説明

電解溶質として有用な新規な物質

【課題】電解溶質として有用な新規な物質を得ること。
【解決手段】本発明は、オニウム系陽イオンが正電荷をもつN、O、S又はPのようなヘテロ原子の少なくとも1種を有し、陰イオンが全部又は一部に式(FX1O)N-(OX2F)(式中、X1及びX2は同じか又は異なり、SO又はPFである。)を有するイミダイドイオンの少なくとも1種を含む、融点の低い新規なイオン化合物、及び電気化学装置における溶媒としてのその使用に関する。前記化合物は、アニオン電荷が非局在性である塩を含み、特に、電解質として用いられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、陰イオン電荷が非局在性である塩を含む、イオン伝導性の高いイオン組成物、及び電解質としてのその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
硝酸トリエチルアンモニウム等の室温溶融塩は前々から知られている。その生成物は、脱離プロトンが陽イオン上に存在することから化合物のレドックス又は酸性-塩基性安定領域を制限する以外は興味深いものではない。錯イオン[Cl-, xAlCl3](1<x<2)に結合したメチルエチルイミダゾリウム系又はブチルピリジニウム系化合物も知られている。それらの化合物は、塩化アルミニウムが存在することから強力なルイス酸であり、吸湿性であり、湿度の存在下に塩酸を生成することから腐食性である。それらの電気化学安定領域は、一方においては塩素イオンの陽極酸化、及びもう一方においてはアルミニウムイオンの還元によって制限される。
【0003】
イミダゾリウム系又はピリジニウム系陽イオンに通常は安定に結合した陰イオンの使用が提案されたが、融点が比較的高い。例えば、1-メチル-3-エチルイミダゾリウムヘキサフルオロホスフェートは60℃で溶融し、1,2-ジメチル-3-プロピルイミダゾリウムヘキサフルオロホスフェートは65℃で溶融する。更に、これらの塩は、吸湿性ではないが水に可溶であるので長いアルキル置換基を用いない限り水中でのイオン交換によって調製されることは難しく、伝導度の強い低下や高粘度を生じる。
【0004】
米国特許第5,827,602号明細書には、選定基準が100Å3より大きい陰イオン体積であるので伝導性及び疎水性の高い塩を得ることができる比較的低い融点をもつ塩が記載されている。最も代表的な陰イオンは、Hyperchem(登録商標)プログラムによる体積計算値が144Å3であるビストリフルオロメタンスルホンイミダイド、又は体積が206Å3であるトリストリフルオロメタンスルホニルメチリドである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第5,827,602号明細書
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明の要約
本発明は、融点の低い、好ましくは室温より低いイオン化合物であって、その陽イオンがオニウム系であり正電荷をもつN、O、S又はPのようなヘテロ原子の少なくとも1種を有し、その陰イオンが全部又は一部に式(FX1O)N-(OX2F)(式中、X1及びX2は同じか又は異なり、SO又はPFである。)を有するイミダイドイオンの少なくとも1種を含む、前記化合物に関する。更に詳細には、オニウム系陽イオンは下記式を有する化合物
【化1】

下記式を有する化合物
【化2】

下記式を有する化合物
【化3】

下記式を有する化合物
【化4】

(式中、WはO、S又はNであり、ここで、Nは原子価が許容する場合にR1で置換されていてもよく;
R1、R3、R4は同じか又は異なり、
H;
アルキル、アルケニル、オキシアルキル、オキシアルケニル、アゾアルキル、アゾアルケニル、チオアルキル、チオアルケニル、ジアルキルアゾ、これらの各々は直鎖、分枝鎖又は環状であり、炭素原子1〜18個を含む;
ヘテロ原子を1個以上含む側鎖の少なくとも1種を含んでいてもよい炭素原子4〜26個を有する環式又は複素環式脂肪族基;
窒素、酸素、イオウ又はリンの原子を1個以上含んでもよい縮合した又は縮合していない数個の芳香核又は複素環核を含む基
であり;
R1、R3又はR4の2つの基は炭素原子4〜9個を有する環又は複素環を形成してもよく、同じ陽イオン上のR1、R3又はR4の1つ以上の基は高分子鎖の一部でもよく;
R2及びR5〜R9は同じか又は異なり、R1、R1O-、(R1)2N-、R1S-であり、R1は上で定義した通りである。)
を含む。
【0007】
本発明は、更に、上で定義したイオン化合物の少なくとも1種を金属塩、極性ポリマー及び/又は無プロトン性共溶媒を含む他の成分の少なくとも1種と共に含む電解質組成物を含む。
【発明を実施するための形態】
【0008】
発明の詳細な説明
上で定義した一般式(FX1O)N-(OX2F)で表される系の陰イオンに結合した上で定義したオニウム系カチオン塩、好ましくはイミダゾリウム、アンモニウム、スルホニウム及びホスホニウム塩は、大きなイオンで得られるものと同じか又は低い温度で液体塩を得ることができることがわかった。更に、その伝導度は全ての場合に同じ温度において米国特許第5,827,602号に記載された化合物より優れている。これらの液体塩は、アニオンサイズが小さく85〜92Å3であるとしても疎水性であるので、水中でのイオン交換で容易に調製され、特に注意することなく処理される。予想外に、これらの塩は、ビス(トルフルオロメタンスルホンイミダイド)又はトリ(トリフルオロメタンスルホニル)メチリド陰イオンと同じである、及びテトラフルオロボレート系又はヘキサフルオロホボレート系の陰イオンで得られるものより高い酸化安定性を示す。
【0009】
上記イミダイド陰イオンのほかに本発明の化合物は、Cl-; Br-; I-; NO3-; M(R10)4-A(R10)6-; R11O2-、[R11ONZ1]-、[R11YOCZ2Z3]-、4,5-ジシアノ-1,2,3-トリアゾール、3,5-ビス(RF)-1,2,4-トリアゾール、トリシアノメタン、ペンタシアノシクロペンタジエン、ペンタキス(トリフルオロメチル)シクロペンタジエン、バルビツール酸及びメルドラム酸誘導体及びその置換生成物
(式中、MはB、Al、Ga又はBiであり;
AはP、As及びSbであり;
R10はハロゲンであり;
R11はH、F、アルキル、アルケニル、アリール、アリールアルキル、アルキルアリール、アリールアルケニル、アルケニルアリール、ジアルキルアミノ、アルコキシ又はチオアルコキシであり、各々が炭素原子1〜18個を有し、置換されていないか又はオキソ、チオ、又はアゾ置換基の1種以上で置換され、1個以上の水素原子がハロゲンで0〜100%の割合で置換されてもよく、最終的にはポリマー鎖の一部であり;
YはC、SO、S=NCN、S=C(CN)2、POR11、P(NCN)R11、P(C(CN)2R11、炭素原子1〜18個を有し、オキソ、チオ又はアゾの1種以上で置換されていてもよいアルキル、アルケニル、アリール、アリールアルキル、アルキルアリール、アリールアルケニル、アルケニルアリール; ジアルキルアミノ基N(R10)2であり;
Z1〜Z3は独立してR11、R11YO又はCNであり、ポリマー鎖の一部でもよい。)
より選ばれた他の陰イオンの少なくとも1種を含んでもよい。
【0010】
本発明の化合物の他の利点は、出発陰イオンが低コストであること、調製にCF3又はC4F9のようなペルフルオロアルキル化学を必要としないこと、例えば、本発明の化合物に存在するフッ素原子が無機化学生成物から誘導されること、即ち、容易に得られることである。この経済的な態様は、溶融塩が40〜75重量%のアニオン化学種を含み、残りがカチオン化学種であることから特に重要である。更に、これらの液体の濃度は有機溶液の約1に比べて1.5に近く、電解質皮膜、化学反応体等の容積又は一定の厚さが必要な全ての用途については更に重要な量の塩が必要である。
本発明の他の特に重要な態様は、高度に伝導性の溶液を得るためにこれらの溶融塩が他の塩、特に金属塩、例えば、リチウム塩を溶解する可能性である。同様の方法で、溶融塩、又は他の金属塩との混合物は、多くのポリマー、特に極性又はイオン機能をもつものの優れた溶媒又は可塑剤である。固体電解質のようにふるまうイオン混合物によって可塑化された液体化合物やポリマーは、電気化学においては一次又は二次タイプの発生器、超大型容量、エレクトロクロミック装置、静電防止コーティング、又はエレクトロルミネセンスダイオードに適用できる。本発明の溶融塩の非揮発性、熱及び電気化学安定性、及び高伝導性は、低温で作用し従来の有機溶媒の使用に伴う引火性の通常の危険のない装置の製造の重要なパラメーターである。
【0011】
本発明の溶融塩は、低揮発性の極性媒体であり、このことから求核置換又は親電子置換、又はアニオン又はカチオン又はラジカル重合のような多くの有機化学反応を行うために溶媒として用いることができる。また、かかる媒体に触媒を溶解することができ、特に遷移金属塩又は希土類塩が最終的にはリガンドと配位し、触媒特性を高める。かかる触媒の例としては、ビピリジン、ポルフィリン、ホスフィン、アルシンが挙げられる。メタロセンのような有機金属化合物は、触媒特性を示すことができる溶質として含まれる。
溶融塩の非揮発性、熱安定性及び炭化水素のような非極性溶媒との非混和性、及び疎水性は、化学反応生成物を分離するのに特に有利である。二相系、触媒を含む溶融塩と炭化水素又は非混和性脂肪族エーテルに溶解したものに適用することができる。反応後、簡単な傾瀉により反応生成物と溶融塩を含む有機相が分離され、これを水又は炭化水素のような非溶媒で洗浄することにより精製し、簡便な真空法で乾燥する。
【0012】
アンモニウム、ホスホニウム及びスルホニウム陽イオンは光学異性体を有し、それらを含む溶融塩は媒体中で行なわれる反応においてエナンチオマー過剰量の形成に感受性のある又は容易であるキラル溶媒である。本発明の好ましい陽イオンは、下記式を有する化合物
【化5】

例えば、イミダゾリウム、チアゾリウム、及びオキサゾリウム誘導体;
下記式を有する化合物
【化6】

例えば、トリアゾリウム、オキシジアゾリウム、及びチアジアゾリウム;
下記式を有する化合物
【化7】


下記式を有する化合物
【化8】

(式中、WはO、S又はNであり、ここで、Nは原子価が許容する場合にR1で置換されていてもよく;
R1、R3、R4は同じか又は異なり、
H;
アルキル、アルケニル、オキシアルキル、オキシアルケニル、アゾアルキル、アゾアルケニル、チオアルキル、チオアルケニル、ジアルキルアゾ、これらの各々は直鎖、分枝鎖又は環状であり、炭素原子1〜18個を含む;
窒素、酸素又はイオウのようなヘテロ原子を1種以上含む側鎖の少なくとも1種を含んでいてもよい炭素原子4〜26個を有する環式又は複素環式脂肪族基;
芳香核にヘテロ原子を1個以上含んでもよい炭素原子5〜26個を有するアリール、アリールアルキル、アルキルアリール及びアルケニルアリール;
窒素、酸素、イオウ又はリンの原子を1種以上含んでもよい縮合した又は縮合していない数個の芳香核又は複素環核を含む基
であり;
R1、R3又はR4の2つの基は炭素原子4〜9個を有する環又は複素環を形成してもよく、同じ陽イオン上のR1、R3又はR4の1つ以上の基は高分子鎖の一部でもよく;
R2及びR5〜R9は同じか又は異なり、R1、R1O-、(R1)2N-、R1S-であり、R1は上で定義した通りである。)
を含む。
【0013】
R1、R3又はR4は二重結合又はエポキシドのような重合において活性な基、又はOH、NH2又はCOOHのような縮重合において活性な官能基をもってもよい。カチオンが二重結合を有する場合、単独重合又は、例えば、フッ化ビニリデン、アクリレート、マレイミド、アクリロニトリロ、ビニルエーテル、スチレン等と共重合される。エポキシド基は、縮重合又は他のエポキシドと共重合される。これらのポリカチオンは、リチウム陽極又はチタンスピネル又はカーボネート材料のような低電位のリチウムを挿入する陰極を用いるリチウムバッテリー中の電解質として本発明の溶融塩及び/又は1種以上のリチウム塩又はリチウム塩とカリウム塩の混合物を含む単独で又は溶媒との混合物として特に有効である。
本発明は、更に、上で定義した陰イオンの少なくとも1種及び陽イオンの少なくとも1種を含むイオン化合物の少なくとも1種を金属塩、極性ポリマー及び/又は非プロトン性共溶媒を含む他の化合物の少なくとも1種と共に含む電解質組成物に関する。金属塩の好ましい陽イオンは、プロトン、アルカリ金属陽イオン、アルカリ土類金属陽イオン、遷移金属陽イオン、希土類金属陽イオンを含み、リチウムが特に好ましい。
【0014】
好ましい極性ポリマーは、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、エピクロロヒドリン、エピフルオロヒドリン、トリフルオロエポキシプロパン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリル酸及びメタクリル酸のエステル及びアミド、フッ化ビニリデン、N-メチルピロリドン及びポリカチオン又はポリアニオンの高分子電解質から誘導されたモノマー単位を含む。更に、好ましい非プロトン性共溶媒の例としては、重量が400〜2000であるエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコールのジアルキルエーテル; エステル、特に、ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネートのような直鎖又は環状炭酸エステル; γ-ブチロラクトンのようなエステル、グルタロニトリルのようなニトリル、1,2,6-トリシアノヘキサン、ジメチルホルムアミドのようなアミド、N-メチルピロリジノン、スルファミド及びスルホンアミド及びその混合物が挙げられる。
【0015】
本電解質組成物が1種以上のポリマーを含む場合、それらの少なくとも1種は架橋される。
本発明の電解質組成物を含む電気化学発生器は、好ましくはリチウム金属又はその合金か又は炭素挿入化合物、特に石油コーク又はグラファイト、又はチタンスピネルLi4-x+3yTi5-xO12(0≦x、y≦1)のような低電位挿入オキシド、又はLi3-xCozN(0≦z≦1)のような遷移金属とリチウム又はLi3FeN2又はLi7MnN4のようなアンチフルオライト系構造を有する複ニトリド、又はその混合物を有する負極を含む。発生器の正極は、好ましくは酸化バナジウムVOx(2≦x≦2.5)、リチウムとバナジウムの混合酸化物LiV3O8、一般式Li1-αCo1-x+yNixAly(0≦x+y≦1; 0≦y≦0.3; 0≦α≦1)を有する部分的に置換されていてもよいコバルトとリチウムの複酸化物、一般式Li1-αMn2-zMz(0≦z≦1)(M=Li、Mg、Al、Cr、Ni、Co、Cu、Ni、Fe)を有する部分的に置換されていてもよいマンガンスピネル; Li1-αFe1-xMnxPO4、Li1-x+2αFe2P1-xSixO4(0≦x、α≦1)のようなカンラン石又はナジコン構造の複リン酸塩、ロジゾン酸、ジメルカプトエタン2,5-ジメルカプト-1,3,4-チアジアゾール、2,5-ジメルカプト-1,3,4-オキサジアゾール、1,2-ジメルカプトシクロブテン-3,4-ジオンの酸化から誘導されたポリジスルフィド、又はその混合物を含む。
有利には、発生器の電極の少なくとも1種は複合電極を形成するために電解質組成物と混合される。
【0016】
本発明の電解質組成物は、電極中比表面の大きい炭素、又は共役ポリマーを含んでもよい超大型容量タイプの電気エネルギー蓄積装置内の電解質として用いられる。有利には、共役ポリマーは酸化数3を含み、両電極に見られる。そのようなポリマーの例は、フェニル-3-チオフェンの誘導体である。
更に、本発明の電解質組成物は、エレクトロクロミック材料を少なくとも1種含むエレクトロクロミック型の光変調装置内の電解質として用いられる。かかる装置においては、エレクトロクロミック材料は、有利には、ガラス又はポリマー基板上の目に見える、好ましくは酸化スズ又は酸化インジウム誘導体の透明な半導体層上に堆積される。好ましいエレクトロクロミック材料の例としては、モリブデン、タングステン、チタン、バナジウム、ニオブ、セリウム、スズの酸化物、及びその混合物が挙げられる。エレクトロクロミック材料は、電解質に溶解されてもよい。
下記の実施例は、本発明の好適実施態様を具体的説明するために示され、本発明の範囲を制限するものとして解釈すべきではない。
【実施例】
【0017】
実施例1
15gの1-メチル-3-エチルイミダゾリウムクロリドEMICl(C6H11N2Cl)を100mlの水に溶解し、これに23gのビスフルオロスルホンイミダイドカリウム(KFSI) K[(FSO2)2N]を加える。2液相の分離が直ちに得られる。1-メチル-3-エチルイミダゾリウムビスフルオロスルホンイミダイド(EMIFSI)をジクロロメタンで抽出し、無水硫酸マグネシウムで乾燥する。懸濁液をろ過し、溶媒を蒸発させる。塩を減圧下で80℃で乾燥する。これは下記の展開式に相当する。
【化9】

DSCによって試験したこのイオン化合物は融点-15℃を示す。アルゴン下示差熱分析により測定した重量の減少は350℃まで1%より少ない。伝導度及び温度関数を下記表1に示す。
【0018】
【表1】

【0019】
伝導度は、1-メチル-3-エチルイミダゾリウムビストリフルオロメタンスルホンイミダイド塩(EMITFSI)で得たものより大きい。本発明の塩、即ち、1-メチル-3-エチルイミダゾリウムフルオロスルホンイミダイド(表ではFSIと記載)と1-メチル-3-エチルイミダゾリウムビストリフルオロメタンスルホンイミダイド(表ではTFSIと記載)間の伝導度値σの比率を表1の最後の行に示す。これらの数字により、従来技術に対して伝導性の性能が顕著に向上していることがわかる。
陽極電位のガラス質炭素中陰極電位のニッケル電極についてサイクリックボルタンメトリーによって測定した電気化学安定領域は5.2ボルトである(Li+/Lioに対して0⇒5.2V)。
【0020】
実施例2
Fluck & Beuerle, Z. Anorg. Allg. Chem., 1975, 412, 65の方法に従ってオキシフッ化リンに対してヘキサメチルジシラザンのリチウム誘導体を下記の反応に従って反応させることによりリチウムビスジフルオロホスホニルアミダイドLi[(POF2)2N]を調製する。
2POF3 + Li[Si(CH3)3]2N ⇒ 2FSi(CH3)3 + Li[POF2]2N]
10gの1-メチル-3-エチルイミダゾリウムクロリドと13gのLi[POF2]2N]間で実施例1に従って水中でイオン交換し、ジクロロメタンで抽出することにより、溶融イオン塩1-メチル-3-エチルイミダゾリウムビスジフルオロホスホニルイミダイドを調製する。溶融塩は、実施例1のフルオロスルホニルと同様の物理的/化学的性質を有する。
【0021】
実施例3
陰イオン[(FSO2)2N]-と[(POF2)2N]-を用いて下記式を有する種々のイミダゾリウム
【化10】

を調製し、下記表2に示す。記号“+”を有するものは室温で液体塩である。
【0022】
【表2】

【0023】
実施例4
10gの市販のアンモニウムトリエチルヘキシルブロミド(C12H28NBr)を150mlの水に溶解し、これに8.5gのカリウムビスフルオロスルホンイミダイド[K(FSO2)2N]を撹拌によって加える。溶融塩トリエチルヘキシルアンモニウムビスフルオロスルホンイミダイドを遠心分離により分離し、3分割量の50mlの水で洗浄し、30mlのジクロロメタンで抽出し、無水硫酸マグネシウムで乾燥する。懸濁液をろ過し、溶媒を蒸発させ、粘稠な液体を得る。25℃における伝導度は5×10-4Scm-1、25℃より大きい。
【0024】
実施例5
10gの市販のジメチルエチルアミン及び11mlのブロモ-1-プロパンを40mlのアセトニトリル中で48時間還流する。次に、溶媒を蒸発し、固体残留物をエーテルで洗浄する。75mlの水に溶解した12gの塩(CH3)2(C2H5)(C3H7)NBrに13gのカリウムビスフルオロスルホンイミダイド[K(FSO2)2N]を加える。溶融塩を上記のように抽出して低粘性の液体を得る。種々の温度に対する伝導度を下記表3に示す。
【0025】
【表3】

【0026】
比較のためにジメチルエチルプロピルアンモニウムビストリフルオロメタンスルホンイミダイド塩の伝導度を示す(表3、第3行)。本発明の化合物の伝導度は、大きな陰イオンを有する等価塩の約2.5〜2倍である。
【0027】
実施例6
N-メチル-N-エチルアニリンをアセトニトリル中還流下ブロモプロパンで48時間四基化する。溶媒を蒸発させることにより塩を得、固体残留物をエーテルで洗浄することにより精製する。5gの得られた塩を25mlの水に溶解し、4.6gのカリウムビスフルオロスルホンイミダイド(K(FSO2)2N)を加える。溶融塩メチルエチルプロピルフェニルアンモニウムビスフルオロスルホンイミダイドを15mlのジクロロメタンで抽出し、3分割量の50mlの水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥する。塩は2つの光学異性体として存在し、イミダイドと交換する前にキラルカラムで分離されるか又はカンファスルホネート塩をブロミドで沈殿させることにより分離される。塩はキラル反応媒体中で用いられる。
【0028】
実施例7
ブロモブタンをピリジンに対して溶媒を存在させずに45℃で反応させることによりN-ブチルピリジニウムブロミドを調製する。35mlの水に溶解した5gのこの塩に4.6gのリチウムビスジフルオロホスホニルイミダイトLi[(POF2)2N]を加える。液体塩を上記実施例で得た溶融塩と同様の方法で処理し、最後に減圧下で60℃で乾燥する。対応するカリウム塩から同様の方法でN-プロピルピリジニウムビスフルオロスルホンイミダイドの溶融塩を調製する。
【0029】
実施例8
市販のエチルスルフィド(Aldrich)を硫酸プロピル(TCI)で四基化する。ジエチルメチルプロピルスルホニウムプロピルスルフェートを1当量のカリウムビスフルオロスルホンイミダイドで水溶液中で処理する。溶融塩を上記のように抽出する。実施例4と同様の方法で、塩は2つの光学活性異性体に分離され、これを用いて塩が溶媒として用いられる場合に行なわれる反応のエナンチオマー過剰を誘導する。
【0030】
実施例9
15gの市販の4-クロロピリジン塩化水素塩を100mlの水に溶解し、これに8.5gの重炭酸ナトリウムを加える。4-クロロピリジンをエーテルで抽出し、硫酸マグネシウムで乾燥し、溶媒を蒸発させる。60mlのアセトニトリル中10gの4-クロロピリジンを15.6gのエチルトリフルオロメタンスルホネートで四基化し、11.6gのトリメチルシリルエチルメチルアミンC2H5(CH3)NSi(CH3)3を加える。反応媒体を1時間還流してから冷却する。溶媒を蒸発させ、固体残留物を水に入れる。この溶液に19.5gのカリウムビスフルオロスルホンイミダイドを加える。傾瀉する液体塩をジクロロメタンで抽出する。その塩は下記の構造を有する。
【化11】

【0031】
実施例10
下記の反応に従ってフルオロスルホン酸無水物(15g)とカルバミン酸アンモニウム(12g)とをジクロロメタン中で懸濁したものとして反応させることによりフルオロスルホンアミドFSO2NH2を調製する。
(FSO2)2O + 1.5 H2NCO2(NH4)⇒FSO3(NH4)+1.5 CO2 + FSO2NH(NH4)
反応媒体をろ過する。アミドFSO2NH2を希釈した塩酸で分離し、エーテルで抽出する。フルオロスルホンアミドのナトリウム誘導体のトリメチルシリル化誘導体をForopoulousら, Inorganic Chem., 1984, 23, 3720の方法に従って調製する。パー(登録商標)反応器中で80mlの無水アセトニトリルと10gのフルオロスルホンアミド誘導体とを混合する。反応器を密閉し、窒素下でパージし、温度を45℃に維持しながら5.38gのホスホリルフルオリドPOF3を加える。1時間後圧力を下げ、反応器を冷却し、開放する。混合イミドのナトリウム塩を下記反応に従って得る。
NaNSi(CH3)3SO2F + POF3 ⇒ Si(CH3)3 + Na[(F2PO)(FSO2)N]
溶媒を蒸発させトルエン-アセトニトリル混合液中で再結晶して塩を回収する。この塩は実施例3のイミダゾリウムを含む液体イオン誘導体を示し、液体領域がビストリフルオロメタンスルホンイミダイドより広く伝導度が10〜25%だけ高い。
【0032】
実施例11
水中塩化ジアリルジメチルアンモニウム(65%)の25mlの市販の溶液を100mlに希釈し、撹拌しながら22gのカリウムビスフルオロスルホンイミダイドを加える。液体沈降物をジクロロメタンで抽出し、硫酸マグネシウムで乾燥する。この溶融塩は下記式を有する。
【化12】

【0033】
ラジカル重合において活性なモノマーのように振る舞い環化重合によってジメチルピロリジニウムビス(3,5-メチレン)パターンを形成する。この化合物は、ホモポリマーのほかにスチレン、マレイン酸無水物、N-マレイミド、フッ化ビニリデン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、メチルメタクリレート、重量が200〜2000ダルトンであり、最後にはα,ω-オリゴエチレングリコールのジアクリレート又はメタクリレートで架橋されるω-メトキシオリゴエチレングリコールのアクリレート又はメタクリレートとのコポリマーを得る。
【0034】
実施例12
臭素漏斗及び乾燥アルゴン入口を含むフラスコ中で5gの五塩化リンを50mlのジクロロメタンに溶解する。混合液をドライアイスで-78℃に冷却し、30mlの無水アセトニトリル中20mlのメチルエチルアミンを臭素漏斗によって滴下する。反応媒体を室温に達するまで1時間撹拌しながら維持する。次に、溶媒を蒸発させ、残留物を75mlの水で洗浄し、セライト(登録商標)でろ過する。この溶液に5.5gのカリウムビスフルオロスルホンアミドを加える。反応媒体は2液相に分離する。テトラキス(エチルメチルアミノ)ホスホニウムの溶融塩{P[N(CH3)(C2H5)]4}+ [(FSO2)2N]-は室温で油状の液体である。この溶融塩は、高温でさえ還元剤又は求核剤に対して特に安定である。
【0035】
実施例13
高分子量(MW 約2×105)の25%のポリ塩化(ジアリルジメチルアンモニウム)の20gの市販の水溶液を100mlの水で希釈する。磁気撹拌しながら100mlの水中6.7gのカリウムビスフルオロスルホンイミダイドを加える。次に、ポリ(ジアルリルジメチルアンモニウムビスフルオロスルホンイミダイド)の沈降物
【化13】

をろ過し、蒸留水で十分に洗浄してから減圧下で乾燥する。
【0036】
実施例14
リチウムビストリフルオロメタンスルホニルイミダイド(LiTFSI)を実施例1で調製した溶融塩に1モル濃度で溶解することにより液体電解質を得る。この混合液の伝導度は25℃で9×10-3Scm-1であり、0℃で2×10-3Scm-1より大きいままである。サイクリックボルタメトリーにより見られたアニオン領域は5V/Lio/Li+より優れている。
【0037】
実施例15
実施例13の高分子電解質を実施例14のイミダゾリウム中リチウム塩の溶液で可塑化することにより固体電解質を得る。この電解質を成形するために次の比率: 高分子電解質(40重量%); LiTFSI、イミダゾリウム塩中1M(60重量%)に従って3成分(高分子電解質-FSI、イミダゾリウム-FSI、LiTFSI)を計量する。3成分をアセトニトリルのような揮発性極性溶媒に溶解し、溶媒量は乾燥後にポリプロピレン支持体上に35μmの厚さを与える薄膜として溶液を展ばすことができるように調整する。
このようにして得られた膜を乾燥空気で乾燥してから100℃で2時間一次減圧下におく。この膜の以後の取り扱いは全てグローブボックス(<1ppm O2及びH2O)で行なわれる。この電解質の伝導度は20℃で10-3Scm-1; 0℃で4×10-4Scm-1; 及び60℃で3×10-3Scm-1である。伝導度の高い電解質は、可塑剤の部分(>60%)、即ち、実施例1の溶融塩のLiTFSIの溶液を上げることにより得られる。同様の方法で、伝導性が低下した可塑剤部分<50%については高い弾性率が得られる。
【0038】
実施例16
金属塩-ポリエーテル複合体を40重量%の実施例2のアニオン化合物で可塑化することにより高伝導度のポリマー電解質が得る。複合体は、分子量5×106のポリ(エチレンオキシド)のリチウムビストリフルオロメタンスルホンイミダイドを含み、そのリチウムイオンの数に対するポリマーの酸素原子の比率は20である(O:Li = 20:1)。化学量論比率に従って計量した成分をアセトニトリルのような溶媒に同時溶解し、蒸発に続いて減圧下80℃で乾燥することにより直接電解質を調製する。
変法としては、エチレンオキシドホモポリマーがエチレンオキシドとアリルグリシジルエーテル(5モル%)のコポリマーで置き換えられ、これに1重量%のIrgacure 651(登録商標)を添加する。アセトニトリル中のこの溶液はポリプロピレン支持体上に広がり乾燥後に20ミクロンの厚さの膜を形成する。アルゴン掃引下に254nmにおける発光が最大のHanovia(登録商標)型ランプによって生成したUV線にその膜を供する。照射は130mWcm-2に相当する。ポリマーは、不飽和セグメントでラジカル法によって架橋し、優れたエラストマー型機械的性質を示す。三元混合物溶融塩/リチウム塩/ポリマーは高分子物質としてアクリロニトリル; ポリ塩化ビニリデン及びヘキサフルオロプロペン、特にアセトンに可溶であり容易に具体化されるものとのコポリマー; 又はポリメチルメタクリレートを用いて同様の方法で得られる。
【0039】
実施例17
実施例11のモノマー(25重量%)、リチウムビストリフルオロメタンスルホンイミダイド(24%)と実施例1の溶融塩(45%)の混合物、及び1%のラジカル開始剤をその場重合することによりポリマー電解質を調製する。
【化14】

市販の塩化物(Wako)とK(FSO2)2N)から水中で交換することによりこの開始剤を得る。液体混合物をポリプロピレン支持体上に厚さ30ミクロンの膜として展ばし、窒素雰囲気下トンネルオーブン内で80℃で1時間重合する。このように得られた電解質はアノード安定領域が5Vより大きく、伝導度が25℃で3×10-4Scm-1より大きいエラストマーである。
【0040】
実施例18
正極の活性物質としてコバルトとリチウムの複酸化物LiCoO2、及び負極の活性物質としてチタンとリチウムスピネルの複酸化物Li4Ti5O12を用いて電気化学二次発生器を製造する。電解質を実施例14に従って25ミクロン膜として調製する。複合タイプの各電極をシクロヘキサン中エチレン-コプロピレンジエンのコポリマーの溶液中活性物質(Ketjenblack(登録商標))の懸濁液を展ばすことにより調製する。最終組成物は、90容量%の活性物質、5v/v%のカーボンブラック及び5%のコポリマーに相当する。厚さが8ミクロンのアルミニウム集電装置上に展ばした後、負極は16.4mg/cm2の活性物質(2.9mAhcm-2)を含み、正極は16.5mg/cm2の活性物質(2.7mAhcm-2)を含む。電極と集電装置を4cm2の四角に切り、実施例14で調製した液体電解質で湿らせた微孔性ポリエチレン膜(Celgard(登録商標))の両側に置く。このように組立てたバッテリーを、MacPile(登録商標)型装置(Claix France)によるスローボルタンメトリーにより確認する。正極の容量の92%は、10mV.mn-1の掃引速度において2〜2.8Vが電圧領域内で得られる。この器機構成におけるエネルギー密度は85Wh.kg-1である。
【0041】
実施例19
正極の活性物質として鉄ドープしたマンガンとリチウムの複リン酸塩LiMn0.9Fe0.1PO4、及び負極の活性物質としてチタンとリチウムスピネルLi4Ti5O12用いて電気化学二次発生器を製造する。電解質を実施例15に従って25ミクロン膜として調製する。複合タイプの各電極を45容量%の活性物質、55v/v%のカーボンブラック(Ketjenblack(登録商標))とアセトニトリル中実施例12による電解質成分の溶液(50v/v%)の懸濁液を展ばすことにより調製する。アルミニウム集電装置の厚さは8ミクロンである。正極集電装置をグラファイト(Acheson)の保護コーティングで被覆する。展ばした後、負極は12mg/cm2の活性物質(2.2mAhcm-2)を含み、正極は14mg/cm2の活性物質(2.4mAhcm-2)を含む。電極と集電装置を4cm2の四角に切り、電極の両側に置き、境界面で良好な接触を行わせるために組立を80℃で積層する。このように組立てたバッテリーをスローボルタンメトリーにより確認する。正極の容量の92%は、10mV.mn-1の掃引速度において2〜2.8Vが電圧領域内で得られる。この器機構成におけるエネルギー密度は100Wh.kg-1に近い。
【0042】
実施例20
900m2g-1の活性炭素繊維(Spectracarb(登録商標))の電極から超大型容量を得る。炭素繊維で2枚の4cm2の四角を切り、減圧下実施例1に調製した電解液で湿らせる。対称の両電極を減圧下同じイオン液で湿らせた多孔性ポリエチレン膜(Celgard(登録商標))で分ける。両集電装置は、5000Åのモリブデンの保護層を陰極噴霧することにより被覆した10μmのアルミニウムである。2.8Vの最大充電電圧に対する体積容量は1.2Vの閾値電圧において12Fcm-3(3Wh.L-1)である。
【0043】
実施例21
実施例1のイミダゾリウム塩をイットリウムビストリフルオロメタンスルホンイミダイドの溶媒として0.1Mの濃度で用いる。この液体をシクロペンタジエンとメチルアクリレートとのディールスアルダー反応に触媒として用いる。試薬を化学量論量で混合し、30v/v%のイオン液を加える。撹拌によって反応は25℃で1時間完結する。反応生成物をイオン化合物と非混和性のヘキサンで抽出する。エンド/エキソ比は9:1である。減圧下100℃で処理した触媒は、活性が消失せずに再使用される。
【0044】
実施例22
実施例12で調製した溶融塩を求核置換反応の溶媒として用いる。10gのその塩と3gのシアン化カリウムをオーブン内のガラス管に入れ、温度を250℃に上げる。4gの塩化ベンジルを60℃で2時間加熱する。塩化ベンジルのベンジルシアニドへの転化率は85%である。溶融塩は、水洗と蒸発により容易に再循環される。
【0045】
本発明を個々の実施態様と共に記載してきたが、変更することができることは理解される。本出願は、一般的には本発明の原理に従い、かつ本発明が関係する技術内の既知又は通例の実施の範囲内に入る、及び上記で示した不可欠な特徴にあてはまる、及び後記の請求の範囲の範囲内で行なわれる本発明の記述からの逸脱を含む、本発明の変更、利用又は修正を包含するものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
融点の低いイオン化合物であって、オニウム系陽イオンが正の電荷をもつN、O、S又はPのようなヘテロ原子の少なくとも1種を有し、陰イオンが全部又は一部に式(FX1O)N-(OX2F)(式中、X1及びX2は同じか又は異なり、SO又はPFである。)を有するイミダイドイオンの少なくとも1種を含む、前記化合物。

【公開番号】特開2011−32280(P2011−32280A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−235848(P2010−235848)
【出願日】平成22年10月20日(2010.10.20)
【分割の表示】特願平11−539801の分割
【原出願日】平成11年2月3日(1999.2.3)
【出願人】(510279332)エイシーイーピー インコーポレイテッド (1)
【出願人】(305023584)サントル・ナシオナル・ド・ラ・ルシェルシュ・シアンティフィック (8)
【氏名又は名称原語表記】CENTRE NATIONAL DE LA RECHERCHE SCIENTIFIQUE
【住所又は居所原語表記】3 rue Michel Ange, 75794 PARIS CEDEX 16, France
【出願人】(500166057)ウニヴェルシテ ド モントリオール (2)
【Fターム(参考)】