説明

電線、巻き線、および電気部品

【課題】コイル導線間のレイヤーショート問題を、低コストかつ高性能な電線に於いて低減する。
【解決手段】丸断面導線または略角状断面の導線において、巻き線として2層以上巻き廻したときに層間となる方向の断面となる絶縁層を、ピンホール等の欠陥があったとしても線間のレイヤーショートが生じないように多層又は所定の厚みを持たせ、他方の絶縁層の厚みを絶縁層よりも薄くして、その電線を巻き線化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導線に電流を通電して使用するリアクトル等の複合磁性素子など磁性体と巻き線とを内在する電気部品、それを構成する巻き線、及び巻き線とする導線に関する。
【背景技術】
【0002】
電気部品の中には、導体に電流を通電して、生じる磁性を用いるものが有る。
磁性を用いる電気部品を例示すれば、磁性素子、トランス、モータなどが挙げられる。
これらの電気部品は、電磁気理論に基づき許容電圧や許容電流が設定され、その値に耐えうる設計がなされる。
【0003】
電気部品の設計では、構造、回路、抵抗値、インダクタンス、端子間電位差などに加え、各所の絶縁耐力の設定も重要となる。
例えば、磁性素子では、巻き線(コイル)とコア間や、巻き線と接地間の高い絶縁性はもちろんのこと、巻き線とする導線間の絶縁性も重要となる。これは、巻き線の導線間に絶縁破壊を生じることによって、性能低下や焼損、漏電などの問題を引き起こす為である。
【0004】
また、巻き線の絶縁破壊に対しては、隣接する他層との間で生じるレイヤーショート(層間短絡)への配慮が重要である。
【0005】
また、近年の環境配慮製品の急速な普及展望の必要条件として、電気部品の高効率化が求められている。加えて、低コスト化がより強く求められている。
【0006】
磁性を用いる電気部品に関連する技術を例示すれば、特許文献1ないし4が挙げられる。
【0007】
特許文献1には、コイル部品の導線の絶縁被覆を、既存の被覆に加えて、その外周にハンダ濡れ性が低い被覆で覆う発明が開示されている。このようにすることで、コイル部品の端子加熱時に、端子を介してのハンダの浸透を防止して、熱によって発生する被覆破壊を防止し、もって、コイルの導線間に発生するショートを防止している。
【0008】
特許文献2には、巻き線を絶縁物で有る樹脂の内部に設け、その絶縁性樹脂ごと磁性体粉末と樹脂とから成る磁心内部に埋設したコイル部品が開示されている。当該コイル部品では、上記構造によって、可聴周波数帯でのノイズを防止できる。また、特許文献2には、コイル部品に用いられる巻き線として、平角線のエッジワイズ巻き、および、丸線を巻き廻したものが開示されている。
【0009】
特許文献3には、断面コーナー部の絶縁被覆層の厚みが断面平坦部の絶縁被覆層の厚みよりも厚肉になるような電着被覆を施したリング状絶縁コイル板が開示されている。また、上記リング状絶縁コイル板を積層してなる小型・軽量のトランス用コイルが開示されている。また、特許文献3には、電着被覆のボイド問題について開示されている。ボイド問題とは、絶縁層となる被覆内にボイドが内在し、ボイドを起点として絶縁破壊が生じる現象である。
【0010】
さらに特許文献4には先述、絶縁被覆層の厚みを均一とする技術が述べられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2009−010235号公報
【特許文献2】特開2006−004957号公報
【特許文献3】特開2004−152622号公報
【特許文献4】特開平03−159014号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
特許文献1では、巻き線の絶縁被覆のハンダ熱による劣化を軽減し、導線間に生じるショートを緩和するものである。
しかしながら、多層巻き線構造を有する電気部品の製造に伴う設計上考慮すべきこととして、導線に施す被膜(被覆:絶縁層)のボイドやピンホールなどの欠陥をゼロとできないことが挙げられる。また、導線の欠陥を検査において排除することが完全ではないことも重要である。
【0013】
このため、巻き線の導線間では、所定確率で被膜の無い、又は理論設計値よりも薄い箇所が対面することとなり、電気部品の構造と動作条件によってレイヤーショートが発生する可能性がある。
【0014】
例えば、図25に示すような一般的な多層巻き線の構造で電圧を加えた場合、レイヤーショートが発生する可能性を設計上排除できていない。
【0015】
図25の2層巻き線は、巻き軸を軸心とする円筒形状に上方から第1層の巻き線を形成した後、その外周に下方から第二層を重ねて巻いて作られている。
当該2層巻き線では、全巻き数を20ターン、端子間電圧を400Vとしているので、巻いた順に隣り合う個々の線間(例えば1ターンと2ターン)に発生する電位差は20V(400V/20ターン)程度である。
他方、巻き初めの1ターン目と巻き終わりの20ターン目が層間として構造上隣接しており、その層間(電線間)の電位差は400Vがかかる。
【0016】
ここで、大気中の放電電圧(略3000V/mm)を考慮すると、導線間に1V当たり概ね1/3μmあれば放電しないこととなる。導線に予め施されている絶縁被膜の厚みを仮に40μmとすると、導線間には2層で80μmの距離が確保されていることとなる。即ち、絶縁被膜のピンホールが対面する最悪の場合でも240V程度まで線間の放電は生じないこととなる。
【0017】
これらのことからは、巻き順に隣り合う導線間に生じる20V程度の電圧に対しては皮膜にピンホールがあってもショートしないといえる。他方、巻き初めと巻き終わりの電線間に生じる400Vのように、240Vを超える電位差を有する層間ではレイヤーショートが起きる可能性がある。これは、設計上何ら対策がなされていない。
【0018】
また、特許文献2にあるように巻き線を巻いた後に樹脂等の液状絶縁物で電線間を充填して硬化させるような構成にしたとしても、絶縁物が全電線間の細部にまで完全に充填されることは難しい。即ち、電線間を隙間なく樹脂で埋めて、ピンホールを無くせることを保証できない。また、それらを検査することは事実上困難であり、レイヤーショートの可能性を排除した設計とは言い難い。
【0019】
特許文献3では、平角線のコーナー部の絶縁被膜の厚みが平坦部の厚みよりも厚いことにより、絶縁性能が向上することが述べられている。しかしながら、コーナー部の厚みが厚いということは、占積率(スペースロス)を計算する上で、平坦部も同様の厚さを有する場合と結果は同値になる。即ち、平角線の全周に厚い被膜を形成させた場合と占積率はなんら変わりはなく、巻き線としての性能が良くない。これらのことは、特許文献4にも同様に述べられている。
【0020】
占積率については、例えば、図25に示した先述の巻き線では、400Vの電圧に耐えるためには片側で最低でも約66μmの絶縁層厚みが必要である。このような厚みの被膜をもつ電線を一層あたり10ターン巻き廻すことは、高さ方向の被膜厚みが1.3mm程度となる。導線径を約3mmとすると導線分の10ターンの高さ30mmに対し約4.3%ものロスが発生することと、被膜の熱伝導率は悪いことから放熱性も低下し、望ましくない。
【0021】
なお、特許文献2にあるように平角線をエッジワイズ(平角線縦巻き)に1層で巻き廻した場合は全ての隣接する線間に発生する電圧は低く、レイヤーショートは設計上で問題ないといえるが、平角線の導線とコイリングのコストは高いため、現時点で低価格化を著しく阻害する要因となっている。
【0022】
また、トランス等のデバイスにおいては巻き線工程の中で、層間にテープなどの絶縁物をはさみこむ技術が知られているが、コイリング途中にテーピングを施す工程費用が問題となる。また、発熱する巻き線間に熱伝導の低いテープ素材が介在することによる放熱性の低下が避けられない。
【0023】
本発明の目的は、上記課題に鑑み、安価に導線間のレイヤーショートを低減する電線、巻き線、および電気部品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0024】
上記の課題を解決するために、本発明にかかる導線の表面に絶縁層を有する電線は、前記絶縁層が前記導線の線方向に対して直交する一方向に偏心状に厚く設けられ、当該偏心状に設けられた絶縁層の厚みが他方の絶縁層よりも厚いことを特徴としている。
【0025】
また、本発明にかかる多層に巻かれた巻き線は、巻かれた電線の層間に当たる絶縁層が他方向の絶縁層よりも厚く形成され、前記厚く形成された絶縁層は、前記他方の絶縁層の表面に、多層形成されていることを特徴とする。
【0026】
また、本発明にかかる電気部品は、上記巻き線によって作られたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、巻き線の構造上生じる層間でのレイヤーショートが生じる可能性を設計的に低減した電線、巻き線、および電気部品を提供できる。また、本発明によれば、巻き軸方向の占積率を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】実施形態1における導線の断面図である。
【図2】実施形態1における巻き線の断面図である。
【図3】実施形態2における導線の断面図である。
【図4】実施形態2における巻き線の片側の断面図である。
【図5】実施形態3における導線の断面図である。
【図6】実施形態3における巻き線の片側の断面図である。
【図7】実施形態4における導線の断面図である。
【図8】実施形態4における巻き線の片側の断面図である。
【図9】実施形態5における導線の断面図である。
【図10】実施形態5における巻き線の片側の断面図である。
【図11】実施形態6における導線の断面図である。
【図12】実施形態6における巻き線の片側の断面図である。
【図13】実施形態7における導線の断面図である。
【図14】実施形態7における巻き線の片側の断面図である。
【図15】実施形態8における導線の断面図である。
【図16】実施形態8における巻き線の片側の断面図である。
【図17】絶縁層形成プロセスにおける絶縁層材料を塗布する区間を示す説明図である。
【図18】絶縁層形成プロセスにおける絶縁層材料を塗布する複数の区間を示す説明図である。
【図19】導線製作プロセスの一例を示す模式図である。
【図20】導線製作プロセスの他の一例を示す模式図である。
【図21】導線製作プロセスの他の一例を示す模式図である。
【図22】形成される絶縁層を例示する電線の線方向の断面図である。
【図23】線間を樹脂で固められた巻き線を示す断面図である。
【図24】磁性体の注型法によって巻き線の磁芯を形成されている電気部品を示す断面図である。
【図25】2層巻き線の構造を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施の形態を図面に沿って説明する。
本発明における電線の断面の一例を図1に示す。また、その電線を用いてコイリングした巻き線の断面を図2に示す。
図1において、電線は、円形断面の導線1、表面の一方向に意図的に厚く設けられている絶縁層となる絶縁被膜2、導体の全面を覆う絶縁被膜3で構成されている。絶縁被膜3は、絶縁被膜2よりも薄い絶縁層として設けられている。なお、絶縁被膜2と絶縁被膜3は、製造時に別々に形成されてもよいし、同時的に形成されてもよい。なお、電線は、円形でなくとも略円や他形状でもよい。
【0030】
絶縁被膜2は、図示するように、導線の線方向に対して直交する一方向に偏心状に厚く設けられ、他方よりも絶縁層の厚みを増すように形成されている。また、厚く設けられた絶縁層は、他方の絶縁層の表面に、追加的に形成されている。
【0031】
図2は、導線に絶縁層が厚く設けられている方向を外周となるように、電線をコイリングした巻き線を示す断面図である。
図2に示す巻き線は、各層の同一層を成す導線間には、薄い絶縁層(絶縁被膜3)が配設されている。また、各巻き線の層間には厚い絶縁層(絶縁被膜2)が配設されている。
このように絶縁層を偏心状に多層とすることによって、絶縁被膜2と絶縁被膜3の何れかにピンホール等が有ったとしても、レイヤーショートの発生の可能性を低減できる。
【0032】
なお、偏心状に厚く設けられた絶縁被膜2の厚みは、当該電線を用いて作られる巻き線構造上の隣接する他層との間にかかる電圧値に耐えうるように設計されてもよい。例えば、導線1‐1と導線1‐2との間を成す絶縁被膜2の厚みは、導線1‐1と導線1‐2との間にかかる電位差によって、導線1‐1と導線1‐2との間に気中でショートしない空間を空けるだけの厚みである。なお、絶縁被膜3の厚さも加味する。即ち、各層の導線間の距離が、気中絶縁耐力の値と導線間の電圧値に基づいて算出される厚さ以上に設定すればよい。
このように厚さを設けることによって、絶縁被膜2と絶縁被膜3に、ピンホール等が有ったとしても、レイヤーショートを理論上生じないこととなる。
【0033】
また、上記本発明にかかる電線を用いるので、絶縁被膜3を絶縁被膜2よりも薄く設計でき、同一容積に対する巻き線としての占積率の向上を図れる。
【0034】
以下、他の実施形態を説明する。
【0035】
図3は、導線に、絶縁被膜3と偏心状に貼り付けられた絶縁層4とが設けられている電線の断面図である。電線に厚く設けられる絶縁層は、絶縁層4のように貼り付けられてもよい。
絶縁層4は、コイル化したときの導線間に加わる電位差に対する気中絶縁耐力の値に基づき定められる。
図4は、図3に示した電線を巻き廻した片側の断面図である。電線は、絶縁層4が巻き終えた電線の層間に当たるように、巻き廻されている。
【0036】
このように貼り付けられた絶縁層4によって、レイヤーショートを生ずる可能性を低減又は排除できる。加えて、このような電線を用いるので、絶縁被膜3を絶縁層4よりも薄く設計でき、同一容積に対する巻き線としての占積率の向上を図れる。
【0037】
なお、絶縁層4は、導線のねじりが加えられた後に(例えばコイリング直前、送りロールで保持後)で貼付を行うことにより、導線のねじれへの配慮が不要とできる。
【0038】
図5から図8は、上記電線の偏心状に設けられた絶縁層の厚い部分を、導線断面の両端に分けて設けられた場合を示す。
このように電線を形成することで、導線間に必要な空間距離を、両電線の絶縁層が受持ち、一層あたりの厚みが半分で済む。また、層間となる絶縁層を両電線がそれぞれ受持つので、片方の電線の絶縁層にピンホールなどが有ったとしても、もう片方の電線の絶縁層がレイヤーショートの防止に役立つ。また、電線製造時の生産性に優れる。
【0039】
図9から図16は、導体断面に略平面を有する平角線(略四角形状線)に、絶縁層を設けた場合を示す。
平角線は、電線を送りながら電線のねじれを矯正し、絶縁層の厚い部分を一定として容易にコイリングできるため、丸線や楕円線の場合よりもねじれに対する生産性がよい。
【0040】
なお、絶縁層(特に偏心状の絶縁層)は、送りロール等により電線のねじれがそれ以降の工程で生じない位置で形成すると、良好にコイリングできる。
【0041】
また、絶縁層(特に偏心状の絶縁層)は、UV(Ultraviolet)硬化樹脂を塗布し、紫外線を照射することで瞬間的に厚み調整しながら硬化させて導線上に形成してもよいし、他の方法で設けてもよい。
【0042】
また、偏心状の絶縁層は、UV硬化樹脂を塗布し、送りロール等により電線のねじれがそれ以降の工程で生じない位置で、UVを照射することで瞬間的に硬化させ、そのままコイリングしてもよい。
【0043】
また、巻き線の構造上、全線間に同じ線間電圧が生じるわけではないので、高電圧(高電位差)となる位置に巻かれる絶縁層の厚みや形成回数を電位差に合わせて調整してもよい。
例えば、図1に示す電線であれば、図17に示すように、厚く設けられる絶縁層の塗布区間を絶縁被膜3のみの厚さでは許容できない範囲を受持つ導線の範囲に設定すればよい。また、図18に示すように、塗布区間での絶縁被膜2の厚みを複数段又はリニア的に調整するようにしてもよい。なお、図18では、絶縁被膜3の厚みのみで層間にかかる電位差を許容できなくなる前(塗布区間1の開始点)から第1の厚みの絶縁被膜の形成を開始する。また、絶縁被膜3の厚みと絶縁被膜2の厚み(第1の厚み)で層間にかかる電位差を許容できなくなる前(塗布区間2の開始点)から第2の厚み(第2の厚み>第1の厚み)の絶縁被膜の形成を開始する。また、絶縁被膜3の厚みと絶縁被膜2の厚み(第2の厚み)で層間にかかる電位差を許容できなくなる前(塗布区間3の開始点)から第3の厚み(第3の厚み>第2の厚み)の絶縁被膜の形成を開始し、絶縁被膜3の厚みのみで層間にかかる電位差を許容できる位置(電線の折り返しなど)の後に、第3の厚みの絶縁被膜の形成を停止する。即ち、絶縁被膜2の厚みは、塗布区間1<塗布区間2<塗布区間3と3段階で変化する。
【0044】
即ち、巻き線の構造上定まる印加される電線間電圧値を許容するように、電線間に当てる絶縁層の厚みを可変させながら絶縁被膜2を電線に形成させてもよい。
このように絶縁被膜2を生成すれば、それぞれの電線間で生ずる可能性が有るレイヤーショートを防止できる。加えて、絶縁被膜とする材料の削減と共に、コイル化に伴い課題となる熱伝導率の向上などが図れる。
【0045】
なお、導線断面の一部に塗装被膜を厚く形成する方法としては、部分浸積(図19参照)、ロール転写(図20参照)、スプレー(図21参照)などにより導線の一部に塗料を付着させ、加熱、溶剤揮発、UV照射などによって硬化させる。ここで行われる硬化は、できるだけ短時間な方が加熱炉長を短くでき望ましい。
また、加熱硬化後にロールに巻き取らず、そのままコイリングしてもよい。
導線の2面に塗装被膜を形成する場合は、単純に2度繰り返してもよいし、一度に2面とも同時的に形成してもよい。
【0046】
図22は、導線に形成される絶縁層を説明する模式図である。(a)に示す電線断面図は、図17に示したように塗布区間を限定した電線を示す。(b)に示す電線断面図は、塗布厚をリニア的に増加させた電線を示す。
(c)に示す電線断面図は、2面に塗布すると共に、それぞれの面に加わる電位差に対応させてリニア的に絶縁層厚を増加させた電線を示す。また、全周を覆う絶縁層と偏心状に設けられる絶縁層とが同時的に形成された電線の例で有る。
【0047】
上記の多層に巻き廻される電線は、電線に厚く設けられている絶縁層を、巻き終えた電線の層間に当たるように磁芯などに巻かれて多層コイルとされる。巻き終えられた多層コイルは、線間に絶縁性の樹脂を充填して硬化するようにしてもよい。
【0048】
また、図23に示すように、巻き線は、熱伝導率が一般の樹脂よりも高められたフィラー等を含む熱伝導樹脂を用いて充填硬化させてもよい。このとき、空芯状としてもよいし、鉄芯などと共に充填硬化させてもよい。
【0049】
また、図24に示すように、巻き線は、空芯コイルとして作成され、線間に樹脂を充填して硬化され、その周りに磁性体を含む樹脂(複合磁性体)で磁芯を形成して磁性素子に作りあげてもよい。
【0050】
磁性体としては、例えば金属系の磁性粉末と熱硬化性の液状の樹脂を混合しスラリー状としたものを用いることができる。熱硬化性の樹脂は、スラリーとしたときの流動性が十分であるよう低粘度のものが好ましく、例えばエポキシ樹脂などを用いることができる。ここで磁性粉末としてはFe-Si6.5%材のガスアトマイズ粉末等のダスト粉末を用いることができる。これらを樹脂と混合してスラリー状とする際に、アルミナ粉末、シリカ粉末などを同時に配合し、磁性体であるダスト粉末の占積率を下げて透磁率を調整してもよい。この手順により配合した磁性スラリーを、巻き線に樹脂5を充填し硬化後に型にセットしたものに注型し加熱硬化させることで複合磁性体6を得ることができる。
【0051】
なお、上記説明では、偏心状の絶縁層を付加的に設ける又は電線間(層間)に加わる電位差と気中(大気:空気)の絶縁耐力の値に基づいて絶縁層の厚さを定めると説明した。これは、レイヤーショートを生ずるピンホールやボイドなどで生まれる空間に空気が入りこんだ状態で電気部品に電気が加えられると考えるからである。
そこで、電気部品を空気よりも絶縁耐力の高い絶縁性気体(希ガスやSF6など)下で密封するように作ることによって、絶縁層の厚みを更に薄くできる。
即ち、電気部品に用いる巻き線の層間に当たる絶縁層の形成回数や厚みを、絶縁性気体の有する絶縁耐力の値を参照しながら定められる。図23を用いて例示すれば、層間に当たる絶縁層と樹脂5の形成時に絶縁性気体下で巻き線の層間を密閉すればよい効果が得られる。このとき、必要に応じて真空引きや脱湿なども行うとなおよい。むろん、隣接する巻き線間の絶縁層厚も、気中絶縁耐力に変えて絶縁性気体の絶縁耐力に基づく値によって薄くできる。
【0052】
上記説明したように、巻き順に隣り合う線間よりも層間として隣り合う方向の導線の絶縁層を厚くすることにより、設計的にレイヤーショートを低減しつつ小容積である電線を提供できる。また、巻き順に隣り合う線間が層間となる面の絶縁層の厚みよりも薄い、安価かつ高効率な巻き線、および電気部品を得られる。
【0053】
なお、電気部品としてのモータやトランスなどは、時間と共に電線間の層間電位差が変化する。この場合においても、何れの電位差であってもレイヤーショートの確率を低減させた絶縁層を、導線に付与すればよい。
【実施例1】
【0054】
次に、実施例1を用いて、本発明にかかる巻き線に設ける絶縁層の選定について説明する。
【0055】
下記表1では、厚く設けられる絶縁層の形成回数によって生ずる多層コイルとする電線の各特性を示している。
【0056】
【表1】

【0057】
数値は上記表に示すとおりである。塗装回数を増やす毎に、付与厚みが増加する。電線の付与厚みが増加する毎に、電線径も比例して増加し、コイル化したときの巻き線外径が増大する。
【0058】
他方、付加的に絶縁層を設けているにもかかわらず、占積率の大幅な低下を防止できている。同様に、全面を覆う被膜を厚くした場合よりも、絶縁層の厚みの増加に対するインダクタンスの減少も限定的である。
【0059】
なお、塗装回数は、1回塗布することによって、ピンホールなどが重なる確率を低下でき、その回数を増やすことによって指数状的に多層コイルがレイヤーショートを起す確率を低減できる。
【0060】
また、塗布回数は、所望する電線の特性を参照して定めればよい。塗布回数は、おおむね5回以下が望ましい。これは、占積率、インダクタンスの低下率が10%を超えて悪化するためである。また、塗布角度は、電線表面の1/6から1/2未満程度が望ましい。
【0061】
以上説明したように、本発明によれば、巻き線の構造上生じる層間でのレイヤーショートが生じる可能性を設計的に低減した電線、巻き線、および電気部品を提供できる。また、本発明によれば、巻き軸方向の占積率を向上できる。
【0062】
また、付与厚みを本発明にかかるように増加させることによって、層間電圧に対する高い絶縁性能を発揮する一方、既存の電線よりも占積率およびインダクタンス特性が優れた電線を得られる。
【0063】
また、層間電圧に対して同等の絶縁特性を有する電線を提供するにあたり、隣接する導線(=ほとんど電位差が生じない導線)と接触する部分の電線の絶縁層厚をより薄くすることを可能とできる。
換言すれば、本発明に係る電線は、既存の電線(層間に当たる絶縁層の厚みと同一厚みの絶縁層を全周に有する電線)に対して、巻き線化後に同等の絶縁耐力を得る為に必要な容積を削減できている。またこのことは、電気部品としての同一容積内に多くの導線のターン数を確保できることとなる。また、電気部品としての同等性能を少ないターン数の導線で行える。即ち、導線に必要以上に付与されていた絶縁層を減じることで、巻き線に用いる高性能な電線を得られる。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明は、巻き線を有する電気部品全般に利用できる。また、本発明は、巻き線を有する電気部品全般の巻き線内で生ずるレイヤーショートを低減しつつ、高性能な電気部品を得ることに使用できる。電気部品としては、モータ、トランス、 チョークコイル、リアクトルなどに好適である。
【符号の説明】
【0065】
1 導線
2 絶縁被膜
3 絶縁被膜
4 絶縁層
5 樹脂
6 複合磁性体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導線の表面に絶縁層を有する電線において、
前記絶縁層は、前記導線の線方向に対して直交する一方向に偏心状に厚く設けられ、当該偏心状に設けられた絶縁層の厚みが他方の絶縁層よりも厚い
ことを特徴とする電線。
【請求項2】
請求項1記載の電線であって、
前記偏心状に厚く設けられた絶縁層は、前記他方の絶縁層の表面に、追加的に形成される
ことを特徴とする電線。
【請求項3】
請求項2記載の電線であって、
前記偏心状に厚く設けられた絶縁層の厚みは、当該電線を用いて作られる巻き線構造上の隣接する他層との間にかかる電圧値に耐えうるように、各層の導線間の距離が気中絶縁耐力の値と前記電圧値に基づいて定められる厚さ以上に設定される
ことを特徴とする電線。
【請求項4】
多層に巻かれた巻き線であって、
巻かれた電線の層間に当たる絶縁層は、他方向の絶縁層よりも厚く形成され、
前記厚く形成された絶縁層は、前記他方の絶縁層の表面に、多層形成されている
ことを特徴とする巻き線。
【請求項5】
請求項4記載の巻き線であって、
前記厚く形成された絶縁層厚は、前記層間に加わる層間電圧値に対する気中絶縁耐力の値に基づき定められ、
前記他方向に形成された絶縁層厚は、隣接する巻き線との気中絶縁耐力の値に基づき定められている
ことを特徴とする巻き線。
【請求項6】
請求項4又は5に記載の巻き線であって、
前記絶縁層は、塗装被膜で作られていることを特徴とする巻き線。
【請求項7】
請求項4又は5に記載の巻き線であって、
前記絶縁層は、貼り付け部材で作られていることを特徴とする巻き線。
【請求項8】
請求項4ないし7の何れか一項に記載の巻き線であって、
前記電線は、線方向と直交する断面が円又は略円であることを特徴とする巻き線。
【請求項9】
請求項4ないし7の何れか一項に記載の巻き線であって、
前記電線は、線方向と直交する断面が平角状であることを特徴とする巻き線。
【請求項10】
請求項4ないし9の何れか一項に記載の巻き線であって、
前記巻き線は、空芯コイルとして巻き廻した後、線間に絶縁性の樹脂または熱伝導率が前記樹脂よりも高いフィラーを含む樹脂を充填して硬化されていることを特徴とする巻き線。
【請求項11】
請求項10記載の巻き線であって、
前記電線の層間に当たる絶縁層の厚みを、空気よりも絶縁性に富む絶縁性気体の有する絶縁耐力の値に基づいて定められ、
前記絶縁性気体下で前記樹脂により巻き線の層間を密閉されている
ことを特徴とする巻き線。
【請求項12】
請求項4ないし11の何れか一項に記載の巻き線であって、
巻き線の構造上定まる印加される電線間電圧値を許容するように、前記電線間に当てる絶縁層の厚みを可変させながら偏心状に絶縁層を形成された電線で構成されている
ことを特徴とする巻き線。
【請求項13】
導線の表面に、前記導線の線方向に対して直交する一方向に偏心状に厚く設けられ、当該偏心状に設けられた絶縁層の厚みが他方の絶縁層よりも厚い絶縁層を有する電線を巻き廻した巻き線を有することを特徴とする電気部品。
【請求項14】
請求項13記載の電気部品であって、
前記偏心状に厚く設けられた絶縁層は、前記他方の絶縁層の表面に、多層形成されている
ことを特徴とする電気部品。
【請求項15】
請求項14記載の電気部品であって、
前記偏心状に厚く設けられた絶縁層の厚みは、当該電線を用いて作られる巻き線構造上の隣接する他層との間にかかる電圧値に耐えうるように、各層の導線間の距離が気中絶縁耐力の値と前記電圧値に基づいて定められる厚さ以上に設定されている
ことを特徴とする電気部品。
【請求項16】
請求項4ないし12の何れか一項に記載の巻き線によって作られたことを特徴とする電気部品。
【請求項17】
請求項16記載の電気部品であって、
前記巻き線の磁芯とする磁性体を注型法によって形成されていることを特徴とする電気部品。
【請求項18】
多層に巻き廻される平角状導線の一面に、巻かれた後の導線層間に加わる層間電圧値に対応した厚みを有する絶縁層が設けられ、他方の絶縁層の厚みが前記厚みよりも薄く設けられている電線を用いて、
前記電線を多層に巻き廻して多層コイルとするときに、前記電線に厚く設けられている絶縁層を、巻き終えた電線の層間に当たるように配置して空芯状に巻き廻し、
前記空芯の多層コイルの隣接導線間を熱伝導率を向上させるフィラーを含む樹脂で充填硬化し、
前記樹脂で線間を固定された多層コイルに、磁性体を含む樹脂で磁芯を形成した
形状であることを特徴とする電気部品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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