説明

静電塗装装置

【課題】静電塗装装置において、回転霧化頭と塗料供給管とが相対的に位置ずれを起こすことを長期間にわたって回避する。
【解決手段】静電塗装装置10のハウジング12を構成するヘッド部16には、塗料供給管が挿入された管支持部材74と、回転霧化頭66を回転動作させるためのエアモータ62とが収容されている。管支持部材74は、長尺部76とフランジ部78とを有し、長尺部76がエアモータ62の貫通孔68に挿入されている。その一方で、フランジ部78は、エアモータ62を構成するモータハウジング64の大径部80に連結されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電圧が印加された塗料をワークに塗布するための静電塗装装置に関する。
【背景技術】
【0002】
導電性塗料を用いる静電塗装装置は、塗料供給源から塗料供給管を介して回転霧化頭に導電性塗料が供給されるとともに、この導電性塗料が高電圧を印加された状態で前記回転霧化頭から噴霧されることにより、ワークに対して静電塗装を行うように構成されている。
【0003】
この種の静電塗装装置では、例えば、特許文献1に記載されているように、ハウジング内に管支持部材としての回転軸と、この回転軸を回転動作させるためのタービン型エアモータと、塗料に印加される電圧を発生する電圧発生手段とが収容され、前記回転軸の貫通孔に前記塗料供給管が通されるとともに、前記回転霧化頭が回転軸の先端に取り付けられる構成が一般的である。
【0004】
そして、塗料をワークに静電塗布する際には、前記タービン型エアモータの作用下に回転軸が回転動作されるとともに、前記電圧発生手段が付勢される。この状態で塗料が塗料供給源から供給され、前記塗料供給管を通過して、前記回転軸に追従して回転動作する前記回転霧化頭からワークに向けて噴霧される。
【0005】
【特許文献1】特開平9−122543号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の段落[0018]、[0020]における記載や、図1における図示から諒解されるように、静電塗装装置では、管支持部材(特許文献1においては回転軸)と、回転霧化頭を回転動作させるための回転付勢手段(タービン型エアモータ)とが、ハウジング内の別部位に個別に設置されている。この理由は、静電塗装装置に対してメンテナンス作業を施す際、分解・組み立てが容易であるからである。
【0007】
ところで、静電塗装装置においては、ハウジングを絶縁体で構成する必要があることから、該ハウジングの材質として樹脂が採用される。しかしながら、樹脂には耐摩耗性が十分であるとはいい難い側面があり、このため、静電塗装装置の使用が長期間にわたると、ハウジングが若干摩耗することがある。
【0008】
従って、例えば、タービン型エアモータを設置した箇所や、塗料供給管を設置した箇所が摩耗するような事態が生じると、回転霧化頭に位置ずれが生じ、その結果、塗装ムラが発生するという不具合を招く。
【0009】
本発明は上記した問題を解決するためになされたもので、回転霧化頭と塗料供給管とが相対的に位置ずれを起こすことを長期間にわたって回避することが可能であり、しかも、メンテナンス作業を行うことも容易な静電塗装装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記の目的を達成するために、本発明は、電圧が印加された塗料をワークに対して静電塗装するための静電塗装装置であって、
ワークに塗布する塗料が通過する塗料供給管と、
前記塗料供給管が貫通孔に通された管支持部材と、
前記塗料供給管を通過した塗料を噴霧するための回転霧化頭と、
前記回転霧化頭を回転動作させる回転付勢手段と、
前記管支持部材及び前記回転付勢手段を収容するハウジングと、
を有し、
前記管支持部材と前記回転付勢手段とが互いに連結されて前記ハウジングに収容されていることを特徴とする。
【0011】
このような構成とすることにより、ハウジングに摩耗が生じて管支持部材と回転付勢手段が変位する場合、両者が一体的に変位する。このため、回転霧化頭と塗料供給管とが相対的に位置ずれを起こすことが長期間にわたって抑制される。換言すれば、回転霧化頭と塗料供給管との芯出し位置が長期間にわたって維持され、この状態で塗料の吐出・噴霧が行われるので、塗装ムラが生じることを回避することができる。
【0012】
このように構成された静電塗装装置に対してメンテナンス作業を施す際、管支持部材ごと回転付勢手段を取り外せばよい。すなわち、上記のような構成とすることに伴ってメンテナンス作業が困難となることはない。
【0013】
なお、管支持部材と回転付勢手段との間に連結部材を介在させるようにしてもよい。すなわち、管支持部材と回転付勢手段とを直接連結する必要は特になく、連結部材を介して両者を互いに連結するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、塗料供給管が通された管支持部材と、回転霧化頭を回転動作させる回転付勢手段とを連結するようにしてハウジングに収容し、静電塗装装置を構成するようにしている。このため、管支持部材と回転付勢手段とが一体的に変位するので、塗料供給管と回転霧化頭とが相対的に位置ずれを起こすことを長期間にわたって抑制することができ、結局、塗装ムラが生じることを長期間にわたって回避することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明に係る静電塗装装置につき好適な実施の形態を挙げ、添付の図面を参照して詳細に説明する。
【0016】
図1は、本実施の形態に係る静電塗装装置10の概略内部構成説明図である。この静電塗装装置10のハウジング12は、若干傾斜したネック部14と、該ネック部14に一体的に連結されて図1における水平方向に延在するヘッド部16とを有し、このうちのネック部14には、電圧発生手段としてのカスケード18が収容されている。
【0017】
ハウジング12は樹脂からなり、そのネック部14は、図示しないボルトを介して支持盤20に連結されている。この支持盤20には、貫通孔21、エア供給ポート22、及びエア供給大径ポート28が設けられており、さらに、図示しないエア排出ポートが形成されている。
【0018】
エア供給ポート22及びエア供給大径ポート28には、それぞれ、図示しない圧縮エア供給源からのエア供給チューブ30、32が継手34、36を介して接続されており、同様に、前記エア排出ポートには、エアを排出するための図示しないエア排出チューブが接続されている。
【0019】
ネック部14には、エア供給ポート22、エア供給大径ポート28、エア排出ポートに対応する位置に、それぞれ、エア往路42、エア供給路44、エア復路(図示せず)が設けられており、さらに、貫通孔21に対応する位置に内孔48が設けられている。カスケード18の大部分は、この内孔48に遊びが生じた状態で挿入されている。すなわち、カスケード18とネック部14との間にはクリアランスが形成されている。なお、内孔48の下端部近傍には、エア往路42が連通している。
【0020】
カスケード18は、低電圧ケーブル50が接続された電圧発生部52と、電圧発生部52で発生した電圧を昇圧する昇圧トランスを内蔵した昇圧部54と、昇圧された電圧(高電圧)を出力する出力端子56とを有する。支持盤20の貫通孔26には、このカスケード18の電圧発生部52の一部が埋入・嵌合されている。また、支持盤20には緩衝材58が固着されており、一方、内孔48の天井面には緩衝材60が固着されている。カスケード18は、昇圧部54の両端部がこれら緩衝材58、60に押圧することによって位置決め固定されている。
【0021】
ヘッド部16の内部には、エアモータ62が配設されるとともに、このエアモータ62を構成するモータハウジング64の先端部には、回転霧化頭66が固着される。後述するように、エアモータ62は、回転霧化頭66を回転動作させる回転付勢手段として機能する。
【0022】
モータハウジング64の略中央に設けられた貫通孔68には、塗料供給管70及び洗浄液供給管72が内部に通された管支持部材74の長尺部76が挿入されている。ここで、管支持部材74は、前記長尺部76の他、該長尺部76に比して大径なフランジ部78を有し、このフランジ部78がモータハウジング64の大径部80に連結されている。すなわち、本実施の形態においては、塗料供給管70が通された管支持部材74と、回転霧化頭66を回転動作させるエアモータ62のモータハウジング64とが互いに連結されている。エアモータ62は、これにより支持されており、ハウジング12には固定されていない。
【0023】
なお、モータハウジング64と管支持部材74との間には、回転霧化頭66とともに回転動作する回転軸82が介在されている。
【0024】
塗料は、塗料弁84の作用下に塗料供給管70が開放されることに伴い、最終的に、吐出口86から吐出される。
【0025】
塗料弁84は、ヘッド部16の開孔88内に固着される第1ケーシング部材90、第2ケーシング部材92、及び第3ケーシング部材94を具備する。このうちの第1ケーシング部材90には、ヘッド部16に設けられた図示しない塗料通路からの塗料が導入される塗料入ポート96a、96bが設けられている。
【0026】
また、第2ケーシング部材92には、ヘッド部16に設けられた図示しないパイロットエア通路を流通したパイロットエアを導入するためのパイロットエア入ポート98が設けられるとともに、該パイロットエアを排出するためのパイロットエア出ポート100が設けられる。さらに、第2ケーシング部材92と第3ケーシング部材94との間にはスプリング受部材102が介在されており、貫通孔103が設けられたこのスプリング受部材102には、ピストン104を弾発付勢するコイルスプリング106の一端部が着座している。
【0027】
ピストン104における第1ケーシング部材90に臨む側の端面には、ロッド108が設置されている。このロッド108は、塗料入ポート96a、96b及び塗料供給管70を閉塞するようにして、第1ケーシング部材90の貫通孔に挿入されている。
【0028】
ここで、ヘッド部16の図1における右端部には、ネック部14の内孔48を起点とする図示しない第1エア通路が開口している。また、開孔88における第3ケーシング部材94の近傍からは、ネック部14に向かう図示しない第2エア通路が設けられており、該第2エア通路からは、前記エア復路が分岐している。
【0029】
ヘッド部16の図1における右端には、カバー部材118が螺合されている。このカバー部材118には凹部120が設けられており、カバー部材118は、該凹部120がヘッド部16を臨むようにしてヘッド部16に取り付けられている。すなわち、前記第1エア通路及び前記第2エア通路は、凹部120に連通している。
【0030】
エア供給路44にはエア導入チューブ122が挿入されており、このエア導入チューブ122には、エアが流通される。
【0031】
本実施の形態に係る静電塗装装置10は、基本的には以上のように構成されるものであり、次にその動作並びに作用効果について説明する。
【0032】
先ず、エア供給源から供給されたパージ用圧縮エアは、エア供給チューブ30とエア往路42を介して、内孔48に導入される。このパージ用圧縮エアによって、内孔48内に滞留していたエアが置換される。
【0033】
パージ用圧縮エアがさらに供給されることに伴い、パージ用圧縮エアが第1エア通路及び凹部120を介して開孔88に進入する。パージ用圧縮エアは、その後、スプリング受部材102の貫通孔103を通過してピストン104の一端面に接触し、次に、第2エア通路からエア復路を介して、エア排出チューブから排気される。
【0034】
その一方で、エア供給路44にエアが供給される。これに伴い、エアモータ62の作用下に回転軸82が回転霧化頭66と一体的に高速回転し始める。
【0035】
さらに、カスケード18が付勢される。電圧は、低電圧ケーブル50が接続された電圧発生部52で発生し、昇圧部54で昇圧され、高電圧となって出力端子56から取り出される。
【0036】
そして、パイロットエア入ポート98を介して、パージ用圧縮エアに比して高圧力のパイロットエアをピストン104のロッド108側端面に接触するように供給する。これによりピストン104が押圧され、コイルスプリング106の弾発力に抗して矢印Y方向に変位する。その結果、ロッド108が塗料供給管70、塗料入ポート96a、96bから離間し、塗料入ポート96a、96bと塗料供給管70とが連通して、吐出口86からワークに向かって、高電圧が印加された塗料が吐出される。この塗料は、回転霧化頭66の遠心力によって霧化状態となった後にワークに静電塗装される。
【0037】
このようにして静電塗装が行われている間、カスケード18とネック部14との間のクリアランスでは、上記したパージ用圧縮エアの流通が続行される。このため、パージ用圧縮エアは、該パージ用圧縮エアに含まれる酸素がイオン化を起こす前に、仮にイオン化を起こしたとしても極めて迅速に、ネック部14の系外へと排出される。従って、ネック部14をはじめとする樹脂製部材が劣化することを回避することができ、結局、ハウジング12の耐久性を向上させることができる。
【0038】
しかも、このためにカスケード18とネック部14との間のクリアランスが拡大することが回避されるので、カスケード18が所定の位置に位置決めされた状態が維持される。従って、電着効率が低下することを回避することもできる。
【0039】
その上、この場合、カスケード18の低電圧発生側からパージ用圧縮エアを導入するようにしているので、電圧がリークすることを回避することもできる。
【0040】
さらに、パージ用圧縮エアをピストン104に接触させるようにしているので、該ピストン104に結露が生じることを回避することもできる。
【0041】
なお、パイロットエアの供給を停止することに伴い、コイルスプリング106の弾発力によってピストン104が矢印X方向に変位して元の位置に復帰する。これによりロッド108で塗料入ポート96a、96b及び塗料供給管70が閉塞され、吐出口86からの塗料の吐出が停止される。
【0042】
また、図示しない洗浄液供給源を付勢し、洗浄液供給管72を介して吐出口86の外周部に洗浄液を吐出することにより、該吐出口86の外周部を洗浄することができる。
【0043】
静電塗装装置10が上記のようにして長期間にわたって使用されると、ハウジング12の材質が樹脂であるので、経時変化や外的要因により、該ハウジング12が摩耗する懸念がある。
【0044】
しかしながら、本実施の形態においては、上記したように、管支持部材74とエアモータ62のモータハウジング64とが互いに連結されている。このため、ハウジング12に摩耗が生じたとしても、エアモータ62と管支持部材74、ひいてはエアモータ62と塗料供給管70とは一体的に変位する。換言すれば、エアモータ62と塗料供給管70とが相対的に位置ずれを起こすことはない。
【0045】
このため、回転霧化頭66と吐出口86との位置が相対的にずれることが長期間にわたって抑制される。従って、塗装ムラが生じることを長期間にわたって回避することができる。
【0046】
塗料供給管70に塗料が付着した場合等、静電塗装装置10に対してメンテナンス作業を施す必要がある際には、管支持部材74をエアモータ62及び回転軸82ごと取り外し、その後、管支持部材74をエアモータ62から取り外せばよい。このように、本実施の形態によれば、メンテナンス作業が煩雑になることもない。
【0047】
なお、上記した実施の形態においては、モータハウジング64を介して管支持部材74とエアモータ62とを連結したが、特にこれに限定されるものではなく、管支持部材74とエアモータ62とを直接連結するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本実施の形態に係る静電塗装装置の概略内部構成説明図である。
【符号の説明】
【0049】
10…静電塗装装置 12…ハウジング
14…ネック部 16…ヘッド部
18…カスケード(電圧発生手段) 22…エア供給ポート
24…エア排出ポート 30、32…エア供給チューブ
42…エア往路 44…エア供給路
48…内孔 50…低電圧ケーブル
52…電圧発生部 54…昇圧部
56…出力端子 62…エアモータ
64…モータハウジング 66…回転霧化頭
70…塗料供給管 72…洗浄液供給管
74…管支持部材 82…回転軸
84…塗料弁 86…吐出口
88…開孔 96a、96b…塗料入ポート
104…ピストン 106…コイルスプリング
108…ロッド 118…カバー部材
120…凹部 122…エア導入チューブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電圧が印加された塗料をワークに対して静電塗装するための静電塗装装置であって、
ワークに塗布する塗料が通過する塗料供給管と、
前記塗料供給管が貫通孔に通された管支持部材と、
前記塗料供給管を通過した塗料を噴霧するための回転霧化頭と、
前記回転霧化頭を回転動作させる回転付勢手段と、
前記管支持部材及び前記回転付勢手段を収容するハウジングと、
を有し、
前記管支持部材と前記回転付勢手段とが互いに連結されて前記ハウジングに収容されていることを特徴とする静電塗装装置。
【請求項2】
請求項1記載の静電塗装装置において、前記管支持部材と前記回転付勢手段との間に連結部材が介在することを特徴とする静電塗装装置。

【図1】
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