説明

電解コンデンサとその製造方法

【課題】外装ケースが扁平状である電解コンデンサが、内部での温度上昇によりコンデンサ素子に含浸された電解液を構成する有機溶媒が気化し、また電気化学反応により水素ガスが発生するため、アルミニウムよりなる外装ケースの内圧が上昇した際に、封口部材による封口力よりも低い目的通りの一定の内圧で破断させる安全弁の動作性を向上させた電解コンデンサとその製造方法を提供する。
【解決手段】有底筒状であって、筒状部の対向する平面部と、前記平面部に連続して対向して前記平面部より狭い湾曲部とからなる外装ケースを有する電解コンデンサであって、少なくとも一つの湾曲部に長手方向に安全弁を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解コンデンサに係り、特に電解コンデンサの安全弁の動作性向上に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の小型化、軽量化、電子部品の高集積化などに応じるため、小型化や低背化された電解コンデンサが提供されている。特に、フラットLCD・LEDTVは、従来のブラウン管方式に対して大幅に薄型化されており、このような機器に使用される電源についても日増しに小型化・薄型に追従する要求が強まっている。そこで、従来使用されている円筒形の電解コンデンサに代えて、図1に示すように、対向する一対の平面部と、該平面部と連続した湾曲部を有する薄型偏平状のコンデンサが検討されている。
【0003】
一般に電解コンデンサは、定格電圧より高い過電圧が印加された場合には、電解コンデンサの内部での温度上昇によりコンデンサ素子に含浸された電解液を構成する有機溶媒が気化し、また電気化学反応により水素ガスが発生するため、アルミニウムよりなる外装ケースの内圧は上昇する。このときガスの放出口がない場合、外装ケースの内圧が外装ケースの封口部材による封口力を上回れば、封口部材が外装ケースから外れて外装ケース外に飛び出したり、外装ケースが飛び跳ねたり、あるいは、外装ケースが破裂する場合がある。
【0004】
そこで、電解コンデンサでは、外装ケースの底面に薄肉部よりなる機械的脆弱部(安全弁)を設ける技術が特許文献1に開示されている(図2)。電解コンデンサの内圧が異常に上昇したときには、安全弁が破断して内圧を開放し、この開放部から前記気化した電解液や水素ガスを外部に放出するため、前記のように封口部材が外装ケースから外れて外装ケース外に飛び出したり、外装ケースが飛び跳ねることには至らない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平4−280414号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、外装ケースが偏平状である場合、ケース底面は平面部や湾曲部に比べてケース内圧の上昇によって生ずる応力に対し強固である。つまり、偏平型コンデンサの場合には内圧が上昇してケースが膨らむ際、その方向は、構造上平面部により圧力が当るため、図3の矢印方向に平面部が外側に膨れる(図3)。
【0007】
そのため、この底面に安全弁を設けても、応力に対し弱い偏平面部等が変形して安全弁が作動する前にケースと封口体との密閉が破れたり、ケースが破裂する虞があった。研究した結果、偏平型コンデンサにおいては、内圧上昇時、ケースの平面部には最大変形ポイントが存在し、湾曲部に最も応力が集中する最大応力ポイントが存在することが判明した(図4)。
【0008】
また、安全弁を切削により作成する場合に、切削用の刃を始端部で直ちに外装ケースに接触させ、刃を外装ケースの湾曲部面に一定の圧力を直ちに押圧し、その後刃を外装ケースの表面に平行に移動させて形成する(コの字動作)と、平行移動後に終端部に刃先が湾曲部に食い込み、刃先付近が塑性変形を起こして盛り上がり、角部を形成する。この角部の形成により、安全弁上の肉厚にむらが形成されて、本来設計した肉厚より薄い部分が形成され、目的とする圧力より低い圧力で作動する安全弁が形成されてしまう(図5)。
【0009】
本発明の目的は、外装ケースが扁平状である電解コンデンサが、内部での温度上昇によりコンデンサ素子に含浸された電解液を構成する有機溶媒が気化し、また電気化学反応により水素ガスが発生するため、アルミニウムよりなる外装ケースの内圧が上昇した際に、封口部材による封口力よりも低い所望の一定の内圧で破断させる安全弁の動作性を向上させた電解コンデンサとその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決する為に、本発明に係る電解コンデンサは、有底筒状であって、筒状部の対向する平面部と、前記平面部に連続する湾曲部とからなる外装ケースを有する電解コンデンサであって、少なくとも一つの湾曲部に長手方向に安全弁を設けた。
【0011】
前記安全弁は、外装ケース内側面を基準として、同一の厚さによって形成される薄肉部から成ることを特徴とする。
【0012】
前記安全弁は、その長手方向の始端部と終端部において、それぞれ端部の溝が浅く安全弁の中央に向けて丸みを帯びながら溝が深くなるよう形成されることを特徴とする。
【0013】
前記課題を解決する為に、本発明に係る電解コンデンサの製造方法は、安全弁は、外装ケースの湾曲部外側から切削により形成されることを特徴とする。
【0014】
安全弁を切削して形成する際に、切削用の刃を外装ケースの湾曲部に対して長手方向に沿って徐々に入れ込み、安全弁の厚みが所定の厚さになった際には、刃と外装ケースとの距離を変更することなく切削し、終端部近傍では徐々に外装ケースから離間させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明を実施し、湾曲部に安全弁が形成されることにより2つの有利な効果が生じる。第一に、コンデンサの内圧上昇時、ケースは平面部が外側に膨れるため、湾曲部が平面側に引っ張られる。すなわち、湾曲部に形成された安全弁に応力が加わるので作動し易くなるので、コンデンサが破裂する前に作動する。
【0016】
第二に、平面部側に安全弁を形成した場合、電解コンデンサが設置される場所も低背化されており、安全弁が平面部に形成されているとガスを放出する空間が確保できない場合もあるが、湾曲部に安全弁を形成することにより、ガスが放出する空間を確保することができる。
【0017】
また、本発明を実施し、ケースの内側を基準として薄肉とすることにより、ケース成型時、肉厚が均一でないことがあるが、内側を基準として薄肉部を形成するので、安全弁の厚さが均一化され易く、動作バラツキが生じないという効果が生じる。
【0018】
さらに、安全弁は、その長手方向の始端部と終端部において、それぞれ端部の溝が浅く安全弁の中央に向けて丸みを帯びながら溝が深くなるよう形成されることにより、安全弁の形成によって生じていた角部が形成されない。このため、角部を起点とする安全弁の破裂を未然に防ぐことができる。
【0019】
一方、安全弁は、外装ケースの湾曲部外側から切削により形成されることにより、湾曲部の肉厚のばらつきに影響されることなく、均一に形成できる。これが、ケース表面から一定の厚みを切削するような形成方法の場合、湾曲の肉厚部のばらつきに応じて安全弁の厚みが変わり、作動性にバラツキが生じることになるが、それらを防止することができる。
【0020】
加えて、安全弁の溝に角部が生じない安全弁の形成方法のため、外装ケースに加わる加工ストレスが低減され、安全弁の動作圧力にバラツキが生じることを防止する。更に角部を基点とする動作がなくなり、所望の圧力に至るまでに動作することを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】従来の薄型扁平状のコンデンサの構成図である。
【図2】従来の電解コンデンサの外装ケースの底面に薄肉部によりなる機械的脆弱部の構成図である。
【図3】従来の薄型扁平状のコンデンサがケース内圧上昇によってケースが膨らんだ構成図である。
【図4】従来の薄型扁平状のコンデンサが内圧上昇時に発生する最大変形ポイントと最大応力ポイントを示した構成図である。
【図5】従来の薄型扁平状のコンデンサの外装ケースに対する切削用の刃による安全弁の形成方法の実施図である。
【図6】本発明に係る電解コンデンサの外装ケースの側面図と縦断面図である。
【図7】本発明に係る電解コンデンサの外装ケースの横断面図である。
【図8】本発明に係る電解コンデンサの外装ケースの横断面の拡大図である。
【図9】本発明に係る薄型扁平状のコンデンサの外装ケースに対する切削用の刃による安全弁の形成方法の実施図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0023】
本発明に係る電解コンデンサの特に外装ケース2の構成について、図6,7,8を用いて説明する。外装ケース2は、図6の本発明に係る電解コンデンサの外装ケース2の縦断面図に示すように、側面が湾曲部4,6であり、その下方に連続する底面部12があり、上方は開口部14となる。湾曲部4の長手方向の中央に所定の長さの安全弁16が設けられる。安全弁16は、他の湾曲部4より肉厚が薄く形成されている。
【0024】
また、本発明に係る電解コンデンサの外装ケース2の横断面図である図7によれば、外装ケース2は、平坦部8,10と湾曲部4,6とで被覆されており、安全弁16は、湾曲部4の横断面図上の中央に設けられている。
【0025】
安全弁16の拡大図を図8に示す。湾曲部4に対して湾曲の凸状に突出する側よりV字形状に切削されている。
【0026】
続いて、本発明に係る電解コンデンサの特に外装ケース2における安全弁16の形成方法(円弧動作)について説明する。
【0027】
安全弁16は、外装ケース2に刃22を装着した保持部24を移動させることで刃22が外装ケース2を切削することにより設けられる。
【0028】
保持部24は、切削する前に刃22が、安全弁16の始端部18位置よりも距離R5だけ湾曲部4面から鉛直方向に離設し、さらに、長手方向であって底部12方向にR5だけ離設した位置に刃22の角部が保持するように配置される。
【0029】
このような配置において、保持部24は、安全弁16の始端部18位置よりも距離R5だけ湾曲部4面から鉛直方向に離設した点28を軸として半径R5を保持して現在位置から湾曲部4表面に向けて90度円弧を描くように移動する。
【0030】
続いて半径R5だけ1/4円弧を描くように移動した後に、刃先が湾曲部4表面に接触した後は、安全弁16の終端部20まで直線移動する。この時に、刃22が湾曲部4表面を切削して安全弁16を形成する。
【0031】
続いて保持部24は、安全弁16の終端部20位置よりも距離R5だけ湾曲部4面から鉛直方向に離設した点30を軸として半径R5を保持して現在終端部20位置から湾曲部4から離間した位置に向けて90度円弧を描くように移動する。
【0032】
なお、所望の安全弁16の深さを形成するために、前記切削加工を複数回行うことが好ましい。複数回の切削加工を行なって、安全弁16を所望の深さに形成することによって、一度の切削加工によって所望の深さを形成するより、外装ケース2に対して加工ストレスが加わらない。このように形成することによって、安全弁16の精度バラツキが低減することとなり、その結果、安全弁16の動作圧力にバラツキが生じ難くなる。
【0033】
刃先がこのように作動することで安全弁16は、その長手方向の始端部18と終端部20において、それぞれ端部の溝が浅く安全弁16の中央に向けて丸みを帯びながら溝が深くなるよう形成される。
【実施例】
【0034】
図1に示すコンデンサは、コンデンサ素子(図示せず)を外装ケース1に収納している。コンデンサは、静電容量により電荷の蓄電及び放電を行う受動素子であり、いわゆるキャパシタ(capacitor)である。コンデンサには、例えば電解コンデンサや電気二重層コンデンサが含まれる。
【0035】
コンデンサ素子は、誘電体を介した電気伝導体を含み構成され、例えば陽極箔と陰極箔とがセパレータを介して積層されている。陽極箔と陰極箔とをセパレータを介して巻回してもよい。電解コンデンサには、このコンデンサ素子に例えばγ−ブチロラクトン等のラクトン類、エチレングリコールやスルホランなどを主溶媒としてフタル酸、マレイン酸等の第三級アミン塩を溶質とする電解液が含浸される。電気二重層コンデンサには、このコンデンサ素子に例えばテトラエチルアンモニウムテトラフルオロボレート(TEABF4)をプロピレンカーボネート(PC)に溶解した電解液が含浸される。
【0036】
外装ケース1は、有底筒形状を有し、その筒軸と直交する断面は図2に示すように長円形状である。具体的には、この外装ケース1は、対向する長辺部とその長辺部に連続した湾曲部とを有する。この外装ケース1は、金属製であり、例えばアルミニウム、アルミニウムやマンガンを含有するアルミニウム合金、又はステンレスからなる。
【0037】
前記外装ケース2に刃22を装着した保持部24を移動させることで刃22が外装ケース2を切削することにより安全弁16が設けられる。
【0038】
図9に示すように、保持部24は、切削する前に刃22が、安全弁16の始端部18位置よりも距離R5だけ湾曲部4面から鉛直方向に離設し、さらに、長手方向であって底部12方向にR5だけ離設した位置に刃22の角部が保持するように配置される。
【0039】
このような配置において、保持部24は、安全弁16の始端部18位置よりも距離R5だけ湾曲部4面から鉛直方向に離設した点28を軸として半径R5を保持して現在位置から湾曲部4表面に向けて90度円弧を描くように移動する。
【0040】
続いて半径R5だけ1/4円弧を描くように移動した後に、刃先が湾曲部4表面に接触した後は、安全弁16の終端部20まで直線移動する。この時に、刃22が湾曲部4表面を切削して安全弁16を形成する。尚、安全弁の長さは7mm(実施例1)、14mm(実施例2)、21mm(実施例3)、28mm(実施例4)とした。
【0041】
本実施例では、外装ケース1のケース厚さを0.5mmとし、安全弁16の厚さを0.05mmとする。前記厚さを有する安全弁16を形成するため、切削工程を3回行なった。具体的には、1回目の切削工程で0.2mm切削し、2回目の切削工程で更に0.2mm切削し、3回目の切削工程で0.05mm切削して、3回の切削工程で0.45mm切削することで、0.05mmの安全弁16を形成した。
【0042】
また、比較例として、平面部に安全弁を設けた比較例1及び底面部に安全弁を設けたものを比較例2として形成した。
【0043】
実施例1〜4及び比較例1、2の安全弁において、安全弁が動作する動作圧力を測定した。
【0044】
表1の実験結果の通り、平面部に安全弁を設けた比較例1及び底面部に安全弁を設けた比較例2は、内圧が1.0Mpaになっても作動しなかったが、湾曲部に長さ方向に安全弁を設けた実施例1〜4はいずれもそれよりも低い内圧で作動しており、作動性が向上したことが分かる。
【0045】
また、安全弁の長さを変えることで動作圧力は異なるので、安全弁の長さを変えることで所望の耐圧にすればよい。
【0046】
更には、金属の種類や厚さ等で所望の厚さや長さにすればよい。
【0047】
【表1】

【0048】
続いて、安全弁16の始端部及び終端部の形状の違いによる動作圧力について、検証する。
【0049】
安全弁を切削により作成する場合に、図5に示すように、切削用の刃を始端部で直ちに外装ケースに接触させ、刃を外装ケースの湾曲部面に一定の圧力を直ちに押圧し、その後刃を外装ケースの表面に平行に移動させて形成する(コの字動作)と、平行移動後に終端部に刃先が湾曲部に食い込み、刃先付近が塑性変形を起こして盛り上がり、角部を形成するコの字動作を比較例3として実施した。尚、安全弁の形状以外の安全弁の形成部、厚さ、長さについては、実施例2と同様として、動作圧力を測定する。
【0050】
表2の実験結果の通り、安全弁に角部を形成した比較例3は安全弁の形状が始端部及び終端部が丸みを帯びている実施例2と比べて、動作圧力が高いことが分かる。すなわち、円弧動作により形成した安全弁方がコの字動作により形成した安全弁より1.4倍程度高い動作圧力となることが明らかとなった。この点で、円弧動作が望ましいことがわかる。
【0051】
【表2】

【0052】
以上のように、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、発明の範囲を限定することを意図しておらず、発明の要旨を逸脱しない範囲で、そのほかの様々な形態で実施されることが可能であり、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。そして、これら実施形態、それらの組み合わせ、更にはそれらの変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0053】
2 外装ケース
4,6 湾曲部
8,10 平坦部
12 底部
14 開口部
16 安全弁
18 始端部
20 終端部
22 刃
24 保持部
28 点
30 点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有底筒状であって、筒状部の対向する平面部と、前記平面部に連続する湾曲部とからなる外装ケースを有する電解コンデンサであって、少なくとも一つの湾曲部に長手方向に安全弁を設けた電解コンデンサ。
【請求項2】
前記安全弁は、外装ケース内側面を基準とする薄肉部から成ることを特徴とする請求項1記載の電解コンデンサ。
【請求項3】
前記安全弁は、その長手方向の始端部と終端部において、それぞれ端部の溝が浅く安全弁の中央に向けて丸みを帯びながら溝が深くなるよう形成されることを特徴とする請求項2記載の電解コンデンサ。
【請求項4】
請求項3記載の安全弁は、外装ケースの湾曲部外側から切削により形成されることを特徴とする電解コンデンサの製造方法。
【請求項5】
安全弁を切削して形成する際に、切削用の刃を外装ケースの湾曲部に対して長手方向に沿って徐々に入れ込み、安全弁の厚みが所定の厚さになった際には、刃と外装ケースとの距離を変更することなく切削し、終端部近傍では徐々に外装部から離間させることを特徴とする請求項4記載の電解コンデンサの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−80753(P2013−80753A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−218730(P2011−218730)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(000228578)日本ケミコン株式会社 (514)