説明

霊長哺乳類の組織を修復する方法

霊長哺乳類の組織を修復する方法が開示される。当該方法は、霊長哺乳類から血球細胞を取り出すステップと、取り出した血球細胞の立体構造を維持し、取り出した血球細胞の細胞間サポート及び細胞間構造を維持したままで、好ましくは7日以内に少なくとも7倍まで取り出した血球細胞を制御して膨張するステップと、霊長哺乳類の身体システムが損傷した組織を効果的に修復するように血球細胞を活用する十分な時間内で膨張した血球細胞を霊長哺乳類に戻すステップとを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、霊長哺乳類の組織を修復する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
霊長哺乳類の組織の再生は、医学社会において長期にわたって待望されてきた。したがって、霊長哺乳類の組織の修復は、ドナーから同様の組織を移植することによって広く行なわれてきた。基本的に、へリックの双子のうちの一人からもう一人への腎臓移植から始まり、後に、1967年12月3日に行なわれた、サウスアフリカン ドクター クリスチャン ベルナルド(South African Doctor Christian Barnard)でのデニス ダーバルからルイス ワッシュカンジーへの心臓移植によって世界に広く有名になって、組織移植は、末期患者を延命する幅広く受け入れられた方法となった。
【0003】
その最初の利用から、哺乳類の組織の移植は、本来、身体の自然の免疫システムによる組織の拒絶という、主要な問題に遭遇した。これによって、しばしば組織移植の利用が限られた期間延命させた。(ワッシュカンジーは手術後18日間だけ生きた。)
身体の免疫システムの問題を克服するために、多くの抗拒絶反応剤(例えば、Imuran、Cyclosporine)が免疫システムを抑制するために間もなく開発され、これによって、拒絶する前に、組織の利用を長引かせる。しかしながら、拒否反応問題は、組織移植に代わる必要性を求め続けていた。
【0004】
骨髄などのある組織を修復するために、白血病などの疾病の処置での選択手順である骨髄移植が活用されるが、骨髄移植も問題を有している。骨髄移植はドナーからの一致が必要であり(50%未満の可能性)、骨髄移植は苦痛で、高価であり、さらに危険性が高い。この結果、骨髄移植の代替が非常に望まれている。肝臓の幹細胞の移植などの組織幹細胞の移植(特許文献1参照)は、それら移植の幅広い用途を疑問視する同様の限界を与えている。
【0005】
近年、研究者は、組織移植に代わるものとして最も有力な胚性幹細胞を用いて実験した。胚性幹細胞の利用の背景理論は、実質的に胚性幹細胞は体のいかなる組織も再生させるために、理論的に利用されることができる、というものである。しかしながら、組織再生のための胚性幹細胞の利用もまた問題を抱えている。特に深刻な問題は、移植された胚性幹細胞は制御が制限され、時々腫瘍に成長し、研究に利用可能なヒトの胚性幹細胞は患者の免疫システムによって拒絶され得ることである(非特許文献1参照)。さらに、胚性幹細胞の幅広い利用は、倫理的、道徳的、政治的な懸念に悩まされるので、その広範囲にわたる用途が疑問視されている。
【特許文献1】米国特許第6,129,911号明細書
【非特許文献1】Nature、2002年6月17日
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、器官の移植または胚性幹細胞の利用に基づかない、霊長哺乳類組織の修復方法を提供する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、霊長哺乳類組織の修復方法である。この方法は、霊長哺乳類からの血球細胞の取り出しステップと、取り出した血球細胞の立体構造を維持し、取り出した血球細胞の細胞間サポート及び細胞間構造を維持したままで、好ましくは7日以内に少なくとも7倍に取り出した血球細胞を制御して膨張するステップと、霊長哺乳類の身体システムが損傷した組織を効果的に修復するように血球細胞を活用する十分な時間内で膨張した血球細胞を霊長哺乳類に戻すステップとを有する。
【0008】
本発明の目的は、霊長哺乳類の組織の修復方法を提供する。
【0009】
本発明のさらなる目的は、身体組織を修復するために、膨張された血液と身体自体を修復する身体能力との組み合わせを用いることである。
【0010】
また、本発明のさらに別の目的は、器官移植の利用または胚性幹細胞を使用することなく、生命をつかさどる身体器官の修復方法を提供することである。
【0011】
本発明の別の目的は、細胞の源を発するヒトの造血システムでの体積当たり少なくとも8倍の血球細胞数を有する、体外のヒトの細胞構成を提供することである。
【0012】
本発明のさらに別の目的は、哺乳類細胞の補充方法を提供することである。
【0013】
本発明の上記及び他の目的並びに利点は、下記の好ましい実施態様の記載から明らかになるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明は、霊長哺乳類の組織の修復、補充及び再生方法に関する。
【0015】
本発明は下記に記載の好ましい実施態様によって更に完全に記載されるが、この実施態様に制限されない。
【0016】
本発明の好ましい実施態様において、組織を修復、補充及び再生して身体を助けることができる、成人の幹細胞を調製する方法が記載される。血球細胞が患者から取り出される。現在、それらの細胞のサブポピュレーション(subpopulation)は、成人の幹細胞と呼ばれる。血球細胞は、本明細書に参照として組み込まれる米国特許第5,702,941号明細書に記載されるようなバイオリアクターに配置される。バイオリアクターの管は、血球細胞の立体構造、その細胞間サポート及び構造を維持するために、血球細胞の懸濁を提供する速度で回転される。細胞がリアクター内にある間、細胞に栄養分が供給され、ホルモン、サイトカイン若しくは成長因子にさらされ、及び/または遺伝子的に改変されて、さらに毒性物質が取り除かれる。典型的には、毒性物質は、死細胞の顆粒状物質、顆粒球及びマイクロファージ(mycrophages)の毒性物質を含む血球細胞から取り除かれる。これらの細胞のサブポピュレーションは、大量の細胞をつくって膨張される。細胞が充分な時間、好ましくは7日以内で、少なくとも7倍に膨張するために、細胞の膨張は制御される。次いで、修復再生する体の自然のシステムが修復するように、細胞は、静脈内にまたは直接注射される。本方法は、肝臓組織、心臓組織、造血組織、血管、皮膚組織、筋組織、消化管組織、膵組織、中枢神経系細胞、骨、軟骨、結合組織、肺組織、脾組織及び他の身体組織を修復するために利用できる。さらに、この方法において、好ましくは遺伝子的に血球細胞を改変することによって、血球細胞は、それらの治癒的な特徴を変更するために操られることができる。
【0017】
本発明の更に別の実施態様において、末梢血球細胞(PB)は、組織の修復を必要としているヒトから得られる。簡潔には、単核細胞(MNCs)は、ドナーから収集されたファーストアフェレーシス産物(first apheresis product)から得られる。アフェレーシスに先立ち、ドナーはG−CSF6g/kgを3日間にわたって12時間ごとに処置されて、4日目に一度だけ処理される。単核細胞は、ドナーの総血液量を、例えば、Cobe Spectra細胞セパレータなどのセパレータにより、3回の連続する流れの白血球搬出法によって収集される。
【0018】
別の実施態様において、本発明は、霊長哺乳類細胞の補充方法に関する。血球細胞は霊長哺乳類から従来の方法によって取り出される。取り出された細胞は、本明細書に参照として組み込まれる、米国特許第5,702,441号明細書に記載のバイオセクター(biosector)を活用する方法で制御されて膨張される。細胞は、その立体構造と細胞間構造を維持したままで膨張される。例えば、毒性の顆粒状物質やマイクロファージなどの毒性物質は取り除かれる。膨張された細胞は、霊長哺乳類の異なる細胞群を効果的に補充するために、すべての霊長哺乳類の身体システムにとって十分な期間内に従来の手段によって霊長類動物に戻される。
【0019】
本発明の別の実施態様は、組織(既に記載した組織など)を修復、補充及び再生する身体システムを助けるように機能する体外のヒト血球細胞構成に関する。血球細胞の構成は、体外の細胞分裂を受けたヒトの造血システムから生じる相当な数の細胞を有する。血球細胞構成は、その源を発するヒトの造血システムでの体積当たり少なくとも8倍の血球細胞数を含む。血球細胞構成は、その源を発するヒトの造血システムでの基本的な立体構造、細胞間サポート及び細胞間構造を有する。構成には毒性の顆粒状物質はなく、それらの物質は死細胞、顆粒球及びマイクロファージの毒性物質または内容物である。
【実施例】
【0020】
実施方法
A)細胞の収集及び維持
上述したようなドナーから得られ収集された単核細胞(0.75x10cells/ml)は、20%の胎児の子牛血清(FCS)(Flow Laboratories、McClean、VA)、5%ヒトアルブミン(HA)、または20%ヒト血漿のいずれか、100ng/mlの組換えヒトG−CSF(Amgen Inc.,Thousand Oaks, CA)および100ng/mlの組換えヒト幹細胞因子(SCF)(Amgen)が補充された、Iscoveの修正されたDulbeccoの培養液(IMDM)(GIBCO、Grand Island、NY)に懸濁される。培養混合液は、300mlまたは500mlのLife Cell 非発熱性のプラスチック袋(Baxter、Deerfield、IL)に注入され、5%COの雰囲気下において37ECで湿式インキュベーターに配置された。培養袋は毎日検査される。
【0021】
B)造血コロニー形成細胞の分析
造血コロニー形成細胞は、既に記載したアッセイの変形を用いてアッセイされる。要約すると、10の単核細胞は、IMDM、30%FCS、1.0%U/mlのエリトロポエチン(Amgen)、50ng/ml組換えヒトGM−CSF(Immunex Corp.,Seattle、WA)及び50ng/mlのSCF(Amgen)を有する0.8%メチルセルロースに培養される。次いで、各培養混合液の1ミリリットルのアリコートは、35mmのペトリ皿(Nunc Inc.,Naperville,IL)に配置され、5%COの湿った雰囲気下において37ECで複製してインキュベーションされた。すべての培養は、バースト形成単位の赤血球(BFU−E)群体(500よりも多いヘモグロビン化細胞(hemoglobiinized cells)または3以上の赤血球のサブコロニーの凝集として定義)の数、顆粒細胞若しくは単球−マクロファージ細胞又は両者のコロニー形成単位の顆粒球−マクロファージ(CFU−GM)コロニーの数、及びすべての要素を含んでいるCFU−顆粒球−赤血球−マクロファージ−巨核球(CFU−GEMM)の数において、7日後に評価された。個々のコロニーは、マイクロピペットで培養液から採取され、細胞の構成のために分析された。
【0022】
C)幹細胞及びリンパ球の分析
リンパ球は、下記の抗体の組合せ:CD56+CD16−PE/CD3−FITC、CD3−PE/CD4−FITC、CD3−PE/CD8−FITC、CD19−PEを使用して2色染色によって分析された。コントロールは、イソタイプのIgG1−PE/IgG1−FITCと、ゲートのためのCD14−PE/CD45−FITCを含む。始原細胞は、下記の抗体の組み合わせ:CD45/CD90/CD34、CD45/CD34/CD38、CD45/CD34/CD33、及びCD45/CD34/CD15を用いて、蛍光色素PerCP/PE/FITCでの3色染色によって解析される。CD45/IgG1/IgG1はコントロールとして使用される。要約すると、ドナーからの10の細胞は、暗所で15分間2〜8ECにおいて10:1の抗体でインキュベーションされ、次いで、リン酸塩緩衝液で2回洗浄された。次いで、細胞は再懸濁され、1%ホルムアルデヒドで固定され、CELLQuestソフトウェア(べクトンディッキンソン)が装備されたFACScanフローサイトメトリー(べクトンディッキンソン)で解析された。リンパ球の解析のため、10000細胞が各試験管から得られ、前方の直角光散乱パターンに基づいてゲート制御された。カットオフポイントは、イソタイプのコントロールによって明らかに呈される、バックグラウンドより高いレベルで視覚的に設定される。始原細胞の分析のため、各試験管から75000細胞が得られ、次いで、順次ゲート制御される。
【0023】
D)造血コロニー形成細胞の量の増加
この組織培養システムでのドナーの末梢血球細胞のインキュベーションは、造血コロニー形成細胞の数を著しく高める。CFU−GM(7倍まで)及びCFU−GEMM(9倍まで)のコロニー形成細胞の数の一定の増加は、明らかなプラトーはなく7日間まで観察された。
【0024】
E)CD34+細胞の増加
この組織培養システムで通常のドナーからの単核細胞のインキュベーションは、CD34+細胞の数を著しく高める。CD34+細胞の平均数は、6日の培養で10倍までに高まり、同じ日にプラトーになった。脊髄血統標識CD15及びCD33を共に発現するCD34+細胞の相対的な数は、5日と6日で相当に高くなる。7日目以降、細胞は患者に再度注入される。注入は、血流への細胞の注入であるか、または、好ましくは、肝臓など損傷組織への直接的な注入となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
霊長哺乳類からの血球細胞の取り出しステップと、該取り出した血球細胞の立体構造を維持し、該取り出した血球細胞の細胞間サポート及び細胞間構造を維持したままで、7日以内に少なくとも7倍まで該取り出した血球細胞を制御して膨張するステップと、霊長哺乳類の身体システムが損傷した組織を効果的に修復するように血球細胞を活用する十分な時間内で該膨張した血球細胞を該霊長哺乳類に戻すステップとを有することを特徴とする霊長哺乳類の組織の修復方法。
【請求項2】
前記膨張した血球細胞は、前記霊長哺乳類の身体に戻す前に毒性物質を取り除かれることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記血球細胞からの毒性物質の除去は、死細胞の毒性の顆粒状内容物、顆粒球及びマイクロファージの毒性内容物の除去を含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記修復される霊長哺乳類の組織は、生命をつかさどる組織であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記霊長哺乳類はヒトであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記修復される霊長哺乳類の組織は、心臓組織であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記修復される組織は、肝臓組織であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記修復される組織は、造血組織であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記修復される組織は、血管であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記修復される組織は、皮膚組織であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記修復される組織は、筋組織であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記修復される組織は、消化管組織であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記修復される組織は、膵組織であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記修復される組織は、中枢神経系細胞であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記修復される組織は、骨であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記修復される組織は、軟骨組織であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記修復される組織は、結合組織であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項18】
前記修復される組織は、肺細胞であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項19】
前記修復される組織は、脾組織であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項20】
前記血球細胞の治癒的な特徴を変えるために血球細胞の操作を含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項21】
前記血球細胞の操作は、該血球細胞の遺伝子的な改変を含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項22】
霊長哺乳類からの血球細胞の取り出しステップと、該取り出した血球細胞の立体構造を維持し、該取り出した血球細胞の細胞間サポート及び細胞間構造を維持したままで、該取り出した血球細胞を制御して膨張するステップと、該血球細胞から毒性物質を取り出すステップと、該霊長哺乳類の身体システムが異なる細胞群を効果的に補充するように十分な時間内で膨張した血球細胞を該霊長哺乳類に戻すステップとを有することを特徴とする霊長哺乳類の細胞の補充方法。
【請求項23】
ヒトの造血システムから生じる相当な数の細胞が体外の細胞分割を受ける、体外のヒト血球細胞構成であって、その源を発するヒトの造血システムでの体積当たり少なくとも8倍の血球細胞の数を有し、その源を発するヒトの造血システムでの基本的な立体構造、細胞間サポート及び細胞間構造を有する構造を含み、該構造は死細胞の毒性の顆粒状物質、顆粒球及びマイクロファージの毒性内容物がないことを特徴とする体外のヒト血球細胞構成。
【請求項24】
組換えヒトG−CSFを含む請求項23に記載の体外のヒト血球細胞構成。

【公表番号】特表2007−520993(P2007−520993A)
【公表日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−509358(P2005−509358)
【出願日】平成15年9月2日(2003.9.2)
【国際出願番号】PCT/US2003/027398
【国際公開番号】WO2005/033299
【国際公開日】平成17年4月14日(2005.4.14)
【出願人】(506072701)レジーンテック インコーポレーテッド (2)
【Fターム(参考)】