説明

静電塗装用スプレーガン

【課題】塗装作業中に高電圧の発生について容易に確認することができ且つ視認性を向上させることができる静電塗装用スプレーガンを提供する。
【解決手段】スプレーガン2は、ガン本体と、塗料を帯電させるための直流高電圧を発生する高電圧発生装置15と、この高電圧発生装置により発生させた高電圧が印加される電極16と、前記ガン本体に設けられ、前記高電圧の発生の有無を表示するための表示手段17とを備える。表示手段17は、前記高電圧の発生の有無に応じて発光する発光ダイオード群58を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、帯電させた塗料を噴霧して被塗物に塗着させる静電塗装用スプレーガンに関する。
【背景技術】
【0002】
静電塗装は、例えば車体等の被塗物と塗装装置との間に高電圧を加えて静電界を形成すると共に塗料粒子を帯電させて噴出することによって、静電引力により被塗物に塗料を吸着させる塗装方法である。この静電塗装に用いられるスプレーガンは、ガン本体の塗料流路内に電極を有しており、この電極に高電圧を供給することによって、電極と被塗物との間に高電圧を印加し、塗料粒子を帯電させるようになっている。図6は、この種の従来の静電塗装システム1の構成を概略的に示している。
【0003】
即ち、この静電塗装システム1は、図示しない直流高電圧発生回路(これをカスケードと称す)を内蔵したスプレーガン2と、このスプレーガン2に接続される制御装置3とを備えて構成されている。制御装置3は、例えば、商用電源等の外部電源4に接続され、そのAC100Vの商用電源を比較的低い電圧の高周波の交流電圧(例えばAC24V/20kHz)に変換する電源回路(図示せず)を備えている。電源回路により発生させた交流電圧は、ケーブル4aを介して、スプレーガン2の前記カスケードに供給されるようになっている。また、制御装置3には、コンプレッサ等の高圧エア供給源5が接続され、供給された高圧エアはレギュレータ5bにより所定の圧力に調整され、エアホース5aを介してスプレーガン2に供給される。また、スプレーガン2には、塗料供給源6から塗料ホース6aを介して塗料が供給される。
【0004】
そして、静電塗装が行われる塗装ブースには、当該塗装ブースを仕切る壁7に防爆型のスイッチボックス8が設けられている。スイッチボックス8は、ケーブル9介して制御装置3に接続されており、静電塗装の際、表示ランプ8aを点灯させることで前記カスケードにおける高電圧の発生を報知する。従って、表示ランプ8aの点灯中は、スプレーガン2において前記高電圧に基づき塗料粒子を帯電させて、安定した静電塗装を行うことができる。
【0005】
しかしながら、高電圧の発生の有無の確認は、作業者が塗装中に塗装ブースの壁7側の表示ランプ8aを見なければならず、事実上、被塗物から目を離すことになり、塗装作業に影響を来たす虞がある。そこで、例えば、特許文献1には、静電塗装システムにおいて、スプレーガン2の如き外観をなすアナライザに対して、電圧点検ないし電流確認のための電流計を配設したものが開示されている。このような電流計をスプレーガン2に適用すれば、作業者はスプレーガン2を持ったまま、そのスプレーガン2の電流計の電流値ひいては高電圧の発生を確認することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭60−255162号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、上記スプレーガン2は、塗装ブース内で作業者がこれを直接操作する「手持ち式」であって、スプレーガン2に塗料が附着して電流計が読みづらくなる虞があり、作業環境上、依然として解決すべき課題を残している。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、塗装作業中に高電圧の発生について容易に確認することができ且つ視認性を向上させることができる静電塗装用スプレーガンを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記した目的を達成するために、本発明の静電塗装用スプレーガンは、帯電させた塗料を噴霧して被塗物に塗着させるものであり、前記スプレーガンのガン本体と、前記塗料を帯電させるための直流高電圧を発生する高電圧発生手段と、前記高電圧発生手段により発生させた高電圧が印加される電極と、前記ガン本体に設けられ、前記高電圧発生手段による高電圧の発生の有無を表示するための表示手段とを備え、前記表示手段は、前記高電圧の発生の有無に応じて発光する発光手段を有し、前記ガン本体に対して前記発光手段の光が視認可能となるように配置されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の静電塗装用スプレーガンによれば、表示手段は、高電圧の発生の有無に応じて発光する発光手段を有し、ガン本体に対して発光手段の光が視認可能となるように配置されている。このため、作業者は、塗装中にガン本体を持ったまま、表示手段における発光手段の光により、高電圧の発生の有無を一目で把握することができる。従って、表示手段の視認性を向上させることができると共に、被塗物から目を離すことなく高電圧の発生を確認することができ、実用上において有益なものとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】第1実施形態を示す、静電塗装システムの電気的構成図
【図2】静電塗装用スプレーガンの全体構成を示す縦断側面図
【図3】(a)はガン本体の後面を示す図、(b)は後部カバーを外した状態におけるガン本体の後面を示す図、(c)は高電圧発生手段の基板部分を示す図
【図4】高電圧発生手段の外観斜視図
【図5】第2実施形態を示すもので、静電塗装システムの一部を省略して示す電気的構成図
【図6】従来の静電塗装システムを説明するための概略図
【発明を実施するための形態】
【0012】
<第1実施形態>
以下、本発明の第1実施形態について、図1〜図4を参照しながら説明する。
図1は、本実施形態に係る静電塗装システム11の電気的構成を概略的に示すブロック図である。静電塗装システム11は、帯電させた塗料を噴霧して被塗物に塗着させる静電塗装用スプレーガン12(以下、スプレーガン12と称する)と、このスプレーガン12に交流電圧供給線たる電源線13を介して交流電圧Vacを供給する交流電源装置14とを備えて構成されている。
【0013】
スプレーガン12は、高電圧発生手段としての高電圧発生装置15と、ピン電極16とを備えて構成されている。高電圧発生装置15は、高電圧発生回路を構成する昇圧トランス15aと、高圧整流回路15b(例えばコッククロフト−ウォルトン型の倍電圧整流回路)と、出力抵抗15cとを一体にモールドしたカスケード型のものである。この高電圧発生装置15は、交流電源装置14から供給された交流電圧Vacに基づいて直流高電圧Vdcを発生する。ピン電極16は、高電圧発生装置15により発生させた直流高電圧Vdcが印加されるようになっており、スプレーガン12から噴霧する塗料を帯電させる放電電極である。また、詳しくは後述するように、スプレーガン12には、高電圧発生装置15による直流高電圧Vdcの発生の有無を表示するための表示手段17が設けられている。
【0014】
一方、交流電源装置14は、交流電圧Vacを発生するものであり、制御手段に相当する制御回路18、直流電源19(例えばDC20V)と、2つのスイッチング素子20,21と、出力トランス22と、検出手段たるカレントコイル23と、安全回路24とを備えて構成されている。
【0015】
直流電源19の出力は、出力トランス22の1次側において、スイッチング素子20,21を介して電源グランドに接続されている。具体的には、直流電源19の出力端子は、出力トランス22とスイッチング素子20とによって接地電位に対して正側に、出力トランス22とスイッチング素子21とによって接地電位に対して負側になるように接続されている。スイッチング素子20,21は、例えば半導体スイッチとしてのトランジスタから構成されており、通電されると導通状態(オン)になり、通電が停止されると非導通状態(オフ)になる。このスイッチング素子20,21のオン/オフは、制御回路18によって制御される。制御回路18は、図示しないCPU、ROM、RAMなどを備えたマイクロコンピュータを主体に構成されており、スイッチング素子20,21の通電時間たるオン時間に応じたパルス状の駆動信号を生成し、それぞれのスイッチング素子20,21へ出力する。
【0016】
スイッチング素子20,21は、制御回路18から出力される駆動信号に連動してその通電状態(オン/オフ状態)が変化し、直流電源19の出力を正側、或いは、負側に切り換える。駆動信号は、スイッチング素子20,21のオン状態が互いに重なることがないタイミングで出力される。この駆動信号のパルス幅に応じてスイッチング素子20,21が交互にオン/オフを繰り返すことにより、出力トランス22の2次側に、直流電源19の出力電圧に応じた低電圧の交流電圧Vac(例えばAC24V/20kHz)が発生する。この交流電圧Vacは、電源線13を介して、スプレーガン12内の高電圧発生装置15に供給される。
【0017】
電源線13は、交流電圧Vacを高電圧発生装置15に供給するための一対の電源線13a,13bからなる。電源線13aは、接地電位に保持される接地側供給線であり、交流電源装置14側において接地線25を介して接地が施されている。これに対して、電源線13bは、電源線13aに対して電位が変動するようになっている。カレントコイル23は、接地電位に保持されない電源線13bに設けられており、制御回路18は、カレントコイル23を介して、電源線13bを流れる電流を検出する。制御回路18は、この検出電流、並びに後述するトリガ47の操作に基づいて、電源線13を介した高電圧発生装置15への交流電圧Vacの供給を制御するようになっている。
【0018】
安全回路24は、電流検出用ケーブル26を介して高電圧発生装置15の高圧整流回路15bに接続されている。この安全回路24は、高電圧発生装置15に流れる電流の大きさを、電流検出用ケーブル26を介して検出するためのものである。制御回路18は、安全回路24によって、高電圧発生装置15を流れる電流を検出し、高電圧発生装置15に過剰な電流が流れたと判断した場合には、電源線13を介したスプレーガン12への交流電圧Vacの供給を停止するなどの処理を実行する。
【0019】
続いて、スプレーガン12の構成について図2を参照して説明する。
図2に示すように、スプレーガン12は、前後方向に延びるガン本体31と、このガン本体31の後端部(同図中、右端部)から下方に延設されたグリップ部32とを一体に有して構成されている。ガン本体31は、例えば電気的絶縁性を有するポリアセタール樹脂やフッ素樹脂等の非導電性の合成樹脂材料からなり、スプレーガン12の銃身部(バレル部)を構成する。このガン本体31とグリップ部32との間に形成される空間内には、上記した高電圧発生装置15が内蔵されている。
【0020】
ガン本体31内部の前部には、導電性を有する連体棒33が前方に向って下方に傾斜するように配設されている。高電圧発生装置15の前側には、連体棒33の後部を露出させる孔部34が設けられており、この孔部34に導電性のスプリング35が収容されている。スプリング35は、その後部が高電圧発生装置15の前端から突出する出力端子15dに装着され、前部が連体棒33と当接している。ガン本体31の前部には、ピン電極16を有する塗料ノズル36が設けられている。連体棒33とピン電極16は電気的に接続されており、ピン電極16に前記直流高電圧Vdcが印加されるようになっている。
【0021】
即ち、交流電源装置14から供給される交流電圧Vacは、前記電源コネクタ37から取り入れられ、高電圧発生装置15内の昇圧トランス15aに供給される。供給された交流電圧Vacは、昇圧トランス15aで昇圧された後、高圧整流回路15bでさらに昇圧されると同時に整流され、出力抵抗15cを介して直流高電圧Vdc(例えば60kV程度)に変換される。高電圧発生装置15が発生した直流高電圧Vdcは、出力端子15dからスプリング35を介して連体棒33に導かれ、ピン電極16に印加されるようになっている。尚、高圧整流回路15bは、回路内のダイオードの向きを変えることで、出力電圧の極性を接地電位に対してプラス(正)またはマイナス(負)の何れかに設定することができる。本実施形態では、例えば前記出力電圧の極性は接地電位に対して負になるように構成されており、ピン電極16に負極性の直流高電圧Vdc(−60kV)が印加される。
【0022】
一方、グリップ部32は、例えば金属繊維や金属粉を含む樹脂材料で構成されており、従って、導電性を有している。このグリップ部32の下部には、電源コネクタ37及びエアホース用ジョイント38が取り付けられると共に、連結部材39を介して塗料ホース用ジョイント40が連結されている。尚、連結部材39は、ねじ41によってグリップ部32の下端部に固定されている。連結部材39およびねじ41は、何れも導電性材料から構成されている。また、連結部材39には、電源コネクタ37のアース線にリード線37aを介して接続されたねじ42が螺挿されている。これにより、塗料ホース用ジョイント40と電源コネクタ37のアース線とが連結部材39を介して電気的に接続されている。
【0023】
ガン本体31内の下部には、前後方向に延びる孔部43が形成されており、この孔部43に、塗料用開閉弁45とエア用開閉弁46とが前後に離間して同軸状に配置されている。塗料用開閉弁45及びエア用開閉弁46の開閉は、ガン本体31に設けられたトリガ47の操作に基づいて行われる。即ち、図示は省略するが、静電塗装に供される溶剤系の塗料は、塗料供給源たる塗料タンクから塗料ホースを介して塗料ホース用ジョイント40に供給され、塗料チューブ50を通って塗料用開閉弁45側に導かれる。また、グリップ部32内には、エアホース用ジョイント28とエア用開閉弁46とをつなぐエア流路51が設けられており、圧縮空気が、圧縮空気発生装置から高圧エアホース(何れも図示せず)を介してエアホース用ジョイント38に供給され、エア流路51を通ってエア用開閉弁46に導かれる。
【0024】
そして、トリガ47がグリップ部32側に引かれると、エア用開閉弁46と塗料用開閉弁45との双方が開放される。これにより、塗料ホース用ジョイント40側から供給された塗料が、電極16の表面を伝うようにしてガン本体31前端のノズル52から吐出される。また、エアホース用ジョイント38側から供給される圧縮空気が、霧化エアとしてノズル52からガン本体31の前方に噴出される。この結果、ピン電極16の表面を伝って吐出される塗料は、霧化エアによって霧化される。
【0025】
また、トリガ47がグリップ部32側に引かれると、交流電源装置14から電源線13を介して、高電圧発生装置15に交流電圧Vacが供給される。そして、前述のように高電圧発生装置15により発生した直流高電圧Vdcが、出力端子15dからスプリング35及び連体棒33等を介してピン電極16に供給される。これにより、ピン電極16を伝う塗料に電荷が誘起され、前記霧化エアによって霧化された塗料粒子は、帯電した状態で且つ塗装に適した所定のパターン形状に形成される。こうして、当該塗料粒子は、接地された図示しない被塗物に対して静電作用により塗着する。
【0026】
さて、本実施形態のスプレーガン12は、高電圧発生装置15による直流高電圧Vdcの発生の有無を表示するための表示手段17を備えた構成にあって、当該スプレーガン12の大型化を伴うことなく、その表示の視認性が高められている。この表示手段17及び高電圧発生装置15近傍部の構成について図3、図4も参照しながら詳述する。
【0027】
図4に示すように、高電圧発生装置15は、その前半部55aに配した高圧整流回路15bや出力抵抗15cと後半部55bに配した昇圧トランス15aとを、絶縁性合成樹脂のモールド部55によって形成されるハウジング内に収容した構成にある。高電圧発生装置15のモールド部55は、その外周面が、ガン本体31の内壁面に対して殆ど隙間なく密接するように収容されている。また、モールド部55の後端面には、下部側に配置された端子台56と、その直ぐ上側に配置された基板57とが一体的に設けられている。このモールド部55の後端面側、つまり端子台56及び基板57は、ガン本体31の後部カバー31aが取外されると露出するようになっている(図2、図3(a)(b)参照)。
【0028】
この高電圧発生装置15は、ガン本体31内の上部側に配置されている。従って、前記電源コネクタ37は、図2に示すように、上記したリード線37aを有する他、端子台56に接続される給電用電線37b、電流検知用電線37c及び接地用電線37dを有し、これらの電線37b〜37dがグリップ部32内を通じて高電圧発生装置15側へ延設された構成となっている。
【0029】
給電用電線37bは、前記電源線13b(図1参照)のうち、スプレーガン12内に配設された部分を構成するもので、図3(b)に示す端子台56の給電用端子15eに接続される。電流検知用電線37cは、電流検出用ケーブル26(図1参照)のうち、スプレーガン12内に配設された部分を構成するもので、図3(b)に示す端子台56の電流検出用端子15fに接続される。接地用電線37dは、電源線13a(図1参照)の一部を構成するもので、図3(b)に示す端子台56の接地用端子15gに接続されている。ここで、端子台56における給電用端子15e及び接地用端子15gは、高電圧発生装置15に電源(交流電圧Vac)を供給するための入力端子に相当する。
【0030】
図3(c)、図4に示すように、高電圧発生装置15の基板57には、給電用端子15e及び接地用端子15gに接続するための一対の接続端子57a,57bが設けられると共に、発光手段としての発光ダイオード群58と電流制限用抵抗59とが実装されている。
【0031】
詳細には、接続端子57aと接続端子57bとの間には、発光ダイオード群58と電流制限用抵抗59とが直列接続されている。発光ダイオード群58は、例えば、6つの発光ダイオード58a〜58fからなり、発光ダイオード58aに対して発光ダイオード58bが、発光ダイオード58cに対して発光ダイオード58dが、発光ダイオード58eに対して発光ダイオード58fが夫々互いに逆極に並列接続されている。そして、これら発光ダイオード58a,58bと、発光ダイオード58c,58dと、発光ダイオード58e,58fとが直列接続されている。この場合、各発光ダイオード58a〜58fは、基板57上において、当該基板57の長手方向に一列に並ぶように略等間隔で配設されている。また、当該発光ダイオード群58及び電流制限用抵抗59は、何れも基板57の表面に沿うようにして、つまり後方へ突出しないように設けられる。従って、発光ダイオード群58や電流制限用抵抗59を配した基板57は、高電圧発生装置15の後面側で嵩張ることがないため、ガン本体31の大型化を伴うことなく、既存のスプレーガン12に適用(収容)できる。
【0032】
ガン本体31における後部カバー31aの後端面は、厳密には上方に向かって前方へ緩やかに傾斜しており(図2、図3(a)参照)、発光ダイオード群58に対応する位置に孔部60が設けられている。孔部60は、発光ダイオード群58の光を外部から視認可能にするための窓部であって、例えば後方側から見て円形をなすように形成されている。
【0033】
そして、後部カバー31aには、孔部60を閉塞する透光部としての透光ガイド61が設けられている。透光ガイド61は、耐溶剤性を有する透明ないし半透明の合成樹脂材料であって、例えばナイロン、或はPBT(ポリブチレンテレフタレート)から構成されている。透光ガイド61は、例えば、段付き円筒状をなしており、その小径部61aが孔部60に嵌合した状態で、径大部61bが後部カバー31aの内壁に対して接着剤により固定されている。この場合、透光ガイド61における小径部61aの先端は、後部カバー31aから若干、後方へ突出している(後部カバー31aと面一でもよい)。上記基板57、発光ダイオード群58、電流制限用抵抗59、孔部60及び透光ガイド61は、表示手段17を構成する。
【0034】
次に、上記構成の作用・効果について説明する。
作業者によりトリガ47がグリップ部32側に引かれると、前述のように交流電源装置14から電源線13を介して高電圧発生装置15に交流電圧Vacが供給される。この交流電圧Vacに基づいて、高電圧発生装置15により発生した直流高電圧Vdcがピン電極16に供給されて前記被塗物に対する静電塗装が開始される。また、このとき、交流電圧Vacに基づいて、発光ダイオード群58が発光し、その光は透光ガイド61を経て外部から視認される。
【0035】
ここで、表示手段17の基板57は、ガン本体31内の狭小スペースに配置されていることから、発光ダイオード群58の発した光の一部が電線37b〜37dに遮られる(図3(b)(c)参照)ことも想定される。この点、発光ダイオード58a〜58fは、高電圧発生装置15の後面を利用して列状に等間隔配置されていることから、多くの光量を得ることができ、その光は、一部が電線37b〜37d等で遮られたとしても、透光ガイド61を通じて外部から視認することができる。
【0036】
前記静電塗装の終了、即ちトリガ47が操作されていない状態では、制御回路18が高電圧発生装置15への交流電圧Vacの供給を停止することに伴い、発光ダイオード群58も消灯する。一方、制御回路18は、電源線13bを流れる電流(カレントコイル23による検出電流)の減少が、後述する電圧調整手段の調整に基づくものでないと判断した場合には、高電圧発生装置15への交流電圧Vacの供給を直ちに停止する。更に、制御回路18は、安全回路24によって高電圧発生装置15を流れる電流を検出し、高電圧発生装置15に過剰な電流が流れたと判断した場合にも、前記交流電圧Vacの供給を停止する。この場合、表示手段17は、ガン本体31に対して作業者に臨む後面側に配設されているため、作業者は、発光ダイオード群58の消灯により、交流電圧Vacの供給停止を静電塗装中に直ぐに把握することができる。
【0037】
以上説明したように、スプレーガン12の表示手段17は、高電圧Vdcの発生の有無に応じて発光する発光ダイオード群58を有し、ガン本体31に対して発光ダイオード群58の光が視認可能となるように配置されている。このため、作業者は、手元のスプレーガン12において発光ダイオード群58の光により、高電圧Vdcの発生の有無を一目で把握することができる。従って、表示手段17の視認性を向上させることができると共に、被塗物から目を離すことなく高電圧の発生を確認することができ、実用上において有益なものとすることができる。
【0038】
表示手段17は、ガン本体31における発光ダイオード群58と対応する位置に設けられ且つ耐溶剤性を有する透光ガイド61から発光ダイオード群58の光を視認するように構成されている。このように、発光手段をガン本体31に収容し、且つ耐溶剤性を有する透光ガイド61を介して発光手段の光を視認する構成とすることで、周囲の爆発性ガス、つまり噴出された塗料に含まれる有機溶剤がガス化したもの等に着火する危険を解消することができる。また、透光ガイド61は耐溶剤性を有することから静電塗装における環境適用性に優れたものとすることができ、より安全性を向上させることができる。
【0039】
本実施形態と異なり、透光ガイド61が無い場合、孔部60と発光手段との間での位置合わせが正確でないと、外部から発光手段の光を視認できない虞がある。これに対し、本実施形態では、ガン本体31内の発光ダイオード群58の光を、透光ガイド61を用いて外部から間接的に視認できる構成である。このように、ガン本体31内の光を、透光ガイド61により外部へ導くことができるので、発光ダイオード群58と孔部60と間の相対的な位置合わせを実質的に不要とすることができ、発光手段の組付けを簡単にすることができる。
【0040】
スプレーガン12は、グリップ部32とガン本体31とを有し、ガン本体31の後面側に表示手段17が設けられている。これによれば、作業者は、グリップ部32を把持した状態で、ガン本体31の後面の表示手段17にて、高電圧Vdcの発生の有無を確認することができ、より視認性を向上させることができる。
【0041】
本実施形態の表示手段17は、複数の発光ダイオード58a〜58fと1つの電流制限用抵抗59とを用いて構成されている。このため、1つの発光ダイオード(及び1つの電流制限用抵抗)で構成した場合に比して多くの光量を得て視認性を向上させることができると共に、エネルギー効率よく発光ダイオード58a〜58fを点灯させることができる。
【0042】
また、前記発光手段は、高電圧発生装置15における電源供給用の端子15e,15gに対して並列接続された複数の発光ダイオード58a〜58fであって、当該発光ダイオード58a〜58fは、高電圧発生装置15の後面側に設けた基板57に対して実装されている。これによれば、上記と同様の効果を得ることができると共に、高電圧発生装置15の端子15e,15gと発光ダイオード58a〜58fとの間の配線等の無駄を省略した簡単な回路構成にすることができる。これにより、発光手段は、極力コンパクトな構成にすることができ、高電圧発生装置15の後面側で嵩張ることがないため、ガン本体31の大型化を伴うことなく、既存のスプレーガン12内に発光手段を収容することができる。従って、スプレーガン全体を更新することなく、当該表示手段17を既存のスプレーガンに適用することができ、極力安価な構成にすることができる。
【0043】
<第2実施形態>
図5は、第2実施形態を示すものであり、既述の部分と同一部分には同一符号を付す等して説明を省略し、以下異なる点につき説明する。
【0044】
本実施形態の交流電源装置14´は、交流電圧Vacを調整可能とするための電圧調整手段(例えば図5に示す電圧調整ボリューム63)を備えている。この交流電源装置14´は、電圧調整ボリューム63の調整により、交流電圧Vacを例えば24V〜8Vの範囲で調節できるように構成されている。従って、電圧調整ボリューム63の設定操作により、交流電圧Vacを変化させることで、発光ダイオード58a〜58fの光量を調節することができる。こうして、当該発光ダイオード58a〜58fの光量は、交流電圧Vacの値(つまり当該電圧Vacや電流制限用抵抗59で決定される電流値)を調整することで無段階に可変する。
【0045】
従って、作業者は、表示手段17における発光ダイオード58a〜58fの光量に基づいて、高電圧Vdcの発生の有無のみならず、当該高電圧Vdcの値(例えば−60kV〜−20kV)の大小を識別することができる。よって、スプレーガン12或は表示手段17における電気回路構成の簡単化を維持しつつ、より利便性に優れたものとすることができる。
【0046】
<その他の実施形態>
本発明は、上記した各実施形態にのみ限定されるものではなく、次のように変形または拡張することができる。前記発光手段は、発光ダイオード58a〜58fに限定するものではなく、発光手段の種類や個数は適宜変更してもよい。
【0047】
前記表示手段17は、ガン本体31に対して発光手段の光が視認可能となるように構成されていればよく、孔部60や、これを閉塞する透光部(透光ガイド61)の形状等、適宜変更してもよい。即ち、透光部は、耐溶剤性を有して球面や平面で囲まれる透明体或は半透明体であればよく、光を集束又は発散させる凸レンズ又は凹レンズを用いて、視認性を向上させるように構成してもよい。また、前記発光手段自身が耐溶剤性を有する場合には、透光部を省略したり、窓部としての孔部60の形状を変更してもよい。
【0048】
交流電源装置14は、スプレーガン12の外部に設けるのではなく、スプレーガン12の内部に設けるようにしてもよい。本発明において使用可能な塗料は、上記した溶剤系塗料に限られるものではなく、例えば、メタリック系塗料を使用することもできる。
【0049】
本発明は、例えば、パターンエアを噴出しない構成の静電塗装用スプレーガンを備えてなる静電塗装システムにも適用することが可能である。要は、帯電させた塗料を被塗物に塗着させる構成の静電塗装用スプレーガン全般を備えた静電塗装システムに適用することができる。
【符号の説明】
【0050】
図面中、12は静電塗装用スプレーガン、15e,15gは電源供給用の端子、15は高電圧発生手段、16はピン電極(電極)、17は表示手段、31はガン本体、32はグリップ部、57は基板、58a〜58fは発光ダイオード(発光手段)、60は孔部、61は透光部を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
帯電させた塗料を噴霧して被塗物に塗着させる静電塗装用スプレーガンにおいて、
前記スプレーガンのガン本体と、
前記塗料を帯電させるための直流高電圧を発生する高電圧発生手段と、
前記高電圧発生手段により発生させた高電圧が印加される電極と、
前記ガン本体に設けられ、前記高電圧発生手段による高電圧の発生の有無を表示するための表示手段とを備え、
前記表示手段は、前記高電圧の発生の有無に応じて発光する発光手段を有し、前記ガン本体に対して前記発光手段の光が視認可能となるように配置されていることを特徴とする静電塗装用スプレーガン。
【請求項2】
前記発光手段は、前記ガン本体に収容されるように配置され、
前記表示手段は、前記ガン本体における前記発光手段と対応する位置に設けられ且つ耐溶剤性を有する透光部を備え、この透光部を通じて前記発光手段の光の視認が可能に構成されていることを特徴とする請求項1記載の静電塗装用スプレーガン。
【請求項3】
前記発光手段は、複数の発光ダイオードからなることを特徴とする請求項1または請求項2記載の静電塗装用スプレーガン。
【請求項4】
前記静電塗装用スプレーガンは、グリップ部と前記ガン本体とを有し、前記ガン本体の後面側に前記表示手段が設けられていることを特徴とする請求項1から3の何れかに記載の静電塗装用スプレーガン。
【請求項5】
前記発光手段は、前記高電圧発生手段における電源供給用の端子に対して並列接続された複数の発光ダイオードからなり、
前記複数の発光ダイオードは、前記高電圧発生手段の後面側に設けた基板に対して実装されていることを特徴とする請求項1から4の何れかに記載の静電塗装用スプレーガン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−86142(P2012−86142A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−234461(P2010−234461)
【出願日】平成22年10月19日(2010.10.19)
【出願人】(000117009)旭サナック株式会社 (194)
【Fターム(参考)】