説明

電荷平衡化有機イオンを含む粘土を作製する方法、それにより得られる粘土、および該粘土を含むナノ複合材料

本発明は、三価金属源および二価金属源から得られ、電荷平衡化有機アニオンを含む層状複水酸化物に関し、電荷平衡化アニオンは、少なくとも1つのヒドロキシル基を有する一価アニオンであり、層状複水酸化物は、20重量%未満のベーマイトと、5重量%未満の電荷平衡化アニオンと二価金属との塩とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電荷平衡化(charge-balancing)有機アニオンを含む層状複水酸化物およびその使用に関する。本発明は、さらに、これらの層状複水酸化物を含むナノ複合材料およびその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
そのような層状複水酸化物(LDH)は、当技術分野において既知である。国際公開第00/09599号、国際公開第99/35185号、およびCarlino(Solid State Ionics、98(1997)、73〜84頁)等の様々な参考文献が、ポリオレフィン等の疎水性マトリックスに適合する疎水性有機アニオンを含むLDHを開示している。
【0003】
また、ヒドロキシル含有またはアミン含有モノカルボン酸およびポリカルボン酸等のより親水性の有機アニオンを含むLDHも、当技術分野において知られている。そのような層状複水酸化物は、例えば米国特許第2006/20069号、米国特許第2003/114699号、米国特許第5,578,286号において、およびHibinoら(J.Mater.Chem.、2005、15、653〜656頁)により開示されている。これらの参考文献は、概して、例えば水滑石および/またはベーマイト等の未変換の原料等の二価または三価金属イオンをベースとした大量の化合物をさらに含有するそのようなLDHの調製について開示している。これらの汚染化合物は、概して、複合材料等におけるこれらのLDH組成物が使用されるマトリックスまたは媒質の特性に悪影響を及ぼす。これらの化合物の存在により、好適な用途の数が著しく減少する。
【0004】
米国特許第5,728,366号は、第一の複水酸化物中間体を形成し、続いてこれを低温で一価有機アニオンと接触させてインターカレートされたLDHを形成する、改善された方法を開示している。この方法は、商業的関心の対象となるにはあまりに複雑である。また、得られる生成物は、使用される酸のMg塩レベルが高すぎる。
【0005】
米国特許第2003/0114699号では、まず有機アニオンおよび三価金属源を反応させることにより中間体を形成し、第2段階において水中の中間体を二価カチオン源と95℃までの温度で反応させる、別の方法が提案されている。この方法は、2つの段階および液相中の有機アニオンの使用を必要とするため煩雑であり、また得られる生成物は、使用される酸の二価金属塩レベルが高すぎる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、i)三価金属源および二価金属源から得られ、電荷平衡化有機アニオンを含む高純度の層状複水酸化物(LDH)を作製する単純化された方法を提供すること、ii)親水性電荷平衡化アニオンを含む高純度の層状複水酸化物を提供すること、ならびにiii)より広範な用途における親水性電荷平衡化アニオンを含む前記層状複水酸化物の使用、特に(水系)コーティング等のナノ複合材におけるその使用、および別の実施形態において、特に製紙産業におけるその使用である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的は、特に1種または複数の三価金属源および1種または複数の二価金属源から得られ、少なくとも1つのヒドロキシル基を有する1種または複数の電荷平衡化有機アニオンを含むLDHを作製するための、水ベースのプロセスを提供することにより達成され、インターカレートされたLDHが高温で1段階で生成される。得られる生成物は所望の純度を有し、つまり20重量%未満のベーマイトと、5%未満の少なくとも1つのヒドロキシル基を有する前記有機アニオンの二価金属塩とを含む。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の一実施形態において、1段階反応は、110℃を超える、好ましくは120℃を超える、より好ましくは130℃を超える、さらにより好ましくは140℃を超える、さらにより好ましくは150℃を超える、さらにより好ましくは160℃を超える、最も好ましくは170℃を超える温度で行われる。好ましくは水性混合物の沸騰は圧力の付加により防止されるため、温度の上限は、典型的には、エネルギーコストおよび機器の定格により決定される。圧力は、大気圧から300バールまでの範囲となり得る。好適には、上限温度は300℃未満、好ましくは250℃未満、最も好ましくは200℃未満である。さらなる上限温度は、少なくとも1つのヒドロキシル基を有する有機アニオンの分解温度により決定付けられ得る。特に、このアニオンがヒドロキシカルボン酸である場合、温度は、脱炭酸および/または脱水温度未満であるべきである。
【0009】
本発明による層状複水酸化物は、1種または複数の三価金属イオン、1種または複数の二価金属イオン、および1種または複数の電荷平衡化有機アニオンを含み、少なくとも1種の電荷平衡化アニオンは、少なくとも1つのヒドロキシル基を有する一価有機アニオンであり、層状複水酸化物は、20重量%未満のベーマイトと、5重量%未満の前記二価金属と前記一価有機アニオンとの塩とを含む。
【0010】
一般に、層状複水酸化物は、20重量パーセント(wt%)未満の量の電荷平衡化アニオンとしての炭酸アニオンを含み、好ましくは炭酸アニオンの量は1重量%未満であり、最も好ましくは電荷平衡化アニオンとしての炭酸アニオンは存在しない。本発明のLDHにおける電荷平衡化炭酸アニオンの量が低いことにより、LDHは、例えばポリマーマトリックス中でより容易に剥離および/または剥脱するようになり、より大幅に剥離および/または剥脱するようになる。これらの改質されたLDHは、より高い炭酸塩量を有する類似のLDHと比較して、より広範な用途において好適に使用することができる。それらは、例えばポリ乳酸等、本来より疎水性が低く親水性のポリマーマトリックス中で使用することができる。
【0011】
一般に、ベーマイト(boehmite)と、少なくとも1つのヒドロキシル基を有する前記有機アニオンの二価金属塩との量が比較的低いと、本発明のLDHはより幅広い用途に好適となることが判明した。さらに、原材料としてのベーマイトのLDHへの変換が不十分である場合、一般に大量のベーマイトが存在する。好ましくは、ベーマイトの量は、LDHおよびベーマイトの総重量を基準として10重量%未満であり、より好ましくは5重量%未満であり、さらにより好ましくは1重量%未満であり、最も好ましくはベーマイトは存在しない。同様に、二価金属塩の量は、LDHおよびベーマイトの総重量を基準として5重量%未満であり、より好ましくは3重量%未満であり、さらにより好ましくは1重量%未満であり、最も好ましくは、二価金属塩はほぼ存在しない。
【0012】
本発明の一実施形態において、本発明の層状複水酸化物は、LDHおよび追加的な酸素含有材料(層状複水酸化物が作製される元ともなる二価および/または三価金属イオン源に由来する)の総重量を基準として、30重量%未満の総量の追加的な酸素含有材料を含む。好ましくは、追加的な酸素含有材料の量は20重量%未満であり、より好ましくは15重量%未満であり、さらにより好ましくは10重量%未満であり、最も好ましくは5重量%未満である。追加的な酸素含有材料の例には、二価および/または三価金属イオンの酸化物および水酸化物、例えばベーマイト、ギブサイト、三水酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、および水滑石等が含まれる。
【0013】
本出願の文脈において、「電荷平衡化有機アニオン」という用語は、LDHの結晶性粘土シートの静電的な荷電欠陥を補う有機イオンを指す。粘土は典型的には層構造を有するため、電荷平衡化有機イオンは、層間、末端上、または積層粘土層の外面上に位置し得る。積層粘土層の層間に位置したそのような有機イオンは、インターカレートイオンと呼ばれる。
【0014】
そのような積層粘土または有機粘土はまた、例えばポリマーマトリックス中で剥離または剥脱し得る。本明細書の文脈内において、「剥離」という用語は、粘土構造を少なくとも部分的に層脱離(de-layering)することによる粘土粒子の平均積層度(mean stacking degree)の低減として定義され、これにより体積あたり極めてより多くの個々の粘土シートを含有する材料が生成される。「剥脱」という用語は、完全な剥離、すなわち粘土シートに垂直な方向における周期性の消失として定義され、媒質中での個々の層の無作為な分散をもたらし、それにより積層秩序が全く残らない。
【0015】
粘土のインターカレーションとも呼ばれる粘土の膨潤または膨張は、X線回折(XRD)により観察され得るが、これは、底面反射(すなわちd(00l)反射)の位置が層間距離を示し、この距離はインターカレーション後に増加するためである。平均積層度の低減は、XRD反射の広がりから消失として、または底面反射(hk0)の非対称性の増加により観察され得る。完全な剥離、すなわち剥脱の特性決定は、未だ分析上の課題であるが、一般に、元の粘土からの非(hk0)反射の完全な消失から結論付けることができる。層の秩序化、ひいては剥離の程度は、さらに透過型電子顕微鏡法(TEM)により可視化することができる。
【0016】
電荷平衡化有機アニオンを含むLDHは、一般式:
【化1】

(式中、M2+は二価金属イオン、例えばZn2+、Mn2+、Ni2+、Co2+、Fe2+、Cu2+、Sn2+、Ba2+、Ca2+、Mg2+、またはこれらの混合物であり、M3+は三価金属イオン、例えばAl3+、Cr3+、Fe3+、Co3+、Mn3+、Ni3+、Ce3+、およびGa3+、またはこれらの混合物であり、mおよびnはm/n=1から10となるような値を有し、bは0から10までの範囲内の値を有する)に対応する層構造を有する。Xは、少なくとも1つのヒドロキシル基を有する一価アニオンであり、任意選択で、水酸化物、炭酸塩、重炭酸塩、硝酸塩、塩化物、臭化物、スルホン酸塩、硫酸塩、重硫酸塩、バナジウム酸塩、タングステン酸塩、ホウ酸塩、およびリン酸塩を含む他の任意の有機アニオンまたは無機アニオンであり、好ましくは電荷平衡化アニオンの総量の20%未満が炭酸塩である。本明細書の目的において、炭酸アニオンおよび重炭酸アニオンは、無機的性質のものとして定義される。
【0017】
本発明のLDHは、ハイドロタルサイトおよびハイドロタルサイト様アニオン性LDHを含む。そのようなLDHの例は、マイクスネライト(meixnerite)、マナセアイト(manasseite)、パイロオーライト(pyroaurite)、ジョグレナイト(sjogrenite)、スチヒタイト(stichtite)、バーベロナイト(barberonite)、タコバイト(takovite)、リーベサイト(reevesite)、およびデソーテルサイト(desautelsite)である。
【0018】
本発明の一実施形態において、層状複水酸化物は、一般式:
【化2】

(式中、mおよびnはm/n=1から10、好ましくは1から6、より好ましくは2から4、最も好ましくは3に近い値となるような値を有し、bは0から10の範囲内の値、一般には2から6の値、多くの場合約4の値を有する)に対応する層構造を有する。Xは、上に定義された電荷平衡化イオンである。m/nは2から4の値、より具体的には3に近い値を有するべきであるのが好ましい。
【0019】
LDHは、Cavaniら(Catalysis Today、11(1991)、173〜301頁)またはBookinら(Clays and Clay Minerals、(1993)、第41巻(第5号)、558〜564頁)により説明されているような、当技術分野において知られた任意の結晶形態、例えば3H、3H、3Rまたは3R積層を有し得る。
【0020】
本発明のLDHにおける個々の粘土層の間の距離は、概して、電荷平衡化アニオンとして炭酸塩のみを含有するLDHの層間距離よりも大きい。好ましくは、本発明によるLDHにおける層間距離は、少なくとも1.0nm、より好ましくは少なくとも1.1nm、最も好ましくは少なくとも1.2nmである。個々の層の間の距離は、上で概説したようにX線回折を使用して決定することができる。個々の層の間の距離は、個々の層のうちの1つの厚さを含む。
【0021】
本発明のLDHは、少なくとも1つのヒドロキシル基を有する一価電荷平衡化アニオンを含む。好ましくは、一価アニオンは、最大でも12個の炭素原子、好ましくは最大でも10個の炭素原子、最も好ましくは最大でも8個の炭素原子を有し、少なくとも2個の炭素原子、より好ましくは少なくとも3個の炭素原子を有する。一価電荷平衡化アニオンは、1つのヒドロキシル基、2つのヒドロキシル基または3つ以上のヒドロキシル基を有してもよい。1つまたは2つのヒドロキシル基を有する一価アニオンが好ましい。一実施形態において、電荷平衡化アニオンは、カルボン酸イオン、硫酸イオン、スルホン酸イオン、リン酸イオンおよびホスホン酸イオンからなる群から選択される一価アニオンである。好ましくは、一価電荷平衡化アニオンは、モノカルボン酸アニオンである。本発明によるモノカルボン酸アニオンの例には、グリコール酸アニオン、乳酸アニオン、3−ヒドロキシプロピオン酸アニオン、α−ヒドロキシ酪酸アニオン、β−ヒドロキシ酪酸アニオン、γ−ヒドロキシ酪酸アニオン、2−ヒドロキシ−2−メチル酪酸アニオン、2−ヒドロキシ−3−メチル酪酸アニオン、2−エチル−2−ヒドロキシ酪酸アニオン、2−ヒドロキシカプロン酸アニオン、2−ヒドロキシイソカプロン酸アニオン、10−ヒドロキシデカン酸アニオン、10−ヒドロキシドデカン酸アニオン、ジメチロールプロピオン酸アニオン、グルコン酸アニオン、グルクロン酸アニオン、グルコヘプタン酸アニオン等の脂肪族モノカルボン酸アニオン;ならびに、4−ヒドロキシフェニルピルビン酸アニオン、3−フルオロ−4−ヒドロキシフェニル酢酸アニオン、3−クロロ−4−ヒドロキシフェニル酢酸アニオン、ホモバニリン酸アニオン、3−ヒドロキシ−4−メトキシマンデル酸アニオン、DL−3,4−ジヒドロキシマンデル酸アニオン、2,5−ジヒドロキシフェニル酢酸アニオン、3,4−ジヒドロキシフェニル酢酸アニオン、3,4−ジヒドロキシヒドロ桂皮酸アニオン、4−ヒドロキシ−3−ニトロフェニル酢酸アニオン、2−ヒドロキシ桂皮酸アニオン、サリチル酸アニオン、4−ヒドロキシ安息香酸アニオン、2,3−ジヒドロキシ安息香酸アニオン、2,6−ジヒドロキシ安息香酸アニオン、3−ヒドロキシアントラニル酸アニオン、3−ヒドロキシ−4−メチル安息香酸アニオン、4−メチルサリチル酸アニオン、5−メチルサリチル酸アニオン、5−クロロサリチル酸アニオン、4−クロロサリチル酸アニオン、5−ヨードサリチル酸アニオン、5−ブロモサリチル酸アニオン、4−ヒドロキシ−3−メトキシ安息香酸アニオン、3−ヒドロキシ−4−メトキシ安息香酸アニオン、3,4−ジヒドロキシ安息香酸アニオン、2,5−ジヒドロキシ安息香酸アニオン、2,4−ジヒドロキシ安息香酸アニオン、3,5−ジヒドロキシ安息香酸アニオン、2,3,4−トリヒドロキシ安息香酸アニオン、没食子酸アニオン、およびシリング酸アニオン等の芳香族またはフェニル含有モノカルボン酸アニオンが含まれる。好ましいモノカルボン酸アニオンは、グリコール酸アニオン、乳酸アニオン、ジメチロールプロピオン酸アニオン、グルコン酸アニオン、およびサリチル酸アニオンからなる群から選択される。乳酸アニオンおよびジメチロールプロピオン酸アニオンが、さらに好ましいモノカルボン酸アニオンである。上述のモノカルボン酸アニオンのいくつかは、D型およびL型の両方が存在し得ることに留意されたい。本発明のLDHにおいて、鏡像異性体のいずれかを使用すること、または鏡像異性体の混合物を使用することが企図される。さらに、電荷平衡化アニオンとして、上記一価電荷平衡化アニオン、特にモノカルボン酸アニオンのうちの2種以上を使用することが想定される。
【0022】
さらに、電荷平衡化一価アニオンは、ヒドロキシル基(複数可)に次いで、アクリレート、メタクリレート、塩化物、アミン、エポキシ、チオール、ビニル、ジスルフィドおよびポリスルフィド、カルバメート、アンモニウム、スルホニウム、ホスホニウム、ホスフィン酸、イソシアネート、メルカプト、ヒドロキシフェニル、水素化物、アセトキシ、ならびに無水物等の1つまたは複数の官能基を有することが企図される。そのような有機改質LDHがポリマーマトリックス中に使用される場合、これらの官能基はポリマーと相互作用または反応し得る。
【0023】
少なくとも1つのヒドロキシ基を有する一価電荷平衡化有機アニオンを含むLDHを作製するための本発明の方法は、1段階で、三価金属源、二価金属源、水、および有機アニオンの源がすべて混合され、少なくとも110℃の反応温度に加熱される方法である。
【0024】
反応を速めるために、典型的には、金属源の1つまたは両方が、10ミクロン未満のd90粒径まで、より好ましくは5ミクロン未満まで粉砕されることが好ましい。そのような粉砕および高い反応温度は、二価金属および有機アニオンの塩が最小限に保持されるという事実により実証されるように、典型的には非常に良好な純度を有する生成物をもたらす。
【0025】
本発明の一実施形態において、本発明の改質LDHを調製するための方法に使用される三価金属イオンと一価アニオン、特にモノカルボン酸塩との間のモル比は、一般に少なくとも0.6、好ましくは少なくとも0.7、最も好ましくは少なくとも0.8であり、一般に最大でも1.5、好ましくは最大でも1.4、最も好ましくは最大でも1.3である。
【0026】
本発明は、さらに、本発明による層状複水酸化物を含む水性スラリーに関連する。改質LDHの量は、水性スラリーの総重量を基準として、一般に少なくとも0.1重量%、好ましくは少なくとも0.2重量%、最も好ましくは少なくとも0.5重量%であり、最大でも50重量%、好ましくは最大でも30重量%、最も好ましくは最大でも20重量%である。これらの水性スラリーは、一般に、保存安定性を有する、すなわち固体の沈降が全くまたはほとんど観察されない。さらに、これらのスラリーは、特により高い濃度において、比較的高い粘度を有し得、チキソトロピー性となり得、また剪断減少挙動を示し得る。水性スラリーにおける懸濁媒質は水であってもよく、または水と水混和性溶媒との混合物であってもよい。溶媒の水との混和性は、ASTM D1722−98を用いて決定することができる。そのような溶媒の例には、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、i−ブタノール、およびtert−ブタノール等のアルコール;エチレングリコール、プロピレングリコール、およびグリセロール等のアルカンポリオール;ジメチルエーテル、ジエチルエーテルまたはジブチルエーテル等のエーテル;ジメチルエチレングリコール、ジエチルエチレングリコール、ジメチルプロピレングリコール、およびジエチルプロピレングリコール等のアルカンポリオールのジエーテル;ならびに、式
【0027】
【化3】

(式中、RはC〜Cアルキルまたはフェニルであり、Rは水素またはメチルであり、nは1から5の整数である)に従うアルコキシル化アルコール;トリエチルアミン等のアミン;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ラウリルポリエチレングリコール等の非イオン性ポリマー溶媒;イオン性液体;ピリジン;ジメチルスルホキシド;およびn−メチルピロリドン等のピロリドンが含まれる。また、2種以上の水混和性溶媒の混合物も想定される。水および水混和性溶媒の両方を含む懸濁媒質が分離して2つの相を形成しないことが好ましい。また、水が存在しない懸濁媒質を使用することも想定される。
【0028】
本発明のLDHまたは水性スラリーは、コーティング組成物、(印刷用)インク製剤、粘着付与剤、樹脂系組成物、ゴム組成物、洗浄用製剤、掘削流体およびセメント、石膏製剤、不織布、繊維、フォーム、膜、整形外科用ギプス、アスファルト、(プレ)セラミック材料、ならびにポリマー系ナノ複合材等のハイブリッド有機−無機複合材料における構成物質として使用することができる。本発明のLDHは、さらに、溶液重合、エマルジョン重合、および懸濁重合等の重合反応において使用することができる。有機粘土はさらに、半結晶性ポリマーにおける結晶化補助剤として作用し得る。本発明のLDHは、さらに、LDHおよび有機アニオンの別個の機能を組み合わせることができる用途、例えば製紙プロセスまたは洗剤産業において使用することができる。さらに、本発明のLDHは、医薬品、農薬、および/または肥料の制御放出用途において、ならびに汚染物質、着色剤等の有機化合物の吸着剤として使用することができる。
【0029】
本発明のさらなる実施形態において、本発明の改質LDHは、製紙プロセスにおいて使用される。特に、改質LDHは、アニオン性夾雑物捕捉剤(anionic trash catcher)(ATC)として使用することができる、すなわち、製紙用パルプ中に存在し、保持剤(retention agent)等の製紙用添加剤の性能とマイナスの相互作用を生じる、またはそれにマイナスの影響を与えるロジン等のアニオン性材料を、吸着により除去することができる。本発明のLDHは、概して、滑石または無機電荷平衡化アニオンを含有する層状複水酸化物等の従来の材料よりも高い前記アニオン性材料の容量を有し、したがって極めてより少ない量で使用することができる。さらなる詳細は、国際公開第2004/046464号から見出すことができる。
【0030】
本発明は、さらに、水系コーティング用途におけるステイン防止剤としての、本発明の改質LDHの使用に関連する。水系コーティングは、コーティングが施される材料に含有されるある特定の(水溶性)生成物がコーティングを通して移動し、コーティング層の退色(これは「色泣き」とも呼ばれる)をもたらすという問題を有する。そのような色泣き現象は、例えばタンニンを含有する熱帯木材、およびニコチンまたはタールのステインを含有する壁に見ることができる。したがって、改質LDHは、建具類および装飾塗料等の水系木材コーティング、ならびにラテックス等の水系壁塗料中に好適に使用することができる。本発明のLDHの利点は、これらの水系コーティング中に使用されるより広範な結合剤との増加した適合性、および従来のステイン防止系と比較して増加したステイン防止性能である。さらなる利点は、これらの水系コーティングにおける改質LDHの水性スラリーの好適性および使用の容易性である。一般に使用される改質LDHの量は、水系コーティングの総重量を基準として、少なくとも0.1重量%、好ましくは少なくとも0.2重量%、最も好ましくは少なくとも0.5重量%であり、最大でも20重量%、好ましくは最大でも15重量%、最も好ましくは最大でも10重量%である。
【0031】
本発明は、さらに、ポリマーマトリックスおよび本発明による改質LDHを含む複合材料、特にナノ複合材料に関連する。本発明の改質LDHを使用して、より幅広いポリマーマトリックスにおいてより高い剥脱および/または剥離度を得ることができ、マイクロメートルサイズの改質LDHの量は概してより低いか、またはさらに存在しない。これにより、ナノ複合材料におけるより少量の改質LDHの使用が可能となる。したがって、比較的低密度および良好な機械的特性を有するナノ複合材料を提供することができる。ナノ複合材料中の完全に剥脱した、および/または剥離したLDHにより、材料は可視光を透過するようになることができ、したがって光学的用途における使用に好適となり得る。「複合材料」という用語は、マイクロ複合材料およびナノ複合材料を含む。「ナノ複合材料」という用語は、少なくとも1つの成分が、0.1ナノメートルから100ナノメートルの範囲の少なくとも1つの寸法を有する無機相を含む複合材料を指す。「マイクロ複合材料」という用語は、少なくとも1つの成分が、その寸法のすべてにおいて100ナノメートルを超える無機相を含む複合材料を指す。
【0032】
本発明の(ナノ)複合材料において好適に使用することができるポリマーは、当技術分野において知られた任意のポリマーマトリックスであってもよい。本明細書において、「ポリマー」という用語は、少なくとも2つの基本単位(すなわちモノマー)の有機物質を指し、したがってオリゴマー、コポリマー、およびポリマー樹脂を含む。ポリマーマトリックスにおける使用に好適なポリマーは、重付加物および重縮合物の両方である。ポリマーはさらに、ホモポリマーまたはコポリマーであってもよい。好ましくは、ポリマーマトリックスは、少なくとも20、より好ましくは少なくとも50の重合度を有する。「重合度」という用語は、従来の意味を有し、反復単位の平均数を表す。好適なポリマーの例は、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデンまたはポリフッ化ビニリデン等のビニルポリマー、ポリエチレンテレフタレート、ポリ乳酸、またはポリ(ε−カプロラクトン)等の飽和ポリエステル、不飽和ポリエステル樹脂、アクリレート樹脂、メタクリレート樹脂、ポリイミド、エポキシ樹脂、フェノールホルムアルデヒド樹脂、尿素ホルムアルデヒド樹脂、メラミンホルムアルデヒド樹脂、ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリアリールエーテル、ポリスルホン、ポリスルフィド、ポリアミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエステルケトン、ポリシロキサン、ポリウレタン、ポリエポキシド、および2種以上のポリマーのブレンドである。好ましくは、ビニルポリマー、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリウレタンまたはポリエポキシドが使用される。
【0033】
本発明による有機粘土は、ポリスチレン等の熱可塑性ポリマーおよびポリオキシメチレン(POM)等のアセタール(コ)ポリマーにおける使用、また天然ゴム(NR)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、ポリイソプレン(IR)、ポリブタジエン(BR)、ポリイソブチレン(IIR)、ハロゲン化ポリイソブチレン、ブタジエンニトリルゴム(NBR)、水素化ブタジエンニトリル(HNBR)、スチレン−イソプレン−スチレン(SIS)および類似のスチレンブロックコポリマー、ポリ(エピクロルヒドリン)ゴム(CO、ECO、GPO)、シリコーンゴム(Q)、クロロプレンゴム(CR)、エチレンプロピレンゴム(EPM)、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、ポリスルフィドゴム(T)、フッ素ゴム(FKM)、エチレン酢酸ビニルゴム(EVA)、ポリアクリルゴム(ACM)、ポリウレタン(AU/EU)、ならびにポリエステル/エーテル熱可塑性エラストマー等のゴム(ラテックス)における使用に特に好適である。
【0034】
複合材料中、特にナノ複合材料中のLDHの量は、混合物の総重量を基準として、好ましくは0.01〜75重量%、より好ましくは0.05〜50重量%、さらにより好ましくは0.1〜30重量%である。10重量%以下、好ましくは1〜10重量%、より好ましくは1〜5重量%のLDH量が、ポリマー系ナノ複合材、すなわち、剥離した(さらには剥脱した)有機改質LDHを含有する本発明によるポリマー含有組成物の調製に特に有利である。10〜70重量%、より好ましくは10〜50重量%のLDH量が、いわゆるマスターバッチ、すなわち、例えばポリマー配合用等の高濃縮添加剤プレミックスの調製に特に有利である。そのようなマスターバッチ中の粘土は、一般に完全には剥離および/または剥脱していないが、所望の場合は、後の段階でマスターバッチをさらなるポリマーとブレンドして真のポリマー系ナノ複合材を得る際に、さらなる剥離および/または剥脱に達し得る。
【0035】
本発明のナノ複合材料は、当業者に知られた任意の方法に従い調製することができる。当業者は、ポリマーマトリックスおよび本発明による有機粘土を、例えば溶融ブレンド技術を使用して密に混合することができる。この方法は、単純で、費用効率が良く、既存のプラントにおいて容易に適用可能であるため好ましい。ポリマーマトリックスの存在下、または、モノマーおよび/もしくはオリゴマーが重合されてポリマーマトリックスを形成する前、その間、もしくはその後にモノマーおよび/もしくはオリゴマーの存在下で本発明の粘土を調製することも想定される。
【0036】
本発明は、以下の実施例においてさらに例示される。
【実施例】
【0037】
酸化マグネシウム(Zolitho(登録商標)40、Martin Marietta Magnesia Specialties LLC製)123.2グラムおよび三水酸化アルミニウム(Alumill F505)117.4グラムを、脱塩水1,900グラム中で混合し、平均粒径(d50)2.7μmまで磨砕した。高速撹拌器を備えた油加熱オートクレーブにスラリーを供給した。次いで乳酸168グラム(純度88%、Baker社製)を15分間にわたりオートクレーブに添加した。酸添加後、オートクレーブを閉じ、170℃に加熱してそのまま4時間保持した。続いてオートクレーブを1時間以内に70℃未満まで冷却し、得られたスラリーを除去した。乳酸塩を含む得られた層状複水酸化物をX線回折で分析し、格子面間隔(inter-gallery spacing)またはd間隔を決定した。上記のように調製された層状複水酸化物のXRDパターンは、軽微なハイドロタルサイト関連非(hk0)反射を示し、これはアニオン性粘土のインターカレーションを示唆している。インターカレートは、14.6Åという特徴的なd(00l)値を示す。ベーマイトは生成物には存在せず、乳酸Mgの量は5重量%未満であった。
【0038】
米国特許第2003−0114699A1号に記載の調製法による比較例A:
分離を回避するために十分な撹拌条件下で、脱塩水500グラムおよびCatapal B(Sasol社製、純度91.49%)17.05グラムを3リットルSS油加熱オートクレーブに注入した。次に、乳酸(Purac T、純度88%)24.20グラムを反応器に注入した。次いで、反応器の内容物を周囲温度から80℃まで加熱し、8時間反応させた。この期間の後、酸化マグネシウム(Zolitho(登録商標)40、Martin Marietta Magnesia Specialties LLC製、純度98%)17.96グラムを反応混合物に注入し、続いて脱塩水1,500グラムを添加した。最後に、反応混合物を80℃から95℃に加熱し、この温度を8時間維持した。周囲温度まで冷却した後、反応器の内容物を回収すると、pH9.3、固形分3.2重量%で、チキソトロピー性を示すようであった。乾燥試料に対し行ったX線回折分析では、約25%のベーマイトおよび微量の無水乳酸Mgが存在することが判明した。
【0039】
比較例B、T<110℃での調製
酸化マグネシウム(Zolitho(登録商標)40、Martin Marietta Magnesia Specialties LLC製、純度98%)55.14グラムおよび三水酸化アルミニウム(Alumill F505)52.45グラムを、脱塩水2,022.4グラム中で混合し、平均粒径(d50)2.35μmまで磨砕した。分離を回避するために十分な撹拌条件下で、スラリーを3リットルSS油加熱オートクレーブに供給した。次に、乳酸(純度88%、Baker社製)83.96グラムをオートクレーブに添加した。酸添加後、オートクレーブを閉じて95℃に加熱し、続いてこの温度を4時間維持した。最後に、オートクレーブを1時間以内に50℃未満まで冷却し、続いて反応器の内容物を回収した。乳酸塩を含む得られた層状複水酸化物をX線回折で分析し、格子面間隔またはd間隔を決定した。しかしながら、上記のように調製された層状複水酸化物のXRDパターンは、適用した反応条件において、乳酸Mg、ATH(ギブサイト)、およびMDH(水滑石)の混合物が形成されたことを明らかにした。5%を超える乳酸Mgが存在した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つのヒドロキシル基を有する電荷平衡化有機アニオンを含む層状複水酸化物を作製する方法であって、少なくとも110℃の温度で三価金属源、二価金属源、水、および前記有機アニオンを接触させるステップを含む方法。
【請求項2】
温度が少なくとも150℃である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
有機アニオンが、少なくとも1つのヒドロキシル基を有するカルボン酸、好ましくは乳酸のアニオンであり、温度が前記アニオンの脱炭酸温度未満に保持される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
金属源の1種または複数が、接触ステップの前またはその間に粉砕される、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
1種または複数の三価金属イオン、1種または複数の二価金属イオン、および1種または複数の電荷平衡化有機アニオンを含む、層状複水酸化物であって、少なくとも1種の電荷平衡化アニオンは、少なくとも1つのヒドロキシル基を有する一価有機アニオンであり、前記層状複水酸化物は、20重量%未満のベーマイトと、5重量%未満の前記二価金属と少なくとも1つのヒドロキシル基を有する前記一価有機アニオンとの塩とを含む、層状複水酸化物。
【請求項6】
電荷平衡化アニオンとしての炭酸アニオンの量が20重量%未満であり、好ましくは炭酸アニオンの量が1重量%未満であり、最も好ましくは電荷平衡化アニオンとしての炭酸アニオンが存在しない、請求項5に記載の層状複水酸化物。
【請求項7】
一価有機アニオンがモノカルボン酸アニオンである、請求項5または6に記載の層状複水酸化物。
【請求項8】
モノカルボン酸アニオンが、グリコール酸アニオン、乳酸アニオン、3−ヒドロキシプロピオン酸アニオン、α−ヒドロキシ酪酸アニオン、β−ヒドロキシ酪酸アニオン、γ−ヒドロキシ酪酸アニオン、2−ヒドロキシペンタン酸アニオン、ジメチロールプロピオン酸アニオン、グルコン酸アニオン、グルクロン酸アニオン、グルコヘプタン酸アニオン、およびこれらの混合物からなる群から選択され、好ましくはモノカルボン酸アニオンが乳酸アニオンである、請求項7に記載の層状複水酸化物。
【請求項9】
請求項5から8のいずれか一項に記載の層状複水酸化物を含む水性スラリー。
【請求項10】
請求項5から8のいずれか一項に記載の層状複水酸化物を含む水系コーティング。
【請求項11】
請求項5から8のいずれか一項に記載の層状複水酸化物およびポリマーマトリックスを含む複合材料。
【請求項12】
複合材料の総重量を基準として、1〜10重量%の層状複水酸化物を含む、請求項11に記載の複合材料。
【請求項13】
複合材料の総重量を基準として、10〜70重量%の請求項5から8のいずれか一項に記載の層状複水酸化物、および30〜90重量%のポリマーを含む、マスターバッチ。
【請求項14】
製紙プロセスにおける、請求項5から8のいずれか一項に記載の層状複水酸化物の使用。
【請求項15】
水系コーティング用途におけるステイン防止剤としての、請求項5から8のいずれか一項に記載の層状複水酸化物の使用。

【公表番号】特表2011−506260(P2011−506260A)
【公表日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−538684(P2010−538684)
【出願日】平成20年12月16日(2008.12.16)
【国際出願番号】PCT/EP2008/067657
【国際公開番号】WO2009/080629
【国際公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【出願人】(390009612)アクゾ ノーベル ナムローゼ フェンノートシャップ (132)
【氏名又は名称原語表記】Akzo Nobel N.V.
【Fターム(参考)】