説明

電荷結合と生分解性共有結合により同時に連結された高分子−siRNAナノ粒子担体及びその製造方法

【課題】生体内で標的部位へのsiRNA送達効率が高く、比較的低い濃度の投与でも治療用siRNAを生体内の癌組織などの標的部位に効率的に送達することができ、各種疾病の治療のために広範囲に使用することのできる高分子−siRNA担体及びその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明による高分子−siRNA担体は、高分子(A)とsiRNA(B)が電荷結合と生分解性共有結合により同時に連結されたA−Bの構造を有する。ここで、Aは正電荷と官能基とを有する高分子であり、Bは片末端又は両末端に官能基を有するsiRNAである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子にsiRNAが結合された高分子−siRNA担体及びその用途に関し、より詳細には、高分子とsiRNAが電荷結合と生分解性共有結合により同時に結合されることで安定した高分子−siRNAナノ粒子担体及びその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
遺伝子治療のコア技術は、強い負電荷を帯びているオリゴヌクレオチドをどのようにして所望の組織内に送達するかに拠る。一般に、生きている細胞は、タンパク質、又はオリゴヌクレオチドなどの巨大分子の透過性が非常に低い。一部の低分子量物質のみ非常に低い割合で生きている細胞の細胞膜を通過して細胞内部の細胞質又は核に入り込むことができるため、タンパク質又はオリゴヌクレオチドを含む巨大分子を送達する上で制限要因となっている。このような問題を克服するための様々な遺伝子担体及びその送達方法に関する研究が行われてきた。各種ウイルスを用いた送達法がそのうちの1つである。ウイルスを用いた送達法は、送達効率の面では優れているが、ウイルス遺伝子による宿主の遺伝子発現機能への影響及び発癌可能性により、臨床適用には問題があった。よって、ウイルスの高いトランスフェクション効率を維持し、かつ体内での安定した遺伝子送達を可能にする担体の開発が求められている。
【0003】
細胞で特定の遺伝子の発現を阻害するのに卓越した効果を発揮するものとして「RNA干渉(RNA interference; RNAi)」が遺伝子治療分野で脚光を浴びている。siRNAの高い活性及び精密な遺伝子選択性により過去20年間研究され、現在治療剤として活用されているアンチセンスオリゴヌクレオチド(ODN)に代替する治療剤として期待されている。そこで、現在30社以上の製薬会社と生命工学会社がsiRNAに基づく治療剤の開発に取り組んでいる。特に、糖尿病、肥満、リウマチ、パーキンソン病、B型肝炎、C型肝炎、エイズ、癌などの疾病を治療するためのsiRNA関連治療剤を開発済み又は開発中である。
【0004】
siRNAは、約19〜23個のヌクレオチドからなる短い二本鎖RNAであり、これらと相補的な塩基配列を有する標的遺伝子のmRNAを標的として遺伝子発現を抑制する。すなわち、特定の遺伝子の発現代謝過程を調節するmRNAを特異的に分解し、標的遺伝子のタンパク質合成を中断させて疾病を治療する。そこで、強い負電荷を帯びているsiRNAを生体内に送達するために、カチオン性リポソームやミセル及びカチオン性高分子を使用した担体が研究されている。siRNAは、安定性が低いため、生体内で血漿に大量に存在する様々な分解酵素により短時間で分解され、特に注射治療剤の場合、化学的に安定して処理されないとより速く破壊され、siRNAが有するアニオン性により、同様に負電荷を帯びている細胞膜を透過することが難しく、結果として、細胞内への送達性が低下し、その治療効率が急激に低下するという問題があった。siRNAは、二本鎖からなるものの、RNAを構成するリボース糖の結合はDNAを構成するデオキシリボース糖の結合に比べて化学的に非常に不安定であり、ほとんどが生体内での半減期が約30分と速く分解されてしまう。また、生体内でsiRNAを外部物質と認識して免疫系に副作用を起こすことがある。さらに、siRNAがもともと意図していた遺伝子部位ではなく、他の部位の遺伝子に影響し、遺伝子塩基配列にクロスハイブリダイゼーションを起こすことがあるという問題があった。
【0005】
よって、生体内で容易に分解される低い安定性により治療効率が急激に低下する、このようなsiRNAの欠点を克服すると共に、体内透過が可能になるように負電荷を中和することのできる担体の開発が重要である。治療剤としてのsiRNA担体は、体内循環性と特定の疾患部位への特異的な蓄積性を有することが好ましく、体内で適切に生分解されなければならない。生体由来高分子の1つであるグリコールキトサンは、生体適合性及び生分解性と優れた癌特異的蓄積性により、優れた抗癌剤担体として既に知られている。本研究室では、グリコールキトサンにヌクレオチドと強力に結合するポリエチレンイミン(PEI)を添加して、正電荷が補われたsiRNA担体(グリコールキトサン−PEI)を開発した(特許文献1)。しかしながら、強い負電荷を帯びているsiRNAと効果的な複合体を形成する上で、高分子が有する電荷だけでは結合力が不足する。
【0006】
一方、低分子量siRNAの低い生体内安定性を補うための高分子担体との効果的な結合を可能にするために、siRNAの分子量自体を増加させようとする努力が報告されている。Jean−Paul Behrグループは、siRNAの3’末端にDNA配列を追加して製造したsticky siRNA(ssiRNA)を用いることにより、siRNAの生体内送達効率が増加したことを報告し(非特許文献1)、本研究室では、siRNAの5’末端にチオール基を導入してsiRNA間のジスルフィド結合によりサイズを増加させたpoly−siRNAを製造し、生体内安定性と遺伝子発現効果が増加したことを発表した(特許文献2、非特許文献2)。その他に、安定性を確保するためにサイズを増加させたpoly−siRNAを製造する方法として架橋剤でジスルフィド結合を導入して多重結合のsiRNAを製造した場合に標的遺伝子の発現が抑制されたという報告がある(非特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】韓国特許出願第2009−0041428号
【特許文献2】韓国特許出願第2009−0042273号
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America, 2007. 104 (41): 16050-16055
【非特許文献2】Journal of Controlled release, 2010. 141 (3): 339-346
【非特許文献3】Nature materials, 2010. 9: 272-278
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、本発明者は、効果的な遺伝子治療剤として使用できるsiRNAの生体内安定性と標的部位への送達効率を高めるために、生体適合性に優れた高分子とsiRNAを、電荷結合により連結すると共に、生分解性共有結合により連結した、高分子−siRNA担体を製造した。より詳細には、siRNA、poly−siRNA、又は多重結合のsiRNAを、適切な正電荷を有しかつ反応基を含む高分子と電荷結合させると共に、siRNAの末端に形成された反応基と共有結合させることにより、疾病細胞の特定のタンパク質の発現を遮断して様々な疾病の治療に適用できる新規なナノ担体である高分子−siRNA担体を開発した。
【0010】
本発明は、前述のような問題を解決するためになされたものであり、siRNAの生体内安定性及び送達効率を高めることのできる新規なsiRNA担体又は前記siRNA担体を含む薬物組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明は、高分子とsiRNAを電荷結合と生分解性共有結合により同時に結合させたsiRNA担体を提供する。
【0012】
また、本発明は、高分子−siRNA担体を含むことを特徴とする薬物組成物を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によるsiRNA担体は、高分子とsiRNAが電荷結合と生分解性共有結合により同時に結合されているため、siRNAを標的疾病の細胞又は組織に安定して送達することができる。従って、標的部位に選択的にsiRNAが蓄積されて特定の疾病タンパク質の発現を遮断できるため有用である。
【0014】
本発明によるsiRNA担体は、癌やその他の疾病モデルに適用できるため、今後広範囲な疾病の治療のための治療剤として使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施例1で架橋剤を用いてアミンを有するグリコールキトサンに−SH(チオール基)を導入してチオール化グリコールキトサン(Thiolated Glycol Chitosan; TGC)を製造する過程を示す模式図である。
【図2】実施例2で両末端基が−SH(チオール基)であるpoly−siRNAとチオール化グリコールキトサン(TGC)を反応させてジスルフィド結合及び電気的結合による複合体を形成する過程を示す模式図である。
【図3】実施例2のpoly−siRNAとグリコールキトサン又はチオール基の導入の程度が異なるTGCとの複合体が形成されたか否かを示す図である。
【図4】実施例2の図2に示す方法で製造されたpoly−siRNA−TGCの結合がなされたか否かを確認するためにDTT(ジチオスレイトール)で処理して電気泳動したものを示す図である。
【図5】実施例3で製造されたpoly−siRNAとTGC(TGC2、TGC3、5:1の重量比)で製造された複合体ナノ粒子による細胞での遺伝子発現抑制効果の結果を示す写真である。
【図6】実施例4の方法で近赤外線蛍光物質(Cy5.5)で修飾されたpoly−siRNAを用いて製造されたpoly−siRNA−TGC複合体のマウスの組織蓄積性及び時間による体内循環性を示すものである。
【図7】実施例5の方法でpoly−siRNA−TGC複合体のマウス癌組織に対する遺伝子発現抑制能の実験結果、すなわちpoly−siRNA−TGC複合体によるモデル標的タンパク質であるRFP(Red Fluorescent Protein)の発現が著しく減少したことを示すものである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は、siRNAを生体内で効率的に送達するために、高分子とsiRNAを結合して製造されたsiRNA担体を提供するが、前記siRNA担体は、高分子とsiRNAが電荷結合と生分解性共有結合により同時に結合されたことを特徴とする。
【0017】
本発明によるsiRNA担体は、高分子と様々な形態のsiRNAを結合して製造されるものであり、前記結合は、電荷結合と生分解性共有結合とによるものであって、その構造は次のように表される。
【0018】
A−B(A:高分子、B:様々な形態のsiRNA)
前記Aは、電荷と官能基とを有する高分子である。具体的には、生体適合性を有する全ての高分子を使用することができ、特に、疾病組織への蓄積効率が高く、薬物担体として使用される生体高分子であるキトサン、グリコールキトサン、プロタミン、ポリリジン、ポリアルギニン、ポリエチレンイミン、デキストラン、ヒアルロン酸、アルブミン、又はこれらの化学的誘導体のうち、正電荷と官能基を同時に有するものであれば、特に使用に制限はない。合成高分子としては、PEI(polyethylenimine)、PLGA(poly lactic glycolic acid)、及びポリ−L−リジン(poly-L-lysine)などを使用することができるが、必ずしもこれに限定されるものではない。
【0019】
前記Bは、様々な形態のsiRNAであり、単量体siRNAであってもよく、高分子siRNA(poly−siRNA、多量体siRNA)であってもよい。前記siRNAは、15〜30個のヌクレオチド単量体siRNAであるか、又はその重合体である100〜400個のヌクレオチドからなる多量体siRNAであることが好ましい。前記siRNAの鎖は、分子量10,000〜1,000,000から選択されることが好ましい。前記siRNAの配列としては、治療目的のVEGF(Vascular Endothelial Growth Factor)、NF−kB、熱ショックタンパク質、熱ショック因子などの配列を用いることが好ましいが、必ずしもこれに限定されるものではない。下記実施例では、siRNAの送達効能を蛍光で確認するために、RFPに対するsiRNA塩基配列を用いた。
【0020】
前記Aと前記Bとは、電荷結合及び生分解性共有結合により連結される。前記電荷結合は、負電荷を帯びているsiRNAと正電荷を帯びている高分子間の電荷結合である。両親媒性高分子ナノ粒子の外部に物理的にsiRNAを結合する方法は、化学的結合の最大積荷量が約10%に制限されるのに対して、最大積荷量が95%と格段に高いため、化学的結合の限界を克服して薬物含有量を大幅に増やすことができる。
【0021】
前記生分解性結合には、ジスルフィド結合、エステル結合、無水物結合(アンヒドリド結合)、ヒドラゾン結合、酵素特異的ペプチド結合などがあるが、必ずしもこれに限定されるものではない。このような生分解性結合は、特定の生体環境下で分解が可能である。生体環境下で様々な酵素や酸度で生分解される本発明のsiRNAと高分子の生分解性結合は、生体内の特定の酵素などにより分解された場合、分離されたsiRNAによる標的遺伝子の発現抑制が可能である。例えば、生分解性共有結合のための官能基としてチオール基がsiRNAの末端と高分子の末端に導入された場合、siRNAと高分子とはジスルフィド結合という生分解性結合を形成するが、生体内に前記ジスルフィド結合を有するsiRNAと高分子ナノ粒子が導入されると、生体内に存在するグルタチオン(GSH)によりsiRNAが還元されて分離される。特に、癌細胞ではグルタチオン(GSH)の濃度が増加するという報告を考慮すると、本発明の高分子−siRNAナノ粒子担体のジスルフィド結合などの生分解性結合が癌組織中でも効果的に生分解されて、siRNAを標的部位に効果的に送達できることが分かる。
【0022】
高分子とsiRNAの結合が電荷結合のみでなされる場合は、結合力が強くないため、siRNAと結合して使用できる高分子の範囲が制限される。また、生体内で不安定であり、目的とする部位に到達する前に分離されるという問題があった。しかし、本発明のsiRNA担体は、高分子とsiRNAが、電荷結合により結合されると共に、化学的な生分解性共有結合により結合されるため、生体適合性がさらに向上し、siRNAを標的部位に安定して送達することができるので、より優れている。
【0023】
本発明のA(高分子)とB(siRNA)の結合によるsiRNA担体の製造は、次の方法により行ってもよい。
【0024】
(a)正電荷を有する高分子に生分解性共有結合のための官能基を導入する段階
(b)siRNAの片末端又は両末端に官能基を導入するか、又は活性化する段階
(c)前記段階(a)で製造した高分子と前記段階(b)で製造したsiRNAを電荷結合及び生分解性共有結合により安定して結合してナノ粒子を製造する段階
【0025】
前記方法は、結合方式によっては各段階を同時に行ってもよい。前記方法で製造された高分子ナノ粒子は、水溶液中で効率的に様々な形態のsiRNAと複合体を形成し、ナノサイズの自己集合体(self-assembly)を形成することができ、特定の疾病部位に選択的に蓄積される(例えば、新生血管標的型EPR、癌・リウマチ・炎症性疾患)。前記のように製造された本発明による高分子−siRNA担体は、サイズが10〜2000nmであり、分子量が103〜107Daであることが好ましい。
【0026】
一方、本発明のsiRNA担体は、薬学的組成物の有効成分として使用することもできる。従って、本発明は、高分子−siRNA担体を有効量含む薬学的組成物を提供する。
【0027】
本発明の薬学的組成物は、投与のために、本発明による高分子−siRNA担体の他に、薬学的に許容可能な担体を1種以上さらに含んでもよい。
【0028】
薬学的に許容可能な担体は本発明の有効成分と両立可能でなければならず、薬学的に許容可能な担体としては、食塩水、滅菌水、リンゲル液、緩衝食塩水、デキストロース溶液、マルトデキストリン溶液、グリセロール、及びエタノールのいずれか1成分を使用してもよく、2成分以上を混合して使用してもよい。本発明の薬学的組成物には、必要に応じて、抗酸化剤、緩衝液、静菌剤などの他の通常の添加剤を添加してもよい。また、本発明の薬学的組成物は、希釈剤、分散剤、界面活性剤、結合剤、及び潤滑剤をさらに添加して、水溶液、懸濁液、乳濁液などの注射用剤形に製剤化してもよい。
【0029】
さらに、本発明の薬学的組成物は、散剤、錠剤、カプセル剤、液剤、注射剤、軟膏剤、シロップ剤などの様々な形態に製剤化してもよく、単位投与量又は多投与量容器、例えば密封されたアンプルや瓶などで提供してもよい。
【0030】
本発明の薬学的組成物は、経口投与又は非経口投与が可能である。本発明による薬学的組成物の投与経路は、例えば口腔、静脈内、筋肉内、動脈内、骨髄内、硬膜内、心臓内、経皮、皮下、腹腔内、腸管、舌下、又は局所投与が可能であるが、これらに限定されるものではない。このような臨床投与のために、本発明の薬学的組成物は、公知の技術を用いて適切な剤形に製剤化することができる。例えば、経口投与時には、不活性希釈剤又は食用担体と混合するか、硬質もしくは軟質ゼラチンカプセルに密封するか、又は錠剤に圧縮して投与することができる。経口投与用の場合、活性化合物は、賦形剤と混合して摂取型錠剤、バッカル錠、トローチ、カプセル、エリキシル、サスペンション、シロップ、ウエハなどの形態で使用することができる。また、注射用、非経口投与用などの各種剤形は、当該技術分野における公知の技法又は通用する技法により製造することができる。
【0031】
本発明の組成物の投与量は、患者の体重、年齢、性別、健康状態、食餌、投与時間、投与方法、排泄率、疾患の重症度などによってその範囲が多様であり、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者であれば容易に決定することができる。
【実施例】
【0032】
実施例1.親水性高分子であるグリコールキトサンへのチオール基の導入
グリコールキトサンは、生体毒性がなく、癌組織に効率的に蓄積されるが、正電荷が弱いため、それ自体ではsiRNAとの効率的な電荷結合が不可能である。従って、ヘテロ二官能性架橋剤(heterobifunctional cross linker)であるsulfo−LC−SPDPを用いて、アミノ基がピリジルジチオール基で活性化されたグリコールキトサン誘導体を形成した。
【0033】
30mgのグリコールキトサン(分子量250kDa)をpH7.4のリン酸緩衝液10mlに溶解し、それぞれ1、2、5mgのsulfo−LC−SPDP(分子量527.57Da、グリコールキトサンのアミノ基に対して2、5、10%)と室温で一日間反応させた。その後、DTT(ジチオスレイトール)を4、9、18mgずつそれぞれ添加して3時間反応させ、1M HCl溶液で各溶液のpHを3〜4に下げた。その後、カットオフ12,000Daの透析膜を用いて24時間透析して反応していないsulfo−LC−SPDPとDTTを除去し、凍結乾燥した(図1)。
【0034】
実施例2.チオール基を有する高分子オリゴヌクレオチドとグリコールキトサン高分子の接合
チオール基を有する高分子poly−siRNAは、安定性と負電荷量が増加し、電荷結合とジスルフィド結合を同時に用いて、これをチオール基が導入された親水性高分子グリコールキトサン(TGC)に連結して複合体を形成した。
【0035】
50ugのpoly−siRNA(10mM HEPES、1mM EDTA、pH8.0)と250ugのチオール基を有するグリコールキトサン高分子(TGC)を100uLのHEPES緩衝液(10mM、1mM EDTA、pH8.0)に溶解して混合し、37゜で1時間反応させることにより、安定した複合体を形成した(図2)。poly−siRNAと官能基を導入していない純粋なグリコールキトサンだけでは結合が行われず、poly−siRNAとTGCの複合体を形成する際、TGCの−SH基置換程度(2%:TGC1、5%:TGC2、10%:TGC3)によるpoly−siRNAとの複合体の形成を図3に示す。poly−siRNAとTGCを種々の重量比で混合し、37゜で1時間反応させた後、8%のアクリルアミドゲルで150V、35分間の電気泳動を行った。その後、サイバーゴールドで染色し、ゲルドキュメント装置を用いて複合体の形成と反応していない余分なpoly−siRNAを確認した。また、複合体を形成した後、これがジスルフィド結合によることを確認するために、DTTを37゜で3時間処理し、前記のように電気泳動することにより、単分子量のsiRNAに還元されることを確認した(図4)。
【0036】
実施例3.チオール基が導入されたグリコールキトサン高分子と高分子オリゴヌクレオチド(poly−siRNA)の複合体の送達による遺伝子発現抑制効果の細胞実験による検証
poly−siRNAとTGC(TGC2、TGC3、5:1の重量比)で製造された複合体ナノ粒子を、siRNA濃度が50nMになるように、対照群(Control、Mono−siRNA/LF、Poly−siRNA/LF)と共に、RFPが発現する黒色腫細胞株であるRFP−B16/F10(1.2×105/dish)細胞に処理し、24時間後にRFP発現抑制効能を蛍光顕微鏡画像で取得した。本実験では、赤色蛍光タンパク質(RFP)に対するsiRNAを製造して使用し、対照群として使用したMono−siRNA/LF、Poly−siRNA/LFのLFは、In vitrogen社のLipofectamineTM 2000を示すものである(図5)。TGCによるpoly−siRNA送達がRFP遺伝子発現抑制に効率的であることを確認した。
【0037】
実施例4.チオール基が導入されたグリコールキトサン高分子と高分子オリゴヌクレオチド(poly−siRNA)の複合体のマウス組織内の分布及び癌標的性の検証
近赤外線蛍光物質(Cy5.5)で修飾されたpoly−siRNAを用いて形成したpoly−siRNA−TGC複合体を、SCC7癌細胞が移植されたマウスの尾静脈に注射した後、時間別に非侵襲的光学画像によりマウス体内での物質の循環を観察した。担体TGCと結合させることなく注射されたpoly−siRNAやpoly−siRNA−PEI複合体に比べて、TGCと複合体を形成したCy5.5標識poly−siRNAの場合、癌組織に特異的に蓄積されることを確認し、特に、TGC3と複合体を形成した実験群で癌標的性と体内保存性が最も優れていることを確認した(図6)。
【0038】
実施例5.チオール基が導入されたグリコールキトサン高分子と高分子オリゴヌクレオチド(poly−siRNA)の複合体の送達による遺伝子発現抑制効果の動物実験による検証
ヌードマウスに1×106個のRFP−B16/F10黒色腫細胞株を背中の腰の下に注射して動物癌モデルを作成し、光学装置により、マウスからRFP蛍光が検出されたときからpoly−siRNA−TGC3複合体を2日間隔で2回(day0とday2)尾静脈に注射し、血管を介して送達されたpoly−siRNAによる癌組織中のRFP発現効果を比較した。図7は、poly−siRNA−TGC3複合体を注射した場合に癌組織のRFPの発現が著しく減少したことを示す。また、第6日目に癌組織を摘出して癌組織中のRNAを全て抽出し、逆転写ポリメラーゼ連鎖反応法(reverse transcription polymerase chain reaction)で組織中のRFPの発現量を比較し、poly−siRNA−TGC3を注射したマウスの組織での効率的なRFP発現減少を確認した。
【0039】
前述のように、本発明により、電荷結合により連結されると共に、生分解性結合により連結されて製造された高分子−siRNAナノ粒子の形態を有する新しい剤形のsiRNA担体は、水溶液中でナノ粒子を形成し、siRNAを生体内で標的部位に安定して送達することができるため、siRNAによる治療効率を向上させることができる。
【0040】
従って、本発明による高分子−siRNA担体は、様々な癌や疾病モデルに適用できるという利点がある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子(A)とsiRNA(B)が電荷結合と生分解性共有結合により同時に連結された下記構造:
A−B
(ここで、Aは正電荷と官能基とを有する高分子であり、Bは片末端又は両末端に官能基を有するsiRNAである)の高分子−siRNA担体。
【請求項2】
前記高分子(A)は、キトサン、グリコールキトサン、プロタミン、ポリリジン、ポリアルギニン、ポリエチレンイミン、デキストラン、ヒアルロン酸、アルブミン、又はこれらの誘導体のうち正電荷を有するものから選択されるものである、請求項1に記載の高分子−siRNA担体。
【請求項3】
前記siRNA(B)は、片末端又は両末端に高分子との連結のための官能基がついている形態のものである、請求項1に記載の高分子−siRNA担体。
【請求項4】
前記siRNA(B)は、単量体siRNA、複数のsiRNAが分解性結合により連結されたpoly−siRNA、又は多量体siRNAである、請求項1に記載の高分子−siRNA担体。
【請求項5】
前記siRNA(B)は、15〜30個のヌクレオチド単量体siRNA、又はその重合体である100〜400個のヌクレオチドからなる多量体siRNAである、請求項1に記載の高分子−siRNA担体。
【請求項6】
前記高分子(A)と前記siRNA(B)が電荷結合と生分解性共有結合により同時に連結されたものであり、高分子とsiRNAが電荷結合のみで連結された場合に比べて生体内安定性がさらに増加したことを特徴とする、請求項1に記載の高分子−siRNA担体。
【請求項7】
前記高分子(A)と前記siRNA(B)の生分解性共有結合は、ジスルフィド結合、エステル結合、無水物結合、ヒドラゾン結合、及び酵素特異的ペプチド結合から選択されるものである、請求項1に記載の高分子−siRNA担体。
【請求項8】
前記高分子−siRNA担体のサイズが10〜2000nmである、請求項1に記載の高分子−siRNA担体。
【請求項9】
前記高分子−siRNA担体の分子量が103〜107Daである、請求項1に記載の高分子−siRNA担体。
【請求項10】
前記高分子−siRNA担体は、水系で電荷結合と生分解性共有結合を同時に用いてsiRNAと高分子が連結されているものである、請求項1に記載の高分子−siRNA担体。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか1項に記載の高分子−siRNA担体が癌の治療のために使用されるものである、高分子−siRNA担体。
【請求項12】
請求項1〜10のいずれか1項に記載の高分子−siRNA担体を有効量含む抗癌剤組成物。
【請求項13】
(a)正電荷を有する高分子に生分解性共有結合のための官能基を導入する段階と、
(b)siRNAの片末端又は両末端に官能基を導入するか、又は活性化する段階と、
(c)前記段階(a)で製造した高分子と前記段階(b)で製造したsiRNAを電荷結合及び生分解性共有結合により結合してナノ粒子を形成する段階と
を含むsiRNA担体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−55300(P2012−55300A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−232764(P2010−232764)
【出願日】平成22年10月15日(2010.10.15)
【出願人】(304039548)コリア・インスティテュート・オブ・サイエンス・アンド・テクノロジー (36)
【Fターム(参考)】