説明

静電センサシートの製造方法

【課題】複数の導電引き回しラインの交差干渉を回避する場合にも、薄型化や製造作業の迅速化を図ることができ、しかも、無駄の少ない静電センサシートの製造方法を提供する。
【解決手段】光透過性を有する絶縁基材層1と、この絶縁基材層1の表面にスクリーン印刷される第一、第二の配線パターン層10・20と、これら第一、第二の配線パターン層10・20に積層形成される光透過性の保護カバー層40とを備え、第一、第二の配線パターン層10・20の複数の導電引き回しライン14・22の交差部30に、交差する導電引き回しライン14・22の間に位置する絶縁領域50を形成するとともに、この絶縁領域50を、絶縁インキによりスクリーン印刷して最終的な高さが40μm以上の多層構造とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばオーディオ機器、家電機器、自動車搭載機器等の操作に使用される静電センサシートの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、オーディオ機器や自動車搭載機器等の操作には、狭い箇所に容易に設置することができ、しかも、防塵や耐久性に優れる静電センサシートが採用されて来ている(特許文献1、2、3、4参照)。この静電センサシートは、自由に設計できることが好ましいが、制御装置等との関係で設計やデザインに制約が課され、配線パターン層の一部が交差して干渉する場合がある。そこで従来においては、以下のような静電センサシートが検討されている。
【0003】
この種の静電センサシートは、図4や図5に示すように、例えば絶縁基材層1、この絶縁基材層1の表面に形成される第一の配線パターン層10、この第一の配線パターン層10に重ねて形成される光透過性の第一、第二の絶縁層60・61、第二の絶縁層61の表面に形成される第二の配線パターン層20、この第二の配線パターン層20に重ねて形成される光透過性の保護カバー層40を備えた多層構造に形成され、自動車搭載機器の操作に使用されている。
【0004】
絶縁基材層1は、平面矩形に形成され、後部周縁に第一の配線パターン層10用の細長いテール部2が一体形成されており、このテール部2が図示しない制御装置に接続端子として電気的に接続される。また、第一の配線パターン層10は、絶縁基材層1の表面の前後部にそれぞれ配列形成される複数の電極11・12を備え、この複数の電極11・12から絶縁基材層1のテール部2に複数の導電引き回しライン13・14が伸長形成されている。
【0005】
第一の絶縁層60は、絶縁基材層1表面と第一の配線パターン層10とに積層して形成されている。第二の絶縁層61は、第一の絶縁層60の全表面に積層して形成され、後部寄りに複数の接続用のスルーホール62が並べて穿孔されている。また、第二の配線パターン層20は、第二の絶縁層61の表面中央部に配列形成される複数の電極21を備え、この複数の電極21から複数の導電引き回しライン22がスルーホール62を経由して絶縁基材層1のテール部2に伸長形成される。
【0006】
上記構成の静電センサシートは、第一、第二の配線パターン層10・20の任意の電極11・12・21にユーザの指が保護カバー層40を介し接近して対向すると、相対向する任意の電極11・12・21とユーザの指との間の静電容量が変化し、この変化した静電容量値が制御装置に出力されることにより、自動車搭載機器の操作に資することとなる。
【0007】
以上のように従来における静電センサシートは、第一、第二の絶縁層60・61のスペーサ機能と複数のスルーホール62の接続機能とにより、第一、第二の配線パターン層10・20における複数の導電引き回しライン14・22が交差して干渉するのに対処している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2010‐267607号公報
【特許文献2】特開2010‐244776号公報
【特許文献3】特開2010‐211823号公報
【特許文献4】特開2010‐86385号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来における静電センサシートは、以上のようにして第一、第二の配線パターン層10・20における複数の導電引き回しライン14・22の交差干渉に対処しているが、第一の配線パターン層10に第一、第二の絶縁層60・61が重ねて積層され、しかも、不要な箇所まで第一、第二の絶縁層60・61が占有することになるので、全体として厚くなり、無駄が多いという問題がある。また、第二の絶縁層61に複数の小さなスルーホール62を並べて穿孔せざるを得ないので、製造の煩雑化を招き、製造作業の迅速化を図ることができないという問題もある。
【0010】
本発明は上記に鑑みなされたもので、複数の導電引き回しラインの交差干渉を回避する場合にも、薄型化や製造作業の迅速化を図ることができ、しかも、無駄の少ない静電センサシートの製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明においては上記課題を解決するため、光透過性を有する絶縁基材層と、この絶縁基材層の片面に印刷されて近接する導体を検出する複数の電極と、絶縁基材層の片面に印刷されて複数の電極から伸びる複数の導電引き回しラインとを備え、この複数の導電引き回しラインの一部が交差する静電センサシートの製造方法であって、
複数の導電引き回しラインの交差部に、交差する導電引き回しラインの間に位置する絶縁領域を形成するとともに、この絶縁領域を、絶縁インキによりスクリーン印刷してその最終的な高さを40μm以上とすることを特徴としている。
【0012】
なお、絶縁基材層を樹脂製の透明フィルムとし、絶縁領域を、紫外線硬化型アクリル系インキ又は紫外線硬化型ウレタン‐アクリル系インキを複数回スクリーン印刷することにより多層構造に形成し、この絶縁領域の下層を広くし、絶縁領域の上層を狭くすることができる。
【0013】
ここで、特許請求の範囲における絶縁基材層は、樹脂製の透明フィルムからなる場合には、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、PEN樹脂製の透明フィルム等が使用される。複数の電極と導電引き回しラインとは、透明、不透明のいずれでも良い。複数の導電引き回しラインの交差部は、一箇所でも良いし、複数個所でも良い。また、絶縁領域は、平面矩形、多角形、円形、楕円形等とすることができる。この絶縁領域は、二層、三層、四層等の多層構造が好ましい。絶縁領域が多層構造の場合、下層から上層に向かうにしたがい、絶縁領域の幅が徐々に狭まり、厚さが徐々に薄くなることが好ましい。
【0014】
本発明によれば、絶縁基材層の片面に複数の電極と導電引き回しラインとをスクリーン印刷して乾燥硬化させ、交差部の形成予定領域に絶縁領域を絶縁インキによりスクリーン印刷するとともに、この絶縁領域を乾燥硬化させてその最終的な高さを40μm以上とし、絶縁基材層の片面に別の複数の電極と導電引き回しラインとをスクリーン印刷する。この際、別の導電引き回しラインは、絶縁領域の表面にもスクリーン印刷され、先行してスクリーン印刷された導電引き回しラインとの間に絶縁状態が確保される。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、複数の導電引き回しラインの交差干渉を回避する場合にも、薄型化や製造作業の迅速化を図ることができ、しかも、無駄の少ない静電センサシートの製造方法を提供することができるという効果がある。また、絶縁領域の最終的な高さを40μm以上とするので、交差部の導電引き回しライン間に良好な絶縁状態を確保することができる。
【0016】
また、請求項2記載の発明によれば、絶縁領域の下層を広く印刷し、上層を下層よりも狭く印刷するので、絶縁領域の上層をスクリーン印刷する際、位置ずれを有効に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係る静電センサシートの製造方法の実施形態を模式的に示す平面説明図である。
【図2】図1のII‐II線断面図である。
【図3】本発明に係る静電センサシートの製造方法の実施形態における絶縁領域を模式的に示す拡大断面説明図である。
【図4】従来の静電センサシートを模式的に示す平面説明図である。
【図5】図4のV‐V線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明すると、本実施形態における静電センサシートは、図1ないし図3に示すように、可撓性を有する薄い絶縁基材層1と、この絶縁基材層1の片面である表面に形成される第一、第二の配線パターン層10・20と、これら第一、第二の配線パターン層10・20に積層形成される光透過性の保護カバー層40とを多層構造に備え、第一、第二の配線パターン層10・20の複数の導電引き回しライン14・22の交差部30に、交差する導電引き回しライン14・22の間に位置する絶縁領域50を形成するようにしている。
【0019】
絶縁基材層1は、図1に示すように、例えば光学特性や耐熱性等に優れるポリエチレンテレフタレート製の透明フィルムを使用して光透過性の平面矩形に形成され、後部中央の周縁に細長いテール部2が屈曲可能に突出形成されており、このテール部2が図示しない制御装置に接続端子として電気的に接続される。この絶縁基材層1は、ポリカーボネートやPEN樹脂製の透明フィルム等でも良い。
【0020】
第一の配線パターン層10は、図1や図2に示すように、絶縁基材層1の表面の前後部にそれぞれ横一列に配列形成される複数の電極11・12を備え、この複数の電極11・12から絶縁基材層1のテール部2に複数の導電引き回しライン13・14が並べて伸長形成される。この第一の配線パターン層10は、配線パターンの高精度化を確保する観点からスクリーン印刷される。各電極11・12は、例えば導電性ポリマーを使用して導体であるユーザの指の大きさを考慮した平面矩形に形成され、厚さが0.2μm以下の透明の薄膜とされる。
【0021】
各導電引き回しライン13・14は、例えば低抵抗の銀ペースト等により細長い線状に形成され、絶縁基材層1の表面前部に配列された複数の電極11に接続される場合には、各電極11の後部周縁から絶縁基材層1の周縁部を経由してテール部2に屈曲形成される。また、絶縁基材層1の表面後部に配列された複数の電極12に接続される場合には、隣接する複数の電極12の間に直線的に接続され、中央の電極12の後部周縁からテール部2に直線的に伸長形成される。
【0022】
第二の配線パターン層20は、図1や図2に示すように、絶縁基材層1の表面中央部に横一列に配列形成される複数の電極21を備え、この複数の電極21から絶縁基材層1のテール部2に複数の導電引き回しライン22が並べて伸長形成される。この第二の配線パターン層20についても、高精度な配線パターンを実現する観点からスクリーン印刷が施される。各電極21は、例えば導電性ポリマーを使用してユーザの指の大きさを考慮した平面略矢印形に形成され、厚さ0.2μm以下の透明薄膜とされる。
【0023】
各導電引き回しライン22は、例えば低抵抗の銀ペースト等により細長い線状に形成され、各電極21の後部周縁から第一の配線パターン層10の導電引き回しライン14を跨いでテール部2に屈曲形成される。このように導電引き回しライン22は、第一の配線パターン層10の導電引き回しライン14を直交して跨ぐので、この跨ぐ導電引き回しライン14との間に複数の交差部30を区画形成することとなる。
【0024】
保護カバー層40は、図2に示すように、例えばポリエチレンテレフタレート製の透明フィルムを使用して平面矩形に形成され、絶縁基材層1の表面に粘着層を介し粘着固定されることにより、第一、第二の配線パターン層10・20を外部から有効に保護するとともに、これらの電極11・12・21を視覚的に把握できるよう機能する。
【0025】
絶縁領域50は、図2や図3に示すように、絶縁インキにより所定の高さを有する多層構造にスクリーン印刷され、交差する導電引き回しライン14・22の間に位置して絶縁機能を発揮する。この絶縁領域50の絶縁インキは、例えば絶縁基材層1がポリエチレンテレフタレート製の場合、この絶縁基材層1との相性を考慮すると、紫外線硬化型アクリル系インキ、紫外線硬化型ウレタン‐アクリル系インキ、2液タイプの熱硬化型エポキシ系インキ等があげられる。これらの中でも、絶縁基材層1の熱収縮や変形のおそれの少ない紫外線硬化型アクリル系インキ、あるいは紫外線硬化型ウレタン‐アクリル系インキの採用が好ましい。
【0026】
具体的な絶縁インキとしては、大日精化工業株式会社の製品(セイカビームのSCRシリーズ)や十条ケミカル株式会社の製品(絶縁インキのINシリーズ、AC‐3G等)が好適である。また、スクリーン印刷された絶縁領域50の乾燥硬化後の高さは、良好な絶縁機能を確保し、誤検出を防止する観点から最終的には40μm以上であることが好ましい。
【0027】
絶縁領域50は、図3に示すように、複数回に亘るスクリーン印刷により断面略凸字形の二層構造に形成され、絶縁基材層1の表面と第一の配線パターン層10の導電引き回しライン14とに形成される下層51が厚く(例えば20〜30μm又は20〜25μm)広く、この下層51の表面に形成される上層52が薄く(例えば10〜19μm)狭くされる。
【0028】
上記構成において、静電センサシートを製造する場合には、先ず、大き目の絶縁基材層1を用意し、この絶縁基材層1の表面に第一の配線パターン層10を高精度にスクリーン印刷して乾燥硬化させ、複数の交差部30の形成予定領域に絶縁領域50をそれぞれ絶縁インキによりスクリーン印刷して乾燥硬化させる。
【0029】
この際、各交差部30の形成予定領域における絶縁基材層1表面と導電引き回しライン14とに絶縁領域50の下層51を絶縁インキによりスクリーン印刷し、この絶縁インキが乾燥硬化した後、絶縁領域50の下層51上に上層52を絶縁インキによりスクリーン印刷して乾燥硬化させれば、40μm以上の高さを有する多層構造の絶縁領域50を完全に形成することができる。
【0030】
次いで、絶縁基材層1の表面に第二の配線パターン層20を高精度にスクリーン印刷するが、この際、第二の配線パターン層20の各導電引き回しライン22は、絶縁領域50の表面にもスクリーン印刷され、第一の配線パターン層10の導電引き回しライン14との間に交差部30を区画形成する。絶縁基材層1表面の第二の配線パターン層20が乾燥硬化したら、大き目の保護カバー層40を接着固定し、一体化した絶縁基材層1と保護カバー層40とを最終的な製品形状にカットすれば、静電センサシートを製造することができる。
【0031】
上記によれば、絶縁領域50が交差する導電引き回しライン14・22の干渉を有効に回避するので、第一の配線パターン層10に第一、第二の絶縁層60・61を重ねて積層する作業を省略することができ、静電センサシートの著しい薄型化を図ることができる。また、不要な箇所まで第一、第二の絶縁層60・61が占有することがないので、無駄を省いて製造工程数の削減や品質の向上を図ることができる。また、第二の絶縁層61に複数の小さなスルーホール62を並べて穿孔する必要もないので、製造の簡素化を図り、製造作業の迅速化を図ることもできる。
【0032】
また、絶縁領域50の下層51を広く印刷し、上層52を狭く印刷するので、絶縁領域50の上層52をスクリーン印刷する際、上層52の位置ずれを有効に防止することが可能になる。また、絶縁領域50を複数回に亘りスクリーン印刷して形成するので、確実な絶縁に必要な40μm以上の高さを簡易に確保することができ、第一、第二の配線パターン層10・20の導電引き回しライン14・22が相互に干渉するのを有効に回避することが可能となる。
【0033】
また、別体の小さな絶縁領域を貼り付けるのではなく、スクリーン印刷するので、コスト削減が大いに期待できる。さらに、絶縁基材層1がポリエチレンテレフタレート製の透明フィルムの場合、紫外線硬化型アクリル系インキ又は紫外線硬化型ウレタン‐アクリル系インキを印刷に使用すれば、これらの相性が良いので、絶縁基材層1に絶縁領域50を適切にスクリーン印刷することができる。
【0034】
なお、上記実施形態の絶縁基材層1の表面には、ノイズ対策用のグラウンド層を積層形成しても良い。また、上記実施形態では絶縁領域50の下層51と上層52とを同一の材料によりスクリーン印刷したが、必要に応じ、異なる材料によりスクリーン印刷しても良い。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明に係る静電センサシートの製造方法は、例えばオーディオ機器、家電機器、携帯情報機器、自動車搭載機器、電子機器等の分野で使用することができる。
【符号の説明】
【0036】
1 絶縁基材層
10 第一の配線パターン層
11 電極
12 電極
13 導電引き回しライン
14 導電引き回しライン
20 第二の配線パターン層
21 電極
22 導電引き回しライン
30 交差部
40 保護カバー層
50 絶縁領域
51 下層
52 上層
60 第一の絶縁層
61 第二の絶縁層
62 スルーホール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光透過性を有する絶縁基材層と、この絶縁基材層の片面に印刷されて近接する導体を検出する複数の電極と、絶縁基材層の片面に印刷されて複数の電極から伸びる複数の導電引き回しラインとを備え、この複数の導電引き回しラインの一部が交差する静電センサシートの製造方法であって、
複数の導電引き回しラインの交差部に、交差する導電引き回しラインの間に位置する絶縁領域を形成するとともに、この絶縁領域を、絶縁インキによりスクリーン印刷してその最終的な高さを40μm以上とすることを特徴とする静電センサシートの製造方法。
【請求項2】
絶縁基材層を樹脂製の透明フィルムとし、絶縁領域を、紫外線硬化型アクリル系インキ又は紫外線硬化型ウレタン‐アクリル系インキを複数回スクリーン印刷することにより多層構造に形成し、この絶縁領域の下層を広くし、絶縁領域の上層を狭くする請求項1記載の静電センサシートの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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