説明

電解質膜及びそれを用いた固体高分子型燃料電池

【課題】メタノール透過阻止性に優れ、面積変化がないか又は低下したものであり、且つプロトン伝導性が優れた電解質膜の製造方法の提供。
【解決手段】多孔性基材の細孔にプロトン伝導性を有する第1ポリマーを充填してなる電解質膜の製造方法であって、i) ポリオレフィン類からなる群から選ばれる少なくとも1種の第2ポリマーとii) そのポリマー内に二重結合を有する第3ポリマーとを有して形成される多孔性基材を準備する工程;前記第2ポリマー同士を架橋して前記多孔性基材に架橋化第2ポリマーを形成する工程;及び得られた多孔性基材の細孔に、プロトン伝導性を有する第1ポリマーを充填する工程;を有する、上記方法によって、上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般的に燃料電池に関し、詳細には直接型メタノール固体高分子型燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
地球的な環境保護の動きが活発化するにつれて、いわゆる温暖化ガスやNOxの排出防止が強く叫ばれている。これらのガスの総排出量を削減するために、自動車用の燃料電池システムの実用化が非常に有効と考えられている。
【0003】
固体高分子型燃料電池(PEFC、Polymer Electrolyte Fuel Cell)は、低温動作、高出力密度、発電反応で水しか生成されないという優れた特徴を有している。なかでも、メタノール燃料のPEFCは、ガソリンと同様に液体燃料として供給が可能なため、電気自動車用動力として有望であると考えられている。
【0004】
固体高分子型燃料電池は、改質器を用いてメタノールを水素主成分のガスに変換する改質型と、改質器を用いずにメタノールを直接使用する直接型(DMFC、Direct Methanol Polymer Fuel Cell)の二つのタイプに区分される。直接型燃料電池は、改質器が不要であるため、1)軽量化が可能である。また、2)頻繁な起動・停止に耐えうる、3)負荷変動応答性も大幅に改善できる、4)触媒被毒も問題にならないなどの大きな利点があり、その実用化が期待されている。
【0005】
しかしながら、メタノール燃料のPEFCの電解質として、i)メタノール透過阻止性(メタノールが電解質を透過しないこと);ii) 耐久性、より詳しくは高温(80℃以上)運転での耐熱性;iii) 起動・終了によって膜への液湿潤・乾燥に伴う面積変化がないか又は少ないこと;及びiv)プロトン伝導性;v)薄膜化;vi)化学的耐性などを有することが求められているが、これらの要件を十分に満たす電解質膜は存在しなかった。
また、ポータブル用のメタノール燃料PEFCという観点においては、i)メタノール透過阻止性が重要であり、且つ常温付近での運転が可能であることが重要となる一方、高温での耐久性は重要度が低くなる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
よって、本発明の目的は、上記要件を満たす電解質膜を提供することにある。特に、本発明の目的は、上記要件のうち、i)メタノール透過阻止性に優れ、iii)面積変化がないか又は低下したものであり、且つiv)プロトン伝導性が優れた電解質膜を提供することにある。
また、本発明の目的は、その電解質膜の製造方法を提供することにある。
さらに、本発明の目的は、上記目的の他に、又は上記目的に加えて、上記の要件を有する電解質膜を有する燃料電池、特に固体高分子型燃料電池、より具体的には直接型メタノール固体高分子型燃料電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討の結果、以下の発明により、上記目的を達成できることを見出した。
<1> 多孔性基材の細孔にプロトン伝導性を有する第1ポリマーを充填してなる電解質膜であって、多孔性基材が、i) ポリオレフィン類からなる群から選ばれる少なくとも1種の第2ポリマーとii) そのポリマー内に二重結合を有する第3ポリマーとを有してなり、第2ポリマー同士が架橋されている架橋化第2ポリマーを含む、上記電解質膜。
【0008】
<2> 上記<1>において、第3ポリマーが、脂肪族環状骨格を有する重合体及びポリブタジエンのうちの少なくとも1種であるのがよい。
<3> 上記<1>又は<2>において、第3ポリマーがポリノルボルネンであるのがよい。
<4> 上記<1>〜<3>のいずれかにおいて、第2ポリマーがポリエチレンを有してなるのがよい。
【0009】
<5> 上記<1>〜<4>のいずれかにおいて、第2ポリマーがポリエチレンであり且つ第3ポリマーがポリノルボルネンであるのがよい。
<6> 上記<1>〜<5>のいずれかにおいて、第1ポリマーが前記基材の細孔内表面にその一端を結合したポリマーであるのがよい。
<7> 上記<1>〜<6>のいずれかにおいて、基材の細孔に、プロトン伝導性を有する第4のポリマーをさらに充填してなるのがよい。
【0010】
<8> 上記<1>〜<7>のいずれかに記載の電解質膜を有する燃料電池。
<9> 上記<1>〜<7>のいずれかに記載の電解質膜を有する固体高分子型燃料電池。
<10> 上記<1>〜<7>のいずれかに記載の電解質膜を有する直接型メタノール固体高分子型燃料電池。
【0011】
<11> カソード極、アノード極、及び該両極に挟まれた電解質を有する固体高分子型燃料電池であって、前記電解質が、多孔性基材の細孔にプロトン伝導性を有する第1ポリマーを充填してなり、該多孔性基材が、多孔性基材が、i) ポリオレフィン類からなる群から選ばれる少なくとも1種の第2ポリマーとii) そのポリマー内に二重結合を有する第3ポリマーとを有してなり、第2ポリマー同士が架橋されている架橋化第2ポリマーを含む、上記固体高分子型燃料電池。
【0012】
<12> 上記<11>において、第3ポリマーが、脂肪族環状骨格を有する重合体及びポリブタジエンのうちの少なくとも1種であるのがよい。
<13> 上記<11>又は<12>において、第3ポリマーがポリノルボルネンであるのがよい。
<14> 上記<11>〜<13>のいずれかにおいて、第2ポリマーがポリエチレンを有してなるのがよい。
【0013】
<15> 上記<11>〜<14>のいずれかにおいて、第2ポリマーがポリエチレンであり且つ第3ポリマーがポリノルボルネンであるのがよい。
<16> 上記<11>〜<15>のいずれかにおいて、第1ポリマーが前記基材の細孔内表面にその一端を結合したポリマーであるのがよい。
【0014】
<17> 上記<11>〜<16>のいずれかにおいて、基材の細孔に、プロトン伝導性を有する第4のポリマーをさらに充填してなるのがよい。
<18> 上記<11>〜<17>のいずれかにおいて、固体高分子型燃料電池が、直接型メタノール固体高分子型燃料電池であるのがよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、i)メタノール透過阻止性に優れ、iii)面積変化がないか又は低下したものであり、且つiv)プロトン伝導性が優れた電解質膜を提供することができる。
また、本発明により、その電解質膜の製造方法を提供することができる。
さらに、本発明により、上記効果の他に、又は上記効果に加えて、上記の要件を有する電解質膜を有する燃料電池、特に固体高分子型燃料電池、より具体的には直接型メタノール固体高分子型燃料電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】膜面積変化率測定結果とプロトン伝導率測定結果とをグラフ化したものである。
【図2】メタノール透過性能評価結果とプロトン伝導率測定結果とをグラフ化したものである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の電解質膜は、上述のような特性を有する多孔性基材を用いるのがよい。この点において、多孔性基材は、i)ポリオレフィン類からなる群から選ばれる少なくとも1種の第2ポリマーを有してなり、該第2ポリマー同士が架橋されているのがよい。また、第2ポリマーに加えて、ii) そのポリマー内に二重結合を有する第3ポリマー、例えば脂肪族環状骨格を有する重合体及びポリブタジエンのうちの少なくとも1種の第3ポリマーを有してなるのがよい。
【0018】
第2のポリマーとして、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブチレン及び4-メチルペンテンなどのポリオレフィン類などを挙げることができる。
これらのうち、第2のポリマーとして、ポリオレフィン類が耐汚染性、耐腐食性、安価などの理由により好ましい。特に、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、超高分子量ポリエチレンなどが好ましい。高密度ポリエチレン又は超高分子量ポリエチレンは、得られる多孔性基材の強度の点からより好ましい。
【0019】
第2ポリマーは、その一部又はその全てが架橋されている方が、耐熱性、膜強度の面で好ましい。なお、架橋は、後述の第3ポリマーにも依存するが、熱、紫外線及び電子線よりなる群から選ばれる1種以上を用いることができる。この架橋により、第3ポリマー中に存在する二重結合を全部又は一部消失させるのがよい。熱を用いる架橋処理は、得られる微多孔フィルム、即ち本発明の基材が構造安定性を有する点で望ましい。これらの架橋処理を施すことにより、得られる微多孔フィルム、即ち本発明の基材の耐熱性が向上する。
【0020】
なお、熱を用いて架橋処理を行う場合、一回で熱処理する一段式熱処理法、最初に低温で行いその後にさらに高温で行う多段熱処理法、又は昇温しながら行う昇温式熱処理法など、種々の方法を用いることができる。但し、通気度、又は環通孔の細孔径など、本発明の基材の諸特性を損なうことなく処理するのが望ましい。熱処理温度は、40〜140℃、好ましくは90〜140℃であるのがよい。処理時間は、0.5〜14時間程度であるのがよい。
【0021】
紫外線を用いて架橋処理を行う場合、例えば成膜後の微多孔フィルム、即ち本発明の基材をそのまま、又は重合開始剤を含むメタノール溶液などに含浸させ、溶媒乾燥後に、この基材を水銀ランプ等によって照射することにより、架橋処理を行うことができる。
【0022】
電子線を用いて架橋処理を行う場合、例えば成膜後の微多孔フィルム、即ち本発明の基材を放射線線量0.1〜10Mrad照射することにより、架橋処理を行うことができる。照射時の雰囲気は、熱処理法と同様に空気雰囲気下であっても、架橋状態をコントロールする意味で、窒素ガス又はアルゴンガスなどの不活性ガスの雰囲気下であってもよい。
【0023】
さらに、本発明の多孔性基材は、ii) そのポリマー内に二重結合を有する第3ポリマーを有してなるのがよい。この第3ポリマーとして、ポリブタジエン、及び脂肪族環状骨格を有する重合体を挙げることができる。脂肪族環状骨格を有する重合体として、ビシクロ[3.2.0]ヘプト-6-エン、ビシクロ[4.2.0]オクト-7-エン及びこれらの誘導体の開環重合物;ビシクロ[2.2.1]ヘプト-5-エン(本明細書において、「ノルボルネン」ともいう)、ビシクロ[2.2.1]ヘプト-5-エン-2,3-ジカルボキシメチルエステル等のノルボルネン誘導体;ビシクロ[2.2.2]オクト-2-エン及びこの誘導体の開環重合物;並びにジシクロペンタジエン、テトラシクロドデセン及びこれらの誘導体の開環重合物などを挙げることができる。これらのうち、特にポリブタジエン及びノルボルネン骨格を有する重合体のうちの少なくとも1種であるのがよく、より好ましくはポリノルボルネンを用いるのがよい。
【0024】
なお、ポリブタジエンを用いる場合、該ポリブタジエンには、シス型1,4-ポリブタジエン、トランス型1,4-ポリブタジエン、1,2-ポリブタジエンなどを挙げることができる。シス型1,4-ポリブタジエン骨格を多くするポリブタジエンが、屈曲性構造を取りやすい点、二重結合の反応が進行しやすい点で、好ましい。特に、シス型1,4-ポリブタジエン骨格の割合が30%以上有するポリブタジエンが好ましい。
【0025】
第3ポリマーを用いる場合、該第3ポリマーの量は、第2ポリマーと第3ポリマーとの双方を合わせたものを100重量部とすると、1〜50重量部、好ましくは1〜40重量部、より好ましくは1〜35重量部であるのがよい。
【0026】
本発明の多孔性基材は、乾式成膜法、湿式成膜法など、従来より公知の成膜法を用いることができる。例えば、ポリマーと溶媒とを混練、加熱溶融しながらシート状に成形した後、一軸方向以上に延伸し、溶媒を抽出除去後乾燥することにより、シート状の多孔性基材を製造することができる。
【0027】
この場合、溶媒として、上記第2ポリマー、有する場合には上記第3ポリマーを溶解する溶媒であれば、特に限定されない。溶媒として、例えばノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン、デカリン、流動パラフィンなどの脂肪族又は環式炭化水素、又は沸点がこれらに対応する鉱油留分などを挙げることができ、パラフィン油などの不揮発性溶媒が好ましい。
【0028】
溶媒を用いる場合、その量は一般に次のようである。即ち、用いる第2ポリマーと第3ポリマーと溶媒との合計を100重量部として場合、溶媒の量は、50〜95重量部、好ましくは50〜90重量部であるのがよい。この範囲で用いると、得られる多孔性基材は、所望の空孔率及び強度などの特性を有するので好ましい。
【0029】
また、本発明の多孔性基材が第3ポリマーを含む場合、上記方法又は公知の方法によって成膜した後、該多孔性基材に熱、紫外線、電子線及び可視光線からなる群から選ばれる1種以上を照射して、第2ポリマー同士を架橋するのがよい。
【0030】
本発明の多孔性基材の空孔率は、5〜95%、好ましくは5〜90%、より好ましくは10%〜90%、最も好ましくは10%〜80%であるのがよい。
また、平均孔径は、0.001μm〜100μmの範囲内にあることが望ましい。
さらに、基材の厚さは100μm以下、好ましくは1〜60μm、より好ましくは5〜50μmであるのがよい。
【0031】
本発明の多孔性基材はまた、湿潤・乾燥時の面積変化が少ないか又はほどんどないことが望ましい。その点において、本発明の多孔性基材は、引張弾性率:500〜5000MPa、好ましくは1000〜5000MPa、破断強度:50〜5000MPa、好ましくは100〜500MPaであるのがよい。
【0032】
本発明の電解質膜は、多孔性材料からなる基材の表面、特に細孔内表面に、第1ポリマーを充填してなる。第1ポリマーの充填方法は、従来より公知の方法で充填されていても、第1ポリマーの一端が細孔内表面に結合されるような状態で充填されていてもよい。また、第1ポリマーと同種であっても異種であってもよい第4ポリマーが第1ポリマーの他に充填されていてもよい。
【0033】
この第1ポリマーは、イオン交換基を有するのがよい。なお、本明細書において、「イオン交換基」とは、例えば−SOH基由来の−SOなど、プロトンを保持し且つ遊離しやすい基のことをいう。これらが第1のポリマーにペンダント状に存在し、かつ該ポリマーが細孔内を満たすことにより、プロトン伝導性が生じる。したがって、第1ポリマーは、イオン交換基を有する第1のモノマー由来であるのがよい。
【0034】
なお、第1ポリマーを、その一端を細孔内表面に結合するように形成するには、次のような方法がある。例えば、プラズマ、紫外線、電子線、ガンマ線等で基材を励起させて、該基材の少なくとも細孔内表面に反応開始点を生成させて、該反応開始点に第1のモノマーを接触させることにより、第1ポリマーを得る方法である。また、シランカプラー等の化学的方法により、第1ポリマーを細孔内表面に結合させることもできる。さらに、細孔中に第1モノマーを充填し、その内部で重合反応を行わせて第1ポリマーを得る一般的な重合法を用いた後に、得られた第1ポリマーを基材と、例えば上記シランカプラーなどを含むカップリング剤を用いて、化学結合させることもできる。
【0035】
本発明において、その一端が細孔表面に結合した第1ポリマーを得て、該第1ポリマーを充填する場合、プラズマグラフト重合法を用いるのが好ましい。なお、プラズマグラフト重合は、液相法、及び周知の気相重合法を用いて行うことができる。例えば、プラズマグラフト重合法は、基材にプラズマを照射して、基材表面および細孔内表面に反応開始点を生成させた後に、好適には後に第1ポリマーとなる第1のモノマーを周知の液相重合の方法により接触させ、第1のモノマーを基材表面および細孔内部においてグラフト重合させる。なお、プラズマグラフト重合法の詳しい内容については、本発明の発明者らのうちの一部による先行出願、特開平3−98632、特開平4−334531、特開平5−31343,特開平5−237352、特開平6−246141、WO00/54351にも詳しく説明されている(これらの文献はその全体が本明細書に参照として組み込まれる)。
【0036】
本発明の第1のモノマーとして使用可能なモノマーは、好適にはアクリルスルホン酸ナトリウム(SAS)、メタリルスルホン酸ナトリウム(SMS)、pスチレンスルホン酸ナトリウム(SSS)、アクリル酸(AA)などが挙げられる。しかしながら、本発明に使用可能なモノマーは、上記に限定されるものではなく、アリルアミン、アリルスルホン酸、アリルホスホン酸、メタリルスルホン酸、メタリルホスホン酸、ビニルスルホン酸、ビニルホスホン酸、スチレンスルホン酸、スチレンホスホン酸、アクリルアミドのスルホン酸またはホスホン酸誘導体、エチレンイミン、メタクリル酸など、構造中にビニル基およびスルホン酸、ホスホン酸などの強酸基、カルボキシル基などの弱酸基、1級、2級、3級、4級アミンのような強塩基、弱塩基を有するモノマーおよびそのエステルなどの誘導体であってもよい。なお、モノマーとしてナトリウム塩などの塩のタイプを用いた場合、ポリマーとした後に、それらの塩をプロトン型などにするのがよい。
【0037】
また、これらのモノマーを1種のみ用いてホモポリマーを形成してもよく、2種以上用いてコポリマーを形成してもよい。即ち、基材の細孔内の表面にその一端が結合した第1のポリマーは、ホモポリマーであってもコポリマーであってもよい。
【0038】
電解質膜のプロトン伝導性は、使用する第1のモノマー及び/又は後述する第4のモノマーの種類に依存しても変化する。よって、高いプロトン伝導性を持つモノマー材料を用いることが望ましい。また、電解質のプロトン伝導性は、細孔内を満たすポリマーの重合度にも依存する。
【0039】
第4ポリマーを用いる場合、第4ポリマーは、第1ポリマーと同じであっても異なっていてもよい。即ち、第4ポリマーとなる第4のモノマーとして、上記で例示した第1ポリマーと後になる第1のモノマーから1種又は2種以上を選択したものを用いることができる。好適な第4モノマーとしては、第4モノマーとして上述したものが挙げられ、且つこれに加えてビニルスルホン酸を挙げることができる。なお、第4モノマーとして1種選択した場合、第4ポリマーはホモポリマーであり、第4モノマーとして2種以上を選択した場合、第4ポリマーはコポリマーとすることができる。
【0040】
第4ポリマーを用いる場合、第4ポリマーは、第1ポリマーと化学結合及び/又は物理結合しているのが好ましい。例えば、第4ポリマーが全て第1ポリマーと化学結合していてもよく、又は第4ポリマーが全て第1ポリマーと物理結合していてもよい。また、第4ポリマーの一部が第1ポリマーと化学結合しており、その他の第4ポリマーが第1ポリマーと物理結合していてもよい。なお、化学結合として、第1ポリマーと第4ポリマーとの結合が挙げられる。この結合は、例えば第1ポリマーに反応性基を保持させておき、該反応性基と第4ポリマー及び/又は第4モノマーとが反応することなどにより、形成することができる。また、物理結合の状態として、例えば、第1及び第4ポリマー同士が絡み合う状態が挙げられる。
【0041】
なお、第4ポリマーを用いることにより、メタノールの透過(クロスオーバー)を抑制しつつ、かつ細孔内に充填したポリマー全体が細孔内から溶出又は流出することなく、かつプロトン伝導性を高めることができる。特に、第1ポリマーと第4ポリマーとが化学結合及び/又は物理結合することにより、細孔内に充填したポリマー全体が細孔内から溶出又は流出することがない。また、第1ポリマーの重合度が低い場合であっても、第4ポリマー、特に重合度が高い第4ポリマーが存在することにより、得られる電解質膜のプロトン伝導性を高めることができる。
【0042】
本発明の電解質膜は、燃料電池、特に直接型メタノール固体高分子燃料電池又は改質型メタノール固体高分子燃料電池を含むメタノール燃料電池に用いるのが好ましい。本発明の電解質膜は、直接型メタノール固体高分子燃料電池に用いるのが特に好ましい。
【0043】
ここで、メタノール燃料電池の構成を、簡単に説明する。
メタノール燃料電池は、カソード極、アノード極、及び該両極に挟まれた電解質を有してなる。メタノール燃料電池は、改質器をアノード電極側に有し、改質型メタノール燃料電池としてもよい。
【0044】
カソード極は、従来より公知の構成とすることができ、例えば電解質側から順に触媒層及び該触媒層を支持する支持体層を有してなることができる。
また、アノード電極も、従来より公知の構成とすることができ、例えば電解質側から順に触媒層及び該触媒層を支持する支持体層を有してなることができる。
【0045】
本発明を実施例に基づき、さらに詳しく説明するが、本発明は本実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0046】
(基材の調製例1)
ノルボルネンの開環重合体の粉末(日本ゼオン(株)社製、商品名:ノーソレックスNB、重量平均分子量(以下Mw):200万以上)12wt%及び超高分子量ポリエチレン(Mw:300万)88wt%からなる重合体組成物20重量部と、流動パラフィン80重量部とをスラリー状に均一混合し、温度160℃で小型ニーダーを用いて約60分間溶解、混練した。得られた混練物を0℃に冷却したロール又は金属板に挟み込み、シート状に急冷しシート状樹脂を得た。
【0047】
このシート状樹脂を、温度115℃でシート厚が0.4〜0.6mmになるまでヒートプレスし且つ温度115℃で同時に縦横3.5×3.5倍に二軸延伸し、ヘプタンを用いて脱溶媒処理を行い、微多孔フィルムを得た。得られた微多孔フィルムを空気中で、i)95℃、3時間熱処理し、次いでii)120℃、2時間熱処理して、多孔性基材A−1を得た。該多孔性基材A−1は、厚さ:25μm、孔径:0.1μm(SEM観察による表面平均細孔径)、空孔率:40%、弾性率:2500MPa、破断強度:270MPaであった。また、多孔性基材A−1中、ポリエチレンは、架橋されていた。
【0048】
(基材の調製例2)
ノルボルネンの開環重合体の粉末(日本ゼオン(株)社製、商品名:ノーソレックスNB、Mw:200万以上)7wt%、ポリエチレン(Mw:30万)23wt%、及び超高分子量ポリエチレン(Mw:300万)70wt%からなる重合体重合体組成物20重量部と、流動パラフィン80重量部とをスラリー状に均一混合し、温度160℃で小型ニーダーを用いて約60分間溶解、混練した。得られた混練物を0℃に冷却したロール又は金属板に挟み込み、シート状に急冷しシート状樹脂を得た。
【0049】
このシート状樹脂を、温度115℃でシート厚が0.4〜0.6mmになるまでヒートプレスし且つ温度118℃で同時に縦横3.5×3.5倍に二軸延伸し、ヘプタンを用いて脱溶媒処理を行い、微多孔フィルムを得た。得られた微多孔フィルムを空気中で、i)85℃、6時間熱処理し、次いでii)120℃、2時間熱処理して、多孔性基材A−2を得た。該多孔性基材A−2は、厚さ:24μm、孔径:0.1μm(SEM観察による表面平均細孔径)、空孔率:37%、弾性率:1500MPa、破断強度:150MPaであった。また、多孔性基材A−2中、ポリエチレンは、架橋されていた。
【0050】
上記で得られた多孔性基材A−1を用いて、電解質膜を形成した。充填する第1ポリマーとして、アクリル酸(以下、「AA」と略記する)由来のポリマーを用いた。
具体的には、AAの水溶液を準備し、この水溶液に基材A−1を浸漬し、AAの重合を行った。重合条件を以下に示す。
AA98mol%、架橋剤であるジビニルベンゼン1mol%及び水溶性アゾ系開始剤:2,2’-アゾビス(2-アミジノプロパン)ジヒドロクロライド(以下、「V−50」と略記する)1mol%の混合液を調製した。この液に基材A−1を浸漬し、6分間可視光を照射した後、50℃のオーブン中で18時間加熱した。
多孔性基材を溶液から引き上げ、水中で洗浄した後、乾燥させてAAのポリマーを形成した膜B−1を得た。乾燥後に膜B−1の質量を測定し、重合前の質量と比較して重合量を計算した。重合量は0.4〜1.5mg/cmであった。なお、重合後の膜厚はいずれも27μmであった。
【0051】
得られた膜B−1について、1)膜面積変化率測定、2)メタノール透過性能評価、3)プロトン伝導率測定、を行った。各々の測定方法又は評価方法を以下に示す。また、得られた結果を図1及び図2に示す。図1は、膜面積変化率測定の結果とプロトン伝導率測定の結果とをグラフ化したものであり、図2は、メタノール透過性能評価の結果とプロトン伝導率測定の結果とをグラフ化したものである。
【0052】
<膜面積変化率測定>
乾燥状態における膜の面積を測定した(S)。また、膜を25℃の水中に浸漬し、一昼夜保持した後の水中での膜面積を測定した(S)。乾燥状態(S)と膨潤状態(S)との面積変化率φs(%)を以下の式Aで求めて評価した。
【0053】
φs={100(S−S)}/S 式A。
【0054】
<メタノール透過性能評価>
50℃における浸透気化実験を行った。供給液はメタノール/水(重量比)=1/9であり、透過側を減圧し、透過流速が定常になるまで行った。なお、用いた装置の構成は以下の通りであった。即ち、膜をステンレス製セルに挟み、膜上面に上記供給液を入れ、攪拌した。供給液中にはヒータ及び測温抵抗体を挿入し、温度を50℃に保った。膜下面はコールドトラップを経由した後に、真空ポンプを設置した。膜下面、即ち透過側を減圧し、コールドトラップ中に膜を透過したメタノール・水蒸気を捕集した。捕集した蒸気(コールドトラップ中で固形)を加熱溶解後、液体として取り出し、その重量から全透過フラックスを、またガスクロマトグラフ分析により透過蒸気組成を、それぞれ測定した。膜透過性能が安定するまでの数時間のデータは無視し、膜透過性能が時間に対して一定となる値を、定常状態の透過性として評価した。なお、定常状態に達したメタノールの透過フラックスは一般に、0.01〜5kg/mh程度であった。
【0055】
<プロトン伝導率測定>
膜を水(温度:25℃)中で膨潤させ、その後2枚の白金箔電極で膜を挟んでプロトン伝導性測定用試料を作製し、ヒューレット・パッカード社製HP4192Aによりインピーダンス測定を行った。
【実施例2】
【0056】
実施例1のAAの代わりに、次に述べるAAVS系を用いて、膜B−2を得た。
<AAVS系>
アクリル酸79mol%、ビニルスルホン酸ナトリウム20mol%、及び架橋剤であるジビニルベンゼン1mol%が70wt%となるような水溶液を調製し、アクリル酸及びビニルスルホン酸の合計量100mol%に対して、水溶性アゾ系開始剤:V−50 1mol%を添加した液を用意した。この液に基材A−1を浸漬し、6分間可視光を照射した後、50℃のオーブン中で18時間加熱した。
その後、膜の表面の余分なポリマーを除去し、大過剰の1N塩酸を用いてイオン交換した後、蒸留水で十分に洗浄し、さらに50℃のオーブン中で乾燥させて膜B−2を得た。膜B−2も実施例1と同様に、1)膜面積変化率測定、2)メタノール透過性能評価、3)プロトン伝導率測定、を行った。得られた結果を図1及び図2に示す。
【実施例3】
【0057】
実施例1のAAの代わりに、次に述べるATBS系を用いて、膜B−3を得た。
<ATBS系>
2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(以下、「ATBS」と略記する)99mol%と架橋剤:メチレンビスアクリルアミド1mol%との混合モノマーを水で50wt%まで希釈した水溶液を調製し、ATBS及びメチレンビスアクリルアミドの合計量100mol%に対して、水溶性アゾ系開始剤V−50 1mol%を添加した液を用意した。この液に基材A−1を浸漬し、6分間可視光を照射した後、50℃のオーブン中で18時間加熱した。
その後、膜の表面の余分なポリマーを除去し、大過剰の1N塩酸を用いてイオン交換した後、蒸留水で十分に洗浄し、さらに50℃のオーブン中で乾燥させて膜B−3を得た。膜B−3も実施例1と同様に、1)膜面積変化率測定、2)メタノール透過性能評価、3)プロトン伝導率測定、を行った。得られた結果を図1及び図2に示す。
【0058】
(比較例1)
実施例1の基材A−1の代わりに、多孔性ポリテトラフルオロエチレン膜(膜厚70μm、細孔径:100nm)を用いた以外は、実施例1と同様に調製を行い、膜B−C1を得た。
【0059】
(比較例2)
実施例2の基材A−1の代わりに、多孔性ポリテトラフルオロエチレン膜(膜厚70μm、細孔径:100nm)を用いた以外は、実施例2と同様に調製を行い、膜B−C2を得た。
【0060】
(比較例3)
実施例2の基材A−1の代わりに、多孔性ポリテトラフルオロエチレン膜(膜厚70μm、細孔径:50nm)を用いた以外は、実施例2と同様に調製を行い、膜B−C3を得た。
【0061】
(比較例4)
実施例1で得られた膜B―1の代わりに、Nafion117を用いた(膜B−C4)。
【0062】
膜B−C1〜B−C4についても、膜B−1〜B−3と同様に、1)膜面積変化率測定、2)メタノール透過性能評価、3)プロトン伝導率測定、を行った。得られた結果を図1及び図2に示す。
図1からわかるように、本発明の基材A−1を用いた膜B−1は、膜B−C1よりも膜面積変化が少ないことがわかる。また、本発明の基材A−1を用いた膜B−2は、膜B−C2及びB−C3よりも膜面積変化が少ないことがわかる。さらに、膜B−3は、プロトン伝導率が高く、且つ膜面積変化が少ない、電解質膜に求められる特性を有することがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔性基材の細孔にプロトン伝導性を有する第1ポリマーを充填してなる電解質膜の製造方法であって、
i) ポリオレフィン類からなる群から選ばれる少なくとも1種の第2ポリマーとii) そのポリマー内に二重結合を有する第3ポリマーとを有して形成される多孔性基材を準備する工程;
前記第2ポリマー同士を架橋して前記多孔性基材に架橋化第2ポリマーを形成する工程;及び
得られた多孔性基材の細孔に、プロトン伝導性を有する第1ポリマーを充填する工程;を有する、上記方法
【請求項2】
前記第3ポリマーが、脂肪族環状骨格を有する重合体及びポリブタジエンのうちの少なくとも1種である請求項1記載の方法
【請求項3】
前記第3ポリマーがポリノルボルネンである請求項1又は2記載の方法
【請求項4】
前記第2ポリマーがポリエチレンである請求項1〜3のいずれか1項記載の方法
【請求項5】
前記第1ポリマーが前記基材の細孔内表面にその一端を結合したポリマーである請求項1〜のいずれか1項記載の方法
【請求項6】
前記基材の細孔に、プロトン伝導性を有する第4のポリマーをさらに充填する工程をさらに有する請求項1〜のいずれか1項記載の方法
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項記載の電解質膜の製造方法により製造された電解質膜を有する燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−94155(P2011−94155A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−12669(P2011−12669)
【出願日】平成23年1月25日(2011.1.25)
【分割の表示】特願2003−573727(P2003−573727)の分割
【原出願日】平成15年3月6日(2003.3.6)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】