静電潜像の評価方法、静電潜像の評価装置および画像形成装置
【課題】 感光体試料の静電潜像形成能力を短時間に、高分解能で評価することができる静電潜像の評価方法、静電潜像の評価装置および画像形成装置を得る。
【解決手段】 感光体試料20に対して荷電粒子ビームを照射し得られる検出信号により感光体試料20の静電潜像を計測し評価する方法。真空内で感光体試料20に電子線を照射し帯電させる帯電工程と、帯電させた感光体試料20に光照射を行い除電を行う除電工程とを備え、帯電工程と除電工程を繰り返し感光体試料20を疲労させた後、帯電工程と除電工程とが行われた位置と同一の位置において感光体試料20に対して帯電し露光することで静電潜像パターンを形成し評価する。
【解決手段】 感光体試料20に対して荷電粒子ビームを照射し得られる検出信号により感光体試料20の静電潜像を計測し評価する方法。真空内で感光体試料20に電子線を照射し帯電させる帯電工程と、帯電させた感光体試料20に光照射を行い除電を行う除電工程とを備え、帯電工程と除電工程を繰り返し感光体試料20を疲労させた後、帯電工程と除電工程とが行われた位置と同一の位置において感光体試料20に対して帯電し露光することで静電潜像パターンを形成し評価する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電潜像の評価方法、静電潜像の評価装置および画像形成装置に関するもので、特に、感光体試料の静電潜像形成能力を短時間に、高分解能で評価することができるようにしたものである。
【背景技術】
【0002】
複写機やレーザプリンタといった電子写真方式画像形成装置において用いられる感光体の表面電位を計測する方法としては、電位分布を有する試料にセンサヘッドを近づけ、そのときの相互作用として起こる静電引力や誘導電流を計測し、これを電位分布に換算する方式がある。この方式による表面電位計測方法では、分解能が原理的に数ミリ程度と悪く、1μmというような高い分解能を得ることはできない。
また、LSIチップの評価として、電子ビームを用い、1μmオーダーの電位を計測する方法が知られている。しかし、この評価は、LSIの導電部に対する評価であり、電位は高々+5V程度の低電位であって電位が限定され、本発明が対象としている感光体試料における数百〜数千Vの負電荷に対応することはできない。
【0003】
電子ビームによる静電潜像の観察方法としては、特許文献1記載の発明などがある。評価対象となる試料としては、LSIチップや静電潜像を記憶・保持できる試料に限定されていて、暗減衰を生じる通常の感光体は、測定することができない。通常の誘電体は電荷を半永久的に保持することができるので、電荷分布を形成後、時間をかけて測定を行っても、測定結果に影響を与えることはない。しかしながら、感光体の場合は、抵抗値が無限大ではないので、電荷を長時間保持できず、暗減衰によって時間とともに表面電位が低下してしまう。感光体が電荷を保持できる時間は、暗室であってもせいぜい10〜60秒である。従って、帯電・露光後に電子顕微鏡(SEM)内で観察しようとしても、その準備段階で静電潜像は消失してしまう。潜像形成後、遅くても3秒以下で計測しなければならない。
【0004】
また、特許文献2に記載されているX線顕微鏡においては、使用波長が全く異なる上に、電子写真プロセスにおける帯電電位を−500〜−1000Vに設定することができず、電子写真方式画像形成装置の実機と同等の環境を再現して計測することができない。
そこで、本発明者は、暗減衰を有する感光体試料であっても静電潜像を測定することができる方式を発明して特許出願した(例えば、特許文献3、特許文献4、特許文献5、特許文献6参照)。
【0005】
ところで、一般的な感光体は、図5に示すように、基盤(Sub)21、下引き層(UL)22、電荷発生層(CGL)23、電荷輸送層(CTL)24から構成されている。UL22は基盤側からの電荷注入リークを防止する目的で設けられている。
この構成を有する感光体のうち、有機感光体(OPC)においては、出力画像枚数が増えるに従って感光体が疲労し、画像の乱れが発生するという問題がある。
【0006】
このような感光体の疲労による静電潜像への影響を評価することは、静電潜像の高画質化及び感光体の耐久性を向上させる上で重要である。
感光体の疲労による静電潜像への影響を評価する方法として、特許文献7に記載のOPCドラム試験装置のような疲労試験機を用い、振動容量方式で残留電荷による表面電位を計測することが知られている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、従来の振動容量方式による表面電位計測では、空間分解能が数mmに止まり、マクロ的な評価しかできない。残留電荷がマクロ的にしか把握できないと、高画質化への最適化設計をすることが難しいため、ミクロンスケールでの微視的状態を計測する必要がある。
このような場合、出力画像を用いることでミクロンスケールでの評価が可能となるが、転写、定着の工程を経なければならず評価に時間がかかる上、感光体単独での特性を評価することができない。
【0008】
また、従来の評価方法において、大気中で感光体の疲労試験を実施した後、真空装置内で観察しようとした場合、感光体の移動作業に所定の時間を要するが、この時間の経過とともに疲労が回復してしまうため、正当な評価をすることができない恐れがある。
【0009】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであって、感光体試料の静電潜像形成能力を短時間に高分解能で評価することができる静電潜像の評価方法、静電潜像の評価装置および画像形成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、表面電荷分布を有する感光体試料に対して荷電粒子ビームを照射することによって得られる検出信号により前記感光体試料の静電潜像を計測し評価する方法であって、真空内で前記感光体試料に電子線を照射して帯電させる帯電工程と、帯電させた前記感光体試料に対して光照射を行い除電を行う除電工程とを備え、前記帯電工程と前記除電工程を繰り返し行うことで前記感光体試料を疲労させた後、前記帯電工程と前記除電工程とが行われた位置と同一の位置において前記感光体試料に対して帯電し露光することにより静電潜像パターンを形成し、この静電潜像を評価する静電潜像の評価方法であることを最も主要な特徴とする。
【0011】
本発明に係る静電潜像の評価方法を用いることで、実機相当の感光体疲労を短時間に行うことができるとともに、感光体の静電潜像を即座に計測することができる。
電子線を照射させながら、光を照射させることで、感光体に対して光疲労を与える。真空内で生成させるため、大気中での疲労実験のように、NOxガスによる暴露の影響も顕著に受ける事もない。電子線照射と光照射の同時照射が可能となり、効率良く疲労を実施することができる。
【0012】
また、従来技術にあるような、感光体ドラムを回転させる方法では、帯電手段と露光手段が別々のところに配置されているため、電子線照射による帯電と光照射による露光とを同時に行うことは容易ではなかった。本発明に係る静電潜像の評価方法では、帯電と露光とを同時に行うことを可能とすることで、効率的に短時間で光疲労をかけることができる。
【0013】
また、従来、コロナ帯電やスコロトロン帯電では、空気中の放電を利用しているため、基板に流れる通過電流は制御できても、感光体試料に照射される電子量を制御することが困難であった。
本発明に係る静電潜像の評価方法では、真空装置内で電子ビームを照射させて帯電させることができ、光疲労に直接影響を与える電子照射電流密度を制御できることが特徴のひとつであり、これにより、効率良く光疲労を与えることができる。
【0014】
本発明においては特に限定されないが、帯電のための電子線の照射時間は、電子線の照射により前記感光体試料の表面電位が飽和帯電電位に到達するまでの時間よりも長いことが好ましい。
光照射の消灯時間を、飽和電位に達するまでの時間よりも長く設定することにより、確実に飽和電位に達し、実機相当の疲労条件を確保することができる。
【0015】
また、本発明においては特に限定されないが、除電のための光照射時間は、光照射により前記感光体試料の表面電位が残留電位に到達するまでの時間よりも長いことが好ましい。
光照射の点灯時間を、残留電位に達するまでの時間よりも長く設定することにより、電荷を十分に除電させることができる。
【0016】
また、本発明においては特に限定されないが、除電のための光照射が行われている間は、電子線が前記感光体試料に照射されないことが好ましい。
光照射時に電子線が試料に照射されない構成とすることで、短時間で除電することが可能となる。また、電子線量を増大させることもできるので、その結果、短時間で静電疲労を与えることが出来る。
【0017】
また、本発明においては特に限定されないが、ビームブランカをさらに備え、除電のための光照射が行われている間は、ビームブランカがONとなることで電子線が前記感光体試料に照射されないことが好ましい。
ビームブランカ信号に光照射信号を重畳させることで、電子ビーム照射のON/OFFの切り替えと光照射との同期を取ることができるようになる。
【0018】
また、本発明においては特に限定されないが、1つの評価を行うために帯電領域を複数回変更し、帯電領域が異なることによって生じる検出信号の違いを複数の画像として取り込み、得られた複数の画像より複数の静電潜像を抽出し、抽出された複数の静電潜像の大きさを比較することにより、形成された静電潜像を評価することが好ましい。
評価するときに帯電領域を複数回変えて計測する手段と、前記計測によって得られた静電潜像より、潜像の大きさを計測する手段と、複数の静電潜像の大きさを比較する手段を有し、これらを用いて形成された静電潜像を評価することで、従来できなかった、電子写真感光体上に形成される静電潜像の潜像鮮鋭度を定量的に評価することが可能となる。
【0019】
また、本発明においては特に限定されないが、帯電領域の面積が異なる静電潜像を計測し、広い帯電領域での潜像面積と、狭い帯電領域での潜像面積との潜像面積比率を算出し、算出された潜像面積比率を潜像形成能力の評価指標とすることが好ましい。
広い方の帯電領域での潜像の面積をS1、狭い方の帯電領域での潜像面積をS2としたときの潜像面積比率(S2/S1)値を潜像形成能力の評価指標とすることで、様々な感光体や書込条件における潜像形成能力を評価することが可能となる。
また、静電潜像を評価することにより、設計にフィードバックすることができ、各工程のプロセスクォリティが向上するため、品質、耐久性および安定性に優れた画像を得ることができるとともに、省エネルギ化が可能な電子写真感光体(潜像担持体)を提供することができる。
【0020】
本発明はまた、表面電荷分布を有する感光体試料に対して荷電粒子ビームを照射することによって得られる検出信号により前記感光体試料の静電潜像を計測し評価する装置であって、真空内において、前記感光体試料に電子線を照射して帯電させる帯電手段と、帯電させた前記感光体試料に対して光照射を行うことにより除電を行う除電手段と、静電潜像パターン形成手段と、を備え、前記帯電手段による帯電と前記除電手段による除電とが繰り返し行われることで前記感光体試料を疲労させた後、前記帯電と前記除電とを行った位置と同一の位置において前記感光体試料に静電潜像パターンを形成して評価する評価手段を備える静電潜像の評価装置であることを主要な特徴とする。
帯電を与えた感光体試料に対して、真空内で、感光体感度を有する光を用い、帯電除電を繰り返す方法を用いることにより、実機相当の感光体疲労を短時間で行うことができるとともに、その過程で感光体の静電潜像を即座に計測することのできる静電潜像の評価装置を提供することができる。
【0021】
本発明においては特に限定されないが、前記感光体試料に入射する荷電粒子の試料垂直方向の速度ベクトルが前記感光体試料への到達前に反転するような領域が存在する電位ポテンシャル及び加速電圧条件下で、前記感光体試料の表面の電位ポテンシャルを変えるために前記感光体試料の背面に電圧を印加して静電潜像を計測することが好ましい。
入射する荷電粒子の試料垂直方向の速度ベクトルが反転するような領域が存在する条件下で測定し、試料表面の電位ポテンシャルを変えるために試料背面に電圧を印加することで、残留電位をミクロンスケールで計測することが可能となる。
また、従来できなかった、電子写真感光体上に形成される静電潜像の潜像形成能力を定量的に評価する装置を提供することが可能となる。
【0022】
本発明はまた、上述した静電潜像の評価装置を用いて計測した感光体試料の感光面に対して光走査を行うことにより静電潜像を形成し、現像して可視化する画像形成装置であることを主要な特徴とする。
上述した測定方法及び測定装置を用いて、静電潜像を評価することにより、画像形成装置の設計にフィードバックすることができ、画像形成のための各工程のプロセスクォリティが向上する。そのため、品質、耐久性および安定性に優れた画像を得ることができるとともに、省エネルギ化が可能な潜像担持体及び走査光学系を提供することができる。また、現像して可視化することにより、高密度・高画質・高耐久な画像を得ることのできる画像形成装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に係る静電潜像の評価装置の実施例を示す模式図である。
【図2】本発明に係る静電潜像の評価装置に適用可能な光走査装置の例を示す、(a)は斜視図、(b)は光源部の一例を示す斜視図、(c)は光源部の別の例を示す斜視図である。
【図3】上記実施例における真空チャンバおよび露光装置部分の具体例を示す断面図である。
【図4】本発明に係る静電潜像の評価装置の別の実施例を示す模式図である。
【図5】本発明の測定対象である感光体の構造を拡大して示す断面図である。
【図6】感光体試料に対する電子ビームの加速電圧と帯電電位の関係を示すグラフである。
【図7】本発明に係る静電潜像の評価装置に用いられる照明光学系を示す断面図である。
【図8】(a)は図7の照明光学系のレイアウトを示す光学配置図であり、(b)は開口マスクの一形態を、(c)は開口マスクの他の形態を示す正面図である。
【図9】本発明に係る静電潜像の評価装置のLD駆動電流と光出力との関係を示すグラフである。
【図10】本発明に係る静電潜像の評価装置における感光体疲労動作の例を示すタイミングチャートである。
【図11】本発明に係る静電潜像の評価装置に適用可能な走査光学系による潜像形成パターンの各種例を示す模式図である。
【図12】感光体に形成された潜像に電子ビームを照射することによって得られる2次電子による電荷分布および電位分布検出の原理を示す模式図である。
【図13】本発明に係る静電潜像の評価装置において用いられるビームブランキング装置の構成を示す断面図である。
【図14】本発明に係る静電潜像の評価装置におけるビームブランキング電極信号と偏向電極信号の例を示すタイミングチャートである。
【図15】本発明に係る静電潜像の評価方法の一例を示すフローチャートである。
【図16】感光体試料への電界強度とCGLに光が照射されたときに発生するキャリア生成量の量子効率との関係を示すグラフである。
【図17】光疲労実験を、フタロシアニン系感光体(膜厚30μm)で行った実験結果を示すグラフである。
【図18】本発明による静電潜像評価の原理を示す模式図である。
【図19】周辺電荷のみが異なっている電荷分布による電磁場シミュレーションでの感光体試料の垂直方向の電界強度分布を示すグラフおよび概念図である。
【図20】本発明に係る静電潜像の評価方法の別の例を示すフローチャートである。
【図21】潜像の鮮鋭度が高い状態と低い状態での潜像プロファイルを示す概念図である。
【図22】本発明に係る静電潜像の評価方法に適用可能な静電潜像の鮮鋭度評価の例を示す概念図である。
【図23】潜像面積と円相当径との関係を示す模式図である。
【図24】静電潜像の測定結果の一例を示す図である。
【図25】本発明に係る静電潜像の評価装置の別の例を示す模式図である。
【図26】感光体試料への入射電子と試料との関係を示す図である。
【図27】本発明に係る静電潜像の評価装置による潜像深さ計測結果の一例を示す図である。
【図28】本発明に係る画像形成装置の実施例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明に係る静電潜像の評価方法、静電潜像の評価装置および画像形成装置の各実施の形態について、図を用いて説明する。
【0025】
<静電潜像の評価装置>
図1は、本発明に係る静電潜像の評価方法を実行する静電潜像の評価装置の実施例を示す。図1において、静電潜像の評価装置は、大きく分けて、荷電粒子ビーム照射装置4と、露光装置6と、試料載置台7と、1次反転荷電粒子や2次電子などの検出器8と、信号検出部9と、画像処理手段10を有してなる。試料載置台7の上には評価対象である感光体試料20が載置される。荷電粒子ビーム照射装置4、試料載置台7、検出器8は、真空チャンバ―40内に配置されている。
【0026】
荷電粒子ビーム照射装置4は、真空チャンバ―40内に以下のように構成部分が組み込まれることによって構成されている。真空チャンバ―40の上端近くに荷電粒子ビームを照射する電子銃41が取り付けられ、その下方に、サプレッサ電極42、エキストラクタすなわち引き出し電極43、加速電極44、コンデンサレンズ45、ビームブランキング電極46、仕切り弁47、可動絞り48、スティグメータすなわち補正用電極49、偏向電極(走査レンズに相当する)50、静電対物レンズ51、ビーム射出開口部52がこの順に配置されている。上記サプレッサ電極42および引き出し電極43は電子ビームを制御し、加速電極44は電子ビームのエネルギを制御し、コンデンサレンズ45は電子銃から発生された電子ビームを集束させる。ビームブランキング電極46は電子ビームをON/OFFさせ、仕切り弁47および可動絞り48は電子ビームの照射電流を制御するためのアパーチャとして機能する。偏向電極50はビームブランカを通過した電子ビームを走査させるための走査レンズとして機能し、偏向電極50を通過した電子ビームは対物レンズ51で再び感光体試料20の面に収束させられる。各レンズ等には図示しない駆動用電源が接続されている。
【0027】
ここでいう、荷電粒子とは、電子ビームあるいはイオンビームなど電界や磁界の影響を受ける粒子を指す。なお、イオンビームの場合には、電子銃の代わりに液体金属イオン銃などを用いる。
【0028】
上記露光装置6は、いわゆる周知のレーザスキャナであって、その詳細を図2に示す。露光装置6は、感光体試料20に関して感度を持つ波長の光を放射するLD(レーザダイオード)などの光源61、コリメートレンズ62、アパーチャ63、集光レンズ64、ガルバノミラーやポリゴンミラーなどからなる光偏向器65、走査結像レンズ66、ミラー67などを備えている。上記露光装置6は、感光体試料20上に所望のビーム径、ビームプロファイルを生成することが可能であり、感光体試料20の表面を上記ビームで走査することができる。LD制御手段により適切な露光時間、露光エネルギで感光体試料20に光ビームを照射できるようになっている。
【0029】
なお、光偏向器65、走査結像レンズ66などからなるスキャニング機構を備えることにより、感光体試料20にラインパターンを形成することができるが、スキャニング機構を省いて、感光体試料20にドットパターンを形成するようにしてもよい。また、図2(b),(c)に示すようなVCSEL等を光源にすることによって、マルチビーム走査光学系を構成してもよい。
また、スキャニング機構を備えたものにおいて、スキャニング機構による走査方向を主走査方向としたとき、この主走査方向に加えて、副走査方向にもスキャンさせる機構を設けて、2次元の露光パターンを形成するようにしてもよい。
【0030】
図1に示す実施例では、走査光学系からなる露光装置6は、ポリゴンモータなどからなる光偏向器65の振動や電磁場の影響が電子ビームの軌道に影響を与えないように、真空チャンバ40の外に配置されている。露光装置6を電子ビーム軌道位置から遠ざけることができ、荷電粒子ビーム照射装置4が外乱の影響を受けることを抑制することができる。走査光学系は、光学的に透明な入射窓68より真空チャンバ40内に入射させるようになっている。
【0031】
図3は、上記実施例の真空チャンバ40および露光装置6の具体的な構造を示す。図3に示すように、真空チャンバ40の鉛直軸に対して45°の角度で、真空チャンバ40の内部に外部から光を入射させることができる入射窓68が配置され、この入射窓68から真空チャンバ40内に走査ビーム77を入射させる露光装置6が真空チャンバ40の外側に配置されている。露光装置6は前述のとおり走査光学系からなり、光源部、走査レンズ、同期検知手段、ポリゴンミラーからなる光偏向器65、光路を曲げるミラー72等を有してなる。露光装置6の主要部は光学ハウジング69の上に配置され、上部はカバー71で覆われて遮光されている。光学ハウジング69は水平方向の平行移動台83の上に取り付けられ、平行移動台83は柱状の複数本の構造体82を介して除振台81の上に取り付けられている。上記ミラー72でほぼ45°の角度で斜め下方に折り曲げられる走査ビーム77の進路の周りは、外部遮光筒73、内部遮光筒75、これら内外の遮光筒の接続部に介在するラビリンス部74によって遮光されている。
【0032】
上記除振台81の上に真空チャンバ40が固定されている。真空チャンバ40内に前記試料載置台としての試料ステージ78が水平面内において直交2軸方向に移動可能に取り付けられている。試料ステージ78には感光体試料20を載置することができ、この感光体試料20に対し真上から荷電粒子ビームを照射する前記荷電粒子ビーム照射装置4が真空チャンバ40に取り付けられている。荷電粒子ビーム照射装置4の内部も真空チャンバ40と連通していて真空に保たれている。真空チャンバ40内には、感光体試料20に静電潜像を形成した後、感光体試料20に荷電粒子ビームを照射することによって放出される電子ビームを検出する検出器8の検出端が感光体試料20に向かって伸びている。
【0033】
図1乃至図3に示す走査レンズ66はfθ特性を有しており、光偏光器65が一定の角速度で回転しているとき、光ビームは像面すなわち感光体試料20の面を略等速度で移動する構成となっている。また、感光体試料20の面上のビームスポット径も略一定の径に保たれて走査可能な構成となっている。
【0034】
走査光学系からなる露光装置6は、真空チャンバ40に対し離れて配置されているので、ポリゴンスキャナ等の光偏向器65を駆動することによって発生する振動は、直接真空チャンバ40に伝播されることがなく、上記振動の影響は少ない。図3では示していないが、構造体82と除振台81との間にダンパを挿入すれば、防振効果をさらに高めることができる。
【0035】
このように、感光体試料20を露光する装置を、スキャニング機構による露光装置とすることにより、感光体試料20の母線方向に対して、ラインパターンを含めた任意の潜像パターンを形成することができる。感光体試料20の所定の位置に潜像パターンを形成するために、光偏向器65からの走査ビームを検知する同期検知手段を有しているとなおよい。
【0036】
図4は、感光体試料が円筒形状の場合の静電潜像評価装置の実施例を示す。基本的には図1に示す実施例と同じであるから、同じ構成部分ないしは同じ機能部品には同じ符号を付している。円筒形状の感光体試料20はその中心軸線を回転中心として回転駆動される。露光装置6による光走査方向は、感光体試料20の表面において感光体試料20の中心軸線と平行な方向であって、これを主走査方向という。感光体試料20が回転することにより感光体試料20の表面が主走査方向に対して直交する方向に移動する。この移動方向を副走査方向という。露光装置6による主走査と感光体試料20の回転による副走査によって、感光体試料20の表面に任意のパターンの静電潜像を形成することができる。図4に示す例は、以上の点が図1の実施例と異なるだけで、他の構成ないし機能は図1の実施例と同じであるから、説明は省略する。
【0037】
ここで、上述した感光体試料20の構成について説明する。図5に示すように、一般的な感光体は、導電性支持体21の上に、順に下引き層(UL)22、電荷発生層(CGL)23、電荷輸送層(CTL)24が設けられて構成されている。
このような感光体の表面に電荷が帯電している状態で露光されると、電荷発生層23の電荷発生材料(CGM)によって光が吸収され、正負両極性のチャージキャリアが発生する。そして、正のキャリアのうち、CTL24内に注入されたものは、電界によってCTL24表面まで移動し、感光体表面の負の電荷と結合して消滅する。一方、負のキャリアは、導電性支持体21に到達する。
このように、通常は正負のキャリアは感光体内を移動することができるが、光照射が大量にまたは長時間行われると、感光体が疲労して、キャリアの移動が妨げられる。その結果、それぞれのキャリアは感光体にトラップされた状態となり、残留電荷となる。
【0038】
図16は、感光体試料への電界強度とCGLに光が照射されたときに発生するキャリア生成量の量子効率との関係を示す。感光体試料への電界強度E=帯電電位/感光体膜厚である。
【0039】
次に、ここまで説明してきた静電潜像の評価装置を用いた静電潜像の評価方法の原理について説明する。
【0040】
<帯電>
まず、感光体試料20に電子ビームを照射させる。図6(a)に示すように、加速電圧|Vacc|は、2次電子放出比が1となる加速電圧より高い加速電圧に設定すると、入射電子量が、放出電子量より上回るため、電子が感光体試料20に蓄積され、チャージアップを起こす。この結果、感光体試料20を、一様にマイナスに帯電させることができる。電子ビームの加速電圧と感光体試料20の帯電電位には、図6(b)のような関係があり、電子ビームの加速電圧と照射時間を適切に行うことにより、電子写真プロセスを用いた画像形成装置の実機と同じ帯電電位を形成することができる。照射電流は大きい方が、短時間で目的の帯電電位に到達することができるため、数nAで照射している。この後、後述の静電潜像の観察を可能にするために、入射電子量を1/100〜1/1000に下げる。
【0041】
<除電>
次に、感光体試料20に光照射を行い、光疲労を与える。光疲労を与える照明の光源として、波長400〜800nmの発光ダイオード(LED)や半導体レーザーが用いられる。光照射を行うための照明光学系の最も簡単な構成としては、レンズは用いずに発散光を試料全体に照射する方法がある。この場合、LEDに供給する電流量を調整することで、露光量を適切に調整することが可能となる。本実施例においては、図7及び図8(a)に示すように、光源としてLEDを用いつつも前述の構成とは異なる構成を有する照明光学系が用いられている。
【0042】
図7、図8(a)において、光源17から放射された光束はコリメートレンズ18により平行光束化され、アパーチャ19により光束径を規制されて開口マスク200に向かう。開口マスク200を通過した光束は、結像レンズ210の作用により、開口マスク200の開口部の形状に対応する像を像面上に結像する。ここで、像面とは、試料載置台28に載置された感光体試料の、均一に帯電された面である。なお、開口マスク200の開口部の形状は、図8(b)のような矩形や、図8(c)のような円形、または、より複雑な形状であってもよい。
【0043】
図8(a)に示すように、結像レンズ210と開口マスク200との距離をL1、結像レンズ210から像面までの距離をL2とすると、結像レンズ210の光軸に対して垂直な方向における結像倍率β=L2/L1であり、この倍率に応じたマスクパターン象が結像される。
【0044】
結像レンズ210は、開口マスク200と感光体試料の表面とが共役となるように配置される。結像倍率βとマスクパターンのサイズは予め分かっているので、感光体試料の面上に結像される照明領域を算出することができる。感光体試料に所望のパターンを形成できる露光手段における露光用の光路は、感光体試料を2次元的に走査する荷電粒子ビームが通過する領域を避けて設けられている。そのため、結像レンズ210は、光軸が感光体試料の均一帯電された面に立てた法線に対して傾くように設置されている。
【0045】
また、図8(a)に示すように、結像レンズ210を通過した光束によるマスクパターンの像が、感光体試料の面に合致するように、開口マスク200も光軸に対して傾けて配置されている。開口マスク200の光軸に対する傾きをα、感光体試料表面の光軸に対する傾きθとすると、本実施例においてはα=θ=45°である。これにより、結像倍率が等倍(L1=L2)となる。また、感光体試料表面に結像するマスクパターンの像は、図8(a)に平行な面内では図8(a)の図面に直交する方向に対して√2倍になるが、その分を考慮してマスクパターンを設計する。なお、結像倍率が等倍以外の一般的な場合では、L1、L2、α、θの間に
L1・tanθ=L2・tanθ
の関係が成り立つ。
【0046】
また、上記照射光学系によって照射される領域をS(mm2)、像面上での光出力をPi(mW)とすれば、光照射量密度は、Pi/S(mW/mm2)で表わすことができる。このような光学系を用いることで、感光体試料の所定の領域に照射することが可能となる。
LEDの駆動電流IFと光出力Ponとの関係を図9に示す。駆動電流IFを閾値電流以上に上げることによって、LED発光を起こす。そのため、閾値電流以上の条件で電流量を変えることで光出力Ponの制御と像面光量の調整をすることができ、適切な光照射光量密度を設定することができる。
なお、本発明は、感光体試料に光疲労を与えることを特徴としている。光疲労を与えるための光照射光学系と帯電電荷を消去するための光学系を、共通としてもよい。
【0047】
図10に感光体を光疲労させるためのタイミングチャートを示す。
時刻T0で、感光体に対して、電子ビームを照射させる。感光体の表面電位は上昇し、時刻T1で飽和帯電電位に達する。その後、時刻T2まで飽和帯電電位を維持する。
時刻T2で光照射出力信号がONとなり、感光体に光が照射される。光を照射することで、CGLで発生したホールキャリアが表面に到達し、表面電荷が中和され減衰し、時刻T3で除電される。なお、除電されても残留電位は残るので、電位は0にはならず、一定値で推移する。
そして、時刻T4になると光出力信号がOFFとなり、照射されている電子ビームにより感光体の表面電位は再び上昇する。
【0048】
上記T0〜T4の工程を繰り返し、感光体の帯電・除電を繰り返すことで、感光体を疲労させる。このとき、電子ビームを照射させた時刻と帯電電位が飽和するまでの時刻との間には時間差があるので、電子ビームを照射する時間を、最低でも電子ビームを照射させた時刻から帯電電位が飽和するまでの時刻よりも長く設定することが望ましい。すなわち、T2−T0>T1−T0となるように設定することが望ましい。具体的には、2nAの電子ビーム照射電流で、1mm2の試料領域を照射する場合には、消灯時間は2秒以上あることが望ましい。
【0049】
また、光出力信号がONとなり光照射が開始された時刻と、除電されるまでの時刻との間には時間差があるので、光照射する時間は、最低でも帯電電位が除電されるまでの時間よりも長く設定することが望ましい。すなわち、T4−T2>T3−T2となるようにT4を設定することが望ましい。具体的には、100μWの光照射量で1mm2の試料領域を照射する場合には、光照射時間は1秒以上あることが望ましい。
このように構成することで、帯電時の静電的疲労と光照射による光疲労の両方の疲労を与えることができる。
【0050】
疲労過程が終了したら、潜像を形成して静電潜像を計測する。帯電については、上記と同じ方法を用いることで実現できる。
【0051】
<露光>
次に、露光装置6により感光体試料20を露光して静電潜像を形成する。露光装置6の光学系は、所望のビーム径及びビームプロファイルを形成するように調整されている。必要露光エネルギは、感光体試料の特性によって決まるファクタであるが、通常、2〜10mJ/m2程度である。感度が低い感光体では、十数mJ/m2必要なこともある。帯電電位や必要露光エネルギは、感光体特性やプロセス条件に合わせて設定すると良い。
【0052】
このようにして、電子写真装置の実機に合わせた露光条件、例えば露光エネルギ密度0.5〜10mJ/m2、ビームスポット径30〜100μmに設定し、さらに、デューティ、画周波数、書込密度、画像パターン等の条件を設定すると良い。画像パターンとしては、1ドット孤立の他、図11(a)に示すような1ドット格子、図11(b)に示すような2by2、図11(c)に示すような2ドット孤立、図11(d)に示すような2ドットによるラインなど様々なパターンを形成することができる。このようにして、感光体試料20に任意の静電潜像を形成することができる。
【0053】
<観察>
次に、感光体試料20を電子ビームで走査し、放出される2次電子を検出器(シンチレータ)8で検出し、電気信号に変換してコントラスト像を観察する。このようにすると、露光されることなく残っている帯電部は2次電子検出量が多く、露光部は2次電子検出量が少ない明暗のコントラスト像が生じる。暗の部分を露光による潜像部とみなすことができる。
【0054】
感光体試料20の表面に潜像が形成されて電荷分布があると、空間に表面電荷分布に応じた電界分布が形成される。このため、感光体試料20の表面に電子が入射することによって発生した2次電子は上記電界によって押し戻され、検出器8に到達する量が減少する。従って、露光部では電荷がリークして黒、非露光部では電荷がリークすることなく白となり、表面電荷分布に応じたコントラスト像を得ることができ、これを測定することができる。
【0055】
図12(a)は、荷電粒子捕獲器24と感光体試料との間の空間における電位分布を、等高線表示で説明的に示したものである。試料の表面は、光減衰により電位が減衰した部分を除いては負極性に一様に帯電した状態にある。荷電粒子捕獲器24には正極性の電位が与えられているから、実線の電位等高線群で示すように、試料の表面から荷電粒子捕獲器24に近づくに従い電位が高くなる。
従って、試料の負極性に均一帯電している部分である図のQ1点やQ2点で発生した2次電子el1、el2は、荷電粒子捕獲器24の正電位に引かれ、矢印G1や矢印G2で示すように変位し、荷電粒子捕獲器24に捕獲される。
【0056】
一方、図12(a)において、光照射されて負電位が減衰した部分の中央部にあるQ3点近傍では、電位等高線の配列は破線で示すように、Q3点を中心とした半楕円形になり、この部分電位分布では、Q3点に近いほど電位が高くなっている。したがって、Q3点の近傍で発生した2次電子el3には、矢印G3で示すように、試料側に拘束する電気力が作用する。このため2次電子el3は、破線の電位等高線で示す「ポテンシャルの穴」に捕獲され、荷電粒子捕獲器24に向って移動することはない。図12(b)は、上記「ポテンシャルの穴」を模式的に示している。
【0057】
換言すれば、荷電粒子捕獲器24により検出される2次電子は、その強度(2次電子数)の大きい部分が、「静電潜像の地の部分」すなわち均一に負帯電している部分(図12(a)の点Q1やQ2に代表される部分)に対応し、強度の小さい部分が、「静電潜像の画像部」すなわち光照射された部分(図12(a)の点Q3に代表される部分)に対応することになる。
【0058】
従って、図1に示す2次電子検出器8で得られる電気信号を、信号検出部9で適当なサンプリング時間でサンプリングすれば、サンプリング時刻:Tをパラメータとして、表面電位分布:V(X,Y)を「サンプリングに対応した微小領域」ごとに特定でき、信号処理手段10により上記表面電位分布(電位コントラスト像):V(X,Y)を2次元的な画像データとして構成することができる。これをアウトプット装置で出力すれば、静電潜像のパターンを可視的な画像として得ることができる。
【0059】
例えば、捕獲される2次電子の強度を「明るさの強弱で表現」すれば、静電潜像の画像部分は暗く、地の部分は明るくコントラストがつき、表面電荷分布に応じた明暗像として表現(出力)することができる。もちろん、表面電位分布を知ることができれば、表面電荷分布も知ることができる。
【0060】
このような方式を用いることにより、常に同じ領域を計測することが可能となる。一般的に感光体は同一ロットで生産されたものでも、ミクロンオーダースケールでは局所的に感度が異なる。そのため、一度感光体を取り出すと、その場所が正確に特定できなくなり、正確な評価ができなくなる。
【0061】
本発明では、感光体の光疲労とミクロンオーダースケールでの静電潜像の計測を、同一装置内の同一の箇所において行うことができるため、光疲労による静電潜像への影響の測定を正確に行うことができる。
【0062】
ここで、上述した感光体疲労実験の具体例について、以下に説明する。実験条件は以下の通りである。
感光体 :アゾ顔料系感光体(膜厚30μm)
加速電圧 :1.6kV
帯電電位 :−650V
帯電領域 :広域:狭域=3.75:1
書込密度 :600dpi
パターン :1dot孤立、2dot孤立
デューティ :50%
光源 :波長655nm
ビームスポット径 :主60×副80μm
【0063】
潜像の大きさが100μmの条件において10回の測定を繰り返し行ったところ、ばらつきは、初期で0.5%、1時間疲労後で1.1%となった。
また、潜像の大きさが150μmの条件において10回の測定を繰り返し行ったところ、ばらつきは初期で1.0%、1時間疲労後で2.1%となった。
【0064】
なお、上記実施例では、電子線を連続照射させていたが、別の実施例として、光照射にあわせて電子線照射をOFFにさせても良い。
【0065】
すなわち、電子線照射がONのとき、光照射をOFFにするとともに、電子線照射がOFFのときに、光照射をONとさせる。これにより、除電時間(T3−T2)を早めることができる。このようにしても、帯電工程と除電工程を繰り返すことができ、実機と同等な環境を提供することができる。
【0066】
ここで、電子線照射をOFFにする方法としては、電子線軌道にメカニカルな遮蔽部材が用いられる場合があるが、この場合、高速応答できる遮蔽部材を必要とする。そこで、別な方法として、電子ビームを電気的に試料に当たらない方向に向ける構成にすればよい。
具体的には、図13に示すように、電子銃41と感光体試料20との間にビームブランキング電極46を設け、光照射信号にあわせてビームブランカ信号をONにする。ビームブランカ信号がONの場合、電圧を印加することで電子ビームは曲げられて、後段の仕切り弁47を通過しなくなり、電子ビームが試料に到達しなくなる。その結果、電子ビームが試料に当たらないようにすることができる。
【0067】
なお、ビームブランカ信号は、走査信号が急激に切り替わる際に異常信号とならないようにするために、1ライン走査毎に1回使用することが好ましい。通常のビームブランカにおいては、1ライン走査毎に水平同期信号にあわせてブランカ信号を与えているが、その場合に、光照射期間中にビームブランカ信号をONにすると良い。すなわち、光照射がONのときは、ビームブランカが常にONとなるようにすればよい。このようにすることで、新たな遮光部材を用いることなく、高速かつ光照射出力と同期しつつ、試料に対する電子線照射をON/OFFすることができる。
【0068】
このような手段を用いることで、帯電時の静電的疲労と光照射による光疲労の両方の疲労を与えることができ、より実際の電子写真プロセスに近い条件で感光体に疲労を与えることができる。
【0069】
<動作>
図15に疲労感光体の潜像評価のフローを示す。電子線照射による帯電と、光照射による除電を繰り返す。そして、繰り返した回数が所定の回数になったら、電子線照射により静電潜像パターンを形成し、電子ビームを走査して信号を検出し、静電潜像を計測する。
従来の感光体ドラムを回転させる方法では、帯電手段と露光手段が別々のところに配置されているため、両方同時に照射することはできない。一方、以下に述べる本発明に係る静電潜像の評価装置においては、電子ビーム照射と光照射を同時にすることが可能であるため、短時間で効率的に光疲労をかけることができる。
【0070】
本実施例においては、図10に示す電子ビーム照射及び光照射による感光体疲労時のタイミングチャートを用いて疲労実験を行う。電子ビームを照射電流密度EB1(C/mm2)で照射させることで電界強度を与え、光量PO(W/mm2)で光照射させることで、多数のキャリアを発生させ、光疲労を与えることができる。
疲労終了後は、電子ビーム照射電流密度を一旦OFFにする。なお、OFFにしない場合でも、1/100以下程度の微弱な照射電流密度であれば、ほとんど帯電しないため、同等の効果が得られる。
【0071】
図17は、上記光疲労実験を、フタロシアニン系感光体(膜厚30μm)で行った実験結果を示している。
なお、感光体疲労を観察するためには、1〜20pA程度の微弱な電子ビーム照射電流で走査すると良い。
上述した本願発明に係る静電潜像の評価方法を用いることにより、評価結果の高品質化と、直接的な特性値の評価が可能となる。
なお、電子ビームと光のうち、一時的に一方が照射されていない状態があっても良い。
【0072】
図18に、本発明による静電潜像評価の原理を示す。図18において、符号1は感光体試料の非帯電領域を、2は帯電領域を、3は静電潜像分布を示している。まず、例えば図18(a)に示すように帯電領域2を狭領域に設定してこの領域に帯電し、この帯電領域内に所定のパターンで潜像3を形成する。帯電は感光体試料に荷電粒子ビームを照射することによって行い、潜像3は例えば光走査装置等によって所定のパターンに露光することによって形成する。次に、図18(b)に示すように、狭帯域帯電での潜像を測定する。この測定は、荷電粒子ビームを照射し試料から放出される電子を検出器で検出することによって行うことができる。この検出信号を画像処理することにより、図18(c)に示すような静電潜像を抽出する。
【0073】
次に、図18(d)に示すように帯電領域2を広領域に設定してこの領域に帯電し、この帯電領域内に所定のパターンで潜像3を形成する。帯電および潜像形成は前と同じ方法によって行う。次に、図18(e)に示すように、広帯域帯電での潜像を測定する。この測定も前と同じ方法で行い、得られた検出信号を画像処理することにより、図18(f)に示すような静電潜像を抽出する。この測定及び画像処理も前と同じ方法で行う。
このようにして得られた狭領域帯電で抽出された静電潜像と広領域帯電で抽出された静電潜像とを図18(g)のように重ね合わせ、静電潜像の大きさを比較することにより静電潜像を評価する。換言すれば、上記二つの静電潜像から潜像プロファイルを作成し、この潜像プロファイルを評価する。
【0074】
(評価装置の動作及び評価方法)
図19は、中心付近の電荷量が同じで、周辺電荷だけが、広域帯電において4.3mm2、狭域帯電において0.27mm2というように、10倍以上異なっている電荷分布による電磁場シミュレーションでの、感光体試料の垂直方向の電界強度分布を示す。2次電子計測による潜像可視化では、試料の垂直方向の電界強度Ez=0をスレッシュホールドレベルとした潜像を検出することが可能である。その結果、帯電領域を狭くすると、周辺電荷によるエッジ効果の影響を受けることにより、試料面から垂直方向に電界強度が変わってくることを見出した。帯電領域が狭くなると、試料面に生じる電界強度のオフセットレベルが全体的にシフトする。
従って、帯電領域を狭くすることで、試料面に生じる電界強度のオフセットレベルを変えることができることがわかった。
【0075】
そこで、帯電領域を変えて少なくとも2回、静電潜像を画像として取り込み、得られたそれぞれの静電潜像より潜像の大きさを計測し、それぞれの静電潜像の大きさを比較することにより、形成された静電潜像の性能を定量的に評価すると良い。
【0076】
具体的には、電子ビームを照射することで帯電した後に、レーザ光を照射することで、潜像を形成する。このとき帯電領域C1は、2次電子検出の計測領域に比べて、大きく設定することが望ましい。このため、観察倍率を拡大して、観察領域をCS0に変更する。次に電子ビームを走査させ、試料から放出される電子を検出することで、潜像による画像を取得する。取得した画像を画像処理することで、潜像及び潜像面積S1を計測する。
【0077】
その後、帯電領域をC2に変更する。帯電領域を変更するためには、例えば電子ビーム光学系の偏向電極電圧の値を変えることで、実現できる。そして、観察倍率を拡大して、観察領域をCS0に変更し、電子ビームを走査させ、試料から放出される電子を検出することで、潜像による画像を取得する。取得した画像を画像処理することで、潜像径及び潜像面積S2を計測する。
【0078】
上記少なくとも2回の潜像抽出によって静電潜像の評価が可能であるが、さらに異なる帯電領域を定めて同様の計測を行ってもよい。この回をn回目すると、帯電領域をCnに変更して帯電させ、露光によって潜像を形成し、観察倍率を拡大して観察領域をC0に変更する。電子ビームを走査させ、得られる信号を検出することで、潜像による画像を取得する。取得した画像を画像処理することで、潜像及び潜像面積Snを計測する。また、画像処理をすることで潜像の輪郭を抽出し、さらに、水平方向と垂直方向の潜像径や潜像面積を算出することができる。
【0079】
この輪切りデータをつなぎ合わせて、図21に示すような潜像プロファイルを得ることができる。図21(a)は潜像の鮮鋭度が低い場合の例を示しており、潜像面積S1,S2,S3の差が大きくなっている。図21(b)は潜像の鮮鋭度が高い場合の例を示しており、潜像面積S1,S2,S3の差が小さくなっている。
【0080】
解析方法としては、最低2回潜像データを取り込み、2つの輪切り情報を組み合わせて、潜像プロファイル化させても良い。また、2回のデータから評価値を計算しても良い。
予めシミュレーションで、帯電領域と電界強度バイアスレベルを掴んでおくことにより潜像プロファイルを電界強度プロファイルに変換することができる。
【0081】
図21に示すように、帯電領域C1,C2,C3のときの潜像面積S1,S2,S3に注目すると、良好な静電潜像すなわち潜像鮮鋭度が高い状態(図21(b))では、潜像プロファイルがシャープになる。この場合には、潜像面積S1,S2,S3の大きさの変化が小さい。逆に潜像鮮鋭度が低い場合(図21(a))では、潜像面積S1,S2,S3の順に潜像面積が小さくなっていき、上記面積の差が大きい。すなわち、潜像の大きさ、あるいは潜像面積の変化に着目することで、形成された潜像の良し悪しを判断することが可能となる。
【0082】
また、別の方法として、固定照明で露光するように構成するとともに、電荷を残す領域にマスクをかけて露光できないように遮光し、遮光された部分以外の残りを消去するようにしても良い。これにより、荷電粒子ビームの軌道を遮ることなく所望の周辺電荷を消去することができる。
【0083】
なお、遮光部材は、ガラスなどの透過物体に蒸着などにより非露光部を形成した固定の遮光部材でもよいし、液晶など透過率を電気的に自在に変えるものであってもよい。
このようにして、一様に帯電された感光体試料20の露光が行われ、遮光部材93の遮光パターンに対応する静電潜像パターンが形成される。
【0084】
また、別の方法として、帯電領域を少なくとも2回以上変えて行う静電潜像の評価方法であって、帯電露光後に一旦静電潜像を消去して、再度帯電露光させることによって静電潜像を形成し、潜像の特徴量を抽出する方法であっても良い。
【0085】
具体的には、電子ビームを照射することで帯電した後に、レーザー光を走査して光スポットを集光させることで潜像を形成する。そして、電子ビームを走査させて、信号を検出することで、潜像による画像を取得する。その後静電潜像を消去して、再度帯電するときに帯電領域を1回目と変えて帯電させる。そして、同様にレーザー光の照射により潜像を形成し、電子ビームを走査させて信号を検出することで、潜像による画像を取得することができる。
【0086】
ここで、複数の帯電領域計測のうちの特定の2回に着目して評価を行う場合に、広い方の帯電領域での潜像の面積をS1、狭い方の帯電領域での潜像面積をS2としたとき、潜像面積比率(S2/S1)を計測し、その値を潜像形成能力の評価指標としても良い。潜像面積比率を計測することで、潜像のシャープネスを計測することができる。
【0087】
計測のフローを図20に示す。
1つの評価を行うために設定される帯電領域の数を2とする。まず、帯電領域C1を設定して帯電させ、所定のパターンの静電潜像を形成する。所定の観察領域C0を設定して電子ビームを照射し、放出電子を検出して静電潜像データを取り込む。ここまでの動作回数iが2に達していなければ、「i=i+1」とした後、上記の方法によって静電潜像を消去して、新たに帯電領域を設定するステップに戻る。そして再び帯電、静電潜像パターン形成、観察領域C0を設定して静電潜像データ取り込みを行う。動作回数iが2に達すると、画像処理によって潜像パターンが抽出され、潜像面積S1及びS2が算出され、S2/S1が計測され、潜像面積比率が算出される。
【0088】
潜像形成能力が高いほど、潜像の電界強度分布のプロファイルは急峻すなわちシャープネスになるため、潜像断面積比率は大きくなり、最大値1に近づくことになる。
このように、潜像断面積比率を計測することにより相対的な静電潜像分布のシャープネスを簡易的に計測することが可能である。
【0089】
図22は、上記の方法による静電潜像の鮮鋭度評価の例を示す。図22において、
潜像形成条件Aでの潜像面積比率(S2/S1)をA(S2/S1)
潜像形成条件Bでの潜像面積比率(S2/S1)をB(S2/S1)
としたとき、
A(S2/S1)<B(S2/S1)
の関係が成立する場合に、潜像形成条件Bの方が、潜像鮮鋭度が高く、潜像形成能力が高いと評価することができる。この評価をする際に基準となる潜像面積は、なるべく同等レベルに設定することが望ましい。
【0090】
潜像面積をSとしたときの円相当径は、図23に示すように、
円相当径D=2×(S/π)^0.5 ・・・(2)
で表すことができる。
【0091】
ここで、上述した潜像面積比率を基準とする感光体疲労実験の具体例について、以下に説明する。実験条件は以下の通りである。
【0092】
実験条件
感光体 :フタロシアニン系感光体(膜厚30μm)
加速電圧 :1.4kV
帯電電位 :−500V
帯電領域 :広域:狭域=3.75:1
書込密度 :600dpi
パターン :2dot孤立
デューティ :100%
光源 :波長655nm
ビームスポット径:主45×副50μm
露光エネルギ密度:3mJ/m^2
上記条件における潜像面積比率の測定結果の一例を図24に示す。
潜像面積比率は、初期に0.71であったものが30分疲労後には0.69、2時間疲労後には0.64と、疲労時間の増加と共に減衰することがわかった。すなわち、この感光体試料は、疲労と共に潜像鮮鋭度が低下していることになる。
【0093】
感光体の静電疲労や光疲労によって潜像鮮鋭度が変化し、それにより本来の静電潜像プロファイルが鈍るため、このような評価方法が適している。そして、この評価方法を通じて発見される、初期と疲労後とで潜像鮮鋭度の変化の少ない感光体を用いることで、高画質の画像を出力しつづけることができる。
また、上記潜像面積比率のランクは、出力画像品質にも相関があることを確認することができた。このように、感光体試料では、潜像鮮鋭度を評価することが有効であることがわかった。
【0094】
また、光源にVCSELなどを用いたマルチビーム走査光学系では、4以上の複数光源を用い、多くのビームが重なり合いながら、複雑な露光条件のもとで、ひとつの潜像パターンを形成することになる。このような場合には、それぞれのパラメータの影響度合いがわかりにくい。このような、潜像形成条件で、本発明の評価方法は特に有効となる。
【0095】
図25は、本発明の静電潜像の評価装置の他の実施例を示す図である。試料下部の試料載置台7は、電圧±Vsubを印加できる電圧印加部が接続されている。また、感光体試料20の上部には、入射電子ビームが試料電荷の影響を受けることを抑制するために、グリッドメッシュ12を配置した構成となっている。
このような測定装置を用いることで、表面電荷分布や表面電位分布のプロファイルをさらに高精度に測定することが可能である。
【0096】
図26は入射電子と試料の関係を示す図である。同図(a)は加速電圧が表面電位ポテンシャルより大きい場合、同図(b)は加速電圧が表面電位ポテンシャルより小さい場合をそれぞれ示す。
【0097】
感光体試料に入射する荷電粒子の試料垂直方向の速度ベクトルが前記感光体試料への到達前に反転するような領域が存在する電位ポテンシャル及び加速電圧条件下で、1次入射荷電粒子を検出する。具体的には、前記感光体試料の表面の電位ポテンシャルを変えるために前記感光体試料の背面に電圧を印加して静電潜像を計測する。
なお、加速電圧は、正で表現することが一般的であるが、加速電圧の印加電圧Vacc
は負であり、電位ポテンシャルとして、物理的意味を持たせるためには、負で表現する方が説明しやすい。そのため、ここでは加速電圧は負(Vacc<0)と表現し、試料の電位ポテンシャルをVp(<0)とする。
【0098】
ここで、電位とは、単位電荷が持つ電気的な位置エネルギである。したがって、入射電子は、電位0(V)では加速電圧Vaccに相当する速度で移動する。すなわち、電子の電荷量をeとし電子の質量をmとすると、電子の初速度v0は、
mv02/2=e×|Vacc|
で表される。また、真空中ではエネルギ保存則がほぼ完全に成立するため、加速電圧の働かない領域では等速で運動し、試料面に接近するに従い、電位が高くなり、試料電荷のクーロン反発の影響を受けて速度が遅くなる。
【0099】
したがって、一般的に以下のような現象が起こる。
同図(a)においては、|Vacc|≧|Vp|なので、電子は、速度は減速されるものの、試料に到達する。
同図(b)においては、|Vacc|<|Vp|なので、入射電子の速度は試料の電位ポテンシャルの影響を受けて、徐々に減速し、試料に到達する前に速度が0となって、反対方向に進む。
【0100】
したがって、入射電子のエネルギ変えたときの、試料面上でのエネルギすなわちランディングエネルギがほぼ0となる条件を計測することで、表面の電位を計測することができる。ここでは1次反転荷電粒子のうち、特に電子の場合について1次反転電子と呼ぶことにする。試料に到達したとき発生する2次電子と1次反転荷電粒子では、検出器に到達する量が大きく異なるので、明暗のコントラストの境界に基づき、2次電子と1次反転荷電粒子とを識別することができる。1次反転電子は、試料表面の電位分布の影響を受けて、試料表面に到達する前に反転する電子のことである。
【0101】
なお、走査電子顕微鏡などには、反射電子検出器が設けられているが、この場合の反射電子とは、一般的に試料の物質との相互作用により、入射電子が後方背面に反射(散乱)され、試料の表面から飛び出す電子のことを指す。反射電子のエネルギは入射電子のエネルギに匹敵する。一般的に、反射電子の強度は試料の原子番号が大きいほど大きい。走査電子顕微鏡による反射電子を検出する方法は、試料の組成の違いや、凹凸を検出するためのものである。
【0102】
図27は潜像深さ計測結果の一例を示す図である。各走査位置(x,y)で、加速電圧Vaccと、試料下部印加電圧Vsubとの差をVth(=Vacc−Vsub)とし、ランディングエネルギがほぼ0となるときのVth(x,y)を測定することで、電位分布V(x,y)を測定することができる。Vth(x,y)は、電位分布V(x,y)とは一意的な対応関係があり、Vth(x,y)はなだらかな電荷分布などであれば、近似的に電位分布V(x,y)と等価となる。
【0103】
図27上段の曲線は試料表面の電荷分布によって生じた表面電位分布の一例を示している。2次元的な走査を行う電子銃の加速電圧は−1800Vとした。中心(横軸座標=0)の電位が約−600Vであり、中心から外側に向かうに従って、電位がマイナス方向に大きくなり、中心から半径が75μmを超える周辺領域の電位は約−850V程度になっている。
【0104】
同図中段の楕円形は試料の裏面をVsub=−1150Vに設定したときの検出器出力を画像化した図である。このとき、Vth=Vacc−Vsub=−650Vとなっている。
【0105】
同図下段の楕円形はVsub=−1100Vとしたほかは上記条件と同じ条件で得られた検出器出力を画像化した図である。このときのVthは−700Vになっている。
【0106】
したがって、加速電圧Vaccまたは印加電圧Vsubを変えながら、試料表面を電子
で走査させ、Vth分布を計測することにより、試料の表面電位情報を計測することが可
能となる。
この方法を用いることにより、従来困難であった、潜像プロファイルをミクロンオーダ
ーで可視化することが可能となる。
【0107】
なお、1次反転電子で潜像プロファイルを計測する方式では、入射電子のエネルギが極端に変わるため、入射電子の軌道のずれが生じ、その結果、走査倍率が変わったり、歪曲収差を生じたりすることがある。その場合には、静電場環境や電子軌道をあらかじめ計算しておき、それをもとに補正することにより、さらに高精度に計測することが可能となる。
【0108】
(画像形成装置)
上記評価を用いた感光体を画像形成装置に搭載するとよい。以下に、この発明の画像形成装置の実施の1形態を説明する。
図28は上記1形態であるレーザプリンタを略示している。レーザプリンタ100は像担持体111として「円筒状に形成された光導電性の感光体」を有している。像担持体111の周囲には、帯電手段としての帯電ローラ112、現像装置113、転写ローラ114、クリーニング装置115が配備されている。この実施の形態では「帯電手段」として、オゾン発生の少ない接触式の帯電ローラ112を用いているが、コロナ放電を利用するコロナチャージャを帯電手段として用いることもできる。また、光走査装置117が設けられ、帯電ローラ112と現像装置113との間で「レーザビームLBの光走査による露光」を行うようになっている。
【0109】
図28において、符号116は定着装置、符号118はカセット、符号119はレジストローラ対、符号120は給紙コロ、符号121は搬送路、符号122は排紙ローラ対、符号123はトレイを示している。画像形成を行うときは、光導電性の感光体である像担持体111が時計回りに等速回転され、その表面が帯電ローラ112により均一に帯電され、光走査装置117のレーザビームによる光書込による露光により静電潜像が形成される。形成された静電潜像は所謂「ネガ潜像」であって画像部が露光されている。この静電潜像は現像装置113により反転現像され、像担持体111上にトナー画像が形成される。転写紙を収納したカセット118は画像形成装置100本体に着脱可能で、図のごとく装着された状態において、収納された転写紙の最上位の1枚が給紙コロ120により給紙される。給紙された転写紙は、その先端部をレジストローラ対119に銜えられる。レジストローラ対119は、像担持体111上のトナー画像が転写位置へ移動するのにタイミングをあわせて転写紙を転写部へ送りこむ。送りこまれた転写紙は、転写部においてトナー画像と重ね合わせられ、転写ローラ114の作用によりトナー画像を静電転写される。トナー画像を転写された転写紙は定着装置116でトナー画像を定着されたのち、搬送路21を通り、排紙ローラ対122によりトレイ123上に排出される。トナー画像が転写されたのち、像担持体111の表面はクリーニング装置115によりクリーニングされ、残留トナーや紙粉等が除去される。
【0110】
上記像担持体111は、本発明に係る静電潜像の評価装置を用い、本発明に係る静電潜像の評価方法によって評価された感光体を用いる。こうすることにより、非常に望ましい観光体を用いることができ、解像力に優れ、高精彩、かつ高耐久で信頼性の高い画像を得ることができる画像形成装置を提供することができる。
特にVCSELなどのマルチビーム走査光学系を搭載した画像形成装置に適する。
【符号の説明】
【0111】
4 荷電粒子ビーム照射装置
40 真空チャンバ
41 電子銃
46 ビームブランキング電極
6 露光装置
61 光源
7 試料載置台
8 検出器
9 信号検出部
10 画像処理手段
11 導電板
12 グリッドメッシュ
17 光源
20 感光体試料
77 走査ビーム
78 試料ステージ
100 レーザプリンタ
111 像担持体
113 現像装置
115 クリーニング装置
116 定着装置
【先行技術文献】
【特許文献】
【0112】
【特許文献1】特開平03−049143号公報
【特許文献2】特開平03−200100号公報
【特許文献3】特開2003−295696号公報
【特許文献4】特開2003−305881号公報
【特許文献5】特開2005−166542号公報
【特許文献6】特開2006−084434号公報
【特許文献7】特開平03−053178号公報
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電潜像の評価方法、静電潜像の評価装置および画像形成装置に関するもので、特に、感光体試料の静電潜像形成能力を短時間に、高分解能で評価することができるようにしたものである。
【背景技術】
【0002】
複写機やレーザプリンタといった電子写真方式画像形成装置において用いられる感光体の表面電位を計測する方法としては、電位分布を有する試料にセンサヘッドを近づけ、そのときの相互作用として起こる静電引力や誘導電流を計測し、これを電位分布に換算する方式がある。この方式による表面電位計測方法では、分解能が原理的に数ミリ程度と悪く、1μmというような高い分解能を得ることはできない。
また、LSIチップの評価として、電子ビームを用い、1μmオーダーの電位を計測する方法が知られている。しかし、この評価は、LSIの導電部に対する評価であり、電位は高々+5V程度の低電位であって電位が限定され、本発明が対象としている感光体試料における数百〜数千Vの負電荷に対応することはできない。
【0003】
電子ビームによる静電潜像の観察方法としては、特許文献1記載の発明などがある。評価対象となる試料としては、LSIチップや静電潜像を記憶・保持できる試料に限定されていて、暗減衰を生じる通常の感光体は、測定することができない。通常の誘電体は電荷を半永久的に保持することができるので、電荷分布を形成後、時間をかけて測定を行っても、測定結果に影響を与えることはない。しかしながら、感光体の場合は、抵抗値が無限大ではないので、電荷を長時間保持できず、暗減衰によって時間とともに表面電位が低下してしまう。感光体が電荷を保持できる時間は、暗室であってもせいぜい10〜60秒である。従って、帯電・露光後に電子顕微鏡(SEM)内で観察しようとしても、その準備段階で静電潜像は消失してしまう。潜像形成後、遅くても3秒以下で計測しなければならない。
【0004】
また、特許文献2に記載されているX線顕微鏡においては、使用波長が全く異なる上に、電子写真プロセスにおける帯電電位を−500〜−1000Vに設定することができず、電子写真方式画像形成装置の実機と同等の環境を再現して計測することができない。
そこで、本発明者は、暗減衰を有する感光体試料であっても静電潜像を測定することができる方式を発明して特許出願した(例えば、特許文献3、特許文献4、特許文献5、特許文献6参照)。
【0005】
ところで、一般的な感光体は、図5に示すように、基盤(Sub)21、下引き層(UL)22、電荷発生層(CGL)23、電荷輸送層(CTL)24から構成されている。UL22は基盤側からの電荷注入リークを防止する目的で設けられている。
この構成を有する感光体のうち、有機感光体(OPC)においては、出力画像枚数が増えるに従って感光体が疲労し、画像の乱れが発生するという問題がある。
【0006】
このような感光体の疲労による静電潜像への影響を評価することは、静電潜像の高画質化及び感光体の耐久性を向上させる上で重要である。
感光体の疲労による静電潜像への影響を評価する方法として、特許文献7に記載のOPCドラム試験装置のような疲労試験機を用い、振動容量方式で残留電荷による表面電位を計測することが知られている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、従来の振動容量方式による表面電位計測では、空間分解能が数mmに止まり、マクロ的な評価しかできない。残留電荷がマクロ的にしか把握できないと、高画質化への最適化設計をすることが難しいため、ミクロンスケールでの微視的状態を計測する必要がある。
このような場合、出力画像を用いることでミクロンスケールでの評価が可能となるが、転写、定着の工程を経なければならず評価に時間がかかる上、感光体単独での特性を評価することができない。
【0008】
また、従来の評価方法において、大気中で感光体の疲労試験を実施した後、真空装置内で観察しようとした場合、感光体の移動作業に所定の時間を要するが、この時間の経過とともに疲労が回復してしまうため、正当な評価をすることができない恐れがある。
【0009】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであって、感光体試料の静電潜像形成能力を短時間に高分解能で評価することができる静電潜像の評価方法、静電潜像の評価装置および画像形成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、表面電荷分布を有する感光体試料に対して荷電粒子ビームを照射することによって得られる検出信号により前記感光体試料の静電潜像を計測し評価する方法であって、真空内で前記感光体試料に電子線を照射して帯電させる帯電工程と、帯電させた前記感光体試料に対して光照射を行い除電を行う除電工程とを備え、前記帯電工程と前記除電工程を繰り返し行うことで前記感光体試料を疲労させた後、前記帯電工程と前記除電工程とが行われた位置と同一の位置において前記感光体試料に対して帯電し露光することにより静電潜像パターンを形成し、この静電潜像を評価する静電潜像の評価方法であることを最も主要な特徴とする。
【0011】
本発明に係る静電潜像の評価方法を用いることで、実機相当の感光体疲労を短時間に行うことができるとともに、感光体の静電潜像を即座に計測することができる。
電子線を照射させながら、光を照射させることで、感光体に対して光疲労を与える。真空内で生成させるため、大気中での疲労実験のように、NOxガスによる暴露の影響も顕著に受ける事もない。電子線照射と光照射の同時照射が可能となり、効率良く疲労を実施することができる。
【0012】
また、従来技術にあるような、感光体ドラムを回転させる方法では、帯電手段と露光手段が別々のところに配置されているため、電子線照射による帯電と光照射による露光とを同時に行うことは容易ではなかった。本発明に係る静電潜像の評価方法では、帯電と露光とを同時に行うことを可能とすることで、効率的に短時間で光疲労をかけることができる。
【0013】
また、従来、コロナ帯電やスコロトロン帯電では、空気中の放電を利用しているため、基板に流れる通過電流は制御できても、感光体試料に照射される電子量を制御することが困難であった。
本発明に係る静電潜像の評価方法では、真空装置内で電子ビームを照射させて帯電させることができ、光疲労に直接影響を与える電子照射電流密度を制御できることが特徴のひとつであり、これにより、効率良く光疲労を与えることができる。
【0014】
本発明においては特に限定されないが、帯電のための電子線の照射時間は、電子線の照射により前記感光体試料の表面電位が飽和帯電電位に到達するまでの時間よりも長いことが好ましい。
光照射の消灯時間を、飽和電位に達するまでの時間よりも長く設定することにより、確実に飽和電位に達し、実機相当の疲労条件を確保することができる。
【0015】
また、本発明においては特に限定されないが、除電のための光照射時間は、光照射により前記感光体試料の表面電位が残留電位に到達するまでの時間よりも長いことが好ましい。
光照射の点灯時間を、残留電位に達するまでの時間よりも長く設定することにより、電荷を十分に除電させることができる。
【0016】
また、本発明においては特に限定されないが、除電のための光照射が行われている間は、電子線が前記感光体試料に照射されないことが好ましい。
光照射時に電子線が試料に照射されない構成とすることで、短時間で除電することが可能となる。また、電子線量を増大させることもできるので、その結果、短時間で静電疲労を与えることが出来る。
【0017】
また、本発明においては特に限定されないが、ビームブランカをさらに備え、除電のための光照射が行われている間は、ビームブランカがONとなることで電子線が前記感光体試料に照射されないことが好ましい。
ビームブランカ信号に光照射信号を重畳させることで、電子ビーム照射のON/OFFの切り替えと光照射との同期を取ることができるようになる。
【0018】
また、本発明においては特に限定されないが、1つの評価を行うために帯電領域を複数回変更し、帯電領域が異なることによって生じる検出信号の違いを複数の画像として取り込み、得られた複数の画像より複数の静電潜像を抽出し、抽出された複数の静電潜像の大きさを比較することにより、形成された静電潜像を評価することが好ましい。
評価するときに帯電領域を複数回変えて計測する手段と、前記計測によって得られた静電潜像より、潜像の大きさを計測する手段と、複数の静電潜像の大きさを比較する手段を有し、これらを用いて形成された静電潜像を評価することで、従来できなかった、電子写真感光体上に形成される静電潜像の潜像鮮鋭度を定量的に評価することが可能となる。
【0019】
また、本発明においては特に限定されないが、帯電領域の面積が異なる静電潜像を計測し、広い帯電領域での潜像面積と、狭い帯電領域での潜像面積との潜像面積比率を算出し、算出された潜像面積比率を潜像形成能力の評価指標とすることが好ましい。
広い方の帯電領域での潜像の面積をS1、狭い方の帯電領域での潜像面積をS2としたときの潜像面積比率(S2/S1)値を潜像形成能力の評価指標とすることで、様々な感光体や書込条件における潜像形成能力を評価することが可能となる。
また、静電潜像を評価することにより、設計にフィードバックすることができ、各工程のプロセスクォリティが向上するため、品質、耐久性および安定性に優れた画像を得ることができるとともに、省エネルギ化が可能な電子写真感光体(潜像担持体)を提供することができる。
【0020】
本発明はまた、表面電荷分布を有する感光体試料に対して荷電粒子ビームを照射することによって得られる検出信号により前記感光体試料の静電潜像を計測し評価する装置であって、真空内において、前記感光体試料に電子線を照射して帯電させる帯電手段と、帯電させた前記感光体試料に対して光照射を行うことにより除電を行う除電手段と、静電潜像パターン形成手段と、を備え、前記帯電手段による帯電と前記除電手段による除電とが繰り返し行われることで前記感光体試料を疲労させた後、前記帯電と前記除電とを行った位置と同一の位置において前記感光体試料に静電潜像パターンを形成して評価する評価手段を備える静電潜像の評価装置であることを主要な特徴とする。
帯電を与えた感光体試料に対して、真空内で、感光体感度を有する光を用い、帯電除電を繰り返す方法を用いることにより、実機相当の感光体疲労を短時間で行うことができるとともに、その過程で感光体の静電潜像を即座に計測することのできる静電潜像の評価装置を提供することができる。
【0021】
本発明においては特に限定されないが、前記感光体試料に入射する荷電粒子の試料垂直方向の速度ベクトルが前記感光体試料への到達前に反転するような領域が存在する電位ポテンシャル及び加速電圧条件下で、前記感光体試料の表面の電位ポテンシャルを変えるために前記感光体試料の背面に電圧を印加して静電潜像を計測することが好ましい。
入射する荷電粒子の試料垂直方向の速度ベクトルが反転するような領域が存在する条件下で測定し、試料表面の電位ポテンシャルを変えるために試料背面に電圧を印加することで、残留電位をミクロンスケールで計測することが可能となる。
また、従来できなかった、電子写真感光体上に形成される静電潜像の潜像形成能力を定量的に評価する装置を提供することが可能となる。
【0022】
本発明はまた、上述した静電潜像の評価装置を用いて計測した感光体試料の感光面に対して光走査を行うことにより静電潜像を形成し、現像して可視化する画像形成装置であることを主要な特徴とする。
上述した測定方法及び測定装置を用いて、静電潜像を評価することにより、画像形成装置の設計にフィードバックすることができ、画像形成のための各工程のプロセスクォリティが向上する。そのため、品質、耐久性および安定性に優れた画像を得ることができるとともに、省エネルギ化が可能な潜像担持体及び走査光学系を提供することができる。また、現像して可視化することにより、高密度・高画質・高耐久な画像を得ることのできる画像形成装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に係る静電潜像の評価装置の実施例を示す模式図である。
【図2】本発明に係る静電潜像の評価装置に適用可能な光走査装置の例を示す、(a)は斜視図、(b)は光源部の一例を示す斜視図、(c)は光源部の別の例を示す斜視図である。
【図3】上記実施例における真空チャンバおよび露光装置部分の具体例を示す断面図である。
【図4】本発明に係る静電潜像の評価装置の別の実施例を示す模式図である。
【図5】本発明の測定対象である感光体の構造を拡大して示す断面図である。
【図6】感光体試料に対する電子ビームの加速電圧と帯電電位の関係を示すグラフである。
【図7】本発明に係る静電潜像の評価装置に用いられる照明光学系を示す断面図である。
【図8】(a)は図7の照明光学系のレイアウトを示す光学配置図であり、(b)は開口マスクの一形態を、(c)は開口マスクの他の形態を示す正面図である。
【図9】本発明に係る静電潜像の評価装置のLD駆動電流と光出力との関係を示すグラフである。
【図10】本発明に係る静電潜像の評価装置における感光体疲労動作の例を示すタイミングチャートである。
【図11】本発明に係る静電潜像の評価装置に適用可能な走査光学系による潜像形成パターンの各種例を示す模式図である。
【図12】感光体に形成された潜像に電子ビームを照射することによって得られる2次電子による電荷分布および電位分布検出の原理を示す模式図である。
【図13】本発明に係る静電潜像の評価装置において用いられるビームブランキング装置の構成を示す断面図である。
【図14】本発明に係る静電潜像の評価装置におけるビームブランキング電極信号と偏向電極信号の例を示すタイミングチャートである。
【図15】本発明に係る静電潜像の評価方法の一例を示すフローチャートである。
【図16】感光体試料への電界強度とCGLに光が照射されたときに発生するキャリア生成量の量子効率との関係を示すグラフである。
【図17】光疲労実験を、フタロシアニン系感光体(膜厚30μm)で行った実験結果を示すグラフである。
【図18】本発明による静電潜像評価の原理を示す模式図である。
【図19】周辺電荷のみが異なっている電荷分布による電磁場シミュレーションでの感光体試料の垂直方向の電界強度分布を示すグラフおよび概念図である。
【図20】本発明に係る静電潜像の評価方法の別の例を示すフローチャートである。
【図21】潜像の鮮鋭度が高い状態と低い状態での潜像プロファイルを示す概念図である。
【図22】本発明に係る静電潜像の評価方法に適用可能な静電潜像の鮮鋭度評価の例を示す概念図である。
【図23】潜像面積と円相当径との関係を示す模式図である。
【図24】静電潜像の測定結果の一例を示す図である。
【図25】本発明に係る静電潜像の評価装置の別の例を示す模式図である。
【図26】感光体試料への入射電子と試料との関係を示す図である。
【図27】本発明に係る静電潜像の評価装置による潜像深さ計測結果の一例を示す図である。
【図28】本発明に係る画像形成装置の実施例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明に係る静電潜像の評価方法、静電潜像の評価装置および画像形成装置の各実施の形態について、図を用いて説明する。
【0025】
<静電潜像の評価装置>
図1は、本発明に係る静電潜像の評価方法を実行する静電潜像の評価装置の実施例を示す。図1において、静電潜像の評価装置は、大きく分けて、荷電粒子ビーム照射装置4と、露光装置6と、試料載置台7と、1次反転荷電粒子や2次電子などの検出器8と、信号検出部9と、画像処理手段10を有してなる。試料載置台7の上には評価対象である感光体試料20が載置される。荷電粒子ビーム照射装置4、試料載置台7、検出器8は、真空チャンバ―40内に配置されている。
【0026】
荷電粒子ビーム照射装置4は、真空チャンバ―40内に以下のように構成部分が組み込まれることによって構成されている。真空チャンバ―40の上端近くに荷電粒子ビームを照射する電子銃41が取り付けられ、その下方に、サプレッサ電極42、エキストラクタすなわち引き出し電極43、加速電極44、コンデンサレンズ45、ビームブランキング電極46、仕切り弁47、可動絞り48、スティグメータすなわち補正用電極49、偏向電極(走査レンズに相当する)50、静電対物レンズ51、ビーム射出開口部52がこの順に配置されている。上記サプレッサ電極42および引き出し電極43は電子ビームを制御し、加速電極44は電子ビームのエネルギを制御し、コンデンサレンズ45は電子銃から発生された電子ビームを集束させる。ビームブランキング電極46は電子ビームをON/OFFさせ、仕切り弁47および可動絞り48は電子ビームの照射電流を制御するためのアパーチャとして機能する。偏向電極50はビームブランカを通過した電子ビームを走査させるための走査レンズとして機能し、偏向電極50を通過した電子ビームは対物レンズ51で再び感光体試料20の面に収束させられる。各レンズ等には図示しない駆動用電源が接続されている。
【0027】
ここでいう、荷電粒子とは、電子ビームあるいはイオンビームなど電界や磁界の影響を受ける粒子を指す。なお、イオンビームの場合には、電子銃の代わりに液体金属イオン銃などを用いる。
【0028】
上記露光装置6は、いわゆる周知のレーザスキャナであって、その詳細を図2に示す。露光装置6は、感光体試料20に関して感度を持つ波長の光を放射するLD(レーザダイオード)などの光源61、コリメートレンズ62、アパーチャ63、集光レンズ64、ガルバノミラーやポリゴンミラーなどからなる光偏向器65、走査結像レンズ66、ミラー67などを備えている。上記露光装置6は、感光体試料20上に所望のビーム径、ビームプロファイルを生成することが可能であり、感光体試料20の表面を上記ビームで走査することができる。LD制御手段により適切な露光時間、露光エネルギで感光体試料20に光ビームを照射できるようになっている。
【0029】
なお、光偏向器65、走査結像レンズ66などからなるスキャニング機構を備えることにより、感光体試料20にラインパターンを形成することができるが、スキャニング機構を省いて、感光体試料20にドットパターンを形成するようにしてもよい。また、図2(b),(c)に示すようなVCSEL等を光源にすることによって、マルチビーム走査光学系を構成してもよい。
また、スキャニング機構を備えたものにおいて、スキャニング機構による走査方向を主走査方向としたとき、この主走査方向に加えて、副走査方向にもスキャンさせる機構を設けて、2次元の露光パターンを形成するようにしてもよい。
【0030】
図1に示す実施例では、走査光学系からなる露光装置6は、ポリゴンモータなどからなる光偏向器65の振動や電磁場の影響が電子ビームの軌道に影響を与えないように、真空チャンバ40の外に配置されている。露光装置6を電子ビーム軌道位置から遠ざけることができ、荷電粒子ビーム照射装置4が外乱の影響を受けることを抑制することができる。走査光学系は、光学的に透明な入射窓68より真空チャンバ40内に入射させるようになっている。
【0031】
図3は、上記実施例の真空チャンバ40および露光装置6の具体的な構造を示す。図3に示すように、真空チャンバ40の鉛直軸に対して45°の角度で、真空チャンバ40の内部に外部から光を入射させることができる入射窓68が配置され、この入射窓68から真空チャンバ40内に走査ビーム77を入射させる露光装置6が真空チャンバ40の外側に配置されている。露光装置6は前述のとおり走査光学系からなり、光源部、走査レンズ、同期検知手段、ポリゴンミラーからなる光偏向器65、光路を曲げるミラー72等を有してなる。露光装置6の主要部は光学ハウジング69の上に配置され、上部はカバー71で覆われて遮光されている。光学ハウジング69は水平方向の平行移動台83の上に取り付けられ、平行移動台83は柱状の複数本の構造体82を介して除振台81の上に取り付けられている。上記ミラー72でほぼ45°の角度で斜め下方に折り曲げられる走査ビーム77の進路の周りは、外部遮光筒73、内部遮光筒75、これら内外の遮光筒の接続部に介在するラビリンス部74によって遮光されている。
【0032】
上記除振台81の上に真空チャンバ40が固定されている。真空チャンバ40内に前記試料載置台としての試料ステージ78が水平面内において直交2軸方向に移動可能に取り付けられている。試料ステージ78には感光体試料20を載置することができ、この感光体試料20に対し真上から荷電粒子ビームを照射する前記荷電粒子ビーム照射装置4が真空チャンバ40に取り付けられている。荷電粒子ビーム照射装置4の内部も真空チャンバ40と連通していて真空に保たれている。真空チャンバ40内には、感光体試料20に静電潜像を形成した後、感光体試料20に荷電粒子ビームを照射することによって放出される電子ビームを検出する検出器8の検出端が感光体試料20に向かって伸びている。
【0033】
図1乃至図3に示す走査レンズ66はfθ特性を有しており、光偏光器65が一定の角速度で回転しているとき、光ビームは像面すなわち感光体試料20の面を略等速度で移動する構成となっている。また、感光体試料20の面上のビームスポット径も略一定の径に保たれて走査可能な構成となっている。
【0034】
走査光学系からなる露光装置6は、真空チャンバ40に対し離れて配置されているので、ポリゴンスキャナ等の光偏向器65を駆動することによって発生する振動は、直接真空チャンバ40に伝播されることがなく、上記振動の影響は少ない。図3では示していないが、構造体82と除振台81との間にダンパを挿入すれば、防振効果をさらに高めることができる。
【0035】
このように、感光体試料20を露光する装置を、スキャニング機構による露光装置とすることにより、感光体試料20の母線方向に対して、ラインパターンを含めた任意の潜像パターンを形成することができる。感光体試料20の所定の位置に潜像パターンを形成するために、光偏向器65からの走査ビームを検知する同期検知手段を有しているとなおよい。
【0036】
図4は、感光体試料が円筒形状の場合の静電潜像評価装置の実施例を示す。基本的には図1に示す実施例と同じであるから、同じ構成部分ないしは同じ機能部品には同じ符号を付している。円筒形状の感光体試料20はその中心軸線を回転中心として回転駆動される。露光装置6による光走査方向は、感光体試料20の表面において感光体試料20の中心軸線と平行な方向であって、これを主走査方向という。感光体試料20が回転することにより感光体試料20の表面が主走査方向に対して直交する方向に移動する。この移動方向を副走査方向という。露光装置6による主走査と感光体試料20の回転による副走査によって、感光体試料20の表面に任意のパターンの静電潜像を形成することができる。図4に示す例は、以上の点が図1の実施例と異なるだけで、他の構成ないし機能は図1の実施例と同じであるから、説明は省略する。
【0037】
ここで、上述した感光体試料20の構成について説明する。図5に示すように、一般的な感光体は、導電性支持体21の上に、順に下引き層(UL)22、電荷発生層(CGL)23、電荷輸送層(CTL)24が設けられて構成されている。
このような感光体の表面に電荷が帯電している状態で露光されると、電荷発生層23の電荷発生材料(CGM)によって光が吸収され、正負両極性のチャージキャリアが発生する。そして、正のキャリアのうち、CTL24内に注入されたものは、電界によってCTL24表面まで移動し、感光体表面の負の電荷と結合して消滅する。一方、負のキャリアは、導電性支持体21に到達する。
このように、通常は正負のキャリアは感光体内を移動することができるが、光照射が大量にまたは長時間行われると、感光体が疲労して、キャリアの移動が妨げられる。その結果、それぞれのキャリアは感光体にトラップされた状態となり、残留電荷となる。
【0038】
図16は、感光体試料への電界強度とCGLに光が照射されたときに発生するキャリア生成量の量子効率との関係を示す。感光体試料への電界強度E=帯電電位/感光体膜厚である。
【0039】
次に、ここまで説明してきた静電潜像の評価装置を用いた静電潜像の評価方法の原理について説明する。
【0040】
<帯電>
まず、感光体試料20に電子ビームを照射させる。図6(a)に示すように、加速電圧|Vacc|は、2次電子放出比が1となる加速電圧より高い加速電圧に設定すると、入射電子量が、放出電子量より上回るため、電子が感光体試料20に蓄積され、チャージアップを起こす。この結果、感光体試料20を、一様にマイナスに帯電させることができる。電子ビームの加速電圧と感光体試料20の帯電電位には、図6(b)のような関係があり、電子ビームの加速電圧と照射時間を適切に行うことにより、電子写真プロセスを用いた画像形成装置の実機と同じ帯電電位を形成することができる。照射電流は大きい方が、短時間で目的の帯電電位に到達することができるため、数nAで照射している。この後、後述の静電潜像の観察を可能にするために、入射電子量を1/100〜1/1000に下げる。
【0041】
<除電>
次に、感光体試料20に光照射を行い、光疲労を与える。光疲労を与える照明の光源として、波長400〜800nmの発光ダイオード(LED)や半導体レーザーが用いられる。光照射を行うための照明光学系の最も簡単な構成としては、レンズは用いずに発散光を試料全体に照射する方法がある。この場合、LEDに供給する電流量を調整することで、露光量を適切に調整することが可能となる。本実施例においては、図7及び図8(a)に示すように、光源としてLEDを用いつつも前述の構成とは異なる構成を有する照明光学系が用いられている。
【0042】
図7、図8(a)において、光源17から放射された光束はコリメートレンズ18により平行光束化され、アパーチャ19により光束径を規制されて開口マスク200に向かう。開口マスク200を通過した光束は、結像レンズ210の作用により、開口マスク200の開口部の形状に対応する像を像面上に結像する。ここで、像面とは、試料載置台28に載置された感光体試料の、均一に帯電された面である。なお、開口マスク200の開口部の形状は、図8(b)のような矩形や、図8(c)のような円形、または、より複雑な形状であってもよい。
【0043】
図8(a)に示すように、結像レンズ210と開口マスク200との距離をL1、結像レンズ210から像面までの距離をL2とすると、結像レンズ210の光軸に対して垂直な方向における結像倍率β=L2/L1であり、この倍率に応じたマスクパターン象が結像される。
【0044】
結像レンズ210は、開口マスク200と感光体試料の表面とが共役となるように配置される。結像倍率βとマスクパターンのサイズは予め分かっているので、感光体試料の面上に結像される照明領域を算出することができる。感光体試料に所望のパターンを形成できる露光手段における露光用の光路は、感光体試料を2次元的に走査する荷電粒子ビームが通過する領域を避けて設けられている。そのため、結像レンズ210は、光軸が感光体試料の均一帯電された面に立てた法線に対して傾くように設置されている。
【0045】
また、図8(a)に示すように、結像レンズ210を通過した光束によるマスクパターンの像が、感光体試料の面に合致するように、開口マスク200も光軸に対して傾けて配置されている。開口マスク200の光軸に対する傾きをα、感光体試料表面の光軸に対する傾きθとすると、本実施例においてはα=θ=45°である。これにより、結像倍率が等倍(L1=L2)となる。また、感光体試料表面に結像するマスクパターンの像は、図8(a)に平行な面内では図8(a)の図面に直交する方向に対して√2倍になるが、その分を考慮してマスクパターンを設計する。なお、結像倍率が等倍以外の一般的な場合では、L1、L2、α、θの間に
L1・tanθ=L2・tanθ
の関係が成り立つ。
【0046】
また、上記照射光学系によって照射される領域をS(mm2)、像面上での光出力をPi(mW)とすれば、光照射量密度は、Pi/S(mW/mm2)で表わすことができる。このような光学系を用いることで、感光体試料の所定の領域に照射することが可能となる。
LEDの駆動電流IFと光出力Ponとの関係を図9に示す。駆動電流IFを閾値電流以上に上げることによって、LED発光を起こす。そのため、閾値電流以上の条件で電流量を変えることで光出力Ponの制御と像面光量の調整をすることができ、適切な光照射光量密度を設定することができる。
なお、本発明は、感光体試料に光疲労を与えることを特徴としている。光疲労を与えるための光照射光学系と帯電電荷を消去するための光学系を、共通としてもよい。
【0047】
図10に感光体を光疲労させるためのタイミングチャートを示す。
時刻T0で、感光体に対して、電子ビームを照射させる。感光体の表面電位は上昇し、時刻T1で飽和帯電電位に達する。その後、時刻T2まで飽和帯電電位を維持する。
時刻T2で光照射出力信号がONとなり、感光体に光が照射される。光を照射することで、CGLで発生したホールキャリアが表面に到達し、表面電荷が中和され減衰し、時刻T3で除電される。なお、除電されても残留電位は残るので、電位は0にはならず、一定値で推移する。
そして、時刻T4になると光出力信号がOFFとなり、照射されている電子ビームにより感光体の表面電位は再び上昇する。
【0048】
上記T0〜T4の工程を繰り返し、感光体の帯電・除電を繰り返すことで、感光体を疲労させる。このとき、電子ビームを照射させた時刻と帯電電位が飽和するまでの時刻との間には時間差があるので、電子ビームを照射する時間を、最低でも電子ビームを照射させた時刻から帯電電位が飽和するまでの時刻よりも長く設定することが望ましい。すなわち、T2−T0>T1−T0となるように設定することが望ましい。具体的には、2nAの電子ビーム照射電流で、1mm2の試料領域を照射する場合には、消灯時間は2秒以上あることが望ましい。
【0049】
また、光出力信号がONとなり光照射が開始された時刻と、除電されるまでの時刻との間には時間差があるので、光照射する時間は、最低でも帯電電位が除電されるまでの時間よりも長く設定することが望ましい。すなわち、T4−T2>T3−T2となるようにT4を設定することが望ましい。具体的には、100μWの光照射量で1mm2の試料領域を照射する場合には、光照射時間は1秒以上あることが望ましい。
このように構成することで、帯電時の静電的疲労と光照射による光疲労の両方の疲労を与えることができる。
【0050】
疲労過程が終了したら、潜像を形成して静電潜像を計測する。帯電については、上記と同じ方法を用いることで実現できる。
【0051】
<露光>
次に、露光装置6により感光体試料20を露光して静電潜像を形成する。露光装置6の光学系は、所望のビーム径及びビームプロファイルを形成するように調整されている。必要露光エネルギは、感光体試料の特性によって決まるファクタであるが、通常、2〜10mJ/m2程度である。感度が低い感光体では、十数mJ/m2必要なこともある。帯電電位や必要露光エネルギは、感光体特性やプロセス条件に合わせて設定すると良い。
【0052】
このようにして、電子写真装置の実機に合わせた露光条件、例えば露光エネルギ密度0.5〜10mJ/m2、ビームスポット径30〜100μmに設定し、さらに、デューティ、画周波数、書込密度、画像パターン等の条件を設定すると良い。画像パターンとしては、1ドット孤立の他、図11(a)に示すような1ドット格子、図11(b)に示すような2by2、図11(c)に示すような2ドット孤立、図11(d)に示すような2ドットによるラインなど様々なパターンを形成することができる。このようにして、感光体試料20に任意の静電潜像を形成することができる。
【0053】
<観察>
次に、感光体試料20を電子ビームで走査し、放出される2次電子を検出器(シンチレータ)8で検出し、電気信号に変換してコントラスト像を観察する。このようにすると、露光されることなく残っている帯電部は2次電子検出量が多く、露光部は2次電子検出量が少ない明暗のコントラスト像が生じる。暗の部分を露光による潜像部とみなすことができる。
【0054】
感光体試料20の表面に潜像が形成されて電荷分布があると、空間に表面電荷分布に応じた電界分布が形成される。このため、感光体試料20の表面に電子が入射することによって発生した2次電子は上記電界によって押し戻され、検出器8に到達する量が減少する。従って、露光部では電荷がリークして黒、非露光部では電荷がリークすることなく白となり、表面電荷分布に応じたコントラスト像を得ることができ、これを測定することができる。
【0055】
図12(a)は、荷電粒子捕獲器24と感光体試料との間の空間における電位分布を、等高線表示で説明的に示したものである。試料の表面は、光減衰により電位が減衰した部分を除いては負極性に一様に帯電した状態にある。荷電粒子捕獲器24には正極性の電位が与えられているから、実線の電位等高線群で示すように、試料の表面から荷電粒子捕獲器24に近づくに従い電位が高くなる。
従って、試料の負極性に均一帯電している部分である図のQ1点やQ2点で発生した2次電子el1、el2は、荷電粒子捕獲器24の正電位に引かれ、矢印G1や矢印G2で示すように変位し、荷電粒子捕獲器24に捕獲される。
【0056】
一方、図12(a)において、光照射されて負電位が減衰した部分の中央部にあるQ3点近傍では、電位等高線の配列は破線で示すように、Q3点を中心とした半楕円形になり、この部分電位分布では、Q3点に近いほど電位が高くなっている。したがって、Q3点の近傍で発生した2次電子el3には、矢印G3で示すように、試料側に拘束する電気力が作用する。このため2次電子el3は、破線の電位等高線で示す「ポテンシャルの穴」に捕獲され、荷電粒子捕獲器24に向って移動することはない。図12(b)は、上記「ポテンシャルの穴」を模式的に示している。
【0057】
換言すれば、荷電粒子捕獲器24により検出される2次電子は、その強度(2次電子数)の大きい部分が、「静電潜像の地の部分」すなわち均一に負帯電している部分(図12(a)の点Q1やQ2に代表される部分)に対応し、強度の小さい部分が、「静電潜像の画像部」すなわち光照射された部分(図12(a)の点Q3に代表される部分)に対応することになる。
【0058】
従って、図1に示す2次電子検出器8で得られる電気信号を、信号検出部9で適当なサンプリング時間でサンプリングすれば、サンプリング時刻:Tをパラメータとして、表面電位分布:V(X,Y)を「サンプリングに対応した微小領域」ごとに特定でき、信号処理手段10により上記表面電位分布(電位コントラスト像):V(X,Y)を2次元的な画像データとして構成することができる。これをアウトプット装置で出力すれば、静電潜像のパターンを可視的な画像として得ることができる。
【0059】
例えば、捕獲される2次電子の強度を「明るさの強弱で表現」すれば、静電潜像の画像部分は暗く、地の部分は明るくコントラストがつき、表面電荷分布に応じた明暗像として表現(出力)することができる。もちろん、表面電位分布を知ることができれば、表面電荷分布も知ることができる。
【0060】
このような方式を用いることにより、常に同じ領域を計測することが可能となる。一般的に感光体は同一ロットで生産されたものでも、ミクロンオーダースケールでは局所的に感度が異なる。そのため、一度感光体を取り出すと、その場所が正確に特定できなくなり、正確な評価ができなくなる。
【0061】
本発明では、感光体の光疲労とミクロンオーダースケールでの静電潜像の計測を、同一装置内の同一の箇所において行うことができるため、光疲労による静電潜像への影響の測定を正確に行うことができる。
【0062】
ここで、上述した感光体疲労実験の具体例について、以下に説明する。実験条件は以下の通りである。
感光体 :アゾ顔料系感光体(膜厚30μm)
加速電圧 :1.6kV
帯電電位 :−650V
帯電領域 :広域:狭域=3.75:1
書込密度 :600dpi
パターン :1dot孤立、2dot孤立
デューティ :50%
光源 :波長655nm
ビームスポット径 :主60×副80μm
【0063】
潜像の大きさが100μmの条件において10回の測定を繰り返し行ったところ、ばらつきは、初期で0.5%、1時間疲労後で1.1%となった。
また、潜像の大きさが150μmの条件において10回の測定を繰り返し行ったところ、ばらつきは初期で1.0%、1時間疲労後で2.1%となった。
【0064】
なお、上記実施例では、電子線を連続照射させていたが、別の実施例として、光照射にあわせて電子線照射をOFFにさせても良い。
【0065】
すなわち、電子線照射がONのとき、光照射をOFFにするとともに、電子線照射がOFFのときに、光照射をONとさせる。これにより、除電時間(T3−T2)を早めることができる。このようにしても、帯電工程と除電工程を繰り返すことができ、実機と同等な環境を提供することができる。
【0066】
ここで、電子線照射をOFFにする方法としては、電子線軌道にメカニカルな遮蔽部材が用いられる場合があるが、この場合、高速応答できる遮蔽部材を必要とする。そこで、別な方法として、電子ビームを電気的に試料に当たらない方向に向ける構成にすればよい。
具体的には、図13に示すように、電子銃41と感光体試料20との間にビームブランキング電極46を設け、光照射信号にあわせてビームブランカ信号をONにする。ビームブランカ信号がONの場合、電圧を印加することで電子ビームは曲げられて、後段の仕切り弁47を通過しなくなり、電子ビームが試料に到達しなくなる。その結果、電子ビームが試料に当たらないようにすることができる。
【0067】
なお、ビームブランカ信号は、走査信号が急激に切り替わる際に異常信号とならないようにするために、1ライン走査毎に1回使用することが好ましい。通常のビームブランカにおいては、1ライン走査毎に水平同期信号にあわせてブランカ信号を与えているが、その場合に、光照射期間中にビームブランカ信号をONにすると良い。すなわち、光照射がONのときは、ビームブランカが常にONとなるようにすればよい。このようにすることで、新たな遮光部材を用いることなく、高速かつ光照射出力と同期しつつ、試料に対する電子線照射をON/OFFすることができる。
【0068】
このような手段を用いることで、帯電時の静電的疲労と光照射による光疲労の両方の疲労を与えることができ、より実際の電子写真プロセスに近い条件で感光体に疲労を与えることができる。
【0069】
<動作>
図15に疲労感光体の潜像評価のフローを示す。電子線照射による帯電と、光照射による除電を繰り返す。そして、繰り返した回数が所定の回数になったら、電子線照射により静電潜像パターンを形成し、電子ビームを走査して信号を検出し、静電潜像を計測する。
従来の感光体ドラムを回転させる方法では、帯電手段と露光手段が別々のところに配置されているため、両方同時に照射することはできない。一方、以下に述べる本発明に係る静電潜像の評価装置においては、電子ビーム照射と光照射を同時にすることが可能であるため、短時間で効率的に光疲労をかけることができる。
【0070】
本実施例においては、図10に示す電子ビーム照射及び光照射による感光体疲労時のタイミングチャートを用いて疲労実験を行う。電子ビームを照射電流密度EB1(C/mm2)で照射させることで電界強度を与え、光量PO(W/mm2)で光照射させることで、多数のキャリアを発生させ、光疲労を与えることができる。
疲労終了後は、電子ビーム照射電流密度を一旦OFFにする。なお、OFFにしない場合でも、1/100以下程度の微弱な照射電流密度であれば、ほとんど帯電しないため、同等の効果が得られる。
【0071】
図17は、上記光疲労実験を、フタロシアニン系感光体(膜厚30μm)で行った実験結果を示している。
なお、感光体疲労を観察するためには、1〜20pA程度の微弱な電子ビーム照射電流で走査すると良い。
上述した本願発明に係る静電潜像の評価方法を用いることにより、評価結果の高品質化と、直接的な特性値の評価が可能となる。
なお、電子ビームと光のうち、一時的に一方が照射されていない状態があっても良い。
【0072】
図18に、本発明による静電潜像評価の原理を示す。図18において、符号1は感光体試料の非帯電領域を、2は帯電領域を、3は静電潜像分布を示している。まず、例えば図18(a)に示すように帯電領域2を狭領域に設定してこの領域に帯電し、この帯電領域内に所定のパターンで潜像3を形成する。帯電は感光体試料に荷電粒子ビームを照射することによって行い、潜像3は例えば光走査装置等によって所定のパターンに露光することによって形成する。次に、図18(b)に示すように、狭帯域帯電での潜像を測定する。この測定は、荷電粒子ビームを照射し試料から放出される電子を検出器で検出することによって行うことができる。この検出信号を画像処理することにより、図18(c)に示すような静電潜像を抽出する。
【0073】
次に、図18(d)に示すように帯電領域2を広領域に設定してこの領域に帯電し、この帯電領域内に所定のパターンで潜像3を形成する。帯電および潜像形成は前と同じ方法によって行う。次に、図18(e)に示すように、広帯域帯電での潜像を測定する。この測定も前と同じ方法で行い、得られた検出信号を画像処理することにより、図18(f)に示すような静電潜像を抽出する。この測定及び画像処理も前と同じ方法で行う。
このようにして得られた狭領域帯電で抽出された静電潜像と広領域帯電で抽出された静電潜像とを図18(g)のように重ね合わせ、静電潜像の大きさを比較することにより静電潜像を評価する。換言すれば、上記二つの静電潜像から潜像プロファイルを作成し、この潜像プロファイルを評価する。
【0074】
(評価装置の動作及び評価方法)
図19は、中心付近の電荷量が同じで、周辺電荷だけが、広域帯電において4.3mm2、狭域帯電において0.27mm2というように、10倍以上異なっている電荷分布による電磁場シミュレーションでの、感光体試料の垂直方向の電界強度分布を示す。2次電子計測による潜像可視化では、試料の垂直方向の電界強度Ez=0をスレッシュホールドレベルとした潜像を検出することが可能である。その結果、帯電領域を狭くすると、周辺電荷によるエッジ効果の影響を受けることにより、試料面から垂直方向に電界強度が変わってくることを見出した。帯電領域が狭くなると、試料面に生じる電界強度のオフセットレベルが全体的にシフトする。
従って、帯電領域を狭くすることで、試料面に生じる電界強度のオフセットレベルを変えることができることがわかった。
【0075】
そこで、帯電領域を変えて少なくとも2回、静電潜像を画像として取り込み、得られたそれぞれの静電潜像より潜像の大きさを計測し、それぞれの静電潜像の大きさを比較することにより、形成された静電潜像の性能を定量的に評価すると良い。
【0076】
具体的には、電子ビームを照射することで帯電した後に、レーザ光を照射することで、潜像を形成する。このとき帯電領域C1は、2次電子検出の計測領域に比べて、大きく設定することが望ましい。このため、観察倍率を拡大して、観察領域をCS0に変更する。次に電子ビームを走査させ、試料から放出される電子を検出することで、潜像による画像を取得する。取得した画像を画像処理することで、潜像及び潜像面積S1を計測する。
【0077】
その後、帯電領域をC2に変更する。帯電領域を変更するためには、例えば電子ビーム光学系の偏向電極電圧の値を変えることで、実現できる。そして、観察倍率を拡大して、観察領域をCS0に変更し、電子ビームを走査させ、試料から放出される電子を検出することで、潜像による画像を取得する。取得した画像を画像処理することで、潜像径及び潜像面積S2を計測する。
【0078】
上記少なくとも2回の潜像抽出によって静電潜像の評価が可能であるが、さらに異なる帯電領域を定めて同様の計測を行ってもよい。この回をn回目すると、帯電領域をCnに変更して帯電させ、露光によって潜像を形成し、観察倍率を拡大して観察領域をC0に変更する。電子ビームを走査させ、得られる信号を検出することで、潜像による画像を取得する。取得した画像を画像処理することで、潜像及び潜像面積Snを計測する。また、画像処理をすることで潜像の輪郭を抽出し、さらに、水平方向と垂直方向の潜像径や潜像面積を算出することができる。
【0079】
この輪切りデータをつなぎ合わせて、図21に示すような潜像プロファイルを得ることができる。図21(a)は潜像の鮮鋭度が低い場合の例を示しており、潜像面積S1,S2,S3の差が大きくなっている。図21(b)は潜像の鮮鋭度が高い場合の例を示しており、潜像面積S1,S2,S3の差が小さくなっている。
【0080】
解析方法としては、最低2回潜像データを取り込み、2つの輪切り情報を組み合わせて、潜像プロファイル化させても良い。また、2回のデータから評価値を計算しても良い。
予めシミュレーションで、帯電領域と電界強度バイアスレベルを掴んでおくことにより潜像プロファイルを電界強度プロファイルに変換することができる。
【0081】
図21に示すように、帯電領域C1,C2,C3のときの潜像面積S1,S2,S3に注目すると、良好な静電潜像すなわち潜像鮮鋭度が高い状態(図21(b))では、潜像プロファイルがシャープになる。この場合には、潜像面積S1,S2,S3の大きさの変化が小さい。逆に潜像鮮鋭度が低い場合(図21(a))では、潜像面積S1,S2,S3の順に潜像面積が小さくなっていき、上記面積の差が大きい。すなわち、潜像の大きさ、あるいは潜像面積の変化に着目することで、形成された潜像の良し悪しを判断することが可能となる。
【0082】
また、別の方法として、固定照明で露光するように構成するとともに、電荷を残す領域にマスクをかけて露光できないように遮光し、遮光された部分以外の残りを消去するようにしても良い。これにより、荷電粒子ビームの軌道を遮ることなく所望の周辺電荷を消去することができる。
【0083】
なお、遮光部材は、ガラスなどの透過物体に蒸着などにより非露光部を形成した固定の遮光部材でもよいし、液晶など透過率を電気的に自在に変えるものであってもよい。
このようにして、一様に帯電された感光体試料20の露光が行われ、遮光部材93の遮光パターンに対応する静電潜像パターンが形成される。
【0084】
また、別の方法として、帯電領域を少なくとも2回以上変えて行う静電潜像の評価方法であって、帯電露光後に一旦静電潜像を消去して、再度帯電露光させることによって静電潜像を形成し、潜像の特徴量を抽出する方法であっても良い。
【0085】
具体的には、電子ビームを照射することで帯電した後に、レーザー光を走査して光スポットを集光させることで潜像を形成する。そして、電子ビームを走査させて、信号を検出することで、潜像による画像を取得する。その後静電潜像を消去して、再度帯電するときに帯電領域を1回目と変えて帯電させる。そして、同様にレーザー光の照射により潜像を形成し、電子ビームを走査させて信号を検出することで、潜像による画像を取得することができる。
【0086】
ここで、複数の帯電領域計測のうちの特定の2回に着目して評価を行う場合に、広い方の帯電領域での潜像の面積をS1、狭い方の帯電領域での潜像面積をS2としたとき、潜像面積比率(S2/S1)を計測し、その値を潜像形成能力の評価指標としても良い。潜像面積比率を計測することで、潜像のシャープネスを計測することができる。
【0087】
計測のフローを図20に示す。
1つの評価を行うために設定される帯電領域の数を2とする。まず、帯電領域C1を設定して帯電させ、所定のパターンの静電潜像を形成する。所定の観察領域C0を設定して電子ビームを照射し、放出電子を検出して静電潜像データを取り込む。ここまでの動作回数iが2に達していなければ、「i=i+1」とした後、上記の方法によって静電潜像を消去して、新たに帯電領域を設定するステップに戻る。そして再び帯電、静電潜像パターン形成、観察領域C0を設定して静電潜像データ取り込みを行う。動作回数iが2に達すると、画像処理によって潜像パターンが抽出され、潜像面積S1及びS2が算出され、S2/S1が計測され、潜像面積比率が算出される。
【0088】
潜像形成能力が高いほど、潜像の電界強度分布のプロファイルは急峻すなわちシャープネスになるため、潜像断面積比率は大きくなり、最大値1に近づくことになる。
このように、潜像断面積比率を計測することにより相対的な静電潜像分布のシャープネスを簡易的に計測することが可能である。
【0089】
図22は、上記の方法による静電潜像の鮮鋭度評価の例を示す。図22において、
潜像形成条件Aでの潜像面積比率(S2/S1)をA(S2/S1)
潜像形成条件Bでの潜像面積比率(S2/S1)をB(S2/S1)
としたとき、
A(S2/S1)<B(S2/S1)
の関係が成立する場合に、潜像形成条件Bの方が、潜像鮮鋭度が高く、潜像形成能力が高いと評価することができる。この評価をする際に基準となる潜像面積は、なるべく同等レベルに設定することが望ましい。
【0090】
潜像面積をSとしたときの円相当径は、図23に示すように、
円相当径D=2×(S/π)^0.5 ・・・(2)
で表すことができる。
【0091】
ここで、上述した潜像面積比率を基準とする感光体疲労実験の具体例について、以下に説明する。実験条件は以下の通りである。
【0092】
実験条件
感光体 :フタロシアニン系感光体(膜厚30μm)
加速電圧 :1.4kV
帯電電位 :−500V
帯電領域 :広域:狭域=3.75:1
書込密度 :600dpi
パターン :2dot孤立
デューティ :100%
光源 :波長655nm
ビームスポット径:主45×副50μm
露光エネルギ密度:3mJ/m^2
上記条件における潜像面積比率の測定結果の一例を図24に示す。
潜像面積比率は、初期に0.71であったものが30分疲労後には0.69、2時間疲労後には0.64と、疲労時間の増加と共に減衰することがわかった。すなわち、この感光体試料は、疲労と共に潜像鮮鋭度が低下していることになる。
【0093】
感光体の静電疲労や光疲労によって潜像鮮鋭度が変化し、それにより本来の静電潜像プロファイルが鈍るため、このような評価方法が適している。そして、この評価方法を通じて発見される、初期と疲労後とで潜像鮮鋭度の変化の少ない感光体を用いることで、高画質の画像を出力しつづけることができる。
また、上記潜像面積比率のランクは、出力画像品質にも相関があることを確認することができた。このように、感光体試料では、潜像鮮鋭度を評価することが有効であることがわかった。
【0094】
また、光源にVCSELなどを用いたマルチビーム走査光学系では、4以上の複数光源を用い、多くのビームが重なり合いながら、複雑な露光条件のもとで、ひとつの潜像パターンを形成することになる。このような場合には、それぞれのパラメータの影響度合いがわかりにくい。このような、潜像形成条件で、本発明の評価方法は特に有効となる。
【0095】
図25は、本発明の静電潜像の評価装置の他の実施例を示す図である。試料下部の試料載置台7は、電圧±Vsubを印加できる電圧印加部が接続されている。また、感光体試料20の上部には、入射電子ビームが試料電荷の影響を受けることを抑制するために、グリッドメッシュ12を配置した構成となっている。
このような測定装置を用いることで、表面電荷分布や表面電位分布のプロファイルをさらに高精度に測定することが可能である。
【0096】
図26は入射電子と試料の関係を示す図である。同図(a)は加速電圧が表面電位ポテンシャルより大きい場合、同図(b)は加速電圧が表面電位ポテンシャルより小さい場合をそれぞれ示す。
【0097】
感光体試料に入射する荷電粒子の試料垂直方向の速度ベクトルが前記感光体試料への到達前に反転するような領域が存在する電位ポテンシャル及び加速電圧条件下で、1次入射荷電粒子を検出する。具体的には、前記感光体試料の表面の電位ポテンシャルを変えるために前記感光体試料の背面に電圧を印加して静電潜像を計測する。
なお、加速電圧は、正で表現することが一般的であるが、加速電圧の印加電圧Vacc
は負であり、電位ポテンシャルとして、物理的意味を持たせるためには、負で表現する方が説明しやすい。そのため、ここでは加速電圧は負(Vacc<0)と表現し、試料の電位ポテンシャルをVp(<0)とする。
【0098】
ここで、電位とは、単位電荷が持つ電気的な位置エネルギである。したがって、入射電子は、電位0(V)では加速電圧Vaccに相当する速度で移動する。すなわち、電子の電荷量をeとし電子の質量をmとすると、電子の初速度v0は、
mv02/2=e×|Vacc|
で表される。また、真空中ではエネルギ保存則がほぼ完全に成立するため、加速電圧の働かない領域では等速で運動し、試料面に接近するに従い、電位が高くなり、試料電荷のクーロン反発の影響を受けて速度が遅くなる。
【0099】
したがって、一般的に以下のような現象が起こる。
同図(a)においては、|Vacc|≧|Vp|なので、電子は、速度は減速されるものの、試料に到達する。
同図(b)においては、|Vacc|<|Vp|なので、入射電子の速度は試料の電位ポテンシャルの影響を受けて、徐々に減速し、試料に到達する前に速度が0となって、反対方向に進む。
【0100】
したがって、入射電子のエネルギ変えたときの、試料面上でのエネルギすなわちランディングエネルギがほぼ0となる条件を計測することで、表面の電位を計測することができる。ここでは1次反転荷電粒子のうち、特に電子の場合について1次反転電子と呼ぶことにする。試料に到達したとき発生する2次電子と1次反転荷電粒子では、検出器に到達する量が大きく異なるので、明暗のコントラストの境界に基づき、2次電子と1次反転荷電粒子とを識別することができる。1次反転電子は、試料表面の電位分布の影響を受けて、試料表面に到達する前に反転する電子のことである。
【0101】
なお、走査電子顕微鏡などには、反射電子検出器が設けられているが、この場合の反射電子とは、一般的に試料の物質との相互作用により、入射電子が後方背面に反射(散乱)され、試料の表面から飛び出す電子のことを指す。反射電子のエネルギは入射電子のエネルギに匹敵する。一般的に、反射電子の強度は試料の原子番号が大きいほど大きい。走査電子顕微鏡による反射電子を検出する方法は、試料の組成の違いや、凹凸を検出するためのものである。
【0102】
図27は潜像深さ計測結果の一例を示す図である。各走査位置(x,y)で、加速電圧Vaccと、試料下部印加電圧Vsubとの差をVth(=Vacc−Vsub)とし、ランディングエネルギがほぼ0となるときのVth(x,y)を測定することで、電位分布V(x,y)を測定することができる。Vth(x,y)は、電位分布V(x,y)とは一意的な対応関係があり、Vth(x,y)はなだらかな電荷分布などであれば、近似的に電位分布V(x,y)と等価となる。
【0103】
図27上段の曲線は試料表面の電荷分布によって生じた表面電位分布の一例を示している。2次元的な走査を行う電子銃の加速電圧は−1800Vとした。中心(横軸座標=0)の電位が約−600Vであり、中心から外側に向かうに従って、電位がマイナス方向に大きくなり、中心から半径が75μmを超える周辺領域の電位は約−850V程度になっている。
【0104】
同図中段の楕円形は試料の裏面をVsub=−1150Vに設定したときの検出器出力を画像化した図である。このとき、Vth=Vacc−Vsub=−650Vとなっている。
【0105】
同図下段の楕円形はVsub=−1100Vとしたほかは上記条件と同じ条件で得られた検出器出力を画像化した図である。このときのVthは−700Vになっている。
【0106】
したがって、加速電圧Vaccまたは印加電圧Vsubを変えながら、試料表面を電子
で走査させ、Vth分布を計測することにより、試料の表面電位情報を計測することが可
能となる。
この方法を用いることにより、従来困難であった、潜像プロファイルをミクロンオーダ
ーで可視化することが可能となる。
【0107】
なお、1次反転電子で潜像プロファイルを計測する方式では、入射電子のエネルギが極端に変わるため、入射電子の軌道のずれが生じ、その結果、走査倍率が変わったり、歪曲収差を生じたりすることがある。その場合には、静電場環境や電子軌道をあらかじめ計算しておき、それをもとに補正することにより、さらに高精度に計測することが可能となる。
【0108】
(画像形成装置)
上記評価を用いた感光体を画像形成装置に搭載するとよい。以下に、この発明の画像形成装置の実施の1形態を説明する。
図28は上記1形態であるレーザプリンタを略示している。レーザプリンタ100は像担持体111として「円筒状に形成された光導電性の感光体」を有している。像担持体111の周囲には、帯電手段としての帯電ローラ112、現像装置113、転写ローラ114、クリーニング装置115が配備されている。この実施の形態では「帯電手段」として、オゾン発生の少ない接触式の帯電ローラ112を用いているが、コロナ放電を利用するコロナチャージャを帯電手段として用いることもできる。また、光走査装置117が設けられ、帯電ローラ112と現像装置113との間で「レーザビームLBの光走査による露光」を行うようになっている。
【0109】
図28において、符号116は定着装置、符号118はカセット、符号119はレジストローラ対、符号120は給紙コロ、符号121は搬送路、符号122は排紙ローラ対、符号123はトレイを示している。画像形成を行うときは、光導電性の感光体である像担持体111が時計回りに等速回転され、その表面が帯電ローラ112により均一に帯電され、光走査装置117のレーザビームによる光書込による露光により静電潜像が形成される。形成された静電潜像は所謂「ネガ潜像」であって画像部が露光されている。この静電潜像は現像装置113により反転現像され、像担持体111上にトナー画像が形成される。転写紙を収納したカセット118は画像形成装置100本体に着脱可能で、図のごとく装着された状態において、収納された転写紙の最上位の1枚が給紙コロ120により給紙される。給紙された転写紙は、その先端部をレジストローラ対119に銜えられる。レジストローラ対119は、像担持体111上のトナー画像が転写位置へ移動するのにタイミングをあわせて転写紙を転写部へ送りこむ。送りこまれた転写紙は、転写部においてトナー画像と重ね合わせられ、転写ローラ114の作用によりトナー画像を静電転写される。トナー画像を転写された転写紙は定着装置116でトナー画像を定着されたのち、搬送路21を通り、排紙ローラ対122によりトレイ123上に排出される。トナー画像が転写されたのち、像担持体111の表面はクリーニング装置115によりクリーニングされ、残留トナーや紙粉等が除去される。
【0110】
上記像担持体111は、本発明に係る静電潜像の評価装置を用い、本発明に係る静電潜像の評価方法によって評価された感光体を用いる。こうすることにより、非常に望ましい観光体を用いることができ、解像力に優れ、高精彩、かつ高耐久で信頼性の高い画像を得ることができる画像形成装置を提供することができる。
特にVCSELなどのマルチビーム走査光学系を搭載した画像形成装置に適する。
【符号の説明】
【0111】
4 荷電粒子ビーム照射装置
40 真空チャンバ
41 電子銃
46 ビームブランキング電極
6 露光装置
61 光源
7 試料載置台
8 検出器
9 信号検出部
10 画像処理手段
11 導電板
12 グリッドメッシュ
17 光源
20 感光体試料
77 走査ビーム
78 試料ステージ
100 レーザプリンタ
111 像担持体
113 現像装置
115 クリーニング装置
116 定着装置
【先行技術文献】
【特許文献】
【0112】
【特許文献1】特開平03−049143号公報
【特許文献2】特開平03−200100号公報
【特許文献3】特開2003−295696号公報
【特許文献4】特開2003−305881号公報
【特許文献5】特開2005−166542号公報
【特許文献6】特開2006−084434号公報
【特許文献7】特開平03−053178号公報
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面電荷分布を有する感光体試料に対して荷電粒子ビームを照射することによって得られる検出信号により前記感光体試料の静電潜像を計測し評価する方法であって、
真空内で前記感光体試料に電子線を照射して帯電させる帯電工程と、帯電させた前記感光体試料に対して光照射を行い除電を行う除電工程とを備え、
前記帯電工程と前記除電工程を繰り返し行うことで前記感光体試料を疲労させた後、前記帯電工程と前記除電工程とが行われた位置と同一の位置において前記感光体試料に対して帯電し露光することにより静電潜像パターンを形成し、この静電潜像を評価する静電潜像の評価方法。
【請求項2】
帯電のための電子線の照射時間は、電子線の照射により前記感光体試料の表面電位が飽和帯電電位に到達するまでの時間よりも長い請求項1記載の静電潜像の評価方法。
【請求項3】
除電のための光照射時間は、光照射により前記感光体試料の表面電位が残留電位に到達するまでの時間よりも長い請求項1又は2記載の静電潜像の評価方法。
【請求項4】
除電のための光照射が行われている間は、電子線が前記感光体試料に照射されない請求項1乃至3のいずれかに記載の静電潜像の評価方法。
【請求項5】
ビームブランカをさらに備え、除電のための光照射が行われている間は、ビームブランカがONとなることで電子線が前記感光体試料に照射されない請求項4記載の静電潜像の評価方法。
【請求項6】
1つの評価を行うために帯電領域を複数回変更し、
帯電領域が異なることによって生じる検出信号の違いを複数の画像として取り込み、
得られた複数の画像より複数の静電潜像を抽出し、
抽出された複数の静電潜像の大きさを比較することにより、形成された静電潜像を評価する請求項1乃至5のいずれかに記載の静電潜像の評価方法。
【請求項7】
帯電領域の面積が異なる静電潜像を計測し、
広い帯電領域での潜像面積と、狭い帯電領域での潜像面積との潜像面積比率を算出し、
算出された潜像面積比率を潜像形成能力の評価指標とする請求項6記載の静電潜像の評価方法。
【請求項8】
表面電荷分布を有する感光体試料に対して荷電粒子ビームを照射することによって得られる検出信号により前記感光体試料の静電潜像を計測し評価する装置であって、
真空内において、前記感光体試料に電子線を照射して帯電させる帯電手段と、帯電させた前記感光体試料に対して光照射を行うことにより除電を行う除電手段と、静電潜像パターン形成手段と、を備え、
前記帯電手段による帯電と前記除電手段による除電とが繰り返し行われることで前記感光体試料を疲労させた後、前記帯電と前記除電とを行った位置と同一の位置において前記感光体試料に静電潜像パターンを形成して評価する評価手段を備える静電潜像の評価装置。
【請求項9】
前記感光体試料に入射する荷電粒子の試料垂直方向の速度ベクトルが前記感光体試料への到達前に反転するような領域が存在する電位ポテンシャル及び加速電圧条件下で、前記感光体試料の表面の電位ポテンシャルを変えるために前記感光体試料の背面に電圧を印加して静電潜像を計測する請求項8記載の静電潜像の評価装置。
【請求項10】
請求項8又は9記載の静電潜像の評価装置を用いて計測した感光体試料を備え、この感光体試料の表面に対して光走査を行うことにより静電潜像を形成し、現像して可視化する画像形成装置。
【請求項1】
表面電荷分布を有する感光体試料に対して荷電粒子ビームを照射することによって得られる検出信号により前記感光体試料の静電潜像を計測し評価する方法であって、
真空内で前記感光体試料に電子線を照射して帯電させる帯電工程と、帯電させた前記感光体試料に対して光照射を行い除電を行う除電工程とを備え、
前記帯電工程と前記除電工程を繰り返し行うことで前記感光体試料を疲労させた後、前記帯電工程と前記除電工程とが行われた位置と同一の位置において前記感光体試料に対して帯電し露光することにより静電潜像パターンを形成し、この静電潜像を評価する静電潜像の評価方法。
【請求項2】
帯電のための電子線の照射時間は、電子線の照射により前記感光体試料の表面電位が飽和帯電電位に到達するまでの時間よりも長い請求項1記載の静電潜像の評価方法。
【請求項3】
除電のための光照射時間は、光照射により前記感光体試料の表面電位が残留電位に到達するまでの時間よりも長い請求項1又は2記載の静電潜像の評価方法。
【請求項4】
除電のための光照射が行われている間は、電子線が前記感光体試料に照射されない請求項1乃至3のいずれかに記載の静電潜像の評価方法。
【請求項5】
ビームブランカをさらに備え、除電のための光照射が行われている間は、ビームブランカがONとなることで電子線が前記感光体試料に照射されない請求項4記載の静電潜像の評価方法。
【請求項6】
1つの評価を行うために帯電領域を複数回変更し、
帯電領域が異なることによって生じる検出信号の違いを複数の画像として取り込み、
得られた複数の画像より複数の静電潜像を抽出し、
抽出された複数の静電潜像の大きさを比較することにより、形成された静電潜像を評価する請求項1乃至5のいずれかに記載の静電潜像の評価方法。
【請求項7】
帯電領域の面積が異なる静電潜像を計測し、
広い帯電領域での潜像面積と、狭い帯電領域での潜像面積との潜像面積比率を算出し、
算出された潜像面積比率を潜像形成能力の評価指標とする請求項6記載の静電潜像の評価方法。
【請求項8】
表面電荷分布を有する感光体試料に対して荷電粒子ビームを照射することによって得られる検出信号により前記感光体試料の静電潜像を計測し評価する装置であって、
真空内において、前記感光体試料に電子線を照射して帯電させる帯電手段と、帯電させた前記感光体試料に対して光照射を行うことにより除電を行う除電手段と、静電潜像パターン形成手段と、を備え、
前記帯電手段による帯電と前記除電手段による除電とが繰り返し行われることで前記感光体試料を疲労させた後、前記帯電と前記除電とを行った位置と同一の位置において前記感光体試料に静電潜像パターンを形成して評価する評価手段を備える静電潜像の評価装置。
【請求項9】
前記感光体試料に入射する荷電粒子の試料垂直方向の速度ベクトルが前記感光体試料への到達前に反転するような領域が存在する電位ポテンシャル及び加速電圧条件下で、前記感光体試料の表面の電位ポテンシャルを変えるために前記感光体試料の背面に電圧を印加して静電潜像を計測する請求項8記載の静電潜像の評価装置。
【請求項10】
請求項8又は9記載の静電潜像の評価装置を用いて計測した感光体試料を備え、この感光体試料の表面に対して光走査を行うことにより静電潜像を形成し、現像して可視化する画像形成装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図2】
【図3】
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【図19】
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【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【公開番号】特開2011−107651(P2011−107651A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−265567(P2009−265567)
【出願日】平成21年11月20日(2009.11.20)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年11月20日(2009.11.20)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】
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