説明

静的破砕用スティックの吸水方法及び吸水装置

【課題】膨張性破砕材を透水性のある袋体内に収容した静的破砕用スティックが吸水に要する時間を短縮し、作業性が高く、効果的に破砕力を発現させることのできる静的破砕用スティックの吸水方法及び吸水装置を提供する。
【解決手段】膨張性破砕材を透水性のある袋体内に収容した静的破砕用スティック104に水を吸収させるための静的破砕用スティックの吸水方法において、該静的破砕用スティックを水中に入れ、周囲環境を減圧装置103により減圧状態とし、好ましくは該減圧状態を常圧に対し50〜98%の真空度とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静的破砕用スティックの吸水方法及び吸水装置に関し、特に、膨張性破砕材を透水性のある袋体内に収容した静的破砕用スティックに水を吸収させるための静的破砕用スティックの吸水方法及び吸水装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、塩害や長期使用による老朽化による補修または改修が必要な道路や橋梁等のコンクリート面を破砕して補修する方法として、ピックハンマやブレーカ等を用いる方法やウォータージェット工法等の、機械的に衝撃振動を加えコンクリート面を破砕する方法が採用されている。前記破砕方法は振動を伴う作業であり、コンクリート等の粉塵が発生し作業環境が悪化する等の問題があり、更に、橋梁等の構造物の下方面あるいは垂直面の破砕作業は、非常な労力を必要としている。またウォータージェットによるはつり作業は装置が大規模なものとなり、後片付けに手間がかかる上、コストが高い。特に、水中におけるコンクリート構造物の破砕には、作業面で大変な手間がかかっている。
また、これらの方法は機械的な衝撃振動が発生するため、コンクリート補修の必要部分のみではなく不必要部分の内部に亀裂が生じる可能性や、鉄筋等の補強部材に損傷を与える可能性があるという問題があった。
【0003】
これに対し、セメント等の膨張材を破砕材として用いてコンクリート等の構造体を静的に破砕する方法が、提案されている。これは、破砕対象物に穿孔を設け、別途、膨張性破砕材と水とを混練し、得られた混練物を穿孔内に充填し、該破砕材の水和反応により破砕材が膨張し、該対象物を破砕するものである。
このように膨張性破砕材と水とをミキサーで混練する場合には、破砕材の粉体の粒度のバラツキ、風化、嵩比重等の影響は無視でき、均一なスラリーを作ることができるが、上向きや横向きの穿孔には使用できず、混練から穿孔への充填に係る作業が煩雑な上、各穿孔毎に混練から充填までの作業時間が異なり、膨張圧の発現性が異なるという欠点を有する。
【0004】
このため、特許文献1のように、膨張性破砕材を紙袋などの容器に収容し、使用前に該容器内に水を吸収させ、穿孔内に該容器を充填する方法が提案されている。
袋入り膨張性破砕材を水に浸漬させる場合では、粉体の粒度のバラツキ、風化、袋内の嵩比重により、袋内部への浸水状態が大きく変化し、破砕能力の発揮にも影響する。また、破砕能力を高くするには、膨張性破砕材の充填率を上げる必要があり、このため、適用範囲内の細かめの粒度を持ち、嵩比重を高く設定することが行なわれている。これにより、袋内は、空気が少なく粉体が詰まっている状態となり、より一層、内部まで水が浸透しにくい状態となる。結果として、袋中心部の粉体はドライな状態又は水分が不足した状態であるため、破砕力が低下し、破砕不良の原因ともなっていた。
【特許文献1】特開昭57−74474号公報
【0005】
他方、特許文献2のように、破砕対象物に充填された破砕材の吹き出し防止や、破砕材の膨張圧力を有効に利用するため、破砕対象物に設けられた穿孔内において、破砕材を天板と底板とからなる2つの板状体の間に保持する構成も提案されている。
【特許文献2】特開昭61−36463号公報
【0006】
また、本発明者らは、膨張性破砕材を使用した静的破砕工法をより効果的に行うためには、破砕対象物の表面付近に膨張性破砕材を重点的に充填することが効果的であることを見出し、以下の特許文献3において、そのための静的破砕用補助具を提案した。
この補助具は、穿孔内に配置される底板と、該底板より面積が大きくかつ穿孔外に配置される天板と、両者を連結する連結手段とを有することを特徴とする。しかも、袋体内に収容された膨張性破砕材(以下、「静的破砕用スティック」という)と静的破砕用補助具とを一体化しているため、静的破砕用スティックの操作性を改善すると共に、天板と底板とを近接可能とすることにより、破砕対象物の表面付近における膨張性破砕材の充填率をより高めることが可能となるものである。
【特許文献3】特願2004−292859号(出願日:平成16年10月5日)
【0007】
このような静的破砕用補助具が付いた静的破砕用スティックでは、上述したように袋内部に水が浸入し難く、特に、静的破砕用スティックの中心部に水が浸入し難くなる。
このため、静的破砕用スティックを水中に浸漬させる時間が長くなり、作業性が低下することとなっていた。また、スティックの表面側と内部側とでは膨張性破砕材の水和反応の開始時間が異なるため、穿孔内への充填作業のタイミングが調整し難く、袋内の膨張性破砕材の嵩比重を高くし過ぎると、表面側の破砕材の膨張により充填作業が完了する前に袋が破損するなど不具合も懸念されていた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、上記問題を解決し、膨張性破砕材を透水性のある袋体内に収容した静的破砕用スティックが吸水に要する時間を短縮し、作業性が高く、効果的に破砕力を発現させることのできる静的破砕用スティックの吸水方法及び吸水装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、請求項1に係る発明では、膨張性破砕材を透水性のある袋体内に収容した静的破砕用スティックに水を吸収させるための静的破砕用スティックの吸水方法において、該静的破砕用スティックを水中に入れ、周囲環境を減圧状態とすることを特徴とする。
【0010】
請求項2に係る発明では、請求項1に記載の静的破砕用スティックの吸水方法において、該減圧状態は、常圧に対し、50〜98%の真空度とすることを特徴とする。より好ましい真空度は、90〜95%である。
【0011】
請求項3に係る発明では、請求項1又は2のいずれかに記載の静的破砕用スティックの吸水方法において、該袋体は不織布で形成されていることを特徴とする。
【0012】
請求項4に係る発明では、請求項1乃至3のいずれかに記載の静的破砕用スティックの吸水方法において、該静的破砕用スティックには、天板及び底板と、両者を連結する連結手段とを有する静的破砕用補助具が、一体的に組み込まれていることを特徴とする。
【0013】
請求項5に係る発明は、請求項1乃至4のいずれかに記載の静的破砕用スティックの吸水方法を用いた吸水装置である。
【発明の効果】
【0014】
請求項1に係る発明により、静的破砕用スティックを水中に入れ、周囲環境を減圧状態とするため、該スティック内部に速やかに水を浸透させることが可能となり、吸水に掛る時間を大幅に短縮することが可能となる。また、吸水時間を短縮したことで、静的破砕工法に係る作業を円滑に行うことができ、作業性が高くなる。また、吸水時間が短いため、スティックの表面側も内部側もほぼ同時に水和反応が開始され、穿孔内への充填のタイミングも容易に調整することが可能となる。
【0015】
請求項2に係る発明により、減圧状態は、常圧に対し、50〜98%、より好ましくは90〜95%の真空度とするため、静的破砕用スティックが効果的に吸水すると共に、該スティックを浸漬させている水が沸騰するなどの不具合も生じない。
【0016】
請求項3に係る発明により、静的破砕用スティックの袋体は不織布で形成されている。不織布のように、長時間の浸漬や膨張性破砕材の膨張圧に対する脆弱性が大きい材料で袋体を形成した場合でも、本発明により吸水時間を短縮することができることから、静的破砕用スティックとして好適に使用することが可能となる。
【0017】
請求項4に係る発明により、静的破砕用スティックには、天板及び底板と、両者を連結する連結手段とを有する静的破砕用補助具が、一体的に組み込まれている。静的破砕用補助具により、穿孔内への充填時に膨張性破砕材の充填密度をより高くする場合でも、本発明により静的破砕用スティックの内部まで短時間で吸水させることが可能となるため、このような静的破砕用補助具を備えた静的破砕用スティックの利便性を高め、期待される破砕力を発現させることが可能となる。
【0018】
請求項5に係る発明により、請求項1乃至4のいずれかに記載の静的破砕用スティックの吸水方法を用いた吸水装置であるため、上述した請求項1乃至4に係る効果を実現可能な吸水装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明に係る静的破砕用スティックの吸水方法及び吸水装置について、以下の好適例により説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
本発明の静的破砕用スティックの吸水方法は、膨張性破砕材を透水性のある袋体内に収容した静的破砕用スティックに水を吸収させるための静的破砕用スティックの吸水方法において、該静的破砕用スティックを水中に入れ、周囲環境を減圧状態とすることを特徴とする。
【0020】
本発明が適用される静的破砕用スティックは、特許文献1のように、膨張性破砕材を、不織布や繊維状のネットなどのように透水性のある袋体に収容し、カプセル状に小分けしたものであっても良いが、特許文献2又は3に示したように、静的破砕用補助具を具備したものに、より好適に本発明を適用することができる。
【0021】
図1は、本発明が適用される静的破砕用補助具を備えた静的破砕用スティックの概略図である。
具体的には、不織布などの袋体25内に、連結手段である連結用具23を取り付けた底板3を挿入し、該袋体を静的破砕材で満たす。袋体25の開口は、ヒートシールなど適切な締結手段により閉塞し、袋体25から突出する連結用具23には、天板20、固定手段26及び連結用具を引っ張るための牽引手段24が取り付けられる。
【0022】
また、図1に示した以外に、カプセル状の膨張性破砕材に対し、連結用具を貫通装着することも可能であるが、この場合には、袋体の連結用具が貫通した箇所には、開口が形成され、該開口から中の膨張性破砕材が洩れる危険性も高くなるため、図1に示すように、袋体内に、底板3等を収容することが好ましい。
【0023】
次に、補助具を取り付けた静的破砕用スティックの使用方法について説明する。
図1に示した補助具を取り付けた静的破砕用スティック全体を、水に浸漬し、袋体25の内部に充填された膨張性破砕材に水分を含ませる。そして、図2に示すように、破砕対象物に形成した穿孔1の内部に設置される。
【0024】
穿孔深さHは、静的破砕用補助具の天板20から底板3(袋体の底面であっても良い)までの長さ(スティック長)hより深く開ける。
次に、静的破砕用補助具は、穿孔1に装填後(図2(a)参照)、連結用具23を引っ張り、底板3を天板20に対して引き寄せ、両者間に配置される膨張性破砕材2の充填密度を高めるよう調整する(図2(b)参照)。この充填作業により、破砕材の膨張圧力の発生を早め、さらに、穿孔方向と垂直な方向(図の横方向)により高い膨張圧力を効果的に発生させることが可能となる。
【0025】
膨張性破砕材を収容する袋体と一体化された静的破砕用補助具は、図2(a)に示すように、破砕対象物の穿孔1に挿入されるが、この際に、底板3及び連結用具の一部並びに膨張性破砕材2を収容する袋体の外径dを、穿孔1の内径Dより小さくすることにより、静的破砕用補助具を円滑に穿孔1内に挿入することが可能となる。その後、連結用具23を操作し、底板3を天板20に近接させることにより、袋体全体が図の上下方向に圧縮され、これに伴い袋体に収容された膨張性破砕材2は横方向にも広がり、結果として、図2(b)に示すように、穿孔内部を破砕材2で充填することが可能となる。
【0026】
次に、以上のように穿孔内に充填された静的破砕用補助具の破砕の原理について、図3により説明する。
破砕対象物に設けられた穿孔1に対し、穿孔1の下面7から離れた位置に底板3が配置されている。連結用具23の上部には、天板20が固定手段21により連結され、天板20と底板3との間には、膨張性破砕材が穿孔内部に充填されている。
【0027】
図3のように、天板は、底板の面積より大きく、好ましくは、穿孔1の口部の面積より大きな面積を有するよう構成すると共に、該天板20を穿孔1外に配置することで、穿孔1の欠け部6が発生している穿孔口部付近にも、十分な膨張性破砕材を充填配置できる。そして、破砕材の膨張圧力は、天板20により、上方圧力が抑えられ、穿孔口の周辺に対して、従来のものより格段に強い破砕力を発生させることが可能となる。参考までに、穿孔方向に対して垂直な方向の圧力分布22を、図3に模式的示す。
【0028】
図3のように、本発明では、底板の面積より天板の面積が大きくなるため、破砕材の膨張で底板に加わる下方の力より、天板に加わる上方の力が大きくなり、天板が浮き上がることが懸念されるが、実際には、破砕材の横方向の膨張により、破砕材と穿孔1の内壁面との摩擦力が増加するため、天板の浮き上がりは、殆ど無いことが確認されている。
【0029】
このように、穿孔の口部付近にも破砕材の膨張圧力を効果的に付与することで、破砕対象物の表面側へのクラック発生を加速することができ、結果として破砕スピードを上げることができる。
しかも、図3に示すように穿孔下面7の付近には隙間が形成されるため、穿孔下面7には全く膨張圧が掛らない。
【0030】
次に、静的破砕用スティックに水を吸収させる方法について説明する。
図4に示すように、静的破砕用スティック104を水の入った容器101に入れ、ポリカーボネートなどで形成された真空デシケーター100内に容器101を配置する。
なお、真空デシケーター100は浸漬容器101を兼ねても良いし、材料も減圧が保てるものであるならば特に制限されない。ポリカーボネートなどの内部が観察できる材料は、より好適に使用可能である。
【0031】
真空デシケーター100には、真空ポンプなどの減圧装置103が接続され、デシケーター100の内部を、常圧に対して真空度が50〜98%、好ましくは90〜95%となるよう減圧状態に保持する。
50〜98%の真空度は、静的破砕用スティックが効果的に吸水する環境であり、真空度が50%より低いと吸水効果の向上が余り期待できず、98%を超える真空度では、スティックを浸漬させている水自体が沸騰するなどの不具合を生じる。
なお、減圧装置103として真空ポンプ以外に、掃除機やブロアーなども用いることが可能である。
【0032】
常圧状態及び真空度90%の減圧状態において、静的破砕用スティック(Sマイトカプセル,住友大阪セメント社製)の吸水状態を調べたところ、カプセル内部にまで水が浸入する時間は、常圧状態ではスティックの大きさにより3〜20分であり、減圧状態では1分以内、最短で15秒であった。
また、減圧状態のほうが吸水量が約10%向上しているこことが分かった。
これらのことからも、減圧状態で吸水させる方法が、静的破砕用スティックには有効であることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0033】
以上の説明のように、本発明によれば、膨張性破砕材を透水性のある袋体内に収容した静的破砕用スティックが吸水に要する時間を短縮し、作業性が高く、効果的に破砕力を発現させることのできる静的破砕用スティックの吸水方法及び吸水装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】静的破砕用補助具を備えた静的破砕用スティックの概略を示す図である。
【図2】静的破砕用補助具を備えた静的破砕用スティックの使用方法を説明する図である。
【図3】図2(b)の静的破砕用スティックによる内部圧力状態を示す模式図である。
【図4】本発明に係る静的破砕用スティックの吸水装置の概略を示す図である。
【符号の説明】
【0035】
1 破砕対象物に形成された穿孔
2 膨張性破砕材
3 底板
20 天板
21,26 固定手段
22 圧力分布
23 連結用具
24 牽引手段
25 袋体
100 真空デシケーター
101 浸漬用容器
103 減圧装置
104 静的破砕用スティック

【特許請求の範囲】
【請求項1】
膨張性破砕材を透水性のある袋体内に収容した静的破砕用スティックに水を吸収させるための静的破砕用スティックの吸水方法において、
該静的破砕用スティックを水中に入れ、周囲環境を減圧状態とすることを特徴とする静的破砕用スティックの吸水方法。
【請求項2】
請求項1に記載の静的破砕用スティックの吸水方法において、該減圧状態は、常圧に対し、50〜98%の真空度とすることを特徴とする静的破砕用スティックの吸水方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の静的破砕用スティックの吸水方法において、該袋体は不織布で形成されていることを特徴とする静的破砕用スティックの吸水方法。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載の静的破砕用スティックの吸水方法において、該静的破砕用スティックには、天板及び底板と、両者を連結する連結手段とを有する静的破砕用補助具が、一体的に組み込まれていることを特徴とする静的破砕用スティックの吸水方法。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載の静的破砕用スティックの吸水方法を用いた吸水装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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