説明

電線・ケーブル用介在およびそれを備えた電線・ケーブル

【課題】環境への悪影響を抑制でき、電線・ケーブルの動作信頼性の高める介在を提供する。
【解決手段】介在5が、紙材でなる断面円形の芯線7と、この芯線7の全周面を被覆するバイオプラスチック層8とでなり、バイオプラスチック層8は、植物由来のポリ乳酸の重合体を含むバイオプラスチック樹脂などで形成することにより介在5の耐湿性を大幅に向上させている。このため、環境への悪影響を抑制でき、電線・ケーブル1の動作信頼性を高めることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電線・ケーブル用介在およびそれを備えた電線・ケーブルに関する。
する。
【背景技術】
【0002】
一般に、図6に示すような電線・ケーブル100が知られている。この電線・ケーブル100は、導体101に絶縁体102を被覆してなる複数(図6では3)本の絶縁線心103が撚り合わされ、これら絶縁線心103の撚り合わせの隙間を埋める電線・ケーブル用介在(以下、介在という。)104が配され、その外周に押さえ巻テープ105が巻き回され、さらにその外側に保護被覆であるシース106が設けられたものが知られている。
【0003】
従来の介在104は、撚り合わされた絶縁線心の隙間を埋めるように巻き付けるタイプと、溶融状態にある合成樹脂を押し出して、撚り合わされた絶縁線心の隙間を埋めるように充填させる合成樹脂押出タイプとがある。
【0004】
上述の巻き付けるタイプの介在としては、ジュート,綿糸,紙紐などの繊維質材料、ポリプロピレンなどのテープや紐がある。このタイプの介在は、軽量で低コストである。しかし、上記繊維質材料でなる介在は、吸湿性が高いという問題点がある。このため、維質材料の介在を用いた電線・ケーブルは、多湿な場所や、端末から水が浸入する虞のある場所での使用は制限を受ける。また、このタイプの介在では、使用時にジュート屑、紙屑が発生するという欠点がある。また、ポリプロピレンなどのテープや紐でなる介在は、耐湿性に優れる反面、燃えやすいという難点がある。
【0005】
また、上述の合成樹脂押出タイプの介在としては、塩化ビニル樹脂などの合成樹脂を挙げることができる。このタイプの介在は、絶縁線心の絶縁体(被覆)と粘着しやすいため分別・廃棄などの過程で絶縁線心と分離させにくいという問題と、合成樹脂の比重が大きいため電線・ケーブル全体が重くなるという問題と、固化した合成樹脂が硬くなるため電線の可撓性に影響を与える問題とを有する。
【0006】
上述した介在の問題点を解消するための従来の技術として、図7に示すように紙基材107の両面にポリエチレンやポリエステルなどのプラスチックフィルム108を積層したテープ状の介在104が知られている(例えば、特許文献1参照)。この介在104は、幅の狭いシート状の紙基材の両面にプラスチックフィルム108を積層したものを用いたり、幅の広い紙基材の両面にプラスチックフィルム108を積層したものをスリット加工してテープ状にしたものを用いるようになっている。したがって、図7に示すように、個々の介在104は、幅方向の両側面で紙基材107が露出している。
【特許文献1】特開平10−255558号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、図7に示した従来の介在104は、以下に説明するような複数の問題点がある。
(イ)介在104には、プラスチックフィルム108が積層されているため、織り絞り加工を施しにくいという問題がある。
(ロ)介在104は、ジュート、綿糸、紙紐などの繊維質材料でなる介在に比較して耐湿性は優れているが、幅方向の両側面で紙基材107が長手方向に沿って露出しているため、依然、耐湿性の点や、ジュート屑、紙屑などが発生する点で問題を残している。
(ハ)介在104は横断面形状が長方形形であるため、絶縁線心103の周面や介在104同士で当接する部分が角部である場合と側面部もしくは両表面部などの平面部である場合とで密着度合に異方性がある。このような理由から、介在104は、線状の繊維質材料でなる介在に比較して、絶縁線心に対する密着性が劣るという問題がある。同様の理由から、複数の介在104を用いて絶縁線心同士の隙間を埋める場合に、絶縁線心103と介在104との束の断面形状が円形になりにくく、電線・ケーブルの最終形状に影響を与えるという問題がある。すなわち、テープ状の介在104では、絶縁線心103同士の隙間を埋めた場合に電線・ケーブルの断面が円形となりにくいという問題がある。
(ニ)介在104に含まれるポリプロピレンなどでなるプラスチックフィルム108は、石油由来の樹脂であるため、資源、環境などの将来を考えると問題点を有する。
【0008】
本発明は上記諸問題に着目して創案されたものであって、その目的は、紙屑などの環境汚損が抑制され、焼却廃棄した場合にダイオキシン類の発生がなく、発生する二酸化炭素の環境に対する収支が0になり、しかも、電線・ケーブルの断面形状を円形に仕上げ易く、耐湿性の高い介在、およびこの介在を備えた電線・ケーブルを提供することにある。すなわち、本発明は、環境への悪影響を抑制でき、電線・ケーブルの動作信頼性を高める介在およびこの介在を備えた電線・ケーブルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで、本発明の第1の特徴は、介在であって、紙材でなる断面円形の芯線と、この芯線の全周面を覆うバイオプラスチック層とを含むことを要旨としている。
【0010】
バイオプラスチック層としては、植物由来のポリ乳酸の重合体、ポリカプロラクトン、コポリエステルから選ばれるバイオプラスチック樹脂を用いることが好ましい。このバイオプラスチック樹脂は、主に澱粉や糖の含有量の多いトウモロコシやサトウキビなどから製造されるが、木、生ゴミ、牛乳などからも製造されるものであってもよい。
【0011】
芯線としては、紙パルプを線状に加工してなるペーパーワイヤであることが好ましい。このように加工してなる介在は、製造時に紙屑が発生しにくい。
【0012】
また、バイオプラスチック層は、束ねた複数本の芯線を一体的に覆う構成としてもよい。このように複数の芯線を束ねることで、所望の径寸法の介在を一定の径寸法の芯線を用いて作製することが可能となり、複数の径寸法の芯線を用意する必要がなくなる。
【0013】
本発明の第2の特徴は、それぞれ線状の導体に絶縁体が被覆されてなり、互いに撚り合わされた複数の絶縁線心と、少なくとも複数の絶縁線心同士の隙間を埋めるように配された複数本の介在と、前記絶縁線心と前記介在とを含む束の最外側に設けられるシースと、を少なくとも備える電線・ケーブルであって、介在は、紙材でなる断面円形の芯線と、前記芯線の全周面を覆うバイオプラスチック層とを含むことを要旨とする。なお、介在は、絶縁線心同士の隙間を埋めるだけでなくこれらの絶縁線心を包囲するよう配しても勿論よい。
【0014】
第2の特徴に係る発明は、バイオプラスチック層としては、植物由来のポリ乳酸の重合体を含むことが好ましく、芯線としては、紙パルプを線状に加工してなるペーパーワイヤであることが好ましい。また、バイオプラスチック層は、束ねた複数本の芯線を一体的に覆う構成としてもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、環境への悪影響を抑制でき、電線・ケーブルの動作信頼性の高める介在およびこの介在を備えた電線・ケーブルを実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態に係る介在およびこれを備えた電線・ケーブルの詳細を図面に基づいて説明する。
(第1の実施の形態)
図1は本発明の第1の実施の形態に係る電線・ケーブル1の断面図、図2は複数の介在5を示す斜視図、図3は複数の絶縁線心9を撚った状態を示す斜視図、図4は撚った複数の絶縁線心9に介在9を添える状態を示す斜視図である。
【0017】
図1に示すように、電線・ケーブル1は、 撚り合わされた3本の絶縁線心4と、これら絶縁線心4同士の隙間9(図3および図4参照)を埋める複数本の介在5と、絶縁線心4に介在5を添えた束の外周を巻き回された押さえ巻テープ10と、押さえ巻テープ10の外側周面を覆うチューブ状のシース6とを備えて構成されている。
【0018】
図1、図3および図4に示すように、絶縁線心4は、例えば銅線材からなる導体2が、例えばポリエチレンなどの電気絶縁性を有する樹脂でなる絶縁体3で被覆されてなる。
【0019】
介在5は、紙材でなる断面円形の芯線7と、この芯線7の全周面を被覆するバイオプラスチック層8とでなる。この介在5は、絶縁線心4の本数や径寸法に応じて例えば1〜7mm程度の径寸法とすればよい。具体的には、例えば径寸法が2.6mmの絶縁線心4を3本撚る場合は、介在5の径寸法を1.3mmの介在5を12〜15本程度、隙間9に添えることができる。
【0020】
芯線7は、紙材を断面円形状に加工したものであればよいが、最初から紙パルプを断面が円形の線状に加工してなるペーパーワイヤであることが好ましい。
【0021】
バイオプラスチック層8は、植物由来のポリ乳酸の重合体などを含むバイオプラスチック樹脂を用いることが好ましい。バイオプラスチック樹脂とは、主原料が植物・生物を原料として生成された高分子樹脂である。このバイオプラスチック樹脂は、主に澱粉や糖の含有量の多いトウモロコシやサトウキビなどから製造されるが、木、生ゴミ、牛乳などからも製造されるものであってもよい。バイオプラスチック樹脂のうち、植物由来のものではトウモロコシなどの乳酸から生成されるポリ乳酸、ポリカプロラクトン、コポリエステルなどある。
【0022】
ポリカプロラクトンは、脂肪族ポリエステルの1つで、ポリプロピレンに近似した半硬質系結晶性プラスチックである。また、微生物由来のものではポリ(3−ヒドロキシブチレート)、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−ヒドロキシバリレート)などがある。この他の生物由来のものではキトサンなどが挙げられる。このような樹脂の中でも、耐熱性、力学的特性、透明性などの実用性能や、樹脂重合などの生産性、コストなどの観点から、ポリ乳酸、またはポリ乳酸とその他樹脂との複合物が好ましい。
【0023】
バイオプラスチック樹脂の多くは、生分解性プラスチックとしての性質を持つ。このようなバイオプラスチック樹脂は、介在5の被覆として使用しているときは通常のプラスチックと同様に用いることができ、使用後に廃棄処理する際に自然界の微生物によって分解させることができ、廃棄に伴って環境に悪影響を与えないとう性質がある。
【0024】
押さえ巻テープ10は、周知の樹脂製のテープを用いてもよいし、バイオプラスチック樹脂を含んでなるものを用いてもよい。また、シース6は、周知の樹脂製の保護材料、例えばオレフィン系ポリマーを基剤としたハロゲン元素を含まない絶縁保護材料などを用いることができる。
【0025】
上記した介在5は、断面円形の芯線7がバイオプラスチック層8で被覆されているため、電線・ケーブル1の端末処理を行う場合などに紙屑が発生しにくく環境を汚損することを抑制できる。
【0026】
介在5は、周囲がバイオプラスチック層8で被覆されているため、従来のジュート、綿糸、紙紐などの繊維質材料でなる介在や紙テープの両面にプラスチックフィルムが積層された従来の介在に比較して、耐湿性が大幅に向上している。
【0027】
介在5は、横断面形状が円形であるため、絶縁線心4の周面や介在5同士で当接する際に密着度合いに異方性がない。このため、複数の介在5を用いて絶縁線心4同士の隙間を埋めたときに、絶縁線心4と介在5との束の断面形状を円形にしやすくなり、電線・ケーブル1の断面を円形に加工しやすい。
【0028】
介在5のバイオプラスチック層8は、石油由来の樹脂でないため焼却廃棄する場合にダイオキシン類の発生がない。バイオプラスチック樹脂は、植物などの生物が大気中の二酸化炭素(CO2)を固定して生成した物質を用いた材料であるため、それを焼却廃棄してもCO2収支はゼロとなるため二酸化炭素の増減に影響を与えない所謂カーボンニュートラルの性質を有しており、環境に悪影響を与えないという効果がある。
【0029】
したがって、このような介在5を備えた電線・ケーブル1も上記の効果を有する。特に、本実施の形態に係る電線・ケーブル1では、紙屑が発生しないことと、耐湿性が大幅に向上しているため、環境への悪影響が抑制でき、動作信頼性が向上している。
(第2の実施の形態)
次に、本発明の第2の実施の形態に係る介在について図5を参照して説明する。なお、図5は介在5Aの断面を示している。
【0030】
図5に示すように、本実施の形態に係る介在5Aは、2本の芯線7を並行に配置してこれら芯線7をバイオプラスチック層8で一体的に覆った構造を有している。本実施の形態では、2本の芯線7を束ねたことにより、介在5Aの径寸法を大きくすることができる。このため、細い芯線7を束ねて太い介在5Aを作製することができるため、芯線7の種類を増やす必要がなく、製造コストを低く抑える効果がある。なお、本実施の形態では、2本の芯線7を束ねたが、複数の芯線7を束ねる必要がある場合は、断面が円形に近い形状となるように3本以上を束ねることが好ましい。
(その他の実施の形態)
以上、第1および第2の実施の形態について説明したが、この実施例の開示の一部をなす論述及び図面はこの発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施の形態、実施例及び運用技術が明らかとなろう。
【0031】
例えば、上記第1の実施の形態では、絶縁線心4が3本の場合に本発明を適用して説明したが、絶縁線心4が2本もしくは4本以上の場合にも適用できることは云うまでもない。
【0032】
また、上記第1の実施の形態では、バイオプラスチック樹脂でバイオプラスチック層8を形成したが、バイオプラスチック樹脂に例えばケナフ繊維を添加して耐熱性や機械強度を強化する構成とすることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る電線・ケーブルの断面図である。
【図2】第1の実施の形態に係る介在を示す斜視図である。
【図3】第1の実施の形態に係る電線・ケーブルの絶縁線心を撚った状態を示す斜視図である。
【図4】第1の実施の形態に係る電線・ケーブルにおいて、撚った複数の絶縁線心に介在を添えた状態を示す斜視図である。
【図5】本発明の第2の実施の形態に係る介在の断面図である。
【図6】従来の電線・ケーブルの断面図である。
【図7】従来の介在を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0034】
1…電線・ケーブル
2…導体
3…絶縁体
4…絶縁線心
5、5A…介在
6…シース
7…芯線
8…バイオプラスチック層
9…隙間
10…押さえ巻きテープ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
紙材でなる断面円形の芯線と、
前記芯線の全周面を覆うバイオプラスチック層と、
を含むことを特徴とする電線・ケーブル用介在。
【請求項2】
前記バイオプラスチック層は、植物由来のポリ乳酸の重合体、ポリカプロラクトン、コポリエステルから選ばれることを特徴とする請求項1に記載の電線・ケーブル用介在。
【請求項3】
前記芯線は、紙パルプを線状に加工してなるペーパーワイヤであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の電線・ケーブル用介在。
【請求項4】
前記バイオプラスチック層は、束ねた複数本の前記芯線を一体的に覆うことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の電線・ケーブル用介在。
【請求項5】
それぞれ線状の導体に絶縁体が被覆されてなり、互いに撚り合わされた複数の絶縁線心と、少なくとも前記複数の絶縁線心同士の隙間を埋めるように配された複数本の電線・ケーブル用介在と、前記絶縁線心と前記電線・ケーブル用介在とを含む束の最外側に設けられるシースと、を備え、
前記電線・ケーブル用介在は、請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の電線・ケーブル用介在であることを特徴とする電線・ケーブル。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2010−27387(P2010−27387A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−187371(P2008−187371)
【出願日】平成20年7月18日(2008.7.18)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【Fターム(参考)】