説明

電線及びコイル

【課題】Cu線と比較して渦電流による損失を同等か又は小さくすることができ、交流抵抗を低減可能となる電線を提供する。
【解決手段】アルミニウム又は銅被覆アルミニウムからなる導体部31を備える電線であって、電線の交流抵抗値が、導体部31と同じ線径及び同じ長さからなる銅線の交流抵抗値に一致する、導体部31の体積抵抗率を断面積で除した単位長さ当たりの直流抵抗値が、直流抵抗値をRdc(mΩ/cm)、第2の周波数をf2(kHz)としたとき、


の関係で規定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電線及びコイルに関する。
【背景技術】
【0002】
高周波電流を通電する機器(変圧器、モータ、リアクトル、誘導加熱装置及び磁気ヘッド装置等)の巻線及び給電ケーブルにおいては、その高周波電流により発生した磁界によって導体内に渦電流損が生じ、その結果として交流抵抗(高周波抵抗)が増大(表皮効果及び近接効果が増大)することとなって発熱及び消費電力増大を引き起こす。表皮効果及び近接効果の増大を抑止する対策として、一般的には線の細径化と各素線を絶縁被覆したリッツ線の採用で図られている(例えば、特許文献1〜5参照。)。
【0003】
巻き線等に使用される電線の一つとして、例えばアルミニウム線(以下、「Al線」という。)の表面に銅層を薄肉で被覆した銅被覆アルミニウム線(以下、「CCA線」という。)が知られている。しかしながら、高周波電線が使用される特定の周波数帯域において、高周波電線の交流抵抗を、同じ線径等の銅線(以下、「Cu線」という。)の交流抵抗よりも一概に低減することは困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−129550号公報
【特許文献2】特開昭62−76216号公報
【特許文献3】特開2005−108654号公報
【特許文献4】国際公開第2006/046358号
【特許文献5】特開2002−150633号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記問題点を鑑み、本発明の目的は、基準とするCu線と比較して渦電流による損失を同等か又は小さくすることができ、交流抵抗を低減可能となる電線及びコイルを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様によれば、アルミニウム又は銅被覆アルミニウムからなる直径0.4mm〜2.3mmの導体部を備える電線であって、電線の交流抵抗値が、導体部と同じ線径及び同じ長さからなる銅線の交流抵抗値に一致する、第1の周波数及び第1の周波数よりも周波数の大きい第2の周波数を有し、第1の周波数から第2の周波数までの周波数帯域に、電線が使用される周波数が収まるように導体部の体積抵抗率が規定され、第2の周波数が電線が使用される周波数の上限値以上となるように、導体部の体積抵抗率を断面積で除した単位長さ当たりの直流抵抗値が、直流抵抗値をRdc(mΩ/cm)、第2の周波数をf2(kHz)としたとき、
【数1】

【0007】
の関係で規定されている電線が提供される。
【0008】
本発明の他の態様によれば、電線を素線として用いたコイルであって、電線がアルミニウム又は銅被覆アルミニウムからなる直径0.4mm〜2.3mmの導体部を備え、電線の交流抵抗値が、導体部と同じ線径及び同じ長さからなる銅線の交流抵抗値に一致する、第1の周波数及び第1の周波数よりも周波数の大きい第2の周波数を有し、第1の周波数から第2の周波数までの周波数帯域に、コイルが使用される周波数が収まるように導体部の体積抵抗率が規定され、第2の周波数がコイルが使用される周波数の上限値以上となるように、導体部の体積抵抗率を断面積で除した単位長さ当たりの直流抵抗値が、直流抵抗値をRdc(mΩ/cm)、第2の周波数をf2(kHz)としたとき、
【数2】

【0009】
の関係で規定されているコイルが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1(a)は、本発明の第1の実施の形態に係る電線の一例を示す断面図である。図1(b)は、本発明の第1の実施の形態に係る電線の他の一例を示す断面図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態に係る表皮効果を説明するための模式図である。
【図3】本発明の第1の実施の形態に係る近接効果を説明するための模式図である。
【図4】本発明の第1の実施の形態に係る近接効果を説明するための他の概略図である。
【図5】2層構造の導線の断面図である。
【図6】電流が流れている導線表面の電磁界を示す概略図である。
【図7】外部磁界が印加された場合の2層構造の導線の断面図である。
【図8】外部磁界が印加された場合の導線表面の電磁界を示す概略図である。
【図9】本発明の第1の実施の形態に係る各電線及び比較例に係るCu線についての周波数と交流抵抗との関係を表したグラフである。
【図10】本発明の第1の実施の形態に係る黄銅線及び比較例に係るCu線を素線として用いた磁場発生コイルの作製条件を表した表である。
【図11】本発明の第1の実施の形態に係る黄銅線及び比較例に係るCu線を素線として用いた磁場発生コイルの周波数と交流抵抗との関係を表すグラフである。
【図12】本発明の第1の実施の形態に係る黄銅線及び比較例に係るCu線を素線として用いた磁場発生コイルの周波数と交流抵抗との関係を表す表である。
【図13】本発明の第1の実施の形態に係る黄銅線及びCu線についての周波数と交流抵抗との関係を表したグラフである。
【図14】本発明の第1の実施の形態に係る近接効果成分と表皮効果成分の周波数と交流抵抗との関係を表したグラフである。
【図15】本発明の第1の実施の形態に係る各種材料の交流抵抗及びCu線との交流抵抗比の計算結果を表す表である。
【図16】本発明の第1の実施の形態に係る電線の設計装置の一例を示す概略図である。
【図17】本発明の第1の実施の形態に係る電線の設計方法及び製造方法の一例を説明するためのフローチャートである。
【図18】本発明の第2の実施の形態に係る電線の一例を示す断面図である。
【図19】本発明の第2の実施の形態に係るCCA線及びCu線における周波数と交流抵抗との関係を表したグラフである。
【図20】高周波トランスの一次巻線電流波形を表すグラフである。
【図21】基準周波数及び高調波成分を説明するためのグラフである。
【図22】CCA巻線と銅巻線の損失を表す表である。
【図23】本発明の第2の実施の形態に係る電線の設計装置の一例を示す概略図である。
【図24】本発明の第2の実施の形態に係る電線の設計方法の一例を説明するためのフローチャートである。
【図25】本発明の第2の実施の形態の第1の実施例に係る電気モータの一例を示す概略図である。
【図26】比較例に係るCu線をコイルに使用した場合の動作周波数20Hz時の電流応答を表すグラフである。
【図27】比較例に係るCu線をコイルに使用した場合の動作周波数50Hz時の電流応答を表すグラフである。
【図28】図26と図27を重ね合せた応答を表すグラフである。
【図29】図26の電流の周波数スペクトルを表すグラフである。
【図30】比較例に係る半径が0.8mmのCu線の表皮効果による高周波抵抗を表すグラフである。
【図31】比較例に係る半径が0.8mmのCu線の近接効果による高周波損失(H=1A/mm)を表すグラフである.
【図32】比較例に係るCu線で巻いたコイルの高周波抵抗静特性を表すグラフである。
【図33】比較例に係るCu線で巻いたコイルの高周波抵抗動特性を表すグラフである。
【図34】本発明の第2の実施の形態の第1の実施例に係るCCA線、Al線及び比較例に係るCu線で巻いたコイルの高周波抵抗静特性(その1)を表すグラフである。
【図35】本発明の第2の実施の形態の第1の実施例に係るCCA線、Al線及び比較例に係るCu線で巻いたコイルの高周波抵抗静特性(その2)を表すグラフである。
【図36】本発明の第2の実施の形態の第1の実施例に係るCCA線、Al線及び比較例に係るCu線で巻いたコイルの高周波抵抗動特性(その1)を表すグラフである。
【図37】本発明の第2の実施の形態の第1の実施例に係るCCA線、Al線及び比較例に係るCu線で巻いたコイルの高周波抵抗動特性(その2)を表すグラフである。
【図38】本発明の第2の実施の形態の第1の実施例において異なるα値に対してCCA線がCu線より動特性高周波抵抗が小さくなる周波数帯域を表す表である。
【図39】本発明の第2の実施の形態の第1の実施例において異なる半径r値に対してCCA線がCu線より動特性高周波抵抗が小さくなる周波数帯域を表す表である。
【図40】本発明の第2の実施の形態の第2の実施例に係る電気モータの一例を示す概略図である。
【図41】半径が1.0mmの本発明の第2の実施の形態の第2の実施例に係るCCA線、Al線及び比較例に係るCu線の表皮効果による高周波抵抗を表すグラフである。
【図42】半径が1.0mmの本発明の第2の実施の形態の第2の実施例に係るCCA線、Al線及び比較例に係るCu線の近接効果による高周波損失(H=1A/mm)を表すグラフである。
【図43】本発明の第2の実施の形態の第2の実施例に係るCCA線、Al線及び比較例に係るCu線で巻いたコイルの高周波抵抗静特性(その1)を表すグラフである。
【図44】本発明の第2の実施の形態の第2の実施例に係るCCA線、Al線及び比較例に係るCu線で巻いたコイルの高周波抵抗静特性(その2)を表すグラフである。
【図45】本発明の第2の実施の形態の第2の実施例に係るCCA線、Al線及び比較例に係るCu線で巻いたコイルの高周波抵抗動特性(その1)を表すグラフである。
【図46】本発明の第2の実施の形態の第2の実施例に係るCCA線、Al線及び比較例に係るCu線で巻いたコイルの高周波抵抗動特性(その2)を表すグラフである。
【図47】本発明の第2の実施の形態の第2の実施例において異なるα値に対してCCA線がCu線より動特性高周波抵抗が小さくなる周波数帯域を表す表である。
【図48】本発明の第2の実施の形態の第2の実施例において異なる半径r値に対してCCA線がCu線より動特性高周波抵抗が小さくなる周波数帯域を表す表である。
【図49】本発明の第2の実施の形態の第3の実施例に係る電気モータの一例を示す概略図である。
【図50】半径が1.2mmの本発明の第2の実施の形態の第3の実施例に係るCCA線、Al線及び比較例に係るCu線の表皮効果による高周波抵抗を表すグラフである。
【図51】半径が1.2mmの本発明の第2の実施の形態の第3の実施例に係るCCA線、Al線及び比較例に係るCu線の近接効果による高周波損失(H=1A/mm)を表すグラフである。
【図52】本発明の第2の実施の形態の第3の実施例に係るCCA線、Al線及び比較例に係るCu線で巻いたコイルの高周波抵抗静特性(その1)を表すグラフである。
【図53】本発明の第2の実施の形態の第3の実施例に係るCCA線、Al線及び比較例に係るCu線で巻いたコイルの高周波抵抗静特性(その2)を表すグラフである。
【図54】本発明の第2の実施の形態の第3の実施例に係るCCA線、Al線及び比較例に係るCu線で巻いたコイルの高周波抵抗動特性(その1)を表すグラフである。
【図55】本発明の第2の実施の形態の第3の実施例に係るCCA線、Al線及び比較例に係るCu線で巻いたコイルの高周波抵抗動特性(その2)を表すグラフである。
【図56】本発明の第2の実施の形態の第3の実施例において異なるα値に対してCCA線がCu線より動特性高周波抵抗が小さくなる周波数帯域を表す表である。
【図57】本発明の第2の実施の形態の第3の実施例において異なる半径r値に対してCCA線がCu線より動特性高周波抵抗が小さくなる周波数帯域を表す表である。
【図58】図58(a)は、本発明の第3の実施の形態に係る電線の一例を示す断面図である。図58(b)は、本発明の第3の実施の形態に係る電線の他の一例を示す断面図である。
【図59】本発明の第3の実施の形態に係る黄銅線及びCu線における周波数と交流抵抗との関係を表したグラフである。
【図60】本発明の第3の実施の形態に係る電線の材料及び線径をふって測定した基準直流抵抗及び第2の周波数を表したグラフである。
【図61】本発明の第3の実施の形態に係る基準直流抵抗と第2の周波数との関係を表したグラフである。
【図62】黄銅巻線と銅巻線の損失を表す表である。
【図63】本発明の第3の実施の形態に係る電線の設計装置の一例を示す概略図である。
【図64】本発明の第3の実施の形態に係る電線の設計方法及び製造方法の一例を説明するためのフローチャートである。
【図65】本発明の第4の実施の形態に係る高周波電線の一例を示す断面図である。
【図66】比較例に係るCu線の磁界強度分布を表すグラフである。
【図67】比較例に係るCu線の電流密度分布を表すグラフである。
【図68】本発明の第4の実施の形態に係る高周波電線の材料の体積抵抗率を表す表である。
【図69】比較例に係るCu線の磁界強度分布を表す他のグラフである。
【図70】比較例に係るCu線の損失分布を表すグラフである。
【図71】本発明の第4の実施の形態に係るケイ素青銅線の磁界強度分布を表すグラフである。
【図72】本発明の第4の実施の形態に係るケイ素青銅線の損失分布を表すグラフである。
【図73】本発明の第4の実施の形態に係る黄銅線の磁界強度分布を表すグラフである。
【図74】本発明の第4の実施の形態に係る黄銅線の損失分布を表すグラフである。
【図75】本発明の第4の実施の形態に係るリン青銅線の磁界強度分布を表すグラフである。
【図76】本発明の第4の実施の形態に係るリン青銅線の損失分布を表すグラフである。
【図77】本発明の第4の実施の形態に係る黄銅線、リン青銅線及びケイ素青銅線と、比較例に係るCu線の周波数と交流抵抗(近接効果成分)との関係を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
次に、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付している。ただし、図面は模式的なものであり、厚みと平面寸法との関係、各層の厚みの比率等は現実のものとは異なることに留意すべきである。したがって、具体的な厚みや寸法は以下の説明を参酌して判断すべきものである。又、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることはもちろんである。
【0012】
また、以下に示す実施の形態は、この発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、この発明の技術的思想は、構成部品の材質、形状、構造、配置等を下記のものに特定するものでない。この発明の技術的思想は、特許請求の範囲において、種々の変更を加えることができる。
【0013】
(第1の実施の形態)
<電線の構造>
本発明の第1の実施の形態に係る電線は、図1(a)に示すように、特定の周波数帯域で使用される電線であって、銅よりも体積抵抗率が高い材料からなる導体部11を備える。本発明の第1の実施の形態に係る電線において、特定の周波数帯域における基準とするCu線の近接効果による交流抵抗に対する導体部11の近接効果による交流抵抗の比が1未満となるように、導体部11の体積抵抗率が規定されている。
【0014】
ここで、「特定の周波数帯域」は、その電線(製品)が使用される範囲として規定(設定)された周波数帯域を意味する。「特定の周波数帯域」の上限値、下限値及び範囲は個々の製品の仕様に応じて適宜設定されるものであり、特に限定されない。「特定の周波数帯域」は、例えば数kHz〜100kHz程度、又は10kHz〜1MHz程度であっても良いし、IH調理器の場合、20kHz〜60kHz程度であっても良い。日本、米国、欧州の商用電源周波数をそのまま使用する製品であれば50Hz〜60Hz程度であっても良い。また、「基準とするCu線」は、予め規定(設定)されるものであり、導体部11と同じ線径であっても良いし異なる線径であっていても良い。
【0015】
導体部11の直径は、0.05mm〜0.6mm程度が望ましいが、特に限定されるものではない。導体部11の材料としては、黄銅、リン青銅、ケイ素青銅、銅・ベリリウム合金、及び銅・ニッケル・ケイ素合金等の銅合金が使用可能である。黄銅は、銅(Cu)及び亜鉛(Zn)を含む合金(Cu−Zn)であり、銅と亜鉛以外の少量の元素が含まれていても良い。ケイ素青銅は、銅、スズ(Sn)及びケイ素(Si)を含む合金(Cu−Sn−Si)であり、銅、スズ及びケイ素以外の少量の元素が含まれていても良い。リン青銅は、銅、スズ及びリン(P)を含む合金(Cu−Sn−P)であり、銅、スズ及びリン以外の少量の元素が含まれていても良い。
【0016】
これらの銅合金線は、スズ、銅又はクロム(Cr)等のメッキ処理がされていても良い。また、導体部11は円筒状の他、平角状等の種々の形状を有していても良い。
【0017】
また、本発明の第1の実施の形態に係る電線は、図1(b)に示すように、アルミニウム(Al)又はアルミニウム合金からなる中心導体12と、中心導体12を被覆する銅(Cu)からなる被覆層13とを導体部11として備えるCCA線であっても良い。
【0018】
CCA線全体の直径は、0.05mm〜0.6mm程度が望ましい。被覆層13の断面積は、中心導体12及び被覆層13を合わせた電線全体の断面積に対して15%以下であり、3%〜15%程度が望ましく、より望ましくは3%〜10%程度、更に望ましくは3%〜5%程度である。被覆層13の電線全体に対する断面積の比が小さいほど、交流抵抗を低減することができる。中心導体12としては、例えば電気用アルミニウム(ECアルミニウム)又はAl−Mg−Si系合金(JIS6000番台)のアルミニウム合金が使用可能であるが、アルミニウム合金の方がECアルミニウムよりも体積抵抗率が大きいためにより望ましい。
【0019】
通常、変圧器又はリアクトル等の巻線には、Cu線をポリウレタン、ポリエステル、ポリエステルイミド、ポリアミドイミド又はポリイミド等で絶縁被覆したものが用いられる。同軸ケーブルにおいては高周波電流信号であるために表皮効果特性を勘案し、例えばCCA線が用いられる。
【0020】
図2に示すように、導体においては、導体内の磁束によって導体内に渦電流が流れ、その渦電流が表皮効果として交流抵抗を増大させる。また、図3及び図4に示すように外部磁束により導体内に渦電流が流れ、その渦電流が近接効果として交流抵抗を増大させる。
【0021】
交流抵抗Racは、直流抵抗成分をRdc、表皮効果による交流抵抗をRs、近接効果による交流抵抗(近接効果成分)をRpとして、次式(1)で表される。
【0022】

ac=(1+k)Rdc+Rp

=Rs+Rp …(1)

ここで、kは表皮効果係数を表す。
【0023】
まず、本発明の第1の実施の形態における表皮効果による交流抵抗Rの計算手法の一例を説明する。図5に示すように、z方向に均一に分布する2層構造の円筒状導線について考える。導線の内層、外層の導電率をそれぞれσ,σと仮定し、導線のz方向に電流が流れているとする。
【0024】
以下の定式化において、各電磁界は複素表現を使用し、時間因子をejωtとする。ただし、ωは角周波数を表す。
【0025】
電流により、電界のz方向成分Eが生成され、それが以下の波動方程式(2)を満たす。

【数3】

【0026】
ただし、μ0は真空中の透磁率を表す。また、磁界Hθはθ方向成分のみを有し、次のように与えられる。

【数4】

【0027】

ここで、

【数5】

【0028】
をおくと、波動方程式(2)の解は次のようにおくことができる。

【数6】

【0029】
ただし、Jν(z)は第1種Bessel関数を表し、

であり、

は第1種Hankel関数を表す。
【0030】
r=bでE,Hθが連続となる境界条件により、

【数7】

【0031】
となる。ただし、

【数8】

【0032】
である。ここで、

であり、

である。
【0033】
また、式(3)より、次式(12)が得られる。

【数9】



の法則より、導線に流れる全電流Iは次のように得られる。

【数10】

【0034】
ただし、

【0035】
は横断面における導線の外周に沿う線積分を表す。式(13)に式(8),(9)を代入すると、次式(14)が得られる。

【数11】

【0036】
一方、図6に示す導線に流れ込むパワーフローはPoyntingベクトルより次式(15)のように計算される。

【数12】

【0037】

ここで、

【0038】
は図6における導線の円筒状の表面積分を表し、

は法線方向に向くベクトル面素を表す。

はPoyntingベクトルであり、arはr方向の単位ベクトルである。
【0039】
式(15)に式(7),(12)を代入すると、次式(16)が得られる。

【数13】

【0040】
ここで、

により、次式(17)が得られる。

【数14】

【0041】
したがって、表皮効果による単位長さ当たりの交流抵抗は、次のように与えられる。

【数15】

【0042】
ただし、

は実数部を表し、周波数を0としたときの値が、直流抵抗Rdcである。
【0043】
導線が一層構造の場合、σ1=σ2,式(10)及び式(11)より、

【数16】

【0044】
となり、式(18)は、

【数17】

【0045】
となる。
【0046】
次に、本発明の第1の実施の形態における近接効果成分Rの計算手法の一例を説明する。図7に示すように、導線の外部にx方向の高周波磁界Hが、x方向の単位ベクトルをaとして、次のように印加されているとする。

【数18】

【0047】
ここで、H=∇×Aを満たす磁気ポテンシャル

【数19】

【0048】
を導入すると、外部ポテンシャル

【数20】

【0049】
は式(22)の磁界を与える。
【0050】
磁気ポテンシャルは次の波動方程式(25)を満たす。

【数21】

【0051】
ただし、μは真空中の透磁率を表す。
【0052】
式(25)の解は、次のようにおくことができる。

【数22】

【0053】
各境界で磁界の接線成分(Hθ)と磁束密度の法線成分(μ0Hr)が連続になる境界条件により、

【数23】

【0054】
となる。ただし、

【数24】

【0055】
である。ここで、

であり、

である。
【0056】
また、磁界Hθは次のように得られる。

【数25】

【0057】
また、電界Eは次のように得られる。

【数26】

【0058】
図8に示す導線表面から導線内部に入り込むパワーフローは次式(38)のように計算される。

【数27】

【0059】
ただし、

はPoyntingベクトルを表し、

は図8における導線表面における面積分を表す。
【0060】
式(36),(37)を式(38)に代入すると、次式(39)が得られる。

【数28】

【0061】
ただし、

【数29】

【0062】

である。導線の損失Pは、次のように求められる。

【数30】

【0063】

導線が一層構造の場合、σ1=σ2,式(34)及び式(35)より、

【数31】

【0064】
となり、式(43)は次式(46)となる。

【数32】

【0065】

トランス、リアクトル等のように、一本の導線でコイル等を巻いた場合、外部磁界は導線中を流れる電流によって作られる。その場合、次式(47)のように外部磁界の強さ|H0|は電流の大きさ|I|に比例する。

【数33】

【0066】
ただし、αは比例係数であり、導線の巻き方に依存する。これを式(43)に代入することにより、近接効果による単位長さ当たりの抵抗Rは、次のように与えられる。

【数34】

【0067】
図9に示すように、本発明の第1の実施の形態に係る黄銅線、リン青銅線、ケイ素青銅線及び比較例に係るCu線の外部磁界強度Hが1(A/mm)における近接効果による交流抵抗を、上述した式(48)を用いて計算により求めた。図9から、所定の周波数帯域において、黄銅線、リン青銅線、ケイ素青銅線の交流抵抗がCu線の交流抵抗よりも小さくなることが分かる。
【0068】
図10に示すように、本発明の第1の実施の形態に係る黄銅線及び比較例に係るCu線について、直径0.4mm、長さ6.6mの素線を55本用いて、17ターンでリッツ線構造とし、IH調理器用の磁場発生コイルを作製し、それらについて特性確認試験を行った。試験結果を図11及び図12に示す。IH調理器には、一般的に20kHz〜60kHz程度の高周波電流が使用されるが、20kHz〜60kHz程度を含む周波数帯域では、黄銅線の交流抵抗がCu線の交流抵抗よりも小さくなるのが分かる。
【0069】
図13に示すように、0.4mmの線径をそれぞれ有する黄銅線及び比較例としてのCu線の外部磁界強度Hが1A/mmにおける交流抵抗を、上述した式(1),(18)及び(48)を用いて計算により求めた。図13に示すように、黄銅線が、第1の周波数f1及び第2の周波数f2の間に規定される周波数帯域において、同じ線径を有するCu線よりも交流抵抗が小さくなることが分かる。即ち、第1の周波数f1よりも低周波側では、黄銅線の交流抵抗がCu線の交流抵抗よりも大きい。第1の周波数f1において、黄銅線の交流抵抗とCu線の交流抵抗とが一致し、第1の周波数f1より高周波側では、渦電流損が支配的となるため、黄銅線の交流抵抗とCu線の交流抵抗の大小が逆転する。第1の周波数f1から第2の周波数f2までの周波数帯域において、Cu線の交流抵抗が黄銅線の交流抵抗よりも大きい。第2の周波数f2において、黄銅線の交流抵抗とCu線の交流抵抗とが再び一致し、第2の周波数f2より高周波側では、黄銅線の近接効果の影響がCu線よりも大きくなり、黄銅線の交流抵抗とCu線の交流抵抗の大小が逆転する。
【0070】
図14に、直径0.4mmの黄銅線についての外部磁界強度Hが1A/mmにおける表皮効果成分Rと直流抵抗Rdcとの和及び近接効果成分Rの計算結果を示す。直流抵抗Rdcは、式(1)で周波数を0としたときの値である。図9、図11〜図13に示すように黄銅線等が銅よりも高い体積抵抗率であるにも関わらず、所定の周波数帯域においてCu線よりも低い交流抵抗となる現象の理由は、図14に示すように交流抵抗が近接効果に大きく依存し、且つ、体積抵抗率が高いと近接効果が小さくなる周波数帯域が存在することによるものである。表皮効果成分Rと近接効果成分Rには周波数依存性があるが、周波数が1MHz未満であれば、表皮効果成分Rよりも近接効果成分Rの方がその依存性が著しく、表皮効果成分Rは無視できるレベルである。
【0071】
図15に、各導体材料について、100kHz、外部磁界強度Hが1A/mmにおける近接効果による交流抵抗及び基準とするCu線の近接効果による交流抵抗との比(Rp比)を、上述した式(48)を用いて計算した結果を示す。図15では、導体材料として、図1(a)に示した導体部11が銅線(Cu線)のもの、図1(b)に示した中心導体12がアルミニウムからなり、被覆層13の断面積が電線全体の断面積の5%のもの(5%CCA)、図1(b)に示した中心導体12がアルミニウムからなり、被覆層13の断面積が電線全体の断面積の10%のもの(10%CCA)、図1(b)に示した中心導体12がアルミニウムからなり、被覆層13の断面積が電線全体の断面積の15%のもの(15%CCA)、図1(b)に示した中心導体12が合金アルミニウムからなり、被覆層13の断面積が電線全体の断面積の5%のもの(5%CCA(合金Al))、並びに図1(a)に示した導体部11がそれぞれ黄銅、ケイ素青銅及びリン青銅からなるものを対象とした。CCA線の体積抵抗率については、2層の断面積比で換算して求めた等価体積抵抗率とした。図15から、線径がCu線の線径と同一の場合に加え、線径がCu線より大きい場合にもRp比が1未満となる条件があることが分かる。
【0072】
そこで、本発明の第1の実施の形態では、このRp比に着眼した。即ち、本発明の第1の実施の形態に係る電線では、電線が使用される特定の周波数において、基準とするCu線の近接効果による交流抵抗に対する図1(a)及び図1(b)に示した導体部11の近接効果による交流抵抗の比(Rp比)が1未満となるように、導体部11の体積抵抗率が規定されている。基準とするCu線は、図1(a)及び図1(b)に示した導体部11と同じ線径であっても良く、異なる線径であっても良く、適宜設定可能である。
【0073】
本発明の第1の実施の形態に係る電線によれば、特定の周波数帯域において使用するときに、基準とするCu線と比較して交流抵抗を同等とすること又は低減することが可能となる。
【0074】
<電線の設計装置>
本発明の第1の実施の形態に係る電線の設計装置は、図16に示すように、中央処理装置(CPU)110、記憶装置111、入力装置112及び出力装置113を備える。
【0075】
CPU110は、抵抗計算部101、比計算部102及び判定部103をハードウェア資源であるモジュール(論理回路)として論理的に備える。
【0076】
抵抗計算部101は、記憶装置111から作製可能な電線の候補となる導体部11の材料、形状及び線径等を含む線種の情報、及び電線が使用される特定の周波数帯域を読み出して、上述した式(48)を用いて、特定の周波数帯域における電線の候補となる導体部11の近接効果による交流抵抗値を計算する。更に、抵抗計算部101は、記憶装置111から電線が使用される特定の周波数帯域及び基準とするCu線に関する情報を読み出して、上述した式(48)を用いて、特定の周波数帯域における基準とするCu線の近接効果による交流抵抗値を計算する。導体部11及びCu線の近接効果による交流抵抗値は、特定の周波数帯域の範囲内の複数の周波数において計算しても良く、特定の周波数帯域の範囲内の少なくとも一つの周波数(例えば、特定の周波数帯域の上限値)において計算すれば良い。また、基準とするCu線は、候補となる導体部11と同じ線径であっても良く、異なる線径であっても良く、適宜設定可能である。
【0077】
比計算部102は、抵抗計算部101により計算された導体部11及びCu線の近接効果による交流抵抗値に基づいて、同一の周波数におけるCu線の近接効果による交流抵抗値に対する候補となる導体部11の近接効果による交流抵抗値の比(Rp比)を計算する。
【0078】
判定部103は、比計算部102により計算されたRp比に基づいて、候補が電線に適用可能か判定する。例えば、判定部103は、Rp比が1未満か否か判定し、Rp比が1未満と判定された場合に候補を電線に適用可能と判定する。
【0079】
記憶装置111は、近接効果による交流抵抗を求める式(48)に関する情報、複数の候補となる導体部11の情報、電線が適用される各機器で使用される特定の周波数帯域、抵抗計算部101により計算した導体部11及びCu線の近接効果による交流抵抗値、比計算部102により計算したRp比、及び判定部103による判定結果等を保存する。
【0080】
記憶装置111としては、例えば半導体メモリ、磁気ディスク又は光ディスク等が採用可能である。記憶装置111は、CPU110において実行されるプログラムを格納している記憶装置等として機能させることが可能である(プログラムの詳細は後述する。)。記憶装置111は、CPU110におけるプログラム実行処理中に利用されるデータ等を一時的に格納したり、作業領域として利用される一時的なデータメモリ等として機能させることも可能である。
【0081】
入力装置112としては、例えばタッチパネル、キーボード、マウス、OCR等の認識装置、スキャナ、カメラ等の画像入力装置、マイク等の音声入力装置等が使用可能である。出力装置113としては、液晶ディスプレイ(LCD)、有機エレクトロルミネッセンス(EL)ディスプレイ、CRTディスプレイ等の表示装置や、インクジェットプリンタ、レーザプリンタ等の印刷装置等を用いることができる。
【0082】
<高周波電線の製造方法>
本発明の第1の実施の形態に係る電線の設計装置を用いた設計方法を含む高周波電線の製造方法の一例を、図17のフローチャートを用いて説明する。なお、ここではCCA線の製造方法を説明するが、これに特に限定されないことは勿論である。
【0083】
(イ)ステップS101において、抵抗計算部101は、記憶装置111から電線の候補となる導体部11に関する情報、及び電線が使用される特定の周波数帯域を読み出して、上述した式(48)を用いて、特定の周波数帯域における導体部11の近接効果による交流抵抗値を計算する。更に、抵抗計算部101は、上述した式(48)を用いて、基準とするCu線の近接効果による交流抵抗値を計算する。計算された導体部11及びCuの近接効果による交流抵抗値は、記憶装置111に記憶される。なお、導体部11及びCuの近接効果による交流抵抗値は予め記憶装置111に記憶されていてもよく、入力装置112から入力されても良い。また、導体部11及びCuの近接効果による交流抵抗値は理論式を用いて計算する代わりに実測しても良い。
【0084】
(ロ)ステップS102において、比計算部102は、抵抗計算部101により計算された導体部11及びCu線の近接効果による交流抵抗値に基づいて、Cu線の近接効果による交流抵抗値に対する導体部11の近接効果による交流抵抗値の比(Rp比)を計算する。
【0085】
(ハ)ステップS103において、判定部103は、比計算部102により計算されたRp比が1未満であるか判定する。この結果、Rp比が1未満である場合には、候補を電線に適用可能と判定する。判定結果は、記憶装置111に記憶される。
【0086】
(ニ)ステップS104において、判定部103により適用可能と判定された候補の材料、形状及び線径等で電線を製造する。例えばCCA線の場合、直径9.5mm〜12.0mm程度のアルミニウム又はアルミニウム合金からなる中心導体12を用意する。中心導体12の表面に、0.1mm〜0.4mm程度の厚さの銅テープを縦添え方式で添わせながらTIG溶接又はプラズマ溶接等を行うことにより、中心導体12の表面に被覆層13を被覆する。次に、被覆層13が被覆された中心導体12をスキンパスで直径9.3mm〜12.3mm程度に成形することにより、被覆層13が被覆された中心導体12からなる母材を作製する。次に、母材を、25〜26パス程度の複数段の伸線ダイスを通すことにより伸線する。複数段の伸線ダイスを経ることにより、最終的に電線の直径を、決定された線径と同じ線径とする。
【0087】
本発明の第1の実施の形態に係る電線の設計装置を用いた設計方法を含む高周波電線の製造方法によれば、近接効果による交流抵抗を求める式(48)を用いて計算したRp比に基づいて線種を決定することができる。この結果、高周波電線が使用される特定の周波数帯域に応じて、基準としたCu線と比較して渦電流による損失が小さく、交流抵抗を低減可能な高周波電線の線径を設計することが可能となる。
【0088】
なお、図17に示したステップS102において複数の候補に対して近接効果による交流抵抗値をそれぞれ計算し、ステップS102において複数の候補毎にRp比をそれぞれ計算し、ステップS103において、複数の候補がそれぞれ適用可能か判定しても良い。ステップS104においては、適用可能な候補が複数ある場合には、適宜そのうちの一つの候補の線種を選択すれば良い。
【0089】
<電線設計プログラム>
図17に示した一連の手順、即ち:(イ)特定の周波数帯域における電線の候補となる導体部11の近接効果による交流抵抗、及び特定の周波数帯域における基準とするCu線の近接効果による交流抵抗をそれぞれ計算するステップ;(ロ)基準とするCu線の近接効果による交流抵抗に対する導体部の近接効果による交流抵抗の比を計算するステップ;(ハ)比に基づいて候補を電線に適用可能か判定するステップ等は、図17と等価なアルゴリズムのプログラムにより、図16に示した電線の設計装置を制御して実行できる。
【0090】
このプログラムは、本発明の電線の設計装置を構成するコンピュータシステムの記憶装置111に記憶させればよい。また、このプログラムは、コンピュータ読取り可能な記録媒体に保存し、この記録媒体を記憶装置111等に読み込ませることにより、本発明の第1の実施の形態の一連の手順を実行することができる。
【0091】
ここで、「コンピュータ読取り可能な記録媒体」とは、例えば半導体メモリ、磁気ディスク、光ディスク等のプログラムを記録することができるような媒体等を意味する。例えば、電線の設計装置の本体は、記録媒体の読取り装置を内蔵若しくは外部接続するように構成できる。さらに、無線通信網等の情報処理ネットワークを介して、この記憶装置111に格納することが可能である。
【0092】
(第2の実施の形態)
<電線の構造>
本発明の第2の実施の形態に係る電線は、特定の周波数帯域で使用される電線であって、図18に示すように、アルミニウム(Al)又はアルミニウム合金からなる中心導体21と、中心導体21を被覆する銅(Cu)からなる被覆層22とを備えるCCA線である。本発明の第2の実施の形態に係る電線は、電線の交流抵抗と、電線と同じ線径を有するCu線の交流抵抗とがそれぞれ一致する第1の周波数及び第2の周波数の間に規定され、且つ電線の交流抵抗がCu線の交流抵抗よりも大きい周波数帯域内に、特定の周波数帯域が収まる。
【0093】
電線全体の直径は、0.05mm〜0.6mm程度が望ましい。被覆層22の断面積は、中心導体21及び被覆層22を合わせた電線全体の断面積に対して15%以下であり、3%〜15%程度が望ましく、より望ましくは3%〜10%程度、更に望ましくは3%〜5%程度である。被覆層22の電線全体に対する断面積の比が小さいほど、高周波抵抗を低減することができる。
【0094】
中心導体21としては、例えば電気用アルミニウム(ECアルミニウム)又はAl−Mg−Si系合金(JIS6000番台)のアルミニウム合金が使用可能であるが、アルミニウム合金の方がECアルミニウムよりも体積抵抗率が大きいためにより望ましい。
【0095】
上述した理論式を用いてシミュレーションを行い、本発明の第2の実施の形態に係るCCA線の交流抵抗及びCu線の交流抵抗を計算により求めた。この結果、CCA線が、特定の周波数帯域において、近接効果により、同じ線径を有するCu線よりも渦電流損が小さくなり、結果として交流抵抗が小さくなる特性を発見した。
【0096】
図19に、1.8mm、0.4mm、0.2mmの線径を有するCCA線及びCu線について、周波数と交流抵抗との関係を示す。1.8mmの線径をそれぞれ有するCu線及びCCA線の場合、1kHz程度の第1の周波数f11(図示省略)よりも低周波側では、CCA線の交流抵抗がCu線の交流抵抗よりも大きい。第1の周波数f11において、CCA線の交流抵抗とCu線の交流抵抗とが一致し、第1の周波数f11より高周波側では、渦電流損が支配的となるため、CCA線の交流抵抗とCu線の交流抵抗の大小が逆転する。第1の周波数f11から10kHz程度の第2の周波数f12までの周波数帯域B1において、Cu線の交流抵抗がCCA線の交流抵抗よりも大きい。第2の周波数f12において、CCA線の交流抵抗とCu線の交流抵抗とが再び一致し、第2の周波数f12より高周波側では、CCA線の近接効果の影響がCu線よりも大きくなり、CCA線の交流抵抗とCu線の交流抵抗の大小が逆転する。
【0097】
0.4mmの線径をそれぞれ有するCu線及びCCA線の場合も、第1の周波数f21及び第2の周波数f22においてCCA線の交流抵抗とCu線の交流抵抗とが一致し、第1の周波数f21と第2の周波数f22との間の周波数帯域B2において、Cu線の交流抵抗がCCA線の交流抵抗よりも大きい。
【0098】
0.2mmの線径をそれぞれ有するCu線及びCCA線の場合も、第1の周波数f31及び第2の周波数f32においてCCA線の交流抵抗とCu線の交流抵抗とが一致し、第1の周波数f31と第2の周波数f32との間の周波数帯域B3において、Cu線の交流抵抗がCCA線の交流抵抗よりも大きい。
【0099】
また、図19に示すように、1.8mm、0.4mm、0.2mmとCCA線及びCu線の線径を細くするにつれて、第1の周波数f11及び第2の周波数f12が高周波側にシフトし、結果として第1の周波数f11,f21,f31及び第2の周波数f12,f22,f32の間に規定される周波数帯域B1,B2,B3が、高周波側にシフトしていく特性を発見した。磁界の強さが増しても第2の周波数f12,f22,f32はほとんど変わらないが、第1の周波数f11,f21,f31は低周波側に移動する。
【0100】
また、スイッチング電源に内蔵される高周波トランスの巻き線においては、図20に示すように、相当にひずんだ波形の電流が流れる。これは、図21に示すように、交流電流の周波数が、基本波の周波数(基準周波数)の他、多くの高次の高調波成分を含有しているためである。したがって、高周波トランスで発生する損失(銅損)は、直流成分、基準周波数及び高次の高調波成分の和となる。例えば図22に示すように、本発明の第2の実施の形態に係る直径0.2mmのCCA巻線の損失は8.0Wであり、比較例に係る直径0.6mmの銅巻線の損失は14.5Wである。
【0101】
よって、CCA線に対して使用する交流電流の周波数帯域として、基準周波数から高次の高調波成分までが、第1の周波数f11,f21,f31及び第2の周波数f12,f22,f32で規定される周波数帯域B1,B2,B3に収まるように、CCA線の線径、材料及び断面積比等が設計されていることが好ましい。高次の高調波成分をどこまで考慮するかはCCA線の用途に応じて適宜決定すれば良い。例えば、基準周波数から10次の高調波成分までを考慮してもよく、基準周波数から20次の高調波成分まで考慮してもよい。
【0102】
本発明の第2の実施の形態に係るCCA素線によれば、特定の周波数帯域において使用するときに、同じ線径を有するCu線と比較して渦電流による損失を同等か又は小さくすることができ、交流抵抗を低減可能となる。
【0103】
<電線の設計装置>
本発明の第2の実施の形態に係る電線の設計装置は、図23に示すように、中央処理装置(CPU)210、記憶装置211、入力装置212及び出力装置213を備える。
【0104】
CPU210は、交流抵抗計算部201、周波数抽出部202及び線径抽出部203をハードウェア資源であるモジュール(論理回路)として論理的に備える。
【0105】
交流抵抗計算部201は、記憶装置211から対象となるCCA線及びCu線の交流抵抗を計算するのに必要な情報を読み出して、図19に示すように、複数の周波数に応じて、CCA線の交流抵抗及びCCA線と同じ線径を有するCu線の交流抵抗を複数の線径毎に計算する。
【0106】
周波数抽出部202は、交流抵抗計算部201により計算したCCA線の交流抵抗及びCCA線と同じ線径を有するCu線の交流抵抗に基づいて、図19に示すように、複数の線径毎に、CCA線の交流抵抗とCu線の交流抵抗が一致し、且つ互いの間でCCA線の交流抵抗がCu線の交流抵抗よりも小さくなる第1の周波数f11,f21,f31及び第2の周波数f12,f22,f32を抽出する(f11は図示省略)。
【0107】
ここで、第1の周波数f11,f21,f31及び第2の周波数f12,f22,f32として抽出する周波数は、CCA線の交流抵抗とCu線の交流抵抗が厳密に一致する点でなくても良い。例えば、CCA線の交流抵抗とCu線の交流抵抗の大小が入れ替わる直前(低周波側)若しくは直後(高周波側)の周波数を抽出しても良いし、CCA線の交流抵抗及びCu線の交流抵抗の計算結果からそれぞれの近似曲線を求め、それらの近似曲線が交差する周波数を抽出しても良い。
【0108】
線径抽出部203は、記憶装置211からCCA線が使用される特定の周波数帯域を読み出して、周波数抽出部202により抽出した第1の周波数f11,f21,f31及び第2の周波数f12,f22,f32に基づいて、複数の線径のうち、抽出された第1の周波数f11,f21,f31及び第2の周波数f12,f22,f32の間に規定される周波数帯域B1,B2,B3が、CCA線が使用される特定の周波数帯域内に収まるような第1の周波数及び第2の周波数に対応するCCA線の線径(例えば第1の周波数f21及び第2の周波数f22に対応する線径0.4mm)を抽出する。CCA線が使用される特定の周波数帯域としては、例えば、図21に示した基準周波数及び10次以下の高調波周波数が含まれてもよく、基準周波数及び20次以下の高調波周波数が含まれてもよい。
【0109】
図23に示した記憶装置211は、種々の線径を有するCCA線及びCu線の交流抵抗を計算するのに必要な情報、各CCA線が使用される特定の周波数帯域、交流抵抗計算部201により計算した交流抵抗、周波数抽出部202により抽出した第1の周波数f11,f21,f31及び第2の周波数f12,f22,f32及び線径抽出部203により抽出したCCA線の線径を保存する。記憶装置211としては、例えば半導体メモリ、磁気ディスク又は光ディスク等が採用可能である。記憶装置211は、CPU210において実行されるプログラムを格納しているプログラム記憶装置等として機能させることが可能である(プログラムの詳細は後述する。)。記憶装置211は、CPU210におけるプログラム実行処理中に利用されるデータ等を一時的に格納したり、作業領域として利用される一時的なデータメモリ等として機能させることも可能である。
【0110】
図23に示した入力装置212としては、例えばタッチパネル、キーボード、マウス、OCR等の認識装置、スキャナ、カメラ等の画像入力装置、マイク等の音声入力装置等が使用可能である。出力装置213としては、液晶ディスプレイ(LCD)、有機エレクトロルミネッセンス(EL)ディスプレイ、CRTディスプレイ等の表示装置や、インクジェットプリンタ、レーザプリンタ等の印刷装置等を用いることができる。
【0111】
<CCA線の製造方法>
本発明の第2の実施の形態に係る電線の設計装置を用いた電線の設計方法を含むCCA素線の製造方法の一例を、図24のフローチャートを用いて説明する。
【0112】
(イ)ステップS201において、交流抵抗計算部201が、複数の周波数に応じて、CCA線の交流抵抗及びCCA線と同じ線径を有するCu線の交流抵抗を複数の線径毎に計算する。この計算結果は、記憶装置211に保存される。計算対象となるCCA線の材料及び断面積比等は適宜設定可能である。なお、CCA線の交流抵抗及びCu線の交流抵抗は、計算する代わりに実測しても良い。
【0113】
(ロ)ステップS202において、周波数抽出部202が、図19に示すように、複数の線径毎に、CCA線の交流抵抗とCu線の交流抵抗が一致し、且つ互いの間でCCA線の交流抵抗がCu線の交流抵抗よりも小さくなる第1の周波数f11,f21,f31及び第2の周波数f12,f22,f32を抽出する(f11は図示省略)。計算対象となる線径の範囲及び周波数の範囲は、CCA線として使用可能な範囲において適宜設定可能である。この抽出した第1の周波数f11,f21,f31及び第2の周波数f12,f22,f32は、記憶装置211に保存される。
【0114】
(ハ)ステップS203において、線径抽出部203が、複数の線径のうち、抽出された第1の周波数f11,f21,f31及び第2の周波数f12,f22,f32の間に規定される周波数帯域B1,B2,B3が、CCA線を使用する特定の周波数帯域内に収まるような第1の周波数及び第2の周波数に対応するCCA線の線径(例えば第1の周波数f11及び第2の周波数f12に対応する線径1.8mm)を抽出する。この抽出した線径は、記憶装置211に保存される。
【0115】
(ニ)ステップS204において、記憶装置211に保存された線径を有するCCA素線を製造する。即ち、直径9.5mm〜12.0mm程度のアルミニウム又はアルミニウム合金からなる中心導体21を用意する。中心導体21の表面に、0.1mm〜0.4mm程度の厚さの銅テープを縦添え方式で添わせながらTIG溶接又はプラズマ溶接等を行うことにより、中心導体21の表面に被覆層22を被覆する。次に、被覆層22が被覆された中心導体21をスキンパスで直径9.3mm〜12.3mm程度に成形することにより、被覆層22が被覆された中心導体21からなる母材を作製する。次に、母材を、25〜26パス程度の複数段の伸線ダイスを通すことにより伸線する。複数段の伸線ダイスを経ることにより、最終的に電線の直径を、記憶装置211に保存された線径と同じ線径とする。
【0116】
本発明の第2の実施の形態に係る電線の設計装置を用いた設計方法を含むCCA素線の製造方法によれば、CCA線が使用される特定の周波数帯域に応じて、同じ線径のCu線と比較して渦電流による損失を同等か又は小さくすることができ、交流抵抗を低減可能なCCA線の線径を設計することが可能となる。
【0117】
<設計プログラム>
図24に示した一連の手順、即ち:(イ)複数の周波数に応じて、CCA線の交流抵抗及びCCA線と同じ線径を有するCu線の交流抵抗を複数の線径毎に計算するステップ;(ロ)複数の線径毎に、CCA線の交流抵抗とCu線の交流抵抗が一致し、且つ互いの間でCCA線の交流抵抗がCu線の交流抵抗よりも小さくなる第1の周波数f11,f21,f31及び第2の周波数f12,f22,f32を抽出するステップ;及び(ハ)複数の線径のうち、抽出された第1の周波数f11,f21,f31及び第2の周波数f12,f22,f32の間に規定される周波数帯域B1,B2,B3が、CCA線を使用する特定の周波数帯域内に収まるような第1の周波数f11,f21,f31及び第2の周波数f12,f22,f32に対応する線径を抽出するステップ;等は、図24と等価なアルゴリズムのプログラムにより、図23に示した電線の設計装置を制御して実行出来る。
【0118】
このプログラムは、本発明の電線の設計装置を構成するコンピュータシステムの記憶装置211に記憶させればよい。また、このプログラムは、コンピュータ読取り可能な記録媒体に保存し、この記録媒体を記憶装置211等に読み込ませることにより、本発明の第2の実施の形態の一連の手順を実行することができる。
【0119】
ここで、「コンピュータ読取り可能な記録媒体」とは、例えば半導体メモリ、磁気ディスク、光ディスク等のプログラムを記録することができるような媒体等を意味する。例えば、電線の設計装置の本体は、記録媒体の読取り装置を内蔵若しくは外部接続するように構成できる。さらに、無線通信網等の情報処理ネットワークを介して、この記憶装置211に格納することが可能である。
【0120】
<電気モータ>
次に、本発明の第2の実施の形態に係る電気モータについて説明する。インバータ装置などを用いて回転速度やトルクを調整する電気モータは高効率であり、鉄道車両や電気自動車の駆動、家電分野でインバータエアコンなど広範囲の分野に使われている。
【0121】
電気モータのコイルは導線を多重に巻き付けることにより構成されている。電気モータにおいて、銅(Cu)の抵抗率がアルミニウム(Al)よりも低く、且つハンダができることから、従来のコイルには一般的にCu線が使用されていた。
【0122】
しかしながら、この種の電気モータは回転数が可変であり、高い回転数で使われることが多い。電気モータの駆動電流は、回転数に応じて周波数が高くなる。しかも、インバータ装置は直流電圧を適宜オン・オフ制御することにより高い周波数を作り出す。このため、駆動電流には基本周波数成分のほか、それよりもさらに高い高周波成分をもつ。
【0123】
周波数が高くなるにつれ、表皮効果と近接効果により、コイルの抵抗は高くなる。表皮効果による抵抗は常にCu線よりもAl線が大きいが、近接効果による抵抗はCu線の方が大きい場合もある。このため、Cu線で巻いたコイルの場合、近接効果により高周波抵抗が大きくなり、それによる損失が大きくなる場合がある。特に動作周波数が高くなる場合や、インバータ装置を使用して駆動した場合などにその損失が顕著になる。
【0124】
ここで、コイルには様々な形状があり、形状が異なると導線の高周波抵抗における表皮効果と近接効果の割合が違ってくる。表皮効果はコイルを構成する導線の断面形状と導線の本数及び導線の長さで決まるが、近接効果はコイルの巻き方にも依存する。導線が近接に巻かれたり、巻数が多い場合、近接効果が強くなる。コイルを構成する導線の単位長さ当りの高周波抵抗は次式(49)のように表すことができる。
【0125】

ac=R+α …(49)

ただし、R(単位はΩ/m)は表皮効果による単位長さ当りの高周波抵抗であり、P(単位はΩ・m)は近接効果による単位長さ当りの高周波損失であり、α(単位は1/m)はコイルの形状に依存する形状因子(構造因子)である。αは、ほぼ周波数に依存しない定数であり、コイルの巻き線が密に巻けば大きくなり、また巻く導線が長いほど大きくなる。αは必要とする電気モータの出力などに依存するが、変化するものである。
【0126】
とPはそれぞれ次式(50),(51)で与えられる。

【数35】

【0127】
<第1の実施例>
本発明の第2の実施の形態の第1の実施例に係る電気モータ(三相交流同期モータ)は、図25に示すように、円心状に配置された複数の鉄心221と、Al線又はCCA線からなる電線222が複数の鉄心221に巻かれた複数のコイル223と、複数のコイル223に電流を印加することにより回転する回転子224とを備える。複数の鉄心221、複数のコイル223及びコイル保持部20等により固定子が構成される。
【0128】
本発明の第2の実施の形態の第1の実施例に係る電気モータは12コイルであり、コイル保持部20の内径aが150mm、コイル保持部20の外径bが200mm、鉄心221の長さhが40mm、鉄心221の外周側の一端の直径eが30mm、鉄心221の他端の直径fが20mmである。各極は半径rが0.8mmの電線222で円筒状に10回鉄芯21に巻かれ、全長lが約3.1mである。図25ではu相のコイル223のみを示すが、図示を省略したv相及びw相のコイルもコイル223と同様の構造を有する。
【0129】
回転子224は、永久磁石からなる。回転子224は、コイル223に印加された交流電流が作る周囲の回転磁界によって吸引されて回転する。
【0130】
本発明の第2の実施の形態の第1の実施例に係る電気モータは可変電圧可変周波数(VVVF)型のインバータ装置を用いて、インバータ方式で駆動電流の周波数を調整することにより、電気モータの回転速度を制御する。インバータ装置は、例えば6個のスイッチング素子を用いた三相出力インバータであり、スイッチング素子を用いて擬似的に三相交流を作り出す。
【0131】
ここで、コイル223の交流抵抗が、コイル223と同じ形状を有するCu線で巻いたコイルの交流抵抗よりも小さくなる第1の周波数及びその第1の周波数より高い第2の周波数の間に収まるように、コイル223に印加する交流電流の周波数がインバータ方式により制御される。
【0132】
また、駆動電流は、例えば振幅が基本周波数成分の1/3以上をもつ高周波成分を有し、パワーが基本周波数成分の1/9以上をもつ高周波成分を有する。
【0133】
図26及び図27は、図25に示した電気モータにおいて、それぞれ動作周波数が20Hzと50Hz時の電流波形を表す。図28は図27の時間軸を2.5倍に延し、図26に重ね合せたものである。図26によれば、電流は0.05の基本周期をもつが、可変電圧を切り取って高周波を作り出すインバータ方式を用いているため、正弦波波形に急激に変化する箇所が多数ある。図27では基本周期が0.02sになっているが、図28から、正弦波波形の構成は周波数に依存せずにほぼ一定であることが分かる。
【0134】
図29は図26の周波数スペクトルを表す。図29に示すように、20Hzの基本周波数のほか、多数の高周波成分を有することが分かる。これらの高周波成分の存在より高周波抵抗が高くなり、近接効果による損失がより顕著になる。
【0135】
比較例として、半径rが0.8mm、長さlが3.1mのCu線でコイルを巻いた場合の表皮効果による単位長さ当りの高周波抵抗Rを図30に示し、外部磁界HがH=1A/mmとしたときの、近接効果による単位長さ当りの損失Pを図31に示す。
【0136】
また、同じCu線で巻いたコイルは図32に示すような高周波抵抗の静特性を示す。ここで静特性とは、電気モータに正弦波の電流を流したときの特性をいう。この場合、式(49)における構造因子αはα=3.9mm−1であった。
【0137】
一方、図26の駆動電流の場合、コイルの高周波抵抗は図29のスペクトルから次式(52)のように計算される。

【数36】

【0138】
ただし、fはn次高周波成分の周波数である。
【0139】
図26の駆動電流はインバータ装置で作り出され、周波数が変化しても正弦波を構成する波形が相対的に変化しないと仮定にし、式(52)でコイルの高周波抵抗の動特性を計算すると、図33に示す計算結果が得られる。ここで動特性とは電気モータに図26のような周期性駆動電流を流したときの特性をいう。その際の基本周波数は駆動電流の周期の逆数とする。図33から、動特性(dynamic)は静特性(static)に比べると格段に大きくなっていることが分かる。
【0140】
一方、本発明の第2の実施の形態の第1の実施例に係る電気モータとして、コイル223を巻く電線222は同じ径のものを使用し、図18に示すようにアルミニウム(Al)又はアルミニウム合金からなる中心導体21と、中心導体21を被覆する銅(Cu)からなる被覆層22とを備え、被覆層22の断面積が高周波電線全体の断面積の5%であるCCA線(以下、「5%CCA線」という。)(b=0.78mm、a=0.8mm)とAl線を使用した場合の静特性を図34及び図35に示す。図34及び図35から、周波数fが0.9kHz≦f≦27kHzの範囲で、CCA線とAl線の抵抗がCu線よりも小さいことが分かる。
【0141】
同じCCA線とAl線で巻いたコイルの高周波抵抗の動特性を図36及び図37に示す。図36及び図37から、周波数fが65Hz≦f≦1173Hzの範囲でCCA線とAl線の抵抗がCu線よりも小さいことが分かる。この場合、第1の周波数を65Hzとし、第2の周波数を1173Hzとして、65Hz≦f≦1173Hzの範囲で駆動電流の周波数を制御することにより、Cu線と同等又はCu線より小さい高周波抵抗を得ることができる。CCA線及びAl線のそれぞれがCu線と同等又はCu線より小さい高周波抵抗となる第1の周波数及び第2の周波数は、コイル223の形状に基づいて、式(49)〜(52)等を用いて計算して求めても良いし、実測して求めても良い。
【0142】
本発明の第2の実施の形態の第1の実施例において、円形断面をもつ電線222を説明したが、電線222の断面形状は扁平、長方形であっても良く、断面積が2.0mmであればCCA線の場合に同様の効果を奏する。また、使用する電気モータの巻き線の密度や導線の長さが変化した場合、αが2.2mm−1≦α≦5.5mm−1と変化した場合でも同様の効果を奏する。
【0143】
図38は同じ形状の導線で巻くコイルにおいて、異なるα値に対するCCA線がCu線よりも動特性高周波抵抗が小さくなる周波数帯域を示す。αが大きくなるにつれ(例えば導線が緊密あるいは多く巻かれるにつれ)、CCA線が有利になる周波数帯域が広がっているのが分かる。
【0144】
図39は同じα=3.9mm−1に対して、異なる半径rをもつ導線に対するCCA線がCu線よりも動特性高周波抵抗が小さくなる周波数帯域を示す。線径が太いほど、低周波でCCA線が有利になるのが分かる。
【0145】
このように、本発明の第2の実施の形態の第1の実施例に係る電気モータによれば、Cu線よりも導電率が低いAl線又はCCA線を使用し、インバータ方式で第1の周波数及び第2の周波数の間に駆動電流の周波数を制御することにより、Cu線と同等又はCu線よりも高周波抵抗を下げることができ、電気モータの損失を減らすことができる。
【0146】
更に、アルミニウム(Al)が銅(Cu)より軽いので、Al線又はCCA線を使用することにより、電気モータを軽量化することができる。
【0147】
更に、CCA線を使用する場合、従来のようにハンダできるので、作業性を損うことなく、高周波抵抗の低減と軽量化を図ることができる。また、CCA線は表皮深度が銅層の厚さ程度になると、表皮効果による損失も従来の導線と同程度となる。
【0148】
<第2の実施例>
本発明の第2の実施の形態の第2の実施例に係る電気モータ(三相交流同期モータ)は、図40に示すように、円心状に配置された複数の鉄心221と、Al線又はCCA線からなる電線222が複数の鉄心221に巻かれた複数のコイル223と、複数のコイル223に電流を印加することにより回転する回転子224とを備える。
【0149】
本発明の第2の実施の形態の第2の実施例に係る電気モータは15コイルであり、コイル保持部20の内径aが170mm、コイル保持部20の外径bが220mm、鉄心221の長さhが45mm、鉄心221の外周側の一端の直径e=33mm、鉄心221の他端の直径fが25mmである。各極は半径rが1.0mmの電線222で円筒状に10回鉄芯21に巻かれ、全長lが約4.8mである。図40ではu相のコイル223のみを示しているが、v相及びw相もコイル223と同様のコイルの構造を有する。
【0150】
本発明の第2の実施の形態の第2の実施例に係る電気モータの他の構成は、本発明の第2の実施の形態の第1の実施例に係る電気モータと実質的に同様であるので、重複した説明を省略する。
【0151】
本発明の第2の実施の形態の第2の実施例に係るコイル223として、半径rが1.0mm、長さが4.8mの5%CCA線及びAl線を使用し、比較例としてCu線を使用した。5%CCA線については、コイル保持部20の外径bを0.95mm、コイル保持部20の内径aを1mmとした。その場合の表皮効果による単位長さ当りの高周波抵抗Rを図41に示し、外部磁界HがH=1A/mmとしたとき、近接効果による単位長さ当りの損失Pを図42に示す。
【0152】
また、それら導線で巻いたコイルは図43及び図44のような高周波抵抗静特性を示す。その場合、式(49)における構造因子αはα=2.2mm−1であった。図43及び図44では、周波数fが0.8kHz≦f≦17kHzでCCA線とAl線の抵抗がCu線よりも小さいことが分かる。
【0153】
図26の駆動電流はインバータで作り出され、周波数が変化しても正弦波を構成する波形が相対的に変化しないと仮定にした場合の高周波抵抗動特性を図45及び図46に示す。図45及び図46から、周波数fが59Hz≦f≦742HzでCCA線とAl線の抵抗がCu線よりも小さいことが分かる。この場合、第1の周波数を59Hzとし、第2の周波数を742Hzとして、59Hz≦f≦742Hzの範囲で駆動電流の周波数を制御することにより、Cu線と同等又はCu線より小さい高周波抵抗を得ることができる。
【0154】
本発明の第2の実施の形態の第2の実施例において、円形断面を有する電線222を説明したが、電線222の断面形状が扁平、長方形であっても良く、断面積が3.1mmであれば、CCA線の場合に同様の効果を奏する。また、本発明の第2の実施の形態の第2の実施例に係る電気モータに対して、使用する電気モータの巻き線の密度や電線222の長さが変化した場合、αの値が1.0mm−1≦α≦4.5mm−1と変化した場合でも同様の効果を奏する。
【0155】
図47は同じ形状の導線で巻くコイルにおいて、異なるα値に対するCCA線がCu線よりも動特性高周波抵抗が小さくなる周波数帯域を示す。αの値が大きくなるにつれ(緊密あるいは多く巻かれるにつれ)、CCA線がCu線よりも有利になる周波数帯域が広がることが分かる。
【0156】
図48は同じα=2.2mm−1に対して、異なる半径rをもつ導線に対するCCA線がCu線よりも動特性高周波抵抗が小さくなる周波数帯域を示す。線径が太いほど、低周波でCCA線が有利になることが分かる。
【0157】
<第3の実施例>
本発明の第2の実施の形態の第3の実施例に係る電気モータ(三相交流同期モータ)は、図49に示すように、複数の鉄心221と、Al線又はCCA線からなる電線222が複数の鉄心221に巻かれた複数のコイル223と、複数のコイル223に電流を印加することにより回転する回転子224とを備える。
【0158】
本発明の第2の実施の形態の第3の実施例に係る電気モータは18コイルであり、コイル保持部20の内径aが180mm、コイル保持部20の外径bが230mm、鉄心221の長さhが50mm、鉄心221の外周側の一端の直径eが36、鉄心221の他端の直径fが27mm、各極は半径rが1.2mmの電線222で円筒状に11回鉄芯21に巻かれ、全長lが約7.0mであった。図49ではu相のコイルのみを示しているが、図示を省略したv相及びw相のコイルもコイル223と同様の構造を有する。
【0159】
本発明の第2の実施の形態の第3の実施例に係る電気モータの他の構成は、本発明の第2の実施の形態の第1の実施例に係る電気モータと実質的に同様であるので、重複した説明を省略する。
【0160】
本発明の第2の実施の形態の第3の実施例に係るコイル223として半径rが1.2mm、長さが7.0mの5%CCA線及びAl線を使用し、比較例としてCu線を使用した。5%CCA線については、コイル保持部20の外径bを1.17mm、コイル保持部20の内径aを1.2mmとした。その場合の表皮効果による単位長さ当りの高周波抵抗Rを図50に示し、外部磁界HをH=1A/mmとしたとき、近接効果による単位長さ当りの損失Pを図51に示す。
【0161】
また、それら導線で巻いたコイルは、図52及び図53に示すような高周波抵抗の静特性を示す。この場合、式(49)における構造因子αはα=1.6mm−1であった。図52及び図53から、周波数fが0.7kHz≦f≦12kHzでCCA線とAl線の抵抗がCu線よりも小さいことが分かる。
【0162】
図26の駆動電流はインバータ装置で作り出され、周波数が変化しても正弦波を構成する波形が相対的に変化しないと仮定にした場合の高周波抵抗動特性を図54及び図55に示す。図54及び図55から、周波数fが48Hz≦f≦511HzでCCA線とAl線の抵抗がCu線よりも小さいことが分かる。この場合、第1の周波数を48Hz、第2の周波数を511Hzとして、48Hz≦f≦511Hzで駆動電流の周波数を制御することにより、Cu線と同等又はCu線より小さい高周波抵抗を得ることができる。
【0163】
本発明の第2の実施の形態の第3の実施例において、円形断面をもつ電線222を説明したが、電線222の断面形状は扁平、長方形であっても良く、断面積が4.5mmであればCCA線の場合に同様の効果を奏する。また、本発明の第2の実施の形態の第3の実施例において、使用する電気モータの巻き線の密度や導線の長さが変化した場合、αが0.9mm−1≦α≦3.2mm−1と変化した場合でも同様な効果がある。
【0164】
図56は同じ形状の導線で巻くコイルにおいて、異なるα値に対するCCA線がCu線よりも動特性高周波抵抗が小さくなる周波数帯域を示す。図56から、αが大きくなるにつれ(緊密あるいは多く巻かれるにつれ)、CCA線が有利になる周波数帯域が広がることが分かる。
【0165】
図57はαの値を1.6mm−1として、異なる半径rをもつ場合、CCA線がCu線よりも動特性高周波抵抗が小さくなる周波数帯域を示す。図57から、線径が太いほど、低周波側でCCA線が有利になることが分かる。
【0166】
なお、本発明の第2の実施の形態においては、1.8mm、0.4mm、0.2mmの線径を有するCCA線及びCu線を説明したが、この3つの線径に特に限定されず、種々の線径を有するCCA線及びCu線について本発明を適用しても良い。
【0167】
また、本発明の第2の実施の形態に係る電線としてCCA線を説明したが、本発明の第2の実施の形態に係る電線としてAl線も同様に適用可能である。
【0168】
また、本発明の第2の実施の形態の第1〜第3の実施例に係る電気モータとして三相交流同期モータの一例を説明したが、本発明に係る電線は種々のコイルを用いた電気モータに適用可能であり、本発明に係る電気モータはCCA線又はAl線で巻いたコイルを有する種々の種類の電気モータに適用可能である。
【0169】
(第3の実施の形態)
<電線の構造>
本発明の第3の実施の形態に係る電線は、図58(a)に示すように、銅よりも体積抵抗率が高い材料からなる導体部31を備える。本発明の第3の実施の形態に係る電線においては、電線の交流抵抗と、電線と同じ線径を有するCu線の交流抵抗とがそれぞれ一致し、互いの間において電線の交流抵抗がCu線の交流抵抗よりも小さい第1の周波数及び第1の周波数より大きい第2の周波数のうち、第2の周波数が特定の周波数帯域の上限値以上となるように、導体部31の体積抵抗率を断面積で除した単位長さ当たりの直流抵抗値が規定されている。
【0170】
導体部31の直径は、0.05mm〜0.6mm程度が望ましいが、特に限定されるものではない。導体部31の材料としては、黄銅、リン青銅、ケイ素青銅、銅・ベリリウム合金、及び銅・ニッケル・ケイ素合金等の銅合金が使用可能である。黄銅は、銅(Cu)及び亜鉛(Zn)を含む合金(Cu−Zn)であり、銅と亜鉛以外の少量の元素が含まれていても良い。ケイ素青銅は、銅、スズ(Sn)及びケイ素(Si)を含む合金(Cu−Sn−Si)であり、銅、スズ及びケイ素以外の少量の元素が含まれていても良い。リン青銅は、銅、スズ及びリン(P)を含む合金(Cu−Sn−P)であり、銅、スズ及びリン以外の少量の元素が含まれていても良い。
【0171】
これらの銅合金線は、スズ、銅又はクロム(Cr)等のメッキ処理がされていても良い。また、導体部31は円筒状のものの他、平角等の形状のものであっても良い。
【0172】
また、本発明の第3の実施の形態に係る電線は、図58(b)に示すように、アルミニウム(Al)又はアルミニウム合金からなる中心導体32と、中心導体32を被覆する銅(Cu)からなる被覆層33とを導体部31として備えるCCA線であっても良い。
【0173】
CCA線全体の直径は、0.05mm〜0.6mm程度が望ましい。被覆層33の断面積は、中心導体32及び被覆層33を合わせた電線全体の断面積に対して15%以下であり、3%〜15%程度が望ましく、より望ましくは3%〜10%程度、更に望ましくは3%〜5%程度である。被覆層33の電線全体に対する断面積の比が小さいほど、高周波抵抗を低減することができる。中心導体32としては、例えば電気用アルミニウム(ECアルミニウム)又はAl−Mg−Si系合金(JIS6000番台)のアルミニウム合金が使用可能であるが、アルミニウム合金の方がECアルミニウムよりも体積抵抗率が大きいためにより望ましい。
【0174】
上述した計算式を用いてシミュレーションを行い、本発明の第3の実施の形態に係る電線の交流抵抗及び比較例としてのCu線の交流抵抗を計算により求めた。この結果、本発明の第3の実施の形態に係る電線が、特定の周波数帯域において、近接効果により、同じ線径を有するCu線よりも渦電流損が小さくなり、結果として交流抵抗が小さくなる特性を発見した。
【0175】
図13に、0.4mmの線径をそれぞれ有する黄銅線及び比較例としてのCu線について、外部磁界強度Hが1A/mmにおける周波数と交流抵抗との関係を示す。第1の周波数f1よりも低周波側では、黄銅線の交流抵抗がCu線の交流抵抗よりも大きい。第1の周波数f1において、黄銅線の交流抵抗とCu線の交流抵抗とが一致し、第1の周波数f1より高周波側では、渦電流損が支配的となるため、黄銅線の交流抵抗とCu線の交流抵抗の大小が逆転する。第1の周波数f1から第2の周波数f2までの周波数帯域において、Cu線の交流抵抗が黄銅線の交流抵抗よりも大きい。第2の周波数f2において、黄銅線の交流抵抗とCu線の交流抵抗とが再び一致し、第2の周波数f2より高周波側では、黄銅線の近接効果の影響がCu線よりも大きくなり、黄銅線の交流抵抗とCu線の交流抵抗の大小が逆転する。
【0176】
図14に、直径0.4mmの黄銅線についての外部磁界強度Hが1A/mmにおける周波数と、表皮効果成分Rと直流抵抗成分Rdcとの和及び近接効果成分Rとの関係を示す。直流抵抗Rdcは、周波数が0のときの交流抵抗の値である。表皮効果成分Rと近接効果成分Rには周波数依存性があるが、図14に示すように、周波数が1MHz未満であれば、表皮効果成分Rよりも近接効果成分Rの方がその依存性が著しく、表皮効果成分Rは無視できるレベルである。
【0177】
図59に、直径0.4mmの黄銅線及びCu線の外部磁界強度Hが1A/mm及び5A/mmのそれぞれにおける周波数と交流抵抗との関係を示す。図59に示すように、近接効果成分Rの方が表皮効果成分Rよりも磁界強度依存性が著しい。近接効果成分Rがその殆どを占める第2の周波数f12,f22における交流抵抗Racは、磁界強度が増大してもCu線及び黄銅線ともに比例的に一様に増大するために第2の周波数f12,f22は殆ど変化しない。一方、直流抵抗成分Rdcの影響が大きい第1の周波数f11,f21は、外部磁界強度が増大すると近接効果成分Rが増大し低周波側にシフトする。
【0178】
ここで、導体に適用する金属の体積抵抗率を断面積で除した単位長さ当たりの直流抵抗を「基準直流抵抗」と定義する。図60に示すように、導体の材料と線径をふって、基準直流抵抗及び第2の周波数を計算により求めた。図60では、導体の材料として、図58(a)に示した導体部31が純アルミニウムのもの、図58(b)に示した中心導体32がアルミニウムからなり、被覆層33の断面積が電線全体の断面積の5%のもの(5%CCA)、図58(b)に示した中心導体32がアルミニウムからなり、被覆層33の断面積が電線全体の断面積の10%のもの(10%CCA)、図58(b)に示した中心導体32がアルミニウムからなり、被覆層33の断面積が電線全体の断面積の15%のもの(15%CCA)、図58(b)に示した中心導体32が合金アルミニウムからなり、被覆層33の断面積が電線全体の断面積の5%のもの(5%CCA(合金Al))、並びに図58(a)に示した導体部31がそれぞれ黄銅、ケイ素青銅及びリン青銅からなるものについての計算結果を示す。CCA線の体積抵抗率については2層の断面積比で換算して求めた等価体積抵抗率とした。計算結果について回帰分析を行った結果、図61に実線で示すような回帰直線が得られた。即ち、基準直流抵抗をRdc、第2の周波数をfとして、次式(49)の関係があることが見出された。
【数37】

【0179】
本発明の第3の実施の形態に係る電線は、式(53)を用いて、電線が使用される特定の周波数帯域の上限値以上の第2の周波数を有するように、導体部31の基準直流抵抗値が規定されている。即ち、その基準直流抵抗値となるように、導体部31の体積抵抗率、断面積、材料、形状及び線径等が規定されている。
【0180】
数kHz〜100kHz程度の高周波電流で駆動する機器の使用拡大が進んでいることから、第2の周波数は例えば100kHz程度以上に設定することが望ましく、よって基準直流抵抗を0.55mΩ/cm程度以上に設定することが望ましい。
【0181】
本発明の第3の実施の形態に係る黄銅線及び比較例に係るCu線について、図10に示すように直径0.4mm、長さ6.6mの素線を55本用いて、17ターンでリッツ線構造とし、IH調理器用の磁場発生コイルを作製し、それらについて特性確認試験を行った。試験結果を図11及び図12に示す。IH調理器には、一般的に20kHz〜60kHz程度の高周波電流が使用されるが、20kHz〜60kHz程度を含む周波数帯域では、黄銅線の交流抵抗がCu線の交流抵抗よりも小さくなるのが分かる。
【0182】
また、スイッチング電源に内蔵される高周波トランスの巻き線においては、図20に示すように、相当にひずんだ波形の電流が流れる。これは、図21に示すように、交流電流の周波数が、基本波の周波数(基準周波数)の他、多くの高次の高調波成分を含有しているためである。したがって、高周波トランスで発生する損失(銅損)は、直流成分、基準周波数及び高次の高調波成分の和となる。例えば図62に示すように、本発明の第3の実施の形態に係る直径0.2mmの黄銅巻線の損失は5.3Wであり、比較例に係る直径0.6mmの銅巻線の損失は14.5Wである。
【0183】
よって、第2の周波数は、使用する交流電流の高次の高調波成分以上に設定されていることが好ましい。高次の高調波成分をどこまで考慮するかは電線の用途に応じて適宜決定すれば良い。例えば、基準周波数から10次の高調波成分までを考慮してもよく、基準周波数から20次の高調波成分まで考慮してもよい。
【0184】
本発明の第3の実施の形態に係る高周波電線によれば、式(53)を用いて、第2の周波数が特定の周波数帯域の上限値以上となるように電線の導体部31の基準直流抵抗値が規定されている。この結果、特定の周波数帯域において使用するときに、同じ線径を有するCu線と比較して渦電流による損失を同等か又は小さくすることができ、交流抵抗を低減可能となる。
【0185】
また、図61に、実線で示した回帰直線に対してそれぞれ0.7倍及び1.3倍の2本の破線を示す。本発明の第3の実施の形態において、回帰直線の±30%程度のバラツキを考慮して、図61に示した2本の破線で挟まれるバンド幅の範囲内で基準直流抵抗値を規定しても良い。即ち、本発明の第3の実施の形態に係る高周波電線の基準直流抵抗値Rdcを、第2の周波数をfとして、
【数38】

【0186】
の関係で規定しても良い。この結果、基準直流抵抗値に実効的な範囲で幅を持たせることができ、基準直流抵抗値を規定する導体部31の体積抵抗率、断面積、材料、形状及び線径等の設計自由度を向上させることができる。
【0187】
なお、回帰直線の±30%程度の範囲内で規定する例を説明したが、第2の周波数が特定の周波数帯域の上限値以上となる信頼性の観点等からは、回帰直線の±20%程度の範囲で基準直流抵抗値を規定することがより好ましく、回帰直線の±10%程度の範囲で基準直流抵抗値を規定することがより好ましい。
【0188】
また、基準直流抵抗値Rdcを、特定の周波数帯域の上限値をfとして、
【数39】

【0189】
を満たすように規定しても良い。この結果、第2の周波数を特定の周波数帯域の上限値以上に設定できるとともに、式(55)の関係を満たす範囲で基準直流抵抗値を規定することができるので、基準直流抵抗値を規定する導体部31の体積抵抗率、断面積、材料、形状及び線径等の設計自由度を向上させることができる。
【0190】
<電線の設計装置>
本発明の第3の実施の形態に係る電線の設計装置は、図63に示すように、中央処理装置(CPU)310、記憶装置311、入力装置312及び出力装置313を備える。
【0191】
CPU310は、固有抵抗計算部301、周波数設定部302、目標抵抗計算部303及び線種選択部304をハードウェア資源であるモジュール(論理回路)として論理的に備える。
【0192】
固有抵抗計算部301は、記憶装置311から必要な情報を読み出して、作製可能な電線の材料、形状及び線径等の組み合わせからなる線種毎に固有の基準直流抵抗値を計算する。なお、線種毎の基準直流抵抗値は予め記憶装置311に記憶されていてもよく、入力装置312から入力されても良い。
【0193】
周波数設定部302は、記憶装置311から設計する電線が使用される特定の周波数帯域を読み出して、電線の交流抵抗と、電線と同じ線径を有するCu線の交流抵抗とがそれぞれ一致し、互いの間において電線の交流抵抗がCu線の交流抵抗よりも小さい第1の周波数及び該第1の周波数より大きい第2の周波数のうち、第2の周波数を特定の周波数帯域の上限値以上の値に設定する。例えば、第2の周波数を特定の周波数帯域の上限値と一致するように第2の周波数が設定される。このとき、特定の周波数帯域の上限値として、例えば、10次の高調波周波数以上に第2の周波数を設定しても良く、20次の高調波周波数以上に第2の周波数を設定しても良い。
【0194】
目標抵抗計算部303は、周波数設定部302により設定された第2の周波数から、式(53)又は式(54)を用いて目標となる基準直流抵抗値を計算する。また、目標抵抗計算部303は、記憶装置311から設計する電線が使用される特定の周波数帯域を読み出して、式(55)の関係を満たすように目標となる基準直流抵抗値を計算しても良い。
【0195】
線種選択部304は、固有抵抗計算部301及び目標抵抗計算部303によりそれぞれ計算された基準直流抵抗値に応じて電線の種類を選択する。即ち、線種選択部304は、複数の線種のうち、固有抵抗計算部301により計算された複数の線種に固有の基準直流抵抗値が、目標抵抗計算部303により計算された目標となる基準直流抵抗値以上である線種を選択する。
【0196】
記憶装置311は、複数の線種の基準直流抵抗値を計算するのに必要な情報、電線が適用される各機器で使用される特定の周波数帯域、式(53)又は式(54)に関する情報、固有抵抗計算部301により計算した基準直流抵抗値、周波数設定部302により設定した第2の周波数、目標抵抗計算部303により計算した基準直流抵抗値、及び線種選択部304により決定した線種等を保存する。記憶装置311としては、例えば半導体メモリ、磁気ディスク又は光ディスク等が採用可能である。記憶装置311は、CPU310において実行されるプログラムを格納している記憶装置等として機能させることが可能である(プログラムの詳細は後述する。)。記憶装置311は、CPU310におけるプログラム実行処理中に利用されるデータ等を一時的に格納したり、作業領域として利用される一時的なデータメモリ等として機能させることも可能である。
【0197】
入力装置312としては、例えばタッチパネル、キーボード、マウス、OCR等の認識装置、スキャナ、カメラ等の画像入力装置、マイク等の音声入力装置等が使用可能である。出力装置313としては、液晶ディスプレイ(LCD)、有機エレクトロルミネッセンス(EL)ディスプレイ、CRTディスプレイ等の表示装置や、インクジェットプリンタ、レーザプリンタ等の印刷装置等を用いることができる。
【0198】
<高周波電線の製造方法>
本発明の第3の実施の形態に係る電線の設計装置を用いた設計方法を含む高周波電線の製造方法の一例を、図64のフローチャートを用いて説明する。なお、ここではCCA線の製造方法を説明するが、これに特に限定されないことは勿論である。
【0199】
(イ)ステップS301において、固有抵抗計算部301は、記憶装置311から必要な情報を読み出して、高周波電線の材料、形状及び線径等の組み合わせからなる線種毎に基準直流抵抗値を計算する。計算された基準直流抵抗値は、記憶装置311に記憶される。なお、線種毎の基準直流抵抗値は予め記憶装置311に記憶されていてもよく、入力装置312から入力されても良い。また、線種毎の基準直流抵抗値は、理論式を用いて計算する代わりに実測しても良い。
【0200】
(ロ)ステップS302において、周波数設定部302は、記憶装置311から設計する電線が使用される特定の周波数帯域を読み出して、電線の交流抵抗と、電線と同じ線径を有するCu線の交流抵抗とがそれぞれ一致し、互いの間において電線の交流抵抗がCu線の交流抵抗よりも小さい第1の周波数及び該第1の周波数より大きい第2の周波数のうち、第2の周波数を特定の周波数帯域の上限値以上の値に設定する。設定された第2の周波数は、記憶装置311に記憶される。
【0201】
(ハ)ステップS3において、目標抵抗計算部303は、周波数設定部302により設定された第2の周波数から、式(53)又は式(54)を用いて基準直流抵抗値を計算する。計算された基準直流抵抗値は、記憶装置311に記憶される。また、目標抵抗計算部303は、記憶装置311から設計する電線が使用される特定の周波数帯域を読み出して、式(55)の関係を満たすように目標となる基準直流抵抗値を計算しても良い。
【0202】
(ニ)ステップS304において、線種選択部304は、複数の線種のうち、固有抵抗計算部301により計算された固有の基準直流抵抗値が、目標抵抗計算部303により計算された基準直流抵抗値以上の線種を決定する。決定した線種は、記憶装置311に記憶される。
【0203】
(ホ)ステップS305において、線種選択部304により決定された材料、形状及び線径等の組み合わせからなる線種の電線を製造する。例えばCCA線の場合、直径9.5mm〜12.0mm程度のアルミニウム又はアルミニウム合金からなる中心導体32を用意する。中心導体32の表面に、0.1mm〜0.4mm程度の厚さの銅テープを縦添え方式で添わせながらTIG溶接又はプラズマ溶接等を行うことにより、中心導体32の表面に被覆層33を被覆する。次に、被覆層33が被覆された中心導体32をスキンパスで直径9.3mm〜12.3mm程度に成形することにより、被覆層33が被覆された中心導体32からなる母材を作製する。次に、母材を、25〜26パス程度の複数段の伸線ダイスを通すことにより伸線する。複数段の伸線ダイスを経ることにより、最終的に電線の直径を、決定された線径と同じ線径とする。
【0204】
本発明の第3の実施の形態に係る電線の設計装置を用いた設計方法を含む高周波電線の製造方法によれば、式(53)又は式(54)を用いて計算した基準抵抗値から線種を決定することができる。この結果、高周波電線が使用される特定の周波数帯域において、第2の周波数が特定の周波数帯域の上限値より高く設定されるので、同じ線径のCu線と比較して渦電流による損失を同等か又は小さくすることができ、交流抵抗を低減可能な高周波電線の線径を設計することが可能となる。
【0205】
<電線設計プログラム>
図64に示した一連の手順、即ち:(イ)高周波電線の材料、形状及び線径等の組み合わせからなる線種毎に単位長さ当たりの直流抵抗値を計算するステップ;(ロ)電線の交流抵抗と、電線と同じ線径を有するCu線の交流抵抗とがそれぞれ一致し、互いの間において電線の交流抵抗がCu線の交流抵抗よりも小さい第1の周波数及び該第1の周波数より大きい第2の周波数のうち、第2の周波数を特定の周波数帯域の上限値以上の値に設定するステップ;(ハ)第2の周波数から、基準直流抵抗値を計算するステップ;(ニ)基準直流抵抗値に応じて電線の種類を決定するステップ等は、図64と等価なアルゴリズムのプログラムにより、図63に示した電線の設計装置を制御して実行出来る。
【0206】
このプログラムは、本発明の電線の設計装置を構成するコンピュータシステムの記憶装置311に記憶させればよい。また、このプログラムは、コンピュータ読取り可能な記録媒体に保存し、この記録媒体を記憶装置311等に読み込ませることにより、本発明の第3の実施の形態の一連の手順を実行することができる。
【0207】
ここで、「コンピュータ読取り可能な記録媒体」とは、例えば半導体メモリ、磁気ディスク、光ディスク等のプログラムを記録することができるような媒体等を意味する。例えば、電線の設計装置の本体は、記録媒体の読取り装置を内蔵若しくは外部接続するように構成できる。さらに、無線通信網等の情報処理ネットワークを介して、この記憶装置311に格納することが可能である。
【0208】
なお、式(53)又は式(54)に基準直流抵抗Rdcと第2の周波数fとの関係式の一例を説明し、これを用いて基準直流抵抗を計算した場合を説明したが、基準直流抵抗Rdcと第2の周波数fとの関係は厳密には式(53)又は式(54)に限定されず、他の理論式を用いて基準直流抵抗を計算しても良い。
【0209】
(第4の実施の形態)
<高周波電線の構造>
本発明の第4の実施の形態に係る高周波電線は、10kHz〜1MHz程度の周波数帯域で使用される電線であって、図65に示すように、銅よりも体積抵抗率の高い銅合金を導体部41とする。
【0210】
高周波電線の直径は、0.05mm〜0.6mm程度が望ましいが、特に限定されるものではない。銅合金層1は、例えば黄銅(真鍮)、リン青銅又はケイ素青銅等からなる。黄銅は、銅(Cu)及び亜鉛(Zn)を含む合金(Cu−Zn)であり、銅と亜鉛以外の少量の元素が含まれていても良い。ケイ素青銅は、銅、スズ(Sn)及びケイ素(Si)を含む合金(Cu−Sn−Si)であり、銅、スズ及びケイ素以外の少量の元素が含まれていても良い。リン青銅は、銅、スズ及びリン(P)を含む合金(Cu−Sn−P)であり、銅、スズ及びリン以外の少量の元素が含まれていても良い。
【0211】
通常、変圧器又はリアクトル等の巻線には、Cu線をポリウレタン、ポリエステル、ポリエステルイミド、ポリアミドイミド又はポリイミド等で絶縁被覆したものが用いられる。同軸ケーブルにおいては高周波電流信号であるために表皮効果特性を勘案し、例えばAl線の外側に銅層を薄肉で被覆したCCA線が用いられる。
【0212】
近年では、高周波変圧器、高速モータ、リアクトル、誘電加熱装置、磁気ヘッド装置及び非接触給電装置等の数kHz〜数100kHz程度の高周波電流を通電する機器の用途拡大が進み、そのような機器で使用される高周波電線においては、交流損失低減の目的で巻線の細径化又はリッツ線が一般的に使われている。しかしながら、接続のためのハンダ処理において絶縁皮膜の除去作業を困難にすることと、且つ素線本数が増えるために、細径化には限度がある。これに対して、本発明の第4の実施の形態に係る高周波電線によれば、リッツ線にしなくとも、交流抵抗の増大を抑止するための細径化電線に更なる抑止効果を付与するものである。
【0213】
高周波電線及びこれを素線として用いた高周波コイルにおいては、外部磁界は高周波電線を避ける傾向があるが、数100kHz程度未満の比較的低い周波数帯域では、外部磁界が高周波電線を避け切れずに高周波電線の内部に一様に入り込み、近接効果による渦電流を誘起する。このとき、高周波電線の材料の導電率が高い(即ち、体積抵抗率が小さい)ほど、渦電流が増大することとなり、結果として交流抵抗が大きくなるという知見を得た。
【0214】
更に、数10MHz程度以上の比較的高い周波数帯域では、図4に示すように外部磁界が高周波電線の内部に入り込みにくくなる。このとき、高周波電線の材料の導電率が高い(即ち、体積抵抗率が小さい)ほど磁界が高周波電線の表層付近に顕著に偏り、表層付近の電流が強くなる。このため、周波数が高いほど、近接効果により渦電流による損失が増大し、交流抵抗が大きくなるという知見を得た。
【0215】
図66及び図67に、半径0.2mmのCu線に外部磁界が1A/mmにおいて10kHz、100kHz及び1MHzを印加したときのCu線のy軸(断面方向)に沿った磁界強度分布及び電流密度分布をそれぞれ示す。図66において、周波数が高いほど、Cu線の表層付近の磁界強度が強くなることが分かる。図67から、周波数が高いほど、Cu線の表層付近の電流密度が高くなり、渦電流が増大していることが分かる。
【0216】
そこで、本発明の第4の実施の形態では、銅よりも体積抵抗率の大きい銅合金を高周波電線に適用した。図68に示すように、20℃において、黄銅(真鍮)、リン青銅及びケイ素青銅のそれぞれの体積抵抗率は、銅よりも高い。また、純アルミニウムも銅よりも体積抵抗率が高いが、Al線は表面が酸化皮膜で覆われており、その除去が困難である。これに対して、黄銅(真鍮)、リン青銅及びケイ素青銅等の銅合金では、そのような問題が生じない点で有利である。
【0217】
以上説明したように、本発明の第4の実施の形態に係る高周波電線によれば、黄銅(真鍮)、リン青銅又はケイ素青銅等の銅よりも体積抵抗率の高い銅合金を導体部41とすることにより、所定の周波数帯域において、Cu線を用いた場合よりも渦電流による損失が小さく、交流抵抗を低減可能となる。
【0218】
<第1の実施例>
第1の実施例として、本発明の第4の実施の形態に係る高周波電線の磁界強度分布及び損失分布の測定結果を説明する。図69及び図70に、比較例として、外部磁界強度を1A/mmとして、半径0.2mmのCu線に100kHzを印加したときのCu線のy軸に沿った磁界強度分布及び損失分布をそれぞれ示す。図71及び図72に、本発明の第4の実施の形態に係る高周波電線として、外部磁界強度を1A/mmとして、半径0.2mmのケイ素青銅線に100kHzを印加したときのケイ素青銅線のy軸に沿った磁界強度分布及び損失分布をそれぞれ示す。図71と図69とを対比すると、ケイ素青銅線の表層付近の磁界強度がCu線の場合よりも弱いことが分かる。また、図72と図70とを対比すると、ケイ素青銅線の渦電流による損失がCu線の場合と比較して小さくなることが分かる。
【0219】
また、図73及び図74に、本発明の第4の実施の形態に係る高周波電線として、外部磁界強度を1A/mmとして、半径0.2mmの黄銅線に100kHzを印加したときの黄銅線のy軸に沿った磁界強度分布及び損失分布をそれぞれ示す。図73と図69とを対比すると、黄銅線の表層付近の磁界強度がCu線の場合よりも弱いことが分かる。また、図74と図70とを対比すると、黄銅線の渦電流による損失がCu線の場合と比較して小さくなることが分かる。
【0220】
また、図75及び図76に、本発明の第4の実施の形態に係る高周波電線として、外部磁界強度を1A/mmとして、半径0.2mmのリン青銅線に100kHzを印加したときのリン青銅線のy軸に沿った磁界強度分布及び損失分布をそれぞれ示す。図75と図69とを対比すると、リン青銅線の表層付近の磁界強度がCu線の場合よりも弱いことが分かる。また、図76と図70とを対比すると、リン青銅線の渦電流による損失がCu線の場合と比較して小さくなることが分かる。
【0221】
<第2の実施例>
第2の実施例として、図77に、外部磁界強度Hを1(A/mm)として計算した本発明の第4の実施の形態に係る黄銅線、リン青銅線、ケイ素青銅線及び比較例に係るCu線の交流抵抗(近接効果成分)を示す。図77から、所定の周波数帯域において、黄銅線、リン青銅線、ケイ素青銅線の交流抵抗がCu線の交流抵抗よりも小さくなることが分かる。
【0222】
<第3の実施例>
第3の実施例として、本発明の第4の実施の形態に係る高周波電線である黄銅線、リン青銅線、ケイ素青銅線及び比較例に係るCu線について、直径0.4mmの素線を14本用いて、80ターンでリアクトルをそれぞれ作製した。リアクトルの交流抵抗を1本当たりの単位長さで表した測定結果を図9に示す。図9において、黄銅線、リン青銅線、ケイ素青銅線の交流抵抗がCu線の交流抵抗よりも、小さくなることが分かる。また、図77に示した素線の場合と比較すると、リアクトルの場合の交流抵抗の抑制効果がより大きいことが分かる。
【0223】
<第4の実施例>
第4の実施例として、本発明の第4の実施の形態に係る黄銅線及び比較例に係るCu線について、図10に示すように直径0.4mm、長さ6.6mの素線を55本用いて、17ターンでリッツ線構造とし、IH調理器用の磁場発生コイルを作製し、それらについて特性確認試験を行った。試験結果を図11及び図12に示す。IH調理器には、一般的に20kHz〜60kHz程度の高周波電流が使用されるが、20kHz〜60kHz程度を含む周波数帯域では、黄銅線の交流抵抗がCu線の交流抵抗よりも小さくなるのが分かる。
【0224】
<高周波電線の製造方法>
次に、本発明の第4の実施の形態に係る高周波電線の製造方法の一例を説明する。なお、以下に示す製造方法は一例であり特に限定されるものではない。本発明の第4の実施の形態に係る高周波電線は種々の製造方法により製造することが可能である。
【0225】
(イ)直径9.5mm〜12.0mm程度の黄銅(真鍮)、リン青銅又はケイ素青銅等の銅よりも体積抵抗率の高い銅合金部材を用意する。
【0226】
(ロ)次に、その銅合金部材を、20パス程度の複数段の伸線ダイスを通すことにより伸線する。複数段の伸線ダイスを経ることにより、最終的に高周波電線の直径を0.05mm〜0.6mm程度とする。この結果、図65に示した銅合金を導体部41とする高周波電線が完成する。
【0227】
(その他の実施の形態)
上記のように、本発明は実施の形態によって記載したが、この開示の一部をなす論述及び図面はこの発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施の形態、実施例及び運用技術が明らかとなろう。
【0228】
本発明の第1〜第4の実施の形態に係る電線(高周波電線)として素線(単線)を説明したが、この素線を複数本束ねた集合線や、複数本撚り合わせたリッツ線として使用することも可能であり、集合線やリッツ線の場合にも更に有効に交流抵抗を抑制することができる。
【0229】
また、式(1)〜式(52)に交流抵抗Rac、表皮効果による交流抵抗Rs、及び近接効果による交流抵抗Rpの理論式の一例を説明したが、交流抵抗Rac、表皮効果による交流抵抗Rs、及び近接効果による交流抵抗Rpの計算手法は特にこれらに限定されない。また、交流抵抗Rac、表皮効果による交流抵抗Rs、及び近接効果による交流抵抗Rpは、理論式を用いて計算する代わりに実際に測定しても良いのは勿論である。
【0230】
また、本発明の第1〜第4の実施の形態に係る高周波電線は、その表面をポリウレタン等の絶縁被覆層で被覆したエナメル線として用いても良いことは勿論である。
【0231】
このように、本発明はここでは記載していない様々な実施の形態等を含むことは勿論である。したがって、本発明の技術的範囲は上記の説明から妥当な特許請求の範囲に係る発明特定事項によってのみ定められるものである。
【産業上の利用可能性】
【0232】
本発明の電線は、高周波変圧器、モータ、リアクトル、チョークコイル、誘導加熱装置、磁気ヘッド、高周波給電ケーブル、DC電源ユニット、スイッチング電源、ACアダプタ、渦電流検出方式等の変位センサ・探傷センサ、IHクッキングヒータ、非接触給電装置又は高周波電流発生装置等の種々の装置の製造業を含む電子機器産業に利用可能である。
【符号の説明】
【0233】
11,31,41…導体部
12,21,32…中心導体
13,22,33…被覆層
20…コイル保持部
21…鉄芯
101…抵抗計算部
102…比計算部
103…判定部
110,210,310…CPU
111,211,311…記憶装置
112,212,312…入力装置
113,213,313…出力装置
201…交流抵抗計算部
202…周波数抽出部
203…線径抽出部
221…鉄心
222…電線
223…コイル
224…回転子
301…固有抵抗計算部
302…周波数設定部
303…目標抵抗計算部
304…線種選択部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム又は銅被覆アルミニウムからなる直径0.4mm〜2.3mmの導体部を備える電線であって、
前記電線の交流抵抗値が、前記導体部と同じ線径及び同じ長さからなる銅線の交流抵抗値に一致する、第1の周波数及び前記第1の周波数よりも周波数の大きい第2の周波数を有し、
前記第1の周波数から前記第2の周波数までの周波数帯域に、前記電線が使用される周波数が収まるように前記導体部の体積抵抗率が規定され、
前記第2の周波数が前記電線が使用される周波数の上限値以上となるように、前記導体部の体積抵抗率を断面積で除した単位長さ当たりの直流抵抗値が、前記直流抵抗値をRdc(mΩ/cm)、前記第2の周波数をf2(kHz)としたとき、
【数40】

の関係で規定されていることを特徴とする電線。
【請求項2】
前記電線が使用される周波数が、前記電線に使用する交流電流の基本波の周波数から20次までの高調波の周波数を含むことを特徴とする請求項1に記載の電線。
【請求項3】
電線を素線として用いたコイルであって、
前記電線がアルミニウム又は銅被覆アルミニウムからなる直径0.4mm〜2.3mmの導体部を備え、
前記電線の交流抵抗値が、前記導体部と同じ線径及び同じ長さからなる銅線の交流抵抗値に一致する、第1の周波数及び前記第1の周波数よりも周波数の大きい第2の周波数を有し、
前記第1の周波数から前記第2の周波数までの周波数帯域に、前記コイルが使用される周波数が収まるように前記導体部の体積抵抗率が規定され、
前記第2の周波数が前記コイルが使用される周波数の上限値以上となるように、前記導体部の体積抵抗率を断面積で除した単位長さ当たりの直流抵抗値が、前記直流抵抗値をRdc(mΩ/cm)、前記第2の周波数をf2(kHz)としたとき、
【数41】

の関係で規定されていることを特徴とするコイル。
【請求項4】
前記コイルが使用される周波数が、前記コイルに使用する交流電流の基本波の周波数から20次までの高調波の周波数を含むことを特徴とする請求項3に記載のコイル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【図37】
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【図38】
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【図39】
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【図40】
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【図41】
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【図42】
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【図43】
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【図44】
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【図45】
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【図46】
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【図47】
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【図48】
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【図49】
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【図50】
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【図51】
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【図52】
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【図53】
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【図54】
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【図55】
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【図56】
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【図57】
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【図58】
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【図59】
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【図60】
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【図61】
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【図62】
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【図63】
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【図64】
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【図65】
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【図66】
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【図67】
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【図68】
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【図69】
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【図70】
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【図71】
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【図72】
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【図73】
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【図74】
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【図75】
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【図76】
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【図77】
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【公開番号】特開2012−169288(P2012−169288A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−98030(P2012−98030)
【出願日】平成24年4月23日(2012.4.23)
【分割の表示】特願2011−550162(P2011−550162)の分割
【原出願日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】