説明

電解液注入装置

【課題】従来の差圧方式とは違う方式により真空環境下で高精度な注液速度制御を安定的に行う電解液注入装置を提供する。
【解決手段】真空チャンバ1に定量吐出ポンプ2と真空ポンプ3を接続して真空引きした電池容器4内に電解液aを滴下する構成で、定量吐出ポンプ2は真空チャンバ1の前面扉11を貫通して注液管5を垂下し、注液管5の出口にチェック弁6を設けて着脱可能にニードル7を取り付ける。ニードル7の先端は真空チャンバ1内に収容した電池容器4の開口部に臨ませる。真空ポンプ3は真空チャンバ1の側壁を貫通して吸気管8を接続し、吸気管8の途中に真空を開閉する開閉弁9を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池製造工程において高精度・高速度で所定量の電解液を電池電層内に注入する電解液注入装置に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は正極板、負極板、セパレータを交互に積層した構造で、各層の隙間には電解液が存在する。この電解液を介してリチウムイオンが充・放電のたびに正極と負極の間を往来する。このため決められた量の電解液を均等に多層電極材料の隙間に注入することが、電池の特性や寿命を向上する上で重要である。
ところが高密度に積層された極板群の狭い隙間に電解液を浸透させるのは容易でなく、一度に注入できる電解液の量も僅かで、電解液を所定量まで注入するには長時間を要する。
【0003】
電解液の注入方法には、自然落下を利用したものや真空含浸を利用したものが知られている。このうち真空含浸法は、極板群の隙間に存在する空気を気泡として電解液の液面に浮上させるので、自然落下法に比べ、ある程度注液速度を早めることができる。
【0004】
真空含浸法によれば、ある程度注液時間が改善はされるが、自然落下法と同様、極板群の含浸速度よりも注液速度の方が早い場合には、電解液の溢液という現象が起きる。電解液が溢液すると、注液量精度が低下して電池特性に悪く影響するほか、電池容器の外面を電解液で汚染するなどの問題が発生する。反対に、極板群の含浸速度より注液速度の方が遅い場合には、必要以上に注液時間が長くなり生産性が低下する。
そのため真空含浸法、自然落下法のいずれにおいても、高精度・高速注液を実現するためには、注液速度を含浸速度に合わせる制御を行い、極板群に浸透する速度と同じ速度で電解液を注入する必要がある。
【0005】
注液速度を制御する方法としては、特許文献1に、電解液の供給側と受入側の圧力差を調整する方法が開示されている。
特許文献1では、その図3に示すように、最初に注液バルブ20を閉じて、電解液タンク15内と電池ケース40内をそれぞれ所定の真空度に減圧する。次に、両者が所定の真空度に達したら、注液バルブ20を開いて注液を開始する。このとき、電池ケース40内の真空度は電解液タンク15内の真空度より高く設定されており、この圧力差により電解液16の電池ケース40内への注入速度が調整される。この圧力差が大きい場合は、注入速度が速くなり、小さい場合は、遅くなる。なお、注液時に電解液タンク15内の真空度が注入室13より高くなった場合、電解液16の逆流を阻止する逆流弁19が設けられており、圧力差による電解液16の注入を強制的に停止できる電解液遮断機構としての注液バルブ20が設けられている。
【0006】
ここで圧力差を調整する場合、圧力は閉じた空間のどこでも同じで、変化は瞬時に伝わる。そのため制御の時間遅れはほとんど問題にならず、圧力設定が一定の場合、減圧弁だけで正確に制御される。しかし上記の構成において注液バルブ20を開放すると、急激な圧力変化による外乱の影響を受けてオーバシュートし、実際の圧力差と目標値にずれが生じる。また、注液作業の進行に伴って電解液タンク15内の電解液16が減少することから、同じ圧力差でも流速が変化する。このため上記の差圧方式で、高精度な注液速度制御を安定的に行うのは、非常に困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平9−35704号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決しようとする問題点は以上のような点であり、本発明は、従来の差圧方式とは違う方式により、真空環境下で高精度な注液速度制御を安定的に行う電解液注入装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そのため本発明は、大気圧下に設置して電解液を注液する定量吐出ポンプと、真空圧下に設置して前記電解液を受液する電池容器と、前記電解液の注液経路に設置して注液方向のみ開弁するチェック弁とで構成し、前記定量吐出ポンプの単位時間当たり吐出量を設定して注液速度を制御し、注液停止時は前記チェック弁が閉弁して引き込み負圧を阻止し、これより真空環境下で注液速度が制御されたダイレクト注液を可能にしたことを最も主要な特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、従来の圧力差を調整する大まかなやり方と異なり、吐出量をmg単位で制御できる定量吐出ポンプを利用し、その単位時間当たり吐出量を設定して注液速度を制御するので、精密な定量吐出による高精度な注液速度制御を安定的に行えるようになる。また、注液停止時はチェック弁が閉となり、引き込み負圧を阻止するので、定量吐出ポンプが負圧の影響を受けることなく、大気圧下と同じ精度の定量吐出を可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明を実施した電解液注入装置の構成図である。
【図2】本発明を実施した電解液注入工程のプロセスチャートである。
【図3】従来の電解液注入装置の一例を示す断面概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0013】
図1に、本発明を実施した電解液注入装置の構成図を示す。
電解液注入装置は、真空チャンバ1に定量吐出ポンプ2と真空ポンプ3を接続して真空引きした電池容器4内に電解液aを滴下する構成で、定量吐出ポンプ2は真空チャンバ1の前面扉11を貫通して注液管5を垂下し、注液管5の出口にチェック弁6を設けて着脱可能にニードル7を取り付ける。ニードル7の先端は真空チャンバ1内に収容した電池容器4の開口部に臨ませる。真空ポンプ3は真空チャンバ1の側壁を貫通して吸気管8を接続し、吸気管8の途中に真空を開閉する開閉弁9を設ける。
【0014】
真空チャンバ1は、大気開放ポートを開放し、前面扉11を閉じて密閉する。また、前面扉11を開いて中の電池容器4を出し入れする。前面扉11の開閉は手動・自動のいずれで行ってもよい。
【0015】
定量吐出ポンプ2は、中空のシリンジ21内に往復動可能なプランジャ22を挿嵌し、モータでプランジャ22を押し出し、シリンジ21内に採取した電解液aをmg単位の精度で定量吐出する。
電解液aの注液速度は、単位時間当たり吐出量を設定して決定し、吐出量はプランジャ22の押し出し量を設定して決定する。
従って、最終的に単位時間当たりプランジャ22の押し出し量を、あらかじめ計測した電解液の電池電槽内への含浸速度と同じになるよう設定する。
【0016】
チェック弁6は、定量吐出ポンプ2の吐出圧力がクラッキング圧力(通しはじめの圧力)を超えると開弁し、定量吐出ポンプ2を停止すると吐出圧力が消滅して直ちに閉弁する。
従って、注液時以外は常に閉じた状態になるので、注液を停止しても引き込み負圧がブロックされ、負圧の影響を受けることなく、大気圧下と同じ精度で定量吐出が可能になる。
【0017】
図2に、本発明を実施した電解液注入工程のプロセスチャートを示す。
電解液注入工程は、最初に真空チャンバ1の前面扉11を開いて大気圧下でチャンバ内にワーク(電池容器4)をセットし、前面扉11を閉じてチャンバ内を密閉する(S1)。
次に開閉弁9を開いて真空ポンプ3を作動し、チャンバ内を真空引きする(S2)。
次に開閉弁9を閉じて真空ポンプ3を停止し、チャンバ内を真空状態にする(S3)。
次に定量吐出ポンプ2を作動し、注液を開始する(S4)。
次に定量吐出ポンプ2を停止し、注液を終了する(S5)。
次に真空チャンバ1の前面扉11を開いて大気開放し、電池容器4内の残留気体を収縮させて容器内より抜きやすくする(S6)。
【符号の説明】
【0018】
1 真空チャンバ
11 前面扉
2 定量吐出ポンプ
21 シリンジ
22 プランジャ
3 真空ポンプ
4 電池容器
5 注液管
6 チェック弁
7 ニードル
8 吸気管
9 開閉弁
13 注入室
15 電解液タンク
16 電解液
19 逆流弁
20 注液バルブ
40 電池ケース
a 電解液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
大気圧下に設置して電解液を注液する定量吐出ポンプと、
真空圧下に設置して前記電解液を受液する電池容器と、
前記電解液の注液経路に設置して注液方向のみ開弁するチェック弁と、
で構成し、
前記定量吐出ポンプの単位時間当たり吐出量を設定して注液速度を制御し、
注液停止時は前記チェック弁が閉弁して引き込み負圧を阻止し、
これより真空環境下で注液速度が制御されたダイレクト注液を可能にしたことを特徴とする電解液注入装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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