説明

電解用電極の製造方法

【課題】高効率でオゾンを生成することができる電解用電極を製造する。
【解決手段】溝13を形成するための型を用意する。型を基材11と接触させ、フッ酸又はフッ硝酸溶液に所定時間浸漬させる。ここで、型を基材11よりもイオン化傾向の低い貴金属で構成する。これにより、型の形状が基材11に転写され、基材11の表面に溝13が形成される。そして、溝13が形成された基材11の面にプラズマCVD法を用いて導電性ダイヤモンド膜12を成膜する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水を電気分解してオゾンを生成するための電解用電極の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
オゾンは酸化力の非常に強い物質であり、その酸化力に由来する殺菌、脱色、及び脱臭作用が様々な分野で応用されている。オゾンを利用した殺菌方法及び脱色方法等は、オゾン自身が容易に自然分解して酸素となるため、二次汚染のない安全な処理方法であり、近年注目されている。オゾンが水に溶け込んだオゾン水は酸化力が更に向上し、一般に殺菌等に用いられている。これらの目的のために、オゾン水のより簡便かつ高効率な生成手法の開発が求められている。
【0003】
オゾン水を得るための手段としては、オゾンガスを生成し、このオゾンガスを水中に溶解させる手法や、オゾン水を直接生成する電解法が知られている。オゾンガスを水中に溶解させる手法は、無声放電法でオゾンガスを生成させ、気液溶解塔に通じて水に溶解させるため、装置構成が大型及び複雑になる。
【0004】
一方、電解法では、多孔質状或いは網状の陽極と陰極とで固体高分子膜を挟むことで電解セルを構成し、この電解セルに水道水や純水を流すことでオゾン水が得られるため、装置構成が小型になる。
【0005】
この電解法に用いられる電解セルの陽極として、例えば、特許文献1には、基材の片面にダイヤモンドの薄膜を付着させた多孔性グラファイト板を採用したものが開示されている。しかしながら、基材にダイヤモンドの薄膜を付着させるとダイヤモンドが剥離するという問題がある。
【0006】
そこで、特許文献2には、レーザ加工によりダイヤモンド板の表面を多孔質状又は網状の構に加工したものを電解セルの陽極として使用する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平9−268395号公報
【特許文献2】特開2005−336607号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献2では、陽極の表面に形成された孔の間隔が1mm程度と大きいため、陽極、固体高分子膜、及び水が同時に接触する三相界面の領域を充分に確保することができず、高効率でオゾンを生成させることができないという問題がある。
【0009】
また、特許文献1、2共、陽極の表面において、被処理液を流し易くする措置が何ら採られていないため、高効率でオゾンを生成させるために更なる改善の余地がある。
【0010】
本発明の目的は、高効率でオゾンを生成することができる電解用電極の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(1)本発明による電解用電極の製造方法は、基材の少なくとも片面に被処理液の流路となる溝を形成する溝形成工程と、前記溝が形成された前記基材の面に導電性ダイヤモンド膜を形成するダイヤモンド形成工程を備える。
【0012】
この構成によれば、表面に溝が形成された電解用電極を製造することができる。そして、この電解用電極を固体高分子膜に密着させてオゾン生成装置の電解セルの陽極として採用した場合、溝に被処理液が流れ、被処理液の十分な流量を確保することができる。したがって、被処理液、固体高分子膜、及び陽極が同時に接触する三相界面がより多く形成され、オゾンを効率よく発生させることができる。
【0013】
(2)前記基材は、主成分がシリコンであることが好ましい。
【0014】
この構成によれば、最も実績があり、スケール(酸化カルシウムやリン酸塩、シリカ等を成分とする析出物)が付着し難いシリコンにより基材が構成されているため、耐久性の高い電解用電極を提供することができる。また、シリコンは、CVD法により導電性ダイヤモンドを成膜する際に界面に炭化物を形成するため、導電性ダイヤモンドの密着度をより向上させることができる。なお、基材としてはカーボン、チタン、ニオブ、タンタル等の金属やこれらの炭化物を採用してもよい。但し、シリコンは上記の効果が得られるため、シリコンを使用することがより好ましい。
【0015】
(3)前記溝形成工程は、前記基材よりもイオン化傾向が低い貴金属により構成され、前記溝を転写するための型を前記基材に接触させながら、フッ酸を含む溶液に浸漬させることが好ましい。
【0016】
この構成によれば、溝のような形状を形成する場合、機械加工が考えられる。しかしながら、基材は割れやすいため機械加工により溝を形成すると破損の懸念がある。また、ダイシングソーなどで溝を加工する場合、単純な溝は形成できるが、上述のオゾン発生効率を高めるような凹凸や、溝の間をつなぐ加工、さらにはより効率よくオゾン水が形成されると考えられるラス金網を模した形状などの複雑形状を形成することは事実上不可能である。また、フォトリソグラフィーとエッチングとを用いて溝を作ることも考えられるが、このような工程は複雑であり、たとえ上述の複雑形状を実現したところで、コストアップの要因になり、応用上は好ましくない。そこで、基材よりもイオン化傾向が低く、溝を転写するための型を基材に接触させながら、フッ酸を含む溶液に浸漬させる。すると、基材の表面でハロゲンラジカルが生成され、このハロゲンラジカルと基材の表面の原子とが化学反応を起こして、ハロゲン化合物が溶出される。つまり、型が触媒として作用して、基材の表面の原子がハロゲン化合物となって溶出されるため、基材の表面の原子が型の形状に沿うように溶出され、基材の表面に型の形状が転写される。そのため、基材を破損させず、かつ、低コストで基材に溝を形成することができる。なお、加工速度の向上の観点からは硝酸などの酸化剤の添加も有効である。
【0017】
(4)前記導電性ダイヤモンド膜は、プラズマCVD法により成膜されることが好ましい。
【0018】
この構成によればプラズマCVD法により導電性ダイヤモンド膜が成膜されるため、溝の内部に導電性ダイヤモンドを確実にコーティングすることができる。
【0019】
なお、このような基材上に導電性ダイヤモンド膜を成膜する手法として、熱フィラメントによるCVD法を採用してもよいが、上記の効果を得るという観点からはプラズマCVD法を採用することが好ましい。
【0020】
また、溝の形状としては複数の溝が互いに接続された形状を採用することが好ましく、例えば、格子状や網目状が挙げられる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、表面に溝が形成された電解用電極を製造することができる。そのため、この電解用電極をオゾン生成装置の陽極として用いた場合、溝を通って被処理液が流れ、被処理液の十分な流量を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施の形態による電解用電極の製造方法を示した図である。
【図2】本発明の実施の形態による電解用電極の構成図である。
【図3】溝を電解用電極の表面に平行に複数設けた場合の電解用電極の上面図である。
【図4】複数の溝を相互に接続させた場合の電解用電極の上面図である。
【図5】本発明の実施の形態による電解用電極をオゾン生成装置の陽極として適用した場合のオゾン生成装置の全体構成図である。
【図6】図1に示す製造方法により製造された電解用電極を電子顕微鏡で撮影したときの画像を示している。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1は、本発明の実施の形態による電解用電極1の製造方法を示した図であり、(A)は基材11に溝13を形成する溝形成工程を示し、(B)は基材11の表面に導電性ダイヤモンド膜12を形成するダイヤモンド形成工程を示している。
【0024】
まず、ステップS1において、型を用意する。型としては形成する溝13の形状に合わせたものを用意すればよい。例えば、図3に示すように、溝13を平行に形成する場合は、一定の間隔で配列された複数のワイヤからなる型K1を用意すればよい。ここで、型は、基材11よりもイオン化傾向の低い貴金属が採用されている。
【0025】
また、図4(A)、(B)に示すように格子状に溝13を形成する場合は、表面から陥没するように複数の四角錐がマトリックス状に配列された型K2を用意すればよい。また、図4(C)に示すように、網目状に溝13を形成する場合、溝13が形成される部分が凸となり残りの部分が凹となるように表面に網目が形成された型K3を用意すればよい。
【0026】
次に、ステップS2において、型を基材11と接触させ、フッ酸又はフッ硝酸溶液に所定時間浸漬させる。所定時間としては例えば2分程度を採用すればよい。
【0027】
型は基材11よりもイオン化傾向の小さい貴金属により構成されている。そのため、基材11の表面でハロゲンラジカルが生成され、このハロゲンラジカルと基材11の表面の原子とが化学反応を起こして、ハロゲン化合物が溶出される。つまり、型が触媒として作用して、基材11の表面の原子がハロゲン化合物となって溶出されるため、基材11の表面の原子が型の形状に沿うように溶出され、基材11の表面に型の形状が転写される。なお、型を構成する貴金属としては、例えば白金、銀、金、パラジウム等のイオン化傾向の低いものを採用すればよい。また、貴金属は高価であるため、例えば表面のみに貴金属を成膜したものを型として用いてもよい。
【0028】
ステップS3において、所定時間が経過すると、型の形状が基材11の表面に転写される。ステップS3の左側の図では、型K1が用いられたため、基材11の表面には、図3に示すように複数の溝13が平行に形成されている。ステップS3の右側の図では、型K2が用いられているため、図4(A)、(B)に示すように、基材11の表面には格子状の溝13が形成されている。
【0029】
ステップS4において、溝13が形成された基材11を用意する。ステップS4の左側の基材11は、複数の溝13が平行に形成されている。ステップS4の右側の基材11は、格子状に溝13が形成されている。
【0030】
ステップS5において、基材11に対してパウダー処理を行う。ここで、パウダー処理とは、ダイヤモンドパウダーを含有するエタノール中に基材11を浸漬させ、超音波を印加する処理である。そのほかにも、ダイヤモンドの核発生促進処理として知られる処理が適用可能である。
【0031】
ステップS6において、基材11の溝13が形成された側の表面にプラズマCVD法により導電性ダイヤモンド膜12を形成する。ここでは、マイクロ波プラズマCVD装置を用いて導電性ダイヤモンド膜12を成膜する。マイクロ波プラズマCVD装置は、ステンレス製のチャンバを備え、その中には、モリブデン製の基板ホルダが設置されている。
【0032】
この基板ホルダに基材11を設置する。そして、メタン0.5vol%を水素で稀釈した混合ガスを、圧力50Torr、流量100scmの条件でチャンバ内に流すと同時に、チャンバ内にマイクロ波を放射することにより、チャンバ内にプラズマを発生させる。また、ダイヤモンド膜を導電性にするためにチャンバ内にシボランを10ppm添加する。そして、基材11の温度が800℃に保持されるようにマイクロ波の出力を調整して約3時間経過させる。これにより、基材11の表面に導電性ダイヤモンド膜12が成膜される。次に、マイクロ波の放射を停止し、自然冷却して、基材11をチャンバから取り出す。以上により、ダイヤモンドにボロンがドープされた導電性ダイヤモンド膜12が溝13の形に添うように形成され、電解用電極1が完成する。
【0033】
なお、型K2は例えば下記のようにして作成すればよい。まず、面方位が(001)の単結晶シリコン基板を用意する。そして、フォトリソグラフィーにより、単結晶シリコン基板の表面に、マトリックス状に配列された正方形の外周が露出されるように、網目状にレジストを形成する。次に、TMAH等のエッチング溶液を用いた化学エッチングにより単結晶シリコン基板をエッチングする。これにより、表面から陥没するように複数の四角錐がマトリックス状に配列された型K2が形成される。
【0034】
図2は、本発明の実施の形態による電解用電極1の構成図であり、(A)は溝13の構成図であり、(B)〜(E)は、溝13の変形例を示した構成図である。
【0035】
図2(A)に示すように電解用電極1は、基材11、導電性ダイヤモンド膜12、及び溝13を備える。基材11は、略平板形状を持ち、上面視において四角形状を持つ。基材11としては、ダイヤモンドとの密着性が高いシリコンを採用することが好ましい。
【0036】
上述したように導電性ダイヤモンド膜12の成膜は800℃の高温で行われた後、冷却されるため、基材11として熱膨張率の高い物質を採用すると、導電性ダイヤモンド膜12が剥離する虞がある。そのため、基材11としては、熱膨張率の小さい物質であるチタン、ニオブ、又はタンタル等のカーバイトフォーミングメタル(炭化物成長金属)を採用してもよい。
【0037】
また、チタン、ニオブ、又はタンタルは、炭化されると熱膨張率が更に低下する。したがって、熱膨張率を低下させるという観点からは、チタンの炭化物、ニオブの炭化物、又はタンタルの炭化物を採用することが好ましい。
【0038】
導電性ダイヤモンド膜12は、基材11の上面に形成されている。溝13は、導電性ダイヤモンド膜12が形成された面に形成されている。このように、電解用電極1の表面に溝13が形成されているため、電解用電極1を図5に示すオゾン生成装置10の陽極1Pとして用いた場合、被処理液の流量を増大させることができ、高効率でオゾン水を生成することができる。
【0039】
なお、図2の例では、電解用電極1は、上面のみに導電性ダイヤモンド膜12及び溝13を持っているが、両面に導電性ダイヤモンド膜12及び溝13を持っていても良い。こうすることで、電解用電極1をオゾン生成装置の陽極1Pとして用いた場合、被処理液を陽極の両面に流し、より多くのオゾン水を生成することができる。
【0040】
溝13の高さhは、例えば0.2〜1.2mm、好ましくは0.25〜1.1mm、より好ましくは1mm程度であるが、薄いシリコン基板を基材として用いる場合には、破損を避けるため、厚みの1/2程度に抑えることが望ましい。また、溝13の幅wは、例えば0.5mm〜2.2mm、好ましくは、0.8mm〜2.1mm、より好ましくは2mm程度である。陽極、水、及び固体高分子膜が同時に接触する三相界面を増やしてオゾンを高効率で生成するという観点からは溝13は小さくする方が好ましい。しかしながら、本実施の形態では、溝13に対して、被処理液を流す流路としての機能も持たせている。したがって、溝13を大きくすると被処理液の流量が増えるため、溝13を流路として機能させるという観点からは、溝13を大きくすることが好ましい。そこで、本実施の形態では、三相界面を確保すると同時に溝13を流路として機能させるために、溝13の高さh及び幅wとして上記の値を採用している。
【0041】
図2(B)では、溝13の断面形状として底面がフラットで、内壁が底面に直交する形状を採用したが、図2(B)に示すように、溝13の断面形状を鋸状としてもよい。また、図2(C)に示すように溝13の断面形状を半円状としてもよい。
【0042】
また、図2(D)に示すように、溝13の断面形状として底面に凹凸を設けたものを採用してもよい。この凹凸はたとえば単結晶シリコン基板を用いる場合では、KOHやTMAHによる異方性エッチングを行うか、部分的にダイシングソーにて切込みを入れることで形成可能である。こうすることで、溝13の表面積が増えて三相界面が増大し、オゾン水を高効率に生成することができる。また、図2(E)に示すように、上面視において溝13に凹凸を設けてもよい。この場合、三相界面を更に増大させることができる。
【0043】
図3は、溝13を電解用電極1の表面に平行に複数設けた場合の電解用電極1の上面図である。図3の例では、溝13は一定の間隔dで平行に複数設けられている。ここで、間隔dとしては、三相界面の確保と流路機能の確保という観点から高密度にすることが好ましいが、製造上の観点から高密度にするにも一定の限界がある。そこで、本実施の形態では、両観点を考慮に入れた値が間隔dとして採用されている。具体的には、間隔dとしては、例えば0.5mm〜2.2mm、好ましくは、0.8mm〜2.1mm、より好ましくは1mm程度である。
【0044】
図4は、複数の溝13を相互に接続させた場合の電解用電極1の上面図であり、(A)及び(B)は、溝13を格子状に形成した場合を示し、図4(C)は溝13を網目状に形成した場合を示し、図4(D)は溝13をハニカム状に形成した場合を示している。
【0045】
図4(A)においては、電解用電極1の横方向に間隔d1で複数の溝13が平行に形成され、かつ、電解用電極1の縦方向に間隔d2で複数の溝13が平行に形成されている。なお、間隔d1,d2としては同じ値を採用してもよいし、異なる値を採用してもよい。また、縦の溝13と横の溝13とでサイズを変えても良い。
【0046】
図4(B)においては、電解用電極1の所定の第1斜め方向dr1とほぼ平行に複数の溝13が形成され、かつ、第1斜め方向dr1と交差する第2斜め方向dr2とほぼ平行に複数の溝13が形成されている。ここで、第1斜め方向dr1,と第2斜め方向dr2とのなす角度θとしては、種々の角度を採用することができるが、図4(B)では例えば90度程度が採用されている。また、図4(B)の例では、第1斜め方向dr1の溝13の間隔と、第2斜め方向dr2の溝13の間隔とはほぼ一定であるが、一定にしなくてもよい。また、第1、第2斜め方向dr1、dr2の溝13の向きに多少のバラツキを与えても良い。
【0047】
図4(C)においては、タイルの目地のように溝13が形成され、溝13が網目状に形成されている。また、図4(D)においては、上辺と下辺とが接するようにほぼ六角形の溝13が複数配列されている。図4(A)〜(D)に示すように少なくとも2方向に複数の溝13を形成すると、三相界面を増大すると同時に被処理液の流量を増大させることができる。
【0048】
図5は、本発明の実施の形態による電解用電極1をオゾン生成装置10の陽極として適用した場合のオゾン生成装置10の全体構成図である。
【0049】
オゾン生成装置10は、陽極1P、固体高分子膜2、陰極3、供給路41、排水路42、固定ジグ5、陽極ホルダ6、及びパッキン7を備えている。
【0050】
陽極1Pは、図3、図4(A)〜(D)のいずれかに示す電解用電極1が採用されている。陽極1Pは、溝13が形成された面が固体高分子膜2の一方の面に密着して配置されている。
【0051】
固体高分子膜2は、平板形状を持ち、陽極1Pと陰極3とで挟まれている。固体高分子膜2としては、例えばデュポン社製のナフィオン(登録商標)が採用されている。固体高分子膜2は、固定ジグ5の下面(図の右側の面)に嵌め込まれて固定されている。また、固体高分子膜2は、供給口41xと排出口42xとの間に設けられている。これにより、供給路41と排水路42とが固体高分子膜2及び陽極1Pにより隔離され、排水路42から排出された被処理液が、再度、陽極1P側に戻ることを防止することができる。
【0052】
陰極3は、メッシュ構造を持つ平板状の部材により構成され、固定ジグ5の上面(陽極1Pが配置された面と反対側の面)に配置されている。
【0053】
固定ジグ5の中央にはスペーサー51が嵌め込まれ、陰極3はスペーサー51に密着している。スペーサー51は、多孔質の物質により構成されている。したがって、陰極3は、固体高分子膜2と多少離間して配置されている。陰極3としてメッシュ構造を持つものを採用することで、陰極3側でのイオン交換を効率良く行うことができる。
【0054】
なお、スペーサー51を用いずに、陰極3を固体高分子膜2から距離を離して設置してもよい。或いは、陰極3としてメッシュ構造を持つものを採用すれば、スペーサー51を介さずに陰極3を、固体高分子膜2に密着させることができる。この場合、陰極3側でのイオン交換をより効率良く行うことができる。
【0055】
陽極1Pは、被処理液の流れる方向L1(上下方向)に対する長さが、固体高分子膜2の方向L1の長さよりも長い。また、固体高分子膜2は、陽極1Pのほぼ中央に配置されている。そのため、陽極1Pの方向L1の上流側と下流側とにおいて固体高分子膜2から露出した領域D1,D2が確保される。これにより、領域D1に供給路41を配置し、かつ、領域D2に排水路42を配置することができ、供給路41及び排水路42を陰極3側にのみ設けることができる。その結果、陽極1P側に供給路41、陰極3側に排水路42を設ける場合に比べ、装置構成のコンパクト化を図ることができる。
【0056】
供給路41は、陽極1Pの領域D1と対向する位置に供給口41xが位置し、かつ、固定ジグ5の上面側に配置された管状の部材から構成され、上側に接続された図略の被処理液供給部から供給される被処理液を陽極1Pに供給する。被処理液としては水道水又は軟水が採用される。供給路41は、下流側の一部が固定ジグ5を連通する孔により構成されている。
【0057】
排水路42は、排出口42xが陽極1Pの領域D2と対向する位置に位置するように固定ジグ5に形成された孔である。パッキン7は、陽極ホルダ6の外周と固定ジグ5の外周とに介設さている。これにより、固定ジグ5の外部に被処理液が流れることを防止することができる。オゾンを含む排水は、タンク20に混合されるが、供給路41と同様に管状の部材を配置し、タンク20等に混じることなく引き出してもよい。この場合、さらに高密度のオゾン水を得ることができる。
【0058】
タンク20は、オゾン生成装置10の下部の4/3程度を収納可能なサイズを持ち、上側が開口する有底の箱体により構成され、被処理液を貯蔵する。オゾン生成装置10は、少なくとも陰極3が水に浸されるように、タンク20内の被処理液に浸漬される。また、タンク20は、排水路42から排出される被処理液を貯蔵する。
【0059】
このように構成されたオゾン生成装置10では、被処理液は、供給路41から供給され、陽極1Pの溝13、排水路42、及びタンク20へと流れている。この状態で、陽極1P、及び陰極3の間に電圧を印加する。すると、陽極1Pにて、2HO→O+4H+4e、3HO→O+6H+6eの反応が起こり、陰極3にて、nH+ne→(n/2)H(但し、n=4or6)の反応が起こり、オゾンが発生する。そして、このオゾンが被処理液である水に溶けオゾン水となって排水路42から排出される。
【0060】
このように、図5に示すオゾン生成装置10では、表面に複数の溝13を持つ電解用電極1が陽極1Pとして用いられているため、被処理液の流量を確保することができ、高効率にオゾン水を生成することができる。
【0061】
図6(A)は、図1(A)のK1に示す製造方法で製造された電解用基材11をレーザー顕微鏡で撮影したときの画像であり、図6(B)は図1(A)のK2で製造された基材11の撮影画像である。図6(A)に示す基材11は下記のようにして製造された。まず、直径0.8mmの白金線を型として用意する。
【0062】
次に、この型を1cm×2cmのシリコン基板に接触させながらフッ酸及び硝酸の混酸に浸漬させた。この状態で30秒保ち、シリコン基板上に溝13を転写した。これを複数回繰り返すことで溝13を形成した。
【0063】
図6(B)に示す基材11は以下のように製造された。まず、フッ酸に対して耐久性を持つ型となる母材を用意する。そして、母材の表面に溝を形成し、その上にスパッタリングにより200nm厚の白金を形成した。これにより型が完成する。次に、この型を1cm×2cmのシリコン基板に接触させながらフッ酸及び硝酸の混酸に浸漬させた。この状態で5分保ち、シリコン基板上に溝13を転写した。
【0064】
次に、上記のダイヤモンド形成工程により導電性ダイヤモンド膜12を成膜する。すると通常のプラズマCVDと同様の条件での成膜が可能となり、溝13の内表面においても導電性ダイヤモンド膜12にピンホールや、導電性ダイヤモンド膜12が基材11から剥離することを防ぐことが可能となる。また、導電性ダイヤモンド膜12自体の電気抵抗率は、溝13が形成される前の基材11と同等であり、本質的に差はない。
【0065】
このように本実施の形態によれば、表面に複数の溝13が設けられた電解用電極1を製造することができる。そして、この電解用電極1をオゾン生成装置10の陽極1Pとして用いた場合、陽極1Pと固体高分子膜2とを密着させたとしても、溝13があるため被処理液の流量が確保され、効率良くオゾンを生成することができる。
【符号の説明】
【0066】
1 電解用電極
1P 陽極
2 固体高分子膜
3 陰極
5 固定ジグ
6 陽極ホルダ
7 パッキン
10 オゾン生成装置
11 基材
12 導電性ダイヤモンド膜
13 溝
20 タンク
41 供給路
41x 供給口
42 排水路
42x 排出口
51 スペーサー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の少なくとも片面に被処理液の流路となる溝を形成する溝形成工程と、
前記溝が形成された前記基材の面に導電性ダイヤモンド膜を形成するダイヤモンド形成工程を備える電解用電極の製造方法。
【請求項2】
前記基材は、主成分がシリコンである請求項1記載の電解用電極の製造方法。
【請求項3】
前記溝形成工程は、前記基材よりもイオン化傾向が低い貴金属により構成され、前記溝を転写するための型を前記基材に接触させながら、フッ酸を含む溶液に浸漬させる請求項1又は2記載の電解用電極の製造方法。
【請求項4】
前記導電性ダイヤモンド膜は、プラズマCVD法により成膜される請求項1〜3のいずれかに記載の電解用電極の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2012−144779(P2012−144779A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−4372(P2011−4372)
【出願日】平成23年1月12日(2011.1.12)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】