説明

電解セル、電解装置、炭化水素の生成方法

【課題】 従来の電極に対して、特に、二酸化炭素を効率良く分解し、エタンやエチレン等を効率良く生成可能な電解セル等を提供する。
【解決手段】 電解セル3は、主に、カソード槽である槽16a、金属メッシュ17、カソード電極19、イオン交換膜21、電解質23、アノード電極25、アノード槽である槽16b等から構成される。槽16a、16bには、それぞれ電解液15a、15bが保持される。金属メッシュ17は、電源の負極側に接続され、カソード電極19に対して通電するための部材である。イオン交換膜21としては陰イオン交換膜を使用できる。電解質23は、必要に応じて設けられる。アノード電極25は電源の正極に接続される。カソード電極19は、銅または銅合金(銅基合金であって、銅に種々の目的で所定量の添加元素が添加されたもの)からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば二酸化炭素を炭化水素などに還元する際に用いられる電解セル等に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、二酸化炭素は地球温暖化の要因の一つとされており、世界的に二酸化炭素の排出量の削減が課題となっている。二酸化炭素の排出量を削減する方法としては、例えば、二酸化炭素を回収して海底や地底に貯留させる方法や、生物的・化学的手法によって還元する方法がある。
【0003】
しかしながら、二酸化炭素を回収して海底等に貯留する方法は、大気への漏れだしの影響や、海底等への埋設にコストがかかるという問題がある。
【0004】
一方、化学的・生物学的に二酸化炭素を還元する方法としては、さらに、植林等を行うことで二酸化炭素を吸収させる方法、微生物による生化学的還元固定方法、触媒を用いて水素で還元する方法、金属電極による電解還元法などが知られている。これらの手法によれば、二酸化炭素を削減するのみではなく、新たにエネルギーとして利用可能な炭化水素を得ることも可能である。
【0005】
しかしながら、植林等を行う方法では、二酸化炭素の吸収に広大な土地が必要となり、また、時間がかかるという問題がある。また、微生物による生化学的還元固定方法では、比較的短時間で培養でき、広大な土地も必要ないが、微生物が生成した炭化水素を精製するのに多大なエネルギーが必要となる。また、触媒を用いて水素で還元する接触水素化法では、水素の合成に化石燃料を用いる必要があり、水素の合成において副次的に生成する二酸化炭素によって、結果的に、実質的には二酸化炭素を削減することが困難である。また、金属電極による電解還元法については、反応に多大な電気エネルギーを要することから、前述したとおり、実質的には二酸化炭素を削減することが困難である。
【0006】
このような、従来の二酸化炭素の削減方法の一例として、光触媒を用いることで、炭酸ガスを還元して炭化水素とする方法がある(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−97894号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1のように光触媒を用いても、二酸化炭素を効率良く還元し、炭化水素を効率よく生成可能な金属電極は存在しない。特に、生成物を化学工業原料として用いるためには、メタンのような炭素1個の分子よりも、エタンやエチレンといった炭素2個からなる分子の方が有用であるが、従来の電極では、このような有用な炭化水素の生成効率が高くないという問題がある。
【0009】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、従来の電極に対して、特に、二酸化炭素を効率良く分解し、エタンやエチレン等を効率良く生成可能な電解セル等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前述した目的を達成するため、第1の発明は、電解セルであって、銅または銅合金よりなる多孔質体であるカソード電極と、前記カソード電極とイオン交換膜を介して配置されるアノード電極と、前記カソード電極および前記アノード電極とそれぞれ接触する電解液と、を具備し、前記カソード電極と接触する電解液には、二酸化炭素、炭酸イオンまたは炭酸塩の少なくとも1種が含有され、前記カソード電極と前記アノード電極に電位を付与すると、前記カソード電極において、二酸化炭素、炭酸イオンまたは炭酸塩を炭化水素に還元可能であり、前記多孔質体を構成する銅または銅合金は、平均径が100nm〜5μmで、空隙率が30から80%である粒状体、棒状体または薄片状体の集合体であり、前記多孔質体は、イオン交換膜上に形成されることを特徴とする電解セルである。
【0011】
前記カソード電極は、金属メッシュに接続されてもよい。なお金属メッシュに代えて、微細孔を規則的に設けた金属薄板を用いてもよい。
【0012】
前記銅多孔質体の付着量0.1mg/cm以上100mg/cm以下であることが望ましい。
【0013】
前記アノード電極が光触媒であってもよい。カソード側の電解液を保持するカソード槽からアノード側の電解液を保持するアノード槽までの間に、順に、金属メッシュと、前記金属メッシュと接触する前記カソード電極と、前記カソード電極と前記イオン交換膜および電解質を介して設けられるアノード電極とが配置されてもよい。
【0014】
第1の発明によれば、カソード電極として銅、銅合金の多孔質体を用いるため、特に二酸化炭素や炭酸イオン、炭酸塩等を炭化水素(特に、エタンやエチレンといった炭素2個からなる炭化水素)に効率よく還元可能な電解セルを得ることができる。また、多孔質体を構成する銅または銅合金としては、平均径が100nm〜5μmである粒状体または棒状体の集合体であり、多孔質体がイオン交換膜上に形成されることで、より効率よく、炭化水素等の生成を行うことができる。
【0015】
また、アノード電極が光触媒であれば、光によって電位を電解電位を発生させることができ、光で二酸化炭素を還元可能な電解セルを得ることができる。
【0016】
このような、電解セルの構成としては、カソード槽側から順に、金属メッシュ、カソード電極、イオン交換膜、電解質、アノード電極、アノード槽が配置されることで、電解を確実に行うことができる。
【0017】
第2の発明は、第1の発明にかかる電解セルを用い、前記カソード電極と接触する電解液に、二酸化炭素、炭酸イオンまたは炭酸塩の少なくとも1種を溶解させながら電解液を前記カソード電極との接触部に対して循環可能であり、前記カソード電極および前記アノード電極の間に電位を付与して、前記カソード電極において二酸化炭素、炭酸イオンまたは炭酸塩を炭化水素に還元可能であることを特徴とする電解装置である。
【0018】
前記カソード電極および前記アノード電極の間に付与される電解電位は、光触媒または太陽光発電により生じる起電力であってもよい。なお、光触媒または太陽光発電により生じる起電力とは、例えば、アノード電極を光触媒で構成し、アノード電極に光を照射することにより生じる起電力を用いてもよく、または、他の部位に設置された光触媒その他による太陽光発電器等に電解セルを接続してもよい。
【0019】
第3の発明は、第2の発明にかかる電解装置を用い、前記カソード電極と接触する電解液に、二酸化炭素、炭酸イオンまたは炭酸塩の少なくとも1種を溶解させながら電解液を前記カソード電極との接触部に対して循環させ、前記カソード電極および前記アノード電極の間に電位を付与することで、前記カソード電極において二酸化炭素、炭酸イオンまたは炭酸塩を炭化水素に還元すること特徴とする炭化水素の生成方法である。二酸化炭素、炭酸イオンまたは炭酸塩の少なくとも1種が還元されて生成するエチレンの生成の電流効率が10%以上であることが望ましい。
【0020】
第2、第3の発明によれば、カソード電極に二酸化炭素、炭酸イオンまたは炭酸塩の少なくとも1種を溶解させた電解液を循環可能であるため、カソード電極で効率よくこれらを還元して炭化水素を生成することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、従来の電極に対して、特に、二酸化炭素を効率良く分解し、エタンやエチレン等を効率良く生成可能な電解セル等を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】電解装置1の構成を示すブロック図。
【図2】(a)は電解セル3の構成を示す図、(b)は電解セル3aの構成を示す図。
【図3】電極生成装置27を示す図で、(a)は全体概略図、(b)は(a)のD部拡大図。
【図4】電極生成装置27により得られる銅多孔質体の表面構造を示す図。
【図5】電極生成装置37を示す図で、(a)は全体概略図、(b)は(a)のE部拡大図。
【図6】電極生成装置37により得られる銅多孔質体の表面構造を示す図。
【図7】還元試験装置50を示す図。
【図8】電解セル53を示す図で、図7のH部拡大図。
【図9】銀多孔質体の表面構造を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態にかかる電解装置1について説明する。図1は、電解装置1の構成を示すブロック図である。電解装置1は、主に、電解セル3、ガス回収装置5、電解液循環装置7、二酸化炭素供給部9、電源11等で構成される。
【0024】
電解セル3は、対象物質を還元する部位であり、本発明においては、特に二酸化炭素(溶液において、炭酸イオンまたは炭酸塩である場合も含む。以下、単に二酸化炭素等とする。)を還元する部位である。電解セル3には、電源11から電力が供給される。なお。電解セル3の詳細については後述する。
【0025】
電解液循環装置7は、電解セル3のカソード電極に対して、カソード側電解液を循環させる部位である。電解液循環装置7は、例えば槽およびポンプであり、二酸化炭素供給部9から所定の二酸化炭素濃度となるように、二酸化炭素等が供給されて電解液中に溶解され、電解セル3との間で電解液を循環可能である。
【0026】
二酸化炭素供給部9は、例えば二酸化炭素を貯留するタンク等であり、二酸化炭素を保持するとともに、所定量の二酸化炭素を電解液循環装置7に供給可能である。なお、二酸化炭素に代えて、すでに炭酸イオン、炭酸塩等の形態とされた溶液を保持し、所定の量を電解液循環装置7に供給することもできる。この場合、電解液中の炭酸イオン濃度または炭酸塩濃度が所定濃度となるように、炭酸イオンまたは炭酸塩が電解液循環装置7に供給されれば良い。
【0027】
ガス回収装置5は、電解セル3によって還元されて発生したガスを回収する部位である。ガス回収装置5では、電解セル3のカソード電極で発生する炭化水素等のガスを捕集することが可能である。なお、ガス回収装置5において、ガス種類毎にガスを分離可能としてもよい。
【0028】
電解装置1は、以下のように機能する。前述の通り、電解セル3には電源11からの電解電位が付与される。電解セル3のカソード電極には、電解液循環装置7によって電解液が供給される(図中矢印A)。電解セル3のカソード電極においては、供給される電解液中の二酸化炭素等が還元される。二酸化炭素等が還元されると、主にエタンやエチレン等の炭化水素が生成される。
【0029】
カソード電極で生成された炭化水素ガスは、ガス回収装置5により回収される(図中矢印B)。ガス回収装置5では、必要に応じてガスを分離し貯留することが可能である。
【0030】
カソード電極で二酸化炭素等が還元されて消費されることで、電解液中の二酸化炭素等の濃度が減少する。還元反応によって減少した二酸化炭素等は常に補充され、その濃度は常に所定範囲内に保たれる。具体的は、電解液の一部が電解液循環装置7により回収されて(図中矢印C)、所定濃度の電解液が常に供給される(図中矢印A)。以上により、電解セル3において、常に一定の条件で炭化水素を生成することができる。
【0031】
次に、電解セル3について詳細を説明する。図2(a)は、電解セル3の構成を示す図である。電解セル3は、主に、カソード槽である槽16a、金属メッシュ17、カソード電極19、イオン交換膜21、電解質23、アノード電極25、アノード槽である槽16b等から構成される。電解セル3においては、板状の各構成が積層されて構成される。なお、本電解セル自体を複数積層して用いる場合には、セパレータ13を介してそれぞれの電解セルが積層される。
【0032】
槽16a、16bには、それぞれ電解液15a、15bが保持される。カソード電極側の槽16aの上部には、生成ガスを回収するための孔が形成され、図示を省略したガス回収装置に接続される。すなわち、カソード電極で生成されるガスは、当該孔から回収される。また、槽16aには、配管等が接続され、図示を省略した電解液循環装置7と接続される。すなわち、槽16a内の電解液15aは常に電解液循環装置7によって循環可能である。なお、必要に応じて、槽15b側の電解液も同様に循環可能としてもよい。
【0033】
カソード電解液である電解液15aとしては、二酸化炭素等を多量に溶解できる電解液であることが好ましく、例えば、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液等のアルカリ性溶液、モノメタノールアミン、メチルアミン、その他液状のアミン、またはそれら液状のアミンと電解質水溶液の混合液などが用いられる。また。アセトニトリル、ベンゾニトリル、塩化メチレン、テトラヒドロフラン、炭酸プロピレン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、メタノール、エタノール等を用いることができる。
【0034】
ここで、電解質水溶液としては特に制限されないが、例えば、塩化カリウム水溶液、塩化ナトリウム水溶液、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、炭酸水素ナトリウム水溶液、炭酸カリウム水溶液などを用いることができる。
【0035】
また、アノード電解液である電解液15bとしては特に制限はないが、例えば、塩化カリウム水溶液、塩化ナトリウム水溶液、炭酸水素ナトリウム水溶液、炭酸水素カリウム水溶液などを用いることができる。
【0036】
金属メッシュ17は、電源の負極側に接続され、カソード電極19に対して通電するための部材である。金属メッシュ17としては、例えば銅製のメッシュやステンレス製のメッシュであり、例えばステンレス SUS304 400mesh(厚さ 25μm、株式会社ニラコ社製)が使用できる。
【0037】
イオン交換膜21としては特に制限はないが、例えば、炭化水素系、パーフルオロカーボン系などを用いることがでる。特に望ましくは、陰イオン交換膜であり、ナフィオン膜やポリフッ化ビニリデン(PVDF)膜等を用いることができ、例えば、旭硝子株式会社製の「セレミオン(登録商標)AMV」を用いることができる。イオン交換膜21は、後述するカソード電極19を製造する際に用いられ、カソード電極19を構成する銅多孔質体の担持部材としての機能を奏する。また、担持部材としてイオン交換膜を用いれば、後述する電解時の還元部の構成が容易となる。
【0038】
電解質23は、必要に応じて設けられる。イオン交換膜21と後述するアノード電極25との間に介在する電解質23としては、特に制限はないが、ポリフッ化ビニリデン、ポリアクリル酸、ポリエチレンオキシド、ポリアクリロニトリル、ポリメチルメタクリレートのような高分子電解質や、塩化カリウム水溶液、塩化ナトリウム水溶液などを用いることができる。
【0039】
アノード電極25は電源の正極に接続される。アノード電極25としては特に制限はないが、例えば、チタン、白金、白金コートしたチタン(Ti/Pt)、ステンレス、銅、炭素等を用いることができる。特に、劣化が少ない点からTi/Ptが好ましい。形状としては、特に制限はなく、板状やパンチングメタル、メッシュ状、不織布状のものが用いることができるが、電解セルの厚みを薄くする観点、および電解セルの形状が湾曲状であっても用いることができる観点から不織布状が好ましい。
【0040】
なお、アノード電極25を光触媒によって構成することもできる。すなわち、光を照射することで起電力を生じるようにすることができる。このようにすることで、アノード電極に太陽光などの光を照射して起電力を生じさせ、この起電力を電解セルにおける電解電位として利用することができる。
【0041】
カソード電極19は、銅または銅合金(銅基合金であって、銅に種々の目的で所定量の添加元素が添加されたもの)からなる(なお、以下これらを総称して単に「銅」とする)。通常、二酸化炭素等を水に溶解し、炭酸イオンの状態で金属電極を用いて還元しようとすると、カソード電極において発生する物質は、多くが水素となる。すなわち、二酸化炭素(炭酸イオン)は還元されず、水が電気分解される。
【0042】
これに対し、カソード電極19に銅を用いると、銅が還元触媒として機能し、二酸化炭素等が還元され、比較的効率良く炭化水素を生成する。すなわち、銅電極を用いることで、二酸化炭素等を分解し、エネルギーとして有用な炭化水素を得ることができる。したがって、本発明では、カソード電極19の材質としては、銅を採用する。
【0043】
また、通常の銅電極(銅板や銅メッシュ)では、エネルギー変換効率が低く、また、生成する炭化水素としては、メタンの生成が多くなる。したがって、炭素元素2個を含むエタンやエチレンの生成比率を向上させる必要がある。
【0044】
本発明では、このような課題に対し、カソード電極19として、銅多孔質体の電極を採用した。すなわち、銅板や銅メッシュと比較して比表面積が大きくなるため、電解反応におけるエネルギー変換効率を高めることができる。また、電極の表面構造が複雑になるため、二酸化炭素(炭酸イオン)の還元反応において、電極表面における反応中間体の密度を高め、高濃度に生成された反応中間体同士の分子衝突頻度を高めることができる。これにより、炭素2個の炭化水素(エチレン、エタン)を効率良く生成することができる。
【0045】
カソード電極19としては、粒状、棒状、薄片状の銅微粒子が互いに集合した部材である。ここで、粒状微粒子とは、球状または楕円球状の形状で、短径と長径の比が2以下の微粒子である。棒状微粒子とは、円柱状(底面が曲面のものを含む)またはチューブ状の形状で、円柱またはチューブの断面の面積に相当する円の直径の平均値(平均円相当直径)と円柱の高さまたはチューブの長さの比が2より大きい微粒子である。薄片状微粒子とは、薄片状の形状で、薄片の面の面積に相当する円の直径の平均値(平均円相当直径)と厚みの比が0.1以下の微粒子である。
【0046】
銅微粒子の平均径(粒状微粒子の外径または棒状微粒子の断面径または板状微粒子の平均円相当直径)は、20nm〜5μmであることが望ましい。20nm以下では、還元されて生じたガスが銅微粒子間で目詰まりし、還元効率が低下する。また、5μmを超えると、銅多孔質体3の比表面積が小さくなり、電極としての効率や、前述したような分子同士の衝突頻度を高めることが困難となり、エチレンやエタンといった炭素2個からなる分子の生成効率が低下するためである。
【0047】
本発明において、前記平粒径は、透過型電子顕微鏡(TEM)、走査型電子顕微鏡(SEM)等の画像から無作為に選択した100個の銅微粒子について、粒状微粒子については外径、棒状微粒子については断面径の平均円相当直径、薄片状微粒子については、薄片の面の平均円相当直径を求め、それらの平均を求めたものである。ここで、粒状微粒子の外径とは、粒状微粒子の長径と短径の平均値を意味する。粒状微粒子の外径または棒状微粒子の断面径を求めるのに画像解析ソフトを用いてもよく、画像解析ソフトとしては、「MacView」(Mountech社製)や、「A像君」(旭化成エンジニアリング社製)等を用いることが出来る。
【0048】
ここで、本発明における電解セルとしては、図2(b)に示すような電解セル3aを用いることもできる。電解セル3aは、電解セル3と略同様の構成であるが、板状の各要素が積層される電解セル3に対して、各要素が略同心円上に中心から径方向の外周に順次配列される。なお、電解セル3aを構成するそれぞれの要素は、電解セル3を構成する要素と同様であるため重複する説明を省略する。
【0049】
次に、カソード電極19の製造方法について説明する。図3は、カソード電極19を製造するための電極生成装置27を示す図であり、図3(a)は全体構成図、図3(b)は図3(a)のD部拡大図である。電極生成装置27は、二つの槽29a、29bの一部が連結されており、連結部にイオン交換膜21およびシール部材31が配置される。
【0050】
図3(b)に示すように、二つの槽29a、29bの両側にシール部材31が配置され、槽29a、29bおよびシール部材31、31でイオン交換膜21が挟み込まれ、図示を省略したクランプで固定される。シール部材31は、例えばリング状のゴムパッキン等が用いられる。
【0051】
イオン交換膜21で仕切られた槽29a、29bには、それぞれ銅イオン水溶液35および還元剤水溶液33が入れられる。銅イオン水溶液35としては、銅イオン(II)を含む水溶液であればいずれも使用することができるが、例えば、酢酸銅水溶液、水酸化銅水溶液、硫酸銅水溶液のいずれか、またはこれらを適宜混合した水溶液を用いることができる。
【0052】
還元剤としては、例えば、水酸化ホウ素ナトリウム、シアノ水酸化ホウ素ナトリウム、水酸化アルミニウムリチウム、水素化ジイソブチルアルミニウム等を用いることができるが、水酸化ホウ素ナトリウムを用いることが望ましい。また、水素化ホウ素ナトリウムが水と反応することを防ぐため、還元剤水溶液はアルカリ性であることが望ましい。
【0053】
以上の構成により、以下の反応が進行し、イオン交換膜21上に、銅が無電解メッキ法によって析出させて、カソード電極19を形成することができる。
4Cu2++NaBH+8OH→4Cu+NaB(OH)+4H
【0054】
図4は、このようにして生成されたカソード電極19の表面SEM写真である。なお、図4に示す例では、槽29aに5mMの酢酸銅水溶液30mLを入れ、槽29bには、12wt%水酸化ホウ素ナトリウム溶液(in 14M NaOH、Aldrich社製)142μLと蒸留水29.858mLの混合溶液を入れたものを用いた。また、このようにして構成された電極生成装置27を、室温で1時間静置することで、得られたカソード電極19を示すものである。尚、イオン交換膜に銅多孔質体が付着した部分の大きさ及び形状は直径2mmの円形である。
【0055】
なお、カソード電極19である銅多孔質体は、例えば0.2μm〜500μm、イオン交換膜21は、例えば100〜500μm程度の厚みである。また、銅多孔質体はイオン交換膜21に対して、例えば0.1〜100mg/cm程度の生成量(付着量)であることが望ましい。また、この際の銅多孔質体の空隙率は30〜80%程度である。銅多孔質体の生成量(付着量)は0.1mg/cm未満であると、炭化水素の生成効率が低下する。また、100mg/cmを超えると、長期使用した際に銅多孔質体がイオン交換膜から剥がれやすくなる。銅多孔質体の空隙率は、80%を超えると、二酸化炭素還元反応において反応中間体の濃度が低いため、エタン、エチレン等の炭素を2個含む分子の生成効率が低下する。また、30%未満であると、ガスの透過性が減少し、炭化水素の生成効率が低下する。ここで空隙率とは、銅多孔質体の断面のSEM写真から求めた膜厚に銅多孔質体の面積を掛けて得られる外容積から、銅多孔質体の重量と膜厚から求まる銅多孔質体の占有体積を引いた空隙体積の、外容積に対する割合である。
【0056】
銅多孔質体の生成量(付着量)および平均径は反応時間、銅イオンの濃度、還元剤の濃度を変えることで適宜調整することができる。表1に反応条件と、銅多孔質体の特性を示す。
【0057】
【表1】

【0058】
次に、他の方法により製造されたカソード電極19について説明する。なお、以下の説明において、電極生成装置27と同一の構成については、図3と同一の符号を付して重複する説明は省略する。図5は、カソード電極19を精製するための電極生成装置37を示す図であり、図5(a)は全体構成図、図5(b)は図5(a)のE部拡大図である。電極生成装置37は、二つの槽29a、29bの一部が連結されており、連結部にイオン交換膜21、金属メッシュ41、電極43bおよびシール部材31が配置される。
【0059】
図5(b)に示すように、槽29a側には、イオン交換膜21が配置され、その後面(槽29b側)に金属メッシュ41が配置される。金属メッシュ41とシール部材31との間にはリング状の電極43bが設けられる。すなわち、イオン交換膜21、金属メッシュ41、電極43bの順で積層された複合体が、シール部材31で挟み込まれ、図示を省略したクランプで固定される。
【0060】
また、図5(a)に示すように、槽29aには銅イオン水溶液35が入れられ、槽29bには、蒸留水39が入れられる。槽29aの銅イオン水溶液35内には、電極43aが配置される。電極43a、43bは、電源45と電気的に接続されている。なお、電極43a、43bは例えばTi/Pt電極である。この状態で、電極43aを陽極とし、電極43bを陰極として電気分解を行う。以上により、以下の反応が進行し、イオン交換膜21上に、銅を電解メッキ法によって析出させて、銅多孔質体を形成することができる。
Cu2++2e→Cu
【0061】
図6は、このようにして生成された銅多孔質体の表面SEM写真である。なお、図6に示す例では、槽29aに100mMの硫酸銅水溶液30mLを入れ、槽29bには、蒸留水を30mL入れ、電流値120mA、電圧10Vで25分の電解を行うことで、得られた銅多孔質体を示すものである。尚、イオン交換膜に銅多孔質体が付着した部分の大きさ・形状は、直径2mmの円形である。
【0062】
銅多孔質体の生成量(付着量)および平均径は反応時間、銅イオンの濃度、電流値、電解時間を変えることで適宜調整することができる。表2に電解条件と、銅多孔質体の特性を示す。
【0063】
【表2】

【0064】
なお、得られた銅多孔質体は、生成条件によって粒状、棒状、薄片状の形態の銅微粒子が集積されて形成される。
【実施例】
【0065】
(試験方法)
次に、本発明にかかる電解セルの効果を確認するため、当該カソード電極を用いた炭酸ガス、炭酸イオンの還元試験結果について説明する。図7は、炭酸ガスの還元試験装置50を示す全体概略図であり、図8は、電解セル53を示す図で、図7のH部拡大図である。還元試験装置50は主に、槽51a、51b、電解セル53、電源55、分析管59、供給管61等から構成される。
【0066】
二つの槽51a、51bは電解セル53により仕切られる。槽51a、51bには、それぞれ、炭酸水素ナトリウム57が入れられる。炭酸水素ナトリウム溶液57としては、50mM炭酸水素ナトリウム溶液を用い、各槽に30mLの溶液を用いた。槽51a側は、上部を蓋で密封され、蓋を貫通するように供給管61および分析管59が設けられる。供給管61は図示を省略した二酸化炭素の供給源と接続されており、端部が、炭酸水素ナトリウム溶液57に浸漬される。供給管61の端部は、槽51aの下底部近傍まで延設される。槽51a内の炭酸水素ナトリウム溶液57は、供給管61からの二酸化炭素の供給により、常に撹拌され、その濃度は、略一定に保たれる。したがって、槽51a内の炭酸水素ナトリウム溶液57を循環するものと同一の効果を得ることができる。
【0067】
分析管59の端部は、蓋部を貫通し、炭酸水素ナトリウム溶液57には接することなく、蓋部と溶液水面との間の気体部に配置される。すなわち、分析管59は発生したガス等を収集することができる。なお、分析管59は、図示を省略したガス分析装置に接続され、収集されたガスは分析装置に導出される。
【0068】
図8に示すように、電解セル53は、イオン交換膜65上にカソード電極である銅多孔質体63が形成されており、銅多孔質体63を挟み込むように、金属メッシュ73が設けられる。すなわち、槽51a側から順に、金属メッシュ73、銅多孔質体63、イオン交換膜65と配置され、電極69a、69bで挟み込まれる。さらに電極69a、69bの外側からシール部材71で挟み込まれ、図示を省略したクランプ等で固定される。
【0069】
ここで、シール部材71としては、ゴムパッキンを用いた。電極69aは金属メッシュ73に通電する部材であり、リング状のTi/Pt電極を用いた。金属メッシュ73は、銅メッシュであり銅多孔質体63と電気的に接触するとともに、自らもカソードとして機能する。なお、銅メッシュは「銅 100mesh金網」(厚さ0.11mm、株式会社ニラコ社製)を用いた。銅多孔質体63は、図3で示した方法で生成された電極である。イオン交換膜65としては、旭硝子株式会社製の「セレミオン(登録商標)AMV」を用いた。
【0070】
電極69bは、アノード電極である金属性不織布67を保持して、金属性不織布67と電気的に接触するリング状のTi/Pt電極を用いた。なお、金属製不織布67は、Pt製の不織布を用いた。すなわち、リング状の電極69bのリング内に、金属不織布67が保持される。
【0071】
図7に示すように、電極69a、69bは、電源55に接続される。還元試験においては、電極69aをカソードとし、電極69b側をアノードとして、電流値2mA、電圧2.8Vで60分の電気分解を行った。
【0072】
この際、金属メッシュ73および銅多孔質体63側(イオン交換膜65とは逆側)の槽69a内に、供給管61より、二酸化炭素ガスを10mL/分でバブリングした(図中矢印F方向)。また、カソードより発生したガスを分析管59により収集し(図中矢印G方向)、ガスクロマトグラフィーで分析を行った。カラムは、SUPELCO CARBOXEN 1010PLOT 30m×032mmlDを用い、検出機はFIDを用いた。
【0073】
カソード電極における反応としては、以下に示したメタン、エチレン、エタンの生成について注目した。
CO+8H+8e→ CH+2H
CO+12H+12e→ C+4H
CO+14H+14e→ C+4H
【0074】
アノード電極における反応は、以下の通りである。
2HO→4H+4e+O
【0075】
なお、比較例として、銅メッシュをカソードとして用い、本発明のような銅多孔質体を用いない場合(図8において、電解セル53から銅多孔質体63をなくしたもの。この場合、金属メッシュ73がカソードとなる。)と比較した。また、多孔質体を用いても、銅以外を用いた例(銀多孔質体)と比較した。
【0076】
(比較例)銀多孔質体を用いた試験
銅多孔質体の代わりに銀多孔質体を用いて試験を行った。銀多孔質体は、銅イオン水溶液の代わりに、5mM 硝酸銀水溶液30mLを加える以外は前述の銅多孔質体の作成方法と同様の方法で作製した。図9は生成された銀多孔質体の表面SEM写真である。銀多孔質体の作製条件と得られた銀多孔質体の特性を表3に示す。
【0077】
【表3】

【0078】
得られた銀多孔質体と銅メッシュを用いて前述の試験方法と同様の手法で炭酸ガスの還元試験を実施した。結果を表4に示す。
【0079】
【表4】

【0080】
表4からも明らかなように、通常の銅メッシュのみ(比較例1)では、炭化水素の生成量が、本発明と比較して極めて低い。また、銀多孔質体を用いた場合(比較例2)でも、炭化水素の生成量が、銅メッシュのみとほとんど変わらず、銀多孔質体では炭化水素の生成がほとんど生じないといえる。一方、本発明は、比較例に対し、エチレンやエタンの生成量および生成効率が高く、化学工業原料としてもより有用である。特に、エチレンの電流効率が10%以上(実施例においてはエチレンが16%以上、エタン+エチレンで20%以上)と高く、工業上の利用価値が大きい。すなわち、材質としての銅を採用することによる効果と、多孔質体の形態による効果の単なる和を超えた、極めて高い効果を得ることができる。
【0081】
また、カソード側電解液を循環させて、カソード電解液の濃度を略一定に保つことで、連続的に二酸化炭素等を効率よく炭化水素に還元することができる。
【0082】
なお、上記還元試験装置50では電源55を用いたが、本発明の電解装置では、光触媒等による起電力や、その他の太陽光発電などにより得られる起電力を用いて電力を供給してもよい。
【0083】
以上、添付図を参照しながら、本発明の実施の形態を説明したが、本発明の技術的範囲は、前述した実施の形態に左右されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0084】
1………電解装置
3、3a………電解セル
5………ガス回収装置
7………電解液循環装置
9………二酸化炭素供給部
11………電源
13………セパレータ
15a、15b………電解液
16a、16b………槽
17………金属メッシュ
19………カソード電極
21………イオン交換膜
23………電解質
25………アノード電極
27………電極生成装置
29a、29b………槽
31………シール部材
33………還元剤水溶液
35………銅イオン水溶液
37………電極生成装置
39………蒸留水
41………金属メッシュ
43a、43b………電極
45………電源
50………還元試験装置
51a、51b………槽
53………電解セル
55………電源
57………炭酸水素ナトリウム溶液
59………分析管
61………供給管
63………銅多孔質体
65………イオン交換膜
67………金属性不織布
69a、69b………電極
71………シール部材
73………金属メッシュ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解セルであって、
銅または銅合金よりなる多孔質体であるカソード電極と、
前記カソード電極とイオン交換膜を介して配置されるアノード電極と、
前記カソード電極および前記アノード電極とそれぞれ接触する電解液と、
を具備し、
前記カソード電極と接触する電解液には、二酸化炭素、炭酸イオンまたは炭酸塩の少なくとも1種が含有され、
前記カソード電極と前記アノード電極に電位を付与すると、前記カソード電極において、二酸化炭素、炭酸イオンまたは炭酸塩を炭化水素に還元可能であり、
前記多孔質体を構成する銅または銅合金は、平均径が100nm〜5μmで、空隙率が30から80%である粒状体、棒状体または薄片状体の集合体であり、前記多孔質体は、イオン交換膜上に形成されることを特徴とする電解セル。
【請求項2】
前記カソード電極は、金属メッシュに接続されることを特徴とする請求項1記載の電解セル。
【請求項3】
前記多孔質体のイオン交換膜上の付着量が0.1mg/cm以上100mg/cm以下であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の電解セル。
【請求項4】
カソード側の電解液を保持するカソード槽からアノード側の電解液を保持するアノード槽までの間に、順に、金属メッシュと、前記金属メッシュと接触する前記カソード電極と、前記カソード電極と前記イオン交換膜および電解質を介して設けられるアノード電極とが配置されることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の電解セル。
【請求項5】
前記アノード電極が光触媒であることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の電解セル。
【請求項6】
請求項1から請求項5に記載の電解セルを用い、前記カソード電極と接触する電解液に、二酸化炭素、炭酸イオンまたは炭酸塩の少なくとも1種を溶解させながら電解液を前記カソード電極との接触部に対して循環可能であり、前記カソード電極および前記アノード電極の間に電位を付与して、前記カソード電極において二酸化炭素、炭酸イオンまたは炭酸塩を炭化水素に還元可能であることを特徴とする電解装置。
【請求項7】
前記カソード電極および前記アノード電極の間に付与される電解電位は、光触媒または太陽光発電により生じる起電力であることを特徴とする請求項6記載の電解装置。
【請求項8】
請求項6または請求項7記載の電解装置を用い、前記カソード電極と接触する電解液に、二酸化炭素、炭酸イオンまたは炭酸塩の少なくとも1種を溶解させながら電解液を前記カソード電極との接触部に対して循環させ、前記カソード電極および前記アノード電極の間に電位を付与することで、前記カソード電極において二酸化炭素、炭酸イオンまたは炭酸塩を炭化水素に還元すること特徴とする炭化水素の生成方法。
【請求項9】
二酸化炭素、炭酸イオンまたは炭酸塩の少なくとも1種が還元されて生成するエチレンの生成の電流効率が10%以上であることを特徴とする請求項8に記載の炭化水素の生成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図4】
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【図6】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−112001(P2012−112001A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−262467(P2010−262467)
【出願日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】