説明

静電容量変化型発電素子

【課題】発電効率の高い静電容量変化型の発電素子を提供する。
【解決手段】発電素子1は、誘電エラストマー10中に強誘電体粒子11が分散されたコンポジット層12と、コンポジット層12の上下に配された一対の電極であって、コンポジット層12の伸縮に応じて伸縮する一対の電極21、22とを備える。ここで、強誘電体粒子11は結晶配向性を有すると共に、誘電エラストマー10中に配向分散され、かつ、コンポジット層12の層厚方向に分極する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極間の静電容量の変化により発電する発電素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、誘電エラストマーからなる電場応答性高分子を用いたアクチュエータとして電場応答性高分子型人工筋肉(Electroactive olymer Artifical Muscle:EPAM)の開発がなされている。
【0003】
この電場応答性高分子アクチュエータは、電気エネルギーを機械エネルギーに変換するものであり、二つの柔軟な電極と該電極間に挟まれた誘電エラストマーから構成され、電極間に電位差を与えると、静電力によりエラストマーが厚さ方向に収縮し、面方向に伸張するものである。
【0004】
近年においては、この駆動動作を逆にして機械エネルギーを電気エネルギーに変換することにより発電システムとして用いる技術の開発がすすめられている(非特許文献1、特許文献1〜3など)。
【0005】
非特許文献1および特許文献1には、上述のEPAMを用いた発電装置が開示されている。
また、特許文献2および3には、誘電エラストマーの誘電率を高めるために高誘電率を示す誘電性セラミックスを添加した誘電性ゴム積層体が開示されている。
【0006】
一方、特許文献4には、繊維強化プラスチックなどの複合部材であって、部材内部の欠陥を被破壊検査するための自己診断機能を備えた複合部材として、分極方向を配向させた圧電性粒子を含む合繊樹脂と導電性繊維層とからなる複合部材が提案されている。この複合部材は、導電性繊維層が電極となり、圧電性粒子の自発分極の電荷を蓄積して静電容量型センサを構成し、振動が与えられたときに、静電容量の変化量に相応する電流を導電性繊維層から出力するものである。この出力信号から複合部材に発生している歪みや損傷を診断することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−141840号公報
【特許文献2】特開2008−53527号公報
【特許文献3】特開2009−232677号公報
【特許文献4】特開2006−131776号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Seiki Chiba et al., Journal of the Japan Institute of Energy, 86, 743-747 (2007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来より、人工筋肉アクチュエータとして使用する場合には、誘電性ゴム層の誘電率を高くする必要があることが知られており、特許文献2、3はこの思想に沿って高誘電率の誘電体粒子をゴム層中に含有させている。
しかしながら、本発明者らの検討によると、アクチュエータとして用いる場合と発電素子として用いる場合とで、誘電特性についての好ましい条件が異なり、特許文献2に挙げられている高誘電性フィラーを含有する誘電性ゴム層を用いた場合であっても、必ずしも十分な発電効率を得ることができないとの結論が得られた。
【0010】
また、特許文献4においては、自己診断型の複合部材は、静電容量型センサとして機能するだけの発電量が得られればよいため、発電素子として発電量を向上させることについては検討されていない。
【0011】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、発電効率の高い静電容量変化型の発電素子を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の静電容量変化型の発電素子は、誘電エラストマー中に複数の強誘電体粒子が分散されてなるコンポジット層と、
該コンポジット層の上下に配された一対の電極であって、該コンポジット層の伸縮に応じて伸縮する一対の電極とを備え、
前記強誘電体粒子が、前記コンポジット中において結晶配向性を有すると共に、前記複数の強誘電体粒子の分極軸が揃うように前記誘電エラストマー中に配向分散されており、かつ、前記コンポジット層の層厚方向に分極していることを特徴とするものである。
【0013】
本明細書において、「結晶配向性を有する」とは、Lotgerling法により測定される配向率Fが、50%以上であることと定義する。
配向率Fは、下記式(i)で表される。
F(%)=(P−P)/(1−P)×100・・・(i)
式(i)中、Pは、配向面からの反射強度の合計と全反射強度の合計の比である。(001)配向の場合、Pは、(00l)面からの反射強度I(00l)の合計ΣI(00l)と、各結晶面(hkl)からの反射強度I(hkl)の合計ΣI(hkl)との比({ΣI(00l)/ΣI(hkl)})である。例えば、ペロブスカイト結晶において(001)配向の場合、P=I(001)/[I(001)+I(100)+I(101)+I(110)+I(111)]である。
は、完全にランダムな配向をしている試料のPである。
完全にランダムな配向をしている場合(P=P)にはF=0%であり、完全に配向をしている場合(P=1)にはF=100%である。
【0014】
前記強誘電体粒子の比誘電率が最小となる分極軸が、前記層厚方向に略平行に配向していることが好ましい。
【0015】
また、前記強誘電体粒子の前記分極方向における比誘電率が200未満であることが好ましい。
【0016】
前記強誘電体粒子の粒径は、100nm〜10μmであることが好ましい。
【0017】
前記誘電エラストマーのヤング率が100MPa以下であることが好ましく、10MPa以下であることがより好ましい。
【0018】
前記強誘電体粒子の結晶構造は、ペロブスカイト構造、ビスマス層状構造、タングステンブロンズ構造のいずれかであることが好ましく、前記強誘電体粒子としては、鉛を含まないペロブスカイト型酸化物を主成分とするものであることが好ましい。かかるペロブスカイト型酸化物としては、ビスマス含有ペロブスカイト型酸化物が好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明の静電容量変化型の発電素子は、誘電エラストマー中に分散されている強誘電体粒子が結晶配向性を有すると共に、複数の強誘電体粒子の分極軸が揃うように配向分散されており、かつ、コンポジット層の層厚方向に分極している。かかる構成によれば、粒子毎の結晶配向性により各粒子の残留分極値を大きくさせることができ、さらに、複数の粒子の分極軸が揃っていることから、コンポジット層全体としての残留分極値(表面電荷密度)を大きくすることができる。また、本発電素子は、誘電エラストマーの弾性により、電極間の距離を大きく変化させることができるため、発電量を向上させることができる。
【0020】
また、さらに強誘電体粒子の比誘電率が最小となる分極軸が、コンポジット層の層厚方向に略平行に配向している場合、誘電率を抑制することができるので、より大きな発電特性を達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明に係る一実施形態の静電容量変化型発電素子の構成を示す厚み方向概略断面図
【図2】発電原理を説明するための近似モデルである積層型発電素子の構成を示す厚み方向概略断面図
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1を参照して、本発明の静電容量変化型発電素子について説明する。図1は本発明の一実施形態の発電素子1の概略断面図であり、(A)は素子圧縮前状態(状態A)、(B)は素子圧縮状態(状態B)を示している。視認しやすくするために各部の構成要素の縮尺は適宜変更して示してある。
【0023】
図1に示されるように、発電素子1は、誘電エラストマー10中に強誘電体粒子11が分散されてなるコンポジット層12およびコンポジット層12の上下に備えられた一対の電極であってコンポジット層12の伸縮に応じて伸縮する一対の電極21、22とを備えている。発電素子1において、強誘電体粒子11は、結晶配向性を有すると共に、複数の強誘電体粒子11の分極軸が互いに揃うように誘電エラストマー10中に配向分散されており、かつ、コンポジット層12の層厚方向に分極している。
【0024】
この配向分極した強誘電体粒子の存在により、コンポジット層12は、非常に大きな表面電荷密度を有するものとなっている。
従来検討されている、人工筋肉発電素子においては、電極間に予め初期電気エネルギーをチャージさせる必要があるが、本発明の発電素子においては、コンポジット層が強誘電体粒子が分極処理されていることにより生じる表面電荷を有しているため、初期電気エネルギーのチャージをしなくてもよい。
【0025】
下部電極21と上部電極22とは、図示しない負荷に電気的に接続されており、本発電素子1は、電極21、22間の距離を変化させることにより静電容量を変化させて電気エネルギーを生じさせる静電容量変化型の発電素子である。コンポジット層12により形成される静電場によって電極21、22に電荷が静電誘導された状態で、素子形状を変化させることにより、電荷分布に非対称性が生じ、これに伴い電極間の静電容量が変化し、これに伴い電極間に電位差が生じる。この電位差が0になるように電荷移動が生じ、外部回路(負荷)に流れる電流となる。
【0026】
図1(A)に示す発電素子1に積層方向に圧縮力が引加される前の状態Aから同図(B)に示す圧縮力が引加された状態Bあるいは、その逆の状態Bから状態Aへと変化することにより、両電極21、22間電位差が生じ、この電位差の変化を電力として取り出すことにより発電素子としての機能を奏する。なお、外圧(圧縮力)により厚みが変化するのはエラストマー層10であり、強誘電体粒子11の形状はほとんど変化しない。
【0027】
発電の原理について説明する。発電の原理は、強誘電体とエラストマーの物性値、変形量などの発電量への影響を定量的に見積もるため、コンポジット内の強誘電体粒子を一方の電極側に集め、図2に示すように、近似的にエラストマー層10と強誘電体層11との積層型のモデルとして計算する。図2は、発電原理を説明するための積層型モデルの発電素子の概略断面図であり、(A)は素子圧縮前状態(状態A)、(B)は素子圧縮状態(状態B)を示している。図2において、図1に示した素子と同等の要素には同一符号を付している。なお、コンポジット中のエラストマーと強誘電体粒子との体積分率により、近似モデルにおけるエラストマー層の厚み、強誘電体層の厚みは見積もることができる。
【0028】
電極間に圧縮力が引加される周波数をfとしたとき、本発明の素子における発電量Pは、下記式(1)により定義される。
【数1】

ここで、ΔQは、状態Aから状態Bに変化した際に移動する電極表面における表面電荷密度であり、これはエラストマー層の表面電荷量の変化量で表わされる。すなわちΔQ=Δq=qeB−qeAである。ここで、qeAは状態Aのエラストマーの表面電荷密度であり、qeBは圧縮状態Bとなった後に生じる電荷移動後のエラストマーの表面電荷密度である。
ΔVは、状態Aから状態Bに変化した際の電位差の変化量であり、ここでは、強誘電体層の厚みは変化しないものと看做せば、電位差の変化量は、エラストマー層の電位差の変化量と看做すことができ、ΔV≒ΔVe=VeA−VeBで表わされる。ここでVeAは状態Aにおけるエラストマー側電極の電位、ΔVeBは圧縮状態Bの電荷移動前におけるエラストマー側電極の電位である。
【0029】
状態Aにおいて、強誘電体層による誘電分極によりエラストマー層表面に静電誘導されている電荷密度qeAと強誘電体層表面の電荷密度qfとは、下記式(2)で表わすことができる。
【数2】

上記関係式から、発電量Pは下記式(3)で表わされる。
【数3】

(deAは状態Aにおけるエラストマー層の厚み、deBは状態Bにおけるエラストマー層の厚み、dは強誘電体層の厚み(これは状態A、Bで変化しないものとしている。)Aは対向する電極の面積、εeはエラストマーの比誘電率、εfは強誘電体の比誘電率、εは真空の誘電率である。)
【0030】
上記式(3)より、強誘電体11としては、表面電荷密度qfが高く、比誘電率εfが小さい方がより高い発電量を得ることができ好ましいことが分かる。
また、エラストマー層の状態Aにおける厚みdeAと、状態Bにおける厚みdeBとの差(厚みの変化量)が大きいほど、発電量が大きくなることも明らかである。なお、エラストマー層の状態Aにおける厚みdeAと、状態Bにおける厚みdeBとの差は、図1に示した発電素子のコンポジット層の状態Aにおける厚みtAと状態Bにおける厚みtBとの差と等価である。
【0031】
上述の通り、外力によりを厚み方向に大きく伸縮させることで、静電容量を変化させていることから、誘電エラストマー層11はヤング率が小さく、力に対し大きく厚みが変化できることが好ましく、特にはヤング率が100MPa以下、さらには10MPa以下であることが好ましい。なお、外力は誘電エラストマー層11が伸縮するのに用いられ、強誘電体からなる誘電分極体層にはほとんど外力は加わらず、厚みの変化もほとんどない。したがって、誘電分極体層において、圧電性はほとんど機能していないと考えられる。
【0032】
上述の通り、外力により誘電エラストマー層10(コンポジット層12)を厚み方向に大きく伸縮させることで、静電容量を変化させていることから、誘電エラストマー10はヤング率が小さく、力に対し大きく厚みが変化できるものであることが好ましく、特にはヤング率が100MPa以下、さらには10MPa以下であること好ましい。コンポジット層12を平たく伸張させる際に素子に加えられる外力(圧縮力)は誘電エラストマー10の伸張により吸収され、強誘電体粒子にはほとんど外力は加わらず強誘電体粒子11の変形はほとんどない。したがって、本発電素子1のコンポジット層において、圧電性はほとんど機能していないと考えられる。
【0033】
誘電エラストマー10の材料としては、例えば、合成ゴムであるアクリルゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム、イソプレンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴムなどの熱硬化性エラストマー、あるいはポリスチレン系、ポリオレフィン系、ポリウレタン系などの熱可塑性エラストマーを用いることができる。
【0034】
コンポジット層12は、強誘電体粒子11の体積分率が大きいほど、表面電荷密度は大きくなる。一方で、強誘電体粒子11の体積分率が大きすぎると、コンポジット層のヤング率が高くなり、かつ、耐久性が低くなる恐れがある。したがって、コンポジット層12における強誘電体粒子11の体積分率は10〜60%程度であることが好ましい。
【0035】
強誘電体粒子11は、結晶配向性を有すると共に、複数の強誘電体粒子11の分極軸が揃うように配向分散されており、かつ、コンポジット層12の層厚方向に分極しうるものであれば、特に材料に制限はなく、有機強誘電体であっても無機強誘電体であっても、それらの複合材料であっても構わない。
しかしながら、より高い発電効率が得られることから、強誘電体粒子としては、より残留分極値の高い強誘電体材料を用いることが好ましい。そのため、強誘電体粒子11としては、大きな残留分極値を与えうる無機強誘電体を主成分とすることが好ましい。また、耐熱性の観点からも無機強誘電体であることが好ましく、更にキュリー温度の高い強誘電体であることが好ましい。
【0036】
また、より大きな残留分極値を与えるためには、強誘電体粒子11の結晶配向における分極軸が、厚み方向に略平行に揃っていることが好ましい。
【0037】
大きな残留分極値を与えうる(強誘電性の優れた)無機強誘電体の結晶構造としては、結晶構造が、ペロブスカイト構造、ビスマス層状構造、タングステンブロンズ構造が挙げられ、中でもペロブスカイト構造が好ましい。
【0038】
強誘電性の優れたペロブスカイト型酸化物としては、鉛系ペロブスカイト型酸化物が知られているが、環境負荷の観点から、鉛を含まないペロブスカイト型酸化物を主成分とするものが好ましく、ビスマス含有ペロブスカイト型酸化物がより好ましい。
【0039】
ペロブスカイト型酸化物の具体例としては、鉛系では、チタン酸鉛、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)、ジルコニウム酸鉛、チタン酸鉛ランタン、ジルコン酸チタン酸鉛ランタン、マグネシウムニオブ酸ジルコニウムチタン酸鉛、ニッケルニオブ酸ジルコニウムチタン酸鉛、亜鉛ニオブ酸ジルコニウムチタン酸鉛等の鉛含有化合物、及びこれらの混晶系;
非鉛系では、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウムバリウム、チタン酸ビスマスナトリウム、チタン酸ビスマスカリウム、ニオブ酸ナトリウム、ニオブ酸カリウム、ニオブ酸リチウム等、及びこれらの混晶系、下記一般式(PX)で表される組成を有するペロブスカイト型酸化物(不可避不純物を含んでもよい)等が挙げられる。
(Bi,A1−x)(B,C1−y)O・・・(PX)
(式(PX)中、AはPb以外の平均イオン価数が2価のAサイト元素、Bは平均イオン価数が3価のBサイト元素,Cは平均イオン価数が3価より大きいBサイト元素であり、A,BおよびCは各々1種又は複数種の金属元素である。Oは酸素。B及びCは互いに異なる組成である。0.6≦x≦1.0、x−0.2≦y≦x。Aサイト元素の総モル数及びBサイト元素の総モル数の、酸素原子のモル数に対する比は、それぞれ1:3が標準であるが、ペロブスカイト構造を取り得る範囲内で1:3からずれてもよい。)
【0040】
一方、残留分極値が高くても、比誘電率が大きくなるとその発電量は小さくなる。したがって、厚み方向に平行となる分極軸は、分極処理した際の誘電率が最も小さくなる分極軸であることが好ましい。
【0041】
強誘電体粒子が、残留分極値が大きくかつ比誘電率が小さくなる分極軸が厚み方向に対して略平行に揃うように配向されていることにより、表面電荷密度が高く、かつ誘電率の小さなコンポジット層とすることができる。
【0042】
強誘電体において、残留分極値が大きく、かつ比誘電率が小さい分極軸は、例えば、ペロブスカイト構造では、正方晶では<001>方向(c軸)、斜方晶では<110>方向、菱面体では<111>方向である。
例えば、PZT等のペロブスカイト型酸化物のc軸配向においては、残留分極値が10μC/cm以上であり、且つ、比誘電率が400以下、好ましくは200未満とすることができ、好ましい。
【0043】
強誘電体粒子の粒径としては、100nm〜10μm程度であることが好ましい。ここで、粒径は粒子の最大長とする。
粒径が小さくなるとその強誘電性が低下することから粒径は100nm以上であることが好ましい。一方、粒径が大きくなりすぎると、誘電エラストマーの伸縮に追随できず、剥離が生じる恐れがあるため、粒径は10μm以下であることが好ましい。
強誘電体粒子は粒状であればその形状に特段の制限はなく、球状、板状、ウィスカー状いかなる形状であってもよい。
【0044】
強誘電体粒子を誘電エラストマー中で配向分散させる方法としては、例えば、以下の方法がある。
c軸配向した結晶(正方晶ペロブスカイト構造)からなる板状の強誘電体粒子(c軸が板の厚み方向)を、誘電エラストマー中に分散させた状態で、電極上に塗布して硬化させることにより、板状粒子の厚み方向が電極の面に垂直となるように配列させることができる。
【0045】
また、結晶配向性を有する強誘電体粒子を誘電エラストマーに分散させ、電極上に塗布した後、誘電エラストマーが完全に硬化していない半硬化状態で、分極処理を施すと、強誘電体粒子の自発分極の向きが電界の向きに揃うように、強誘電体粒子が動くため、エラストマー中において粒子を配向させることができる。
【0046】
コンポジット層の強誘電体粒子の分極方法としては、特に制限されず、通常の電極による分極方法のほか、コロナ放電処理等を挙げることができる。脱分極による特性劣化を防止する観点からは、強誘電体の抗電界値は高い方が好ましい。耐熱性の観点および脱分極による特性劣化の観点から、キュリー温度は高い方が好ましい。
【0047】
下部電極21および上部電極22は、コンポジット層12の伸縮に応じて伸縮でき、コンポジットの変化に追随できる導電材料からなるものであれば、特に制限はない。
【0048】
具体的には、シリコン系、変成シリコン系、アクリル系、ポリクロ路プレン系、ポリサルファイド系、ポリウレタン系、ポリイソブチル系などのベースゴムに、導電性フィラーが添加された導電材料が挙げられる。
導電性フィラーとしては、炭素繊維、カーボンナノファイバー(CNF)、カーボンナノチューブ(CNT)、あるいは導電性カーボンブラックの1種であるケッチェンブラックやアセチレンブラックまたは黒鉛などの炭素材料、または金、銀、白金などの金属材料が好適である。
【0049】
下部電極21と上部電極22の厚みは特に制限なく、両電極間の電位差の変化により発生した電流を取り出すに充分な導電性を有するための最低の厚みがあればよい。その厚みは電極材料の導電率や発電素子1全体の大きさによって決めることができ、例えば、自然状態で1〜1000μmであることが好ましい。
【0050】
静電容量変化型の発電素子1は、以上のように構成されている。
【0051】
発電素子1は、上記構成を有していればその製造方法は特に限定されない
【0052】
発電素子1は、コンポジット層として、強誘電体粒子11を含むものを用い、かつこの強誘電体粒子11として、結晶配向性を有するものを用い、誘電エラストマー中において多数の粒子の分極軸が揃う方向に配向分散されている。さらに、この分極軸は、比誘電率が最も小さくなる分極軸であり、厚み方向に略平行となるように配向している。かかる構成によれば、非常に大きな表面電荷密度を有するのみならず、低い誘電率を有するため、より大きな発電特性を得ることができる。また、誘電エラストマーは、一般にそのヤング率が数MPa〜数十MPaであり、外力により大きく変形するため、大きな発電量を得ることができる。さらには、コンポジット層12の伸縮に応じて伸縮でき、コンポジットの変化に追随できる導電材料からなる電極を用いることにより、誘電エラストマーの変形を阻害することなく、大きな発電量を達成しうる。
【0053】
一方、[背景技術]において述べた特許文献4においては、合成樹脂はエポキシ樹脂が用いられており、このヤング率は2〜5GPaと非常に大きい。また、導電性繊維は一般に伸縮性が大きくない。そのため、特許文献4に記載の複合材料では十分に大きな変形量を得ることができず、大きな発電量が得られなかったものと考えられる。
また、強誘電体として、ペロブスカイト型酸化物等の無機材料を用いた構成では、樹脂材料に比して高い耐熱性を有し、且つ、発電効率の高い発電素子1とすることができる。
【0054】
「設計変更」
本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、発明の要旨を変更しない限りにおいて、種々変更することが可能である。
例えば、複数の細片状の素子を一基板上に複数配置し、それらを直列あるいは並列接続して発電量を向上させた発電装置を構成してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明の発電素子は、波力、水力、風力などの自然エネルギーによる発電をはじめ、靴や床に埋め込まれ人の歩行による発電、自動車のタイヤ等に埋め込まれ自動車の走行による発電などに利用可能である。
【符号の説明】
【0056】
1 静電容量変化型発電素子
10 誘電エラストマー
11 強誘電体粒子
12 コンポジット層
21 下部電極
22 対向電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
静電容量変化型の発電素子であって、
誘電エラストマー中に複数の強誘電体粒子が分散されてなるコンポジット層と、
該コンポジット層の上下に配された一対の電極であって、該コンポジット層の伸縮に応じて伸縮する一対の電極とを備え、
前記強誘電体粒子が、結晶配向性を有すると共に、前記複数の強誘電体粒子の分極軸が揃うように前記誘電エラストマー中に配向分散されており、かつ、前記コンポジット層の層厚方向に分極していることを特徴とする発電素子。
【請求項2】
前記強誘電体粒子の比誘電率が最小となる分極軸が、前記層厚方向に略平行に配向していることを特徴とする請求項1記載の発電素子。
【請求項3】
前記強誘電体粒子の前記分極方向における比誘電率が200未満であることを特徴とする請求項1または2記載の発電素子。
【請求項4】
前記強誘電体粒子の粒径が100nm〜10μmであることを特徴とする請求項1から3いずれか1項記載の発電素子。
【請求項5】
前記誘電エラストマーのヤング率が100MPa以下であることを特徴とする請求項1から4いずれか1項記載の発電素子。
【請求項6】
前記強誘電体粒子の結晶構造がペロブスカイト構造、ビスマス層状構造、タングステンブロンズ構造のいずれかであることを特徴とする請求項1から5いずれか1項記載の発電素子。
【請求項7】
前記強誘電体粒子が、鉛を含まないペロブスカイト型酸化物を主成分とすることを特徴とする請求項1から6いずれか1項記載の発電素子。

【図1】
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【図2】
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