説明

静電微粒化装置

【課題】
静電微粒化装置において、液体により多くの電荷を与え、微粒化特性を改善する。
【解決手段】
誘電体である液体Lに高圧の電荷を印加して、液体Lを微粒化する静電微粒化装置10において、電荷を印加する電極14の先端の上流の直前で、液体Lが偏流するよう液体流路内19を設け、液体流路19内に一様に分散している気泡、特に粗大な気泡B1を、偏流により発生した遠心力により、電極14の先端から遠ざけるように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体の内部に混入、又は発生した気泡による微粒化特性の悪化を防いだ静電微粒化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
これまで、自動車などの駆動系において、効率良く潤滑するために、加圧された液体の加速を利用したノズルなどの噴射器を利用して潤滑油を霧状に噴射し、潤滑してきた。また、こうした噴射器は発電などの蒸気タービンなどにも使用されている。しかし、ノズル中の液体の加速のみによる微粒化では液滴径が大きく粒径も不均一で、大きな湿り損失を伴うなどの問題があった。そこで液体に電荷を与えることで微粒化する静電微粒化現象を利用したノズルなどを開発してきた。
【0003】
この静電微粒化現象とは、高電圧を印加した細管より液体を流出させると、細管先端において液体は強い電気力を受けて微粒化する現象のことである。その原理は、液体の表面張力によって細管先端に形成した液体メニスカスが電荷の付加により不安定化し、分裂へと至り、そして分裂した液滴が帯電により相互に反発し合う性質を持つため、空間的に一様に分散した霧状の液体を形成するものである。この場合より多くの電荷を液体に伝えることができれば、微粒化性能は向上する。
【0004】
多量の液体を連続して微粒化するための従来技術の静電微粒化装置を、図7に示す。この静電微粒化装置100は噴射孔103を有した筐体101と、液体Lの移送路102と
針状の電極104とで構成され、移送路102と筐体101を連通し、電極104を筐体101に挿設する。電極104の先端が噴射孔103の付近になるように設け、また、電極104の先端以外のところから電荷が漏れないように、先端以外を絶縁体105が覆っている。移送路102から筐体101の内部の貯留上部113、流路112、貯留下部111を順次通って噴射孔103までが液体流路109である。
【0005】
針状の電極104は筐体101の噴射口103付近に向け高い電圧を印加する。液体Lは電極104から放出された電荷を受け取る。電荷は誘電体である液体L中に非常に微細
な真空の粒子を形成し、その表面に乗って電荷が移動する。そして粒子の表面に移動した電荷が相互に反発し合うことで、液体Lは微粒化する。
【0006】
実用装置においては、多くの電荷を液体に伝えることができれば微粒化性能が向上する。しかし液体内には気泡が存在する。特に粗大な気泡やキャビテーション(以下合わせて粗大な気泡という)が電極先端付近を通過すると、液体に電荷を与える性能が低下してしまい、微粒化特性が悪化する。
【0007】
そこで液体内部の気泡を除く方法が行われてきた。多孔質セラミックなどで液体流路を構成し、毛細管現象を利用して噴出孔に液体を移送するため、電極付近に粗大な気泡を送ることがない静電霧化装置がある(例えば特許文献1参照)。しかし、この装置で使用されている多孔質セラミックなどの材料は比較的高価であり、コストが大幅に掛かってしまうという問題がある。
【0008】
また、噴射孔となるノズルが液体の貯留部に対して、上方に垂直から傾斜をもって設けられ、貯留部上方に気泡が溜まるよう構成された静電噴霧装置がある(例えば特許文献2参照)。しかし、部品点数が多く、装置が複雑なため、コストが掛かるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2007−29812号公報
【特許文献2】特開2009−172491号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記の問題を鑑みてなされたものであり、その目的は、粗大な気泡が電極先端の針先近傍を通過するのを防止でき、その結果、微粒化性能を向上させ、安定した微粒化特性を維持できる静電微粒化装置を提供することにある。また、従来よりも簡単な構造で、製造コストを抑えることができる静電微粒化装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
1)上記の目的を達成するための本発明の静電微粒化装置は、液体に電化を与えて、噴射口から噴霧する静電微粒化装置において、液体に電荷を与える電極よりも上流側の直前に、内部を流れる液体が偏流する液体流路を設けて構成される。
【0012】
この構成によれば、電極に到達する直前に液体に偏流を起こすことにより、液体内部の粗大な気泡の密度が低い部分ができる。よって、電極の先端付近の気泡の密度が低下するため、液体に電荷を与える性能が低下することなく、微粒化特性の悪化を防ぐ静電微粒化装置を提供することができる。
【0013】
2)また上記の目的を達成するための本発明の静電微粒化装置は、液体の偏流により発生した前記液体流路内の気泡密度の低い部分に、前記電極の先端を設けて構成される。
【0014】
この構成によれば、粗大な気泡が少ない流路に液体に電荷を与える電極の先端を設けるため、液体に電荷を与える性能は低下することがない。
【0015】
また、気泡を電極先端から遠ざける構成のため、気泡が多く混入する液体を噴霧する際にも利用することができる。
【0016】
3)さらに上記の静電微粒化装置において、噴射口に連通する流体流路の内部に流体に電荷を与える電極を挿設すると共に、前記電極の上流側の直前で曲げた液体流路を設けて構成すると、この構成により、液体流路が電極の直前で強く曲げられているため、密度の低い粗大な気泡は遠心力により曲がりの内側に集中する。そのため電極の先端付近の気泡の密度が低下し、微粒化性能を向上することができる。
【0017】
本来気泡は液体流路内部に一様に分散している。そこで、液体を偏流させることにより、液体内に遠心力が発生する。液体と液体内部の気泡では密度が異なるため、密度の高い液体が外側に、密度の低い粗大な気泡が内側に移動する。これを利用すれば電極先端付近から粗大な気泡を遠ざけることができる。
【0018】
なお、微細な気泡(粗大な気泡に比べ小さい気泡、針先と同程度の大きさの気泡)は流体の粘性の影響を強く受けるため、遠心力の影響を受けて液体流路内を移動することはない。しかし、微細な気泡が針先に次々と付着、離脱を繰り返すような条件においては、液体表面に電荷が集まり、多くの電荷を液体へ与えることができるため、針先近傍を通過しても微粒化特性が悪化しない。
【0019】
この構成によれば、電極の上流の直前に流体流路を曲げるだけで、微粒化性能を向上さ
せる効果があるため、静電微粒化装置のコストを抑えることができる。
【0020】
4)あるいは、上記の静電微粒化装置において、前記液体流路に旋回流を発生する流路で形成すると、この構成により、旋回流によって液体流路に遠心力が起こり、粗大な気泡は旋回流の回転の軸に集まる。
【0021】
旋回流とは流体が流れ方向に平行なある軸を中心として回転しながら流れる流れであり、すなわち液体流路は噴出孔を回転の軸とした、噴出孔に向かう流れとなる。旋回流の回転の軸より外側では、気泡の密度が低下し、電極はより高い電荷を液体に与えることができる。
【0022】
なお遠心力発生用流路は噴射孔に向かう旋回流を発生させることができるものであればよい。また電極の先端を旋回流の回転軸以外に設ければよい。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、電極先端付近に存在すると液体に電荷を与える性能を下げる、つまり微粒化特性を悪化させる気泡(特に粗大な気泡)の密度を電極先端付近で低くすることができ、静電微粒化装置の微粒化性能を向上することができる。また、電極先端を通過する気泡等の特性を制御することで、より高い電荷を液体に与えることができるため、静電微粒化の特性が改善され、生成粒子の微細化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明に係る第1の形態の静電微粒化装置を示した断面図である。
【図2】本発明に係る第1の形態の静電微粒化装置の動作状況を示した断面図である。
【図3】本発明に係る第2の形態の静電微粒化装置を示した断面図である。
【図4】本発明に係る第3の形態の静電微粒化装置を示した断面図である。
【図5】本発明に係る第3の形態の静電微粒化装置を示した図4のV―Vの断面図である。
【図6】本発明に係る第3の形態の静電微粒化装置の動作状況を示した断面図である。
【図7】従来技術の静電微粒化装置を示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明に係る実施の形態の静電微粒化装置について、図面を参照しながら説明する。
【0026】
図1に示す、本発明の第1の実施形態において、静電微粒化装置10は移送管12と筐
体11と噴射孔13と電極14と絶縁体15とで構成し、移送管12から筐体11内部を通って、噴射孔13に液体Lを移送する通路が液体流路19である。その液体流路19の
液体流線に直角になるように、電極14を挿設する。液体流路19は挿設された電極14の先端がある直前で強く曲げられた液体Lの流路となっている。
【0027】
移送管12は潤滑油などを汲み上げ、加圧し、放出するポンプ(図示せず)と繋がれた移送管12は、液体Lの移送通路となる。ノズルボディとなる筐体11には液体Lを噴射するための噴射孔13を設けている。また、筐体11は電機伝導体で形成する。先端が針状に形成された電極14は、高圧電源部106と接続され、電荷を放出する。また、電極14が設けられる場所はその先端が液体流路19内になり、液体流路19の曲がりの下流の外側である。絶縁体15は、電極14の先端以外から筐体11へ、もしくは筐体11内部を流れる液体Lへと電荷が流れることを防止するため、電極14の先端以外を覆っている
。また、筐体11にアース線108を設置することで、電極14で放電が起きても、安全に装置を使用できるようになる。
【0028】
静電微粒化により液体を微粒化するため、噴射孔13の孔径は圧力噴射弁などの噴射孔径よりも比較的大きくできる。絶縁体15の材料としてプラスチック、セラミック、雲母、などの絶縁物質を用いるが、電極14の覆っているところから電荷が他に漏れないようなものであればよい。ここではテフロン(登録商標)を用いる。電極14は液体に高電圧の電荷を与えることができるようなものであればよく、高圧電源部106は数kV程度の
電圧で、1mA以下の電流を出力できるものであればよい。液体流路19は筐体11を形成してもよいが、筐体11にベンド(通常曲がりが90度の異形管)を埋め込んでもよい。
【0029】
実際に図2に示すように、液体Lを本発明の静電微粒化装置を用いて噴霧する方法を述
べる。
【0030】
ポンプ(図示せず)などにより、充分な圧力を伴った液体Lを筐体11内部に形成され
た液体流路19に移送管12で移送する。この移送される液体Lには粗大な気泡B1と微
小な気泡B2が多数混入している。
【0031】
液体Lは液体流路19に従って、噴射孔13まで導かれる。噴射孔13の手前に設けられた電極14の先端を通過する直前に液体流路19は強く曲げられており、そのため、液体Lも曲がって液体流路19を流れる。そして、発生した遠心力によって、液体L内部に
混入されている粗大な気泡B1は液体L内部を移動する。
【0032】
液体流路19の曲がりは遠心力が発生すればよいので、90度以下でも同様の効果を得ることができるが、分級効果をより高めたいときには液体流路19の曲がりを90度よりも大きくしてもよい。
【0033】
粗大な気泡B1は液体Lに対して密度が低いため液体Lが外側に、粗大な気泡B1は内側へと移動する。ここで液体流路19は粗大な気泡B1の密度が高い流路と粗大な気泡B1の密度が低い流路とに分かれる。
【0034】
微細な気泡B2は流体の粘性の影響を強く受けるため、液体流路19の内側へ移動しない。
【0035】
粗大な気泡B1の密度が低い流路側に設けられた電極14の先端から、電荷を放出する。このときの電極14で起きる放電は正極性放電が好ましい。液体Lは誘電体のため、電極14から放出された電荷を受け取り、保持したまま流れ、噴出孔13から外部へと噴射される。電荷は誘電体中に非常に微細な真空の粒子を形成する。これにより、液体Lは微細化され、霧状に噴射される。
【0036】
液体に加えられる圧力は液体を静電微粒化装置10に圧送するのに必要な分だけでよく、圧力噴射弁に比べると液体に加える圧力を低くすることができる。
【0037】
図3に示す、本発明に係る第2の実施の形態では、前述した第1の実施の形態で、液体流路19の粗大な気泡B1の密度が低い流路に挿設されていた電極14を液体流路19の液体流線に対して並行に挿設したものである。電極14を並行に挿設しても、直角に挿設した場合と同様の効果をもつ。
【0038】
図4に示す、本発明に係る第3の実施の形態では、移送管32と筐体31と電極34と
で構成する。筐体31は内部に貯留部36と旋回流発生路38と旋回部37を設ける。貯留部36は移送管32と連通しており、ポンプ(図示せず)によって放出された液体Lが移送管32より流れ込む。貯留部36に流れ込んだ液体Lを旋回部37へ旋回流発生路38が移送する。
【0039】
貯留部36と旋回部37を繋ぐ移送路である旋回流発生路38は、筒状に形成した移送管である。また図5で示すように、旋回流発生路38は貯留部36からの液体Lの入り口
となる流入口51と旋回部37への液体Lの出口となる放出口52とそれらを繋ぐ流路5
3とで構成された移送管である。流路53は静電微粒化装置30を側面から見て垂直から斜めに傾いている。よって図5で示すように流入口51と放出口52は矢印方向にずれている。
【0040】
筐体31内部に環状に等間隔で設けられた旋回流発生路38が傾きをもって貯留部36と旋回部37を繋いでいるため、液体Lは旋回部37に流れたとき旋回流となる。流入口51から放出口52へ向かう方向が旋回流の回転方向となる。よって、旋回流は旋回部37の中心を回転軸とし、噴射孔33に向かった流れとなる。
【0041】
この発生した旋回流によって液体Lに遠心力が発生する。その遠心力によって液体Lに混入した粗大な気泡B1は旋回流の回転軸へ移動する。回転の軸に粗大な気泡B1が移動することによって、旋回部37に粗大な気泡B1の密度が高い部分と、低い部分ができる。その粗大な気泡B1の密度の低い部分に電極34を設けて、液体Lに電荷を与える。噴
射孔33から電荷を与えられた液体Lを噴射する。
【0042】
本発明に係る第3の実施例における、旋回流の発生装置を説明したが、説明した装置に限らず、電極34の直前に液体Lに旋回流を起こさせるものであればよい。例えば筐体31を旋回部37のみで形成し、そこに移送管32を連設し、筐体31に噴射孔33を設け、電極34を噴射孔33の付近に設け、移送管32を液体Lが筐体31に対して直角もしくはそれに近い角度で流れ込むように設けることにより、液体Lに旋回流を発生させる装置などがある。
【0043】
本発明に係る実施の形態の静電微粒化装置10、20、30は自動車などの内燃機関や駆動系機器に用いることができる。また、地熱、排熱の利用などで検討されている、気水比の小さな二相流を用いたトータルフロータービンなどにも利用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明の静電微粒化装置は、高い電荷を液体に与えることができるため、静電微粒化の特性が改善され、生成粒子をさらに微細化することができるため、自動車などの潤滑装置のノズルに適用できる。
【符号の説明】
【0045】
10、20、30 静電微粒化装置
11、21、31 筐体(ノズルボディ)
12、22、32 移送管
13、23、33 噴射孔
14、24、34 電極
19、29、39 液体流路
B1 粗大な気泡(キャビテーションを含む)
B2 微細な気泡

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体に電化を与えて、噴射口から噴霧する静電微粒化装置において、液体に電荷を与える電極よりも上流側の直前に、内部を流れる液体が偏流する液体流路を設けたことを特徴とする静電微粒子化装置。
【請求項2】
液体の偏流により発生した前記液体流路内の気泡密度の低い部分に、前記電極の先端を設けたことを特徴とする請求項1記載の静電微粒化装置。
【請求項3】
噴射口に連通する流体流路の内部に流体に電荷を与える電極を挿設すると共に、前記電極の上流側の直前で曲げた液体流路を設けたことを特徴とする請求項1又は2記載の静電微粒子化装置。
【請求項4】
前記液体流路に旋回流を発生する流路で形成したことを特徴とする請求項1又は2記載の静電微粒子化装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2012−125689(P2012−125689A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−278893(P2010−278893)
【出願日】平成22年12月15日(2010.12.15)
【出願人】(000000170)いすゞ自動車株式会社 (1,721)
【Fターム(参考)】