説明

静電塗装装置の中間貯留槽

【課題】シリンダとピストンとのシール性を向上し、塗料の漏れによる塗料溜まりの発生を阻止して高品質な静電塗装を行うことを可能にする。
【解決手段】ピストン14の端部14aに中間押さえ部材22および押さえ部材24を介して固定される第1および第2シール部材26、28を備え、前記第1および第2シール部材26、28は、薄板リング状のフランジ部52と、前記フランジ部52と一体的に形成されて軸方向に膨出するとともに、シリンダ内壁36と周面90、82とに摺接するリング状の摺動部54とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗料および洗浄液の供給源と塗装ガンとの間に介装され、前記塗料を一旦貯留して前記塗装ガンに供給する一方、シリンダ内を前記洗浄液により洗浄する静電塗装装置の中間貯留槽に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、導電性塗料の静電塗装装置の一形態として、塗装ガンと塗料供給源との間に中間貯留槽が設けられている。そして、新たに用いられる塗料の色替え時に、色替え前の塗料が中間貯留槽内に残留付着することによる混色を回避するため種々の工夫がなされている。この種の従来技術の一例として、特許文献1に開示された「被加工物品を導電性の塗装材料で順次塗装する方法」が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭63−310671号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の従来技術では、ピストンの周面にシリンダ本体の内壁に沿って摺動するシーリングリングが設けられている。このため、ピストンの移動に伴う塗料の送出時に、シリンダ室に注入されている塗料が前記ピストンのシーリングリング嵌合溝部内に漏れ易く、前記シーリングリング嵌合溝部内には、シーリングリングを挟んで前後に塗料溜まりが発生するおそれがある。
【0005】
この結果、シリンダ室内全体の洗浄性が著しく悪くなり、このシリンダ室内に残留付着した塗料と新たに色替えした塗料とが混色状態を生起し、ワークに対して純正な色の塗料を有効に塗布することができないという問題が指摘されている。
【0006】
本発明はこの種の問題を解決するものであり、シリンダとピストンとの間のシール部分に塗料溜まりが発生することを確実に阻止し、塗料の混色を生ずることがなく、高品質な静電塗装作業が遂行可能な静電塗装装置の中間貯留槽を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る静電塗装装置の中間貯留槽では、シリンダ内に往復摺動自在に配設されたピストンの端部に押さえ部材を介してシール部材が固定されるとともに、このシール部材は、リング状フランジ部が前記押さえ部材の大径部端面に接触して前記ピストンの端部に押圧保持される一方、軸方向に膨出するリング状摺動部が前記押さえ部材の大径部周面と前記シリンダ内壁とに同時に摺接している。
【0008】
このように、リング状摺動部は、押さえ部材の大径部周面により径方向外方に押圧されてシリンダ内壁に摺接するため、ピストンと前記シリンダ内壁との液密性が有効に向上する。従って、シリンダ内に注入される塗料がピストンとシリンダ内壁とのシール部分から漏れることがなくなり、塗料溜まりが発生することや、この塗料が前記シリンダ内で残留付着することが確実に阻止される。
【0009】
これにより、簡単な構成で、洗浄作業が効率的に遂行され、色替え前の塗料と色替え後の塗料との混色を阻止して純正な色の塗料を確実に塗布することができ、高品質な静電塗装作業が遂行可能になる。
【0010】
また、リング状摺動部の内部に環状の空間部が設けられ、この空間部にOリングが配設されている。このため、リング状摺動部とシリンダ内壁とのシール性が一層向上するとともに、前記リング状摺動部の耐久性を確保することができる。さらに、放電のおそれがなく、シール部材の破損を可及的に防止することが可能になる。
【0011】
さらにまた、シール部材は、中間押さえ部材を介してピストンの端部に複数並設されている。これにより、シール部材の耐久性が向上するとともに、シール性を一層確実に維持することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、リング状摺動部は、押さえ部材の大径部周面により径方向外方に押圧されてシリンダ内壁に摺接するため、ピストンと前記シリンダ内壁との液密性が有効に向上する。従って、シリンダ内に注入される塗料がピストンとシリンダ内壁とのシール部分から漏れることがなくなり、塗料溜まりが発生することや、この塗料が前記シリンダ内で残留付着することが確実に阻止される。
【0013】
これにより、簡単な構成で、洗浄作業が効率的に遂行され、色替え前の塗料と色替え後の塗料との混色を阻止して純正な色の塗料を確実に塗布することができ、高品質な静電塗装作業が遂行可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施形態に係る中間貯留槽の縦断面説明図である。
【図2】前記中間貯留槽を構成するシール部材の一部断面説明図である。
【図3】前記中間貯留槽が組み込まれる静電塗装装置の全体構成説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1は、本発明の実施形態に係る中間貯留槽10の縦断面説明図である。この中間貯留槽10は、シリンダ12と、このシリンダ12内に往復摺動自在に配設されたピストン14と、シリンダ器壁16に設けられて塗料および洗浄液の供給源(後述する)に接続される注入孔部18と、このシリンダ器壁16に設けられて後述する塗装ガンに接続される塗料および洗浄液の排出孔部20と、前記ピストン14の端部14aに中間押さえ部材22および押さえ部材24を介して配設される高分子材料製、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂やフッ素系樹脂等で形成される第1および第2シール部材26、28とを備える。
【0016】
ピストン14は、ピストン本体30とこのピストン本体30にねじ止めされるピストン32とを備え、前記ピストン本体30の中央部には、段付き孔部34が貫通形成される。ピストン本体30の外周面には、シリンダ内壁36に摺接するシールリング38a、38bが装着されている。シリンダ12内には、ピストン本体30を挟んで第1シリンダ室40と第2シリンダ室42とが形成される。
【0017】
第1シリンダ室40を構成するシリンダ器壁16には、塗料および洗浄液の注入孔部18と排出孔部20とが形成される。排出孔部20は、塗装ガン(後述する)に連通しており、塗料および洗浄液を第1シリンダ室40に導入するための注入孔部18は、傾斜した状態でシリンダ12の外周壁まで延在している。第2シリンダ室42には、ピストン14を矢印X1方向へ摺動させるための駆動源となるエアを供給し、さらに、この供給されたエアを外部へと排出するためのエア用孔部44が形成されている。
【0018】
図2に示すように、第1および第2シール部材26、28は、略円盤状を有しており、その中央部に孔部50が貫通形成される。第1および第2シール部材26、28は、ピストン14の端部14aに沿って押圧保持される薄板リング状のフランジ部52と、このフランジ部52と一体的に形成されて軸方向(矢印A方向)に膨出するリング状の摺動部54とを有する。
【0019】
摺動部54は、フランジ部52から軸線方向前方(矢印A1方向)に向かってそれぞれ離間する方向に傾斜する傾斜外周面56および傾斜内周面58を有するとともに、前記傾斜外周面56と前記傾斜内周面58の先端部には前方に突出する凸部60が形成されている。摺動部54の内部には、環状の空間部62が設けられるとともに、この空間部62にOリング64が配設される。空間部62の開口端部側にリング状のインサート部材66が装着されており、このインサート部材66はOリング64の抜け止め機能を有している。Oリング64は、例えば、フッ素系ゴムで形成されており、インサート部材66は、例えば、PTFE樹脂で形成されている。
【0020】
図1に示すように、押さえ部材24は、大径部68と、この大径部68の一端側に同軸的に一体形成される小径部70と、この小径部70の一端側に同軸的に形成され、ピストン本体30の段付き孔部34の小径部側に挿入されるロッド部72と、前記ロッド部72の一端側に同軸的に形成されるねじ部74とを備え、前記ねじ部74にナット76が螺合する。
【0021】
大径部68の他端側には、中心に向かって前方に突出する円錐形状部78が設けられるとともに、小径部70側の端面80が第2シール部材28のフランジ部52に接触する。端面80に連なる大径部68の周面82は、前記第2シール部材28の摺動部54を構成する傾斜内周面58に接触する。周面82の直径は、この周面82とシリンダ内壁36との間で摺動部54を押圧変形させて塗料の漏れを確実に阻止し得る寸法に設定されている。
【0022】
摺動部54は、傾斜内周面58が大径部68の周面82に接触する一方、傾斜外周面56がシリンダ内壁36に接触して変形する際、凸部60側が前方に突出して前記摺動部54全体の厚さ方向の圧縮量を吸収している(図2中、二点鎖線参照)。小径部70は、第1および第2シール部材26、28の孔部50に挿入可能な寸法に設定され、この小径部70が中間押さえ部材22の孔部84に嵌合するとともに、シールリング86を介装している。
【0023】
中間押さえ部材22は、第1シール部材26のフランジ部52に接触してこのフランジ部52をピストン本体30側に押圧保持するための端面88と、前記端面88に連なって前記第1シール部材26の摺動部54を構成する傾斜内周面58を半径外方向に押圧する周面90と、前記周面90に連なる突出部92とを一体的に有している。
【0024】
図3は、このように構成される中間貯留槽10が組み込まれる静電塗装装置100の全体構成説明図である。この静電塗装装置100では、中間貯留槽10が、複数の異なる塗料を選択的に供給するために設置された塗料供給源である色替弁機構102と塗装ガン104との間に介装されている。
【0025】
中間貯留槽10と色替弁機構102との間に供給路106が設けられ、この供給路106の途上には、少なくとも一部に電気絶縁性の管路108を有しこの管路108の両側に切換弁110a、110bが接続されたブロック弁機構112が配置される。色替弁機構102は、エア(A)、水(W)および洗浄液(S)等の供給を制御する第1洗浄弁114と、異なる色の塗料を供給することが可能な複数の塗料弁116a〜116eとを備えている。
【0026】
ブロック弁機構112を構成する入口側の切換弁110aによって、色替弁機構102と、エア(A)、水(W)および洗浄液(S)等の供給を制御する第2洗浄弁118とが切り換えられ、このブロック弁機構112が出口側の切換弁110bから供給路106を介して中間貯留槽10と接続される。この切換弁110bは、さらに排出路120を介して排液槽122に連通自在である。
【0027】
中間貯留槽10の第2シリンダ室42には、空気供給源124が流路調整弁126、開閉弁128およびエア用孔部44を介して連通しており、前記空気供給源124から供給されるエア圧によりピストン14が駆動される。この空気供給源124は、ブースタ130を経由してエア圧を調節する流路調節器132に接続されており、この流路調節器132により塗料の突出量の制御が図られる。
【0028】
中間貯留槽10と塗装ガン104との間には、流路調節器132が介装された送出路134が設けられ、前記塗装ガン104は、ダンプ弁136とトリガ弁138とを備えるとともに、図示しない高電圧印加手段に接続されている。
【0029】
このように構成される静電塗装装置100の動作について、以下に説明する。
【0030】
静電塗装に際して、先ず、図3に示すように、色替弁機構102の塗料弁116aから所定の色の塗料が圧送され、この塗料が供給路106を介して中間貯留槽10の第1シリンダ室40に充填され、さらに送出路134を経由して塗装ガン104まで充填される。塗料の充填時には、トリガ弁138が閉塞される一方、ダンプ弁136が開放され、充填後にこのダンプ弁136が開塞される。
【0031】
そこで、ブロック弁機構112の切換弁110a、110bの切り換え動作が行われ、第2洗浄弁118の駆動作用下に前記ブロック弁機構112が洗浄され、この洗浄に用いられた洗浄液は、排出路120を経由して排液槽122に排出される。次いで、ブロック弁機構112が乾燥され、これにより色替弁機構102と中間貯留槽10とは、電気的に絶縁される。
【0032】
次に、空気供給源124から流路調整弁126および開閉弁128を介して中間貯留槽10の第2シリンダ室42に駆動用エアが供給され、ピストン14が第1シリンダ室40側に変位するとともに、図示しない高電圧印加手段が駆動される。これにより、塗料は、高電圧が直接印加された状態で、トリガ弁138の開放作用下に図示しないワークに塗布される。
【0033】
この場合、本実施形態では、図1に示すように、ピストン14の端部14aに第1シール部材26が配置され、この第1シール部材26に中間押さえ部材22を介装して第2シール部材28が配置された状態で、押さえ部材24がピストン本体30に対しナット76を介して固定されている。
【0034】
このため、第1シール部材26は、フランジ部52が中間押さえ部材22の端面88に接触してピストン14の端部14aに押圧保持されるとともに、摺動部54の傾斜内周面58が前記中間押さえ部材22の周面90に接触してシリンダ内壁36側に押圧される。従って、摺動部54は、傾斜外周面56がシリンダ内壁36に押圧変形される一方、傾斜内周面58が周面90に押圧変形され、前記シリンダ内壁36および前記周面90に対して確実に摺接支持される。
【0035】
さらに、第2シール部材28は、フランジ部52が押さえ部材24の端面80に接触して中間押さえ部材22側に押圧されるとともに、摺動部54の傾斜内周面58が大径部68の周面82に接触してシリンダ内壁36側に押圧される。このため、第2シール部材28の摺動部54は、シリンダ内壁36と大径部68の周面82とに確実に摺接支持されており、第1シリンダ室40に充填される塗料が前記第2シール部材28とシリンダ内壁36または大径部68との摺接部位から第1シール部材26側に漏れることがない。
【0036】
従って、例えば、第1および第2シール部材26、28間に塗料溜まりが発生することを確実に阻止することができ、色替えを行うためにシリンダ12の内部を洗浄する作業が、効率的かつ確実に遂行されるという効果が得られる。これにより、色替え前の塗料と色替え後の塗料との混色を有効に防止し、図示しないワークに対して色替え後の純正な色の塗料を塗布することが可能になり、色替え塗装作業が高品質に遂行されるという利点がある。
【0037】
また、第2シール部材28を構成する摺動部54内の空間部62にOリング64が配設されている。このため、摺動部54の傾斜内周面58および傾斜外周面56を、それぞれ大径部68の周面82およびシリンダ内壁36に確実に摺接させることができ、前記摺動部54のシール性を一層向上させることが可能になる。しかも、摺動部54自体の耐久性が向上するとともに、ゴム製のOリング64を用いるために放電のおそれがなく、第2シール部材28の破損を可及的に阻止することができる。
【0038】
さらにまた、ピストン本体30に対して第1および第2シール部材26、28が並設されている。従って、第1および第2シール部材26、28自体の耐久性が向上するとともに、シール性が一層確実になるという効果がある。なお、本実施形態では、第1および第2シール部材26、28を並設して構成しているが、第1シール部材26のみを単独で使用することもでき、あるいは、3以上のシール部材を並設してもよい。
【0039】
本発明に係る静電塗装装置の中間貯留槽では、ピストンの端部に押さえ部材を介して固定されるシール部材が、前記ピストンの端部に押圧保持されるリング状フランジ部と、このリング状フランジ部と一体的に形成されて軸方向に膨出し、前記押さえ部材の大径部周面とシリンダ内壁とに同時に摺接するリング状摺動部とを有しているため、前記ピストンと前記シリンダ内壁とのシール性が有効に向上し、シール部分からの塗料の漏れによる塗料溜まりの発生を確実に阻止することができる。これにより、色替え前の塗料と色替え後の塗料との混色を阻止し、純正な色の塗料のみを塗布して高品質な静電塗装作業が遂行可能になる。
【符号の説明】
【0040】
10…中間貯留槽 12…シリンダ
14…ピストン 16…シリンダ器壁
18…注入孔部 20…排出孔部
22…中間押さえ部材 26、28…シール部材
30…ピストン本体 40、42…シリンダ室
52…フランジ部 54…摺動部
56…傾斜外周面 58…傾斜内周面
60…凸部 62…空間部
64…Oリング 66…インサート部材
68…大径部 80、88…端面
82、90…周面 100…静電塗装装置
102…色替弁機構 104…塗装ガン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダと、
前記シリンダ内に往復摺動自在に配設されたピストンと、
シリンダ器壁に設けられ、塗料および洗浄液の供給源に接続される注入孔部と、
前記シリンダ器壁に設けられ、塗装ガンに接続される塗料および洗浄液の排出孔部と、
前記ピストンの端部に押さえ部材を介して固定される高分子材料製のシール部材と、
を備え、
前記シール部材は、前記押さえ部材の大径部端面に接触して前記ピストンの端部に押圧保持されるリング状フランジ部と、
前記リング状フランジ部と一体的に形成されて軸方向に膨出するとともに、前記押さえ部材の大径部周面と前記シリンダ内壁とに同時に摺接するリング状摺動部と、
を有することを特徴とする静電塗装装置の中間貯留槽。
【請求項2】
請求項1記載の中間貯留槽において、前記リング状摺動部は、内部に環状の空間部を有するとともに、前記空間部にOリングが配設されることを特徴とする静電塗装装置の中間貯留槽。
【請求項3】
請求項1または2記載の中間貯留槽において、前記シール部材は、中間押さえ部材を介装して前記ピストンの端部に複数並設されることを特徴とする静電塗装装置の中間貯留槽。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−66599(P2009−66599A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−198(P2009−198)
【出願日】平成21年1月5日(2009.1.5)
【分割の表示】特願平11−20042の分割
【原出願日】平成11年1月28日(1999.1.28)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】