説明

電磁波発生装置

【課題】 プラズマスイッチにて仮想陰極電子管を動作させるに必要な高電圧で且つ立ち上がりの速い電圧パルスを発生することができ、これによって高出力の電磁波を放射すること。
【解決手段】 コンデンサ群10から供給される電流をMC型爆薬発電機20で増幅し、この増幅電流を電気エネルギーとして第1の空芯トランス30に蓄積し、この電気エネルギーをプラズマスイッチ40を通過させることで高電圧パルスとし、この高電圧パルスを第2の空芯トランス50によって更に所定倍数増幅する。この高電圧パルスの電圧値が所定値になるとギャップスイッチ60が作動し、これにて高速な立ち上がりパルス電圧波形が仮想陰極電子管70へ印加される。ここで高出力の電磁波を発生してアンテナ80から放射する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁波パルスを発生させる電磁波発生装置に関り、特に、電磁波発振素子である仮想陰極電子管を高電圧パルスで駆動してGHzオーダーの周波数で高出力の電磁波を発生させ、各種分野での応用が可能な電磁波発生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の電磁波発生装置として例えば特許文献1に記載のものがあり、これを図14を参照して説明する。図14に示す電磁波発生装置300は、直流電圧を発生する直流電圧発生手段として作用するコンデンサ群10と、このコンデンサ群10から供給される電流を増幅するエネルギー増幅手段として作用するMC型爆薬発電機20と、このMC型爆薬発電機20と一次側が接続され、増幅した電流を電気エネルギーとして蓄積するエネルギー蓄積手段として作用する空芯トランス30と、この空芯トランス30の二次側と接続され、常時は閉状態で空芯トランス30による電気エネルギーの通過を可能とし、制御部90からの制御信号が電気雷管41に与えられると開状態となって高電圧パルスを発生させるスイッチング手段として作用するプラズマスイッチ40とを備える。
【0003】
更に、常時は開状態で高電圧パルスの電圧値が所定の値になると作動し、高速な立ち上がりパルス電圧波形を供給する波形整形手段として作用するギャップスイッチ60と、高速な立ち上がり波形をもつ高電圧パルスがアノード76とカソード77間に印加されると電磁波を発生する電磁波発生手段として作用するマグネトロン75と、このマグネトロン75に接続され電磁波放射手段として作用するアンテナ80と、コンデンサ群10とMC型爆薬発電機20との間に接続されたスイッチ11と、このスイッチ11、MC型爆薬発電機20に設けられた電気雷管21及びプラズマスイッチ40に設けられた電気雷管41へ起動信号又は制御信号を所定タイミングで供給する制御部90と、制御部90を起動するためのスイッチ91とを備えて構成されている。
【0004】
このような構成の電磁波発生装置300において、制御部90からの制御信号によってスイッチ11が閉状態とされると、MC型爆薬発電機20がインダクタンスを小さくしながらコンデンサ群10から発生される電流を増幅しながら、空芯トランス30及びプラズマスイッチ40へ通電する。そして、増幅を終えた時点でインダクタンスが零となり、電気エネルギーが空芯トランス30へ蓄積される。
【0005】
プラズマスイッチ40は、常時は閉状態で空芯トランス30による電気エネルギーの通過を可能とし、制御部90から制御信号が与えられると開状態となって、高電圧パルスを発生させるが、空芯トランス30でのインダクタンスの存在により、空芯トランス30からプラズマスイッチ40へのエネルギーの移行が正常に行われた場合、プラズマスイッチ40で発生する高電圧パルスは大きな値となる。
高電圧パルスの電圧値が所定の値になるとギャップスイッチ60が作動し、マグネトロン75に高速な立ち上がり電圧波形を持つ高電圧パルスを印加することが可能となり、アンテナ80から高周波、高出力の電磁波が放射される。
【0006】
また、高電圧パルスの値は、プラズマスイッチ40がスイッチングする時の回路のインダクタンス値及び電流の時間変化率の積に比例するが、空芯トランス30の一次漏れインダクタンス値を例えば0.5μHに、二次漏れインダクタンス値を例えば概ね5μHから10μHにしておくことにより、MC型爆薬発電機20の電流増幅作用を阻害することなく、空芯トランス30のエネルギー蓄積を可能とし、プラズマスイッチ40の作動時、上記のインダクタンス値及び電流の時間変化率の積が大きくなり、プラズマスイッチ40の発生パルス電圧の値を大きくすることができるようになっている。
【0007】
この高電圧パルスをマグネトロン75に印加することによってアンテナ80から高周波、高出力の電磁波が出力されるようになっている。
【特許文献1】特開2003−298352号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、上記特許文献1の電磁波発生装置300においては、プラズマスイッチ40で発生するパルス電圧の大きさが50〜60kVであり、この電圧は電磁波発生手段としてマグネトロン75を作動させるには十分である。しかし、マグネトロン75よりも更に大きな出力の仮想陰極電子管を作動させる場合は、200KV以上のパスル電圧が要求されており、上記の50〜60kVでは不十分であった。更に仮想陰極電子管でも、立ち上がりの速い電圧パルスの印加が要求されている。
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、プラズマスイッチにて仮想陰極電子管を動作させるに必要な高電圧で且つ立ち上がりの速い電圧パルスを発生することができ、これによって高出力の電磁波を放射することができる電磁波発生装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明の請求項1による電磁波発生装置は、直流電圧を発生する直流電圧発生手段と、前記直流電圧発生手段から供給される電流を増幅するエネルギー増幅手段と、前記エネルギー増幅手段で増幅された電流を電気エネルギーとして蓄積するエネルギー蓄積手段と、常時は閉状態で前記エネルギー蓄積手段に蓄積された電気エネルギーの通過を可能とし、制御信号の供給により開状態となって電圧パルスを発生させるスイッチング手段と、前記スイッチング手段から発生した電圧パルスを増幅して高電圧パルスとする電圧増幅手段と、前記電圧増幅手段からの高電圧パルスの電圧値が所定値になると当該高電圧パルスを高速に立ち上げ、この高速な立ち上がり波形の高電圧パルスを出力する波形整形手段と、前記波形整形手段からの高速な立ち上がり波形の高電圧パルスの印加によって電磁波を発生する高周波発生手段と、前記高周波発生手段で発生された電磁波を放射するアンテナと、前記制御信号を所定タイミングで出力する制御手段とを備えたことを特徴とする。
【0010】
この構成によれば、エネルギー増幅手段はインダクタンスを小さくしながら直流電圧発生手段から発生する電流を増幅し、これをエネルギー蓄積手段及びスイッチング手段へ通電し、先の増幅を終えた時点ではインダクタンスが零となり、電気エネルギーはエネルギー蓄積手段に蓄積される。更に、スイッチング手段は、常時は閉状態でエネルギー蓄積手段による電気エネルギーの通過を可能とし、制御手段から制御信号が与えられると開状態となって電圧パルスを発生させるが、エネルギー増幅手段でのインダクタンスの存在により、エネルギー蓄積手段からスイッチング手段へのエネルギーの移行が正常に行われ、スイッチング手段で発生する電圧パルスは大きな値となる。更に、電圧増幅手段は入力された電圧パルスを所定倍数、例えば3〜5倍の高電圧パルスに増幅する。この高電圧パルスの電圧値が所定の値になると波形整形手段が作動し、電磁波発生装置として作用する高周波発生手段に高速な立ち上がり電圧波形をもつ高電圧パルスを印加することが可能となり、高周波発生手段はマイクロ波を生成し、アンテナから高周波、高出力の電磁波が出力される。
【0011】
また、本発明の請求項2による電磁波発生装置は、直流電圧を発生する直流電圧発生手段と、前記直流電圧発生手段から供給される電流を増幅するエネルギー増幅手段と、前記エネルギー増幅手段で増幅された電流を電気エネルギーとして蓄積し、この蓄積された電気エネルギーが出力される際に当該電気エネルギーを増幅するエネルギー蓄積電圧増幅手段と、常時は閉状態で前記エネルギー蓄積電圧増幅手段に蓄積された電気エネルギーの通過を可能とし、制御信号の供給により開状態となって高電圧パルスを発生させるスイッチング手段と、前記電圧増幅手段からの高電圧パルスの電圧値が所定値になると当該高電圧パルスを高速に立ち上げ、この高速な立ち上がり波形の高電圧パルスを出力する波形整形手段と、前記波形整形手段からの高速な立ち上がり波形の高電圧パルスの印加によって電磁波を発生する高周波発生手段と、前記高周波発生手段で発生された電磁波を放射するアンテナと、前記制御信号を所定タイミングで出力する制御手段とを備えたことを特徴とする。
【0012】
この構成によれば、スイッチング手段が閉状態となってエネルギー蓄積電圧増幅手段に蓄積された電気エネルギーが出力される際に、所定倍数例えば3〜5倍に増幅されるので、スイッチング手段を介して波形整形手段へ高電圧パルスが出力されることになる。従って、その高電圧パルスの電圧値が所定の値になると波形整形手段が作動し、電磁波発生装置として作用する高周波発生手段に高速な立ち上がり電圧波形をもつ高電圧パルスを印加することが可能となり、高周波発生手段はマイクロ波を生成し、アンテナから高周波、高出力の電磁波が出力される。
【0013】
また、本発明の請求項3による電磁波発生装置は、請求項2において、前記エネルギー蓄積電圧増幅手段は、一次コイルと、直列接続された二次コイル及び三次コイルとを有する空芯トランスであり、前記一次コイルが前記エネルギー増幅手段と接続され、前記二次コイルに前記スイッチング手段が並列に接続され、前記二次コイル及び前記三次コイルに前記ギャップスイッチ及び前記高周波発生手段が直列に接続されていることを特徴とする。
この構成によれば、エネルギー蓄積手段及び電圧増幅手段の2つの構成要素を持つことに比べ、簡単な構成の空芯トランス1つのみでエネルギー蓄積と電圧増幅との双方の作用を実現することができるので、電磁波発生装置全体を小型にすることができる。
【発明の効果】
【0014】
以上説明したように本発明によれば、プラズマスイッチにて仮想陰極電子管を動作させるに必要な高電圧で且つ立ち上がりの速い電圧パルスを発生することができるという効果がある。その高電圧で且つ立ち上がりの速い電圧パルスの発生によって高出力の電磁波を放射することができるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照して説明する。
(第1の実施の形態)
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る電磁波発生装置の構成を示すブロック図である。
図1に示す電磁波発生装置100は、直流電圧を発生する直流電圧発生手段として作用するコンデンサ群10と、このコンデンサ群10から供給される電流を増幅するエネルギー増幅手段として作用するMC型爆薬発電機20と、このMC型爆薬発電機20と一次側が接続され、増幅した電流を電気エネルギーとして蓄積するエネルギー蓄積手段として作用する第1の空芯トランス30と、この空芯トランス30の二次側と接続され、常時は閉状態で空芯トランス30による電気エネルギーの通過を可能とし、制御部90からの制御信号が電気雷管41に与えられると開状態となって高電圧パルスを発生させるスイッチング手段として作用するプラズマスイッチ40と、このプラズマスイッチ40から発生した高電圧パルスを増幅する電圧増幅手段として作用する第2の空芯トランス50とを備える。
【0016】
更に、常時は開状態で第2の空芯トランス50からの高電圧パルスの電圧値が所定の値になると作動し、高速な立ち上がりパルス電圧波形を供給する波形整形手段として作用するギャップスイッチ60と、高速な立ち上がり波形をもつ高電圧パルスがアノード71とカソード72間に印加されると電磁波を発生する高周波発生手段として作用する仮想陰極電子管70と、この仮想陰極電子管70に接続され電磁波放射手段として作用するアンテナ80と、コンデンサ群10とMC型爆薬発電機20との間に接続されたスイッチ11と、このスイッチ11、MC型爆薬発電機20に設けられた電気雷管21及びプラズマスイッチ40に設けられた電気雷管41へ起動信号又は制御信号を所定タイミングで供給する制御部90と、制御部90を起動するためのスイッチ91とを備えて構成されている。
【0017】
コンデンサ群10は、図2(a)に示すように、複数の単体のコンデンサ101を直並列に接続することにより直流電圧発生手段として構成されている。更に説明すると、所望の電圧を得るためにコンデンサ101を必要数直列接続し、所望の電流を得るためにコンデンサ101を並列接続することができる。
なお、直流電圧発生手段としてはコンデンサ群10の他に、バッテリやMHD(電磁流体力学)発電機でも構成することができる。図3(b)に単体のバッテリ151を直並列に接続して構成したバッテリ群15の例を示す。
【0018】
MC型爆薬発電機20は、図3に示すように、内部に爆薬24を充填したライナ23と、このライナ23の外周に沿って構成されるコイル22とを有し、通常、コイル22とライナ23の間隔に絶縁ガスが封入された構成となっており、更に、爆薬24中に制御部90からの起動信号が与えられると起爆する電気雷管21が設けられている。なお、コイル22の一方の端子はコンデンサ群10に接続され、他方の端子は空芯トランス30に接続されている。
【0019】
そして、爆薬24中に設けた電気雷管21を起爆させて爆薬24を爆発させるとライナ23が順次拡張してコイル22を順次短絡するので、コイル22のインダクタンスが小さくなる。一方、コイル22中の磁束φは、{φ(磁束)=L(インダクタンス)×i(電流)=一定}から分かるように一定に保持されているので電流が急激に増幅される。
このように、起爆信号が与えられた電気雷管21が起爆して爆薬24を爆発し、ライナ23を順次拡張してコイル22を短絡していくので大きな電流増幅が行われる。
【0020】
空芯トランス30は、図4(a)〜(d)に示すように、外箱31、一次コイル32及び二次コイル34を備えて構成されている。図4(a)〜(c)は構成部品の模式図、(d)は組立時の側面図である。
一次コイル32は、MC型爆薬発電機20と直列に接続されており、MC型爆薬発電機20の電流を通電し、これを電気エネルギーとして蓄積する。一次コイル32の漏れインダクタンス値は、例えば周波数1kHzにおいて概ね0.5μHに設定すれば、MC型爆薬発電機20が作動し、その初期のインダクタンス値の例えば100μHが作動終了後0μHに変化しても、電流値は概ねインダクタンス値の比(100÷0.5)、つまり概ね200倍に増幅される。しかし、一次コイル32と二次コイル34の結合係数を概ね0.1とすれば、二次コイル34にはMC型爆薬発電機20の初期電流の20倍の電流が通電され、これが電気エネルギーとして蓄積されることになる。
【0021】
次に、プラズマスイッチ40について、図5を参照して説明する。但し、図5(a)はプラズマスイッチ40の構成を模式的に示し、(b)は(a)の断面図を示す。
プラズマスイッチ40は、円盤状で銅等の導電性材料で形成された電極44aと、この電極44aの外形より大きな円形状の中空部を有し、銅等の導電性材料で形成された円盤状の電極44bと、その中空部を塞ぐように設けられたアルミ箔等の金属薄膜45とを備え、これらの上下両側に爆薬43が備えられた状態で収納筺体42に収納されている。
【0022】
更に、爆薬43中には、起動信号が与えられると起爆する電気雷管41が設けられており、更に、電極44a,44bの各々に電線46a,46bが接続されている。これら電線46a,46bは、エネルギー蓄積手段として作用する空芯トランス30の二次コイル34と、電圧増幅手段として作用する第2の空芯トランス50の一次コイル54(図6参照)に並列に接続されている。
【0023】
ここで、空芯トランス30に蓄積された電流は、電線46a,46bを介して電極44aと44b間を流れるが、所定値以上の電流が流れると金属薄膜45が溶融し、これが導電性を有するプラズマとなった状態で、電流が電極44aと44b間を流れるようになる。この後、電気雷管41を起爆し、爆薬43を爆発させると、金属薄膜45の溶融によって生成されたプラズマが上下両側から急激に圧縮されるため、導電部分の堆積が急激に小さくなって急激に抵抗値が大きくなり、プラズマスイッチ40が電流を流さない状態となる。
【0024】
このように、爆薬43を用いて高速にスイッチング動作を行うことが可能となり、これにより蓄積されたエネルギーを高速にスイッチングして高電圧パルスを得ることが可能となる。
なお、プラズマスイッチ40の代わりに、オフスイッチとして機能するヒューズを用いてもよく、これによっても装置構成を簡素化できる。
【0025】
次に、第2の空芯トランス50について図6を参照して説明する。図6(a)〜(c)は第2の空芯トランス50の構成部品の模式図を示し、(d)は組立時の側面図を示す。
第2の空芯トランス50による電圧増幅手段は、外箱51内に一次コイル52及び二次コイル54を収納して構成され、一次コイル52がプラズマスイッチ40の電線46a,46bに接続され、二次コイル54がギャップスイッチ60及び仮想陰極電子管70のカソード72に接続されている。更に、一次コイル52と二次コイル54の巻き数比は概ね1:3〜1:5で構成する。ここで、トランスの基本原理より二次コイル54にはプラズマスイッチ40の高電圧パルスが3〜5倍×K(結合係数)に増幅される。Kの値を例えば0.5〜0.6にすればプラズマスイッチ40のパルス電圧は1.5〜3倍に増幅される。
【0026】
次に、ギャップスイッチ60について、図7を参照して説明する。図7(a)はギャップスイッチ60の一例の構成を模式的に示したものである。
ギャップスイッチ60は、銅等の導電性材料を球状に形成した2つの電極61a,61bを気中で狭いギャップを介して対向させ、各電極61a,61bに電線62a,62bを接続し、これら電極61a,61bと、当該電極61a,61bと平行に配置した電線62cとを、プラズマスイッチ40及び仮想陰極電子管70に接続して成る。
【0027】
このようなギャップスイッチ60の動作を、図7(b)及び(c)を参照して説明する。(b)の縦軸はプラズマスイッチ40が作動を開始した後の第2の空芯トランス50の二次コイル54の出力電圧を示し、横軸は時間を示す。(c)の縦軸はギャップスイッチ60の出力電圧を示し、横軸は時間を示す。
プラズマスイッチ40が(a)に示す時刻t1で作動後、第2の空芯トランス50の二次コイル54の電圧がギャップスイッチ60の電極61aと61bとの間隔によって決まる所定の電圧値に達したとき、(b)に示す時刻t2でギャップスイッチ60が作動し、(b)に示すような立ち上がり速度の速いパルス電圧を仮想陰極電子管70へ供給する。つまり、ギャップスイッチ60は波形整形手段として作用する。
【0028】
次に、仮想陰極電子管70について、図8を参照して説明する。図8(a)に示すように、仮想陰極電子管70は、金属製の真空容器内にアノード71及びカソード72を対向させて構成される。アノード71は金属メッシュ、カソード72は円筒金属の先端にベルベットを貼って構成される。図8(b)に示すように、仮想陰極電子管70は、アノード71とカソード72の間に概ね200kV以上のパルス電圧VPが印加されるとカソード72からプラズマが放射され、プラズマ中の電子は負の高電圧パルスで加速され、アノード71へ向かう。アノード71へ向かった電子はアノード71を越えて、実在しない仮想陰極73まで到達し、この位置から方向を変え非常に速い速度で振動する。この電子の振動が電磁波としてアンテナ80へ出力される。
【0029】
アンテナ80は、仮想陰極電子管70から出力される電磁波を放射するためのものであり、例えば、パラボラ型、角錐ホーン型、円錐ホーン型、レンズ付円錐ホーン型等のアンテナで実現可能である。仮想陰極電子管70とアンテナ80との接続のために、導波管やコーナベント等の高周波デバイスを必要に応じて用いるようにすればよい。
制御部90は、後に説明する制御動作を行うものであって、例えば、動作プログラムを内蔵したROMと、動作プログラムにしたがって所望の信号を出力するCPUを有して実現可能である。
【0030】
また、電気雷管21,41としては、鉱工業用6号電気雷管、時間精度が高い地震探索用電気雷管、ガス導管起爆システム、ノネルシステム(両システムは、非電式起爆システムで周囲の電流による誤動作が防止され、高信頼性を有する)等を用いればよい。また、爆薬としては、ダイナマイト、含水爆薬、硝安爆薬、硝安油剤爆薬等の爆薬や、PETN、RDX、HMT、TNT等の単一品または2種以上の混合品、又は、これらに、油脂系・シリコン系のバインダ、硝酸塩・塩素酸等の酸化剤を加えたものを用いればよい。
【0031】
このような構成の第1の実施の形態による電磁波発生装置100の動作を、図9及び図10を参照して説明する。
但し、コンデンサ群10として45μFのコンデンサを6個並列に接続し、電圧7.5KVで充電したものを用いる。MC型爆薬発電機20として、全長1000mm、直径200mm、コイル径160mm、コイルピッチ8mm、コイル巻数63、コイル初期インダクタンス100μHのものを用いる。空芯トランス30として、一次コイル1ターン、二次コイル4ターン、一次漏れインダクタンス0.5μH、二次漏れインダクタンス4μHのものを用いる。プラズマスイッチ40として、直径240mm、厚さ34mm、電極間隔60mm、金属箔として銅箔、厚さ50μmのものを用い、第2の空芯トランス50として、一次コイル1ターン、二次コイル5ターンのものを用い、ギャップスイッチ60として、空気中に径10mmの球ギャップを対向させ、ギャップ間隔を8mmとし、作動電圧200kV、パルス立ち上がりを100nsとしてものを用いる。仮想陰極電子管70として周波数10GHz、出力200MW、パルス電圧200KVのものを用い、アンテナ80として角錐ホーンアンテナ、ゲイン20dBのものを用いた。
【0032】
図9(a)は、制御部90による制御信号や起動信号の供給タイミングを示し、この(a)に示すように、まず、スイッチ91を操作すると制御部90は、スイッチ11に起動信号を供給する。これによってコンデンサ群10から電流がMC型爆薬発電機20に供給される。例えば概ね100μs後、制御部90が電気雷管21に起動信号を供給すると起爆する。
【0033】
これによって電流が、コンデンサ群10、MC型爆薬発電機20、空芯トランス30、プラズマスイッチ40の線路(線路Iと称す)を増幅されながら流れ、この際、「(1/2)×L×i×i」(但し、Lは空芯トランス30の2次側から見たインダクタンス、iは電流)なる電気エネルギーが空芯トランス30の二次コイル34に蓄積される。
また、電気雷管21を起爆してから例えば30μsを経過すると、制御部90は電気雷管41に起動信号を供給する。これによって、電気雷管41が起爆するので、プラズマスイッチ40が閉状態から高抵抗状態(開状態)となり、プラズマスイッチ40に電流が流れなくなって、上記の経路Iに流れる電流が図9(b)の符号Bで示すように急峻な立下り波形となる。
【0034】
このときのプラズマスイッチ40のスイッチング時間(閉状態から開状態となる時間)をdtとすると、図9(c)に示す「−L×(di/dt)」なる高電圧V1が第2の空芯トランス50の一次コイル52に印加される。
更に、図9(d)に示すように第2の空芯トランス50の二次コイル54には「−V×(m/n)×K」倍のパルス電圧V3が現れる。ここで、mは二次コイル54の巻回数、nは一次コイル52の巻回数、Kは空芯トランスの結合係数である。
【0035】
そのパルス電圧V2〜V3がギャップスイッチ60の一次側に印加され、これに応じてギャップスイッチ60の二次側から図9(e)に示すパルス電圧V4〜V5が出力される。つまり、ギャップスイッチ60に印加されたパルス電圧がギャップ間隔で決まる所定の電圧値に到達したとき、ギャップ間で放電が発生し、ギャップスイッチ60の二次側に立ち上がり時間(V4〜V5に立ち上がる時間)の速い高電圧パルスが発生する。
【0036】
この立ち上がりの速い高電圧パルスが仮想陰極電子管70のアノード71とカソード72間に印加されると、電磁波が発振され、この電磁波がアンテナ80から放射される。
この電磁波放射までの電磁波発生装置100における主要部の出力波形を図10(a)〜(g)に示す。(a)はコンデンサ群10の出力電流、(b)はMC型爆薬発電機20の出力電流、(c)は空芯トランス30の出力電流、(d)はプラズマスイッチ40の出力電圧、(e)は第2の空芯トランス50の出力電圧、(f)はギャップスイッチ60の出力電圧、(g)は仮想陰極電子管70の出力電力の波形である。
【0037】
このように第1の実施の形態の電磁波発生装置100によれば、印加パルス電圧の立ち上がりが速く且つ発振条件下限電圧が高い仮想陰極電子管70であっても、高出力で高周波数(GHzオーダー)の電磁波を発振してアンテナ80から放射することができる。
この効果を、図11に従来例との比較で示した。即ち、図11(a)は従来例によるギャップスイッチ60の出力電圧の波形であり、パルス電圧のピーク値が60kVにとどまっている。図11(b)が本実施の形態によるギャップスイッチ60の出力電圧の波形であり、パルス電圧のピーク値が従来の約4倍の250kVとなっている。この250kVのパルス電圧を印加することによって仮想陰極電子管70は発振し、アンテナ80から周波数約10〜15GHz、電力200MW、アンテナ80から1mの地点において電界強度34kV/cmの電界強度を得た。
【0038】
(第2の実施の形態)
図12は、本発明の第2の実施の形態に係る電磁波発生装置の構成を示すブロック図である。
図12に示す電磁波発生装置200が上記第1の実施の形態の電磁波発生装置100と異なる点は、第2の空芯トランス50が無く、第1の空芯トランス30に代え、エネルギー増幅手段並びに電圧増幅手段として作用する空芯トランス210を接続したことにある。
【0039】
空芯トランス210について図13を参照して説明する。図13(a)〜(d)は空芯トランス210の構成部品の模式図であり、図13(e)は組立時の側面図である。空芯トランス210は、外箱211内に一次コイル212、二次コイル214及び三次コイル216を収納して構成され、例えば、一次コイル212は1巻きで漏れインダクタンスが概ね0.5μH、二次コイル214は漏れインダクタンスが概ね5〜10μH、三次コイル216は二次コイル214対(二次コイル214+三次コイル216)の巻回数比が3〜5倍のコイルを有し、二次コイル214と三次コイル216は直列接続されて構成されている。
【0040】
一次コイル212にプラズマスイッチ40が接続され、互いに直列接続された二次コイル214及び三次コイル216にギャップスイッチ60及び仮想陰極電子管70が直列に接続されている。
また、一次コイル212の漏れインダクタンスが概ね0.5μH、二次コイル214のインダクタンスが概ね5〜10μHであるため、MC型爆薬発電機20のエネルギーが二次コイル214及び三次コイル216に蓄積される。
【0041】
プラズマスイッチ40は二次コイル214に接続されているので、この状態でプラズマスイッチ40が作動すると、二次コイル214には高電圧パルスが発生する。
二次コイル214と三次コイル216は、二次コイル214と(二次コイル214+三次コイル216)との巻き数比が概ね1:3〜1:5のため、三次コイル216の電圧が二次コイル214の電圧の3〜5倍×Kに増幅される。Kは結合係数である。Kの値を例えば0.5〜0.6にすればプラズマスイッチ40のパルス電圧が1.5〜3倍に増幅される。
【0042】
このような空芯トランス210の一次コイル212を1ターン、二次コイル214を4ターン、三次コイル216を16ターンにしたところ、上記第1の実施の形態とほぼ同じギャップスイッチ60の出力電圧を得ることができた。また、他の構成要素部においても、図10に示したと同様な波形を得ることができた。
このように第2の実施の形態の電磁波発生装置200によれば、空芯トランス210が一次コイル212、二次コイル214及び三次コイル216を有しており、一次コイル212と二次コイル214がエネルギー蓄積用の空芯トランスとして作用する。例えば一次コイル212の漏れインダクタンスを概ね0.5μHと小さくすれば、MC型爆薬発電機20の電流増幅を妨害しない。例えば二次コイル214の漏れインダクタンスを5μH〜10μHとすれば、MC型爆薬発電機20のエネルギーを蓄積することが可能である。また、二次コイル214と三次コイル216は電圧増幅作用を有し、プラズマスイッチ40のパルス電圧を3〜5倍に増幅することができる。
【0043】
このように、エネルギー蓄積手段として作用する空芯トランスと、電圧増幅手段として作用する空芯トランスとを一体化したので、その分、電磁波発生装置200全体を小型化することができる。
なお、以上の電磁波発生装置100,200の応用例としては、それらの装置100,200を各種電子機器の耐電磁波ノイズ性の評価用に用いることが考えられる。具体的には、アンテナ80から放射される電磁波を評価対象機器に照射し、その破損状態を評価することによって各種の電子機器の耐ノイズ性を評価することが可能となる。
【0044】
また、電磁波発生装置100,200から放射される電磁波を、受信基地側のアンテナで検出して、電磁波を放射した装置の存在位置を把握可能とするシステムに用いることも可能である。このような使用様態によれば、海洋上、山間地等の遠隔地における、自身の存在位置を通知することが可能となる。
このように、電磁波発生装置100,200の応用には様々なものが考えられ、ここに記載した応用例はその数例に過ぎないことは言うまでもない。上記のように爆薬を用いた構成にすれば、小型な装置構成であっても高出力の電磁波を出力可能な装置を実現することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る電磁波発生装置の構成を示すブロック図である。
【図2】(a)コンデンサ群と(b)バッテリ群の構成図である。
【図3】MC型爆薬発電機の構成図である。
【図4】エネルギー蓄積手段としての第1の空芯トランスの構成図である。
【図5】プラズマスイッチの構成図である。
【図6】電圧増幅手段としての空芯トランスの構成図である。
【図7】(a)ギャップスイッチの構成図、(b)プラズマスイッチ作動開始後の第2の空芯トランスの二次コイルの出力電圧の波形図、(c)ギャップスイッチの出力電圧の波形図である。
【図8】(a)仮想陰極電子管の構成図、(b)仮想陰極電子管の動作原理説明図である。
【図9】(a)制御部の制御信号又は起動信号の供給タイミング図、(b)コンデンサ群、MC型爆薬発電機、空芯トランス、プラズマスイッチの線路に流れる電流の波形図、(c)第2の空芯トランスの一次コイルへの印加パルス電圧の波形図、(d)第2の空芯トランスの二次コイルからの出力パルス電圧の波形図、(e)ギャップスイッチの二次側からの出力パルス電圧の波形図である。
【図10】第1又は第2の実施の形態に係る電磁波発生装置の主要構成部の出力波形図である。
【図11】(a)従来例の電磁波発生装置のギャップスイッチの出力電圧の波形図、(b)第1又は第2の実施の形態に係る電磁波発生装置のギャップスイッチの出力電圧の波形図である。
【図12】本発明の第2の実施の形態に係る電磁波発生装置の構成を示すブロック図である。
【図13】エネルギー蓄積手段及び電圧増幅手段の双方としての空芯トランスの構成図である。
【図14】従来の電磁波発生装置の構成を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0046】
10 コンデンサ群
11,91 スイッチ
15 バッテリ群
20 MC型爆薬発電機
21,41 電気雷管
22 コイル
23 ライナ
24,43 爆薬
30 第1の空芯トランス
31,51,211 外箱
32,52,212 一次コイル
33,53,213 一次コイル端子
34,54,214 二次コイル
35,55,215 二次コイル端子
40 プラズマスイッチ
42 収納筐体
44a,44b 電極
45 金属薄膜
46a,46b 電線
50 第2の空芯トランス
60 ギャップスイッチ
61a 電極
61b 電極
62a 電線
62b 電線
62c 電線
63 収納筺体
70 仮想陰極電子管
71 アノード
72 カソード
73 仮想陰極
75 マグネトロン
76 アノード
77 カソード
80 アンテナ
90 制御部
100,200,300 電磁波発生装置
151 バッテリ
216 三次コイル
217 三次コイル端子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電圧を発生する直流電圧発生手段と、
前記直流電圧発生手段から供給される電流を増幅するエネルギー増幅手段と、
前記エネルギー増幅手段で増幅された電流を電気エネルギーとして蓄積するエネルギー蓄積手段と、
常時は閉状態で前記エネルギー蓄積手段に蓄積された電気エネルギーの通過を可能とし、制御信号の供給により開状態となって電圧パルスを発生させるスイッチング手段と、
前記スイッチング手段から発生した電圧パルスを増幅して高電圧パルスとする電圧増幅手段と、
前記電圧増幅手段からの高電圧パルスの電圧値が所定値になると当該高電圧パルスを高速に立ち上げ、この高速な立ち上がり波形の高電圧パルスを出力する波形整形手段と、
前記波形整形手段からの高速な立ち上がり波形の高電圧パルスの印加によって電磁波を発生する高周波発生手段と、
前記高周波発生手段で発生された電磁波を放射するアンテナと、
前記制御信号を所定タイミングで出力する制御手段と
を備えたことを特徴とする電磁波発生装置。
【請求項2】
直流電圧を発生する直流電圧発生手段と、
前記直流電圧発生手段から供給される電流を増幅するエネルギー増幅手段と、
前記エネルギー増幅手段で増幅された電流を電気エネルギーとして蓄積し、この蓄積された電気エネルギーが出力される際に当該電気エネルギーを増幅するエネルギー蓄積電圧増幅手段と、
常時は閉状態で前記エネルギー蓄積電圧増幅手段に蓄積された電気エネルギーの通過を可能とし、制御信号の供給により開状態となって高電圧パルスを発生させるスイッチング手段と、
前記電圧増幅手段からの高電圧パルスの電圧値が所定値になると当該高電圧パルスを高速に立ち上げ、この高速な立ち上がり波形の高電圧パルスを出力する波形整形手段と、
前記波形整形手段からの高速な立ち上がり波形の高電圧パルスの印加によって電磁波を発生する高周波発生手段と、
前記高周波発生手段で発生された電磁波を放射するアンテナと、
前記制御信号を所定タイミングで出力する制御手段と
を備えたことを特徴とする電磁波発生装置。
【請求項3】
前記エネルギー蓄積電圧増幅手段は、一次コイルと、直列接続された二次コイル及び三次コイルとを有する空芯トランスであり、前記一次コイルが前記エネルギー増幅手段と接続され、前記二次コイルに前記スイッチング手段が並列に接続され、前記二次コイル及び前記三次コイルに前記ギャップスイッチ及び前記高周波発生手段が直列に接続されている
ことを特徴とする請求項2に記載の電磁波発生装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate


【公開番号】特開2006−332899(P2006−332899A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−151401(P2005−151401)
【出願日】平成17年5月24日(2005.5.24)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【出願人】(598033929)株式会社栗田製作所 (12)