説明

電解槽

【課題】構造設計の自由度が高く、屋外設置に適した電解槽を提供する。
【解決手段】電解槽100は、ともに面状の第一電極10および第二電極20が互いに対向して配置された電極対30と、電極対30の間に電解液ESを供給する給液部40と、を備え、電解液を電気分解してガスを生成する。そして、電解槽100は、電極対30が面直方向に湾曲または屈曲可能な可撓性を有している。電解槽100は、第一電極10および第二電極20が対向して配置された電極対30の間に、絶縁性の保液シート50が挟持されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電解液の電気分解に用いる電解槽に関する。
【背景技術】
【0002】
電解液を電気分解してガスを生成する種々の電解槽が提供されている。近年では、水(水溶液)を電気分解して水素ガスと酸素ガスを生成する水電気分解用の電解槽が提案されている。この種の電解槽としては、一対の電極で電解液を挟持するものが知られている。具体的には、固体高分子電解質膜の両面に電極を接合し、電解質膜に水を供給して通電するもの(特許文献1)と、中空の枠体(ガスケット)の両面に電極を接合し、その間の空間に電解液を貯留して通電するもの(特許文献2)とが知られている。
【0003】
従来の電解槽において、電解液を挟持する電極としては、曲げ剛性の高い硬質の板状電極が用いられていた。電極と電解液との界面で生じるガスの発生圧力に抗して電極と電解液との接触状態を維持するように、固体高分子電解質膜やガスケットに対して硬質の電極を高圧で圧接させていたためである。
【0004】
例えば、特許文献1には、固体高分子電解質膜に電極を接合し、押し付け素材で押圧力を付勢した状態でセパレータ板や固定板と一体にボルト固定電解槽が記載されている。
また、特許文献2には、黒鉛やニッケルなどの板からなる電極とガスケットとをボルトおよびナットで圧接して多層に積層した電解槽が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−291329号公報
【特許文献2】特開平10−88380号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、電極自体が硬質の板状であったり、他の硬質の部材に電極が固定されたりして電解槽が非可撓性(リジッド)であったことにより、種々の問題が生じていた。
第一には、電解槽の構造設計の自由度が乏しかったため、電解槽の形状や設置位置が限られていた。第二には、非可撓性ゆえに耐衝撃性が低く、屋外曝露時の電解槽の耐久性に問題があった。たとえば電解槽を屋外設置して家庭用の水素ガス発生装置に用いた場合、風雨や小石等の異物が電解槽に衝突すると割れや欠けが容易に生じるおそれがあった。
【0007】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、構造設計の自由度が高く、屋外設置に適した電解槽を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の電解槽は、ともに面状の第一電極および第二電極が互いに対向して配置された電極対と、前記電極対の間に電解液を供給する給液手段と、を備え、前記電解液を電気分解してガスを生成する電解槽であって、前記電極対が面直方向に湾曲または屈曲可能な可撓性を有していることを特徴とする。
【0009】
なお、本発明の各種の構成要素は、個々に独立した存在である必要はなく、複数の構成要素が一個の部材として形成されていること、一つの構成要素が複数の部材で形成されていること、ある構成要素が他の構成要素の一部であること、ある構成要素の一部と他の構成要素の一部とが重複していること、等を許容する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の電解槽は、電解液を挟持する電極対が面直方向に湾曲または屈曲可能な可撓性を有している。このため、使用目的に応じた様々な形状の電解槽の構造設計が可能になり、また電極対が耐衝撃性に優れるため、電解槽を屋外曝露環境にも好適に設置することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】第一実施形態にかかる電解槽を示す斜視図である。
【図2】電解槽の分解斜視図である。
【図3】(a)はガス生成装置の模式図であり、(b)はその部分拡大図である。
【図4】(a)は第二実施形態にかかる電極対の斜視図であり、(b)はその部分拡大図である。
【図5】(a)は第三実施形態にかかる電極の平面図であり、(b)はその変形例を示す平面図である。
【図6】耐水圧の測定に用いたホルダの説明図である。
【図7】実施例1および実験例1から3の電流値の測定結果を示すグラフである。
【図8】実施例2の電流値の測定結果を示すグラフである。
【図9】実験例4の電流値の測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。尚、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0013】
<第一実施形態>
図1は、本発明の第一の実施形態にかかる電解槽100を示す斜視図である。図2は、電解槽100の分解斜視図である。
はじめに、本実施形態の電解槽100の概要について説明する。
【0014】
本実施形態の電解槽100は、ともに面状の第一電極10および第二電極20が互いに対向して配置された電極対30と、電極対30の間に電解液ESを供給する給液部40と、を備え、電解液ESを電気分解してガスGを生成する。そして、電解槽100は、電極対30が面直方向に湾曲または屈曲可能な可撓性を有していることを特徴とする。
【0015】
次に、本実施形態の電解槽100について詳細に説明する。
電解槽100は、電解液ESを電気分解してガスGを生成するガス生成装置である。電解液ESおよびガスGは特に限定されないが、本実施形態ではガスGの一つとして水素ガスを挙げる。すなわち、本実施形態の電解槽100は、水電気分解による水素ガス発生装置を構成している。
【0016】
電解液ESは、主体が水であればよく、更に、高効率で電解を実施するために、解離度が高く、不揮発性の塩基または酸を添加するとよい。塩基としては、水酸化ナトリウムや水酸化カリウム、酸としては硫酸を一例として挙げることができる。
本実施形態の電解槽100を含む水素発生装置は、家庭用の燃料電池用水素製造のほか、水素自動車、家庭用電化製品に用いることができる。電解槽100で発生した水素ガスを動力源として用いる場合には、他の自然エネルギーと組み合わせてもよい。
【0017】
第一電極10および第二電極20は、柔軟性のある導電性のフィルムである。この導電性フィルムは、フィルム自体、若しくは、その表面が導電性を持つものである。この導電性を持つ材質としては、金、銀、銅、白金、ニッケル、チタン、鉄等の金属、ITO(酸化インジウム錫)、酸化錫、酸化亜鉛等の酸化金属、または炭素が上げられる。これらの導電性のある材質は、単体として使用してもよいが、合金の様な形で組み合わせてもよい。第一電極10、第二電極20を構成するフィルムの厚さとしては、1μm〜10mmの範囲のものが好ましい。1μm以上とすることで、電極として使用する際に充分な強度が得られ、また、加工も容易である。また、10mm以下とすることで、柔軟性が得られ、また、電解槽100の小型化および軽量化が図られる。
【0018】
導電性フィルムの組成としては、単体の組成でもよいが、不導体の基材フィルムに上記の導電性のある材質を成膜したものを使用してもよい。成膜の方法は特に限定しないが、その金属自体を、スパッタや蒸着、CVD(Chemical Vapor Deposition)法、ゾルゲル法、PLD(Pulse Laser Deposition)法等により任意の膜厚に成膜する方法が挙げられる。不導体の基板フィルムは、特に限定しないが、ポリイミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニリデン、ポリ乳酸、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリテトラフルオロエチレン、ポリウレタン、ポリスチレン、ポリエステル、ABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン)樹脂、アクリル樹脂、ポリアセタール樹脂等の樹脂材料が使用できる。
【0019】
図2に示すように、第一電極10と第二電極20との間には電極間スペーサ32が挟持されている。電極間スペーサ32は板状をなし、略中央に矩形状の中空部33を有する枠体である。中空部33は、電解液ESが供給されて電解される空間である。本実施形態の中空部33には、親水性の保液シート50が嵌め込まれている。
【0020】
便宜上、図1および図2の右下方向を電解槽100の表面側といい、左上方向を電解槽100の裏面側という。また、同図に示すように上下方向を規定するが、これは構成要素の相対関係を説明するために便宜的に規定するものであり、必ずしも電解槽100の製造時や使用時の方向を限定するものではない。
【0021】
保液シート50は、親水性かつ絶縁性の材料からなり、電解液ESに対する濡れ性により電解液ESを保持するシート材料である。本実施形態の電解槽100は、第一電極10と第二電極20との間に保液シート50を使用することにより、電極同士の接触(ショート)を防ぐとともに、電極間の薄い空隙の全体に電解液ESを行き渡らせることが可能である。すなわち、親水性の保液シート50を電極対30に挟み込むことで、可撓性のある電極対30を三次元的に屈曲または湾曲させた場合にも、第一電極10と第二電極20とが接触せず、また電解液ESの不足領域が生じることがない。
【0022】
保液シート50の材質としては、特に限定しないが、親水性でありながら、電気分解を受けないものが用いられる。例えば、セルロース、キュプラ、綿、絹などの天然繊維材料のほか、ポリビニリデンジフルオライドや親水化処理されたポリテトラフルオロエチレンなどの合成高分子からなる多孔シートまたは不織布が挙げられる。保液シート50の厚さは1mm以下が好ましい。また、保液シート50のかさ(嵩)密度は0.5g/cm以下が好ましい。これらの場合、保液シート50が電解液ESに与える電気抵抗が抑制されるため、電解液ESを効率よく電気分解することができる。
【0023】
電極間スペーサ32の板厚は、第一電極10と第二電極20との対向間隔、すなわち電極間距離にあたる。保液シート50の厚みは、電極間スペーサ32の厚みと同等またはこれよりも小さい。すなわち、保液シート50が嵌め込まれた中空部33には、電解液ESを貯留することが可能である。第一電極10と第二電極20との対向間隔は、電極対30の全体に亘って均一であることが好ましいが、これに限られない。
【0024】
保液シート50が繊維材料からなることで、保液シート50が高い毛管力をもつ。また、保液シート50は、電解液ESが供給される中空部33に対して面方向の全体に亘って設けられるとよい。これにより、第一電極10と第二電極20との間の全体に電解液ESを行き渡らせることができる。また、保液シート50は電極間スペーサ32よりも高い可撓性を有している。
【0025】
中空部33には、電解液送液ライン41と電解液排出ライン51とが連通して設けられている。電解液送液ライン41は、給液部40の一部を構成している。
【0026】
第一電極10と第二電極20は、それぞれ電極ホルダ35、36に装着される。
電極ホルダ35は板状をなし、第一電極10を嵌め込むための中空凹部351が厚み方向に貫通形成されている。中空凹部351には、導線353の一端が露出しており、中空凹部351に第一電極10が嵌め込まれることで、第一電極10と導線353とは接続される。
中空凹部351の裏面側には、電解液送液ライン43と電解液排出ライン53がそれぞれ凹溝として形成されている。電極間スペーサ32と電極ホルダ35とを接合したときに、電解液送液ライン41と43、および電解液排出ライン51と53は、それぞれ互いに一致する。
【0027】
一方、電極ホルダ36もまた板状をなし、第二電極20を嵌め込むための中空凹部361が厚み方向に貫通形成されている。中空凹部361には、導線363の一端が露出しており、中空凹部361に第二電極20が嵌め込まれることで、第二電極20と導線363とは接続される。導線353、363には、電極対30に直流電圧を供給する給電部90(図3(a)を参照)の正極または負極のいずれかが接続される。
【0028】
導線353、363は、導電性の材料からなり、金属材料、特に電気抵抗の少ない白金、金、銅、ニッケル等が好ましい。
【0029】
中空凹部361の表面側には、電解液送液ライン44と電解液排出ライン54がそれぞれ凹溝として形成されている。電極間スペーサ32と電極ホルダ36とを接合したときに、電解液送液ライン41と44、および電解液排出ライン51と54は、それぞれ互いに一致する。
【0030】
電極間スペーサ32および電極ホルダ35、36は、ともに絶縁性の薄板からなり、板厚は1mm以下が好ましい。また、電極間スペーサ32および電極ホルダ35、36は、絶縁性の樹脂材料、例えばPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、アクリル樹脂、ポリカーボネート、ポリイミド等が用いられる。これにより、電極対30の可撓性を損なうことがない。
【0031】
給液部40は、給液管46、排液管47、貯液槽48および送液ポンプ49を含む(図3(a)を参照)。
電解液送液ライン41、43、44は互いにあわさって管路を構成し、かかる管路に給液管46が装着されている。給液管46は、電解液ESを所定の圧力で中空部33に供給するための配管であり、中空部33と貯液槽48とを連通している。
また、電解液排出ライン51、53、54は互いにあわさって他の管路を構成し、かかる他の管路に排液管47が装着されている。排液管47は、中空部33で電解された電解液ESを排出するための配管であり、中空部33に連通している。
【0032】
電極間スペーサ32を中心として、電極ホルダ35、36の表裏面側には、ガス回収用ホルダ37、38がそれぞれ設けられている。後述するように、第一電極10および第二電極20は、電気分解で生成したガスGを厚み方向に通過させる。
ガス回収用ホルダ37の裏面側には、キャビティ状のガス回収室371と、ガス回収室371に一端が連通した回収ガス流路373と、回収ガス流路373の他端に接続されたガス取出ライン375が設けられている。回収ガス流路373は、ガス回収用ホルダ37の裏面側に凹溝状に設けられている。ただし、回収ガス流路373は、ガス回収用ホルダ37の板厚内部を貫通する貫通孔として形成してもよい。ガス取出ライン375は回収ガス流路373に対して気密に接続された管状部材である。
【0033】
一方、ガス回収用ホルダ38の表面側にもまた、キャビティ状のガス回収室381と、ガス回収室381に一端が連通した回収ガス流路383と、回収ガス流路383の他端に気密に接続された管状部材からなるガス取出ライン385とが設けられている。回収ガス流路383は、ガス回収用ホルダ38の表面側に凹溝状に、またはガス回収用ホルダ38の板厚内部を貫通する貫通孔として、形成されている。
【0034】
これにより、導線353を通じて給電された第一電極10で生じたガスGが、ガス回収室371および回収ガス流路373を通じてガス取出ライン375より回収される。また、導線363を通じて給電された第二電極20で生じた他のガスGもまた、ガス回収室381および回収ガス流路383を通じてガス取出ライン385より回収される。
【0035】
本実施形態のガス回収用ホルダ37、38は絶縁性の薄板からなり、ガス回収室371、381は射出成形またはプレス成形によりキャビティ状に形成されている。ガス回収用ホルダ37、38の平板部372、382は、個別に、人間の手で容易に曲げ加工することができる。
【0036】
図1および図2に示すように、電極間スペーサ32、電極ホルダ35、36およびガス回収用ホルダ37、38は、いずれも略同等の曲率で三次元的に湾曲している。具体的には、電極間スペーサ32、電極ホルダ35、36およびガス回収用ホルダ37、38は、表面側に向かって板厚方向に凸状に湾曲している。これにより、電極間スペーサ32、電極ホルダ35、36およびガス回収用ホルダ37、38は互いに重ね合わせが可能である。
【0037】
また、ガス回収用ホルダ37、38と、電極ホルダ35、36には、それぞれ四隅にネジ孔391が形成されており、固定ネジ39によって互いに気密に密着して締結される。
【0038】
以下、電極間スペーサ32および電極ホルダ35、36を積層してなる構造体を電解槽本体110という。電解槽本体110は、電解液ESが供給される中空部33と、その両側の第一電極10および第二電極20と、第一電極10および第二電極20を対向配置する部材(電極ホルダ35、36)とで構成されている。
言い換えると、電解槽100は、電解槽本体110と、電解槽本体110からガスGを取り出すための流路を構成する部材(ガス回収用ホルダ37、38)とを含む。
【0039】
電極対30とは、電極間スペーサ32を挟んで対向配置された第一電極10および第二電極20をいう。本実施形態の電極対30は、面直方向に湾曲または屈曲可能な可撓性を有している。ここで、電極対30が可撓性を有するとは、対向配置された状態の第一電極10および第二電極20が、人間の手によって曲げ変形するだけの柔軟性を有していることをいう。本実施形態の場合、第一電極10および第二電極20は電極ホルダ35、36によって対向配置されており、第一電極10および第二電極20に対して外部から曲げ荷重を付与することのできる最小限構成は電解槽本体110に相当する。したがって、本実施形態の場合、電極対30が可撓性を有するとは、電極ホルダ35、36を含む電解槽本体110が人間の手で曲げ変形可能であることを意味する。
【0040】
以下、湾曲と屈曲とを区別せず、湾曲と総称する場合がある。すなわち、電極対30の平面方向に対して交差する方向に第一電極10または第二電極20の少なくとも一方が曲げ形成されている状態を、その曲率半径の大小によらず、電極対30が三次元的に湾曲しているという。
【0041】
より具体的には、第一電極10および第二電極20が金属フィルムの場合、電極対30が可撓性を有するとは、JIS Z 2248で規定された3号試験片の形状に成形した電解槽本体110を押曲げ法で曲げ角度を170度としたときに、第一電極10および第二電極20に裂け傷がないことをいう。また、第一電極10および第二電極20が金属材料を成膜した不導体の基材フィルムの場合には、電極対30が可撓性を有するとは、電解槽本体110の3点曲げ試験(JIS K 7171)において曲げ角度170度のときに、第一電極10および第二電極20に裂け傷および割れがないことをいう。
【0042】
また、電極対30の曲げ弾性率(JIS K 7171)は、0.1MPa以上2000MPa以下が好ましく、1MPa以上1000MPa以下が更に好ましい。ここでいう電極対30の曲げ弾性率とは、電極ホルダ35、36および電極間スペーサ32を含む電解槽本体110の単位幅あたりの曲げモーメントを3点曲げ試験により求めたものである。なお、本実施形態の電解槽100においては、可撓性のある電極対30を、所定の湾曲または屈曲形状に成形した状態で、焼成して炭素化したものを使用してもよい。すなわち、可撓性の電極対30をユーザが任意の形状に成形した後に、かかる電極対30を硬化させてから電解槽100に使用してもよい。
【0043】
図1、2に示す電解槽100は、一対の第一電極10および第二電極20を対向配置してなる電解槽本体110の両側にガス回収用ホルダ37、38を装着してなる。ここで、電解槽本体110を多段に重ね合わせることで、電解槽100の設置面積を抑えつつ電極対30と電解液ESとの接触面積を増大させることができる。
【0044】
図3(a)は、三段の電解槽本体110を含むガス生成装置200の模式図である。電解槽100は、三段に重ね合わされた電解槽本体110と、その表裏両面にそれぞれ設けられたガス回収用ホルダ37、38とで構成されている。電解槽本体110同士の間にもまた、ガス回収用ホルダ37または38が挟持されている。同図では、電解槽100に関しては平面図を図示し、厚み方向の端面のみを表している。
【0045】
本実施形態のガス生成装置200は、電解槽100と、これに電解液ESを供給する給液部40とを含む。給液部40は、三段の電解槽本体110の中空部33にそれぞれ電解液ESを供給する給液管46および送液ポンプ49と、電解液ESが貯留された貯液槽48とを含んで構成されている。本実施形態のガス生成装置200は水電気分解によって水素ガスおよび酸素ガスを生成する装置であり、貯液槽48に貯留された電解液ESは水を主成分としている。また、給液部40は、電解槽本体110から電解液ESを排出する排液管47を任意で備えている。
【0046】
ガス回収用ホルダ37に接する電極(第一電極10)には、給電部90の正極が接続されている。また、ガス回収用ホルダ38に接する電極(第二電極20)には、給電部90の負極が接続されている。すなわち、電解槽本体110同士に挟持されたガス回収用ホルダ37(37a)の表裏両面側には第一電極10がそれぞれ設けられている。そして、電解槽本体110同士に挟持されたガス回収用ホルダ38(38a)の表裏両面側には第二電極20がそれぞれ設けられている。
【0047】
二式のガス回収用ホルダ37、37aにはガス取出ライン375が連通して設けられており、陽極(第一電極10)で生じた酸素ガスが回収される。一方、二式のガス回収用ホルダ38、38aにはガス取出ライン385が連通して設けられており、陰極(第二電極20)で生じた水素ガスが回収される。
【0048】
本実施形態のガス生成装置200は、三次元的に湾曲した電解槽本体110が多段に重ね合わされて電解槽100が構成されている。これにより、湾曲した設置面上に電解槽100を多段に設置することが可能である。このため、例えば家屋や工場に設置された配管の上など、従来はデッドスペースとなっていた空間を設置場所として、ガス生成装置200により水素ガスを生成することが可能となる。また、本実施形態の電解槽本体110(電極対30)の各段およびガス回収用ホルダ37または38は、面直方向に湾曲または屈曲可能な可撓性を個別に有している。このため、設置場所の形状にあわせて電解槽100の曲率を自在に調整することが可能である。
【0049】
本実施形態の第一電極10と第二電極20は、これらを厚み方向に貫通する貫通孔12、22を備えている。そして、ガス取出ライン375およびガス取出ライン385で構成されるガス回収路60は、電気分解によって生成したガスGを、貫通孔12、22を通じて回収する。
【0050】
また、本実施形態の電解槽100は、第一電極10および第二電極20が対向して配置された電極対30の間に、絶縁性の保液シート50が挟持されている。以下、第一電極10、第二電極20および保液シート50についてさらに説明する。
【0051】
本実施形態の電解槽100は、電極対30の少なくとも一部が三次元的に湾曲または屈曲している。本実施形態の電極対30は、互いに対向する第一電極10と第二電極20の同一領域がともに三次元的に湾曲している。これにより、第一電極10と第二電極20とが所定の対向間隔を保ちつつ電極対30が三次元的に湾曲している。
【0052】
図3(b)は、図3(a)の電極対30における湾曲した頂部の部分拡大図である。図3(a)、(b)に示すように、第一電極10と第二電極20との間には保液シート50が介挿されている。本実施形態の保液シート50は、親水性高分子からなる繊維材のシート成形体である。保液シート50を用いることにより、給液部40による電解液ESの供給圧が常圧であっても、湾曲部分の頂上における中空部33の全体に電解液ESを行き渡らせることができる。
【0053】
親水性高分子は、セルロース、ウール、コットン、ポリビニリデンジフルオライド、または親水化処理されたテトラフルオロエチレンである。そして、本実施形態の保液シート50の厚みは1mm以下である。
【0054】
図3(b)に示すように、第一電極10と第二電極20は、これらを厚み方向に貫通する一個以上の貫通孔12、22をそれぞれ備えている。そして、分解された水素ガスと酸素ガスは、貫通孔12、22を通じて電極対30の外部に取り出される。電解槽100には、第二電極20の電解面24の背面25に接して水素ガスのガス取出ライン385(同図(a)を参照)が設けられている。同様に、電解槽100には、第一電極10の電解面14の背面15に接して酸素ガスのガス取出ライン375(同図(a)を参照)が設けられている。
【0055】
貫通孔12、22の内壁面13、23は疎水性であり、第一電極10および第二電極20のうち電解液ESと接する電解面14、24は親水性であることが好ましい。また、第一電極10および第二電極20は、電解面14、24の背面15、25が疎水性であることが好ましい。
【0056】
第一電極10および第二電極20は、フィルム状の導電性部材、または、絶縁性のベースシートに対して金属、酸化金属もしくは炭素等の導電性材料によって電解面14、24が積層形成された積層部材である。電解面14、24は、中空部33に露出する内側の主面である。
【0057】
貫通孔12、22の目的は、第一電極10、第二電極20の表面で発生したガスG(水素および酸素)を、即時に、各電極の背面に回収するためのものである。これにより、電解液ESが分解されてガスGが発生しても、第一電極10、第二電極20がガスGで覆われることがない。このため、電極対30と電解液ESとの接触面積(有効電解面積)が減少することがない。
【0058】
また、第一電極10、第二電極20でそれぞれ生じた水素ガスと酸素ガスは、第一電極10および第二電極20自体によって分離されて回収されるため、中空部33には、ガス分離用の気密な板状のスカート(隔離板)を設ける必要がない。このため、本実施形態によれば、中空部33を薄型化して電極間距離を短縮することが可能であり、電解効率のアップと電極対30の薄型が可能である。
【0059】
ここで、貫通孔12、22の耐水(電解液)圧を高めにすること、少なくとも、0以上にすることにより、貫通孔12、22内に電解液ESが浸入せず、ガスGのみが通過可能となる。これにより、電解液ESが電極対30から漏出することなく、気液分離が可能となる。この耐水圧(P)は、以下のヤング・ラプラスの式(1)で表される。
【0060】
P=4・γ・sin(θ−90°)/r (1)
γ:水(電解液)の表面張力
θ:孔壁の水(電解液)接触角
r:孔径
【0061】
この耐水(電解液)圧(P)を高める方法としては、式(1)に示される通り、孔径を小さくするか、または接触角を高めるとよい。
また、本実施形態のように繊維材からなる保液シート50を用いることで、保液シート50の毛管力によって電解液ESが中空部33に保持され、電解液ESが貫通孔12、22に浸入することが抑制される。
【0062】
貫通孔12、22の形状は特に限定しない。第一電極10、第二電極20に繊維状のフィルムを使用する場合は、その目を貫通孔12、22として利用することができる。または、第一電極10、第二電極20に孔加工するとよい。孔加工の方法は特に限定しないが、レーザーやNC(Numerical Control)加工機などの装置を使用して物理的に孔加工する方法のほか、リソグラフィーとケミカルエッチングによる方法でもよい。
【0063】
貫通孔12、22の直径は、300μm以下、好ましくは200μm以下がよい。この範囲とすることで、送液ポンプ49による供給圧を実用上十分に高めても、式(1)の耐水圧(P)を超えることが防止され、電解液ESの漏れ出しを防ぐことができる。
【0064】
隣接する貫通孔12、22の中心間距離、すなわちピッチは、1mm以下が好ましい。ピッチの値が小さい程、電極表面の孔の数は多くなるので、発生したガスGが背面に抜け易い。
【0065】
貫通孔12、22の内壁面13、23は疎水性であり、つまり水接触角が90°以上である。一方、第一電極10、第二電極20の電解面14、24は親水性であり、つまり水接触角は90°未満である。本実施形態のように貫通孔12、22の内壁面(孔壁)13、23の水接触角が90°以上であると、式(1)で示されるとおり、貫通孔12、22の耐水圧(P)がプラスになり、電解液ESが貫通孔12、22に浸入することが抑制される。
また、電解面14、24の水接触角が90°未満であることにより、電解液ESと第一電極10、第二電極20との親和性が良好となり、ガスGの気泡が電解面14、24上に残存することが防止される。これにより、貫通孔12、22による気液分離効果が十分に発揮され、高い電解効率を得ることができる。
第一電極10、第二電極20の表面を場所選択的に親水性または疎水性にする方法は特に限定されない。一例として、ポリエチレン等のポリオレフィンの疎水性のフィルム全面に金属薄膜(親水性)を設けてから貫通孔12、22を孔あけ加工する方法が挙げられる。このほか、孔あけ加工した金属フィルムの上面にマスクを貼り付けた後、CVD法等により疎水性処理し、処理後、マスクを取り除く方法を用いることもできる。
【0066】
第一電極10と第二電極20との対向間隔(電極間距離)は50mm以下が好ましい。これにより、設置された電解槽100の下面側にあたる電極の貫通孔(例えば、第二電極20の貫通孔22)にかかる水圧が所定以下に抑えられ、当該貫通孔からの電解液ESの漏れ出しが抑制される。
なお、下面側にあたる貫通孔(例えば第二電極20の貫通孔22)は、上面側にあたる貫通孔(例えば第一電極10の貫通孔12)よりも水圧の負荷が大きいため、下面側の貫通孔を上面側の貫通孔よりも小径としてもよい。
【0067】
本実施形態は、以下の技術的思想を包含する。
ともに面状の第一電極10および第二電極20が互いに対向して配置され、少なくとも一部が面直方向に湾曲または屈曲して形成された電極対30と、前記電極対30の間に電解液ESを供給する給液部40と、を備え、電解液ESを電気分解してガスGを生成する電解槽100。
かかる電解槽100によれば、電極対30が面直方向に湾曲または屈曲しているため、設置面積あたりの電極面積を大きくすることができ、また平坦でない設置面に電解槽100を設置することも可能である。
【0068】
かかる電解槽100においては、予め湾曲または屈曲形状に成形した、曲げ弾性率の高い材料からなる電極(第一電極10、第二電極20)を用いることができる。具体的には、板状の樹脂材料を湾曲させた状態や、半球状に成形した状態で、これを焼成(炭素化)するなどして硬化させた電極を例示することができる。かかる電極は、使用者が片手では曲げられない程度の曲げ弾性を有していてもよい。
【0069】
<第二実施形態>
図4(a)は本実施形態にかかる電極対30の斜視図であり、同図(b)はその部分拡大図である。具体的には、図4(b)は、同図(a)の円Bで囲んだ一部領域の拡大図である。
【0070】
本実施形態の電極対30はロール状に巻成されている。
【0071】
本実施形態の第一電極10および第二電極20は、内部に形成された空隙部62と、空隙部62に連通する貫通孔12、22と、をそれぞれ備えている。そして、電解液ESを電気分解して得られる水素ガスおよび酸素ガスを、それぞれ第一電極10、第二電極20の内部を通じて背面15、25側から回収することができる。
【0072】
より具体的には、給電部90(図示せず)の負極に接続された第一電極10の電解面14では電解液ESの電気分解によって水素ガスが生じる。この水素ガスは、貫通孔12を通じて第一電極10の空隙部62(62a)に導入される。第一電極10の外部は大気圧以上の所定の供給圧で電解液ESが充填されているのに対し、空隙部62aは大気圧に保たれているためである。
【0073】
一方、給電部90(図示せず)の正極に接続された第二電極20の電解面24では電解液ESの電気分解によって酸素ガスが生じる。この酸素ガスもまた、貫通孔22を通じて第二電極20の空隙部62bに導入されて電極対30の外部に取り出される。
【0074】
第一電極10および第二電極20は、多数の貫通孔12、22をもつ電極フィルムを、スペーサ(図示せず)を挟持して対向させたものである。第一電極10および第二電極20の巻回方向の最内周側の端辺は、空隙部62a、62bに電解液ESが浸入しないよう、液密に閉止されている。
【0075】
第一電極10と第二電極20との間、ならびに第一電極10または第二電極20の少なくとも一方の外側には、親水性の保液シート50が設けられている。これらを積層した状態で任意の軸(巻回軸)まわりに多重に巻回することで、第一電極10と第二電極20とが接触(ショート)することなく本実施形態のロール状の電極対30を得ることができる。本実施形態の電極対30は、巻回軸を鉛直方向に向けて縦置きに設置することが可能であり、電極対30の設置スペースを削減することができる。また、保液シート50を用いたことにより、第一電極10と第二電極20との間の中空部33の全体に電解液ESを行き渡らせることができる。
【0076】
巻成されたロール状の電極対30の内側に電解液ESが供給される。言い換えると、それぞれ二層構造をもつ第一電極10と第二電極20の各両面に電解液ESが供給される。
本実施形態の電極対30は、第二電極20を内側として巻回され、最外表面には第一電極10が位置している。
【0077】
電極対30の巻回端部には、電解液ESが巻回方向(周方向)に漏出することを防止するシール部材92が設けられている。また、ロール状の電極対30の少なくとも一方の軸方向端部(ロール端94)には、電解液ESが軸方向に漏出することを防止する底板(図示せず)が設けられている。
シール部材92は、多重巻回された最外周の第一電極10と第二電極20との間、および最外周の第二電極20とその内周の第一電極10との間を液密に封止する部材である。
【0078】
なお、本実施形態ではロール状の電極対30を例示したが、本発明はこれに限られない。電極対30の変形例として、ミウラ折り(登録商標:二重波型可展曲面)その他の折り方による折り畳み形状としてもよい。
【0079】
<第三実施形態>
図5(a)は本実施形態の電極(第一電極10または第二電極20)の平面図である。
本実施形態の第一電極10または第二電極20は、網状部材16、26と、網状部材16、26に被着された導電性の電極部材18、28とを含む。
【0080】
網状部材16、26は、第一電極10、第二電極20に保形性を付与する部材であり、細線を編組したメッシュでもよく、繊維の交絡体でもよい。また、網状部材16、26は、導電性でもよく、または絶縁性でもよい。
より具体的には、本実施形態の網状部材16、26は金属線が格子状に編組された金網である。格子形状は直交格子でも斜交格子でもよい。
【0081】
すなわち、網状部材16、26は、配列された複数の区画領域17、27を備えている。また、電極部材18、28は、厚み方向に貫通する貫通孔12、22を区画領域17、27にそれぞれ一つ以上有している。
【0082】
本実施形態の電極部材18、28は、区画領域17、27ごとに個別に設けられている。すなわち、本実施形態の第一電極10、第二電極20は、多数の微小な電極部材18、28を、網状部材16、26(金網)によってパッチワーク状に寄せ集めてなる。網状部材16、26は導電性を有しているため、隣接する電極部材18、28同士が電気的に導通している。第一電極10、第二電極20は矩形状をなしている。
【0083】
電極部材18、28は、網状部材16、26の上面に積層されていてもよく、または区画領域17、27の内側に嵌め込まれていてもよい。
【0084】
電極部材18、28は辺長が1mm以下、好ましくは500μm以下の矩形の板状をなし、その略中央に貫通孔12、22が穿設されている。貫通孔12、22は、各電極部材18、28に一個または二個以上設けられている。ただし、第一電極10、第二電極20を構成する一部の電極部材18、28に関しては、貫通孔12、22が設けられていないものがあってもよい。
【0085】
本実施形態の第一電極10、第二電極20は、金網である網状部材16、26が形態保持性および可撓性を有している。このため、電極部材18、28が所定の板厚を有する非可撓性の板材であったとしても、第一電極10および第二電極20は全体として可撓性を有する。これにより、電極部材18、28の機械強度を所定に確保するとともに、第一電極10および第二電極20の可撓性を十分に得ることができる。
【0086】
本実施形態の第一電極10、第二電極20は、辺長が1mm以下のマイクロサイズの電極部材18、28を多数寄せ集めて亀甲状に構成したことで、ドーム状や波形状など任意の湾曲形状に容易に成形することができる。
【0087】
なお、本実施形態に代えて、電極部材18、28を、複数の区画領域17、27に跨るシート状としてもよい。
【0088】
図5(b)は、本実施形態の第一電極10、第二電極20の変形例を示す平面図である。本変形例の第一電極10、第二電極20は、外形形状が円形である点で同図(a)の本実施形態と相違している。また、本変形例の第一電極10、第二電極20は、貫通孔12、22が設けられた多数の矩形状の電極部材18、28を網状部材16、26で面状に連結してなる点で同図(a)の本実施形態と共通している。
【0089】
本変形例の第一電極10、第二電極20は、その略中央を面直方向に押圧することで、伏せ椀状(ドーム状)に容易に成形することができる。
【0090】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【0091】
(実施例1)
<導電性フィルム電極の作成方法>
1.炭素電極
辺長15mmの正方形、かつ30μm厚さのポリイミドカプトンフィルムに、孔径30μm、近接3孔ピッチ(孔中心間の距離)正三角形50μmの貫通孔を、リソグラフィーによるパターン印刷とケミカルエッチングを組み合わせて作成した。その後、このポリイミドフィルムを、窒素ガス雰囲気下にて、2000℃、3時間焼成して、炭素化した。これを導電性の電極フィルムとした。焼成後、フィルム厚さ28μm、孔径28μm、近接3孔ピッチ46μmに変化していた。
【0092】
2.電極フィルム片面親水化、片面疎水化
この電極フィルムの水接触角を測定したところ、60°であった。この電極フィルムの孔壁を疎水化するために、まず片面に5nm厚のアルミ膜を、そして、その裏面に、50nm厚のシリカ膜をスパッタ法により形成した。その後、この電極フィルムを、50℃のHMDS(ヘキサメチルジシラザン)雰囲気に3時間曝露した。取り出し後、アルミ膜を38%塩酸にて溶かして除去した。そして、アルミ膜に覆われていた面と、覆われていなかった面の水接触角を測定した。
その結果、アルミ膜に覆われていた部分の水接触角は43°であり、覆われていなかった面の水接触角は120°であった。これにより、アルミ膜に覆われていなかった部分が疎水化されたことが確認された。
また、以下に記す耐水圧測定方法にて、接触角43°の親水性の面を上にして、この電極フィルムの耐水圧を測定したところ、27g/cm以上あることを確認した。
【0093】
3.耐水圧の測定方法
図6に示すホルダ400に、貫通孔を持つ電極フィルム410を水平に載置した。この電極フィルム410上に、透明チューブ420を直立状態で設置した。この透明チューブ420内に水(電解液ES)を徐々に滴下した。そして、この水が貫通孔から漏れ出す直前異時点で、電極フィルム410の表面から液面430までの高さを測定し、この高さと透明チューブ420のチューブ内径から、電極フィルム410の単位面積あたりにかかる圧力を算出した。これを電極フィルム410の貫通孔の耐水圧とした。
【0094】
4.電解装置組み立て
この電極フィルムを、図1および図2に示した電極ホルダ35に装着した。
また、電極間スペーサ32を用意した。電極間スペーサ32は、中心に辺長10mmの正方形の中空部33が空いたポリイミドカプトンフィルム(膜厚:500μm)を用いた。中空部33には、セルロース製の親水性の保液シート50(10mm四方の正方形、乾燥厚さ:50μm、かさ密度:0.075g/cm)を置いた。
そして、もう一方の同様に作成した電極フィルムを電極ホルダ36に装着して、電極ホルダ35と電極ホルダ36とで電極間スペーサ32を挟持してこれらを圧締して電解槽本体110を作成した。
電極フィルム410の対向間隔は、電極間スペーサ32の膜厚の500μmとなった。
尚、これらの電極ホルダ35、36、電極間スペーサ32および電極フィルム410は、使用前に部材ごとに個別に曲げ試験をおこなった。具体的には、これらの部材を、150〜170°の中心角となるまで曲げたところ、ひび割れや破損がないこと、および元の状態に戻る曲げ弾性を有していることを、目視により確認した。
【0095】
5.電解実験
この電解槽本体110に、0.0025ml/minの速度で電解液(25%KOH)を注入した。電解液が充分に満たされ、出口ラインの排液管47から電解液が見られたところでCV(サイクリックボルタモグラム)カーブを測定した。
CVカーブの測定は、電気化学測定システムHZ−3000(北斗電工株式会社製)を使用しておこなった。具体的には、2枚の電極フィルム410を、それぞれ陽極および陰極とし、電圧の印加速度を50mV/sec、印加電圧を0〜2.5Vとして電圧を上げながら、電極フィルム410間に流れる電流値を測定した。結果を図7に示す。
【0096】
ここで、CVカーブにおける電流値が高いほど電解が進んでおり、ガス発生量が多いものと判断した。また、このCVカーブから、印加電圧2.0Vと2.5Vの2点での電流値を読み取り、実験例および後述の実施例と対比した(表3を参照)。
【0097】
(実験例1)
陽極側の電極フィルムのみ、貫通孔なしとした以外は、実施例1と同様の操作をした。
【0098】
(実験例2)
陽極と陰極の電極フィルムを、ともに貫通孔なしとした以外は、実施例1と同様の操作をした。
【0099】
(実験例3)
陽極と陰極の電極フィルムの表面の全体をHMDS雰囲気で曝露し、その水接触角を110°とした以外は、実施例1と同様の操作を行なった。
【0100】
実施例1、実験例1、実験例2、実験例3の結果を図7に示す。この結果より、多孔電極を使用することにより、大幅に電流効率が上昇することを確認した。
【0101】
(実施例2)
電極間スペーサ32の厚みを120μmとし、キュプラ製の親水性の保液シート50(乾燥厚さ:20μm、かさ密度:0.08g/cm)を用いて、実施例1と同様の電解槽本体110を作成した。
次に、この電解槽本体110を、長手方向の中心から120°の中心角となるまで60°だけ面直方向に湾曲させ、凸部を上方として電解槽本体110を横置きに設置した。
【0102】
この状態で、実施例1と同様のCVカーブを3回繰り返し測定した。その結果、電流値の繰り返し安定性を確認した。
【0103】
図8に、3回の測定結果を示す。また、表3に、3回目の測定結果における印加電圧2.0Vと2.5Vでの電流値を示す。
【0104】
(実験例4)
親水性の保液シート50を電極フィルム間に入れない以外は、実施例2と同様に3回の操作を行なった。その結果、測定毎に電流値が低下していくことを確認した。結果を図9に示す。
【0105】
(実施例3)
Ni箔(純度99.99%以上、厚さ5μm)を電極フィルムとし、NC加工機を使用して直径120μm、近接3孔ピッチ(孔中心間距離)240μmの貫通孔を多数加工した。そして、この電極フィルムの片面を濃硫酸にて洗浄した。この洗浄面の水接触角は35°であり、背面の水接触角は120°であった。この電極フィルムを陽極および陰極に用いた。一方、実施例2と同様のキュプラ製の保液シート50を用いて、実施例2と同様の湾曲形状の電解槽本体110を作成した。
この電解槽本体110に電解液(25%KOH)を用いた場合のCVカーブを測定した。その結果、電極フィルムを炭素からNi箔に変更しても、良好に水電気分解が行なわれることを確認した。
【0106】
(実施例4)
表面にITO膜が成膜された、厚さ17μmのPEN(Polyethylene Naphthalate)フィルム(品名OTEC,株式会社トービ製)上に、スパッタ法により白金(Pt)を10nmの膜厚で成膜した。
次に、NC加工機により、孔径120μm、近接3孔ピッチ(孔中心間距離)240μmの貫通孔を作成した。そして、このPt面を電解面として、実施例3と同様の保液シート50を用いて、実施例3と同様の湾曲形状の電解槽本体110を作成し、CVカーブを測定した。
その結果、有機(PEN)フィルム上に金属を成膜した電極フィルムとして使用しても、良好な電解が行なわれることを確認した。
【0107】
(実施例5)
実施例1の電解槽本体110を、長手方向の中心部から、図3に示したように150°の中心角となるまで30°だけ湾曲させた。3組の電解槽本体110を互いに重ねた多層の電解槽を作成してCVカーブを測定した。
その結果、曲面を持つ3層の電解槽においても、良好な電解が行なわれることを確認した。
【0108】
(実施例6)
電極フィルムの間隔を120μmとし、電解液を1Nの硫酸(HSO)に変更し、電解槽本体を長手方向の中心部分から図3に示したように150°の中心角となるまで30°だけ湾曲させた以外は実施例1と同様の装置にて、2.5Vの印加電圧にて、64時間の電解を行なった。その結果、急激な電流値低下が見られず、安定した水電解運転が行なわれることを確認した。尚、この際も、電解槽本体を150°の中心角で湾曲させることによる割れやヒビが発生しないこと、および電解液もれが発生していないことを、電圧の印加前に目視により確認した。
【0109】
上記の実施例1〜6および実験例1〜4に用いた電極フィルム(陽極および陰極)の特性を表1および表2に示す。そして、電極間距離、電極カーブ、保液シートの特性、電解液、および測定結果の電流値を、表3に示す。
【0110】
これらの結果より、親水性の保液シートを電極フィルムの間に介挿することにより、また電極フィルムに貫通孔を設けることにより、良好な電気分解が可能であることが分かった。
【0111】
【表1】

【0112】
【表2】

【0113】
【表3】

【符号の説明】
【0114】
10 第一電極
20 第二電極
12、22 貫通孔
13、23 内壁面
14、24 電解面
15、25 背面
16、26 網状部材
17、27 区画領域
18、28 電極部材
30 電極対
32 電極間スペーサ
33 中空部
35、36 電極ホルダ
351、361 中空凹部
353、363 導線
37、38 ガス回収用ホルダ
371、381 ガス回収室
372、382 平板部
373、383 回収ガス流路
375、385 ガス取出ライン
39 固定ネジ
391 ネジ孔
40 給液部
41、43、44 電解液送液ライン
46 給液管
47 排液管
48 貯液槽
49 送液ポンプ
50 保液シート
51、53、54 電解液排出ライン
60 ガス回収路
62 空隙部
90 給電部
92 シール部材
94 ロール端
100 電解槽
110 電解槽本体
200 ガス生成装置
400 ホルダ
410 電極フィルム
420 透明チューブ
430 液面
ES 電解液
G ガス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ともに面状の第一電極および第二電極が互いに対向して配置された電極対と、前記電極対の間に電解液を供給する給液手段と、を備え、前記電解液を電気分解してガスを生成する電解槽であって、
前記電極対が面直方向に湾曲または屈曲可能な可撓性を有していることを特徴とする電解槽。
【請求項2】
前記電極対の間に、絶縁性の保液シートが挟持されている請求項1に記載の電解槽。
【請求項3】
前記保液シートが、親水性高分子からなる繊維材のシート成形体である請求項2に記載の電解槽。
【請求項4】
前記第一電極または前記第二電極を厚み方向に貫通する貫通孔と、
生成した前記ガスを、前記貫通孔を通じて回収するガス回収路と、をさらに備える請求項1から3のいずれか一項に記載の電解槽。
【請求項5】
前記貫通孔の内壁面が疎水性であり、前記第一電極および前記第二電極のうち前記電解液と接する電解面が親水性である請求項4に記載の電解槽。
【請求項6】
前記電極対の少なくとも一部が三次元的に湾曲または屈曲している請求項1から5のいずれか一項に記載の電解槽。
【請求項7】
前記電極対がロール状に巻成されていることを特徴とする請求項6に記載の電解槽。
【請求項8】
前記第一電極および前記第二電極が、内部に形成された空隙部と、前記空隙部に連通する貫通孔と、をそれぞれ備えることを特徴とする請求項7に記載の電解槽。
【請求項9】
前記第一電極または前記第二電極が、網状部材と、前記網状部材に被着された導電性の電極部材とを含む請求項1から8のいずれか一項に記載の電解槽。
【請求項10】
前記網状部材は、配列された複数の区画領域を備え、
前記電極部材は、厚み方向に貫通する貫通孔を前記区画領域にそれぞれ一つ以上有している請求項9に記載の電解槽。
【請求項11】
前記電極対の曲げ弾性率が0.1MPa以上2000MPa以下である請求項1から10のいずれか一項に記載の電解槽。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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