説明

電離放射線および/または中性子照射の存在下での熱交換液または作動液としてのフッ素化液体の使用

【課題】オゾン層に悪影響を与えず、電離放射線または中性子照射の下でも中性子減速効果を有さず、誘発放射性現象を示さない熱交換液または作動液の提供。
【解決手段】循環路または装置を用いて電離照射および/または中性子照射にさらすための方法において、ハイドロフルオロエーテルから選択されるフッ素化化合物が、該循環路または装置内で熱交換液または作動液として使用される方法。前記フッ素化化合物が、室内条件(25℃、1気圧)下で液体であるハイドロフルオロエーテルから選択される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電離放射線および/または中性子放射にさらされる循環路または装置中での熱交換液または作動液(hydraulic fluid)としてのフッ素化化合物の使用に関する。
より詳しくは、本発明は、電離放射線に耐性がある冷却液として、および水素化作動液より低い中性子照射の減速値を有する作動液としての、パーフルオロポリエーテル、ハイドロフルオロポリエーテル、ハイドロフルオロエーテル、ハイドロフルオロカーボンおよびパーフルオロカーボンの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
内部で高エネルギー領域が発生する、内部に電離放射線、例えばX線、γ線、電子が存在する、例えばサイクロトロンのような粒子加速器は、発生熱を分散するため、熱交換により作用し、電離放射線にも耐えなければならない冷却液を必要とすることが知られている。
例えば、サイクロトロンの中で、前記の目的のために、クロロフルオロカーボン CFC113が、その熱交換能のため、また電離放射線下でのその高い安定性のために冷却液として用いられている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、モントリオール会議を受けて、CFC113のようなクロロフルオロカーボンは、それらのオゾンに対する高い影響(ODP)により禁止された。
核分裂性化合物および/または放射性廃棄物の取り扱いのための装置も知られている。通常、装置内で用いられている作動液は、それらが鉱油により形成されているので上記の分野で用いることができない。鉱油は水素を含んでいるから、中性子に対して高い減速効果を有する。この減速効果は、分裂性の化合物または放射性廃棄物の存在下で中性子が、プラントそのもの、従業員および環境に対して顕著なリスクを伴う、制御できない連鎖核反応をその中で引き起こし得る、より遅い中性子を産生する。
【0004】
その上、前記の循環路で用いられる化合物は、中性子ビームにさらされたとき、放射活性(誘発放射活性)になってはいけない。
使用液体に対して求められるもう一つの特徴は、それが中性子または電離放射線のために実質的な化学分解を受けないことである。
したがって、電離放射線および/または中性子にさらされたときに、現在用いられている液体の欠点を示さない熱交換液または作動液を見出す必要性が感じられていた。
とりわけ、0に等しいオゾン破壊係数を有し、CFC113と実質的に同様の特徴と性質を有する、すなわち電離放射線の存在下に、容易に手に入るものとしてCFC113の代わりに用いられ、電離放射線に対してCFC113と同様の分解値を示す、熱交換液が求められていた。
一方、中性子照射にさらされたときに中性子減速効果を有さず、誘発放射性現象を示さず、実質的な分解をこうむらない作動液が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の技術的問題を解決することのできる、以下に定義される液体が、予期せぬことに、また驚くべきことに見出された。
本発明の目的は、室内条件(25℃、1気圧)下で液体である、
A) (パー)フルオロポリエーテル、
B) (パー)フルオロカーボン
C) ハイドロフルオロエーテル
から選択されるフッ素化化合物の、電離照射および/または中性子照射にさらされる循環路または装置中での、熱交換液または作動液としての使用である。
【発明の効果】
【0006】
本発明の液体は、電離放射線に対する抵抗性ゆえに、冷却能の実質的な低下を示さず、強い電離放射線にさらされる冷却循環路中において、すぐれた熱交換液として使用することができる。
また、本発明の液体は、低い中性子減速値を有するので、中性子の放射にさらされる装置中での作動液として使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
液体は、120〜30000、好ましくは200〜18000、より好ましくは300〜6000からなる分子量を有する、但しA)がポリマーのとき、分子量が数平均分子量である。
群A) (パー)フルオロポリエーテルは、-(CF2(CF2)cO)- (ここで、c=1、2、3); -(CF2O)-; -(CF2CF(CF3)O)-; -(CF(CF3)O)-;-(CF2CF(OX)O)-; -(CF(OX)O)- (ここで、X=-(Y)nCF3 (ここで、Y= -CF2-、-CF2O-、-CF2CF2O-、-CF2CF(CF3)O-、かつn=0、1、2、3、4)); から選択されるオキシフルオロアルキレン単位を含み、該単位はポリマー鎖に統計的に分布している。
好ましくは、それらは以下の式(I):
1O-(CF2CF(CF3)O)a-(CF(CF3)O)b-(CF2(CF2)cO)d-(CF2O)e-(CF2CF(OX)O)f(CF(OX)O)g-T2 (I)
[式中、Xは上記の意味を有し;係数a、b、d、e、f、gは0または整数であり、cは1、2または3であり、それらの和が上記の分子量となるように選択される;T1、T2は同一または異なって、-CF2H、-CF21(X1=-F、-CF3)、-C37、-CF(CF3)H、-CF2CF2H、-CH3、-C25から選択される]を有する。
【0008】
式(I)の熱交換液として好ましい化合物は、T1およびT2が同一または異なって、-CF2H、-CF(CF3)H、-CF2CF2H、-CH3、-C25から選択されるものである。これらの末端部は、低い潜在的な温室効果を示す。より好ましい化合物は、式(III):
1O-(CF2CF2O)d-(CF2O)e-T2 (III)
[式中、T1、T2= -CF2H、そしてd、eは式(I)で定義したとおりである]
を有する。
【0009】
パーフッ素化末端基を有する式(I)のパーフルオロポリエーテルの中では、式(II)を有するものが、熱交換液または作動液として好ましい:
1O-(CF2CF(CF3)O)a-(CF(CF3)O)b-(CF2O)e-T2 (II)
[式中、T1、T2は同一または異なって、-CF21(X1=-F、-CF3)、-C37から選択される]。
パーフルオロポリエーテルとハイドロフルオロポリエーテルの混合物も用いられる。
式(II)、(III)の化合物またはそれらの混合物は、CFC113と実質的に同様の電離放射線に対する分解値を示した。
【0010】
熱交換液として好ましいB)群の液体は、例えばCF3CF2-CFH-CFH-CF3、シクロ-C573、シクロ-C582のように環境条件下で液体であるものから選択される。
熱交換液として好ましいC)群の液体は、一般式(IV):
1-O-R2 (IV)
[式中、R1、R2は同一または異なって、少なくとも3つの炭素原子を含み、水素原子の総数は多くてもフッ素原子の数に等しい]
のハイドロフルオロエーテルである。
具体的な例は、C37-OCH3、C49-OCH3、C49-O-C25、C715-O-C25、C49-O-CF2H、C49-O-CF2CF2Hである。
【0011】
中性子照射にさらされる適用において用いられる好ましい作動液は、式(I)を有するA)群のものであり、より具体的には少なくとも1つの水素原子を含むフッ素化された末端基を有する式(I)のものであり、さらに好ましいのは式(III)を有するものである。
【0012】
式(I)のA)群のパーフルオロポリエーテルは、例えば、米国特許第5149842号、米国特許第5000830号、米国特許第5144092号で公知であり;式(I)のA)群のハイドロフルオロポリエーテルは、例えば、ヨーロッパ特許第695775号で公知である。-CH3、-C25末端基を含む式(I)の化合物は、例えば、-COF末端基を有する対応するパーフルオロポリエーテルとフッ化アルカリ金属(M)とを反応させて、-CF2OM末端基を有する対応アルコラートを得ることにより製造される。それらは、出願中のイタリア特許出願MI2001A 001340号に記載のように、メチル-またはエチル-サルファイトと反応する。
【0013】
B)群の化合物は、例えば、米国特許第5220082号、ヨーロッパ特許第982281号で公知である。
C)群のハイドロフルオロエーテルは、例えば、米国特許第5713211号で公知である。
A)、B)およびC)群の液体は全て、0に等しいオゾンに対する影響(ODP=0)を有する。式(II)、(III)の液体は、CFC113と同様の電離放射線に対する耐性を示す。式(I)の液体、例えば式(III)のものは、T1およびT2末端基が少なくとも一つの水素原子を含むとき、低い潜在的な温室効果をさらに示す。
【0014】
本発明の液体は、電離放射線に対する抵抗性ゆえに、その間に組成物の実質的な変化を受けない。実際に、強い電離放射線にさらされる冷却循環路中における液体としてのそれらの使用において、それらはその間に冷却能の実質的な低下を示さない。
流体循環路中で用いられる、または中性子の放射にさらされる装置中で作動液として用いられる本発明のフッ素化液体は、液体作用循環路中で通常用いられている鉱油により示されるものとの比較して、とても低い中性子減速値を有する。その上、それらが実質的な化学分解を受けないことが見出された。
【実施例】
【0015】
以下の実施例は、本発明を説明するためであり、制限するものではない。
電離放射線にさらされた液体の分解の測定は、以下の一般的な方法により行なわれた。
液体試料4gを、真空下に、容量5mlを有する石英チューブに導入し、次いで封管する。液体の各タイプにつき3つの石英チューブを上記のように準備し、0.13Mrad/時間を照射する60Co源から産生されるγ線を、次の増加量、5.2、9.4および15.0Mradで、放射線にさらした。次いで、チューブを開封し、それらの液体および蒸気含量を、ガスクロマトグラフィーおよび質量分析により分析した。
【0016】
液体分析から、放射線照射にさらされた液体中に本来存在しなかった成分を定量した。同様にして、液体試料中に最初に存在していたものとは異なり、それゆえに放射線照射による分解に由来するガス状の成分を定量した。
用いた放射線照射量に関する、上記の定量した液体および蒸気の成分の和は、試験された液体がさらされた放射線照射の作用中における試験液体の分解を評価することを可能にする。
3つの異なる放射線照射量で得られた分解値(分解された化合物の%)は、図表により表すと、放射線量と直線的な相関関係を示し、相関係数R2は1に近い。
したがって、式:
%分解化合物 = A × 照射量 (Mrad)
に従って、放射線量に対する分解化合物のパーセントに相関する係数Aを決定することができる。
得られた値を表1に示す。より高い分解値および放射線照射量は、上記の関係から推定され得る。
【0017】
実施例1
式(III)の構造(ここで、T1=T2= -CF2Hで、d=0およびe=1を有するオリゴマーで11.8%を形成し、d=1およびe=0を有するオリゴマーで88.1%を形成し、ODP=0であり、GWPは2000(CO2を参照して、100年)に等しく、数平均分子量は228であり、51.5℃の沸点を有し、25℃での粘度が0.37cStである)を有する、パーフルオロポリエーテル試料を、前記のようにγ放射線にさらした。係数Aの値は0.068に等しく、相関係数R2=0.991が決定された。
【0018】
実施例2(比較)
ODP=0.8を有し、GWPが5000(CO2を参照して、100年)に等しいCFC113試料を、前記のようにγ放射線にさらした。Aの値は0.063に等しく、相関係数R2=0.998が決定された。
【0019】
実施例3
式(I)の構造(ここで、d=0、f=0、g=0で、350に等しい数平均分子量を有し(ここで、比(b+e)/(a+b+e)は0.1に等しく、T1、T2は5%が-CF2Hであり、1%が-CF2CF2Hであり、41%が-CF3であり、41%が-C37Hであり、12%が-CF(CF3)Hである)、ODP=0であり、58℃の沸点を有し、25℃での粘度が0.5cStに等しい)を有する、パーフルオロポリエーテル試料を、前記のようにγ放射線にさらした。係数Aの値は0.068に等しく、相関係数R2=0.953が決定された。
同じ構造を有するが、パーフッ素化された末端基を有する化合物で、同様の結果が得られる。
【0020】
実施例4
ODP=0であり、GWPが500(CO2を参照して、100年)に等しく、分子量が250であり、61℃の沸点を有し、25℃での粘度が0.38cStに等しく、C49OCH3構造を有する3Mによる市販品の試料HFE7100を、前記のようにγ放射線にさらした。係数Aの値は0.132に等しく、相関係数R2=0.991が決定された。
【0021】
実施例5
ODP=0であり、GWPが1300(CO2を参照して、100年)に等しく、分子量が252であり、55℃の沸点を有し、25℃での粘度が1.06cStに等しく、CF3CF2CFHCFHCF3構造を有するデュポンによる市販品の試料バートレル(Vertrel)XFを、前記のようにγ放射線にさらした。係数Aの値は0.107に等しく、相関係数R2=0.995が決定された。
【0022】
実施例6
式(III)のハイドロフルオロポリエーテル(ここで、T1、T2= -CF2Hであり、d、eは630に等しい数平均分子量を有するものである)、オーシモント(Ausimont)による市販化合物ガルデン(Galden)ZT180の2つの試料を、2つの密閉したポリエチレン容器に導入した。
1つの容器を1012中性子/cm2/秒に等しい中性子流の下に、2時間、中性子照射にさらした。もう一つの容器を1013中性子/cm2/秒に等しい中性子流の下に、6時間、中性子照射にさらした。
【0023】
放射性廃棄物により実際に放出される量ははるかに低いので、上記の放射線照射量を用いた試験は、加速試験と考えられるべきである。
放射線照射後の前者の試料は、γスペクトロメトリにより検出される誘発放射活性を示さなかった。
最も過酷な条件下での放射線照射後の後者の試料は、γスペクトロメトリにより分析され、いかなる誘発放射活性も示さなかった。その上、それは19Fおよび1HNMR分析に付され、分子量590という結果であった。これを、最初のMWと比較すると、この化合物は実質的に分解されていないことを示す。
【0024】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明の液体は、電離放射線に対する抵抗性ゆえに、冷却能の実質的な低下を示さず、強い電離放射線にさらされる冷却循環路中において、すぐれた熱交換液として使用することができる。
また、本発明の液体は、低い中性子減速値を有するので、中性子の放射にさらされる装置中での作動液として使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
循環路または装置を用いて電離照射および/または中性子照射にさらすための方法において、ハイドロフルオロエーテルから選択されるフッ素化化合物が、該循環路または装置内で熱交換液または作動液として使用される方法。
【請求項2】
前記フッ素化化合物が、室内条件(25℃、1気圧)下で液体であるハイドロフルオロエーテルから選択される請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記フッ素化化合物が、前記循環路または装置中で作動液として使用される請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記フッ素化化合物が、120〜30000の間、好ましくは200〜18000の間、より好ましくは300〜6000の間に含まれる分子量を有する請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記熱交換液としての使用が、式(III):
1O-(CF2CF2O)d-(CF2O)e-T2 (III)
[式中、T1およびT2= -CF2Hであり、係数dおよびeが0または整数である]
の液体からできている請求項1〜4のいずれか1つに記載の方法。
【請求項6】
前記フッ素化化合物が、一般式(IV):
1-O-R2 (IV)
[式中、R1およびR2は互いに同一または異なって、少なくとも3つの炭素原子を含み、水素原子の総数が多くてもフッ素原子の数に等しい]
のハイドロフルオロエーテルである請求項1〜4のいずれか1つに記載の方法。
【請求項7】
前記ハイドロフルオロエーテルが、C37-OCH3、C49-OCH3、C49-O-C25、C715-O-C25、C49-O-CF2HおよびC49-O-CF2CF2Hから選択される請求項6に記載の方法。

【公開番号】特開2011−80081(P2011−80081A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−270329(P2010−270329)
【出願日】平成22年12月3日(2010.12.3)
【分割の表示】特願2002−307508(P2002−307508)の分割
【原出願日】平成14年10月22日(2002.10.22)
【出願人】(503023047)ソルヴェイ ソレクシス エス.ピー.エー. (40)
【氏名又は名称原語表記】Solvay Solexis S.p.A.
【住所又は居所原語表記】Viale Lombardia 20,Milano,Italy