね合わせ枚数を調節)ならびに幅wを変化させている。
【0021】
図3は、h0を1mmとして絶縁体の厚さを変化させた場合の電磁波の減衰特性例を示す図である。筐体内部から電磁波の周波数fを1〜8GHzと変化させて電磁波を発信し、筐体外部に設置したアンテナを介して漏洩した電磁波を受信したものである。絶縁体の厚さhを0〜1mmと変化させて、前述の(1)式で求めた電磁波の減衰量をプロットしたものである。
【0022】
図中の破線で囲んだ部分は、減衰量−20dB、すなわち基準となる状態の電磁波の電界強度の1/10になることを示している。この減衰量を得るためには、電磁波の周波数fが小さくなるにしたがって、絶縁体の厚さhを薄くしなければならない(比例する)ことが分る。
【0023】
減衰量−20dB以上の減衰を得るための、絶縁体の厚さh(mm)と電磁波の周波数f(GHz)との関係を表したのが、次の(2)式である。
【0024】
【数2】

【0025】
すなわち、絶縁体の厚さhが(2)式で計算される値未満となった場合に、減衰量が小さく(−20dB)なり、電磁波の透過部での減衰が大きくなる。
【0026】
次に、絶縁体の厚さhを0.1mmと固定し、図2に示す絶縁体の幅wを変化させて図1の電極間距離wを変えた場合における電磁波の減衰について説明する。図4は、電極間距離を変えた場合の電磁波の減衰特性例(1−2GHz)を示す図である。図5は、電極間距離を変えた場合の電磁波の減衰特性例(4−8GHz)を示す図である。
【0027】
図3と同様に、図中の破線で囲んだ部分は、減衰量−20dB、すなわち基準となる状態の電磁波の電界強度の1/10になることを示している。この減衰量を得るためには、電磁波の周波数fが大きくなるにしたがって、電極間距離wを短くしなければならない(反比例する)ことが分る。
【0028】
減衰量−20dB以上の減衰を得るための、電極間距離w(mm)と電磁波の周波数f(GHz)との関係を表したのが、次の(3)式である。
【0029】
【数3】

【0030】
すなわち、電極間距離wが(3)式で計算される値未満となった場合に、減衰量が小さく(−20dB)なり、電磁波の透過部での減衰が大きくなる。
【0031】
以上説明を行ったように、本発明では、電磁波の周波数に対応した、絶縁体の厚さならびに絶縁体同士の距離を規定するようにしたので、これに基づいた筐体設計ならびに製作を行えば十分な電磁波漏洩の抑制効果を得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製筐体の金属板と金属板が重なった部分の金属板間に挟みこんだ絶縁体によって漏洩する電磁波を抑制する、電磁波漏洩の抑制方法であって、
前記電磁波の周波数をf(GHz)とした場合に、前記絶縁体の厚さh(mm)を次の(2)式を満足する厚さとすることを特徴とする電磁波漏洩の抑制方法。
【数2】

【請求項2】
請求項1に記載の電磁波漏洩の抑制方法において、
前記絶縁体同士の距離w(mm)を、電磁波の透過する方向に対して直角に、次の(3)式を満足する距離とすることを特徴とする電磁波漏洩の抑制方法。
【数3】


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−234996(P2012−234996A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−103363(P2011−103363)
【出願日】平成23年5月6日(2011.5.6)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】