説明

静止誘導機器

【課題】巻線端部のシールド部分に形成された冷却用油隙の確保と、絶縁性能の向上を可能とした信頼性ある静止誘導機器を提供する。
【解決手段】絶縁油が循環する静止誘導機器は、その内部に、鉄心に巻回した複数の円筒状の巻線1,2と、該巻線の巻線端部に取り付けられた静電シールド6,7と、この静電シールド6,7の外側に取り付けられた油隙分割用の絶縁バリア5を備える。静電シールド6を分割し、その分割部分の開口部を絶縁油の流路6aとする。分割された静電シールド6およびそのシールドの外側に取り付けられた油隙分割用のバリア5をまたぐように、開口部を有する板状の絶縁バリア10,11を取り付ける。絶縁油を、分割した静電シールド6,6および板状の絶縁バリア10,11のそれぞれに設けられた開口部12,13を経由して通流させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、変圧器、リアクトル等の油入の静止誘導機器に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、変圧器、リアクトル等の油入り静止誘導機器は高電圧化、大容量化しており、その中身寸法は増大する傾向にある。一方、静止誘導機器を設置する変電所および発電所の立地に関しては、環境条件を考慮して市街地では地下変電所等の設置スペースが縮小化する傾向にあり、また山間部等へ設置する場合には鉄道や道路等による輸送制限がある。このような状況から、静止誘導機器では、内部の巻線が必要とする絶縁寸法を縮小して、小型化することが要求されている。
【0003】
従来の超々高圧の油入り静止誘導機器は、巻線間あるいは巻線と鉄心間に複数の絶縁バリアを形成して、巻線間あるいは巻線と鉄心間に生成される油隙(絶縁油を流すための間隙、油道とも呼ばれる)を細分化することで、巻線間の耐圧を高める絶縁方法が採用されている。この絶縁方法は、通常、バリア絶縁と呼ばれる。
【0004】
具体的には、このバリア絶縁を採用した静止誘導機器は、その巻線間に複数の絶縁バリアを同心状に装着して、巻線間の油隙を細分化している。また、巻線とヨーク鉄心間に複数の板状の絶縁バリアを装着したり、巻線に設けた静電シールドの外側にL字型のバリア(一般に、油隙分割バリアと呼ばれる)を設けて、巻線周囲の油隙を細分割している。
【0005】
このように、絶縁バリアによって油隙を細分化するのは、油隙の寸法をd、破壊電界をEとするならば、E=kd−aなる関係があり、油隙の寸法dが短いほど破壊電界が高くなるといった性質を利用したものである。この性質は、例えば、非特許文献1に述べられている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】電気学会放電ハンドブック出版委員会編:「放電ハンドブック下巻」(平成10年発行)
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−106311
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
油入り静止誘導機器には、巻線の冷却と絶縁のために絶縁油が封入され、その絶縁油は変圧器タンクの外部に設けられた油ポンプによって循環する。例えば、高圧巻線の下部側に導入された絶縁油は、巻線のセクション間や、巻線と絶縁バリアで細分化された油隙、および静電シールドとL字型の油隙分割バリア間を流れるようになっている。
【0009】
一方、高圧巻線に電圧を印加すると、巻線端部に取り付けた静電シールドの端部に電界が集中する。特に、最近の超高圧および500kVを越える超々高圧の静止誘導機器においては、その傾向が強い。
【0010】
静電シールドの角の部分は電界が集中することから、その部分の外周には、絶縁バリアと巻線間以上に、L字型の油隙分割バリアを静電シールド側に近づけて、油隙を短くする必要がある。しかし、油隙を短くすると、L字型の油隙分割バリアと静電シールドとの間に絶縁油を効果的に流すことができず、冷却上の問題点が生じる。
【0011】
本発明の実施形態の目的は、巻線端部のシールド部分に形成された冷却用の油隙を確保しつつ、絶縁性能を向上することを可能とした信頼性ある静止誘導機器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の実施形態は、上記の課題を解決するために、次のような手段を採用したことを特徴とする。
(1)絶縁油が循環する静止誘導機器内部に、鉄心に巻回した複数の円筒状の巻線と、該巻線の巻線端部に取り付けられた静電シールドと、この静電シールドの外側に取り付けられた油隙分割用の絶縁バリアを備える。
(2)前記静電シールドを分割し、その分割部分に開口部を形成する。
(3)分割された静電シールドおよびそのシールドの外側に取り付けられた油隙分割用のバリアをまたぐように、開口部を有する板状の絶縁バリアを取り付ける。
(4)絶縁油を、前記分割した静電シールドおよび板状の絶縁バリアのそれぞれに設けられた開口部を経由して通流させる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態に係る変圧器の内部断面図。
【図2】本発明の実施形態に使用される板状の絶縁バリアの平面図。
【図3】本発明の実施形態に使用される板状の絶縁バリアの断面図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の第1の実施形態を、図1〜図3を用いて説明する。
【0015】
[1−1.構成]
図1において、1は高圧巻線、2は低圧巻線であり、図示していない主脚鉄心に、低圧巻線2と高圧巻線1が同心状に配置されている。高圧巻線1と低圧巻線2間、および高圧巻線1と図示していないタンクとの間には、複数の絶縁筒4が同心状に装着されている。なお、本実施形態では、低圧巻線2の外周側に1つの絶縁筒4が、高圧巻線1の内周側に内外二重の絶縁筒4が、高圧巻線1の外周側に内外二重の絶縁筒4が設けられている。
【0016】
前記高圧巻線1と低圧巻線2のヨーク鉄心3側には、それぞれ静電シールド6,7が取り付けられ、高圧巻線1及び低圧巻線2の端部の電界緩和が図られている。高圧巻線1側の静電シールド6は、その径方向に2分割されており、内外の静電シールド6,6の間には、絶縁油の流路となる間隙6aが設けられている。低圧巻線2の静電シールド7は、分割されることなく、低圧巻線2の端部に対向して配置されている。
【0017】
前記複数の同心状の絶縁筒4の夫々には、静電シールド6,7を蔽うようにL字型の油隙分割バリア5が取り付けられている。すなわち、油隙分割バリア5の垂直部分の下部は、同心状絶縁筒4の上部に固定されている。また、この油隙分割バリア5の上部は、屈曲して巻線端部の上方にまで伸びており、前記静電シールド6,7の水平部(ヨーク鉄心3と平行な部分)と垂直部(巻線の積層方向に沿った部分)を蔽っている。本実施形態では、前記のように同心状絶縁筒4が高圧巻線1の内周側と外周側に、それぞれ二重に設けられているので、L字型の油隙分割バリア5も、静電シールド6の内周側と外周側の外方にそれぞれ二重に設けられている。
【0018】
高圧巻線1の外周側の絶縁筒4に設けられた油隙分割バリア5の水平部(ヨーク鉄心3と平行な部分)と、高圧巻線1の内周側の絶縁筒4に設けられた油隙分割バリア5の水平部とは、静電シールド6の水平部と平行に、静電シールド6の表面に対して絶縁油の流路となる隙間を保って配置されている。また、両者の水平部の先端部の間には隙間が形成され、この隙間が絶縁油の流路5aになっている。
【0019】
なお、8は、油が不要な部位に流れないようにする油止めであり、L字型の油隙分割バリア5に接着された絶縁物である。
【0020】
前記2分割された静電シールド6,6の流路6aをまたぐように、板状の絶縁バリア10が静電シールド6,6の表面に取り付けられている。同様に、前記L字型の油隙分割バリア5の水平部の先端に設けられた流路5aをまたぐように、板状の絶縁バリア11が取り付けられている。
【0021】
これら板状の絶縁バリア10,11の形状の例を、図2(a)(b)に示す。図示のように、板状の絶縁バリア10,11には、巻線の円周方向に長辺を持つ複数のスリット状長方形の開口部12、あるいは巻線の円周方向に沿って並ぶ円形状の開口部13が設けられている。これらの開口部12,13は、板状の絶縁バリア10,11を重ねた場合、例えば、図3に示すように、その位置が重ならない位置に設けられている。本実施形態では、これらの開口部12,13が、絶縁油の流路を形成する。
【0022】
[1−2.作用]
このような構成を有する本実施形態において、巻線内を流れてきた絶縁油は、高圧巻線1の端部に取り付けられた静電シールド6,6の分割部に形成された流路6a内に流入する。その後、静電シールド6,6間の流路6aを通過して、静電シールド6,6及びL字型の油隙分割バリア5の流路5aに取り付けられた板状の絶縁バリア10,11のスリット状の長方形の開口部12あるいは円形状の開口部13を通って巻線外部に排出される。
【0023】
また、高圧巻線1の端部の電界は、分割された静電シールド6,6及びその周囲に設けられた油隙分割バリア5によって緩和される。特に、本実施形態では、静電シールド6,6の外側に、L字型の油隙分割バリア5が設けられていることから、油隙の寸法dを短くすることができ、破壊電界が高くなる。
【0024】
[1−3.効果]
以上のような構成並びに作用を有する本実施形態の効果は、次の通りである。
【0025】
(1)静電シールド6が径方向に2分割され、その間に絶縁油の流路6aを形成しているので、静電シールド6の端部にL字型の油隙分割バリア5を近接して取り付けても、前記流路6aより絶縁油を巻線外部に排出ことができる。これにより、絶縁油の通流が阻害されることなく、近接してL字型の油隙分割バリア5を取り付けることが可能となり、冷却性能が向上する。
【0026】
すなわち、絶縁油の通流が阻害されると静止誘導機器の冷却性能は低下し、また巻線温度が上昇し、ついには事故に至る可能性がある。しかし、本実施形態では絶縁油が円滑に通流するので、耐電圧を向上させた絶縁信頼性が高い静止誘導機器を提供することができる。
【0027】
(2)板状の絶縁バリア10,11には、スリット状長方形の開口部12あるいは円形状の開口部13が設けられており、その開口部の大きさを変化させることによって、絶縁油の流量や流速を制御できるので、巻線を適切な温度に冷却することが可能になる。
【0028】
(3)複数の絶縁バリア10,11を配置した場合に、長方形の開口部12あるいは円形状の開口部13の位置が重ならないようになっているため、油隙が細分化され、前記破壊電界E=kd−aにおける油隙dの値を小さくして、耐電圧特性の向上を図ることができる。
【0029】
[2.他の実施形態]
本発明は前記の実施形態に限定されるものではなく、次のような他の実施形態も包含する。
【0030】
(1)開口部の形状や位置は、図2(a)(b)のものに限定されない。絶縁バリア10,11の側部を切り欠くことで開口部を形成しても良い。
(2)静電シールドは、径方向に2分割する以外に、更に多数に分割することも可能である。
【0031】
(3)絶縁油の代わりに、他の絶縁流体を使用することも可能である。
【0032】
(4)本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0033】
1…高圧巻線
2…低圧巻線
3…ヨーク鉄心
4…絶縁バリア
5…L字型の油隙分割バリア
6,7…静電シールド
8…油留め
10,11…板状の絶縁バリア
12,13…開口部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁流体が循環する静止誘導機器内部に、鉄心に巻回した複数の円筒状の巻線と、該巻線の巻線端部に取り付けられた静電シールドと、この静電シールドの水平部と垂直部を蔽う水平部と垂直部を有するL字型の油隙分割用の絶縁バリアを備え、
前記静電シールドを分割し、その分割部分の開口部を絶縁流体の流路とし、
分割された静電シールドをまたぐように、開口部を有する板状の絶縁バリアを取り付け、
絶縁流体を、前記静電シールドの分割部分の流路から、板状の絶縁バリアに設けられた開口部を経由して通流させることを特徴とする静止誘導機器。
【請求項2】
前記L字型の油隙分割バリアが、前記静電シールドを蔽うように巻線の内周側と外周側にそれぞれ設けられ、
これら内周側と外周側のL字型の油隙分割バリアの水平部の先端の間に間隙を設け、この間隙を絶縁流体の流路とし、
これら内周側と外周側のL字型の油隙分割バリアの水平部をまたぐように複数枚の板状の絶縁バリアを取り付け、
この板状の絶縁バリアに開口部を設け、その開口部を絶縁流体の流路としたことを特徴とする請求項1に記載の静止誘導機器。
【請求項3】
前記板状の絶縁バリアの開口部が、巻線の円周方向に長辺を持つ長方形のスリット、または巻線の円周方向に並ぶ複数個の円形状の穴であることを特徴とする特許請求第1項または請求項2に記載の静止誘導機器。
【請求項4】
前記板状の絶縁バリアが巻線端部に複数枚設けられ、各絶縁バリアに設けられた開口部の位置が重ならないことを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の静止誘導機器。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−65762(P2013−65762A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−204372(P2011−204372)
【出願日】平成23年9月20日(2011.9.20)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(395002434)東芝変電機器テクノロジー株式会社 (59)
【Fターム(参考)】