説明

電解質分析方法および電解質分析装置

【課題】予め希釈内部標準液の希釈倍率を求めておき、その値を都度参照することにより、その変動が、通常の範囲内のものなのか、異常であるかを判断できるようにすること。
【解決手段】電解質分析装置400は、試料と希釈液とを混合し、希釈試料溶液を生成するための希釈用容器131と、希釈用容器131に試料を供給する試料供給手段と、希釈用容器131に希釈液を供給する希釈液供給手段と、希釈用容器131の希釈試料溶液を取り出して当該希釈試料溶液に含まれる被測定成分である電解質濃度を測定する測定手段と、前記希釈内部標準液の希釈倍率を算出する算出手段と、希釈用容器131に内部標準液を供給する内部標準液供給手段と、希釈液供給用ポンプ122と内部標準液供給用ポンプ162と廃液用ポンプ153とを連結する駆動板171を備える。希釈液には、予め一定量の被測定成分と同一のイオンを含む塩を添加する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、イオン選択性電極を用いた測定部に、希釈した試料を供して試料の電解質濃度を測定する電解質分析方法および電解質分析装置にかかり、特に尿や血清等の電解質(Na:ナトリウム、K:カリウム、Cl:塩素、Ca:カルシウムなど)濃度を測定する電解質分析方法および電解質分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、尿や血清等の電解質濃度を測定する装置として、イオン選択性電極を使用した電解質分析装置が知られている。このような装置としては、イオン選択性電極と比較電極とを用いて、試料を希釈液で希釈することによって生成した希釈試料溶液の起電力を計測し、また、比較用の基準液の起電力を計測する。そして、これら希釈試料溶液と基準液とのそれぞれの計測データを基に、希釈試料溶液に含まれる被測定成分である電解質濃度を測定するようになっている。
【0003】
具体的には、まず、尿や血清等の試料を希釈用容器にて希釈するとともに、この希釈した希釈試料溶液をイオン選択性電極が用いられた電極部に導き、試料の電解質濃度に対応した起電力を計測する。引き続き、希釈内部標準液を、希釈用容器を介して電極部へ導き、希釈内部標準液の起電力を計測する。そして、上述した試料の起電力と内部標準液の起電力との差から試料の電解質濃度を求めるものである(例えば、下記特許文献1参照)。この方法によれば常に希釈内部標準液を参照して測定を行うため、従来の希釈済みの内部標準液をボトルに充填したものを測定する方法に比べて、温度変動の影響を受けにくいというメリットを有している。
【0004】
【特許文献1】特開平10−62375号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、このような電解質分析装置では、電極が急激に出力低下を起こした場合にその変化に追従してしまうため、異常を検出することができずに、不正確な分析結果を出力してしまうという不具合が起きていた。また、従来の電解質分析装置においては、試料や希釈液を排出するために、複数(例えば3個)のシリンジ(ポンプ)を使用するため、モータが3個必要となり、モータからのノイズや発熱などによって、測定異常を引き起こすという問題もあった。
【0006】
この発明は、上述した従来技術による問題点を解消するため、予め、希釈内部標準液の希釈倍率を求めておき、その値を都度参照することにより、その変動が、通常の範囲内のものなのか、異常なものなのかを判断することができる電解質分析方法および電解質分析装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するため、本発明にかかる電解質分析方法は、希釈用容器に試料を供給する試料供給工程と、前記希釈用容器に希釈液を供給する希釈液供給工程と、前記希釈用容器に供給された前記試料と前記希釈液とを混合して希釈試料溶液を生成する試料希釈工程と、前記希釈用容器の前記希釈試料溶液を取り出しながら当該希釈試料溶液に含まれる被測定成分である電解質濃度を測定する希釈試料測定工程と、希釈用容器に内部標準液を供給する内部標準液供給工程と、前記希釈用容器に供給された前記内部標準液と、前記希釈液供給工程により前記希釈用容器に供給された希釈液とを混合して希釈内部標準液を生成する内部標準液希釈工程と、前記希釈用容器の前記希釈内部標準液を取り出しながら当該希釈内部標準液に含まれる被測定成分である電解質濃度を測定する希釈内部標準液測定工程と、前記希釈内部標準液の希釈倍率を算出する算出工程と、を含む電解質分析方法であって、前記希釈液に予め一定量の被測定成分と同一のイオンを含む塩を添加することを特徴とする。
【0008】
この発明によれば、希釈液供給工程を利用し、希釈液のみを取り出しながら当該希釈液に含まれる被測定成分である電解質濃度を測定する希釈液測定工程を追加し、内部標準液の希釈倍率を求め、異常値の検出を容易にすることができる。
【0009】
また、上記発明において、前記算出工程にて算出された前記希釈内部標準液の希釈倍率が予め設定した所定範囲内にあるか否かを判定する判定工程と、前記判定工程にて、前記希釈内部標準液の希釈倍率が予め設定した所定範囲内にないと判定された場合に、所定の異常を通知する旨の情報を出力する通知制御工程と、をさらに含むこととしてもよい。
【0010】
この発明によれば、希釈倍率が予め設定した所定範囲内にない場合に、異常である旨を通知することができる。
【0011】
また、上記発明において、前記希釈試料測定工程または前記希釈内部標準液測定工程の後に、洗浄液として希釈内部標準液を用いて洗浄を行う希釈用容器洗浄工程をさらに含むこととしてもよい。
【0012】
この発明によれば、電解質濃度測定用電極の測定起電力変化を抑制し、電極の応答性を高め、より安定した測定結果を得ることができる。
【0013】
また、上記発明において、前記内部標準液供給工程では、希釈試料溶液の被測定成分ごとに予め設定される電解質濃度に応じて、内部標準液の供給量を可変にして、希釈試料溶液の電解質濃度に近い希釈内部標準液を供給することとしてもよい。
【0014】
この発明によれば、測定起電力の差を抑制し、温度変動による測定結果への影響を抑制するとともに電極の応答性を高め、より安定した測定結果を得ることができる。
【0015】
また、本発明にかかる電解質分析装置は、試料または内部標準液に、予め一定量の被測定成分と同一のイオンを含む塩を添加した希釈液を混合し、希釈試料溶液または希釈内部標準液を生成するための希釈用容器と、前記希釈用容器に前記試料を供給する試料供給手段と、前記希釈用容器に前記内部標準液を供給する内部標準液供給手段と、前記希釈用容器に前記希釈液を供給する希釈液供給手段と、前記希釈用容器の前記希釈試料溶液、前記希釈内部標準液または希釈液を取り出しながら、当該希釈試料溶液、当該希釈内部標準液または当該希釈液に含まれる被測定成分である電解質濃度を測定する測定手段と、前記希釈内部標準液の希釈倍率を算出する算出手段と、を備えたことを特徴とする。
【0016】
この発明によれば、分析装置が異常値を出力した場合でもその検出を容易にすることができる。
【0017】
また、上記発明において、前記算出工程にて算出された前記希釈内部標準液の希釈倍率が予め設定した所定範囲内にあるか否かを判定する判定手段と、前記判定手段によって、前記希釈内部標準液の希釈倍率が予め設定した所定範囲内にないと判定された場合に、所定の異常を通知する旨の情報を出力する通知制御手段と、をさらに備えることとしてもよい。
【0018】
この発明によれば、希釈倍率が予め設定した所定範囲内にない場合に、異常である旨を通知することができる。
【0019】
また、上記発明において、希釈試料溶液または希釈内部標準液測定後に、洗浄液として希釈内部標準液を用いて洗浄を行う希釈用容器洗浄手段をさらに備えることとしてもよい。
【0020】
この発明によれば、電解質濃度測定用電極の測定起電力変化を抑制し、電極の応答性を高め、より安定した測定結果を得ることができる。
【0021】
また、上記発明において、前記内部標準液供給手段は、希釈試料溶液の被測定成分ごとに予め設定される電解質濃度に応じて、内部標準液の供給量を可変にして、希釈試料溶液の想定される電解質濃度に近い希釈内部標準液を供給することとしてもよい。
【0022】
この発明によれば、温度変動による測定結果への影響を抑制するとともに電極の応答性を高め、より安定した測定結果を得ることができる。
【0023】
また、上記発明において、測定後の希釈液、測定後の希釈試料溶液または測定後の希釈内部標準液を排出する廃液用駆動部、使用する希釈液供給駆動部および内部標準液供給用駆動部と、廃液用電磁弁、希釈液供給用電磁弁および内部標準液供給用電磁弁の動作タイミングを調節する調整手段と、をさらに備え、前記廃液用駆動部、前記希釈液供給駆動部、前記内部標準液供給用駆動部は、単一の駆動部によって構成されることとしてもよい。
【0024】
この発明によれば、部品点数を減らし、製造コストを下げるとともに、コンパクトで、測定結果に影響を与えるモータの発熱も抑制することができる。
【0025】
これらの発明によれば、電極が急激に出力低下を起こした場合にもその変動が、通常の範囲内のものなのか、異常であるかを判断することができるため、常に安定した測定結果を得ることができる。また、単一のモータを用いることにより、安価でシンプルかつモータの発熱を抑制した電解質分析装置を提供することが可能である。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、ナトリウム、カリウム、塩素などを測定する場合に、使用する希釈液に予め一定量の塩として、ナトリウムイオン、カリウムイオン、塩素イオンが微量存在するように、添加することにより、校正時に内部標準液の希釈倍率を算出しておくことが可能となる。したがって、必要に応じてこの算出した値を参照することにより、電極が急激に出力低下を起こした場合にも、操作者は、その変動が通常の範囲内のものなのか、異常であるかを判断することができるようになるため、常に安定した測定結果を得ることができる。
【0027】
また、単一のモータを用いることにより、構造が簡単になり、機器コストおよび製造コストの低減はもとより、電解質測定の妨げになりやすいノイズの低減、余計な廃熱の排除や、メンテナンスコストの低減などが可能となる。特に、ノイズの低減や、余計な廃熱の排除により、安定した測定結果を得ることができる。
【0028】
また、検体種別によっては希釈試料溶液と希釈内部標準液の起電力の差が大きくなり、電極の応答性や温度変動の影響を受けやすくなるような場合でも、予め検体種別が判っていれば、内部標準液の投入量を加減し、想定される希釈試料溶液の濃度に近い希釈内部標準液を供給し、測定起電力の差を抑制することにより、温度変動による測定結果への影響を抑制し、かつ電極の応答性を高められるので、より安定した測定結果を提供することが可能である。
【0029】
さらに、希釈試料溶液測定後の洗浄に希釈内部標準液を用いることにより、通常の希釈液で洗浄を行うよりも、次の測定に対する電極の応答性を向上させることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下に添付図面を参照して、この発明にかかる電解質分析方法および電解質分析装置の好適な実施の形態を詳細に説明する。
【0031】
図1は、本発明の実施の形態にかかる電解質分析装置の構成図である。電解質分析装置100は、試料供給手段110と、希釈液供給手段120と、試料希釈手段130と、測定手段140と、廃液手段150と、内部標準液供給手段160とを備えて構成されている。
【0032】
試料供給手段110は、図中を上下左右方向に移動可能な可動式クレーン111と、可動式クレーン111に設けられた試料分注ノズル112とを備える。試料分注ノズル112は配管113に接続されている。試料供給手段110は、図示されていないが、試料分注ノズル112の内壁および外壁を洗浄する洗浄機構を併せ持つ。
【0033】
可動式クレーン111の移動途中には、試料容器114が設けられている。試料容器114には、例えば尿や血清等の試料115が収容されている。可動式クレーン111を移動させ、吸入動作することにより、試料分注ノズル112は、試料容器114から一定量だけ試料115を分取する。分取された試料115は、可動式クレーン111を移動させ、試料希釈手段130の希釈用容器131に分注される。なお、本発明の電解質分析装置が、自動分析装置のユニットとして供される場合には、試料供給手段110は自動分析装置本体に具備されている場合があり、必ずしも必要ない。
【0034】
希釈液供給手段120は、希釈液容器121と、希釈液供給用ポンプ122と、電磁弁123と、吸入配管124と、ポンプ接続配管125と、供給配管127と、希釈液送出ノズル126とにより構成されている。希釈液には、例えばトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン水溶液、モノメタノールアミン水溶液、ジエタノールアミン水溶液、トリエタノールアミン水溶液の、硫酸、リン酸、硼酸緩衝液などや、MOPS、HEPES等のグッド緩衝液が用いられる。
【0035】
特に、本実施の形態において、これらの希釈液に一定量の塩、例えばナトリウム、カリウム、塩素を測定する分析装置に使用する希釈液であれば、ナトリウム、カリウム、塩素を内部標準液の1%程度の濃度になるよう添加しておく。例えば、内部標準液のナトリウム濃度が140mmol/Lであれば1.4mmol/L、内部標準液のカリウム濃度が4mmol/Lであれば0.04mmol/L、内部標準液の塩素濃度が100mmol/Lであれば1mmol/L、の濃度になるよう添加しておく。なお、内部標準液は、内部標準液容器161に収容されており、試料115を計測するにあたり、比較用の基準となる液体である。
【0036】
希釈液送出ノズル126は、希釈用容器131に向けて希釈液を送出する。希釈液供給用ポンプ122の動作により、吸入配管124を通じて、希釈液容器121から所定量の希釈液を分取し、希釈用容器131に送出する。この希釈液によって、希釈用容器131に分注された試料115を希釈することにより、例えば30倍程度に希釈された希釈試料溶液が生成される。
【0037】
試料希釈手段130の希釈用容器131内部には、攪拌機構132が設けられる。攪拌機構132は、試料供給手段110によって、試料容器114から一定量だけ分注された試料115と、希釈液供給手段120によって希釈液容器121から所定量だけ送出された希釈液とを混合し、均一な希釈試料溶液を生成する。希釈試料溶液または希釈液(希釈内部標準液も併せて、これらを測定液と称する)は、希釈用容器131から取り出されて測定手段140に送り出される。
【0038】
測定手段140は、希釈用容器131に接続された測定液供給配管141と、測定液が通過する経路上に設けられる複数の電極部142(142a〜142d)と、電極部142の起電力を計測する起電力計測部143と、電極部142を通過後の測定液が通る排出配管144とを備えて構成されている。
【0039】
電極部142は、イオン選択性電極142a〜142cおよび比較電極142dを備えている。イオン選択性電極142a〜142cは、例えば、Na、K、Cl等の特定のイオンに感応した電位差を出力する電極である。これらイオン選択性電極142a〜142cおよび比較電極142dは、希釈用容器131から取り出されて測定液供給配管141から送られた測定液のそれぞれの電位を出力する。より詳細に説明すると、イオン選択性電極142a〜142cおよび比較電極142dは、測定液供給配管141から送られてきた測定液が電極部142を通過する際に、この通過する測定液のそれぞれのイオン選択性電極142a〜142cと比較電極142dとの間の所定の電位差を計測する。
【0040】
起電力計測部143は、電極部142を通じて測定液供給配管141を通過する希釈試料溶液および希釈内部標準液のそれぞれの起電力を計測する。すなわち、起電力計測部143は、測定液供給配管141を介して希釈試料溶液が送られてきたときには、イオン選択性電極142a〜142cが示した電位と、比較電極142dが示した電位との電位差を計測する。また、測定液供給配管141を介して希釈内部標準液が送られてきたときには、同様にイオン選択性電極142a〜142cが示した電位と比較電極142dが示した電位との電位差を計測する。
【0041】
さらに、内部標準液の希釈倍率を求める際は、希釈液のみを電極部142へ送出し、イオン選択性電極142a〜142cが示した電位と比較電極142dが示した電位との電位差を計測する。
【0042】
ここで、希釈倍率の算出手法について、説明する。検量線作成段階で、高濃度標準液の濃度をCH、低濃度標準液の濃度をCL、内部標準液の濃度をCM、希釈液の濃度をCb、Sを測定電極のスロープ感度、E0を測定電極の標準電位、Srをリファレンス電極のスロープ感度、Erをリファレンス電極の標準電位、Crをリファレンス液の濃度、とし、高濃度標準液と低濃度標準液の希釈倍率をr、内部標準液の希釈倍率をrmとした場合、
希釈高濃度標準液の測定用電極とリファレンス電極の測定電位差EHは、
EH=E0+S・log(((r−1)・Cb+CH)/r)−Er−Sr・logCr・・・(1)式
希釈低濃度標準液の測定用電極とリファレンス電極の測定電位差ELは、
EL=E0+S・log(((r−1)・Cb+CL)/r)−Er−Sr・logCr・・・(2)式
希釈内部標準液の測定用電極とリファレンス電極の測定電位差EMは、
EM=E0+S・log(((rm−1)・Cb+CM)/rm)−Er−Sr・logCr・・・(3)式
(1)式−(3)式、および(2)式−(3)式より、上式は、
EH−EM=S・log(((r−1)・Cb+CH)/r)−S・log(((rm−1)・Cb+CM)/rm)・・・(4)式
EL−EM=S・log(((r−1)・Cb+CL)/r)−S・log(((rm−1)・Cb+CM)/rm)・・・(5)式
ここで、濃度Cbを持った希釈液の測定用電極とリファレンス電極の電位差Eb測定を行い、
Eb=E0+S・logCb−Er−Sr・logCr・・・(6)式
(3)式−(6)式より、
EM−Eb=S・log(((rm−1)・Cb+CM)/rm)−S・logCb・・・(7)式
となり
S・log(((rm−1)・Cb+CM)/rm)=EM−Eb+S・logCb・・・(8)式
(4)式、(5)式に(8)式を代入することにより、Sおよびrを求めることが可能になる。さらに求められたSと実測値のEM−Ebにより(8)式より内部標準液の希釈倍率rmを求める。分析中または分析の合間にEbを測定することによりrmを算出し、予め決めておいた閾値を外れた場合は異常として出力することが可能になる。
【0043】
ここで、測定された電位差を元に内部標準液の希釈倍率を算出する具体例をナトリウム測定で示す。検量線作成段階で、高濃度標準液の濃度を160mmol/L、低濃度標準液の濃度を130mmol/L、内部標準液の濃度を140mmol/L、希釈液の濃度を1.4mmol/L、Sをスロープ感度、高濃度標準液と低濃度標準液の希釈倍率をr、内部標準液の希釈倍率をrmとし、
希釈高濃度標準液と希釈内部標準液との測定電位差が、EH−EM=2.2mV
希釈低濃度標準液と希釈内部標準液との測定電位差が、EL−EM=−2.0mV
希釈内部標準液と希釈液の測定電位差が、EM−Eb=37mV
であった場合、
EH−EM=S・log(((r−1)・1.4+160)/r)−S・log(((rm−1)・1.4+140)/rm)=2.2・・・(11)式
EL−EM=S・log(((r−1)・1.4+130)/r)−S・log(((rm−1)・1.4+140)/rm)=−2.0・・・(12)式
EM−Eb=S・log(((rm−1)・1.4+140)/rm)−S・log1.4=37・・・(13)式
(13)式より
S・log(((rm−1)・1.4+140)/rm)=37+S・log1.4・・・(14)式
(11)式、(12)式に(14)式を代入することにより、近似値としてS≒61.5およびr≒33.9が求められる。
S=61.5を(14)式に代入し、近似値としてrm≒33.0が求められる。
【0044】
廃液手段150は、電磁弁151と、ポンプ接続配管152と、廃液用ポンプ153と、廃液配管154と、廃液容器155とにより構成されている。電磁弁151は、排出配管144の一端に接続されている。ポンプ接続配管152の一端は、電磁弁151に接続され、他端は、廃液用ポンプ153に接続されている。廃液配管154の一端は、電磁弁151に接続されており、他端は開放されている。この廃液配管154の開放された一端の下部には、滴下した廃液を受け止める廃液容器155が設置されている。そして、廃液用ポンプ153の動作により希釈用容器131に貯留された測定液は、測定手段140を通過するように取り出され、測定手段140により測定された後に廃液容器155に排出される。
【0045】
すなわち、電極部142を通過した測定液は、排出配管144を通り、電磁弁151を介して、一旦廃液用ポンプ153に溜め込まれる。その後、電磁弁151を切り替えることによって、廃液用ポンプ153から送出される廃液は、電磁弁151を介して、廃液配管154を通過して廃液容器155に排出される。
【0046】
内部標準液供給手段160は、内部標準液容器161と、内部標準液供給用ポンプ162と、電磁弁163と、吸入配管164と、ポンプ接続配管165と、供給配管167と、内部標準液送出ノズル166とにより構成されている。電磁弁163を供給配管167側に切り替えることにより、内部標準液送出ノズル166から内部標準液容器161の内部標準液を所定量供給することができる。
【0047】
供給された内部標準液は希釈液供給手段120によって、希釈用容器131内で所定の希釈倍率にて希釈され、希釈内部標準液として測定に供される。また、内部標準液供給手段160は希釈試料溶液測定後の試料希釈手段130および測定手段140の洗浄にも用いられる。
【0048】
図2は、本実施の形態に用いられる制御部を示すブロック図である。制御部200は、マイクロコンピュータシステムからなり、駆動制御部201と、測定処理部202と、タイマー203とを備えている。
【0049】
駆動制御部201は、操作部210からの入力情報に基づいて、予め格納されたプログラムによって、可動式クレーン111と、電磁弁123と、希釈液供給用ポンプ122と、電磁弁163と、内部標準液供給用ポンプ162と、電磁弁151と廃液用ポンプ153を駆動制御する。具体的には、駆動制御部201は、可動式クレーン111の位置を決定し、図示しない移動機構に制御信号を送出することにより、移動機構が図1に示すX方向に向かって移動し、試料分注ノズル112を所定の位置に移動させる。また、駆動制御部201は、電磁弁123、電磁弁151、電磁弁163へ弁の切替信号を送出し、希釈液供給用ポンプ122、廃液用ポンプ153、内部標準液供給用ポンプ162に対して動作の制御信号を送出する。
【0050】
測定処理部202には、起電力計測部143で計測した起電力が入力され希釈試料溶液の電解質濃度を測定し、ディスプレイなどの表示部220に測定結果を表示させる。具体的には、測定処理部202は、起電力計測部143で計測した起電力に基づいて、測定液供給配管141から送られてきた希釈試料溶液に含まれる被測定成分(Na、K、Cl)の電解質濃度を測定し、各成分の数値を表示部220に表示させる。
【0051】
また、測定処理部202は、起電力計測部143を介して内部標準液の希釈倍率算出を行うことにより、測定結果を常時監視し、異常が認められた際は表示部220に異常であることを表示し、誤った測定結果の使用を阻止する。なお、測定処理部202は、本発明の算出手段、判定手段および通知制御手段に相当する。
【0052】
タイマー203は、測定終了後の時間を計測する。例えば、測定液の1回の測定ごとに計測を開始する。このタイマー203は、測定処理部202から測定液の1回の測定終了の情報が送出されると、時間の計測を始め、所定の時間が経過したとき、タイムアップの計測情報を駆動制御部201に送出する。駆動制御部201は、タイムアップの計測情報が入力されると、測定が行われない待機状態になる。
【0053】
図3−1および図3−2は、本実施の形態におけるキャリブレーション処理の概略例を示すフローチャートである。図3−1および図3−2において、制御部200は、キャリブレーションを行うか否かを判断する(ステップS101)。キャリブレーションの開始は、操作部210による測定開始の操作入力によって開始される。キャリブレーションを行わない場合(ステップS101:No)、図3−3以降に後述する測定処理に移行する。キャリブレーションが開始されると(ステップS101:Yes)、駆動制御部201の指示により、希釈液容器121の希釈液を希釈用容器131に送出する(ステップS102)。この希釈液は起電力計測部143に導かれ、起電力が計測される(ステップS103)。計測終了後に希釈液は排出される(ステップS104)。
【0054】
次に、希釈液容器121の希釈液を希釈用容器131に送出する(ステップS105)。そして、制御部200より内部標準液吐出量情報を受信した内部標準液供給手段160は、内部標準液を当該吐出量情報に基づき希釈用容器131に送出する(ステップS106)。次に、希釈用容器131の希釈液および内部標準液を攪拌機構132により攪拌し、希釈内部標準液を生成する(ステップS107)。この希釈内部標準液は起電力計測部143に導かれ、起電力が計測される(ステップS108)。計測終了後に希釈内部標準液は排出される(ステップS109)。
【0055】
次に、希釈液容器121の希釈液を希釈用容器131に送出し(ステップS110)、試料容器114の高濃度標準液を希釈用容器131に分注する(ステップS111)。そして、希釈用容器131内の希釈液および高濃度標準液を攪拌機構132により攪拌し、希釈高濃度標準液を生成する(ステップS112)。この希釈高濃度標準液は、起電力計測部143に導かれ、起電力が計測され(ステップS113)、計測終了後に希釈高濃度標準液は排出される(ステップS114)。
【0056】
次に、ステップS110〜ステップS114の過程と同様に希釈低濃度標準液の起電力測定が行われ、計測終了後に希釈低濃度標準液は排出される(ステップS115〜ステップS119)。計測された起電力情報は、制御部200の測定処理部202によって処理され、電極のスロープおよび各標準液の希釈倍率が算出される(ステップS120)。算出されたスロープおよび希釈倍率は、測定処理部202によって予め設定された情報に基づきその妥当性が判断され(ステップS121)、妥当な場合(ステップS121:Yes)は、キャリブレーション処理を終了し、図3−3以降に後述する測定処理を行う。
【0057】
また、妥当でないと判断された場合(ステップS121:No)は再度、測定処理部202によって予め設定された情報に基づきメンテナンスの必要性の有無が判断され(ステップS122)、必要であれば(ステップS122:Yes)、測定を中止し、メンテナンスを行い(ステップS123)、ステップS101に移行する。メンテナンスの必要がないと判断された場合(ステップS122:No)は、再度キャリブレーションを行うため、ステップS102に移行する。
【0058】
図3−3および図3−4は、本実施の形態における測定処理の概略例を示すフローチャートである。図3−3および図3−4において、制御部200は、試料測定の開始か否かを判断する(ステップS124)。試料測定は、操作部210による測定開始の操作入力によって開始され、それまでの間は待機している(ステップS124:Noのループ)。測定が開始されると(ステップS124:Yes)、駆動制御部201の指示により、希釈液容器121の希釈液を希釈用容器131に送出する(ステップS125)。そして、制御部200より内部標準液吐出量情報を受信した内部標準液供給手段160は内部標準液を当該吐出量情報に基づき希釈用容器131に送出する(ステップS126)。
【0059】
次に、希釈用容器131の希釈液および内部標準液を攪拌機構132により攪拌し、希釈内部標準液を生成する(ステップS127)。この希釈内部標準液は起電力計測部143に導かれ、起電力が計測される(ステップS128)。計測終了後に希釈内部標準液は排出される(ステップS129)。次に、希釈液容器121の希釈液を希釈用容器131に送出する(ステップS130)。そして、試料容器114の試料を希釈用容器131に分注する(ステップS131)。そして、希釈用容器131内の希釈液および試料を攪拌機構132により攪拌し、希釈試料溶液を生成する(ステップS132)。この希釈試料溶液は、起電力計測部143に導かれ、起電力が計測される(ステップS133)。計測終了後に希釈試料溶液は排出される(ステップS134)。
【0060】
その後、希釈液容器121の希釈液を希釈用容器131に送出する(ステップS135)。そして、制御部200より内部標準液吐出量情報を受信した内部標準液供給手段160は、内部標準液を当該吐出量情報に基づき希釈用容器131に送出する(ステップS136)。次に、希釈用容器131の希釈液および内部標準液を攪拌機構132により攪拌し、希釈内部標準液を生成する(ステップS137)。この希釈内部標準液は、希釈用容器131と電極部142の洗浄に用いるため、起電力の計測は行わずに排出される(ステップS138)。これにより、希釈液のみを用いた洗浄よりも、イオン選択性電極142a〜142cおよび比較電極142dの測定起電力変化を抑制することにより電極の応答性を高め、安定した計測値算出に貢献することが可能になる。
【0061】
これらの計測結果に基づき、制御部200の測定処理部202は、希釈試料溶液に含まれる被測定成分である電解質濃度を算出し(ステップS139)、予め設定された情報に基づき、その結果が妥当であるかを判断する(ステップS140)。結果が妥当な場合(ステップS140:Yes)、次の試料測定の予定がなければ(ステップS141:No)、処理を終了する。次の試料測定の予定があれば(ステップS141:Yes)、測定に備え待機状態に戻る(ステップS124:Noのループ)。また、結果が妥当でない場合(ステップS140:No)、装置の異常の有無を判断する必要があれば、すなわち、希釈倍率を測定する必要があれば(ステップS142:Yes)、希釈倍率の測定工程(ステップS144〜ステップS151)を行い、制御部200の測定処理部202によって希釈倍率を算出(ステップS152)する。
【0062】
そして、予め設定された閾値に基づきその妥当性が判断され、閾値以内であれば(ステップS153:Yes)、試料供給手段110の異常が考えられるため、測定を中断し、試料供給手段110のメンテナンスを行う(ステップS154)。閾値から外れた場合(ステップS153:No)、測定を中断し、電解質分析装置100のメンテナンスを行う(ステップS155)。
【0063】
また、ステップS142において、希釈倍率を測定する必要がなければ(ステップS142:No)、次の試料測定の予定があるか否かを判断する(ステップS143)。次の試料測定の予定がなければ(ステップS143:No)、処理を終了する。次の試料測定の予定があれば(ステップS143:Yes)、測定に備え待機状態に戻る(ステップS124:Noのループ)。
【0064】
なお、ステップS140において、測定結果が妥当でない場合(ステップS140:No)の希釈倍率の測定判断(ステップS142)は、電解質分析装置100の操作者が行うことも可能であるし、電解質分析装置100が判断することも可能である。
【0065】
上述した図3−3および図3−4に示した希釈試料溶液の測定の詳細について、図1を用いて説明する。説明の便宜上、吸入配管124につながる電磁弁123が閉状態になっているものとする。また、初期状態として、希釈液が吸入配管124に送出されてこの吸入配管124内に存在しているものとする。
【0066】
この状態から、電磁弁123を開状態にして、希釈液供給用ポンプ122の動作により、開通状態になった供給配管127に滞留する希釈液を、希釈液送出ノズル126を通じて希釈用容器131に送出する。
【0067】
次に、内部標準液を希釈用容器131に送出する動作を行う。初期状態として、吸入配管164につながる電磁弁163が閉状態になっているものとする。この状態から電磁弁163を開状態にして、内部標準液供給用ポンプ162の動作により、開通状態になった供給配管167に滞留する内部標準液を、内部標準液送出ノズル166を通じて、希釈用容器131に分注する。この後、攪拌機構132によって攪拌され、内部標準液と希釈液とが均一に混合された希釈内部標準液が生成される。
【0068】
次に、希釈用容器131で生成された希釈内部標準液は、廃液用ポンプ153の吸引動作により測定液供給配管141へ導かれる。そして、希釈内部標準液は、測定液として電極部142を通過する。このとき、起電力計測部143がイオン選択性電極142a〜142cおよび比較電極142dを通じて希釈内部標準液の電位差を計測する。その後、希釈内部標準液は、廃液容器155に導かれて廃棄される。
【0069】
この後、上述した一連のプロセスと同様の処理で希釈試料溶液の起電力を測定する。具体的には、試料分注ノズル112は、試料容器114に収容された試料115を一定量だけ分取し、この分取した試料を希釈液が送出されている希釈用容器131に分注する。この後、攪拌機構132によって攪拌され、試料と希釈液とが均一に混合された希釈試料溶液が生成される。
【0070】
次に、希釈用容器131で生成された希釈試料溶液が希釈用容器131から廃液用ポンプ153の吸引動作により、測定液供給配管141へ導かれる。この際、希釈試料溶液は、電極部142を通過する。このとき、起電力計測部143がイオン選択性電極142a〜142cおよび比較電極142dを通じて希釈試料溶液の起電力を計測する。その後、希釈試料溶液は、廃液容器155に導かれて廃棄される。
【0071】
そして、制御部200の測定処理部202は、電極部142および起電力計測部143によって計測された希釈試料溶液の起電力および希釈内部標準液の起電力に基づいて、希釈試料溶液に含まれる被測定成分である電解質濃度を算出する。
【0072】
この後、可動式クレーン111が移動し、試料分注ノズル112を図示していないが、洗浄位置に配置させる。そして、試料分注ノズル112が洗浄される。一方、希釈用容器131は上述した内部標準液に対する起電力測定プロセスと同様に、希釈液と内部標準液を希釈用容器131内で混合、攪拌することにより洗浄液として希釈用容器131の洗浄に用いられるとともに、測定手段140の洗浄を行う。
【0073】
希釈用容器洗浄後さらに、制御部200により内部標準液の希釈倍率測定が必要と判断された場合は、上述の希釈試料溶液の生成プロセスまたは希釈内部標準液生成プロセス同様に、希釈液供給用ポンプ122により希釈液が希釈用容器131に供給され、起電力計測部143により希釈液のみの起電力が計測され、希釈内部標準液の起電力と希釈液の起電力の差を算出することにより、測定処理部202により内部標準液の希釈倍率算出に用いられる。
【0074】
この後も測定が行われる場合は、上述した測定のプロセスが繰り返される。このようにして、電解質分析装置100による1回の測定が行われる。
【0075】
(電解質分析装置の他の一例)
次に、図4および図5を用いて、本実施の形態に用いる電解質分析装置の他の一例について説明する。図4は、図1の電解質分析装置100における3個のポンプを単一のモータにて動作させる際の電解質分析装置の構成図である。なお、図4に示した電解質分析装置400において、図1に示した電解質分析装置100と同様の構成要素には同様の符号を付し、適宜、詳細な説明を省略する。図5は、図1に示した電解質分析装置100および図4に示した電解質分析装置400のタイミングチャートである。
【0076】
図4において、電解質分析装置400は、希釈液を供給するための希釈液供給用ポンプ122と、内部標準液を供給するための内部標準液供給用ポンプ162と、希釈用容器131内部の測定液を起電力計測部143へ導くとともに廃液容器155へ導く廃液用ポンプ153とを一枚の駆動板171により連結したものであり、この駆動板171が一つのモータで駆動されるように構成されている。
【0077】
希釈試料溶液生成時は、電磁弁123,151および163は閉じられた状態で駆動板171が初期位置から最下点まで下降し(図5の符号501参照)、次に電磁弁123を開状態にし、希釈液供給用ポンプ122が希釈液を必要量吐出するまで駆動板171が上昇し(図5の符号502参照)、希釈液のみが希釈用容器131へ導かれる。そして、希釈液が必要量吐出されると電磁弁123が閉じられ、駆動板171が初期位置まで上昇し余剰の希釈液は希釈液容器121へ戻される。
【0078】
一方、試料分注ノズル112は、試料容器114に収容された試料115を一定量だけ分取し、この分取した試料115を希釈液が送出されている希釈用容器131に分注する。この後、攪拌機構132によって攪拌され、試料115と希釈液とが均一に混合された希釈試料溶液が生成される。
【0079】
次に、希釈内部標準液生成時は、電磁弁123,151,163は閉じられた状態で駆動板171が初期位置から最下点まで下降し(図5の符号511参照)、電磁弁123および163を開状態にし、最初に吐出量の少ない内部標準液を必要量吐出するまで駆動板171が上昇する(図5の符号512参照)。そして、電磁弁163のみを閉じた後、さらに駆動板171が上昇し、希釈液が必要量吐出された後、電磁弁123を閉じ、余剰の希釈液と内部標準液はそれぞれの容器(希釈液容器121および内部標準液容器161)へ戻される。この後、攪拌機構132によって攪拌され、内部標準液と希釈液とが均一に混合された希釈内部標準液が生成される。
【0080】
希釈用容器131に供給された測定液(希釈試料溶液または希釈内部標準液)を起電力計測部143へ導く際は、電磁弁123,151,163を閉じた状態で、測定液が起電力計測部143のイオン選択性電極142a〜142cおよび比較電極内部142dを満たすまで駆動板171が下降し(図5の符号503,513参照)、測定液の起電力を測定後、駆動板171は最下点まで下降し(図5の符号504,514参照)、測定液をすべて廃液用ポンプ153内に導き、その後、電磁弁151を開状態にし、測定液を廃液容器155へ導く。
【0081】
測定液を起電力計測部143へ導く動作を行う際は、希釈試料もしくは希釈内部標準液測定用の希釈液および内部標準液を吐出するための吸引動作も同時並行で行われている(図5の符号501,511参照)。また、測定液を廃液容器155へ導く際は、希釈液もしくは希釈液と内部標準液を希釈用容器131へ導く動作も同時並行して行われている(図5の符号502,512参照)。
【0082】
このように、図4に示した電解質分析装置400は、各電磁弁の動作タイミングを調節するようにし、3個のポンプを1個のモータにて駆動するようにしたので、図1に示した電解質分析装置100と同様に、試料の分析を行うことができるだけでなく、モータからの発熱やノイズを最小限に抑えることができ、安定した分析を行うことができる。また、このような電解質分析装置400によれば、装置のコストダウンを図ることができる。
【0083】
次に、図6および図7を用いて、本実施の形態にかかる電解質分析装置100(400)の電極電位と時間の関係について、説明する。図6は、試料溶液測定後の希釈用容器131の洗浄および測定手段140の洗浄に用いる洗浄液に希釈液を使用した場合の、電極電位と時間の関係を示したグラフである。電極電位Mは、希釈内部標準液測定時の電位を示している。電極電位Sは、希釈試料溶液測定時の電位を示している。電極電位Wは、洗浄時の電位を示している。図6において、洗浄時の電極電位Wは、希釈液の塩濃度が試料溶液や希釈内部標準液に比べ極端に低いため、次に測定される希釈内部標準液の電位差が大きく、応答が鈍くなる傾向にある。これは測定の順序にかかわらず、希釈試料溶液を希釈内部標準液よりも先に測定した場合でも同様である。
【0084】
図7は、試料溶液測定後の希釈用容器131の洗浄および測定手段140の洗浄に用いる洗浄液に希釈内部標準液を使用した場合の、電極電位と時間の関係を示したグラフである。図7においては、洗浄液に希釈内部標準液を用いているために、洗浄時の電極電位Wと次測定の希釈内部標準液の電極電位Mとの電位差がほとんど無い状態で、電極の応答が非常に速いことを示している。
【0085】
これら図6、図7での現象は、血清測定後の尿測定のように検体種別が変わる際の電極の応答速度にも関連し、例えば、血清測定後に尿測定の依頼を受けた場合は、内部標準液供給用ポンプ162から希釈用容器131への内部標準液の供給量を増やし、希釈内部標準液の濃度を高めることにより、希釈内部標準液測定時の電極電位Mと希釈試料溶液測定時の電極電位Sとの差を抑制し、電極の応答性を高め、安定した測定結果を算出することが可能になる。さらに、イオン選択性電極142a〜142cの特性上、電極電位Mと電極電位Sの差が小さいほど、温度変動の影響を受けにくく、安定した測定結果を算出することが可能である。
【0086】
このように、本実施の形態によれば、希釈試料の測定または希釈内部標準液の測定の後に、洗浄液として希釈内部標準液を用いて洗浄を行うようにしたので、電解質濃度測定用電極の測定起電力変化を抑制し、電極の応答性を高め、より安定した測定結果を得ることができる。
【0087】
図8は、本実施の形態にかかる内部標準液の濃度と希釈倍率の関係および閾値を示す図表である。テーブル800において、想定試料濃度801は、希釈試料溶液の想定される電解質濃度である。内部標準液量802は、想定試料濃度801の電解質濃度ごとに、希釈内部標準液を生成する際の液量である。正常希釈倍率803は、希釈内部標準液を希釈する際の倍率である。内部標準液濃度804は、内部標準液量802を正常希釈倍率803にて希釈した際の電解質濃度である。閾値下限805は、希釈倍率の下限値を示している。閾値上限806は、希釈倍率の上限値を示している。
【0088】
このようなテーブル800を用いることにより、想定試料濃度801の各電解質濃度に応じ、内部標準液の供給量を可変にして、希釈試料溶液の電解質濃度に近い希釈内部標準液を供給することが可能である。また、このようなテーブル800は、例えば、図3−4のステップS153において、閾値以内か否かの判断を行う際に用いられる。具体的には、図3−4のステップS153において、テーブル800の閾値下限805および閾値上限806の値を用いる。
【0089】
このように、本実施の形態によれば、内部標準液の供給において、被測定成分の電解質濃度に応じて、内部標準液の供給量を可変にし、希釈試料溶液の電解質濃度に近い希釈内部標準液を供給するようにしたので、測定起電力の差を抑制し、温度変動による測定結果への影響を抑制するとともに電極の応答性を高め、より安定した測定結果を得ることができる。
【0090】
以上説明したように、本実施の形態によれば、例えばナトリウム、カリウム、塩素などを測定する場合に、ナトリウムイオン、カリウムイオン、塩素イオンが微量存在するように、このような塩を一定量希釈液に添加するようにしたので、校正時に内部標準液の希釈倍率を算出しておくことが可能となる。したがって、必要に応じてこの値を参照することにより、電極が急激に出力低下を起こした場合にもその変動が、通常の範囲内のものなのか、異常であるかを操作者が判断することができるようになるため、常に安定した測定結果を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0091】
以上のように、本発明にかかる電解質分析方法および電解質分析装置は、例えば尿や血清等の試料の電解質濃度の安定測定に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】本発明の実施の形態にかかる電解質分析装置の構成図である。
【図2】本実施の形態に用いられる制御部を示すブロック図である。
【図3−1】本実施の形態におけるキャリブレーション処理の概略例を示すフローチャートである。
【図3−2】本実施の形態におけるキャリブレーション処理の概略例を示すフローチャートである。
【図3−3】本実施の形態における測定処理の概略例を示すフローチャートである。
【図3−4】本実施の形態における測定処理の概略例を示すフローチャートである。
【図4】図1の電解質分析装置における3個のポンプを単一のモータにて動作させる際の電解質分析装置の構成図である。
【図5】図1に示した電解質分析装置および図4に示した電解質分析装置のタイミングチャートである。
【図6】試料溶液測定後の希釈用容器の洗浄および測定手段の洗浄に用いる洗浄液に希釈液を使用した場合の、電極電位と時間の関係を示したグラフである。
【図7】試料溶液測定後の希釈用容器の洗浄および測定手段の洗浄に用いる洗浄液に希釈内部標準液を使用した場合の、電極電位と時間の関係を示したグラフである。
【図8】本実施の形態にかかる内部標準液の濃度と希釈倍率の関係および閾値を示す図表である。
【符号の説明】
【0093】
100 電解質分析装置
110 試料供給手段
112 試料分注ノズル
120 希釈液供給手段
122 希釈液供給用ポンプ
123 電磁弁
126 希釈液送出ノズル
130 試料希釈手段
131 希釈用容器
140 測定手段
142 電極部
143 起電力計測部
150 廃液手段
151 電磁弁
153 廃液用ポンプ
160 内部標準液供給手段
162 内部標準液供給用ポンプ
163 電磁弁
171 駆動板
200 制御部
201 駆動制御部
202 測定処理部
203 タイマー
400 電解質分析装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
希釈用容器に試料を供給する試料供給工程と、
前記希釈用容器に希釈液を供給する希釈液供給工程と、
前記希釈用容器に供給された前記試料と前記希釈液とを混合して希釈試料溶液を生成する試料希釈工程と、
前記希釈用容器の前記希釈試料溶液を取り出しながら当該希釈試料溶液に含まれる被測定成分である電解質濃度を測定する希釈試料測定工程と、
希釈用容器に内部標準液を供給する内部標準液供給工程と、
前記希釈用容器に供給された前記内部標準液と、前記希釈液供給工程により前記希釈用容器に供給された希釈液とを混合して希釈内部標準液を生成する内部標準液希釈工程と、
前記希釈用容器の前記希釈内部標準液を取り出しながら当該希釈内部標準液に含まれる被測定成分である電解質濃度を測定する希釈内部標準液測定工程と、
前記希釈内部標準液の希釈倍率を算出する算出工程と、
を含む電解質分析方法であって、
前記希釈液に予め一定量の被測定成分と同一のイオンを含む塩を添加することを特徴とする電解質分析方法。
【請求項2】
前記算出工程にて算出された前記希釈内部標準液の希釈倍率が予め設定した所定範囲内にあるか否かを判定する判定工程と、
前記判定工程にて、前記希釈内部標準液の希釈倍率が予め設定した所定範囲内にないと判定された場合に、所定の異常を通知する旨の情報を出力する通知制御工程と、
をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の電解質分析方法。
【請求項3】
前記希釈試料測定工程または前記希釈内部標準液測定工程の後に、洗浄液として希釈内部標準液を用いて洗浄を行う希釈用容器洗浄工程をさらに含むことを特徴とする請求項1または2に記載の電解質分析方法。
【請求項4】
前記内部標準液供給工程では、希釈試料溶液の被測定成分ごとに予め設定される電解質濃度に応じて、内部標準液の供給量を可変にして、希釈試料溶液の電解質濃度に近い希釈内部標準液を供給することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載の電解質分析方法。
【請求項5】
試料または内部標準液に、予め一定量の被測定成分と同一のイオンを含む塩を添加した希釈液を混合し、希釈試料溶液または希釈内部標準液を生成するための希釈用容器と、
前記希釈用容器に前記試料を供給する試料供給手段と、
前記希釈用容器に前記内部標準液を供給する内部標準液供給手段と、
前記希釈用容器に前記希釈液を供給する希釈液供給手段と、
前記希釈用容器の前記希釈試料溶液、前記希釈内部標準液または希釈液を取り出しながら、当該希釈試料溶液、当該希釈内部標準液または当該希釈液に含まれる被測定成分である電解質濃度を測定する測定手段と、
前記希釈内部標準液の希釈倍率を算出する算出手段と、
を備えたことを特徴とする電解質分析装置。
【請求項6】
前記算出工程にて算出された前記希釈内部標準液の希釈倍率が予め設定した所定範囲内にあるか否かを判定する判定手段と、
前記判定手段によって、前記希釈内部標準液の希釈倍率が予め設定した所定範囲内にないと判定された場合に、所定の異常を通知する旨の情報を出力する通知制御手段と、
をさらに備えることを特徴とする請求項5に記載の電解質分析装置。
【請求項7】
希釈試料溶液または希釈内部標準液測定後に、洗浄液として希釈内部標準液を用いて洗浄を行う希釈用容器洗浄手段をさらに備えることを特徴とする請求項5または6に記載の電解質分析装置。
【請求項8】
前記内部標準液供給手段は、希釈試料溶液の被測定成分ごとに予め設定される電解質濃度に応じて、内部標準液の供給量を可変にして、希釈試料溶液の想定される電解質濃度に近い希釈内部標準液を供給することを特徴とする請求項5〜7のいずれか一つに記載の電解質分析装置。
【請求項9】
測定後の希釈液、測定後の希釈試料溶液または測定後の希釈内部標準液を排出する廃液用駆動部、使用する希釈液供給駆動部および内部標準液供給用駆動部と、
廃液用電磁弁、希釈液供給用電磁弁および内部標準液供給用電磁弁の動作タイミングを調節する調整手段と、
をさらに備え、
前記廃液用駆動部、前記希釈液供給駆動部、前記内部標準液供給用駆動部は、単一の駆動部によって構成されることを特徴とする請求項5〜8のいずれか一つに記載の電解質分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3−1】
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【図3−2】
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【図3−3】
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【図3−4】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−133742(P2010−133742A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−307876(P2008−307876)
【出願日】平成20年12月2日(2008.12.2)
【出願人】(591258484)株式会社エイアンドティー (23)