説明

静電植毛素材および該素材を備える運動用具

【課題】 パイルの脱毛を防止するためのコーティング剤を使用しつつ摩擦性能を確保すること。
【解決手段】 静電植毛パイルの繊維先端部を、その外周面が角部(丸みをもたない外縁形状)を呈する硬質樹脂によって被覆する。具体的には、弾性樹脂を用いて成形した基材の表面に接着剤を塗布して静電植毛を行いこの基材を表面コーティング剤溶液に浸漬してから引き上げ、表面に付着したコーティング剤をブラシングすることによってコーティング剤の塗布肉厚量を均一に均してから、該コーティング剤を吸水性生地によって拭き取ることによって形成する。

【考案の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本考案は摩擦防止用の静電植毛素材に係り、特にゴルフクラブ等のグリップ性能を高めるための素材技術に関する。
【0002】
【従来の技術】
ゴルフクラブやテニスラケットのような運動具、ハンマー等の工具類の把持グリップは、使用時の汗や脂のための滑り止めが必要である。以下、最も使用条件の厳しいゴルフクラブを以って説明を行う。ゴルフクラブは、わずかな滑りでもスコア結果が大きく異なってくるからである。ハンマー等の工具類は本考案を適用可能とはいえ、ゴルフクラブに要求される厳しさはない。ゴルフクラブ以外の運動用具グリップや工具類は、使いやすさや疲労感の軽減のために滑りが少ない方が望ましいという程度であるが、もちろん本考案の適用を妨げない。
【0003】
従来ゴルフクラブのグリップに適用される滑り止め技術としては、把持グリップに配するゴムまたは合成樹脂のカバー材に多数の凹凸を設けたものが知られている(特開平6−205861号)。多数の微小凹凸により、摩擦係数を高めて特に雨天時における滑り止め効果を高めたものである。また繊維素材を編み込んでグリップに配する技術がある(特開平6−57601号)。これはポリウレタン弾性糸でループ編目を構成し、伸縮性に富む滑り止め部材を提供するものである。
【0004】
しかしグリップのゴムカバー材に凹凸を設ける方式では、雨滴や汗によってグリップが濡れると凹凸があっても滑りやすくなり、しかもベタつくなどの理由によって理想的スイングを困難にする。このため一般にはグリップを素手で持つことを嫌いグローブ(手袋)を使用する。しかしグローブを使用しない素手の方が握りの感触がよいことはいうまでもない。
【0005】
そこで本考案者は、グリップを握ったときの感触を向上させ、雨や汗による滑りを確実に防止するため、基板に弾性ゴムを用いた静電植毛技術を提案した(特願平7−39304号)。基礎シートにゴムを使用するためタッチが柔らかく、しかも静電植毛したパイル(微細繊維)が手の平と点接触するため、摩擦係数は格段に向上する。
【0006】
しかしゴルフグリップには厳しい外力が加わるため、数千回のショットを繰り返すうちに植毛パイルが脱落する等、改良の余地が残った。
【0007】
【考案が解決しようとする課題】
そこで最も簡単な改良策として、表面にコーティング剤をスプレー塗布し、植毛パイルの剥離脱落を防止することが試みられた。
【0008】
実際、この方法によれば植毛パイルの脱毛確率は確実に防止できた。しかしながらグリップを手で触ったときの感触が柔らかくなりすぎ、どちらかといえば滑る感触が増加してしまう。
【0009】
その理由を検討した結果つぎのようなことが判明した。すなわち図10に示すように、コーティング材を表面からスプレーすると、当該コーティング材はパイル内部に達せず、植毛パイル1の先端に丸みを帯びたコーティング剤2が固化して残る。このため先端部に残留した樹脂の丸みが滑るような感触を与えるわけである。
【0010】
しかもスプレーで吹き付けるコーティング剤2は、植毛パイル1を植えているゴム基板3まで十分に達しないことも判った。パイル1は10〜30デニールという微細繊維であり、これが密に植毛されているため、繊維の間の微小空隙4にはコーティング剤粒子が入り込めないからである。この結果、せっかくスプレーコーティングしてもパイル1の基端部は元のままであり、脱毛防止にも好ましい成果をみなかった。尚、植毛面にスプレーを近づけて無理に吹き付けると基部にまで樹脂をコーティング出来るが、このようにするとパイル先端面から樹脂が含浸し固化してしまうので、植毛の意味が失われてしまう。
【0011】
そこで本考案は、パイルの脱毛を防止するためのコーティング剤を使用しつつ摩擦性能を確保することを目的とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】
前記課題を達成するため本考案は、以下の構成をとる。
■ 静電植毛パイルの繊維先端部を、その外周面が角部(丸みをもたない外縁 形状)を呈する硬質樹脂によって被覆する。
■ この場合の静電植毛素材は、より具体的には、弾性樹脂を用いて成形した 基材の表面に接着剤を塗布して静電植毛を行い、この基材を表面コーティン グ剤溶液に浸漬してから引き上げ、表面に付着したコーティング剤をブラシ ングすることによってコーティング剤の塗布肉厚量を均一に均してから、該 コーティング剤を吸水性生地によって拭き取ることによって形成する。
■ このように形成した静電植毛素材は、適当な大きさに切断し、または予め テープ状に成形してグリップに貼着するか、あるいはグリップ形状に応じて 予め成形したゴム生地に静電植毛を施して運動用具に適用する。
【0013】
【作用】
本考案に係る静電植毛素材は、静電植毛パイルの繊維先端部を、その外周面が角を呈する硬質樹脂によって被覆する。パイル先端が鋭角な硬質樹脂によって被覆されることにより、手で触ったときの感触は、ざらつきを感じる極めて摩擦性能の高い素材となる。パイル先端を被覆する硬質樹脂はコーティング剤であり、本来の丸みを除去したものであるから皮膚に傷を与えるような危険はない。
【0014】
具体的には、静電植毛素材は次のように構成する。
本考案に係る静電植毛素材の摩擦特性は、パイル表面に塗布するコーティング剤の丸みを解消し角度をもたせることによってはじめて生ずる。植毛素材をコーティング剤溶液に浸漬することによって植毛パイルの間の微小空隙にコーティング溶液が入り込むが、これだけではコーティング剤に角度をもたせることは出来ない。ブラシングによりパイル先端に付着したコーティング剤の肉厚を一定に均すことによって、パイルの隙間にコーティング剤が均一に充填される。この課程を経ずに溶液を吸い取っても、付着剤の凹凸によってパイル先端に余分な樹脂が残存して、きれいな角張りをもった被覆樹脂を残すことが出来ない。一方、表面コーティングを均一に揃えた上で、吸水生地を当てがって溶液を吸い取ると、パイル先端部に残るコーティング剤は丸みをもたず、均整のとれた角張った形状を呈してあらわれる。これは、表面樹脂が吸収されるときにパイル先端に吸いきれない樹脂を残して角部を形成するためであると考えられる。
【0015】
このような静電植毛技術は、運動用具、とくにゴルフやテニスなど滑りの条件が結果に厳しく反映される把持グリップ部分に適用されることが最も望ましい。
雨天でグローブをはめなくても、力を入れたときにまったく滑らないグリップがあり、しかも手に持った感触がソフトであれば、従来の運動用具グリップとは別の品質特性を得ることが出来るからである。
【0016】
【実施例】
以下、添付図面に基づいて本考案の実施例を説明する。
図1は、本考案に係る静電植毛素材の成形順序の一例を示すものである。尚、本実施例においてはコーティング剤の残存部位を明確にするため、必要に応じて符号を変更した。
【0017】
まず本考案を適用すべき静電植毛生地を作る(S−1)。この生地は通常みられる一般的な静電植毛素材と異なり、ゴム等の弾性樹脂をベースにして、そこに静電植毛を施すものである。ゴムマットのような伸縮自在の生地に、普通に静電植毛を行うと生地の伸縮によって脱毛を生ずるため、本考案者は先にかかる問題を解決するための手段を提案した(特願平7−39304号)。尚、この部分の技術は本考案の主題とは直接の関係はないので、最後段において別途述べる。
【0018】
次に、静電植毛を施した生地を乾燥させ接着剤を定着させてから、水洗いする(S−2)。余分なパイルやゴミを除去するためである。
【0019】
次いで生地全体を、コーティング剤にディッピングする(S−3)。パイル表面全体に樹脂溶液を十分塗布するためである。尚、コーティング剤としては例えば、塩化ビニル用接着剤、とくにウレタン系樹脂のものが望ましい。
【0020】
そして、すぐに生地を溶液から引き上げ、パイル表面全体を手でしごく(S−4)。これにより、図2に示すようにパイル10の隙間にコーイティング剤12が入り込む。
【0021】
次に、パイル表面にブラシングを施す(S−5)。これにより、図3に示すようにパイル表面に残っているコーイティング剤15の厚みが、ほぼ均一に均される。この処理は極めて重要であり、例えば図2のようにパイル表面にコーイティング剤の凹凸16があると、最終的にパイル10の先端に角を呈する形状で樹脂が残ってくれない(図2bの状態となる)。
【0022】
ブラシング後、生地表面を吸水性のあるもの、例えば布タオル等によって拭き取る(S−6)。これにより、図4に示すように、パイル10の隙間に入り込んでいたコーティング剤が吸い上げられ、パイル10の基端部と先端部とに、それぞれコーティング剤17,18が取り残される。パイル先端の樹脂18の形状は概念的には(b)に示すように多数の角張りを持っており、この形状は拡大鏡を使用して視認することが可能である。尚、図5に示すような略円筒形の生地31を拭き取る場合には、タオル32の上で転がすように拭き取ると良好な結果を得る。その場合には、把手71をもった半円筒形の器材70を使用すると効率が良い。
【0023】
基端部に残る樹脂17は、パイル10の根元を押さえて脱毛を防ぎ、しかも根元だけに残るためパイル10の自由な動きを規制しない。一方、先端に残る樹脂18は、タオルによる溶剤の吸い上げ時に角をもった形状として残る。角の形状や角度は必ずしも一定ではないが、丸みをもった形としては残らない。
【0024】
以上の処理によって本考案の目的であるパイル先端に角のある樹脂18を残すことが出来る。この後、生地を乾燥させて樹脂17,18を固化させ、完成品を得る(S−7,S−8)。尚、表面の拭き取り後、必要に応じてパイル表面にコーティングスプレーを施しても良い(S−9)。このスプレー処理については後述する。
【0025】
以上のようなステップにより、図4に示すようにパイル10の先端部には角をもった樹脂18が残存固化する。従って、この生地20を適宜切断して運動用具や工具類のグリップに配したときには、以下のような効果を得る。
■ 雨や汗でグリップが濡れても滑らない 本考案者が先に提案した静電植毛素材は、パイル密度を高めることによっ て滑りを防止したが、パイル先端に角をもった樹脂18を残すことによりパ イル密度を多少低減させても、高い防滑効果を得る。
■ 激しいスイングの繰り返しをしてもパイル10が脱落しない パイル10の基端部に樹脂17が残るため、激しいスイングによってパイ ル先端が前後左右に動いてもパイル10の根元はしっかりと固定されたまま となっているからである。
■ パイルの転倒防止 また同じ理由で、パイル10の転倒が防止され、防滑効果を長期間保証でき る。パイルの根元がしっかり固定されていないとパイルが横倒しになって滑 りやすくなるが、基端部の樹脂17によりパイル10は長期にわたって直立 状態を保つ。
【0026】
尚、前記実施例では、溶剤にディッピングした後、手でしごいた(S−4)。
この過程はパイルの隙間に接着剤を入り込ませるためであるが、溶剤をパイルになじませる手段は、勿論これに限らない。例えば次段ステップ(S−5)でブラシングを行うが、ブラシングの接地圧力や移動(回転)速度、使用ブラシの繊維の太さ等の条件がパイル10の植毛密度等に合致すれば、ブラシングだけで塗り込みが出来る。ディッピング後、直ちにブラシングを行い、塗り込みと均整処理を同時に行うことが出来るわけである。また溶剤をパイルになじませるには、回転ローラ等の加圧手段によって代替することも可能である。図7にステップ(S−4)を省略した行程を、図8に回転ローラを使用するステップ(S−4b)を示す。これらの処理方式によれば一連の過程をすべて自動処理することが可能となる。
【0027】
また、表面の溶剤を拭き取った後、コーティング剤をスプレーしても良い(S−9)。このように最終段でスプレーを施すと図6に示すように一部のパイルの先端に丸みをもった樹脂19が付着形成され、手でふれたときの感触を柔らかくすることが出来るからである。この場合のスプレー樹脂は、最初に施したコーティング樹脂よりもっと柔らかい樹脂を微量塗布する程度で十分である。最終的なほんの少しのスプレー塗布により、皮膚の弱いひとが使用するグリップや微妙なタッチが要求される把持部など、用途をさらに拡大することが出来る。
【0028】
使用するパイルは特に限定されないが、例えば繊維断面径を10〜30デニールとし、繊維長を0.3〜0.8ミリメートルの範囲のものを使用することが望ましい。また植毛パイルと混合するかたちでケミカルパウダーを使用すると、生地の表面全体にラメが分散されて表れる。金色、銀色のラメを散りばめることにより、ゴミやホコリ、汗や脂による汚れを目立たなくすることが出来る。
【0029】
最後に、ステップ(S−1)で述べた本考案を適用するための静電植毛生地の製法について説明する(図9参照)。
まずカバー材3の表面を回転ブラシ52によって磨き、接着剤の接着面積を増大させる(a)。回転ブラシ52は例えば鉄線ブラシを用いる。次に、磨いたカバー材3の表面にプライマーを塗布する。次にカバー材3の表面に接着剤を塗布する(b)。符号54は接着剤の噴出ノズルである。ここで使用する接着剤は、カバー材3をグリップに嵌装させたときの膨張を考慮して、弾性樹脂の伸びに追従できる接着剤を使用する。例えばポリエステル系ウレタン樹脂エマルジョン等である。
【0030】
次にカバー材3を電界中で回転させながら表面にパイル10を植毛する(c)
。符号56は材料となる短繊維(パイル)を入れたケース、57はこのケース56を振動させるバイブレータ、58はパイル10の落下を均等にさせるネットである。この方式はいわゆるダウン式である。通常は上下からパイル10を植毛するアップ・ダウン式が望ましいが、パイル一本当たりの重量が大きいと電界内で均等なパイル密度が作りにくくなるため、このようなダウン式が望ましい。尚、電界中に散布するパイルの密度を均等にさせる手段としては、必ずしもバイブレータを使用する必要はなく、例えばピンチローラ状の送出装置を使用して散布するパイル密度の均等を図っても良い。尚、パイル10の素材はとくに限定されない。例えばナイロン、ポリエステル、アクリル、ポリウレタンなどである。
【0031】
またパイルが短すぎるとザラついた感じが生まれ、パイルが長すぎると短繊維の撓みによって手がブレるような感触が生まれる。本考案に適用するパイル10は、繊維断面径を10〜30デニール、繊維長を0.3〜0.8ミリメートル程度である。カバー材3に対する植毛が終了した後は、ヒータ装置60によってカバー材3を乾燥し(d)、ノズル61からの冷風によって冷却し(e)、これを水槽62内でブラシングして、接着されなかった残余パイルを除去する(f)。
以上により本考案を適用する静電植毛生地を得る(g)。そしてこのようにして得た生地に対して、図1に示す(S−2)以降の処理を施す。
【0032】
【考案の効果】
以上説明したように本考案に係る静電植毛素材によれば、パイルの基端部に樹脂を固化させるので脱毛を確実に抑えることが出来るとともに、パイル先端部に角をもった樹脂を形成するので防滑効果を高めることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【図1】本考案に係る静電植毛素材の製造例を示すブロック図である。
【図2】(a)本考案に係るコーティング剤のディッピング状態を例示する図である。
(b)コーティング剤の拭き取りが不完全な状態を例示する図である。
【図3】図2(a)にブラシングをかけた状態を例示する図である。
【図4】(a)図3の状態からコーティング剤を拭き取った状態を例示する図である。
(b)パイル先端を拡大して示す図である。
【図5】円筒形の素材生地を拭き取る場合を例示する図である。
【図6】図4の状態に軽くコーティングスプレーを施した場合を例示する図である。
【図7】本考案に係る静電植毛生地の他の製造ステップを示すブロック図である。
【図8】本考案に係る静電植毛生地の第三の製造ステップ例を示すブロック図である。
【図9】ゴム生地に静電植毛を行う工程を例示する流れ図である。
【図10】静電植毛素材にコーティング剤をスプレーした場合を例示する図である。
【符号の説明】
10 パイル
12 コーイティング剤
15 パイル表面に残っているコーイティング剤
16 コーイティング剤の凹凸
17 パイル基端部のコーティング剤
18 パイル先端部のコーティング剤
31 円筒形の静電植毛生地
70 半円筒形の器材

【実用新案登録請求の範囲】
【請求項1】静電植毛パイルの繊維基端部に樹脂を固化させる一方、繊維先端部を、外周面に角をもつ樹脂によって被覆した静電植毛素材であって、当該静電植毛素材は、弾性樹脂を用いて成形した基材の表面に接着剤を塗布して静電植毛を行い、この基材を表面コーティング剤溶液に浸漬してから引き上げ、表面に付着したコーティング剤をブラシングすることによってコーティング剤の塗布肉厚量を均一に均してから、該コーティング剤を吸水性生地によって拭き取ることにより形成したことを特徴とする静電植毛素材。
【請求項2】グリップに静電植毛素材が装着され、当該静電植毛素材の繊維基端部に樹脂を固化させる一方、該静電植毛素材の繊維先端に、角部をなす硬質樹脂を固着させて被覆することを特徴とする運動用具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図10】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【登録番号】第3038631号
【登録日】平成9年(1997)4月9日
【発行日】平成9年(1997)6月24日
【考案の名称】静電植毛素材および該素材を備える運動用具
【国際特許分類】
【評価書の請求】未請求
【出願番号】実願平8−9236
【出願日】平成8年(1996)8月24日
【出願人】(395002559)株式会社ゼオン (1)