説明

電解用電極

【課題】 電解電流密度の均一化が容易な電解用電極を提供する。
【解決手段】 回転可能な陰極に対して間隔をあけて配置される陽極として用いられる電解用電極であって、断面円弧状の基体10と、基体10の内面側に配置された複数の電極板12とを備え、各電極板12に対して個別に給電可能に構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解用電極に関し、より詳しくは、電気めっき法により電解銅箔等の金属箔を製造するのに用いられる電解用電極に関する。
【背景技術】
【0002】
電気めっきによる金属箔の製造においては、近年、電解装置が大電流化及び大型化する傾向にあり、不溶性陽極として用いられる電解用電極としては、省スペース化が可能な曲面状のものが従来から知られている。例えば、特許文献1には、陽極板をボルトにより殻体に取り付けて撓ませることにより円弧状に形成した構成が開示されており、この円弧状の陽極板を回転自在な円筒型陰極の周囲に間隔を空けて配置し、電解液を介在させることで、陰極表面に金属箔を析出させることができる。また、陽極板と殻体との間には接触リングが介在されており、この接触リングの厚みを変えることで、陽極板と陰極との間隔を調整することができる。これにより、陽極板と陰極との間隔を全体にわたって一定に保持することができ、電流密度を均一にして、析出する金属薄膜の厚みの均一化が図られている。
【0003】
しかし、特許文献1の構成においては、殻体への陽極板の取り付けは、殻体に対して陽極板と反対側からボルトを挿通することにより行われていたため、接触リングの厚みを変更するためには、殻体の外側でボルトの着脱作業を行うと共に、殻体の内側で陽極板の着脱作業が必要になることから、作業が繁雑になるという問題があった。
【0004】
このため、特許文献2には、図4に示すように、円弧状に形成された第1の電極基体51の内面側(不図示の陰極と対向する側)に、中間材52,53を介して円弧状の第2の電極基体54を配置し、第1の電極基体51の内面側からボルト55で第2の電極基体54を固定した構成が開示されている。図5に示すように、第2の電極基体54は、第1の電極基体51の内周面に多数配置され、ブスバー56から第1の電極基体51を介して全ての第2の電極基体54に一体的に通電することができる。特許文献2の構成によれば、中間材52,53の厚み調整を行う場合に、第1の電極基体51の内面側のみで中間材52,53の取り替え作業を行うことができ、作業性の向上が図られている。
【0005】
ところが、それぞれの第1の電極基体51について陰極との間隔調整を個別に行うことは、やはり作業面での問題が残り、この点において更に改良の余地があった。
【特許文献1】特公平6−47758号公報
【特許文献2】特開平8−209396号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は、電解電流密度の均一化が容易な電解用電極の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の前記目的は、回転可能な陰極に対して間隔をあけて配置される陽極として用いられる電解用電極であって、断面円弧状の基体と、該基体の内面側に配置された複数の電極板とを備え、前記各電極板に対して個別に給電可能に構成されている電解用電極により達成される。
【0008】
この電解用電極において、前記基体と前記電極板との間には、絶縁性の弾性体が介在されていることが好ましい。
【0009】
また、前記電極板は、外方に突出するボスが前記基体の貫通孔に挿通されており、給電板との間に絶縁性の弾性体を介して前記基体を挟持し、前記給電板の外面側からボルトを前記ボスの頭部に螺合することで、前記基体に固定されるように構成することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、電解電流密度の均一化が容易な電解用電極を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について、添付図面を参照して説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る電解用電極の断面図であり、電解槽の陽極として用いた場合を示している。
【0012】
図1に示すように、電解用電極1は断面円弧状に形成されており、本実施形態においては、2つの電解用電極1,1が半円状に配置されて、電解槽2の槽壁を兼ねている。電解用電極1,1の内面側には、回転駆動可能なドラム状の陰極4が、周方向に沿って隙間が略一定となるように、間隔をあけて配置されている。電解槽2には、隣接する2つの電解用電極1,1間に設けられた給液部2aを介して電解液Lを供給することができ、供給された電解液Lは、矢示のように電解用電極1,1と陰極4との間を通過し、電解槽2の左右両側に設けられた排出溝2b,2bから外部に排出される。
【0013】
図2は、電解用電極1の要部を拡大して示す断面図であり、図3は、これを更に拡大して示す断面図である。図2及び図3に示すように、電解用電極1は、断面円弧状の基体10の内面側(図1の陰極4に面する側)に、同じく断面円弧状の電極板12が複数配置されて構成されている。電極板12は、外方に突出するボス12aが基体10の貫通孔10aに挿通されており、電極板12と給電板16との間に基体10を挟持して、給電板16の外面側(図1の陰極4とは反対側)からボルト18をボス12aの頭部に螺合することで、電極板12が基体10に固定されている。基体10は、例えばチタン板から構成することができ、電極板12は、例えばチタン板の内面側を酸化イリジウムなどでコーティングした不溶性電極とすることができる。
【0014】
電極板12と基体10との間、及び、基体10と給電板16との間には、リング状に形成されたゴム材などの絶縁性を有する弾性体20,22が介在されている。
【0015】
各電極板12は、基体10の内面全体を覆うように整列配置されており、それぞれの間には絶縁用の隙間Sが確保されている。各電極板12には、給電板16に接続された単芯電線からなる配線16aを介して、矢示方向に電流を供給することができ、個別に給電可能に構成されている。
【0016】
上記の構成を有する電解用電極1によれば、各電極板12と陰極4との電極間距離にばらつきが生じて電流密度が不均一になるおそれがある場合、従来のように電極間距離を調整するのではなく、各電極板12に給電する電流値を個別に調整することができる。具体的には、測定した電極間距離が小さいときには給電電流値を大きくする一方、電極間距離が大きいときには給電電流値を小さくすることにより、陰極の電流密度分布を均一化することができ、給電電流値の調整のみで、析出金属の厚みを容易に均一化することができる。電極間距離と給電電流値とは、上記のように反比例の関係にあるため、電極間距離に対応する給電電流値を予めテーブル化または数式化しておくことで、電極板12毎の給電電流値をより容易に決定することができる。
【0017】
また、基体10と電極板12との間に絶縁性の弾性体20が介在された状態で、電極板12が基体10に固定されているため、電解槽2に貯留された電解液Lの漏出を確実に防止できると共に、基体10と電極板12との間における電気的な絶縁を確保することができる、
更に、基体10と給電板16との間にも弾性体22が介在されることにより、給電板16を介した電極板12への安定した給電が可能になり、給電電流値の調整により電流密度を確実に制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態に係る電解用電極の断面図である。
【図2】図1に示す電解用電極の要部を拡大して示す断面図である。
【図3】図1に示す電解用電極の要部を更に拡大して示す断面図である。
【図4】従来の電解用電極の要部断面図である。
【図5】図4に示す電解用電極の全体構成を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0019】
1 電解用電極
10 基体
10a 貫通孔
12 電極板
12a ボス
16 給電板
18 ボルト
20,22 弾性体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転可能な陰極に対して間隔をあけて配置される陽極として用いられる電解用電極であって、
断面円弧状の基体と、該基体の内面側に配置された複数の電極板とを備え、前記各電極板に対して個別に給電可能に構成されている電解用電極。
【請求項2】
前記基体と前記電極板との間には、絶縁性の弾性体が介在されている請求項1に記載の電解用電極。
【請求項3】
前記電極板は、外方に突出するボスが前記基体の貫通孔に挿通されており、給電板との間に絶縁性の弾性体を介して前記基体を挟持し、前記給電板の外面側からボルトを前記ボスの頭部に螺合することで、前記基体に固定される請求項2に記載の電解用電極。



【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2010−132993(P2010−132993A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−311801(P2008−311801)
【出願日】平成20年12月8日(2008.12.8)
【出願人】(593204292)株式会社昭和 (5)