説明

静止誘導器

【課題】高い絶縁性能と高い冷却性能を両立できる静止誘導器を提供することを目的としている。
【解決手段】コイル4の径方向端部を覆うように、かつその底部とコイル4の径方向端部との間に所定のスペースを設けて配置されたコ字状バリア絶縁物9a、9b、およびこのスペース内の一部に配置されコイル4の径方向端部に存在するコイル角部11a、11b、11c、11dをコ字状バリア絶縁物9a、9bとで共同して覆う充填絶縁物10a、10b、10c、10dを備え、スペース内の残部に流体媒体が通流するコイル端部流路12a、12bを形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば、油入変圧器や油入リアクトル等に用いられ、コイルの絶縁および冷却のための構造を有する静止誘導器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
静止誘導器では、コイル角部に電界が集中し、絶縁上の弱点になる。図14は、例えば特許文献1に示す従来の静止誘導器のコイル断面図を示したものである。図14の左側に中心軸があり(図示せず)、コイル101が同心円状に巻回されている。特許文献1に示す従来の静止誘導器では、コイル101の半径方向端部を半径方向に開口した断面コの字状の絶縁体105a、105bでそれらの溝部内面に密接するよう覆い、コイル角部102a〜102dの電界集中を抑制することでコイル間の絶縁性能を高く保っている。
【0003】
一方、図15は、図14とは異なる、例えば特許文献2に示す従来の静止誘導器であり、コイル101の半径方向端部にLの字状の絶縁物106a、106bを取付け、このL字状絶縁物106aのコイル側の面に間隔片107a、107bを、L字状絶縁物106bのコイル側の面に間隔片107c、107dを取り付け、L字状絶縁物と間隔片とコイル101とで囲まれた領域に冷却媒体が通流するコイル端部流路108a〜108dを設けることで静止誘導器の冷却性能を高めている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−6950号公報
【特許文献2】特開2000−277353号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に示す従来の静止誘導器では、コイル101の半径方向端部がコ字状絶縁物105a、105bで覆われているためコイル101の端部と冷却媒体との接触がなく、充分な冷却性能を確保できない恐れがあった。
一方、特許文献2に示す従来の静止誘導器では、コイル角部102a〜102dが露出して存在しているため、コイル角部102a〜102dに電界が集中し、充分な絶縁性能を得られない恐れがあった。
すなわち、特許文献1の技術では高い絶縁性能を得るために冷却性能を犠牲にし、一方で特許文献2の技術では高い冷却性能を得るために絶縁性能を犠牲にしていた。
【0006】
本発明は上記の問題点を解決するためになされたものであり、高い絶縁性能と高い冷却性能を両立できる静止誘導器を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る静止誘導器は、絶縁被覆を施した、断面略矩形の電線を径方向に所定の回数巻回してなるコイルを複数個、コイルの軸方向に所定の間隔で配置し、絶縁兼冷却用の流体媒体とともにタンク内に収容してなる静止誘導器であって、
コイルの径方向端部を覆うように、かつその底部とコイルの径方向端部との間に所定のスペースを設けて配置されたバリア絶縁物、および該スペース内の一部に配置されコイルの径方向端部に存在するコイル角部をバリア絶縁物とで共同して覆う充填絶縁物を備え、スペース内の残部に流体媒体が通流するコイル端部流路を形成したものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る静止誘導器は、以上のように、充填絶縁物とバリア絶縁物とで共同してコイル角部を覆う構成としたので、絶縁性能の低下を防ぐことができる。かつ、充填絶縁物とバリア絶縁物とで囲まれるスペースにコイル端部流路を形成する構成としたので、高い冷却性能を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施の形態1による、静止誘導器である内鉄形変圧器を示す斜視図である。
【図2】図1のA部を拡大して示す斜視図である。
【図3】図2のIII−III線に沿った垂直断面図である。
【図4】本発明の、図3とは異なる内鉄形変圧器の要部を示す垂直断面図である。
【図5】本発明の、更に他の内鉄形変圧器の要部を示す垂直断面図である。
【図6】本発明の実施の形態2による内鉄形変圧器の要部を示す垂直断面図である。
【図7】図6中に記載された繰り抜き充填絶縁物15の構造図である。
【図8】図6中に記載された繰り抜き充填絶縁物15の他の例を示す構造図である。
【図9】本発明の実施の形態3による外鉄形変圧器を示す斜視図である。
【図10】図9のコイル部を示す断面図である。
【図11】図10のXI−XI線に沿った垂直断面図である。
【図12】図10のXII−XII線に沿った垂直断面図である。
【図13】図12中に記載されたL字状充填絶縁物46の構造図である。
【図14】従来の内鉄形変圧器の要部を示す断面図である。
【図15】従来の、図14とは異なる内鉄形変圧器の要部を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
実施の形態1.
以下、本発明を実施するための各形態例について、図面を参照して説明する。
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1による静止誘導器としての内鉄形変圧器を示す斜視図である。図2は、図1のA部を拡大して示す斜視図で、図の左側が内周側、右側が外周側となる。
図1および図2において、実施の形態1の内鉄形変圧器1は、タンク(図示せず)、鉄心2、および円盤状のコイル本体3を有している。コイル本体3は、鉄心2の脚部を囲むように鉄心2に取り付けられている。鉄心2およびコイル本体3は、絶縁兼冷却用の流体媒体である絶縁油もしくはSFガスと共にタンク内に収容されている。
【0011】
コイル本体3は、絶縁被覆5を施した、断面略矩形の電線(いわゆる平角電線)6を径方向(図2の左右方向)同心状に所定の回数巻回して形成された円盤状のコイル4を複数枚有しており、コイル4の軸方向(図2の上下方向)に、コイル4と絶縁スペーサ7とが交互に多層積み重ねられて形成されている。コイル4は、内周側の絶縁筒(図示せず)の外周に設けられた縦ダクトピース8aの外側に間隔をあけて巻回されている。コイル4と縦ダクトピース8aとの間には、断面がコの字状のコ字状バリア絶縁物9aが配置されている。コイル4の外側には間隔をあけてさらに縦ダクトピース8bが配置され、この縦ダクトピース8bの外側にはさらに絶縁筒(図示せず)が配置されている。コイル4と縦ダクトピース8bの間にもコ字状バリア絶縁物9bが配置されている。
【0012】
絶縁スペーサ7の径方向端部にはT字状の溝が設けられ、このT字状の溝に嵌め合うよう、縦ダクトピース8a、8bが配置され、絶縁スペーサ7と縦ダクトピース8a、8bとの位置が固定されている。絶縁スペーサ7は、コイル4の周方向に複数枚配置されている。コ字状バリア絶縁物9a、9bは、絶縁スペーサ7と周方向幅が等しく周方向端面が同一になっている構成であってもよく、コ字状バリア絶縁物9a、9bの周方向幅が絶縁スペーサ7より大きく絶縁スペーサ7の片側ないし両側で周方向に突出する構成であってもよい。但し、周方向側面へと放電が進展する場合の放電バリア効果を考えると、コ字状バリア絶縁物9a、9bが周方向の両側で絶縁スペーサ7から突出する構成が最も良い。
【0013】
図3は、図2のIII−III線に沿う垂直断面図である。コイル4の径方向端部を覆う、コ字状バリア絶縁物9a、9bは、その開口部の側面がコイル4と密接するよう配置されており、絶縁スペーサ7と共同してコイル4の重量を保持している。コ字状バリア絶縁物9aの開口部の底面は、コイル4の径方向端部と間隔をあけ、両者の間に所定のスペースを設けて配置されている。コ字状バリア絶縁物9aの開口部の底面とコイル4との間のスペース内の一部には、直方体状の充填絶縁物10a、10bが配置されており、同様に、コ字状バリア絶縁物8bの開口部の底面とコイル4との間のスペース内の一部には、直方体状の充填絶縁物10c、10dが配置されている。
【0014】
充填絶縁物10aは、コイル4とコ字状バリア絶縁物9aとにそれぞれ密接し、コ字状バリア絶縁物9aと共同して、コイル4の径方向端部に存在するコイル角部11aを覆っており、充填絶縁物10bは、コイル4とコ字状バリア絶縁物9aとにそれぞれ密接し、コ字状バリア絶縁物9aと共同してコイル角部11bを覆っている。同様に、充填絶縁物10cは、コイル4とコ字状バリア絶縁物9bとにそれぞれ密接し、コ字状バリア絶縁物9bと共同してコイル角部11cを覆っており、充填絶縁物10dは、コイル4とコ字状バリア絶縁物9bとにそれぞれ密接し、コ字状バリア絶縁物9bと共同してコイル角部11dを覆っている。
【0015】
充填絶縁物10a、10bとコ字状バリア絶縁物9aとコイル4とで囲まれるスペース内の残部に相当する領域には、流体媒体が通流するコイル端部流路12aが形成されており、充填絶縁物10c、10dとコ字状バリア絶縁物9bとコイル4とで囲まれる同領域には、コイル端部流路12bが形成されている。充填絶縁物10a、10bの周方向幅は、コ字状バリア絶縁物9aの周方向幅と等しく周方向端面が同一になっている構成であってもよく、充填絶縁物10a、10bの周方向幅がコ字状バリア絶縁物9aより大きくコ字状バリア絶縁物9aの片側ないし両側で周方向に突出する構成であってもよい。同様に、充填絶縁物10c、10dの周方向幅は、コ字状バリア絶縁物9bの周方向幅と等しく周方向端面が同一になっている構成であってもよく、充填絶縁物10c、10dの周方向幅がコ字状バリア絶縁物9bより大きくコ字状バリア絶縁物9bの片側ないし両側で周方向に突出する構成であってもよい。
【0016】
上記のような本発明の実施の形態1の内鉄形変圧器1によれば、コイル4と縦ダクトスペーサ8aとの間にコ字状バリア絶縁物9aが配置され、コ字状バリア絶縁物9aは、開口部の側面がコイル4と密接するよう配置され、コ字状バリア絶縁物9aの開口部の底面とコイル4との間に充填絶縁物10a、10bが配置される。そして、充填絶縁物10a、10bは、コイル4とコ字状バリア絶縁物9aの開口部の側面と底面とにそれぞれ密接し、コ字状バリア絶縁物9aとで共同してコイル角部11a、11bを覆うと共に、充填絶縁物10a、10bとコ字状バリア絶縁物9aとコイル4とで囲まれる領域にコイル端部流路12aを形成したので、従来からほとんど寸法を増大させることなく、高い絶縁性能と高い冷却性能を両立させることができる。
【0017】
なお、実施の形態1の図3の例では、1つのコ字状バリア絶縁物9aに2つの充填絶縁物10a、10bを密接させたが、図4に示すように、一対の断面Lの字状のL字状バリア絶縁物13a、13bを片側のコイル4端部に配置し、L字状バリア絶縁物13aの表面に充填絶縁物10aを、L字状バリア絶縁物13bの表面に充填絶縁物10bを配置してもよい。この場合、放電が発生したときの進展抑制効果は、コ字状バリア絶縁物9aを使用した図3の場合と比較して低下するものの、コイル端部流路12aの流量が増えるため、図3の場合より効率よく冷却を行うことができる。
【0018】
また、実施の形態1の図3の例では、1つのコ字状バリア絶縁物9aの表面に2つの充填絶縁物10a、10bを密接させたが、図5に示すように、1つのコ字状バリア絶縁物9aの表面に、断面がコの字状のコ字状充填絶縁物14aを1つ密接させてもよい。この場合、コイル端部流路12aが小さくなるため冷却効率は低下するものの、充填絶縁物の取り付け工数を低減できるメリットがある。
【0019】
更に、実施の形態1において、充填絶縁物の材料として、変形可能なもの、即ち、変形性を有するものを使用することも考えられる。変形性を有するものを使用することで、コイル角部11a〜11dにできる楔状のギャップを充填絶縁物で完全に覆うことができる。一般的に、充填絶縁物の方が流体媒体より比誘電率が大きく、かつ絶縁耐圧が高いため、コイル間の絶縁性能を向上させることができる。変形性を有する充填絶縁物の材料としては、例えば、ゴム系材料が考えられる。変形性を有する材料の使用に伴う強度上の不安に関しては、充填絶縁物に対して力が加わるのはコイルの半径方向に関する力のみであり、この方向には大きな力は加わらないため、問題ない。
【0020】
実施の形態2.
先の実施の形態1の図3の例では、コ字状バリア絶縁物9aの表面に直方体状の充填絶縁物10a、10bを密接させたが、実施の形態2における内鉄形変圧器では、図6に示すように、直方体から一部繰り抜いた繰り抜き充填絶縁物15a、15bをコ字状バリア絶縁物9aに密接させる。
図7に繰り抜き充填絶縁物15の構造図を示す。繰り抜き充填絶縁物15は、コイル4と当接していない部分に繰り抜き部を形成する。繰り抜き部は、コイル4の周方向に1箇所以上、コイル4の軸方向にも1箇所以上設け、コイル周方向繰り抜き部16は、コイル軸方向繰り抜き部17の少なくとも一つと連通しているものとする。また、コイル軸方向繰り抜き部17は、コイル端部流路12に連通する。図7中の矢印は、流体媒体の流れる方向を示す。
【0021】
次に、図6を用いて流体媒体の流れを説明する。流体媒体は、繰り抜き充填絶縁物15bのコイル周方向繰り抜き部16bから入り、コイル軸方向繰り抜き部17を通ってコイル端部流路12aに到達する。コイル端部流路12aにてコイル4を冷却した後、繰り抜き充填絶縁物15aのコイル軸方向繰り抜き部17から入ってコイル周方向繰り抜き部16aに抜ける。
【0022】
上記のような本発明の実施の形態2の内鉄形変圧器1によれば、コイル4端部を冷却する流体媒体が、コイル4下方から供給され、コイル4を冷却した後はコイル4上方へ流れていくため、実施の形態1の場合と比較して高い冷却性能を得ることができる。
なお、繰り抜き充填絶縁物15として、図7では、コイル周方向繰り抜き部16は、周方向に全て繰り抜かれていたが、図8のように、コイル周方向繰り抜き部16とコイル軸方向繰り抜き部17が連通する箇所まで繰り抜き、それ以上には繰り抜かない構造としても良い。この場合、冷却性能は図7の場合と比較して若干低下するものの、コイル半径方向の外力に対する繰り抜き充填絶縁物15の耐機械力は向上する。
【0023】
実施の形態3.
先の実施の形態1、2では、静止誘導器として内鉄形変圧器を取り上げたが、本発明の実施の形態3では、静止誘導器として外鉄形変圧器を取り上げる。図9は、本発明の実施の形態3による外鉄形変圧器を示す斜視図である。
図9において、外鉄形変圧器31は、タンク32、鉄心33の他、コイル本体34を有している。タンク32の内部には、流体媒体(図示せず)が充填されている。鉄心33、コイル本体34は、タンク32の内部に収容されている。
【0024】
図10は、図9のコイル本体34を構成する複数枚のコイルの一つを示している。図11は、図10のXI−XI断面の垂直断面図であり、図12は、図10のXII−XII断面の垂直断面図である。図10には、コイル35面上を流体媒体が流れる方向を矢印によって示している。
図11、図12において、コイル本体34は、コイル35a、35bの他、複数のコイル(図示せず)を有している。コイル35a、35bは、それぞれ絶縁被覆36を施した、断面略矩形の電線37を径方向(両図では上下方向が相当する)に所定の回数巻回して平板状に形成されている。コイル35a、35bは、その軸方向(両図では、左右方向が相当する)に所定の間隔で配置され、図の下方で直列接続されている。
【0025】
コイル35aのコイル35bに面した側には、絶縁板39bがコイル35aから間隔をおいて配置され、反対側の面にも絶縁板39aがコイル35aから間隔をおいて配置されている。同様に、コイル35bのコイル35aに面した側には絶縁板39cがコイル35bから間隔をおいて配置され、反対側の面にも絶縁板39dがコイル35bから間隔をおいて配置されている。
コイル35aと絶縁板39aとの間には、複数の絶縁スペーサ38aが間隔をおいて配置されている。コイル35aと絶縁板39aとの間の領域における互いに隣り合う絶縁スペーサ38a同士の間のスペースはコイル面流路44aとなっている。同様に、コイル35aと絶縁板39bとの間には、複数の絶縁スペーサ38bが間隔をおいて配置されている。コイル35aと絶縁板39bとの間の領域における互いに隣り合う絶縁スペーサ38b同士の間のスペースはコイル面流路44bとなっている。
【0026】
コイル35aとコイル35bとの間には、複数の絶縁スペーサ38eが間隔をおいて配置されている。複数の絶縁スペーサ38eは、コイル35aとコイル35bとの間に共同してコイル間流路45を形成している。
図11において、断面がコの字状のコ字状バリア絶縁物40a、40bは、開口部の側面がコイル35aと密接するよう配置されている。コ字状バリア絶縁物40aの開口部の底面は、コイル35aの径方向端部と間隔をあけ、両者の間に所定のスペースを設けて配置されている。コ字状バリア絶縁物40aの開口部の底面とコイル35aとの間のスペース内の一部には、直方体状の充填絶縁物41a、41bが配置されており、同様に、コ字状バリア絶縁物40bの開口部の底面とコイル35aとの間のスペース内の一部には、直方体状の充填絶縁物41c、41dが配置されている。
【0027】
充填絶縁物41aは、コイル35aとコ字状バリア絶縁物40aとにそれぞれ密接し、コ字状バリア絶縁物40aと共同して、コイル35aの径方向端部に存在するコイル角部42aを覆っており、充填絶縁物41bは、コイル35aとコ字状バリア絶縁物40aとにそれぞれ密接し、コ字状バリア絶縁物40aと共同してコイル角部42bを覆っている。同様に、充填絶縁物41cは、コイル35aとコ字状バリア絶縁物40bとにそれぞれ密接し、コ字状バリア絶縁物40bと共同してコイル角部42cを覆っており、充填絶縁物41dは、コイル35aとコ字状バリア絶縁物40bとにそれぞれ密接し、コ字状バリア絶縁物40bと共同してコイル角部42dを覆っている。
【0028】
充填絶縁物41a、41bとコ字状バリア絶縁物40aとコイル35aとで囲まれるスペースの残部に相当する領域には、流体媒体が通流するコイル端部流路43aが形成されており、充填絶縁物41c、41dとコ字状バリア絶縁物40bとコイル35aとで囲まれる同領域には、コイル端部流路43bが形成されている。
図10に示すように、図11に示す断面では、流体媒体は、図の手前−奥行き方向に移動するため、コイル端部に形成されたコイル端部流路43a、43bとコイル間流路45とをつなぐ必要はない。但し、図12に示す断面では、コイル端部流路43bを通ってきた流体媒体を、図の下方から上方に向かって移動させる必要があるため、コイル端部流路43bをコイル面流路44aないし44bとつなぐ必要がある。その解決策として、充填絶縁物41dの代わりに、断面がLの字状のL字状充填絶縁物46を配置し、コイル端部流路43bとコイル面流路44bとをつなぐことが考えられる。
【0029】
図13にL字状充填絶縁物46の構造図を示す。L字状充填絶縁物46のコ字状バリア絶縁物40bと面した側につなぎ流路48が形成されている。コイル端部流路43bを流れてきた流体媒体は、つなぎ流路48を通ってコイル面流路44bに流れていく。
L字状充填絶縁物46を配置する位置については、図12に挙げた他にもL字状充填絶縁物46を充填絶縁物41cの代わりに配置してコイル端部流路43bとコイル面流路44aとをつないだり、L字状充填絶縁物46を充填絶縁物41c、41dの両方の代わりに配置したりする構造が考えられる。但し、隣接するコイルと直列接続された側の電位差がほとんどないのに対し、隣接するコイルと直列接続されていない側には大きな電位差が発生するため、隣接するコイルと直列接続された側に存在する充填絶縁物41dのみをL字状充填絶縁物46とするのが絶縁性能を維持する上で最も効果的である。
【0030】
なお、このL字状充填絶縁物46を設けることによる、図12では下方に位置する、コイル35aと絶縁板39bとの間隔寸法の増大は、上方に位置する部分に、コイル端部絶縁スペーサ47を挿入することで調整している。
【0031】
上記のような本発明の実施の形態3の外鉄形変圧器31によれば、コイル35aの径方向端部にコ字状バリア絶縁物40aが配置され、コ字状バリア絶縁物40aの開口部の底面とコイル35aとの間に充填絶縁物41a、41bが配置される。そして、充填絶縁物41a、41bは、コイル35aとコ字状バリア絶縁物40aの開口部の側面と底面とにそれぞれ密接し、コ字状バリア絶縁物40aとで共同してコイル角部42a、42bを覆うと共に、充填絶縁物41a、41bとコ字状バリア絶縁物40aとで囲まれる領域にコイル端部流路43aを形成したので、従来からほとんど寸法を増大させることなく、高い絶縁性能と高い冷却性能を両立させることができる。
【0032】
また、実施の形態3の図11、図12の例では、1つのコ字状バリア絶縁物40aの表面に2つの充填絶縁物41a、41bを密接させたが、先の実施の形態1で示したように、1つのコ字状バリア絶縁物40aの表面に断面がコの字状のコ字状充填絶縁物を1つ密接させる構造としてもよい。この場合、コイル端部流路43aが小さくなるため冷却効率は低下するものの、製作工数を低減できるメリットがある。
また、実施の形態1、2では、静止誘導器として、絶縁性の油またはガスを使用した内鉄形変圧器1について説明し、実施の形態3では、同様の外鉄形変圧器31について説明した。しかしながら、この発明は、例えば、絶縁性の油またはガスを使用したリアクトル等他の種類の静止誘導器についても同様に適用でき、同等の効果を奏する。
【符号の説明】
【0033】
1 内鉄形変圧器、2 鉄心、3 コイル本体、4 コイル、5 絶縁被覆、
6 電線、7 絶縁スペーサ、9a,9b コ字状バリア絶縁物、
10a,10b,10c,10d 充填絶縁物、
11a,11b,11c,11d コイル角部、12a,12b コイル端部流路、
13a,13b,13c,13d L字状バリア絶縁物、
14a,14b コ字状充填絶縁物、
15a,15b,15c,15d 繰り抜き充填絶縁物、
16a,16b,16c,16d コイル周方向繰り抜き部、
17 コイル軸方向繰り抜き部、31 外鉄形変圧器、32 タンク、33 鉄心、
34 コイル本体、35,35a,35b コイル、36 絶縁被覆、37 電線、
40a,40b コ字状バリア絶縁物、41a,41b,41c,41d 充填絶縁物、42a,42b,42c,42d コイル角部、43a,43b コイル端部流路、
46 L字状充填絶縁物、48 つなぎ流路。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁被覆を施した、断面略矩形の電線を径方向に所定の回数巻回してなるコイルを複数個、前記コイルの軸方向に所定の間隔で配置し、絶縁兼冷却用の流体媒体とともにタンク内に収容してなる静止誘導器であって、
前記コイルの径方向端部を覆うように、かつその底部と前記コイルの径方向端部との間に所定のスペースを設けて配置されたバリア絶縁物、および前記スペース内の一部に配置され前記コイルの径方向端部に存在するコイル角部を前記バリア絶縁物とで共同して覆う充填絶縁物を備え、前記スペース内の残部に前記流体媒体が通流するコイル端部流路を形成したことを特徴とする静止誘導器。
【請求項2】
前記バリア絶縁物は、前記コイルの径方向端部を覆う断面がコの字状に形成されたコ字状バリア絶縁物であることを特徴とする請求項1記載の静止誘導器。
【請求項3】
前記バリア絶縁物は、断面がLの字状に形成されたL字状バリア絶縁物からなり、一対の前記L字状バリア絶縁物により前記コイルの径方向端部を覆うようにしたことを特徴とする請求項1記載の静止誘導器。
【請求項4】
前記充填絶縁物は、その両端が前記コイルの径方向端部の前記軸方向両端に存在する前記コイル角部に当接する、断面がコの字状のコ字状充填絶縁物であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の静止誘導器。
【請求項5】
前記充填絶縁物は、変形可能な材料で構成することを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の静止誘導器。
【請求項6】
前記充填絶縁物は、前記コイルの周方向に開口し前記コイル端部流路と連通する繰り抜き部を前記コイルと当接していない部分に形成した繰り抜き充填絶縁物であることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載の静止誘導器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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