説明

電解用電極及びその製造方法及びそれを用いた電解方法

【課題】 低電流密度による水の電気分解によって、高効率にてオゾン水を生成することを可能であると共に、過酸化水素や強い酸化力を有するOHラジカルを生成することが可能である電解用電極及び、その電解用電極の製造方法並びにそれを用いた電解方法を提供する。
【解決手段】 本発明の電解用電極1は、基体2と、該基体2の表面に構成された表面層4を備えて成るものであって、表面層4は、基体2の表面にスピンコート法により塗布されたチタンを含む表面層構成材を焼成することにより構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工業用又は民生用電解プロセスに使用される電解用電極と、その製造方法、並びにそれを用いた電解方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、オゾンは非常に酸化力が強い物質であり、該オゾンが溶解した水、所謂オゾン水は上下水道や、食品等、又は、半導体デバイス製造プロセス等での洗浄処理への適用など幅広い洗浄殺菌処理での利用が期待されている。オゾン水を生成する方法としては、紫外線照射や放電により生成させたオゾンを水に溶解させる方法や、水の電気分解により水中でオゾンを生成させる方法などが知られている。
【0003】
特許文献1には、紫外線ランプによりオゾンガスを生成するオゾン生成手段と水を貯水するタンクとを備え、生成したオゾンガスをタンク内の水に供給することでオゾン水を生成するオゾン水生成装置が開示されている。また、特許文献2には、水中にオゾンガスを効率よく溶解させるために、放電式のオゾンガス生成装置により生成したオゾンガスと水とをミキシングポンプにより所定の割合で混合するオゾン水生成装置が開示されている。
【0004】
しかしながら、上記の如き紫外線ランプや放電式によりオゾンガスを生成させてこのオゾンガスを水中に溶解させてなるオゾン水生成方法では、オゾンガス生成装置やオゾンガスを水中に溶解させるための操作などが必要となり装置が複雑化しやすく、また生成したオゾンガスを水中に溶解させる方法であるため所望の濃度のオゾン水を高効率に生成することが困難であるという問題があった。
【0005】
特許文献3には、上記のような問題を解決するための方法として、水の電気分解により水中でオゾンを生成させオゾン水を得る方法が開示されている。係る方法では、多孔質体又は網状体で形成された電極基材と白金族元素の酸化物等を含む電極触媒とを有して構成されるオゾン生成用電極と、このオゾン生成用電極を用いる。
【特許文献1】特開平11−77060号公報
【特許文献2】特開平11−333475号公報
【特許文献3】特開2002−80986号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述した如き水の電気分解によるオゾン水の生成方法では、白金族元素は標準的なアノード材料であり、有機物を含まない水系溶液中ではほとんど溶解しないという特徴があるが、オゾン生成用電極としてはオゾン生成効率が低く、高効率な電解法によるオゾン水生成を行うことは困難である。また、このような従来のオゾン生成用電極を用いた電解法によるオゾン水生成では、オゾン生成のために高電流密度での電気分解が必要であり、エネルギー消費量や電極寿命に問題がある。
【0007】
そこで、本発明は従来の技術的課題を解決するために成されたものであり、低電流密度による水の電気分解によって、高効率にてオゾンを生成することを可能であると共に、過酸化水素や強い酸化力を有するOHラジカルを生成することが可能である電解用電極及び、その電解用電極の製造方法並びにそれを用いた電解方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の電解用電極は、基体と、当該基体の表面に構成された表面層を備えて成るものであって、表面層は、基体の表面にスピンコート法により塗布されたチタンを含む表面層構成材を焼成することにより構成されていることを特徴とする。
【0009】
請求項2の発明の電解方法は、請求項1の電解用電極をアノードとし、電流密度20mA/cm2乃至60mA/cm2で電解質溶液を電解することを特徴とする。
【0010】
請求項3の発明の電解用電極の製造方法は、基体の表面にチタンを含む表面層構成材をスピンコート法により塗布した後、所定の焼成温度で焼成することにより、基体の表面に表面層を構成することを特徴とする。
【0011】
請求項4の発明の電解用電極の製造方法は、上記発明において、表面層構成材を、550℃乃至650℃の焼成温度で焼成することを特徴とする。
【0012】
請求項5の発明の電解方法は、請求項3又は請求項4の方法により製造された電解用電極をアノードとし、電流密度20mA/cm2乃至60mA/cm2で電解質溶液を電解することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、基体と、当該基体の表面に構成された表面層を備えて成る電解用電極であって、表面層は、基体の表面にスピンコート法により塗布されたチタンを含む表面層構成材を焼成することにより構成されているので、基体の表面に酸化チタンを含む薄膜にて構成される表面層を形成することが可能となる。
【0014】
これにより、表面層内の不純物準位を介して、若しくは、Fowler−Nordheimトンネルにより電子が電極内部に移動できる。そのため、アノードにおける電極反応において、フェルミ準位よりバンドギャップの半分程度高いエネルギーレベルにある伝導体の底付近の空の準位が電解質から電子を受け取ることができ、より高いエネルギーレベルで電子の移動を生起させることで、低電流密度にて電気分解を行うことで効率的にオゾンを生成することができる。
【0015】
特に、基体の表面に形成される表面層は、チタンを含む表面層構成材をスピンコート法により塗布し焼成することで構成されるため、比較的安価な製造コストにて電解用電極を製造することが可能となり、設備の低廉化を図ることが可能となる。
【0016】
請求項2の発明の電解方法によれば、上記発明の電解用電極をアノードとし、電流密度20mA/cm2乃至60mA/cm2で電解質溶液を電解することにより、効率的にオゾンや過酸化水素を生成することができる。
【0017】
特に、電流密度が20mA/cm2付近では、オゾン生成に優先して過酸化水素を生成することが可能となり、電流密度が60mA/cm2付近では、過酸化水素に優先してオゾンを生成することが可能となる。特に、電流密度が40mA/cm2から60mA/cm2付近では、電解質溶液中に生成された過酸化水素は、より酸化力の強いオゾンにより酸化され、OHラジカルを生成することが可能となる。このOHラジカルは、酸化反応の開始剤として働くことで、連鎖反応を引き起こすことで、強力な酸化力を発揮することができる。
【0018】
これにより、目的とする物質に応じて電流密度を変更して電気分解することにより、優先的に生成される物質を選択することが可能となり、汎用性が向上する。特に、本発明によれば、電解質溶液を電気分解することで、複数種類の酸化物質を生成することが可能となるものであるため、比較的寿命の短いOHラジカルについても、必要とされる現場において容易に生成することが可能となり、当該OHラジカルの酸化力を有効に用いることが可能となる。
【0019】
請求項3の発明の電解用電極の製造方法によれば、基体の表面にチタンを含む表面層構成材をスピンコート法により塗布した後、所定の焼成温度で焼成することにより、基体の表面に表面層を形成するので、基体の表面に酸化チタンを含む薄膜にて構成される表面層を形成することが可能となる。
【0020】
これにより、表面層内の不純物準位を介して、若しくは、Fowler−Nordheimトンネルにより電子が電極内部に移動できる。そのため、アノードにおける電極反応において、フェルミ準位よりバンドギャップの半分程度高いエネルギーレベルにある伝導体の底付近の空の準位が電解質から電子を受け取ることができ、より高いエネルギーレベルで電子の移動を生起させることで、低電流密度にて電気分解を行うことで効率的にオゾンを生成することができる。
【0021】
特に、基体の表面に形成される表面層は、チタンを含む表面層構成材をスピンコート法により塗布し焼成することで形成されるため、比較的安価な製造コストにて電解用電極を製造することが可能となり、設備の低廉化を図ることが可能となる。
【0022】
請求項4の発明の電解用電極の製造方法によれば、上記発明において、表面層構成材を、550℃乃至650℃の焼成温度で焼成することにより、効率的にオゾンや過酸化水素を生成することができる。
【0023】
特に、焼成温度が650℃付近では、オゾン生成に優先して過酸化水素を生成することが可能となり、550℃付近では、前記650℃付近のものに比して過酸化水素に優先してオゾンを生成することが可能となる。これにより、電解質溶液中に生成された過酸化水素は、より酸化力の強いオゾンにより酸化され、OHラジカルを生成することが可能となる。このOHラジカルは、酸化反応の開始剤として働くことで、連鎖反応を引き起こすことで、強力な酸化力を発揮することができる。
【0024】
そのため、目的とする物質に応じて電極の焼成温度を変更して製造した電極によって電気分解することにより、優先的に生成される物質を選択することが可能となり、汎用性が向上する。特に、本発明によれば、電解質溶液を電気分解することで、複数種類の酸化物質を生成することが可能となるものであるため、比較的寿命の短いOHラジカルについても、必要とされる現場において容易に生成することが可能となり、当該OHラジカルの酸化力を有効に用いることが可能となる。
【0025】
請求項5の発明によれば、請求項3又は請求項4の方法により製造された電解用電極をアノードとし、電流密度20mA/cm2乃至60mA/cm2で電解質溶液を電解することにより、より一層効率的にオゾンや過酸化水素を生成することができる。
【0026】
特に、電流密度が20mA/cm2付近では、オゾン生成に優先して過酸化水素を生成することが可能となり、電流密度が60mA/cm2付近では、過酸化水素に優先してオゾンを生成することが可能となる。そのため、目的とする物質に応じて電流密度を変更して電気分解することにより、優先的に生成される物質を選択することが可能となり、また、生成効率を向上することができ、汎用性が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下に、本発明の電解用電極の好適な実施の形態を図面を参照して説明する。図1は本発明の電解用電極の一例としての電解用電極1の平断面図である。
【0028】
図1に示すように電解用電極1は、基体2と、当該基体2の表面に形成される中間層3と、当該中間層3の表面に形成される表面層4とから構成される。
【0029】
本発明において基体2は、導電性材料として、例えば、白金(Pt)若しくは、チタン(Ti)、タンタル(Ta)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)などのバルブ金属やこれらバルブ金属2種以上の合金、或いはシリコン(Si)などにより構成される。特に、本実施例において用いられる基体2は、表面が格別に平坦であることが好ましいことから、表面が平坦に処理されたシリコンを用いる。
【0030】
中間層3は、酸化し難い金属、例えば、白金、金(Au)、又は、導電性をもつ金属酸化物、例えば、酸化イリジウム、酸化パラジウム、又は、酸化ルテニウム、酸化物超伝導体など、若しくは、酸化しても導電性を有する金属として、白金族元素に含まれるルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、イリジウム(Ir)、或いは、銀(Ag)により構成される。尚、金属酸化物については、予め酸化物として中間層3が構成されたものに限定されるものではなく、電解することにより酸化されて金属酸化物とされたものについても含むものとする。本実施例では、中間層3は、白金により構成するものとする。
【0031】
尚、上記基体2を白金にて構成する場合には、基体2の表面も当然に白金にて構成されるため、当該中間層3を格別に構成する必要はない。ただし、係る基体2を白金にて構成した場合には、コストの高騰を招くことから、工業的には、当該基体2を低廉な材料にて構成し、当該基体2の表面に貴金属等で構成される中間層3を形成することが好ましい。
【0032】
また、表面層4は、前記中間層3を被覆するように当該中間層3と共に、誘電体により基体2の表面に層状に形成され、この表面層4は、所定厚み、本実施例では0より大きく2000nm以下に構成される。尚、当該表面層4の厚みについては、詳細は後述するが、更に好ましくは、100nm未満の厚みとなるように形成されるものとする。
【0033】
表面層4を構成する誘電体としては、酸化チタン、酸化タンタル、酸化タングステン、酸化ハフニウム、酸化ニオブなどが用いられる。
【0034】
また、表面層4は、チタン酸バリウム(BaTiO3)等のペロブスカイト型酸化物に代表されるような2種類以上の金属元素を含む酸化物や、酸化チタンと酸化タンタルのように結晶構造が異なる2種類以上の酸化物の混合体であってもよく、この場合にもこれらの酸化物の他に上記貴金属又は貴金属酸化物を含むものも用いることができる。
【0035】
ここで酸化タンタルとは、結晶性のTaO、Ta25や、このような酸化物に多少の酸素欠損が生じたTaO1-X、Ta25-X、及び不定形(アモルファス状)のTaOX等、タンタルと酸素が化合した物質全般を示すものである。また酸化チタンとはTiO2、Ti23、TiOx等、酸化タングステンとはWO3、WOx、酸化ハフニウムとはHfO2、HfOx、酸化ニオブとはNb25、NbOx等を示すものである。尚、上記表面層4を形成する誘電体としては、他に、Al23、AlOx、Na2O、NaOx、MgO、MgOx、SiO2、SiOx、K2O、KOx、CaO、CaOx、Sc23、ScOx、V25、VOx、CrO2、CrOx、Mn34、MnOx、Fe23、FeOx、CoO、CoOx、NiO、NiOx、CuO、CuOx、ZnO、ZnOx、GaO、GaOx、GeO2、GeOx、Rb23、RbOx、SrO、SrOx、Y23、YOx、ZrO2、ZrOx、MoO3、MoOx、In23、InOx、SnO2、SnOx、Sb25、SbOx、Cs25、CsOx、BaO、BaOx、La23、LaOx、CeO2、CeOx、PrO2、PrOx、Nd23、NdOx、Pm23、PmOx、Sm23、SmOx、Eu23、EuOx、Gd23、GdOx、Tb23、TbOx、Dy23、DyOx、Ho23、HoOx、Er23、ErOx、Tm23、TmOx、Yb23、YbOx、Lu23、LuOx、PbO2、PbOx、Bi23、BiOx等が適用可能である。
【0036】
次に、本発明の電解用電極の製造方法について図2のフローチャート図を参照して説明する。基体2としてシリコンを用いる。尚、この場合のシリコンは、不純物としてリン(P)、ホウ素(B)等を導入し、導電率を高めたものが望ましい。当該シリコンは、表面が非常に平坦なものを用いる。尚、本実施例では、基体2としてシリコンを用いるが、これ以外にも上述した如き導電性材料であって、好ましくは表面が平坦に処理されたものを用いてもよいものとする。
【0037】
先ず初めに、ステップS1において前記シリコンの基体2を5%のフッ酸により前処理を行い、当該シリコン基体2の表面に形成された自然酸化膜の除去を行う。これにより、基体2の表面をより平坦な状態とする。尚、当該前処理は行わなくてもよく、また、当該シリコン基体2の表面にチタン酸化物やチタン窒化物を密着させて、後段における中間層3を構成する白金との密着性の向上を図ってもよい。その後、ステップS2において純水にて基体2の表面のリンスを行い、以降ステップS3において既存のスパッタ装置のチャンバー内に導入し、成膜を行う。
【0038】
本実施例では、基体2への中間層3の形成は、rfスパッタ法により実行する。本実施例では、中間層3は、白金により構成するため、最初のターゲットとして中間層構成材であるPt(80mmφ)を用い、rfパワーを100W、Arガス圧を0.9Pa、基体2とターゲットとの間の距離を60mmとして、室温で20分間成膜を実行する(ステップS3)。これにより、基体2の表面には、厚さ100nm程度の中間層3が形成される。尚、本実施例では、中間層3の成膜方法としてrfスパッタ法を用いているが、これに限定されるものではなく、例えば、CVD法、蒸着法、イオンプレーティング法、メッキ法などであっても良いものとする。
【0039】
次に、中間層3が形成された基体2の表面に表面層4を形成する。本実施例では、表面層4は、スピンコート法を用いて形成するため、表面層構成材としての金属アルコキシド溶液を中間層3が形成された基体2の表面に塗布する。また、本実施例では、表面層4は、酸化チタンにより構成するため、金属アルコキシドとしてテトラエトキシチタン(Ti[OC2H5]4)を用いる。
【0040】
そして、中間層3が形成された基体2の表面に表面層構成材を滴下し、スピンコート法により、薄膜を形成する。本実施例におけるスピンコート法における条件は、1500rpmで5秒間、3000rpmで60秒間とする。その後、室温及び220℃環境下において各10分間乾燥を行う(ステップS5)。これにより、基体2の中間層3の表面には、チタンを含む表面層構成材により表面層4が形成される。
【0041】
その後、当該中間層3及び表面層4が形成された基体2は、ステップS6においてマッフル炉において550℃乃至650℃、大気雰囲気中にて30〜60分、熱焼成(アニール)が実行され、電解用電極1が得られる。これにより、中間層3の表面に塗布された表面層構成材は、均一に酸化チタンとされる。尚、当該熱焼成により酸化チタンとなり、この状態で表面層4の厚さは、20nm〜100nm程度となる。
【0042】
上述した如く得られる電解用電極1は、表面層4は、すべて酸化チタンとされている。また、中間層3は、基体2のシリコンと、白金シリサイドを形成している。また、シリコンは、中間層3までで止まっており、表面層4の内部にまで拡散されていない。また、同様に、中間層3を構成する白金も表面層4内部にまでは到達していない。
【0043】
尚、本実施例では、表面層4を誘電体のみで構成しているため、当該表面層4への貴金属又は貴金属酸化物の使用を削減することができ、コストの低廉化を図ることができる。
【0044】
次に、上記実施例において製造された電解用電極1を用いた電解によるオゾン及び過酸化水素の生成について図3乃至図6を参照して説明する。図3は本実施例の電解用電極1を適用した電解装置20の概略説明図である。電解装置20は、処理槽21と、上述した如きアノードとしての電解用電極1と、カソードとしての電極22と、電極1、22に直流電流を印加する電源25とから構成される。また、この処理槽21内には、電解質溶液としての模擬水道水23が貯溜される。
【0045】
電解用電極1は、上述した如き製造方法により作製したものである。電解装置20に用いる電解用電極1は、表面層4を形成する際の焼成温度が、550℃、600℃、650℃のものの合計3種類使用する。これにより、それぞれの電解用電極1をアノードとして用いた場合の紫外線吸収を測定することで、各電解用電極1の評価を行う。
【0046】
他方、カソードとしての電極22には白金を用いる。これ以外にもチタン基体2表面に白金を焼成した不溶性電極や白金−イリジウム系の電解用電極やカーボン電極などにより構成してもよいものとする。
【0047】
また、本実施例において電解処理される電解質溶液は、水道水を模擬した水溶液であり、この模擬水道水23の成分組成は、Na+が5.75ppm、Ca2+が10.02ppm、Mg2+が6.08ppm、K+が0.98ppm、Cl-が17.75ppm、SO42-が24.5ppm、CO32-が16.5ppmである。
【0048】
以上の構成により、処理槽21内に150mlの模擬水道水23を貯溜する。電解用電極1及び電極22をそれぞれ模擬水道水中に浸漬させる。尚、本実施例における電解用電極1及び電極22の面積は25mm×15mmとする。そして、電源25により80mA、電流密度20mA/cm2程度の定電流、160mA、電流密度40mA/cm2程度の定電流、240mA、電流密度60mA/cm2程度の定電流が電解用電極1及び電極22に印加される。
【0049】
尚、本実施例では電解用電極1によるオゾン及び過酸化水素の生成量は、上記条件にて5分間電解後の模擬水道水23中の紫外線吸収を測定し、評価を行う。
【0050】
次に、図4乃至図6を用いて各焼成温度にて形成された電解用電極1ごとの電流密度に対する生成物質について説明する。図4は焼成温度550℃にて形成された電解用電極1の各電流密度に対する紫外線吸収であり、図5は焼成温度600℃にて形成された電解用電極1の各電流密度に対する紫外線吸収であり、図6は焼成温度650℃にて形成された電解用電極1の各電流密度に対する紫外線吸収を示している。いずれも縦軸は、紫外線吸収を示し、横軸は波長を示している。また、図中Aは電流密度20mA/cm2、Bは40mA/cm2、Cは60mA/cm2の実験結果を示しており、Dは当該実験の対比として示される電解用電極の実験結果を示している。Dにおいて用いられる電解用電極はスパッタ法により基体表面、若しくは、中間層の表面にチタンを形成し、熱酸化することで表面層4を形成したものであり、電極面積は15mm×15mm、焼成温度は500℃、電流密度は10mA/cm2である。
【0051】
図4は、550℃にて焼成された電解用電極1の実験結果である。これによると、いずれの電流密度においても、過酸化水素の吸収ピーク(約200nm程度)とオゾンの吸収ピーク(約258nm)が観測されており、これらの吸収比は、ほぼ同じ、若しくは、若干オゾンの吸収量が多い程度である。また、電流密度が大きくなるに従い、過酸化水素及びオゾンの吸収量が増加していることがわかる。特に、電流密度が60mA/cm2では、多くの過酸化水素及びオゾンの吸収があることがわかる。
【0052】
これに対し、スパッタ法により表面層4が形成されている電解用電極を用いた場合には、オゾンの吸収ピークが観測されるが、過酸化水素についての吸収ピークはみられない。従って、上記条件によってスパッタ法により表面層4を形成する方法では、オゾンと過酸化水素の両者を生成することができないのに対し、スピンコート法による表面層4の形成方法では、オゾンと過酸化水素の両者を生成することができることがわかる。
【0053】
図5は、600℃にて焼成された電解用電極1の実験結果である。これによると、いずれの電流密度においても、過酸化水素の吸収ピーク(約200nm程度)が観測されているが、オゾンの吸収ピーク(約258nm)は、40mA/cm2、60mA/cm2のみ観測され、20mA/cm2では、オゾンの吸収ピークは観測されていない。特に、20mA/cm2では、過酸化水素の吸収ピークは、40、60mA/cm2の場合に比べ、吸収量が多く、オゾンではなく過酸化水素の生成が優先的に行われていることがいえる。
【0054】
これにより、当該電極では、電流密度を変更することにより、電解により生成される過酸化水素とオゾンの生成比率、特に、オゾンの生成有無を選択することが可能となる。そのため、目的とする物質に応じて電流密度を変更して電気分解することにより、優先的に生成される物質を選択することが可能となり、汎用性が向上する。
【0055】
600℃にて焼成された電解用電極1を用いて電解質溶液を電解した場合には、図4に示す如き550℃にて焼成された電解用電極1に比べ、60mA/cm2の電流密度の場合におけるオゾンの吸収ピークが大きくなり、過酸化水素の吸収ピークが小さくなっていることがわかる。また、40mA/cm2の電流密度の場合における過酸化水素の吸収ピークは、大きくなっていることがわかる。
【0056】
図6は、650℃にて焼成された電解用電極1の実験結果である。これによると、いずれの電流密度においても、過酸化水素の吸収ピーク(約200nm程度)が測定されているが、オゾンの吸収ピーク(約258nm)は、40mA/cm2、60mA/cm2のみ測定され、20mA/cm2では、オゾンの吸収ピークは測定されていない。特に、20mA/cm2では、過酸化水素の吸収ピークは、40、60mA/cm2の場合に比べ、吸収量が多く、オゾンではなく過酸化水素の生成が優先的に行われていることがいえる。
【0057】
これにより、当該電極では、電流密度を変更することにより、電解により生成される過酸化水素とオゾンの生成比率、特に、オゾンの生成有無を選択することが可能となる。特に、電流密度を20mA/cm2へと小さくしていくに従い、過酸化水素の生成量を増加させることができると共に、オゾンの生成量を減少させることができる。また、電流密度を20mA/cm2とすることで、オゾンの生成を抑制し、過酸化水素のみを生成することが可能となる。そのため、目的とする物質に応じて電流密度を変更して電気分解することにより、優先的に生成される物質を選択することが可能となり、汎用性が向上する。
【0058】
また、オゾンの吸収ピークは、40、60mA/cm2のいずれの場合においても測定されているが、その吸収量は、焼成温度が600℃の場合に比べ少ない。いずれの電流密度においても、オゾンではなく過酸化水素の生成が優先的に行われていることがいえる。この傾向は、図5に示される如き焼成温度が600℃の場合にの電極1を用いた場合によりも顕著であることがわかる。
【0059】
従って、電解用電極1の焼成温度を上昇させていくに従い、過酸化水素の生成が優先的に行われることとなり、焼成温度が600℃である場合には、過酸化水素の生成を行いながらも、オゾンを効率的に生成することができることがわかる。
【0060】
また、オゾンと過酸化水素の両者の生成がなされる場合には、電解質溶液中に生成された過酸化水素は、より酸化力の強いオゾンにより酸化され、OHラジカルを生成することが可能となる(化学反応式A)。以下、化学反応式Aを示す。
化学反応式A H22+e-→OH-+OH・
【0061】
このOHラジカルは、酸化反応の開始剤として働くことで、連鎖反応を引き起こすことで、強力な酸化力を発揮することができる。そのため、当該電解用電極1を用いて電解質溶液を電気分解することで、複数種類の酸化物質を生成することが可能となる。この場合において、OHラジカルは、比較的寿命が短いが、必要とされる現場において容易に生成することが可能となり、当該OHラジカルの酸化力を有効に用いることが可能となる。
【0062】
尚、本実施例における電解用電極1は、表面層4を構成する酸化チタンがスピンコート法により形成されているため、100nm以下と比較的薄膜にて形成することが可能となる。そのため、表面層4中の不純物準位を介して、或いは、Fowler−Nordheimトンネルにより電子が導電性材料にて構成される中間層3にまで移動すると考えられる。
【0063】
通常、金属電極を電解用電極として使用した場合、アノードにおける電極反応が、フェルミ準位直上の空の準位が電解質から電子を受け取ることにより生起する。これに対し、本発明における表面層4を形成した電解用電極1を使用した場合、誘電体により構成されているため、フェルミ準位よりバンドギャップの半分程度高いエネルギーレベルにある伝導体の底付近の空の準位が電解質から電子を受け取ることにより生起する。
【0064】
そのため、本発明における電解用電極1を使用した場合、白金等の電解用電極を使用した場合に比して、より高いエネルギーレベルでの電子の移動が起こって電極反応を生起するためにオゾンの生成効率が上昇するものと考えられる。
【0065】
これにより、電解用電極1に所定の低電流密度の電流が印加されることで、高効率にてオゾンを生成させることが可能となると共に、過酸化水素を生成することができる電極を得ることができる。
【0066】
また、本実施例では、中間層3及び表面層4を形成する基体2は、表面が平坦な材料にて構成することにより、基体2の表面に均一に中間層3及び表面層4を形成することができる。そのため、各層3又は4の厚さが、電極表面に対し均一に形成されることで電解用電極1の表面全体に対して一様な電気伝導を実現することができる。これにより、電極表面全体における電気伝導のバラツキを抑制することができ、オゾン生成効率の向上を図ることができる。
【0067】
また、本実施例では、表面層4は、スピンコート法により基体2の表面(本実施例では中間層3が形成された表面)に形成されていることから、より均一に基体2の表面に層を形成することができる。これによっても、基体2の表面の全体に厚さが均一な中間層3及び表面層4を構成することが可能となるため、電極表面全体に対して一様に電気伝導を行うことができるようになり、オゾン生成効率の向上を図ることができるようになる。
【0068】
尚、実験に使用した表面層4の材料は、酸化チタンを使用しているが、これ以外にも、酸化タンタルや酸化タングステン、酸化ハフニウム、酸化ニオブによっても、低電流密度において顕著に高いオゾン生成効率が見られる。そのため、スパッタ法によることなく、スピンコート法によって表面層4を形成することが可能となるため、比較的安価な製造コストにて電解用電極を製造することが可能となり、設備の低廉化を図ることが可能となる。
【0069】
また、上述した如く本実施例では、シリコンにて構成される基体2に、少なくとも難酸化性の金属、又は、導電性を有する金属酸化物、若しくは、酸化しても導電性を有する金属のいずれかを含む中間層3を形成し、更に当該中間層3の表面に上述した如き表面層4を構成することで電解用電極1を形成しているが、基体2を中間層3と同様の材料、即ち、少なくとも難酸化性の金属、又は、導電性を有する金属酸化物、若しくは、酸化しても導電性を有する金属のいずれかを含む材料にて構成する場合には、格別に中間層3を形成しなくても同様にオゾンを効率的に生成することができる電極を構成することができる。ただし、本発明の如く基体2に上記材料にて構成される中間層3を被覆形成することにより、同様に効率的にオゾンを生成することができる電極1を低廉な生産コストにて実現することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明の電解用電極の概略断面図である。
【図2】本発明の電解用電極の製造方法のフローチャート図である。
【図3】本発明の電解装置の概略説明図である。
【図4】焼成温度550℃にて形成された電解用電極1の各電流密度に対する紫外線吸収を示す図である。
【図5】焼成温度600℃にて形成された電解用電極1の各電流密度に対する紫外線吸収を示す図である。
【図6】焼成温度650℃にて形成された電解用電極1の各電流密度に対する紫外線吸収を示す図である。
【符号の説明】
【0071】
1 電解用電極
2 基体
3 中間層
4 表面層
20 電解装置
21 処理槽
22 電極
23 模擬水道水
25 電源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体と、当該基体の表面に構成された表面層を備えて成る電解用電極であって、
前記表面層は、前記基体の表面にスピンコート法により塗布されたチタンを含む表面層構成材を焼成することにより構成されていることを特徴とする電解用電極。
【請求項2】
請求項1の電解用電極をアノードとし、電流密度20mA/cm2乃至60mA/cm2で電解質溶液を電解することを特徴とする電解方法。
【請求項3】
基体の表面にチタンを含む表面層構成材をスピンコート法により塗布した後、所定の焼成温度で焼成することにより、前記基体の表面に表面層を構成することを特徴とする電解用電極の製造方法。
【請求項4】
前記表面層構成材を、550℃乃至650℃の焼成温度で焼成することを特徴とする請求項3に記載の電解用電極の製造方法。
【請求項5】
請求項3又は請求項4の方法により製造された電解用電極をアノードとし、電流密度20mA/cm2乃至60mA/cm2で電解質溶液を電解することを特徴とする電解方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−224351(P2007−224351A)
【公開日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−45696(P2006−45696)
【出願日】平成18年2月22日(2006.2.22)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【Fターム(参考)】