説明

電磁波遮蔽筐体およびその製造方法

【課題】分解しにくく、電磁波を遮蔽可能な電磁波遮蔽筐体およびその製造方法を提供することを課題とする。
【解決手段】電磁波遮蔽筐体1は、金属製であって開口部22を有する有底筒状のケース2と、金属製であって開口部22を覆うカバー3と、ケース2およびカバー3のうち一方に配置される係合凸部40と、ケース2およびカバー3のうち他方に配置される被係合凹部41と、を有し、係合凸部40と被係合凹部41とが係合することにより、ケース2とカバー3とを固定するスナップフィット機構4と、ケース2とカバー3とを接着する接着部5と、を備える。係合凸部40と被係合凹部41とは、係合時に発生する永久歪みを残したまま、係合している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば電子部品実装済みの回路基板などが収容される電磁波遮蔽筐体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、下部ケースと上部ケースとを備える電子装置が開示されている。上部ケースの側壁には係合孔が開設されている。一方、下部ケースの側壁には係合突起が形成されている。係合突起が係合孔に係合することにより、下部ケースと上部ケースとが固定される。下部ケースの側壁の上縁からは、複数の付勢力発生部が突設されている。下部ケースと上部ケースとが固定される際、付勢力発生部は、上部ケースの上底壁の下面に弾接する。付勢力発生部の付勢力は、下部ケースと上部ケースとを離間させる方向に作用する。当該付勢力は、係合突起の下端を係合孔の下縁に押し付けている。そして、下部ケースと上部ケースとのがたつきを抑制している。
【0003】
また、下部ケースおよび上部ケースは、共にSUS304製である。このため、下部ケースおよび上部ケースにより、磁気的シールドが形成される。したがって、電子装置内部の実装基板を磁気から保護することができる。例えば、フラッシュメモリの情報が意図せず消去されるのを抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−258042号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の電子装置の場合、係合突起と係合孔との爪嵌合を利用した、いわゆるスナップフィット機構だけで、下部ケースと上部ケースとを固定している。スナップフィット機構を用いて下部ケースと上部ケースとを固定する場合、係合突起は、係合孔の孔縁をくぐって(あるいは乗り上げて)、係合孔の内部に突出する必要がある。この際、係合孔および係合突起のうち少なくとも一方は、弾性変形する必要がある。
【0006】
ここで、仮に、下部ケースおよび上部ケースが樹脂製の場合、係合孔、係合突起は弾性変形しやすい。このため、係合突起を係合孔にしっかりと係合させることができる。しかしながら、特許文献1に記載の電子装置の下部ケースおよび上部ケースは、いずれもSUS304製である。このため、下部ケースおよび上部ケースは、弾性変形しにくく、塑性変形しやすい。したがって、係合時に永久歪みが残りやすく、係合突起を係合孔にしっかりと係合させることが困難である。よって、特許文献1に記載の電子装置は、分解しやすい。
【0007】
なお、特許文献1には、下部ケースおよび上部ケースの塑性変形、永久歪みに関する記載はない。一方、特許文献1の段落[0020]には、付勢力発生部が曲折した状態、つまり弾性変形した状態になるため、元の形状に戻ろうとする付勢力が発生する旨記載されている。
【0008】
これは、下部ケースおよび上部ケースの板厚を極力薄くして、かつSUS304という材質を選択することによって、付勢力発生部を弾性変形させようとしていると考えられるが、この場合には下部ケースおよび上部ケースの工作精度を相当高くしなければならず、そうすると製造コストが非常に高くなってしまう。
【0009】
本発明の電磁波遮蔽筐体およびその製造方法は、上記課題に鑑みて完成されたものである。本発明は、分解しにくく、電磁波を遮蔽可能な電磁波遮蔽筐体およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)上記課題を解決するため、本発明の電磁波遮蔽筐体は、金属製であって開口部を有する有底筒状のケースと、金属製であって該開口部を覆うカバーと、該ケースおよび該カバーのうち一方に配置される係合凸部と、該ケースおよび該カバーのうち他方に配置される被係合凹部と、を有し、該係合凸部と該被係合凹部とが係合することにより、該ケースと該カバーとを固定するスナップフィット機構と、を備え、内部に電子部品が収容される電磁波遮蔽筐体であって、さらに、前記ケースと前記カバーとを接着する接着部を備え、前記係合凸部と前記被係合凹部とは、係合時に発生する永久歪みを残したまま、係合していることを特徴とする。ここで、「被係合凹部」には、有底の凹部は勿論、無底の孔も含まれる。
【0011】
本発明の電磁波遮蔽筐体は、金属製のケースおよびカバーを備えている。金属は導体である。このため、電界を遮蔽する電界シールド、および電磁波の磁気による渦電流が導体に流れることにより電界と磁界とを遮蔽する電磁シールドのうち、少なくとも一方により、筐体内部の電子部品を保護することができる。また、ケースおよびカバーが磁性体製の場合は、磁界を遮蔽する磁界シールドにより、筐体内部の電子部品を保護することができる。
【0012】
また、金属製のケースおよびカバーは、樹脂製のケースおよびカバーよりも、寸法精度が高い。すなわち、ケースおよびカバーを樹脂製にすると、成形時に「引け」や「反り」などの成形不良が発生しやすい。これに対して、ケースおよびカバーを金属製にすると、成形時に「引け」や「反り」などの成形不良が発生しにくい。このように、金属製のケースおよびカバーは、樹脂製のケースおよびカバーよりも、寸法精度が高い。また、金属製のケースおよびカバーは、樹脂製のケースおよびカバーよりも、強度が高い。
【0013】
また、本発明の電磁波遮蔽筐体は、係合凸部と被係合凹部との係合時の塑性変形により永久歪みが残留することを、許容している。永久歪みは、例えば、係合凸部、係合凸部周囲、被係合凹部、被係合凹部周囲などに残留しやすい。永久歪みが残留すると、係合凸部と被係合凹部とをしっかりと係合させることが困難である。よって、ケースとカバーとが分解しやすい。
【0014】
しかしながら、本発明の電磁波遮蔽筐体は、スナップフィット機構のみならず、接着部を備えている。このため、ケースとカバーとをしっかりと固定することができる。つまり、ケースとカバーとが分解しにくい。また、ケースとカバーとが接着部により接着されるまでの間、スナップフィット機構により、ケースとカバーとを仮組立しておくことができる。このため、ケースとカバーとの固定位置がずれにくい。
【0015】
(2)好ましくは、上記(1)の構成において、前記係合凸部は、前記ケースの側壁に配置され、前記被係合凹部は、前記カバーの側壁に配置され、該ケースの側壁における該係合凸部の周囲、および該カバーの側壁における該被係合凹部の周囲のうち、少なくとも一方には、スリットが配置される構成とする方がよい。
【0016】
本構成によると、係合凸部と被係合凹部との係合時に、スリットを介して隣り合う隣接部分同士の間において、荷重が伝わりにくい。このため、一方の隣接部分が変形する際、他方の隣接部分が当該変形を拘束しにくい。したがって、弾性変形しにくい金属製のケース、カバーであるにもかかわらず、簡単に係合凸部と被係合凹部とを係合することができる。
【0017】
また、本構成によると、係合凸部と被係合凹部との係合時に、スリットの長手方向根本周囲に応力が集中しやすい。このため、スリットの長手方向根本周囲が局所的に変形しやすい。この点においても、簡単に係合凸部と被係合凹部とを係合することができる。
【0018】
(3)好ましくは、上記(1)または(2)の構成において、前記係合凸部は、前記ケースの側壁に配置され、前記被係合凹部は、前記カバーの側壁に配置され、該ケースの側壁における該係合凸部を含むその周囲、および該カバーの側壁における該被係合凹部を含むその周囲のうち、少なくとも一方の肉厚は、該ケースの側壁の該周囲以外の部分の肉厚、または該カバーの側壁の該周囲以外の部分の肉厚よりも、薄肉に形成されている構成とする方がよい。
【0019】
本構成によると、以下の(A)、(B)のうち、少なくとも一方が確保されている。
(A)ケースの側壁における係合凸部を含むその周囲の肉厚が、ケースの側壁の当該周囲以外の部分の肉厚よりも、薄肉に形成されている。
(B)カバーの側壁における被係合凹部を含むその周囲の肉厚が、カバーの側壁の当該周囲以外の部分の肉厚よりも、薄肉に形成されている。
【0020】
(A)の場合、係合凸部を含むその周囲の肉厚を、塑性変形可能な程度に薄くすることができる。(B)の場合、被係合凹部を含むその周囲の肉厚を、塑性変形可能な程度に薄くすることができる。
【0021】
本構成によると、薄肉部分((A)の場合、係合凸部を含むその周囲。(B)の場合、被係合凹部を含むその周囲。)に応力が集中しやすい。このため、当該薄肉部分が局所的に変形しやすい。したがって、上記のスリットを設けた構成と同様の効果を得ることができる。
【0022】
もちろん、上記スリットおよび薄肉部分は、ケース側とカバー側とで適宜組み合わせて設けてもよい。
【0023】
(4)上記課題を解決するため、本発明の電磁波遮蔽筐体の製造方法は、上記(1)ないし(3)のいずれかの構成の電磁波遮蔽筐体の製造方法であって、前記ケースと前記カバーと前記スナップフィット機構とを準備する部品準備工程と、前記接着部を該ケースと該カバーとの間に介装した状態で、該スナップフィット機構により、該ケースと該カバーとを固定する仮組立工程と、該接着部により、該ケースと該カバーとを接着する接着工程と、を有することを特徴とする。
【0024】
本発明の電磁波遮蔽筐体の製造方法の仮組立工程によると、スナップフィット機構により、ケースとカバーとを非接着状態で固定することができる。また、接着工程によると、接着部により、ケースとカバーとを接着状態で固定する、つまり接着することができる。
【0025】
このように、本発明の電磁波遮蔽筐体の製造方法は、ケースとカバーとをスナップフィット機構で仮固定しておき(仮組立工程)、この状態で接着部を形成することにより(接着工程)、ケースとカバーとを組み立てるものである。本発明の電磁波遮蔽筐体の製造方法の仮組立工程によると、ケースとカバーとの固定位置がずれにくい。また、本発明の電磁波遮蔽筐体の製造方法の接着工程によると、ケースとカバーとをしっかりと固定することができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によると、分解しにくく、電磁波を遮蔽可能な電磁波遮蔽筐体およびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】第一実施形態の電磁波遮蔽筐体の斜視図である。
【図2】同電磁波遮蔽筐体の分解斜視図である。
【図3】図1のIII−III方向断面図である。
【図4】図3の枠IV内の拡大図である。
【図5】同電磁波遮蔽筐体の製造方法の仮組立工程前段におけるスナップフィット機構付近の断面図である。
【図6】同仮組立工程後段におけるスナップフィット機構付近の断面図である。
【図7】第二実施形態の電磁波遮蔽筐体のスナップフィット機構付近の断面図である。
【図8】スナップフィット機構のバリエーションを示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の電磁波遮蔽筐体およびその製造方法の実施の形態について説明する。
【0029】
<第一実施形態>
[電磁波遮蔽筐体の構成]
まず、本実施形態の電磁波遮蔽筐体の構成について説明する。図1に、本実施形態の電磁波遮蔽筐体の斜視図を示す。図2に、同電磁波遮蔽筐体の分解斜視図を示す。図3に、図1のIII−III方向断面図を示す。図4に、図3の枠IV内の拡大図を示す。なお、図4においては、スリット35を一点鎖線で示す。
【0030】
図1〜図4に示すように、電磁波遮蔽筐体1は、ケース2と、カバー3と、スナップフィット機構4と、接着部5と、を備えている。
【0031】
ケース2は、アルミニウム合金製であって、上方に開口する有底筒状を呈している。ケース2は、一体物である。ケース2は、底壁部20と、4枚の側壁部21と、開口部22と、溝部23と、を備えている。底壁部20は長方形板状を呈している。4枚の側壁部21は、底壁部20の四縁から、上方に突設されている。開口部22は、4枚の側壁部21の上縁に配置されている。開口部22は、長方形枠状を呈している。溝部23は、開口部22に凹設されている。溝部23は、開口部22に沿って、長方形環状に配置されている。ケース2の内部には、電子部品が実装された回路基板90が配置されている。
【0032】
カバー3は、アルミニウム合金製であって、下方に開口する有底筒状を呈している。カバー3は、一体物である。カバー3は、ケース2を上方および水平方向外側から覆っている。
【0033】
カバー3は、上底壁部30と、4枚の側壁部31と、開口部32と、リブ33と、ガイド部34と、合計8個のスリット35と、を備えている。上底壁部30は長方形板状を呈している。上底壁部30は、ケース2の底壁部20と上下方向に対向している。4枚の側壁部31は、上底壁部30の四縁から、下方に突設されている。4枚の側壁部31は、ケース2の4枚の側壁部21の水平方向外側に配置されている。開口部32は、4枚の側壁部31の下縁に配置されている。開口部32は、長方形枠状を呈している。リブ33は、上底壁部30の下面から突設されている。リブ33は、上底壁部30の外縁に沿って、長方形環状に配置されている。リブ33は、ケース2の溝部23に収容されている。ガイド部34は、開口部32の水平方向内側に配置されている。ガイド部34は、開口部32に沿って、長方形環状に配置されている。ガイド部34は、下方から上方に向かう際に水平方向内側に傾く、斜面状を呈している。合計8個のスリット35は、4個ずつ、前後2枚の側壁部31に配置されている。スリット35は、側壁部31の下端(つまり開口部32)に開口している。スリット35は、上下方向に延在している。前方の側壁部31には、左右一対のスリット35に仕切られて、変形部310が配置されている。変形部310は、左右方向に離間して、2つ配置されている。同様に、後方の側壁部31にも、2つの変形部310が2つ配置されている。
【0034】
接着部5は、エポキシ系、アクリル系などの接着剤が硬化したものである。接着部5は、ケース2の溝部23と、カバー3のリブ33と、の間に介装されている。接着部5により、ケース2(開口部22)とカバー3(上底壁部30)とは接着されている。また、接着部5は、ケース2とカバー3との間に隙間が発生するのを抑制している。
【0035】
スナップフィット機構4は、合計4個の係合凸部40と、合計4個の被係合孔41と、を備えている。被係合孔41は、本発明の「被係合凹部」の概念に含まれる。合計4個の被係合孔41は、2個ずつ、カバー3の前後2枚の側壁部31に配置されている。具体的には、被係合孔41は変形部310に配置されている。被係合孔41は、変形部310を水平方向に貫通している。被係合孔41の孔軸直方向断面は、長方形状を呈している。
【0036】
合計4個の係合凸部40は、2個ずつ、ケース2の前後2枚の側壁部21の外面から突設されている。係合凸部40は、被係合孔41に、水平方向内側から挿入されている。係合凸部40と被係合孔41とは、上下方向に係合している。
【0037】
[電磁波遮蔽筐体の製造方法]
次に、本実施形態の電磁波遮蔽筐体の製造方法について説明する。本実施形態の電磁波遮蔽筐体の製造方法は、部品準備工程と、仮組立工程と、接着工程と、を有している。
【0038】
部品準備工程においては、まず、ケース2と、カバー3と、をダイカスト鋳造により、作製する。また、カバー3に、被係合孔41を穿設する。また、ケース2に、係合凸部40を形成する。これら被係合孔41および係合凸部40は、ケース2およびカバー3をダイカスト鋳造により形成した後に切削等の加工によって形成するが、当初からダイカスト鋳造によってこれら被係合孔41および係合凸部40を形成することもできる。次に、ケース2の溝部23に液体状の接着剤を充填する。なお、接着部5は、当該接着剤が硬化したものである。
【0039】
図5に、本実施形態の電磁波遮蔽筐体の製造方法の仮組立工程前段におけるスナップフィット機構付近の断面図を示す。図6に、同仮組立工程後段におけるスナップフィット機構付近の断面図を示す。なお、図5、図6は、図4に対応している。
【0040】
仮組立工程においては、まず、ケース2の内部に回路基板90を装着する。次に、図5に示すように、ケース2の開口部22を覆うように、カバー3をケース2に相対的に近づける。カバー3の開口部32がケース2の開口部22に近接する際、ガイド部34が開口部22の外縁に摺接する。このため、カバー3の開口部32がケース2の開口部22に突き当たることなく、カバー3はケース2の水平方向外側に案内される。続いて、カバー3の側壁部31の内面は、ケース2の側壁部21の外面に、摺動する。そして、ガイド部34が係合凸部40に差し掛かる。図6に示すように、ガイド部34が係合凸部40の上端部に当接すると、ガイド部34、つまり変形部310には、水平方向外側(図6では前方)の荷重が作用する。
【0041】
ここで、図1、図2に示すように、変形部310の左右両側には、一対のスリット35が配置されている。すなわち、変形部310と、側壁部31における変形部310に隣接する部分と、の間はスリット35により遮断されている。このため、変形部310の変形は、側壁部31における変形部310に隣接する部分に、何等拘束されない。
【0042】
したがって、変形部310は、図6に白抜き矢印で示すように、スリット35の長手方向根本周囲を中心に、前方に揺動する。当該揺動により、変形部310のうち被係合孔41よりも下の部分は、係合凸部40を相対的に乗り越える。ここで、変形部310には、前方への揺動により、後方に復動する弾性力が蓄積されている。このため、当該弾性力により、被係合孔41が係合凸部40に差し掛かると、変形部310はスリット35の長手方向根本周囲を中心に、後方に揺動する。当該揺動により、被係合孔41に係合凸部40が相対的に係合する。
【0043】
並びに、被係合孔41に係合凸部40が相対的に係合すると、カバー3のリブ33が、ケース2の溝部23に進入する。このため、リブ33と溝部23との間に、ジグザグ状の隙間が区画される。当該隙間には、図6に示す液体状の接着剤5aが流入する。
【0044】
このように、仮組立工程においては、スナップフィット機構4の係合凸部40と被係合孔41とを係合させることにより、ケース2とカバー3とを固定する。また、リブ33と溝部23との間のジグザグ状の隙間に、図6に示す液体状の接着剤5aを流入させる。
【0045】
接着工程においては、図6、図4に示すように、リブ33と溝部23との間のジグザグ状の隙間において、液体状の接着剤5aを硬化させる。そして、固体状の接着部5を形成する。すなわち、接着部5により、当該隙間を全周的に封止する。並びに、ケース2とカバー3とをしっかりと接着する。
【0046】
[作用効果]
次に、本実施形態の電磁波遮蔽筐体およびその製造方法の作用効果について説明する。本実施形態の電磁波遮蔽筐体1は、アルミニウム合金製のケース2およびカバー3を備えている。このため、電界を遮蔽する電界シールド、および電磁波の磁気による渦電流が導体に流れることにより電界と磁界とを遮蔽する電磁シールドのうち、少なくとも一方により、筐体内部の回路基板90を保護することができる。
【0047】
また、アルミニウム合金製のケース2およびカバー3は、樹脂製のケース2およびカバー3よりも、寸法精度が高い。すなわち、ケース2およびカバー3を樹脂製にすると、成形時に「引け」や「反り」などの成形不良が発生しやすい。これに対して、ケース2およびカバー3をアルミニウム合金製にすると、成形時に「引け」や「反り」などの成形不良が発生しにくい。このように、アルミニウム合金製のケース2およびカバー3は、樹脂製のケース2およびカバー3よりも、寸法精度が高い。また、アルミニウム合金製のケース2およびカバー3は、樹脂製のケース2およびカバー3よりも、強度が高い。
【0048】
また、本実施形態の電磁波遮蔽筐体1は、係合凸部40と被係合孔41との係合時の塑性変形により永久歪みが残留することを、許容している。すなわち、図4に示すように、変形部310には、完全に弾性的に復動した状態(図4に点線で示す)に対して、角度θ分だけ、永久歪みが残留する。永久歪みが残留すると、係合凸部40と被係合孔41とをしっかりと係合させることが困難である。よって、ケース2とカバー3とが分解しやすい。
【0049】
しかしながら、本実施形態の電磁波遮蔽筐体1は、スナップフィット機構4のみならず、接着部5を備えている。このため、ケース2とカバー3とをしっかりと固定することができる。つまり、ケース2とカバー3とが分解しにくい。また、ケース2とカバー3とが接着部により接着されるまでの間、スナップフィット機構4により、ケース2とカバー3とを仮組立しておくことができる。このため、ケース2とカバー3との固定位置がずれにくい。
【0050】
また、本実施形態の電磁波遮蔽筐体1によると、図1、図2に示すように、被係合孔41の左右両側に、上下方向に延在する一対のスリット35が配置されている。このため、変形部310が変形しやすい。したがって、弾性変形しにくいアルミニウム合金製のケース2、カバー3であるにもかかわらず、簡単に係合凸部40と被係合孔41とを係合することができる。
【0051】
また、本実施形態の電磁波遮蔽筐体1によると、係合凸部40と被係合孔41との係合時に、スリット35の上端周囲(変形部310の上端付近)に応力が集中しやすい。このため、スリット35の上端周囲(変形部310の上端付近)が局所的に変形しやすい。この点においても、簡単に係合凸部40と被係合孔41とを係合することができる。
【0052】
また、本実施形態の電磁波遮蔽筐体1によると、カバー3だけにスリット35が配置されており、ケース2にスリット35が配置されていない。このため、電磁波遮蔽筐体1の組立時に、ケース2の側壁部21よりも、カバー3の変形部310の方が、率先して変形する。したがって、電磁波遮蔽筐体1の組立後に、ケース2に永久歪みが残留しにくい。よって、ケース2内部の容積が変化しにくい。また、ケース2内部の回路基板90に、ケース2に永久歪みに起因する荷重が加わりにくい。また、カバー3の変形部310以外の部分に永久歪みが残留しにくい。
【0053】
また、本実施形態の電磁波遮蔽筐体1によると、図4に示すように、リブ33と溝部23との間に、ジグザグ状の隙間が区画されている。当該隙間には、接着部5が配置されている。このため、接着部5は、冗長的に、ジグザグ状に延在している。したがって、接着部5が直線状に延在している場合と比較して、隙間を介して、外部からケース2の内部に、ガス、液体、異物、塵埃などが進入しにくい。このように、本実施形態の電磁波遮蔽筐体1は、シール性が高い。
【0054】
また、本実施形態の電磁波遮蔽筐体1によると、図4に示すように、上下方向にリブ33が溝部23に収容されている。このため、水平方向に側壁部21が倒れ込みにくい。
【0055】
また、本実施形態の電磁波遮蔽筐体1によると、図5、図6に示すように、係合凸部40と被係合孔41と係合させる際、ガイド部34が、ケース2の開口部22に摺接する。このため、ケース2にカバー3を外嵌しやすい。また、係合凸部40と被係合孔41と係合させる際、ガイド部34が、係合凸部40に摺接する。このため、変形部310の下部分が、係合凸部40を乗り越えやすい。
【0056】
また、本実施形態の電磁波遮蔽筐体1の製造方法は、仮組立工程と接着工程とを有している。仮組立工程によると、スナップフィット機構4により、ケース2とカバー3とを非接着状態で固定することができる。また、接着工程によると、接着部5により、ケース2とカバー3とを接着状態で固定する、つまり接着することができる。
【0057】
このように、本実施形態の電磁波遮蔽筐体1の製造方法は、ケース2とカバー3とをスナップフィット機構4で仮に固定しておき(仮組立工程)、この状態で接着剤5aを硬化させ接着部5を形成することにより(接着工程)、ケース2とカバー3とをしっかりと固定するものである。本実施形態の電磁波遮蔽筐体1の製造方法によると、接着剤5a硬化時に、ケース2とカバー3との仮の固定位置がずれにくい。このため、接着部5により、ケース2とカバー3とをしっかりと固定することができる。
【0058】
<第二実施形態>
本実施形態の電磁波遮蔽筐体およびその製造方法と、第一実施形態の電磁波遮蔽筐体およびその製造方法との相違点は、係合凸部がカバーに、被係合凹部がケースに、それぞれ配置されている点である。ここでは、相違点についてのみ説明する。
【0059】
図7に、本実施形態の電磁波遮蔽筐体のスナップフィット機構付近の断面図を示す。なお、図4と対応する部位については、同じ符号で示す。図7に示すように、係合凸部40は、カバー3の側壁部31の変形部310の水平方向内面から突設されている。また、被係合凹部42は、ケース2の側壁部21の水平方向外面に凹設されている。
【0060】
本実施形態の電磁波遮蔽筐体およびその製造方法と、第一実施形態の電磁波遮蔽筐体およびその製造方法とは、構成が共通する部分に関しては、同様の作用効果を有する。本実施形態の電磁波遮蔽筐体によると、被係合凹部42が、側壁部31により、水平方向外側から覆われている。このため、組立後の電磁波遮蔽筐体のスナップフィット機構4に、外部から干渉しにくい。したがって、電磁波遮蔽筐体が分解しにくい。また、被係合凹部42は有底である。このため、被係合凹部42を介して、外部からケース2の内部に、ガス、液体、異物、塵埃などが進入しない。
【0061】
<その他>
以上、本発明の電磁波遮蔽筐体およびその製造方法の実施の形態について説明した。しかしながら、実施の形態は上記形態に特に限定されるものではない。当業者が行いうる種々の変形的形態、改良的形態で実施することも可能である。
【0062】
図8に、スナップフィット機構のバリエーションを模式図で示す。なお、図4、図7と対応する部位については、同じ符号で示す。図8(a)に示すように、係合凸部40が円錐状でもよい。また、被係合凹部42の断面が円錐状でもよい。図8(b)に示すように、係合凸部40が部分球状でもよい。図8(c)に示すように、プレス成形により、係合凸部40を側壁部21の内面から打ち出して形成してもよい。
【0063】
ケース2およびカバー3の材質は特に限定しない。オーステナイト系ステンレス鋼、アルミニウム、銅、真鍮のような非磁性体製の場合、上記実施形態同様に、電界を遮蔽する電界シールド、および電磁波の磁気による渦電流が導体に流れることにより電界と磁界とを遮蔽する電磁シールドのうち、少なくとも一方により、筐体内部の回路基板90を保護することができる。
【0064】
また、ニッケル、鉄、コバルト、ガドリニウム、オーステナイト・フェライト系ステンレス鋼、フェライト系ステンレス鋼、マルテンサイト系ステンレス鋼、析出硬化系ステンレス鋼のような磁性体製の場合、磁界を遮蔽する磁界シールドにより、筐体内部の回路基板90を保護することができる。
【0065】
ケース2、カバー3の成形方法は特に限定しない。例えば、ダイカスト鋳造、鍛造、切削加工などの方法により作製することができる。
【0066】
また、(係合凸部40−被係合孔41)組の位置、配置数、大きさは特に限定しない。例えば、互いに対向する位置(図1で説明すると、前方の側壁部31と後方の側壁部31、または左方の側壁部31と右方の側壁部31)に、配置すればよい。また、スリット35の位置、配置数、長さは特に限定しない。
【0067】
また、接着部5の位置、配置数、種類は特に限定しない。例えば、隣り合う側壁部21の外面と側壁部31の内面との間に、接着部5を配置してもよい。接着部5用の接着剤5aは、液体状の他、ゲル状、粘土状であってもよい。また、接着部5として、両面テープを配置してもよい。
【0068】
また、ケース2の底壁部20およびカバー3の上底壁部30のうち、一方に位置決めピンを、他方にピン挿入孔を、それぞれ配置してもよい。こうすると、仮組立工程において、位置決めピンをピン挿入孔に挿入することにより、ケース2とカバー3との位置合わせを行うことができる。
【0069】
また、電磁波遮蔽筐体1の用途は特に限定しない。例えば、車両のECU(エンジン制御ユニット)の筐体、コンピュータのハードディスクの筐体などとして用いることができる。
【符号の説明】
【0070】
1:電磁波遮蔽筐体、2:ケース、3:カバー、4:スナップフィット機構、5:接着部、5a:接着剤。
20:底壁部、21:側壁部、22:開口部、23:溝部、30:上底壁部、31:側壁部、32:開口部、33:リブ、34:ガイド部、35:スリット、40:係合凸部、41:被係合孔(被係合凹部)、42:被係合凹部、90:回路基板、310:変形部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製であって開口部を有する有底筒状のケースと、
金属製であって該開口部を覆うカバーと、
該ケースおよび該カバーのうち一方に配置される係合凸部と、該ケースおよび該カバーのうち他方に配置される被係合凹部と、を有し、該係合凸部と該被係合凹部とが係合することにより、該ケースと該カバーとを固定するスナップフィット機構と、
を備え、内部に電子部品が収容される電磁波遮蔽筐体であって、
さらに、前記ケースと前記カバーとを接着する接着部を備え、
前記係合凸部と前記被係合凹部とは、係合時に発生する永久歪みを残したまま、係合していることを特徴とする電磁波遮蔽筐体。
【請求項2】
前記係合凸部は、前記ケースの側壁に配置され、
前記被係合凹部は、前記カバーの側壁に配置され、
該ケースの側壁における該係合凸部の周囲、および該カバーの側壁における該被係合凹部の周囲のうち、少なくとも一方には、スリットが配置される請求項1に記載の電磁波遮蔽筐体。
【請求項3】
前記係合凸部は、前記ケースの側壁に配置され、
前記被係合凹部は、前記カバーの側壁に配置され、
該ケースの側壁における該係合凸部を含むその周囲、および該カバーの側壁における該被係合凹部を含むその周囲のうち、少なくとも一方の肉厚は、該ケースの側壁の該周囲以外の部分の肉厚、または該カバーの側壁の該周囲以外の部分の肉厚よりも、薄肉に形成されている請求項1または請求項2に記載の電磁波遮蔽筐体。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の電磁波遮蔽筐体の製造方法であって、
前記ケースと前記カバーと前記スナップフィット機構とを準備する部品準備工程と、
前記接着部を該ケースと該カバーとの間に介装した状態で、該スナップフィット機構により、該ケースと該カバーとを固定する仮組立工程と、
該接着部により、該ケースと該カバーとを接着する接着工程と、
を有する電磁波遮蔽筐体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−55090(P2013−55090A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−190166(P2011−190166)
【出願日】平成23年8月31日(2011.8.31)
【出願人】(000207791)大豊工業株式会社 (152)
【Fターム(参考)】