説明

電磁石駆動制御装置、及び電磁石装置

【課題】ドライバーと電磁石の励磁コイルと接続する大電流容量のケーブルが不必要で電流ロスの発生が少なくて、設備コスト及びランニングコストの安価な電磁石駆動制御装置、及び電磁石装置を提供すること。
【解決手段】電磁石10を備え、該電磁石10の励磁コイルXに所定波形の励磁電流を通電することにより、隔壁で仕切られた所定の空間に磁界を形成する電磁石装置を駆動制御する電磁石駆動制御装置であって、励磁コイルXに任意の励磁電流を通電するドライバー12と、励磁コイルXに通電する励磁電流iをドライバー12に指令する電流制御部16を備え、ドライバー12と電流制御部16を別置きとし、ドライバー12と電磁石10の励磁コイル又は接近として配置したドライバー・電磁石ユニット2とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、隔壁で仕切られた空間内に発生したプラズマ分布を、能動的に制御する電磁石装置、即ち、チャンバー内に封入したプラズマの状態を任意に制御する電磁石装置の各電磁石を駆動制御する電磁石駆動制御装置、及び電磁石装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の電磁石装置は、複数の電磁石を備え、該電磁石の励磁コイルに任意波形の励磁電流を通電することにより、隔壁で仕切られた空間内に磁界を形成するようになっている。この電磁石装置の各電磁石の駆動制御には、励磁コイルに励磁電流を通電するドライバーと、該ドライバーに励磁コイルに通電する励磁電流を指令する電流制御部を備えている。更に、前記空間内に形成され磁界の強度等を制御するために、励磁コイルに流れる励磁電流を電流検出部で検出し、該検出した電流値を電流制御部にフィードバックし、励磁コイルに流れる電流が目標励磁電流となるように制御する。これにより磁界強度が目標励磁電流相当の強度になるように制御している。
【0003】
図1は従来の電磁石装置の各電磁石を駆動制御する電磁石駆動部の概略構成を示す図である。図示するように、従来の電磁石駆動制御部においては、電磁石駆動制御装置を構成する部品配置スペースの都合上、ドライバー120と電磁石100とは離れた位置に配置されており、ドライバー120と電磁石100のコア101に巻回された励磁コイル102とは電流容量の大きい長いケーブル110で接続されている。電流制御部130からドライバー120に電流信号S1を出力することにより、ドライバー120は電流信号S1で指定された励磁電流iを流すためのコイル駆動電圧vを励磁コイル102に出力する。また、励磁コイル102に流れた励磁電流は電流検出器131で検出され、該電流検出信号S2は増幅器(AMP)132で増幅され、A/D変換器133でデジタル量の電流検出信号S3に変換され、電流制御部130にフィードバックされている。これにより、任意波形の電流を励磁コイル102に流し、電磁石100に隣接する図示しない隔壁で仕切られた空間内に磁場を形成する。該隔壁で仕切られた空間内には、プラズマが封入されており、電磁石100が形成する磁場によって該空間内のプラズマ密度を空間的に制御できるようになっている。
【0004】
電磁石のコア101には水冷ジャケットと103が取り付けられ、該水冷ジャケット103に冷却水を流すことにより、該冷却水と電磁石100で発生する熱との間で熱交換が行われ、電磁石100の温度上昇を抑制している。また、ドライバー120にはヒートシンク121が取り付けられ、ドライバー120で発生する熱を放熱している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−241933号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来の電磁石駆動制御部では、ドライバー120と電磁石100は離れて配置されているため、ケーブル110は電流容量の大きい長いケーブルである必要があると共に、該ケーブルに大きい励磁電流が流れるため、電流ロスが発生すると同時に熱が発生する。電流容量の大きい長いケーブルは高価であるだけでなく、電流損失に伴い発熱することからこの発熱に対する対策が必要となり、電磁石装置の設備コスト及び運転によるランニングコストが高くなるという問題があった。
【0007】
本発明は上述の点に鑑みてなされたもので、ドライバーと電磁石の励磁コイルと接続する大電流容量のケーブルが不必要で電流ロスの発生が少なくて、設備コスト及びランニングコストの安価な電磁石駆動制御装置、及び電磁石駆動制御装置を備えた電磁石装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、電磁石を備え、該電磁石の励磁コイルに所定波形の励磁電流を通電することにより、隔壁で仕切られた所定の空間に磁界を形成する電磁石装置を駆動制御する電磁石駆動制御装置であって、励磁コイルに任意の励磁電流を通電するドライバーと、励磁コイルに通電する励磁電流をドライバーに指令する電流制御部を備え、ドライバーと電流制御部を別置きとし、ドライバーと励磁コイルを一体として配置したことを特徴とする。
【0009】
また、本発明は、電磁石を備え、該電磁石の励磁コイルに所定波形の励磁電流を通電することにより、隔壁で仕切られた所定の磁場空間に磁界を形成する電磁石装置を駆動制御する電磁石駆動制御装置であって、励磁コイルに任意の励磁電流を通電するドライバーと、励磁コイルに通電する励磁電流をドライバーに指令する電流制御部を備え、ドライバーと電流制御部を別置きとし、ドライバーと励磁コイルを接近させて配置したことを特徴とする。
【0010】
また、本発明は、複数の電磁石を備え、該電磁石の励磁コイルに所定波形の励磁電流を通電することにより、隔壁で仕切られた所定の空間内に磁界を形成する電磁石装置であって、電磁石を駆動制御する電磁石駆動制御装置に上記電磁石駆動制御装置のいずれかを用いることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ドライバーと電流制御部を別置きとし、ドライバーと励磁コイルを一体として配置するか又は接近させて配置したので、ドライバーと励磁コイルとを接続する大電流容量の長いケーブルが不必要又は短くて済み、また、ドライバーの発熱を放熱するためのヒートシンクが不要となるので設備コストが安価となり、更に電流ロスが少なくて済むことから、熱対策が少なくて済むランニングコストの安価な電磁石駆動制御装置、及び電磁石装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】従来の電磁石駆動制御装置の概略構成例を示すブロック図である。
【図2】本発明に係る電磁石駆動制御装置の概略構成例を示すブロック図である。
【図3】本発明に係る電磁石駆動制御装置の他の概略構成例を示すブロック図である。
【図4】本発明に係る電磁石駆動制御装置の概略構成例を示すブロック図である。
【図5】本発明に係る電磁石装置の全体概略構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。図2は本発明に係る電磁石駆動制御装置の概略システム構成例を示すブロック図である。図示するように、本電磁石駆動制御装置では、電磁石10とドライバー12とが一体に構成されたドライバー・電磁石ユニット2を備えている。電磁石10はコア11に励磁コイルXが巻回された構成であり、該コア11には水冷ジャケット13が一体に取り付けられている。また、コア11にはドライバー12を構成するプリント基板15に実装された電流増幅器14が取り付けられている。励磁コイルXの端部はドライバー12のプリント基板15の出力部に直接接続されている。
【0014】
電流制御部16からの電流信号S1は信号伝送用配線17を通して、ドライバー12のプリント基板15の入力部に入力し、該電流信号S1はドライバー12の電流増幅器14で電流増幅され、励磁コイルXに電流信号S1で指示された励磁電流iを通電するに必要なコイル駆動電圧vとなり、プリント基板15の出力部から直接励磁コイルXに出力される。これにより励磁コイルXには電流信号S1で指示された励磁電流iが流れ、磁束が発生し、隔壁(図示せず)で仕切られた空間に磁界が形成される。電流増幅器14や励磁コイルXやコア11から発生する熱は、水冷ジャケット13に流入する冷却水との間で熱交換が行われ、該熱は奪われ、電流増幅器14や励磁コイルXやコア11の温度上昇は抑えられる。
【0015】
上記のように電磁石10の励磁コイルXをドライバー12のプリント基板15の出力部に直接接続することにより、図1に示すように電流容量の大きい長いケーブル110を必要とせずその分コストが安価となる。また、長いケーブルを介して電流を流す必要が無く、その分電流ロスが少なくなる。また、電流容量の大きい長い高価なケーブルを必要しない分だけ設備コストも安価となり、電流損失及び該電流損失に伴い発熱に対する対策が必要でなくなり、電磁石装置の運転によるランニングコストが安価となる。
【0016】
図3は本発明に係る電磁石駆動制御装置の他の概略システム構成例を示すブロック図である。図示するように、本電磁石駆動制御装置では、ドライバー12と電磁石10を接近させて配置したドライバー・電磁石ユニット2を備えている。電磁石10のコア11には水冷ジャケット13が一体に取り付けられており、該水冷ジャケット13とドライバー12とは熱伝導体19を介して一体に熱的に結合されている。ドライバー12と電磁石10のコア11に巻回した励磁コイルXは短いハーネス18で電気的に接続されている。
【0017】
上記電磁石駆動制御装置において、電流制御部16からの電流信号S1は信号伝送用配線17を通して、ドライバー12に入力し、該電流信号S1はドライバー12の電流増幅器(図示せず)で電流増幅され、励磁コイルXに電流信号S1で指示された励磁電流iを通電するのに必要なコイル駆動電圧vとなり、短いハーネス18を通して励磁コイルXに出力される。これにより励磁コイルXには電流信号S1で指示された励磁電流iが流れ、磁束が発生し、隔壁(図示せず)で仕切られた空間に磁界が形成される。ドライバー12で発生した熱Hは熱伝導体19を通って水冷ジャケット13に伝達され、電磁石10の励コイルXやコア10から発する熱と共に、水冷ジャケット13を通る冷却水との間の熱交換により奪われ、ドライバー12や励磁コイルXやコア11の温度上昇が抑えられる。
【0018】
上記のように電磁石10の励磁コイルXをドライバー12の出力に短いハーネス18を介して接続することにより、図1に示すように電流容量の大きい長いケーブル110を必要とせずその分コストが安価となる。また、長いケーブルを介して電流を流す必要が無くその分電流ロスが少なくなる。電流容量の大きい長い高価なケーブルを必要しない分だけ設備コストも安価となり、電流損失及び該電流損失に伴い発熱に対する対策が必要でなくなり、電磁石装置の運転によるランニングコストが安価となる。
【0019】
図4は本発明に係る電磁石駆動制御装置のシステム構成例を示すブロック図である。図4において、2は電磁石10とドライバー12とが一体に構成されたドライバー・電磁石ユニット(図2参照)又は電磁石10とドライバー12が接近して配置されたドライバー・電磁石ユニット(図3参照)である。電流制御部16はデジタル演算部20とD/A変換器21とを備え、該電流制御部16からの電流信号S1は信号伝送用配線17を通して、ドライバー・電磁石ユニット2のドライバー12に入力されるようになっている。また、電磁石10の励磁コイルXに流れた電流は電流検出器22で検出され、該電流検出信号S2は増幅器(AMP)23で増幅され、A/D変換器24でデジタル量の電流検出信号S3となって電流制御部16のデジタル演算部20にフィードバックされる。増幅器23、A/D変換器24、及びデジタル演算部20でフィードバックループ25が形成される。なお、ここでドライバー・電磁石ユニット2は、図2又は図3に示す構成に限定されるものではない。
【0020】
デジタル演算部20はCPU或いはDSPを具備し、ホストコンピュータ1空任意波形(例えば正弦波、矩形波、三角波等)を指令する電流指令信号Sが入力されると、演算処理にて電流指令信号Sで指定された波形に基づいた目標励磁電流信号を生成する。D/A変換器21は、電流制御部16から出力された信号を連続した電流信号S1に変換し、信号伝送用配線17を通してドライバー・電磁石ユニット2のドライバー12に出力される。ドライバー12では電流増幅器で電流信号S1を電流増幅(図示せず)し、該電流信号S1に対応する励磁電流iを電磁石10の励磁コイルXに通電するためのコイル駆動電圧vを生成し、励磁コイルXに出力する。これにより励磁コイルXに励磁電流iが流れ、電磁石10から発生される磁束により、隔壁で仕切られた所定の空間に磁界を形成する。
【0021】
励磁コイルXに流れる電流iは電流検出器22で検出され、該電流検出信号S2は増幅器23で増幅され、A/D変換器24でデジタル量の電流検出信号S3に変換され、フィードバックループ25を通して電流制御部16のデジタル演算部20にフィードバックされる。デジタル演算部20ではこのフィードバックされた電流検出信号S3とデジタル演算部20内で生成された該目標励磁電流信号を比較し、励磁コイルXに該目標励磁電流信号で指定された波形の「位相」と「値」の電流が流れるように電流制御部16のD/A変換器21からドライバー12に出力される電流信号S1を補正する。このように、ホストコンピュータからの電流指令信号Sで指定した励磁電流iが励磁コイルXに流れるようデジタル演算部20によってフィードバック制御される。
【0022】
図5は複数のドライバー・電磁石ユニット2を備えた電磁石装置の構成例を示すブロック図である。図示するように、本電磁石装置は複数のドライバー・電磁石ユニット2を備えている。ドライバー・電磁石ユニット2ではドライバー12と電磁石10とは図2に示すように一体に構成されているか、又は図3に示すように接近して配置されている。各ドライバー12には、デジタル演算部20とD/A変換器21を備えた電流制御部16から電流信号S1が入力されるようになっており、該電流信号S1をドライバー12が備える電流増幅器(図示せず)で増幅し、コイル駆動電圧vを生成して、各電磁石10の励磁コイルXに出力する。これにより、各電磁石10の励磁コイルXにホストコンピュータ1からの電流指令信号Sで指定され励磁電流iが流れる。
【0023】
各励磁コイルXに流れた励磁電流iはそれぞれ電流検出器22で検出され、該電量検出信号S2はそれぞれ増幅器23、A/D変換器24を備えたフィードバックループ25を通して電流制御部16のデジタル演算部20にフィードバックされる。これにより、各電磁石10で発生する磁束で隔壁で仕切られた空間内にホストコンピュータ1で指定する励磁電流に相当する強度の磁界が形成される。
【0024】
このとき、上記のように各ドライバー・電磁石ユニット2のドライバー12と電磁石10の励磁コイルXとは図2に示すように一体又は図3に示すように接近して配置されているため、図1に示すようにドライバーの出力部と励磁コイルXとを接続する電流容量の大きい長いケーブルは不要となり、その分安価になると共に、電流ロスも少なくなる。なお、図2の電流増幅器14及び図3〜5のドライバー12の電流増幅器は、アナログ式電流増幅器であってもPWM式増幅器であってもよい。
【0025】
以上、本発明の実施形態例を説明したが、本発明は上記実施形態例に限定されるものではなく、特許請求の範囲、及び明細書と図面に記載された技術的思想の範囲内において種々の変形が可能である。なお、直接明細書及び図面に記載がない何れの形状や構造であっても、本願発明の作用効果を奏する以上、本願発明の技術範囲である。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明は、ドライバーと電流制御部を別置きとし、ドライバーと励磁コイルを一体として配置するか又は接近させて配置したので、ドライバーと励磁コイルとを接続する大電流容量のケーブルを不必要又は短いハーネスで済み設備コストが安価となり、更に電流ロスが少なくて済むことから、熱対策を少なくて済み、設備コストとランニングコストの安価な電磁石駆動制御装置、及び電磁石装置として利用できる。
【符号の説明】
【0027】
1 ホストコンピュータ
2 ドライバー・電磁石ユニット
10 電磁石
11 コア
12 ドライバー
13 冷却ジャケット
14 電流増幅器
15 プリント基板
16 電流制御部
17 信号伝送用配線
18 ハーネス
19 熱伝導体
20 デジタル演算部
21 D/A変換器
22 電流検出器
23 増幅器
24 A/D変換器
25 フィードバックループ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電磁石を備え、該電磁石の励磁コイルに所定波形の励磁電流を通電することにより、隔壁で仕切られた所定の空間に磁界を形成する電磁石装置を駆動制御する電磁石駆動制御装置であって、
前記励磁コイルに任意の励磁電流を通電するドライバーと、前記励磁コイルに通電する励磁電流を前記ドライバーに指令する電流制御部を備え、
前記ドライバーと前記電流制御部を別置きとし、前記ドライバーと前記励磁コイルを一体として配置したことを特徴とする電磁石駆動制御装置。
【請求項2】
電磁石を備え、該電磁石の励磁コイルに所定波形の励磁電流を通電することにより、隔壁で仕切られた所定の空間に磁界を形成する電磁石装置を駆動制御する電磁石駆動制御装置であって、
前記励磁コイルに任意の励磁電流を通電するドライバーと、前記励磁コイルに通電する励磁電流を前記ドライバーに指令する電流制御部を備え、
前記ドライバーと前記電流制御部を別置きとし、前記ドライバーと前記励磁コイルを接近させて配置したことを特徴とする電磁石駆動制御装置。
【請求項3】
複数の電磁石を備え、該電磁石の励磁コイルに所定波形の励磁電流を通電することにより、隔壁で仕切られた所定の空間内に磁界を形成する電磁石装置であって、
前記電磁石を駆動制御する電磁石駆動制御装置に請求項1又は2に記載の電磁石駆動制御装置を用いることを特徴とする電磁石装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2012−74587(P2012−74587A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−219025(P2010−219025)
【出願日】平成22年9月29日(2010.9.29)
【出願人】(000000239)株式会社荏原製作所 (1,477)