静電的反発作用−親水性相互作用クロマトグラフィーによる帯電溶質の分離
【課題】特定の荷電溶質を定組成的に且つ迅速に分離する新規方法を提供する。
【解決手段】タンパク質、ペプチド又はアミノ酸で静電的反発作用-親水性相互作用クロマトグラフィーを実施する方法であり、該方法は、約4未満のpHでアニオン交換材料のカラムを準備すること、及び、固定相の静電的反発作用と親水性相互作用とを実質的に平衡させるのに十分な有機溶媒の量を含む移動相を使用して、前記化合物を溶離させることを含む。本発明の別の態様は、核酸またはヌクレオチドで静電的反発作用-親水性相互作用クロマトグラフィーを実施する方法であり、該方法は、約3.4未満のpHでカチオン交換材料のカラムを準備すること、及び、固定相の静電的反発作用と親水性相互作用とを実質的に平衡させるのに十分な有機溶媒の量を含む移動相を使用して、前記化合物を溶離させることを含む。
【解決手段】タンパク質、ペプチド又はアミノ酸で静電的反発作用-親水性相互作用クロマトグラフィーを実施する方法であり、該方法は、約4未満のpHでアニオン交換材料のカラムを準備すること、及び、固定相の静電的反発作用と親水性相互作用とを実質的に平衡させるのに十分な有機溶媒の量を含む移動相を使用して、前記化合物を溶離させることを含む。本発明の別の態様は、核酸またはヌクレオチドで静電的反発作用-親水性相互作用クロマトグラフィーを実施する方法であり、該方法は、約3.4未満のpHでカチオン交換材料のカラムを準備すること、及び、固定相の静電的反発作用と親水性相互作用とを実質的に平衡させるのに十分な有機溶媒の量を含む移動相を使用して、前記化合物を溶離させることを含む。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、クロマトグラフィー法、特に親水性相互作用クロマトグラフィーによる荷電溶質の分離の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
混合物中の溶質はその特性が大きく異なることがある。逆相クロマトグラフィー(RPC)では、これは極性の差に関係する。イオン交換クロマトグラフィーに関しては、これは荷電の差に関係する。一般に、混合物中の全ての溶質を同じ時間枠で確実に溶離するためには、ある種の勾配溶離液が用いられる。
【0003】
親水性相互作用クロマトグラフィー(HILIC)なる用語は、通常、10〜40%の水溶液である移動相を使用する順相クロマトグラフィーを記載するために1990年に作られた言葉である[1]。十分に極性の固定相材料はこの移動相よりも極性が高いので、極性の溶質を保持する。保持時間のメカニズムは、動的移動相(dynamic mobile phase)と極性の固定相が水和される移動速度の遅い水層との間での分配を前提とする。溶質がより極性であればあるほど、溶質はこの停滞した(stagnant)水性相とより一層結びついて、もっと遅れて順相方向に溶出する。HILICは早くも1975年には炭水化物の分析で使用されていた[2,3]。主に有機移動相で溶離されるSephadexの場合には、分離メカニズムは早くも1967年には解明されていた[4]。逆相クロマトグラフィー(RPC)は非極性溶質用なので、HILICは通常、極性の溶質の分析に有用である。1990年以来、HILICは幅広い種類のペプチド[5〜10]、複雑な炭水化物[11]及びある種のタンパク質[12〜15]に適用されてきており、医薬品[16〜17]、サポニン[18]、尿素[19]、アミノグリコシド系抗生物質[20]、グルコシノレート[21]、糖及びグリカン[22〜24]、葉酸及びその代謝物[25]、ニコチン及びその代謝物[26]、並びにグリコアルカロイド[27]などの小さな極性溶質にますます適用されるようになってきている。YoshidaはペプチドのHILICに関係する変数について検討した一連の論文を発表している[28〜30]。Hemstrom及びIrgumは全ての分野を調査し、分離か吸着のどちらが分離メカニズムを担うかを解明しようとした意欲的な論文を発表した[31]。通常の順相クロマトグラフィーにおいて見られるように、溶離用勾配は移動相の極性を徐々に高める。ここでは、塩濃度を高めて使用してもよいが、通常、有機溶媒の濃度を低下させることを伴う。親水性相互作用は、60〜70%の有機溶媒を含む移動相中の塩を徐々に高める勾配で実施することによって、イオン交換カラムの混合モードとして重ね合わせることができる。これらの条件は、弱イオン交換カラム[32〜37]でヒストン変異体を分割するのに十分に機能し、Robert Hodgeのグループから相次いで発表された多数の論文では、強カチオン交換カラムでのペプチドのクロマトグラフィーにも使用されてきた[38〜40]。
【0004】
親水性相互作用は、通常、HILICを用いて溶離プロフィールを決定する。しかしながら特定の条件下では静電効果が影響を及ぼすこともあり、時には帯電溶質の溶離を複雑にしてしまうこともある。たとえば静電的反発作用は固定相の細孔の中の殆どまたは全ての容積から酸性アミノ酸を閉め出してしまうので、酸性アミノ酸はカチオン交換カラムの空隙容量(void volume)より先に溶出する。しかしながら移動相が60%を越える有機溶媒を含むならば、この酸性アミノ酸は、中性カラムと同様にカチオン交換カラムによっても殆ど保持される。移動相中に十分量の有機溶媒があると、親水性相互作用は静電効果に打ち勝ってクロマトグラフィーを左右する。
【0005】
HILICにおける静電効果の別の例は、リンタンパク質の分離である。ヒストンタンパク質は塩基性であり、カチオン交換カラムによく保持される。ヒストンタンパク質に結合する全てのリン酸基はカラムと静電的に反発するので、タンパク質が早期に溶離してしまう。しかしながら移動相に高レベルの有機溶媒があれば、リン酸基とカラムとの間に親水性相互作用が生じる。このため、静電的反発力にもかかわらずリン酸化ヒストンが遅れて溶離する[32]。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
静電効果は、HILICによる帯電溶質の分離にとって重要な意味をもつ。通常、塩基性溶質はHILIC中で最もよく保持され、続いてリン酸化溶質が保持される[1]。従って、ATPなどの非常に塩基性のペプチドやヌクレオチドを含むサンプルを溶離するには、勾配が必要である。極端な例では、有機溶媒濃度を減らし且つ塩濃度を上昇させた勾配が必要である[8]。勾配の使用は定組成(イソクラティック)溶離よりもずっと複雑で、余分な装置を必要とする。定組成溶離を用いると、非常に長時間の溶離プロフィールが必要になるかもしれない。さらに好適な勾配溶離条件を選択しなければ、分離がうまくゆかないこともある。特定の荷電溶質を定組成的に且つ迅速に分離する新規方法に対する需要がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明の概要
一側面において、タンパク質、ペプチドまたはアミノ酸で静電的反発作用-親水性相互作用クロマトグラフィーを実施する方法は、約4未満のpHでアニオン交換材料のカラムを準備すること;及び固定相による静電的反発作用と実質的に平衡する親水性相互作用を与えるのに十分な有機溶媒の量を含む移動相を使用して、前記化合物を溶離することを含む。本方法は、たとえばリンタンパク質を定組成的に、または塩勾配を使用して選択的に単離するのに有用である。別の側面において、核酸またはヌクレオチドでERLICを実施する方法は、約3.4未満のpHでカチオン交換材料のカラムを準備すること;及び固定相による静電的反発作用と実質的に平衡する親水性相互作用を与えるのに十分な有機溶媒の量を含む移動相を使用して、前記化合物を溶離することを含む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
図面の簡単な説明
本発明の目的、特徴及び有利な点は、付記図面中に示されている本発明の特定の態様に関するより詳細な説明から明らかになろう。
【0009】
発明の詳細な説明
本発明は、HILICの間に非常に保持されにくいか又は非常に強く保持される高荷電溶質をもつ混合物を分離するためにクロマトグラフィー分析法を実施する新規な方法を紹介する。この戦略は、イオン交換と親水性相互作用の原理を組み合わせることを含む。本発明の方法を使用することにより、HILICでもイオン交換クロマトグラフィーのいずれでも固定相によって保持されないか又は非常によく保持されるアミノ酸、ペプチド、核酸またはヌクレオチドを適当な時間枠で効率的に分離することができる。本方法は親水性相互作用と静電的相互作用の両方の分離能力を重ね合わせたものであり、これによっていずれかの方法のみで得られる極端な保持時間を中和(相殺)することができる。特定の溶質に関する長短の保持時間を両方とも排除することによって、本方法は複雑な勾配による溶離が必要な異成分からなる混合物を定組成的に分離することができる。このクロマトグラフィー法の新しい組み合わせは、静電的反発作用−親水性相互作用クロマトグラフィーと呼ばれる。
【0010】
ERLIC法は、固定相に適切な移動相を合わせること、及び、サンプルを定組成的に且つ迅速に分離するためにサンプルを分離または分析することとを含む。ERLICでは、この結果を得るために以下の二つの原理を使用する。(1)固定相はサンプル中の化合物の大半と同じ極性の電荷を持つべきである。これによって親水性相互作用を通して固定相に強固に保持される高荷電溶質の過度の保持時間を防ぐ静電的反発作用を提供する。(2)一種以上の溶質に対して固定相の反発力が強すぎて、溶質が非常に早く(たとえば空隙容積よりも先に)溶離される場合には、移動相内の有機溶媒の量を増やすべきである。このようにして、親水性相互作用の強さを高めることによって、たとえば固定相と同じ極性の複数の荷電を持つような、すぐに溶離されてしまう溶質の保持時間を長くする。このことは、たとえば、移動相中のアセトニトリルまたはプロパノールの濃度を上げることによって達成することができる。そのような溶質の保持時間は広範囲にわたって増加させることができる。好ましくは、保持時間を短くしてサンプルの全体の溶離時間を短縮させるか、又は、保持時間を長くしてサンプル中の成分を定組成的に分離する本方法の能力を向上させる。多荷電溶質の保持時間を短くして、サンプル中の他の化合物と同じ時間枠内で溶離させるのが最も好ましい。
【0011】
ERLICの通則
一般的な定組成条件を使用することにより、ERLICは、通常、勾配を必要とする種々の小分子または巨大分子(macromolecule:高分子)の分離または分析を可能にする。ERLICは通常、HILIC(たとえば、10〜40容積%の水を含む移動相と、化合物が空隙容積よりも大きい容積で溶離するように移動相よりも極性の高い固定相材料を使用する)条件下で固定相によって保持されるのに十分な極性をもつ任意の化合物に適用することができる。ERLICは一つ一つの化合物の分析にも、混合物からの化合物の分離にも一様に適している。分析モードでは、化合物は標準に対するその溶離位置を基準として同定することができるか、又は、化合物の混合物の純度または組成は、混合物の全体の溶離プロフィールによって評価することができる。分取モードでは、ERLICは個々の化合物を物理的に分離することによって化合物から特定の化合物を単離または精製するために適用することができる。個々の化合物は、カラムから溶離する時に、その溶離プロフィールの区別可能なピークに対応する。ERLICは、アミノ酸、ペプチド、ポリペプチド、タンパク質、ヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、またはポリヌクレオチドの分離または分析に適用することができる。
【0012】
ERLIC法は、多くのHILIC分離法を定組成的に実施させることによって、クロマトグラフィー法による分離の展開をかなり単純化することができる。しかしながら、全ての化合物がそのような処理に容易に適用できるとは限らない。多数の分子(たとえば50種を超えるペプチド含むタンパク質の消化物など)を含む複雑な混合物は、一回の定組成手順を使用して完全に分離することはおそらくできないであろう。しかしながら、特に分析的モードでの完全分離は必ずしも必要ではない。たとえば検出器として質量分析計を使用する場合、それぞれのペプチドのイオン化は他のペプチドの存在によって干渉されない程度まで、単一ピーク又は非分割ピーク群として同時に溶離する多くのペプチドを減らしさえすれば十分である。自動サンプルインジェクターを使用して多くの種類のサンプルを迅速に分析することができ、それぞれのサンプルは先のサンプルのERLIC溶離ウィンドウの後で注入される。勾配溶離法では通常追加のポンプと勾配形成装置が必要になるので、定組成溶離法の利用は、装置に対する要求を単純化する。さらに、ERLICではシリコンウエハまたはチップ上で実施する分離に有用であり、そこで多くのサンプルを別々のチャネルで微小スケールで同時に分析することができるかもしれない。そのような用途のための流速は、1分当たりナノリッターのオーダーとなる可能性がある。そのような分離を定組成的に実施できたならば、かかる分離に必要な装置は随分簡略化される。
【0013】
固定相の選択
HILICと同様に、ERLICでは固定相は親水性材料から構成される。さらにERLICでは、固定相材料は移動相のpHにおいて正又は負のいずれかに帯電されなければならい。具体的な材料については実施例で記載する。
【0014】
移動相の選択
HILICと同様に、ERLICにおける移動相は固定相よりも極性が低い(より疎水性である)。固定相材料が結合水の停滞層を形成できるように、移動相は少なくとも2容積%の水を含まなければならない。これが極性の低い溶質よりも極性の高い溶質を長時間保持する際に役に立つ。通常、移動相はアセトニトリル、メタノール、プロパノールまたは水と混和性の同様の極性をもつ別の溶媒などの有機溶媒を約40〜90容積%含む。有機溶媒の濃度は、当該化合物の保持時間を変動させるために望み通りに調節することができる。移動相のpHは固定相と溶質の正味荷電を設定する際の重要な因子であり、これは当該化合物の保持時間にも影響する。
【0015】
ERLICにおいて化合物の溶離時間を調節するための方法
ERLIC法は、HILICで直面する数個の極端な保持時間に対処するのに特に適している。上記のように、ERLICのHILIC成分は早く溶離する分子種を後方の溶離時間へシフトさせて、うまく分離させることができる。移動相をうまく調節すると、ERLICの静電的反発成分は遅れて溶離する分子種をより早く溶離させて、実行時間を短縮しつつ、分離には殆どまたは全く悪影響を与えない。以下のケースが例示となる。
【0016】
静電的誘引力による非常に酸性の強いペプチドの遅れた溶離
非常に酸性の強いペプチドは、固定相に対する静電的誘引力のため、HILICを使用するアニオン交換クロマトグラフィーの最中に過度に保持されてしまう可能性がある。この問題を解決する一つの方法は、アスパラギン酸残基とグルタミン酸残基とを帯電させないような十分に低いpHの移動相を使用して、殆どのペプチドを中性または塩基性にすることである。本発明の定組成方法を使用して、親水性相互作用がクロマトグラフィーを制御し、且つ静電的誘引力が不足しているにもかかわらず酸性ペプチドの保持時間を確保するレベルまで移動相の有機溶媒含量を増やすことができる。
【0017】
親水性相互作用による非常に塩基性の強いペプチドの遅れた溶離
非常に塩基性のペプチドはHILICモード中で極性カラムから遅れて遊離する。固相による静電的反発作用、即ちERLIC法を使用すると、そのようなペプチドは中性または穏和な酸性ペプチドと同じ時間枠内で溶離させることができる。この作用は、固定化塩勾配(immobilized salt gradient)の場合と同様であろう。
【0018】
静電的反発作用による空隙容積に先行した塩基性ペプチドの溶離
正に帯電した固定相を使用してAEXモードでペプチドを分離する場合、塩基性ペプチドは静電的反発作用によって空隙容積中またはそれ以前に溶離する(図1参照)。これにより分画範囲が狭くなってしまい、利用が制限されてしまう。しかしながら、十分量の有機溶媒が移動相内に含まれていれば、親水性相互作用は静電的反発作用に打ち勝つのに十分に強くなるため、より長く、より適切な保持時間と改善された分離が得られる。
【0019】
静電的反発作用は、酸性アミノ酸を固定相の最大細孔容積へ近づけさせないので、酸性アミノ酸はカチオン交換カラムの空隙容積より先に溶離する。しかしながら、移動相が>60%の有機溶媒を含む場合、酸性アミノ酸は、極性の中性カラムによる場合と同様に極性のカチオン交換カラムによって殆ど保持される[1]。この見かけ上の異常は、親水性相互作用が静電的作用に依存しないという事実を表す。移動相に十分量の有機溶媒が存在する場合、親水性相互作用がクロマトグラフィーを支配する。かくして、リン酸基は有機溶媒の不存在下で、カチオン交換カラム上での塩基性ヒストンタンパク質の保持時間を短くするが、移動相が70%ACNを含んでいる場合、その保持時間に正味の増加をもたらす[32]。これらの条件下では、リン酸基によって与えられた親水性相互作用は、固定相による静電的反発作用よりも強い。
【0020】
この現象は重要な意味をもつ。塩基性溶質は通常HILICでは最もよく保持され、次にリン酸化溶質が続く[1]。サンプルがATPなどの非常に塩基性のペプチドまたはヌクレオチドを含む場合、勾配が必要である。極端な例では、有機溶媒濃度の減少と塩濃度の増加の両方のために勾配が必要である。しかしながらペプチドの場合には、アニオン交換カラムをHILICに使用したならば、勾配はおそらく必要でない。この組み合わせは、以下の三つの保持時間の極端な例に対処する。(1)静電的誘引力による非常に酸性のペプチドの遅れた溶離;この状態はアスパラギン酸残基及びグルタミン酸残基を帯電させないために十分に低いpHの移動相を使用することによって緩和され、殆どのペプチドを中性または塩基性の状態にすることができる。実際、pHを低下させていく勾配をアニオン交換カートリッジで使用して、トラップされた酸性ペプチド[41]を放出させ、タンパク質を脱塩してきた[42]。(2)親水性相互作用による非常に塩基性のペプチドの遅れた溶離;固定相による静電的反発作用は、そのようなペプチドを中性または穏やかな酸性ペプチドの溶離時間枠にもどすことになるであろう。この効果は、固定化塩勾配を持つことに類似する。(3)静電的反発作用による空隙容積に先行した塩基性ペプチドの溶離;酸性アミノ酸と同様に、高レベルの有機溶媒の不存在下では、塩基性ペプチドは、同一電荷のカラムの細孔容積から閉め出される(図1)。これは一種のイオン排除クロマトグラフィー[43〜45]であるが、その分画範囲が狭いので用途の限定された方法である。しかしながら、移動相中に十分量の有機溶媒を配合して、そのようなペプチドの適当な保持時間に十分な親水性相互作用を発生させることができる。
【0021】
これらの条件下では、混合物中の全てのペプチドは、(中性のペプチドを除いて)ある程度固定相によって反発を受けるものの、親水性相互作用によって保持される。頭字語ERLICはこの組み合わせのために提案されたものであり、静電気反発作用−親水性相互作用クロマトグラフィーを表わす。この二つの組み合わせモードは互いの保持時間の極端な例を相殺するので、異種ペプチド混合物の定組成分離は実用的かもしれない。
【0022】
リン酸基またはサルフェート基を含んでいたペプチドは、Asp-残基及びGlu-残基を帯電させないくらいの十分に低いpHでさえも幾らか負電荷を保持するであろう。そのようなペプチドは、ERLICで使用する固定相に対して幾らか静電的誘引力を示すことになるであろう。これは不利益というよりむしろ利点となる;生化学における種々の用途では、消化物からホスホペプチドの選択的分離を可能にする方法の恩恵を受けるだろう。ここでERLICは、固定化金属アフィニティクロマトグラフィー(IMAC)及び、チタニア、ジルコニアまたはアルミナなどのルイス酸に代替物を表す。ペプチドが二種以上のリン酸基またはサルフェート基を含んでいた場合、塩勾配を使用する溶離がそれでも必要なこともある。
【0023】
ペプチドに加えて、ERLICは原理上、正か負かいずれかの十分な電荷をもつ他の溶質に適用することができる。この研究では、ペプチド、アミノ酸、ヌクレオチド及びオリゴヌクレオチドに適用するERLICの特徴及び有用性を詳しく検討する。
【実施例】
【0024】
材料及び方法
全てのカラムは、以下に記載したものを除いて、PolyLC Inc.(Columbia,MD)の製品であった。PolyWAX LP(商標)、弱アニオン交換材料をペプチド及びアミノ酸に関して使用した。ペプチドに関してはカラムは次のいずれかであった:1)100×4.6mm,5μm粒径、300Å孔径(アイテム#104WX0503)、または2)200×4.6mm,5ミクロン、300Å(アイテム#204WX0503)。アミノ酸に関しては、カラムは200×4.6mm、5μm、100Å(アイテム#204WX0501)であった。ヌクレオチドのERLICに関しては、強カチオン交換材料PolySULFOETHYL Aspartamide(商標)(PolySULFOETHYL A:商標)の200×4.6mmカラムを使用した;5μm、300Å(アイテム#204ES0503)。ペプチド(図2及び4)、ヌクレオチド及び核酸に関するHILICデータは、PolyHYDROXYETHYL Aspartamide(商標)(PolyHYDROXYETHYL A:商標)[1]の200×4.6mmカラム、5μm、300Å(アイテム#204HY0503)で得た。アミノ酸のHILICデータは、5μm、100Å、PolyHYDROXYETHYL A(商標)(アイテム#204HY0501)の200×4.6mmカラムで得た。
【0025】
装置:Scientific Systems Inc./Lab Alliance(State College,PA)エッセンスHPLCシステムを使用した。
試薬:以下のもの:9(Sigma Chemical Co.,St.Louis,MO);15、16(Peninsula Laboratories,Belmont,CA);及び13、18〜20(California Peptide Research,Napa,CA)を除いて、ペプチド標準1〜20は、Bachem(Torrance,CA)から購入した。アミノ酸、ヌクレオチド及び核酸標準はSigma社から入手した。リン酸及びアセトニトリル(ACN)[いずれもHPLCグレード]はFischer Scientific社(Pittsburgh,PA)から入手した。トリエチルアミン(99.5%)はAldrich Chemical社(Milwaukee,WI)から入手した。メチルホスホン酸はAlfa Aesar/Lancaster Synthesis社(Ward Hill,MA)から入手した。HPLCグレードの水を使用した。
【0026】
トリエチルアミンホスフェート(TEAP)緩衝液の0.5Mストック溶液を以下のようにして調製した;85%リン酸14.4gをビーカーに秤量し、攪拌しながら水150mlをゆっくりと添加した。トリエチルアミンを(フード中で)、所望のpHになるまで添加した。この溶液を250mlに希釈し、濾過(0.45μmフィルター)した。メチルホスホネートストック溶液を、同じ手順を使用し、トリエチルアミンかNaOH溶液かいずれかを添加して調製した。移動相は水、ACN、及びストック溶液のアリコートから調製した。解離定数は主に有機溶液[47]中でシフトするが、解離定数は、移動相の調製に使用したストック溶液のpHによって指定されたので、移動相のpHは測定も調整もしなかった。
【0027】
ペプチド標準:
【0028】
【化1】
【0029】
ペプチドのERLIC
A.標準の選択
1)トリプシンペプチド:His-残基または切断ミス(missed cleavage)を含むものを除き、トリプシンペプチドは二つの塩基性基だけ、N-末端とC-末端Arg-またはLys-残基を含む。このため、過度に塩基性のペプチドは全く存在しないので、分析が簡略化される。従って多くのトリプシンペプチドを標準に含めて、予想される溶離時間範囲についての知見を得た。標準1〜5は0または1個の酸性残基をもつ通常の配列であった。標準6は、非常に酸性のトリプシン配列である。標準18〜20は、一つの位置でAsp-、isoAsp-またはphosphoSer-残基で置換されたトリプシン配列である。このサンプルセットにより、保持時間におけるこれらの残基の効果が評価できる。
2)酸性ペプチド:標準7〜9はN-末端以外には、塩基性基を全く持たない酸性ペプチドである。phosphoTyr-残基を取り囲む配列にはよくあることであるが、標準10は非常に酸性のホスホペプチドである。標準11〜13、DSIPペプチドは、C-末端Lys-の代わりにGlu-残基が置換されていることを除き、標準18〜20と同じ配列をもつ。置換されている残基だけがペプチド中の酸性残基ではないので、標準18〜20よりも制御されていなくても、これにより、Asp-をisoAsp-またはphosphoSer-残基と置き換える効果を評価することができる。
3)塩基性配列:標準15〜17は非常に塩基性のペプチドである。標準14、ACTHは、塩基性残基とほぼ同数の酸性残基をもつ。これにより、ペプチドの全保持時間におけるそのような残基の相対的重要度を評価し易くなる。
【0030】
【表1】
【0031】
B.移動相の選択
表1は、TEAP対ナトリウムメチルホスホネート(Na-MePO4)緩衝液の場合の保持時間の予備的な比較を示す。TEAP緩衝液を使用すると、酸性ホスホペプチド(標準10及び13)の保持時間は他のペプチドの保持時間よりも著しく長くはなかったが、塩基性標準13〜17の保持時間は他の殆どのペプチドよりも長かった。この選択性、通常のHILICの特徴は所望のものと正反対であった。対照的にNa-MePO4緩衝液の選択性はERLICの所望の特徴を示し、塩基性ペプチドを迅速に溶離させ、ホスホペプチドを遅れて溶離させた。従って、Na-MePO4緩衝液をペプチドのERLICの詳細な検討のために選択した。
【0032】
C.%有機溶媒の効果;HILIC対ERLIC
図2は、HILICでのペプチド標準1〜20の定組成保持時間における%ACNの効果を示す。塩基性ペプチド(標準14〜17)は群を抜いてよく保持される。ホスホペプチドを含む他のものは概して同じ時間枠で溶離する。図3は、ERLIC条件下での同じ標準を示す。静電的反発力のせいで、塩基性ペプチドは、ACNレベル70%以下で他のペプチドと同じ時間枠で溶離する。HILICとERLICにおけるこの相違は図4において明らかである。図4では、両方のモードにおいて実施したペプチド標準セットのクロマトグラフを比較する。HILICモードでは、100分未満で塩基性標準15と17を定組成的に溶離させるACNレベルでは、酸性標準と中性標準の保持時間が適当でなくなる。ERLICモードでは、15と17の静電的反発作用により、50分以内でこの例の全てのサンプルを適当な保持時間を与え、定組成的に溶離できるレベルにACN濃度を高めることができる。
【0033】
酸性標準7〜9と11は中性のトリプシンペプチドと同じ時間枠で溶離するので、図3の移動相の濃度とpHは明らかにカルボキシル基のイオン化を抑制するのに十分である。酸性トリプシンペプチド6は、他のトリプシンペプチドよりもかなり長く保持される。図1から判定すると、これはその親水性と同様にその酸性度を反映している。isoAsp-含有ペプチドは、そのAsp-含有類似体よりも幾らか遅れて溶離する(たとえば12対11)。65〜70%ACNの間では、リン酸化標準20は最後かまたは殆ど最後に溶離するトリプシンペプチドである。酸性ホスホペプチド13はこれらの条件下では他の標準よりも相当遅れて溶離するが、もっと酸性のホスホペプチド標準10は適当な時間枠内で全く溶離しない。このことは、高レベルの塩を使用せずにERLICで適当な時間枠内で確実に溶離させる際に、トリプシンフラグメントにおける第二の塩基性残基と付随する静電的反発作用が担う役割の重要性を強調する。高レベルACNでホスホペプチドの保持時間が大きく増加することは、その静電的誘引力と組み合わされるリン酸基の高い親水性を反映する。しかしながら、70%を超えるACNレベルでは親水性相互作用がとても強いので、塩基性ペプチドの中には(15及び16)、静電的誘引力にも関わらず再び最もよく保持されるペプチドになってしまうものもある。このこと、消化物からホスホペプチドを選択的に単離するACN濃度のウィンドウを制限するようである。もちろん、切断ミスのないトリプシン消化物では、架橋していないか又はHis-を含まない限り、どのペプチドも多くの塩基性残基をもたない。
【0034】
図3は、混合物中の全てのペプチドに関する定組成的溶離の明確なウインドウを設定できることを示唆している。このウインドウの幅は%有機溶媒を変動させることによってある程度調節することができる。どれも特に塩基性でないか、リン酸基を含んでいない限り、ペプチドの構成は重要ではない。
【0035】
D.ERLICにおけるpHの効果
図5はERLICでの保持時間に対するpHの効果を示す。カルボキシル基はpH2.0で実質的にイオン化されていないので、最も良く保持されるペプチドはホスホペプチド13であり、適当な範囲はトリプシンホスホペプチド20である。カルボキシル基は高pH値でイオン化するので、保持時間はあらゆる酸性基の総数を反映するようになり、ホスホペプチドの選択性は失われる。これらの条件は、通常のアニオン交換クロマトグラフィーの条件に収束する。中性のトリプシンペプチドは、親水性相互作用によって殆ど完全に保持される。その保持時間は、移動相が適当な濃度の塩を含む限り、pHによって殆ど影響されない。酸性ペプチドの保持時間はpH5.0で最大に到達し、高pH値では低下する。これは、弱アニオン交換(WAX)材料の電荷密度の低下を反映する。そのような材料の懸濁液の滴定曲線から、pH9.5〜pH5.0で電荷密度が連続して上昇することが明らかになった[48]。
【0036】
E.ERLICにおける塩濃度の効果
図6は、選択性を決定する際のこの変数の重要性を示す。塩濃度を増加させると、全ての静電効果、誘引力と反発力のいずれからも溶質を保護し、選択性はHILICと同じになる。かくして酸性ペプチドに対しては保持は減少し、塩基性ペプチドに対しては保持時間は増加し、塩基性ペプチドが再び高い塩レベルで最もよく保持されるようになる。塩の増加につれて中性トリプシンペプチドの保持時間は緩やかに増加する。おそらくこれは、そのC-末端の塩基性残基とN-末端の反発力の減少を反映している。
【0037】
このデータは、混合物中の全てのペプチドの溶離のはっきりしたウィンドウ用の条件を設定する際に図3のデータを補完する。移動相中に十分量の塩があれば、多くの塩基性またはリン酸基をもつペプチドでさえも明確な時間枠内で溶離する。
【0038】
F.ホスホペプチドの選択的単離
先のデータは、一つのリン酸基をもつペプチドは、70%ACNを含む20mM Na-MePO4、pH2.0でトリプシン消化物を溶離したときに一番最後であるか、または一番遅れて溶離するペプチド群の中に存在することを示唆した。二つ以上のリン酸基をもつトリプシンペプチドは、勾配溶離が必要であることが証明された。塩を増加させ、ACN濃度を緩やかに減少させる勾配法を選択した。勾配法に選択した塩はTEAPであり、これはホスホペプチドの溶離の際にNa-MePO4よりも効果的である(表1)。
【0039】
図7は、約14個のフラグメントを含むタンパク質ベータ−カゼインのトリプシン消化物を示す。これらのペプチドの一つはリン酸基1個をもち、別のペプチドはリン酸基4個をもつ。上部クロマトグラムは、pH2.0におけるPolyWAXLP(商標)(アニオン交換材料)上に流されたこの消化物を示す。これらの条件下ではペプチド中のカルボキシル基はその負の電荷を失っている。正に帯電したカラム材料と二つのホスホペプチド中の負に帯電したリン酸基との間には静電的誘引力がある。またカラム材料と、全てのトリプシンペプチドの正に帯電したアミノ末端とC-末端のリジンまたはアルギニン末端との間には静電的反発力がある(トリプシンはアルギニンまたはリジン残基のC-末端側で切断する)。
【0040】
通常、静電的反発作用は、ペプチドとちょうど1個のリン酸基の静電的誘引力に勝る。塩基性基と固定相との親水性相互作用が静電的反発力とうまく釣り合うように、移動相に過不足のない有機溶媒を添加することによって相殺されている。結果として、リン酸基が欠けているトリプシンペプチドは空隙容積の中又はそれに遅れて溶離するが、リン酸基をもつトリプシンペプチドは、固定相に対してさらなる静電的誘引力をもつため、よりもっとよく保持される。リン酸基1個をもつペプチドは適当な時間で定組成的に溶離することができるが、複数個のリン酸基をもつペプチドに関してはあてはまらない。従って、塩を増加させ(20〜200mM)、有機溶媒濃度をわずかに減少させる(70〜60%)勾配法を含む標準条件を使用した。ナトリウムメチルホスホネート、ホスホペプチドの保持を促進する塩からホスホペプチドの溶離を促進する塩であるTEPAに勾配法の塩の変更も行う。ホスホペプチドピークは溶離の際に回収し、マススペクトルにより同定した。
【0041】
上部クロマトグラムは、この消化物中の二つの予想されたホスホペプチドを示す。ペプチド配列は、アミノ酸に関して1コード文字で表す。強調された「S」はリン酸基をもつセリン残基を表す。この消化物中で通常含まれるテトラホスホペプチドは、切断されずに残った配列(missed-cleavage sequence)である。ベータ-カゼインのN-末端アミノ酸はアルギニンであり、トリプシンは通常その位置では塩基性残基を切断しない。しかしながら図7では、正しく切断されたテトラホスホペプチドが、切断されずに残ったフラグメントと一緒に1:6の比で得られる。いずれのテトラホスホペプチドも市販の標準(クロマトグラム#2)でははっきりしている。モノホスホペプチド市販の標準(クロマトグラム#3)は、全消化物(最上段)中の相当するピークと同時に溶出した。
【0042】
図7最下段のクロマトグラムは、アルカリホスファターゼで処理した後の消化物を示し、アルカリホスファターゼはタンパク質とペプチドのリン酸基を加水分解する。ここでホスホペプチドと同定された全部で三つのピークは保持された溶質の領域から消失し、幾つかの新しいピークが最初の非ホスホペプチド領域に出現した。このことから、ホスファターゼ処理の前の同一物はホスホペプチドであることが確認される。
【0043】
図8はベータ−カゼインのトリプシン消化物を示す。これはERLICモードでのアニオン交換カラムのホスホペプチドの移動(図7と同じ)と、通常のアニオン交換(AEX)モードで使用した同一カラムでのその移動とを比較する。いずれのAEX移動相もちょうど10%アセトニトリルを含み、クロマトグラフィー上の親水性相互作用を与えるのに決して十分ではなかった点を除いては、条件は同一であった。テトラホスホペプチドは依然としてよく保持されたが、今度はモノホスホペプチドが非ホスホペプチドの中でもずっと早く溶離する。AEXモードでは明らかにペプチド中の二つの塩基性基の静電的反発作用が1個のリン酸基の誘引力よりも強い。またホスホペプチドピークの同定は、アルカリホスファターゼで処理した消化物を処理し、これをERLICモードとAEXモードの両方で流すことにより確認する。このデータは、AEXはトリプシン消化物からの単一リン酸化ペプチドの単離に適していないが、ERLICは適していることを示す良い例である。
【0044】
図9は、合成ホスホペプチドを示す。これは同一アミノ酸配列をもつ合成ペプチドのセットである。これらはセリン残基で0、1、2、3または4個のリン酸基をもつという点で異なる。挿入部分は位置異性体:別々のセリン残基上であるが同数(2個)のリン酸基をもつ二種のペプチドの分離も示す。溶離条件は、スライド1及び2と同一であった。全てのペプチドはERLICモードで保持、分離され、ホスホペプチドは非ホスホペプチドよりもずっとよく保持された。アニオン交換(AEX)モードでは、0または1個のリン酸基をもつペプチドは、再び空隙容積の中又はその付近に溶離し、分離はうまくいかなかった。
【0045】
ピークのうち幾つかで得られた二重線(doublet)は一つのプロリン残基の周囲のシス−トランスコンフォメーション異性体の分離を表す。そのような配座異性体間の相互変換は、クロマトグラフィーの時間スケールに対してはゆっくりなことがあるが、文献では散見される。BとDの標準だけの下のクロマトグラムは、還元糖またはオリゴ糖に関して文献に記載されているものと非常に似たDのピークを示す[11]。この場合、二つのピークは糖のアルファ-及びベータ-アノマーに対応し、これらの間の連続体(continuum)はHPLCカラムを通して移動する間に二つの形の間を相互転換する分子に相当する。
【0046】
このデータは、ホスホペプチド、ちょうど一個のリン酸基をもつものからの非ホスホペプチドの分離におけるERLICの有用性を示す。対照的にアニオン交換(AEX)は、リン酸基を二個以上もつペプチドを単離するのに使用することができるが、たった一個のリン酸基をもつペプチドには通常有用ではない。そのようなペプチドはトリプシン消化物中のペプチドの非常に大部分を占める。かくして、ERLICはプロテオミクスでの研究に有望であり、ホスホペプチドの単離及び同定への関心が引き続きもたれている。
【0047】
II.アミノ酸のERLIC
A.選択性に対する塩の固有性及び濃度の効果
図10の結果は図6のペプチドに比肩している。TEA-MEPO4に関しては、Na-MEPO4と同様に、酸性アミノ酸は顕著に保持され、塩基性アミノ酸は比較的早く溶離する。塩濃度を高めると、静電的反発作用と誘引力のいずれも抑制され、酸性アミノ酸は早く溶離し、塩基性アミノ酸は遅れて溶離する。塩濃度を高めるにつれて、中性アミノ酸の保持時間がやや減少する。これは、ERLICとHILICはいずれも順相クロマトグラフィーの改良型であり、移動相の極性を高めると溶離が促進されるということを意味する。また中性トリプシンペプチドと違って、中性アミノ酸は、高い塩レベルによって遮蔽される顕著な静電的反発作用を持たない。TEAP(図11)の結果は、表1のペプチドに比肩している。塩基性アミノ酸の保持時間は大きく、酸性アミノ酸は比較的保持時間が小さい。しかしながら、20mM未満の塩濃度は明らかに、対イオン層、または下の移動相を効果的に遮蔽する電気的二重層を維持するには低すぎる。結果としては、溶質は移動相のより多くの正の電荷に暴露されて、塩基性アミノ酸は静電的に反発を受けて早く溶離し、一方、酸性アミノ酸は引きつけられて、遅れて溶離するということである。これにより、同じ時間枠で酸性アミノ酸と塩基性アミノ酸のいずれをも定組成的に溶離することができる(図12)。塩基性アミノ酸と酸性アミノ酸との保持時間は、10〜20mMの範囲内の電解質濃度に対して非常に感受性であり;高い塩レベルは静電的反発作用から塩基性アミノ酸を保護してこれらを後で溶離させ、一方、この保護は酸性アミノ酸の静電的誘引力を低下させ、酸性アミノ酸を早く溶離させる。中性アミノ酸の保持時間はこの範囲では殆ど影響を受けない。これらの条件下では、Phe-、Trp-及びTyr-はLeu-、Ile-及びVal-から完全には分離されないので、混合物からは省略した。Gln-はpH2.0でピログルタミン酸に転換され、転換の半減期は約24時間である。
【0048】
通常、Asp-はHILICモードで実施するアニオン交換カラムから最後に溶離すると考えられており、Glu-とシステイン酸を超えるその電荷と親水性特性の両方を反映する。pH2.0はその官能基に実質的に帯電させないのに十分に低いので、残りのアミノ酸と同じ時間枠で溶離できる(間違った塩を使用しない限り、たとえば図10)。多量の塩を移動相に添加することによって静電的作用が相殺されない限り、pH4.0では、Aspは実際、他のアミノ酸よりもかなり遅れて溶離する(図12)。ピログルタミン酸はpH4.0で正味の負の電荷ももち、塩濃度が10から20mMに増加すると、その保持時間もかなり短縮される(9分から6分)。
【0049】
移動相中のACN濃度が65%から70%に増加すると、全てのアミノ酸の保持時間は親水性相互作用が大きくなるにつれて増加する(図13)。最も顕著な効果は、塩基性アミノ酸及び極性カラム材料が同じ電荷を保持しているときでさえ、塩基性アミノ酸−全ての中で最も親水性のもの−の保持時間が増加し、他のアミノ酸と同じ時間枠内でもはや溶離しなくなるということである。システイン酸の保持時間は、ACN濃度変化により顕著に影響を受けない。システインの代わりに標準としてここで使用するシステイン酸は、その保持時間がほぼ完全に静電的誘引力に起因する多くの疎水性アミノ酸の一つとみられる。これはpH2.0でさえも負の電荷を保持する(pK1〜1.3)。pH4.0では、Glu及びAspに対する電荷の不均衡はかなり小さい。
【0050】
同一条件下、PolyHYDROXYETHYL A(商標)カラムでアミノ酸を実施するのは有益である。共有結合しているコーティングはポリ(2-ヒドロキシエチルアスパルタミド:2-hydroxyaspartamide)、遊離N-及びC-末端をもつ中性のポリペプチドである。かくして、通常のイオン交換樹脂よりもずっと低いレベルではあるが、コーティングは潜在的に幾らか正と負の電荷をもつ。pH4.4では、これらの電荷は平衡がとれており、コーティングは事実上、中性の両性イオンである。このpHより上では、正味電荷は負であり、このpHより下では正味電荷は正である。コーティングが全体で適度な正の電荷をもつpH2.0では、PolyWAX LP(商標)カラムと同様に、移動相中の塩濃度が上昇すると塩基性アミノ酸の保持時間が増大し、酸性アミノ酸の保持時間が減少する(図14)。しかしながらpH4.0では、コーティングは中性に近く、塩の濃度が増加すると、塩基性アミノ酸も酸性アミノ酸も保持時間が減少する(Hisの保持時間がやや増加したことは除く)。再びACNレベルを増加させると、親水性相互作用と全てのアミノ酸の保持時間が増加し、特に塩基性アミノ酸では顕著である(図14)。
【0051】
トリエチルアミンホスフェート及びナトリウムメチルホスフェートなどの塩は、低波長で吸収を検出するのに使用でき、好都合なpH範囲では緩衝液であるため、HILIC移動相で非揮発性塩を使用するのは単に便宜上のことである。他の全ての本質的に中性の固定相と同様に、PolyHYDROXYETHYL A(商標)は、電解質添加剤として揮発性酸若しくは非緩衝化酸と一緒に、または溶質が電解質でない場合には添加剤なしで使用することができる。
【0052】
III.ヌクレオチド及び核酸のERLIC
A.HILIC対ERLIC
ヌクレオチド及び核酸は負に帯電したリン酸基をもつ。従ってこれらの化合物のERLICはカチオン交換カラムで実施した。図15は、中性材料、PolyHYDROXYETHYL A(商標)のカラムでのこれらの化合物のHILIC結果を比較する。親水性相互作用が無視し得る低ACN濃度では、ADPはその大きな静電的反発作用によりカチオン交換カラムからAMPよりも早く溶離する。リン酸基との親水性相互作用が顕著である高ACNレベルでは、その溶離順は逆になる。ATPは低ACNレベルではADPよりも早く溶離すると予想される。一見して異常な長い保持時間については後述する。中性カラムでは、静電的反発作用がなく、リン酸基の極性が大きいため、AMP、ADP及びATPの間の保持時間の差はずっと大きい。これは特に、ADPの場合である(ATPはこれらの条件下では適当な時間で中性カラムから溶離しなかった)。
【0053】
B.ERLICにおけるpHの効果
リン酸基が第二の負の電荷を獲得しようとしているpH6では、静電的反発力が非常に大きいので、ヌクレオチドもオリゴヌクレオチドも全く保持されない(図16)。pHが低下するにつれて、特にリン酸基がその単一の負の電荷を失い始めるpH3.4未満では、保持時間は増大する。この効果は、特に殆どのホスフェートを含む溶質、ATP及びd(A)5に関しては顕著である。あまりリン酸化されていない溶質に関しては、アデニン環上の正電荷が増加する効果(+1〜+2)と他のリン酸基上の負電荷が減少する効果とは分離することが困難である(pKa@3.6〜4.0、ヌクレオチドに依存する)。
【0054】
C.選択性に対する塩濃度及び種類の効果
図17は、ERLICでの保持時間における塩基の効果がU〜T<A<G<Cであることを示す。ここで使用するACNレベルでは、リン酸化は全ての場合において保持を促進する。塩濃度が高くなるとUMP、AMP及びGMP(しかしCMPではない)の保持時間も増大するが、このことは、静電的反発作用がこの範囲を通じて保持時間に対して特筆すべき要因であることを示している。対照的に、ジ-及びトリホスホヌクレオチドの保持時間は、40mMで最大に到達し、その後は降下する。可能な解釈としては、40mMの塩は反発作用の殆どを遮蔽するのに十分であり、それよりも高濃度では固定相の正に帯電した塩基の静電的誘引力を遮蔽するということである。この効果のメカニズムについては後述する。
【0055】
図18は、TEAPの代わりにTEA-MePO4で得られた結果を示す。関与する塩基に対する感受性を犠牲にして、リン酸基の数への感度が増加する。かくして、モノ-及びジホスホヌクレオチドの保持時間に対してトリホスホヌクレオチドの保持時間が大きく増加する。この変化のメカニズムについては後述する。TEAPは、同じ時間枠で全ての共通ヌクレオチドを定組成的に溶離させた場合、この二種の塩のうち、良い方である(図19)。
【0056】
A.ERLICの用途
汎用の定組成条件を使用すると、ERLICは通常、勾配を必要とする電解質混合物の分離を実現することができる。標準化された通過条件で定組成的に所定の分離を実施するクロマトグラフィーの他の唯一のモードは、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)である。SECの分離は、V0とVtとの間の範囲に入るピーク数に制限されている。そのような制限はERLICにはない。溶離ウィンドウは、移動相中の有機溶媒量を増加させることのみによって拡大することができる。極性作用は静電的作用よりも重要であるので、このことが選択性に影響する。従って、このアプローチの有用性は個別に評価されるべきである。それでもなお、特定の汎用通過条件は、広範囲の溶質に十分なようである。これによって方法の開発がかなり簡単になるはずであるが、すべての混合物がそのような処理に向くとは限らない。たとえば50種以上ものペプチドを含むタンパク質の消化物中の全成分を完全に分離するクロマトグラフィー法は一つもない。しかしながら、すべての場合に完全な分離が必要となるわけではない。たとえばマススペクトロメーターを検出器として使用する場合、互いのイオン化に干渉しない程度まで同時に溶離するペプチド数を減らすだけでよい。その場合、自動サンプルインジェクターを使用して多くの種類のサンプルを迅速に分析して、先行するサンプルのERLICウィンドウの後に各サンプルを注入する。定組成溶離法を使用すると、必要な装置を簡略化できる。ERLICは、多くのサンプルが微小スケールで多チャンネルで同時に分析され得るシリカウエハまたはチップ上で実施する分離に有用であろう。そのような用途での流速は、1分当たりナノリットルオーダーであろう。この分離を定組成的に実施できたならば、そのような分離に必要な装置を非常に簡略化する。最後に、ボトムアップまたはショットガンプロテオミクスの出現により多次元アプローチでペプチドの複雑な混合物を分画する代替的方法に対する要求が増加してきた。ERLICは、現行モードのクロマトグラフィーをうまく補完するものとなりそうである。
【0057】
質量分析法または蒸発光散乱検出器による検出では、揮発性塩をベースとするERLIC移動相の開発が必要である。ERLICでの保持時間における対イオンの顕著な効果は、移動相において非揮発性塩の代わりに揮発性塩を使用するどんな試みも複雑にしてしまう。選択性に関する特定の組み合わせを維持するには、極性とイオンの立体障害とを注意深く調和させなければならない。酢酸アンモニウムまたはプロピオン酸アンモニウムは、3を超えるpHがある用途に申し分のないものである限り、ナトリウムメチルホスフェートの好適な代替物であることが判明する可能性があり、他方、トリエチルアミンフォーメートはトリエチルアミンホスフェートの申し分のない代替品となり得る。
【0058】
B.選択性効果のメカニズム
ERLICにおける塩の選択は、選択性に大きな影響を与え得る。もしこれらの溶質が、小さいけれどもHPLCカラムを通ってそれらが移動する間に剛直な態様で配向していると仮定すると、このことは説明することができる。これはたとえばHILICで二糖類については既に示されている[11]。図20は、ERLICにおけるアミノ酸の配向図である。対イオンとしてホスフェートを使用すると、その潜在的な第二の負電荷により、表面に対して塩基性アミノ酸を引きつける手段を提供する。メチルホスホネートイオン中の第二の接近可能な負電荷を誘発するためのポテンシャルはかなり低い。このことは、塩基性アミノ酸とペプチドは、対イオンとしてメチルホスホネートを用いるERLICよりもホスホネートを用いるERLICでよく保持されるという観察結果を説明する。対照的に、TEAPの濃度が表面を完全に覆うのには低すぎる場合を除き、酸性アミノ酸は、固定相の表面のリン酸イオンの負に帯電した層から反発を受けて、TEAP緩衝液と一緒にすぐに溶離する。図12は、これが20mM未満のTEAPの場合であてはまることを示す。
【0059】
ヌクレオチドとの配向効果はもっと複雑なようである。図21は、AMPとATPの配向を対比する図である。非常に親水性のAMPのリン酸基は固定相に向かって配向しているが、固定相から反発を受ける。塩濃度を増加させると反発力は抑制され、AMPの保持時間は増加する。正に帯電した塩基に付随する対イオンの性質は、保持時間には殆ど影響しなかった。ATPに関しては、固定相による三つのリン酸基の反発力が非常に強いので、これらは固定相から離れて配向する。ここで塩基が固定相の方を向くと、図17に示されているように対イオンの性質によって保持時間は強く影響を受ける。この逆配向は、ACNと親水性相互作用の非存在下におけるカチオン交換カラム上のATPの保持時間も説明する(図15)。固定相に向かってそのように剛直に配向している塩基をもたないADPは、これらの条件下で空隙容積の中に溶離する。十分量のACNがある場合、リン酸基の親水性は、その配向がどのようなものであっても、分子上で正味の保持時間を与えるような程度である。
【0060】
同様の理由付けはERLICにおけるペプチドの配向にもあてはめる。塩基性残基がペプチドの正味保持時間を増やしても、おそらく塩基性残基は固定相から遠ざかるように配向する。これによって中性及び酸性残基の選択性が高まるであろう。かくして、HILICなどのクロマトグラフィーの他のモードで達成するのが難しい分離がERLICではできるはずである。注意すべき点としては、溶質が、固定相によって反発を受けない配向もドメインももっていなければ、ERLICは機能しないということである。
【0061】
本発明を具体的な態様に関して記載してきたが、上記記載及び実施例は本発明を説明するためのものであって、本発明を限定するものではないことは理解されよう。他の側面、利点点及び改良は本発明に関連する当業者には明らかであり、これらの側面及び改良は、本発明の範囲内であり、本明細書中に記載且つ請求されている。
【0062】
参考文献
【0063】
【表2】
【0064】
【表3】
【0065】
【表4】
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】図1は、アニオン交換モードにおけるペプチド標準の典型的な分離を示す。Gly-Tyrは空隙容積中に溶離する天然ペプチドである。やや酸性のペプチドAsp-ValとAla-Gly-Ser-Gluは静電的誘引力によりある程度保持される。しかしながら、親水性相互作用の非存在下では、塩基性ペプチド[Arg8]-バソプレッシンは、静電的反発作用によって細孔容積から閉め出されて、空隙容積より先に溶離する。
【図2】図2は、HILIC法を使用するアセトニトリル濃度の関数として数種の標準ペプチドの保持時間を示す。
【図3】図3は、ERLIC法を用いて数種の標準ペプチドの保持時間対アセトニトリル濃度を示す。
【図4】図4は、HILIC法及びERLIC法を用いてペプチド標準の混合物の分離を比較する。図面の上半分はHILICモードを用いて溶離プロフィールを示し、図面の下半分はERLICモードを用いて溶離プロフィールを示す。
【図5】図5は、ERLICを用いてペプチド保持時間における移動相のpH効果を示す。
【図6】図6は、ERLICを用いてペプチド保持時間における移動相の塩濃度効果を示す。
【図7】図7は、ベータ-カゼインのトリプシン消化物のクロマトグラフィーを示す。タンパク質ベータ-カゼインのトリプシンによる消化で約14個のフラグメントが生じる。これらのペプチドの一つはリン酸基1個をもち、別のものは4個もつ。一番上のクロマトグラムはPolyWAX LP(商標)カラム(アニオン-交換物質)上、pH2.0でERLIC条件下にこの消化物を流したものを示す。これらの条件下では、ペプチド中のカルボキシル基がその負電荷を失っている。第二及び第三のクロマトグラフは、消化物中のホスホペプチドの標準品の溶離を示す。
【図8】図8は、ERLICモードでのアニオン交換カラムにおけるホスホペプチドの移動(図7)と通常のアニオン交換(AEX)モードで使用した同一カラムにおけるホスホペプチドの移動とを対比する。この条件は、AEXモードでは、移動相が両方ともクロマトグラフィー上で親水性相互作用を与えるのには殆ど十分ではないちょうど10%のアセトニトリルを含んでいる以外には同一であり、一つのリン酸基をもつペプチドはリン酸基を全く持たないペプチドから分離されにくい。
【図9】図9は、同一アミノ配列をもつ合成ペプチドのセットを示す。これらはセリン残基で0、1、2、3または4個のリン酸基をもつ点で異なっている。挿入部分は、位置異性体の分離も示す。この位置異性体は、同じ個数(2)のリン酸基であるが、異なるセリン残基上にもつ二つのペプチドである。リン酸基1個をもつペプチドはERLIC法で十分に保持されたが、AEXモードでは保持されていない。
【図10】図10は、アミノ酸のERLICにおけるトリエチルアミンメチルホスホネート濃度の関数としての保持を示す。
【図11】図11は、ERLICにおけるアミノ酸の保持時間における移動相のトリエチルアミンホスフェート濃度の効果を示す。
【図12】図12は、ERLICモードにおける塩基性アミノ酸と同じ時間枠での酸性アミノ酸の定組成溶離を示す。
【図13】図13は、移動相のアセトニトリル濃度を65〜70%に増加させたことによるアミノ酸の保持時間に及ぼす効果を示す。親水性相互作用を高めると、塩基性アミノ酸の保持時間は、静電的反発作用がもはや他のアミノ酸と同じ時間枠でその定組成溶離を生じさせるのには十分ではない点まで増加した。
【図14】図14は、塩濃度、アセトニトリル濃度及びpHがHILICでのアミノ酸の保持時間に与える効果について示す。非塩基性アミノ酸を穏やかに分離させる定組成条件により塩基性アミノ酸はその後の時間枠で溶離する。
【図15】図15は、カチオン交換カラムのPolySULFOEHYL Aspartamide(商標)におけるヌクレオチドのERLICと、中性材料のカラム、PolyHYDROXYETHYL A(商標)でのこれらの化合物のHILICを比較する。親水性相互作用が無視し得る低濃度のACNでは、ADPはその強い静電的反発作用によりカチオン交換カラムからAMPより早く溶離する。リン酸基との親水性相互作用が顕著になる高レベルのACNでは、その溶離順序は逆転する。
【図16】図16は、リン酸基がその第二の負の電荷を獲得しようとしているpH6では、静電的反発力が非常に強いので、ヌクレオチドもオリゴヌクレオチドもERLIC中に全く保持されないことを示す。PHが低下するにしたがって、特にリン酸基がその負電荷1個を失い始めるpH3.4未満で、保持時間は増加する。
【図17】図17は、ERLICでの保持時間における塩基の効果、特にU〜T<A<G<Cを示す。ここで使用したACNレベルでは、リン酸化はどの場合でも保持を促進する。
【図18】図18は、TEAPの代わりにTEA-MePO4で得られた結果を示す。関与する塩基への感度を犠牲にして、リン酸基の数に対する感度が増加する。
【図19】図19は、80mM TEAP、pH3.0、84%アセトニトリルの移動相を使用するERLICにおけるヌクレオチドの定組成溶離を示す。
【図20】図20は、ERLICにおけるアミノ酸の配向性を図式的に示すものである。対イオンとしてリン酸を使用すると、その潜在的な第二の負電荷は、表面に塩基性アミノ酸を誘引するための手段を提供する。
【図21】図21は、AMPとATPの配向性を比較する図である。AMPのリン酸基は非常に親水性であるが、これは固定相にはね返されているのにもかかわらず固定相に配向している。ATPの場合には、三つのリン酸基と表面との間の静電的反発力は、表面からリン酸基を遠ざけるように配向させるのに十分である。
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、クロマトグラフィー法、特に親水性相互作用クロマトグラフィーによる荷電溶質の分離の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
混合物中の溶質はその特性が大きく異なることがある。逆相クロマトグラフィー(RPC)では、これは極性の差に関係する。イオン交換クロマトグラフィーに関しては、これは荷電の差に関係する。一般に、混合物中の全ての溶質を同じ時間枠で確実に溶離するためには、ある種の勾配溶離液が用いられる。
【0003】
親水性相互作用クロマトグラフィー(HILIC)なる用語は、通常、10〜40%の水溶液である移動相を使用する順相クロマトグラフィーを記載するために1990年に作られた言葉である[1]。十分に極性の固定相材料はこの移動相よりも極性が高いので、極性の溶質を保持する。保持時間のメカニズムは、動的移動相(dynamic mobile phase)と極性の固定相が水和される移動速度の遅い水層との間での分配を前提とする。溶質がより極性であればあるほど、溶質はこの停滞した(stagnant)水性相とより一層結びついて、もっと遅れて順相方向に溶出する。HILICは早くも1975年には炭水化物の分析で使用されていた[2,3]。主に有機移動相で溶離されるSephadexの場合には、分離メカニズムは早くも1967年には解明されていた[4]。逆相クロマトグラフィー(RPC)は非極性溶質用なので、HILICは通常、極性の溶質の分析に有用である。1990年以来、HILICは幅広い種類のペプチド[5〜10]、複雑な炭水化物[11]及びある種のタンパク質[12〜15]に適用されてきており、医薬品[16〜17]、サポニン[18]、尿素[19]、アミノグリコシド系抗生物質[20]、グルコシノレート[21]、糖及びグリカン[22〜24]、葉酸及びその代謝物[25]、ニコチン及びその代謝物[26]、並びにグリコアルカロイド[27]などの小さな極性溶質にますます適用されるようになってきている。YoshidaはペプチドのHILICに関係する変数について検討した一連の論文を発表している[28〜30]。Hemstrom及びIrgumは全ての分野を調査し、分離か吸着のどちらが分離メカニズムを担うかを解明しようとした意欲的な論文を発表した[31]。通常の順相クロマトグラフィーにおいて見られるように、溶離用勾配は移動相の極性を徐々に高める。ここでは、塩濃度を高めて使用してもよいが、通常、有機溶媒の濃度を低下させることを伴う。親水性相互作用は、60〜70%の有機溶媒を含む移動相中の塩を徐々に高める勾配で実施することによって、イオン交換カラムの混合モードとして重ね合わせることができる。これらの条件は、弱イオン交換カラム[32〜37]でヒストン変異体を分割するのに十分に機能し、Robert Hodgeのグループから相次いで発表された多数の論文では、強カチオン交換カラムでのペプチドのクロマトグラフィーにも使用されてきた[38〜40]。
【0004】
親水性相互作用は、通常、HILICを用いて溶離プロフィールを決定する。しかしながら特定の条件下では静電効果が影響を及ぼすこともあり、時には帯電溶質の溶離を複雑にしてしまうこともある。たとえば静電的反発作用は固定相の細孔の中の殆どまたは全ての容積から酸性アミノ酸を閉め出してしまうので、酸性アミノ酸はカチオン交換カラムの空隙容量(void volume)より先に溶出する。しかしながら移動相が60%を越える有機溶媒を含むならば、この酸性アミノ酸は、中性カラムと同様にカチオン交換カラムによっても殆ど保持される。移動相中に十分量の有機溶媒があると、親水性相互作用は静電効果に打ち勝ってクロマトグラフィーを左右する。
【0005】
HILICにおける静電効果の別の例は、リンタンパク質の分離である。ヒストンタンパク質は塩基性であり、カチオン交換カラムによく保持される。ヒストンタンパク質に結合する全てのリン酸基はカラムと静電的に反発するので、タンパク質が早期に溶離してしまう。しかしながら移動相に高レベルの有機溶媒があれば、リン酸基とカラムとの間に親水性相互作用が生じる。このため、静電的反発力にもかかわらずリン酸化ヒストンが遅れて溶離する[32]。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
静電効果は、HILICによる帯電溶質の分離にとって重要な意味をもつ。通常、塩基性溶質はHILIC中で最もよく保持され、続いてリン酸化溶質が保持される[1]。従って、ATPなどの非常に塩基性のペプチドやヌクレオチドを含むサンプルを溶離するには、勾配が必要である。極端な例では、有機溶媒濃度を減らし且つ塩濃度を上昇させた勾配が必要である[8]。勾配の使用は定組成(イソクラティック)溶離よりもずっと複雑で、余分な装置を必要とする。定組成溶離を用いると、非常に長時間の溶離プロフィールが必要になるかもしれない。さらに好適な勾配溶離条件を選択しなければ、分離がうまくゆかないこともある。特定の荷電溶質を定組成的に且つ迅速に分離する新規方法に対する需要がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明の概要
一側面において、タンパク質、ペプチドまたはアミノ酸で静電的反発作用-親水性相互作用クロマトグラフィーを実施する方法は、約4未満のpHでアニオン交換材料のカラムを準備すること;及び固定相による静電的反発作用と実質的に平衡する親水性相互作用を与えるのに十分な有機溶媒の量を含む移動相を使用して、前記化合物を溶離することを含む。本方法は、たとえばリンタンパク質を定組成的に、または塩勾配を使用して選択的に単離するのに有用である。別の側面において、核酸またはヌクレオチドでERLICを実施する方法は、約3.4未満のpHでカチオン交換材料のカラムを準備すること;及び固定相による静電的反発作用と実質的に平衡する親水性相互作用を与えるのに十分な有機溶媒の量を含む移動相を使用して、前記化合物を溶離することを含む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
図面の簡単な説明
本発明の目的、特徴及び有利な点は、付記図面中に示されている本発明の特定の態様に関するより詳細な説明から明らかになろう。
【0009】
発明の詳細な説明
本発明は、HILICの間に非常に保持されにくいか又は非常に強く保持される高荷電溶質をもつ混合物を分離するためにクロマトグラフィー分析法を実施する新規な方法を紹介する。この戦略は、イオン交換と親水性相互作用の原理を組み合わせることを含む。本発明の方法を使用することにより、HILICでもイオン交換クロマトグラフィーのいずれでも固定相によって保持されないか又は非常によく保持されるアミノ酸、ペプチド、核酸またはヌクレオチドを適当な時間枠で効率的に分離することができる。本方法は親水性相互作用と静電的相互作用の両方の分離能力を重ね合わせたものであり、これによっていずれかの方法のみで得られる極端な保持時間を中和(相殺)することができる。特定の溶質に関する長短の保持時間を両方とも排除することによって、本方法は複雑な勾配による溶離が必要な異成分からなる混合物を定組成的に分離することができる。このクロマトグラフィー法の新しい組み合わせは、静電的反発作用−親水性相互作用クロマトグラフィーと呼ばれる。
【0010】
ERLIC法は、固定相に適切な移動相を合わせること、及び、サンプルを定組成的に且つ迅速に分離するためにサンプルを分離または分析することとを含む。ERLICでは、この結果を得るために以下の二つの原理を使用する。(1)固定相はサンプル中の化合物の大半と同じ極性の電荷を持つべきである。これによって親水性相互作用を通して固定相に強固に保持される高荷電溶質の過度の保持時間を防ぐ静電的反発作用を提供する。(2)一種以上の溶質に対して固定相の反発力が強すぎて、溶質が非常に早く(たとえば空隙容積よりも先に)溶離される場合には、移動相内の有機溶媒の量を増やすべきである。このようにして、親水性相互作用の強さを高めることによって、たとえば固定相と同じ極性の複数の荷電を持つような、すぐに溶離されてしまう溶質の保持時間を長くする。このことは、たとえば、移動相中のアセトニトリルまたはプロパノールの濃度を上げることによって達成することができる。そのような溶質の保持時間は広範囲にわたって増加させることができる。好ましくは、保持時間を短くしてサンプルの全体の溶離時間を短縮させるか、又は、保持時間を長くしてサンプル中の成分を定組成的に分離する本方法の能力を向上させる。多荷電溶質の保持時間を短くして、サンプル中の他の化合物と同じ時間枠内で溶離させるのが最も好ましい。
【0011】
ERLICの通則
一般的な定組成条件を使用することにより、ERLICは、通常、勾配を必要とする種々の小分子または巨大分子(macromolecule:高分子)の分離または分析を可能にする。ERLICは通常、HILIC(たとえば、10〜40容積%の水を含む移動相と、化合物が空隙容積よりも大きい容積で溶離するように移動相よりも極性の高い固定相材料を使用する)条件下で固定相によって保持されるのに十分な極性をもつ任意の化合物に適用することができる。ERLICは一つ一つの化合物の分析にも、混合物からの化合物の分離にも一様に適している。分析モードでは、化合物は標準に対するその溶離位置を基準として同定することができるか、又は、化合物の混合物の純度または組成は、混合物の全体の溶離プロフィールによって評価することができる。分取モードでは、ERLICは個々の化合物を物理的に分離することによって化合物から特定の化合物を単離または精製するために適用することができる。個々の化合物は、カラムから溶離する時に、その溶離プロフィールの区別可能なピークに対応する。ERLICは、アミノ酸、ペプチド、ポリペプチド、タンパク質、ヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、またはポリヌクレオチドの分離または分析に適用することができる。
【0012】
ERLIC法は、多くのHILIC分離法を定組成的に実施させることによって、クロマトグラフィー法による分離の展開をかなり単純化することができる。しかしながら、全ての化合物がそのような処理に容易に適用できるとは限らない。多数の分子(たとえば50種を超えるペプチド含むタンパク質の消化物など)を含む複雑な混合物は、一回の定組成手順を使用して完全に分離することはおそらくできないであろう。しかしながら、特に分析的モードでの完全分離は必ずしも必要ではない。たとえば検出器として質量分析計を使用する場合、それぞれのペプチドのイオン化は他のペプチドの存在によって干渉されない程度まで、単一ピーク又は非分割ピーク群として同時に溶離する多くのペプチドを減らしさえすれば十分である。自動サンプルインジェクターを使用して多くの種類のサンプルを迅速に分析することができ、それぞれのサンプルは先のサンプルのERLIC溶離ウィンドウの後で注入される。勾配溶離法では通常追加のポンプと勾配形成装置が必要になるので、定組成溶離法の利用は、装置に対する要求を単純化する。さらに、ERLICではシリコンウエハまたはチップ上で実施する分離に有用であり、そこで多くのサンプルを別々のチャネルで微小スケールで同時に分析することができるかもしれない。そのような用途のための流速は、1分当たりナノリッターのオーダーとなる可能性がある。そのような分離を定組成的に実施できたならば、かかる分離に必要な装置は随分簡略化される。
【0013】
固定相の選択
HILICと同様に、ERLICでは固定相は親水性材料から構成される。さらにERLICでは、固定相材料は移動相のpHにおいて正又は負のいずれかに帯電されなければならい。具体的な材料については実施例で記載する。
【0014】
移動相の選択
HILICと同様に、ERLICにおける移動相は固定相よりも極性が低い(より疎水性である)。固定相材料が結合水の停滞層を形成できるように、移動相は少なくとも2容積%の水を含まなければならない。これが極性の低い溶質よりも極性の高い溶質を長時間保持する際に役に立つ。通常、移動相はアセトニトリル、メタノール、プロパノールまたは水と混和性の同様の極性をもつ別の溶媒などの有機溶媒を約40〜90容積%含む。有機溶媒の濃度は、当該化合物の保持時間を変動させるために望み通りに調節することができる。移動相のpHは固定相と溶質の正味荷電を設定する際の重要な因子であり、これは当該化合物の保持時間にも影響する。
【0015】
ERLICにおいて化合物の溶離時間を調節するための方法
ERLIC法は、HILICで直面する数個の極端な保持時間に対処するのに特に適している。上記のように、ERLICのHILIC成分は早く溶離する分子種を後方の溶離時間へシフトさせて、うまく分離させることができる。移動相をうまく調節すると、ERLICの静電的反発成分は遅れて溶離する分子種をより早く溶離させて、実行時間を短縮しつつ、分離には殆どまたは全く悪影響を与えない。以下のケースが例示となる。
【0016】
静電的誘引力による非常に酸性の強いペプチドの遅れた溶離
非常に酸性の強いペプチドは、固定相に対する静電的誘引力のため、HILICを使用するアニオン交換クロマトグラフィーの最中に過度に保持されてしまう可能性がある。この問題を解決する一つの方法は、アスパラギン酸残基とグルタミン酸残基とを帯電させないような十分に低いpHの移動相を使用して、殆どのペプチドを中性または塩基性にすることである。本発明の定組成方法を使用して、親水性相互作用がクロマトグラフィーを制御し、且つ静電的誘引力が不足しているにもかかわらず酸性ペプチドの保持時間を確保するレベルまで移動相の有機溶媒含量を増やすことができる。
【0017】
親水性相互作用による非常に塩基性の強いペプチドの遅れた溶離
非常に塩基性のペプチドはHILICモード中で極性カラムから遅れて遊離する。固相による静電的反発作用、即ちERLIC法を使用すると、そのようなペプチドは中性または穏和な酸性ペプチドと同じ時間枠内で溶離させることができる。この作用は、固定化塩勾配(immobilized salt gradient)の場合と同様であろう。
【0018】
静電的反発作用による空隙容積に先行した塩基性ペプチドの溶離
正に帯電した固定相を使用してAEXモードでペプチドを分離する場合、塩基性ペプチドは静電的反発作用によって空隙容積中またはそれ以前に溶離する(図1参照)。これにより分画範囲が狭くなってしまい、利用が制限されてしまう。しかしながら、十分量の有機溶媒が移動相内に含まれていれば、親水性相互作用は静電的反発作用に打ち勝つのに十分に強くなるため、より長く、より適切な保持時間と改善された分離が得られる。
【0019】
静電的反発作用は、酸性アミノ酸を固定相の最大細孔容積へ近づけさせないので、酸性アミノ酸はカチオン交換カラムの空隙容積より先に溶離する。しかしながら、移動相が>60%の有機溶媒を含む場合、酸性アミノ酸は、極性の中性カラムによる場合と同様に極性のカチオン交換カラムによって殆ど保持される[1]。この見かけ上の異常は、親水性相互作用が静電的作用に依存しないという事実を表す。移動相に十分量の有機溶媒が存在する場合、親水性相互作用がクロマトグラフィーを支配する。かくして、リン酸基は有機溶媒の不存在下で、カチオン交換カラム上での塩基性ヒストンタンパク質の保持時間を短くするが、移動相が70%ACNを含んでいる場合、その保持時間に正味の増加をもたらす[32]。これらの条件下では、リン酸基によって与えられた親水性相互作用は、固定相による静電的反発作用よりも強い。
【0020】
この現象は重要な意味をもつ。塩基性溶質は通常HILICでは最もよく保持され、次にリン酸化溶質が続く[1]。サンプルがATPなどの非常に塩基性のペプチドまたはヌクレオチドを含む場合、勾配が必要である。極端な例では、有機溶媒濃度の減少と塩濃度の増加の両方のために勾配が必要である。しかしながらペプチドの場合には、アニオン交換カラムをHILICに使用したならば、勾配はおそらく必要でない。この組み合わせは、以下の三つの保持時間の極端な例に対処する。(1)静電的誘引力による非常に酸性のペプチドの遅れた溶離;この状態はアスパラギン酸残基及びグルタミン酸残基を帯電させないために十分に低いpHの移動相を使用することによって緩和され、殆どのペプチドを中性または塩基性の状態にすることができる。実際、pHを低下させていく勾配をアニオン交換カートリッジで使用して、トラップされた酸性ペプチド[41]を放出させ、タンパク質を脱塩してきた[42]。(2)親水性相互作用による非常に塩基性のペプチドの遅れた溶離;固定相による静電的反発作用は、そのようなペプチドを中性または穏やかな酸性ペプチドの溶離時間枠にもどすことになるであろう。この効果は、固定化塩勾配を持つことに類似する。(3)静電的反発作用による空隙容積に先行した塩基性ペプチドの溶離;酸性アミノ酸と同様に、高レベルの有機溶媒の不存在下では、塩基性ペプチドは、同一電荷のカラムの細孔容積から閉め出される(図1)。これは一種のイオン排除クロマトグラフィー[43〜45]であるが、その分画範囲が狭いので用途の限定された方法である。しかしながら、移動相中に十分量の有機溶媒を配合して、そのようなペプチドの適当な保持時間に十分な親水性相互作用を発生させることができる。
【0021】
これらの条件下では、混合物中の全てのペプチドは、(中性のペプチドを除いて)ある程度固定相によって反発を受けるものの、親水性相互作用によって保持される。頭字語ERLICはこの組み合わせのために提案されたものであり、静電気反発作用−親水性相互作用クロマトグラフィーを表わす。この二つの組み合わせモードは互いの保持時間の極端な例を相殺するので、異種ペプチド混合物の定組成分離は実用的かもしれない。
【0022】
リン酸基またはサルフェート基を含んでいたペプチドは、Asp-残基及びGlu-残基を帯電させないくらいの十分に低いpHでさえも幾らか負電荷を保持するであろう。そのようなペプチドは、ERLICで使用する固定相に対して幾らか静電的誘引力を示すことになるであろう。これは不利益というよりむしろ利点となる;生化学における種々の用途では、消化物からホスホペプチドの選択的分離を可能にする方法の恩恵を受けるだろう。ここでERLICは、固定化金属アフィニティクロマトグラフィー(IMAC)及び、チタニア、ジルコニアまたはアルミナなどのルイス酸に代替物を表す。ペプチドが二種以上のリン酸基またはサルフェート基を含んでいた場合、塩勾配を使用する溶離がそれでも必要なこともある。
【0023】
ペプチドに加えて、ERLICは原理上、正か負かいずれかの十分な電荷をもつ他の溶質に適用することができる。この研究では、ペプチド、アミノ酸、ヌクレオチド及びオリゴヌクレオチドに適用するERLICの特徴及び有用性を詳しく検討する。
【実施例】
【0024】
材料及び方法
全てのカラムは、以下に記載したものを除いて、PolyLC Inc.(Columbia,MD)の製品であった。PolyWAX LP(商標)、弱アニオン交換材料をペプチド及びアミノ酸に関して使用した。ペプチドに関してはカラムは次のいずれかであった:1)100×4.6mm,5μm粒径、300Å孔径(アイテム#104WX0503)、または2)200×4.6mm,5ミクロン、300Å(アイテム#204WX0503)。アミノ酸に関しては、カラムは200×4.6mm、5μm、100Å(アイテム#204WX0501)であった。ヌクレオチドのERLICに関しては、強カチオン交換材料PolySULFOETHYL Aspartamide(商標)(PolySULFOETHYL A:商標)の200×4.6mmカラムを使用した;5μm、300Å(アイテム#204ES0503)。ペプチド(図2及び4)、ヌクレオチド及び核酸に関するHILICデータは、PolyHYDROXYETHYL Aspartamide(商標)(PolyHYDROXYETHYL A:商標)[1]の200×4.6mmカラム、5μm、300Å(アイテム#204HY0503)で得た。アミノ酸のHILICデータは、5μm、100Å、PolyHYDROXYETHYL A(商標)(アイテム#204HY0501)の200×4.6mmカラムで得た。
【0025】
装置:Scientific Systems Inc./Lab Alliance(State College,PA)エッセンスHPLCシステムを使用した。
試薬:以下のもの:9(Sigma Chemical Co.,St.Louis,MO);15、16(Peninsula Laboratories,Belmont,CA);及び13、18〜20(California Peptide Research,Napa,CA)を除いて、ペプチド標準1〜20は、Bachem(Torrance,CA)から購入した。アミノ酸、ヌクレオチド及び核酸標準はSigma社から入手した。リン酸及びアセトニトリル(ACN)[いずれもHPLCグレード]はFischer Scientific社(Pittsburgh,PA)から入手した。トリエチルアミン(99.5%)はAldrich Chemical社(Milwaukee,WI)から入手した。メチルホスホン酸はAlfa Aesar/Lancaster Synthesis社(Ward Hill,MA)から入手した。HPLCグレードの水を使用した。
【0026】
トリエチルアミンホスフェート(TEAP)緩衝液の0.5Mストック溶液を以下のようにして調製した;85%リン酸14.4gをビーカーに秤量し、攪拌しながら水150mlをゆっくりと添加した。トリエチルアミンを(フード中で)、所望のpHになるまで添加した。この溶液を250mlに希釈し、濾過(0.45μmフィルター)した。メチルホスホネートストック溶液を、同じ手順を使用し、トリエチルアミンかNaOH溶液かいずれかを添加して調製した。移動相は水、ACN、及びストック溶液のアリコートから調製した。解離定数は主に有機溶液[47]中でシフトするが、解離定数は、移動相の調製に使用したストック溶液のpHによって指定されたので、移動相のpHは測定も調整もしなかった。
【0027】
ペプチド標準:
【0028】
【化1】
【0029】
ペプチドのERLIC
A.標準の選択
1)トリプシンペプチド:His-残基または切断ミス(missed cleavage)を含むものを除き、トリプシンペプチドは二つの塩基性基だけ、N-末端とC-末端Arg-またはLys-残基を含む。このため、過度に塩基性のペプチドは全く存在しないので、分析が簡略化される。従って多くのトリプシンペプチドを標準に含めて、予想される溶離時間範囲についての知見を得た。標準1〜5は0または1個の酸性残基をもつ通常の配列であった。標準6は、非常に酸性のトリプシン配列である。標準18〜20は、一つの位置でAsp-、isoAsp-またはphosphoSer-残基で置換されたトリプシン配列である。このサンプルセットにより、保持時間におけるこれらの残基の効果が評価できる。
2)酸性ペプチド:標準7〜9はN-末端以外には、塩基性基を全く持たない酸性ペプチドである。phosphoTyr-残基を取り囲む配列にはよくあることであるが、標準10は非常に酸性のホスホペプチドである。標準11〜13、DSIPペプチドは、C-末端Lys-の代わりにGlu-残基が置換されていることを除き、標準18〜20と同じ配列をもつ。置換されている残基だけがペプチド中の酸性残基ではないので、標準18〜20よりも制御されていなくても、これにより、Asp-をisoAsp-またはphosphoSer-残基と置き換える効果を評価することができる。
3)塩基性配列:標準15〜17は非常に塩基性のペプチドである。標準14、ACTHは、塩基性残基とほぼ同数の酸性残基をもつ。これにより、ペプチドの全保持時間におけるそのような残基の相対的重要度を評価し易くなる。
【0030】
【表1】
【0031】
B.移動相の選択
表1は、TEAP対ナトリウムメチルホスホネート(Na-MePO4)緩衝液の場合の保持時間の予備的な比較を示す。TEAP緩衝液を使用すると、酸性ホスホペプチド(標準10及び13)の保持時間は他のペプチドの保持時間よりも著しく長くはなかったが、塩基性標準13〜17の保持時間は他の殆どのペプチドよりも長かった。この選択性、通常のHILICの特徴は所望のものと正反対であった。対照的にNa-MePO4緩衝液の選択性はERLICの所望の特徴を示し、塩基性ペプチドを迅速に溶離させ、ホスホペプチドを遅れて溶離させた。従って、Na-MePO4緩衝液をペプチドのERLICの詳細な検討のために選択した。
【0032】
C.%有機溶媒の効果;HILIC対ERLIC
図2は、HILICでのペプチド標準1〜20の定組成保持時間における%ACNの効果を示す。塩基性ペプチド(標準14〜17)は群を抜いてよく保持される。ホスホペプチドを含む他のものは概して同じ時間枠で溶離する。図3は、ERLIC条件下での同じ標準を示す。静電的反発力のせいで、塩基性ペプチドは、ACNレベル70%以下で他のペプチドと同じ時間枠で溶離する。HILICとERLICにおけるこの相違は図4において明らかである。図4では、両方のモードにおいて実施したペプチド標準セットのクロマトグラフを比較する。HILICモードでは、100分未満で塩基性標準15と17を定組成的に溶離させるACNレベルでは、酸性標準と中性標準の保持時間が適当でなくなる。ERLICモードでは、15と17の静電的反発作用により、50分以内でこの例の全てのサンプルを適当な保持時間を与え、定組成的に溶離できるレベルにACN濃度を高めることができる。
【0033】
酸性標準7〜9と11は中性のトリプシンペプチドと同じ時間枠で溶離するので、図3の移動相の濃度とpHは明らかにカルボキシル基のイオン化を抑制するのに十分である。酸性トリプシンペプチド6は、他のトリプシンペプチドよりもかなり長く保持される。図1から判定すると、これはその親水性と同様にその酸性度を反映している。isoAsp-含有ペプチドは、そのAsp-含有類似体よりも幾らか遅れて溶離する(たとえば12対11)。65〜70%ACNの間では、リン酸化標準20は最後かまたは殆ど最後に溶離するトリプシンペプチドである。酸性ホスホペプチド13はこれらの条件下では他の標準よりも相当遅れて溶離するが、もっと酸性のホスホペプチド標準10は適当な時間枠内で全く溶離しない。このことは、高レベルの塩を使用せずにERLICで適当な時間枠内で確実に溶離させる際に、トリプシンフラグメントにおける第二の塩基性残基と付随する静電的反発作用が担う役割の重要性を強調する。高レベルACNでホスホペプチドの保持時間が大きく増加することは、その静電的誘引力と組み合わされるリン酸基の高い親水性を反映する。しかしながら、70%を超えるACNレベルでは親水性相互作用がとても強いので、塩基性ペプチドの中には(15及び16)、静電的誘引力にも関わらず再び最もよく保持されるペプチドになってしまうものもある。このこと、消化物からホスホペプチドを選択的に単離するACN濃度のウィンドウを制限するようである。もちろん、切断ミスのないトリプシン消化物では、架橋していないか又はHis-を含まない限り、どのペプチドも多くの塩基性残基をもたない。
【0034】
図3は、混合物中の全てのペプチドに関する定組成的溶離の明確なウインドウを設定できることを示唆している。このウインドウの幅は%有機溶媒を変動させることによってある程度調節することができる。どれも特に塩基性でないか、リン酸基を含んでいない限り、ペプチドの構成は重要ではない。
【0035】
D.ERLICにおけるpHの効果
図5はERLICでの保持時間に対するpHの効果を示す。カルボキシル基はpH2.0で実質的にイオン化されていないので、最も良く保持されるペプチドはホスホペプチド13であり、適当な範囲はトリプシンホスホペプチド20である。カルボキシル基は高pH値でイオン化するので、保持時間はあらゆる酸性基の総数を反映するようになり、ホスホペプチドの選択性は失われる。これらの条件は、通常のアニオン交換クロマトグラフィーの条件に収束する。中性のトリプシンペプチドは、親水性相互作用によって殆ど完全に保持される。その保持時間は、移動相が適当な濃度の塩を含む限り、pHによって殆ど影響されない。酸性ペプチドの保持時間はpH5.0で最大に到達し、高pH値では低下する。これは、弱アニオン交換(WAX)材料の電荷密度の低下を反映する。そのような材料の懸濁液の滴定曲線から、pH9.5〜pH5.0で電荷密度が連続して上昇することが明らかになった[48]。
【0036】
E.ERLICにおける塩濃度の効果
図6は、選択性を決定する際のこの変数の重要性を示す。塩濃度を増加させると、全ての静電効果、誘引力と反発力のいずれからも溶質を保護し、選択性はHILICと同じになる。かくして酸性ペプチドに対しては保持は減少し、塩基性ペプチドに対しては保持時間は増加し、塩基性ペプチドが再び高い塩レベルで最もよく保持されるようになる。塩の増加につれて中性トリプシンペプチドの保持時間は緩やかに増加する。おそらくこれは、そのC-末端の塩基性残基とN-末端の反発力の減少を反映している。
【0037】
このデータは、混合物中の全てのペプチドの溶離のはっきりしたウィンドウ用の条件を設定する際に図3のデータを補完する。移動相中に十分量の塩があれば、多くの塩基性またはリン酸基をもつペプチドでさえも明確な時間枠内で溶離する。
【0038】
F.ホスホペプチドの選択的単離
先のデータは、一つのリン酸基をもつペプチドは、70%ACNを含む20mM Na-MePO4、pH2.0でトリプシン消化物を溶離したときに一番最後であるか、または一番遅れて溶離するペプチド群の中に存在することを示唆した。二つ以上のリン酸基をもつトリプシンペプチドは、勾配溶離が必要であることが証明された。塩を増加させ、ACN濃度を緩やかに減少させる勾配法を選択した。勾配法に選択した塩はTEAPであり、これはホスホペプチドの溶離の際にNa-MePO4よりも効果的である(表1)。
【0039】
図7は、約14個のフラグメントを含むタンパク質ベータ−カゼインのトリプシン消化物を示す。これらのペプチドの一つはリン酸基1個をもち、別のペプチドはリン酸基4個をもつ。上部クロマトグラムは、pH2.0におけるPolyWAXLP(商標)(アニオン交換材料)上に流されたこの消化物を示す。これらの条件下ではペプチド中のカルボキシル基はその負の電荷を失っている。正に帯電したカラム材料と二つのホスホペプチド中の負に帯電したリン酸基との間には静電的誘引力がある。またカラム材料と、全てのトリプシンペプチドの正に帯電したアミノ末端とC-末端のリジンまたはアルギニン末端との間には静電的反発力がある(トリプシンはアルギニンまたはリジン残基のC-末端側で切断する)。
【0040】
通常、静電的反発作用は、ペプチドとちょうど1個のリン酸基の静電的誘引力に勝る。塩基性基と固定相との親水性相互作用が静電的反発力とうまく釣り合うように、移動相に過不足のない有機溶媒を添加することによって相殺されている。結果として、リン酸基が欠けているトリプシンペプチドは空隙容積の中又はそれに遅れて溶離するが、リン酸基をもつトリプシンペプチドは、固定相に対してさらなる静電的誘引力をもつため、よりもっとよく保持される。リン酸基1個をもつペプチドは適当な時間で定組成的に溶離することができるが、複数個のリン酸基をもつペプチドに関してはあてはまらない。従って、塩を増加させ(20〜200mM)、有機溶媒濃度をわずかに減少させる(70〜60%)勾配法を含む標準条件を使用した。ナトリウムメチルホスホネート、ホスホペプチドの保持を促進する塩からホスホペプチドの溶離を促進する塩であるTEPAに勾配法の塩の変更も行う。ホスホペプチドピークは溶離の際に回収し、マススペクトルにより同定した。
【0041】
上部クロマトグラムは、この消化物中の二つの予想されたホスホペプチドを示す。ペプチド配列は、アミノ酸に関して1コード文字で表す。強調された「S」はリン酸基をもつセリン残基を表す。この消化物中で通常含まれるテトラホスホペプチドは、切断されずに残った配列(missed-cleavage sequence)である。ベータ-カゼインのN-末端アミノ酸はアルギニンであり、トリプシンは通常その位置では塩基性残基を切断しない。しかしながら図7では、正しく切断されたテトラホスホペプチドが、切断されずに残ったフラグメントと一緒に1:6の比で得られる。いずれのテトラホスホペプチドも市販の標準(クロマトグラム#2)でははっきりしている。モノホスホペプチド市販の標準(クロマトグラム#3)は、全消化物(最上段)中の相当するピークと同時に溶出した。
【0042】
図7最下段のクロマトグラムは、アルカリホスファターゼで処理した後の消化物を示し、アルカリホスファターゼはタンパク質とペプチドのリン酸基を加水分解する。ここでホスホペプチドと同定された全部で三つのピークは保持された溶質の領域から消失し、幾つかの新しいピークが最初の非ホスホペプチド領域に出現した。このことから、ホスファターゼ処理の前の同一物はホスホペプチドであることが確認される。
【0043】
図8はベータ−カゼインのトリプシン消化物を示す。これはERLICモードでのアニオン交換カラムのホスホペプチドの移動(図7と同じ)と、通常のアニオン交換(AEX)モードで使用した同一カラムでのその移動とを比較する。いずれのAEX移動相もちょうど10%アセトニトリルを含み、クロマトグラフィー上の親水性相互作用を与えるのに決して十分ではなかった点を除いては、条件は同一であった。テトラホスホペプチドは依然としてよく保持されたが、今度はモノホスホペプチドが非ホスホペプチドの中でもずっと早く溶離する。AEXモードでは明らかにペプチド中の二つの塩基性基の静電的反発作用が1個のリン酸基の誘引力よりも強い。またホスホペプチドピークの同定は、アルカリホスファターゼで処理した消化物を処理し、これをERLICモードとAEXモードの両方で流すことにより確認する。このデータは、AEXはトリプシン消化物からの単一リン酸化ペプチドの単離に適していないが、ERLICは適していることを示す良い例である。
【0044】
図9は、合成ホスホペプチドを示す。これは同一アミノ酸配列をもつ合成ペプチドのセットである。これらはセリン残基で0、1、2、3または4個のリン酸基をもつという点で異なる。挿入部分は位置異性体:別々のセリン残基上であるが同数(2個)のリン酸基をもつ二種のペプチドの分離も示す。溶離条件は、スライド1及び2と同一であった。全てのペプチドはERLICモードで保持、分離され、ホスホペプチドは非ホスホペプチドよりもずっとよく保持された。アニオン交換(AEX)モードでは、0または1個のリン酸基をもつペプチドは、再び空隙容積の中又はその付近に溶離し、分離はうまくいかなかった。
【0045】
ピークのうち幾つかで得られた二重線(doublet)は一つのプロリン残基の周囲のシス−トランスコンフォメーション異性体の分離を表す。そのような配座異性体間の相互変換は、クロマトグラフィーの時間スケールに対してはゆっくりなことがあるが、文献では散見される。BとDの標準だけの下のクロマトグラムは、還元糖またはオリゴ糖に関して文献に記載されているものと非常に似たDのピークを示す[11]。この場合、二つのピークは糖のアルファ-及びベータ-アノマーに対応し、これらの間の連続体(continuum)はHPLCカラムを通して移動する間に二つの形の間を相互転換する分子に相当する。
【0046】
このデータは、ホスホペプチド、ちょうど一個のリン酸基をもつものからの非ホスホペプチドの分離におけるERLICの有用性を示す。対照的にアニオン交換(AEX)は、リン酸基を二個以上もつペプチドを単離するのに使用することができるが、たった一個のリン酸基をもつペプチドには通常有用ではない。そのようなペプチドはトリプシン消化物中のペプチドの非常に大部分を占める。かくして、ERLICはプロテオミクスでの研究に有望であり、ホスホペプチドの単離及び同定への関心が引き続きもたれている。
【0047】
II.アミノ酸のERLIC
A.選択性に対する塩の固有性及び濃度の効果
図10の結果は図6のペプチドに比肩している。TEA-MEPO4に関しては、Na-MEPO4と同様に、酸性アミノ酸は顕著に保持され、塩基性アミノ酸は比較的早く溶離する。塩濃度を高めると、静電的反発作用と誘引力のいずれも抑制され、酸性アミノ酸は早く溶離し、塩基性アミノ酸は遅れて溶離する。塩濃度を高めるにつれて、中性アミノ酸の保持時間がやや減少する。これは、ERLICとHILICはいずれも順相クロマトグラフィーの改良型であり、移動相の極性を高めると溶離が促進されるということを意味する。また中性トリプシンペプチドと違って、中性アミノ酸は、高い塩レベルによって遮蔽される顕著な静電的反発作用を持たない。TEAP(図11)の結果は、表1のペプチドに比肩している。塩基性アミノ酸の保持時間は大きく、酸性アミノ酸は比較的保持時間が小さい。しかしながら、20mM未満の塩濃度は明らかに、対イオン層、または下の移動相を効果的に遮蔽する電気的二重層を維持するには低すぎる。結果としては、溶質は移動相のより多くの正の電荷に暴露されて、塩基性アミノ酸は静電的に反発を受けて早く溶離し、一方、酸性アミノ酸は引きつけられて、遅れて溶離するということである。これにより、同じ時間枠で酸性アミノ酸と塩基性アミノ酸のいずれをも定組成的に溶離することができる(図12)。塩基性アミノ酸と酸性アミノ酸との保持時間は、10〜20mMの範囲内の電解質濃度に対して非常に感受性であり;高い塩レベルは静電的反発作用から塩基性アミノ酸を保護してこれらを後で溶離させ、一方、この保護は酸性アミノ酸の静電的誘引力を低下させ、酸性アミノ酸を早く溶離させる。中性アミノ酸の保持時間はこの範囲では殆ど影響を受けない。これらの条件下では、Phe-、Trp-及びTyr-はLeu-、Ile-及びVal-から完全には分離されないので、混合物からは省略した。Gln-はpH2.0でピログルタミン酸に転換され、転換の半減期は約24時間である。
【0048】
通常、Asp-はHILICモードで実施するアニオン交換カラムから最後に溶離すると考えられており、Glu-とシステイン酸を超えるその電荷と親水性特性の両方を反映する。pH2.0はその官能基に実質的に帯電させないのに十分に低いので、残りのアミノ酸と同じ時間枠で溶離できる(間違った塩を使用しない限り、たとえば図10)。多量の塩を移動相に添加することによって静電的作用が相殺されない限り、pH4.0では、Aspは実際、他のアミノ酸よりもかなり遅れて溶離する(図12)。ピログルタミン酸はpH4.0で正味の負の電荷ももち、塩濃度が10から20mMに増加すると、その保持時間もかなり短縮される(9分から6分)。
【0049】
移動相中のACN濃度が65%から70%に増加すると、全てのアミノ酸の保持時間は親水性相互作用が大きくなるにつれて増加する(図13)。最も顕著な効果は、塩基性アミノ酸及び極性カラム材料が同じ電荷を保持しているときでさえ、塩基性アミノ酸−全ての中で最も親水性のもの−の保持時間が増加し、他のアミノ酸と同じ時間枠内でもはや溶離しなくなるということである。システイン酸の保持時間は、ACN濃度変化により顕著に影響を受けない。システインの代わりに標準としてここで使用するシステイン酸は、その保持時間がほぼ完全に静電的誘引力に起因する多くの疎水性アミノ酸の一つとみられる。これはpH2.0でさえも負の電荷を保持する(pK1〜1.3)。pH4.0では、Glu及びAspに対する電荷の不均衡はかなり小さい。
【0050】
同一条件下、PolyHYDROXYETHYL A(商標)カラムでアミノ酸を実施するのは有益である。共有結合しているコーティングはポリ(2-ヒドロキシエチルアスパルタミド:2-hydroxyaspartamide)、遊離N-及びC-末端をもつ中性のポリペプチドである。かくして、通常のイオン交換樹脂よりもずっと低いレベルではあるが、コーティングは潜在的に幾らか正と負の電荷をもつ。pH4.4では、これらの電荷は平衡がとれており、コーティングは事実上、中性の両性イオンである。このpHより上では、正味電荷は負であり、このpHより下では正味電荷は正である。コーティングが全体で適度な正の電荷をもつpH2.0では、PolyWAX LP(商標)カラムと同様に、移動相中の塩濃度が上昇すると塩基性アミノ酸の保持時間が増大し、酸性アミノ酸の保持時間が減少する(図14)。しかしながらpH4.0では、コーティングは中性に近く、塩の濃度が増加すると、塩基性アミノ酸も酸性アミノ酸も保持時間が減少する(Hisの保持時間がやや増加したことは除く)。再びACNレベルを増加させると、親水性相互作用と全てのアミノ酸の保持時間が増加し、特に塩基性アミノ酸では顕著である(図14)。
【0051】
トリエチルアミンホスフェート及びナトリウムメチルホスフェートなどの塩は、低波長で吸収を検出するのに使用でき、好都合なpH範囲では緩衝液であるため、HILIC移動相で非揮発性塩を使用するのは単に便宜上のことである。他の全ての本質的に中性の固定相と同様に、PolyHYDROXYETHYL A(商標)は、電解質添加剤として揮発性酸若しくは非緩衝化酸と一緒に、または溶質が電解質でない場合には添加剤なしで使用することができる。
【0052】
III.ヌクレオチド及び核酸のERLIC
A.HILIC対ERLIC
ヌクレオチド及び核酸は負に帯電したリン酸基をもつ。従ってこれらの化合物のERLICはカチオン交換カラムで実施した。図15は、中性材料、PolyHYDROXYETHYL A(商標)のカラムでのこれらの化合物のHILIC結果を比較する。親水性相互作用が無視し得る低ACN濃度では、ADPはその大きな静電的反発作用によりカチオン交換カラムからAMPよりも早く溶離する。リン酸基との親水性相互作用が顕著である高ACNレベルでは、その溶離順は逆になる。ATPは低ACNレベルではADPよりも早く溶離すると予想される。一見して異常な長い保持時間については後述する。中性カラムでは、静電的反発作用がなく、リン酸基の極性が大きいため、AMP、ADP及びATPの間の保持時間の差はずっと大きい。これは特に、ADPの場合である(ATPはこれらの条件下では適当な時間で中性カラムから溶離しなかった)。
【0053】
B.ERLICにおけるpHの効果
リン酸基が第二の負の電荷を獲得しようとしているpH6では、静電的反発力が非常に大きいので、ヌクレオチドもオリゴヌクレオチドも全く保持されない(図16)。pHが低下するにつれて、特にリン酸基がその単一の負の電荷を失い始めるpH3.4未満では、保持時間は増大する。この効果は、特に殆どのホスフェートを含む溶質、ATP及びd(A)5に関しては顕著である。あまりリン酸化されていない溶質に関しては、アデニン環上の正電荷が増加する効果(+1〜+2)と他のリン酸基上の負電荷が減少する効果とは分離することが困難である(pKa@3.6〜4.0、ヌクレオチドに依存する)。
【0054】
C.選択性に対する塩濃度及び種類の効果
図17は、ERLICでの保持時間における塩基の効果がU〜T<A<G<Cであることを示す。ここで使用するACNレベルでは、リン酸化は全ての場合において保持を促進する。塩濃度が高くなるとUMP、AMP及びGMP(しかしCMPではない)の保持時間も増大するが、このことは、静電的反発作用がこの範囲を通じて保持時間に対して特筆すべき要因であることを示している。対照的に、ジ-及びトリホスホヌクレオチドの保持時間は、40mMで最大に到達し、その後は降下する。可能な解釈としては、40mMの塩は反発作用の殆どを遮蔽するのに十分であり、それよりも高濃度では固定相の正に帯電した塩基の静電的誘引力を遮蔽するということである。この効果のメカニズムについては後述する。
【0055】
図18は、TEAPの代わりにTEA-MePO4で得られた結果を示す。関与する塩基に対する感受性を犠牲にして、リン酸基の数への感度が増加する。かくして、モノ-及びジホスホヌクレオチドの保持時間に対してトリホスホヌクレオチドの保持時間が大きく増加する。この変化のメカニズムについては後述する。TEAPは、同じ時間枠で全ての共通ヌクレオチドを定組成的に溶離させた場合、この二種の塩のうち、良い方である(図19)。
【0056】
A.ERLICの用途
汎用の定組成条件を使用すると、ERLICは通常、勾配を必要とする電解質混合物の分離を実現することができる。標準化された通過条件で定組成的に所定の分離を実施するクロマトグラフィーの他の唯一のモードは、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)である。SECの分離は、V0とVtとの間の範囲に入るピーク数に制限されている。そのような制限はERLICにはない。溶離ウィンドウは、移動相中の有機溶媒量を増加させることのみによって拡大することができる。極性作用は静電的作用よりも重要であるので、このことが選択性に影響する。従って、このアプローチの有用性は個別に評価されるべきである。それでもなお、特定の汎用通過条件は、広範囲の溶質に十分なようである。これによって方法の開発がかなり簡単になるはずであるが、すべての混合物がそのような処理に向くとは限らない。たとえば50種以上ものペプチドを含むタンパク質の消化物中の全成分を完全に分離するクロマトグラフィー法は一つもない。しかしながら、すべての場合に完全な分離が必要となるわけではない。たとえばマススペクトロメーターを検出器として使用する場合、互いのイオン化に干渉しない程度まで同時に溶離するペプチド数を減らすだけでよい。その場合、自動サンプルインジェクターを使用して多くの種類のサンプルを迅速に分析して、先行するサンプルのERLICウィンドウの後に各サンプルを注入する。定組成溶離法を使用すると、必要な装置を簡略化できる。ERLICは、多くのサンプルが微小スケールで多チャンネルで同時に分析され得るシリカウエハまたはチップ上で実施する分離に有用であろう。そのような用途での流速は、1分当たりナノリットルオーダーであろう。この分離を定組成的に実施できたならば、そのような分離に必要な装置を非常に簡略化する。最後に、ボトムアップまたはショットガンプロテオミクスの出現により多次元アプローチでペプチドの複雑な混合物を分画する代替的方法に対する要求が増加してきた。ERLICは、現行モードのクロマトグラフィーをうまく補完するものとなりそうである。
【0057】
質量分析法または蒸発光散乱検出器による検出では、揮発性塩をベースとするERLIC移動相の開発が必要である。ERLICでの保持時間における対イオンの顕著な効果は、移動相において非揮発性塩の代わりに揮発性塩を使用するどんな試みも複雑にしてしまう。選択性に関する特定の組み合わせを維持するには、極性とイオンの立体障害とを注意深く調和させなければならない。酢酸アンモニウムまたはプロピオン酸アンモニウムは、3を超えるpHがある用途に申し分のないものである限り、ナトリウムメチルホスフェートの好適な代替物であることが判明する可能性があり、他方、トリエチルアミンフォーメートはトリエチルアミンホスフェートの申し分のない代替品となり得る。
【0058】
B.選択性効果のメカニズム
ERLICにおける塩の選択は、選択性に大きな影響を与え得る。もしこれらの溶質が、小さいけれどもHPLCカラムを通ってそれらが移動する間に剛直な態様で配向していると仮定すると、このことは説明することができる。これはたとえばHILICで二糖類については既に示されている[11]。図20は、ERLICにおけるアミノ酸の配向図である。対イオンとしてホスフェートを使用すると、その潜在的な第二の負電荷により、表面に対して塩基性アミノ酸を引きつける手段を提供する。メチルホスホネートイオン中の第二の接近可能な負電荷を誘発するためのポテンシャルはかなり低い。このことは、塩基性アミノ酸とペプチドは、対イオンとしてメチルホスホネートを用いるERLICよりもホスホネートを用いるERLICでよく保持されるという観察結果を説明する。対照的に、TEAPの濃度が表面を完全に覆うのには低すぎる場合を除き、酸性アミノ酸は、固定相の表面のリン酸イオンの負に帯電した層から反発を受けて、TEAP緩衝液と一緒にすぐに溶離する。図12は、これが20mM未満のTEAPの場合であてはまることを示す。
【0059】
ヌクレオチドとの配向効果はもっと複雑なようである。図21は、AMPとATPの配向を対比する図である。非常に親水性のAMPのリン酸基は固定相に向かって配向しているが、固定相から反発を受ける。塩濃度を増加させると反発力は抑制され、AMPの保持時間は増加する。正に帯電した塩基に付随する対イオンの性質は、保持時間には殆ど影響しなかった。ATPに関しては、固定相による三つのリン酸基の反発力が非常に強いので、これらは固定相から離れて配向する。ここで塩基が固定相の方を向くと、図17に示されているように対イオンの性質によって保持時間は強く影響を受ける。この逆配向は、ACNと親水性相互作用の非存在下におけるカチオン交換カラム上のATPの保持時間も説明する(図15)。固定相に向かってそのように剛直に配向している塩基をもたないADPは、これらの条件下で空隙容積の中に溶離する。十分量のACNがある場合、リン酸基の親水性は、その配向がどのようなものであっても、分子上で正味の保持時間を与えるような程度である。
【0060】
同様の理由付けはERLICにおけるペプチドの配向にもあてはめる。塩基性残基がペプチドの正味保持時間を増やしても、おそらく塩基性残基は固定相から遠ざかるように配向する。これによって中性及び酸性残基の選択性が高まるであろう。かくして、HILICなどのクロマトグラフィーの他のモードで達成するのが難しい分離がERLICではできるはずである。注意すべき点としては、溶質が、固定相によって反発を受けない配向もドメインももっていなければ、ERLICは機能しないということである。
【0061】
本発明を具体的な態様に関して記載してきたが、上記記載及び実施例は本発明を説明するためのものであって、本発明を限定するものではないことは理解されよう。他の側面、利点点及び改良は本発明に関連する当業者には明らかであり、これらの側面及び改良は、本発明の範囲内であり、本明細書中に記載且つ請求されている。
【0062】
参考文献
【0063】
【表2】
【0064】
【表3】
【0065】
【表4】
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】図1は、アニオン交換モードにおけるペプチド標準の典型的な分離を示す。Gly-Tyrは空隙容積中に溶離する天然ペプチドである。やや酸性のペプチドAsp-ValとAla-Gly-Ser-Gluは静電的誘引力によりある程度保持される。しかしながら、親水性相互作用の非存在下では、塩基性ペプチド[Arg8]-バソプレッシンは、静電的反発作用によって細孔容積から閉め出されて、空隙容積より先に溶離する。
【図2】図2は、HILIC法を使用するアセトニトリル濃度の関数として数種の標準ペプチドの保持時間を示す。
【図3】図3は、ERLIC法を用いて数種の標準ペプチドの保持時間対アセトニトリル濃度を示す。
【図4】図4は、HILIC法及びERLIC法を用いてペプチド標準の混合物の分離を比較する。図面の上半分はHILICモードを用いて溶離プロフィールを示し、図面の下半分はERLICモードを用いて溶離プロフィールを示す。
【図5】図5は、ERLICを用いてペプチド保持時間における移動相のpH効果を示す。
【図6】図6は、ERLICを用いてペプチド保持時間における移動相の塩濃度効果を示す。
【図7】図7は、ベータ-カゼインのトリプシン消化物のクロマトグラフィーを示す。タンパク質ベータ-カゼインのトリプシンによる消化で約14個のフラグメントが生じる。これらのペプチドの一つはリン酸基1個をもち、別のものは4個もつ。一番上のクロマトグラムはPolyWAX LP(商標)カラム(アニオン-交換物質)上、pH2.0でERLIC条件下にこの消化物を流したものを示す。これらの条件下では、ペプチド中のカルボキシル基がその負電荷を失っている。第二及び第三のクロマトグラフは、消化物中のホスホペプチドの標準品の溶離を示す。
【図8】図8は、ERLICモードでのアニオン交換カラムにおけるホスホペプチドの移動(図7)と通常のアニオン交換(AEX)モードで使用した同一カラムにおけるホスホペプチドの移動とを対比する。この条件は、AEXモードでは、移動相が両方ともクロマトグラフィー上で親水性相互作用を与えるのには殆ど十分ではないちょうど10%のアセトニトリルを含んでいる以外には同一であり、一つのリン酸基をもつペプチドはリン酸基を全く持たないペプチドから分離されにくい。
【図9】図9は、同一アミノ配列をもつ合成ペプチドのセットを示す。これらはセリン残基で0、1、2、3または4個のリン酸基をもつ点で異なっている。挿入部分は、位置異性体の分離も示す。この位置異性体は、同じ個数(2)のリン酸基であるが、異なるセリン残基上にもつ二つのペプチドである。リン酸基1個をもつペプチドはERLIC法で十分に保持されたが、AEXモードでは保持されていない。
【図10】図10は、アミノ酸のERLICにおけるトリエチルアミンメチルホスホネート濃度の関数としての保持を示す。
【図11】図11は、ERLICにおけるアミノ酸の保持時間における移動相のトリエチルアミンホスフェート濃度の効果を示す。
【図12】図12は、ERLICモードにおける塩基性アミノ酸と同じ時間枠での酸性アミノ酸の定組成溶離を示す。
【図13】図13は、移動相のアセトニトリル濃度を65〜70%に増加させたことによるアミノ酸の保持時間に及ぼす効果を示す。親水性相互作用を高めると、塩基性アミノ酸の保持時間は、静電的反発作用がもはや他のアミノ酸と同じ時間枠でその定組成溶離を生じさせるのには十分ではない点まで増加した。
【図14】図14は、塩濃度、アセトニトリル濃度及びpHがHILICでのアミノ酸の保持時間に与える効果について示す。非塩基性アミノ酸を穏やかに分離させる定組成条件により塩基性アミノ酸はその後の時間枠で溶離する。
【図15】図15は、カチオン交換カラムのPolySULFOEHYL Aspartamide(商標)におけるヌクレオチドのERLICと、中性材料のカラム、PolyHYDROXYETHYL A(商標)でのこれらの化合物のHILICを比較する。親水性相互作用が無視し得る低濃度のACNでは、ADPはその強い静電的反発作用によりカチオン交換カラムからAMPより早く溶離する。リン酸基との親水性相互作用が顕著になる高レベルのACNでは、その溶離順序は逆転する。
【図16】図16は、リン酸基がその第二の負の電荷を獲得しようとしているpH6では、静電的反発力が非常に強いので、ヌクレオチドもオリゴヌクレオチドもERLIC中に全く保持されないことを示す。PHが低下するにしたがって、特にリン酸基がその負電荷1個を失い始めるpH3.4未満で、保持時間は増加する。
【図17】図17は、ERLICでの保持時間における塩基の効果、特にU〜T<A<G<Cを示す。ここで使用したACNレベルでは、リン酸化はどの場合でも保持を促進する。
【図18】図18は、TEAPの代わりにTEA-MePO4で得られた結果を示す。関与する塩基への感度を犠牲にして、リン酸基の数に対する感度が増加する。
【図19】図19は、80mM TEAP、pH3.0、84%アセトニトリルの移動相を使用するERLICにおけるヌクレオチドの定組成溶離を示す。
【図20】図20は、ERLICにおけるアミノ酸の配向性を図式的に示すものである。対イオンとしてリン酸を使用すると、その潜在的な第二の負電荷は、表面に塩基性アミノ酸を誘引するための手段を提供する。
【図21】図21は、AMPとATPの配向性を比較する図である。AMPのリン酸基は非常に親水性であるが、これは固定相にはね返されているのにもかかわらず固定相に配向している。ATPの場合には、三つのリン酸基と表面との間の静電的反発力は、表面からリン酸基を遠ざけるように配向させるのに十分である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンパク質、ペプチド、アミノ酸及びその帯電誘導体からなる群から選択される化合物で静電的反発作用-親水性相互作用クロマトグラフィーを実施する方法であって、
約4未満のpHでアニオン交換材料のカラムを準備すること;及び
固定相の静電的反発作用と親水性相互作用とを実質的に平衡させるのに十分な有機溶媒の量を含む移動相を使用して前記化合物を溶離させること、
を含む前記方法。
【請求項2】
前記化合物を定組成的に溶離させる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記化合物を塩濃度勾配、pH勾配、極性勾配又はそれらの勾配の組み合わせを用いて溶離させる、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記化合物が、タンパク質、ペプチド及びアミノ酸からなる群から選択される帯電誘導体である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記帯電誘導体がリン酸基または硫酸塩基を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
水、アセトニトリル、メタノール、エタノール、プロパノール及びHILIC用に適した他の溶媒からなる群から選択される溶媒の移動相での濃度を調節することによって、前記移動相の極性を増加又は減少させる、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記移動相のpHを変えることによって前記固定相の正味荷電を増減する、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記塩がトリエチルアミンホスフェート、トリエチルアミンメチルホスホネート、ナトリウムメチルホスホネート、及びHILIC移動相と適合可能な他の塩からなる群から選択される、請求項3に記載の方法。
【請求項9】
核酸、ヌクレオチド及びその帯電誘導体からなる群から選択される化合物で静電的反発作用-親水性相互作用クロマトグラフィーを実施する方法であって、
約3.4未満のpHでカチオン交換材料のカラムを準備すること;及び
固定相の静電的反発作用と親水性相互作用とを実質的に平衡させるのに十分な有機溶媒の量を含む移動相を使用して、前記化合物を溶離させること、
を含む前記方法。
【請求項10】
前記化合物を定組成的に溶離させる、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
塩濃度勾配、pH勾配、極性勾配、減少有機溶媒量勾配又はそれらの勾配の組み合わせを用いて前記化合物を溶離させる、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記化合物が、核酸及びヌクレオチドからなる群から選択される分子の帯電誘導体である、請求項9に記載の方法。
【請求項13】
水、アセトニトリル、メタノール、エタノール、プロパノール及びHILIC用に適した他の溶媒からなる群から選択される溶媒の移動相の濃度を調節することによって、前記移動相の極性を増加又は減少させる、請求項9に記載の方法。
【請求項14】
前記移動相のpHを変えることによって前記固定相の正味荷電を増加又は減少させる、請求項9に記載の方法。
【請求項15】
前記塩がトリエチルアミンホスフェート、トリエチルアミンメチルホスホネート、ナトリウムメチルホスホネート、及びHILIC移動相と適合可能な他の塩からなる群から選択される、請求項11に記載の方法。
【請求項16】
ホスホペプチド化合物で静電的反発作用-親水性相互作用クロマトグラフィーを実施する方法であって、
約4未満のpHでアニオン交換材料のカラムを準備すること;及び
固定相の静電的反発作用と親水性相互作用とを実質的に平衡させるのに十分な有機溶媒の量を含む移動相を使用して、前記化合物を溶離させること、
を含む前記方法。
【請求項17】
前記化合物を定組成的に溶離させる、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
塩濃度勾配、pH勾配、極性勾配、またはそれらの勾配の組み合わせを用いて前記化合物を溶離させる、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
水、アセトニトリル、メタノール、エタノール、プロパノール及びHILIC用に適した他の溶媒からなる群から選択される溶媒の移動相での濃度を調節することによって、前記移動相の極性を増加又は減少させる、請求項16に記載の方法。
【請求項20】
前記塩がトリエチルアミンホスフェート、トリエチルアミンメチルホスホネート、ナトリウムメチルホスホネート、及びHILIC移動相と適合可能な他の塩からなる群から選択される、請求項18に記載の方法。
【請求項1】
タンパク質、ペプチド、アミノ酸及びその帯電誘導体からなる群から選択される化合物で静電的反発作用-親水性相互作用クロマトグラフィーを実施する方法であって、
約4未満のpHでアニオン交換材料のカラムを準備すること;及び
固定相の静電的反発作用と親水性相互作用とを実質的に平衡させるのに十分な有機溶媒の量を含む移動相を使用して前記化合物を溶離させること、
を含む前記方法。
【請求項2】
前記化合物を定組成的に溶離させる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記化合物を塩濃度勾配、pH勾配、極性勾配又はそれらの勾配の組み合わせを用いて溶離させる、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記化合物が、タンパク質、ペプチド及びアミノ酸からなる群から選択される帯電誘導体である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記帯電誘導体がリン酸基または硫酸塩基を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
水、アセトニトリル、メタノール、エタノール、プロパノール及びHILIC用に適した他の溶媒からなる群から選択される溶媒の移動相での濃度を調節することによって、前記移動相の極性を増加又は減少させる、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記移動相のpHを変えることによって前記固定相の正味荷電を増減する、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記塩がトリエチルアミンホスフェート、トリエチルアミンメチルホスホネート、ナトリウムメチルホスホネート、及びHILIC移動相と適合可能な他の塩からなる群から選択される、請求項3に記載の方法。
【請求項9】
核酸、ヌクレオチド及びその帯電誘導体からなる群から選択される化合物で静電的反発作用-親水性相互作用クロマトグラフィーを実施する方法であって、
約3.4未満のpHでカチオン交換材料のカラムを準備すること;及び
固定相の静電的反発作用と親水性相互作用とを実質的に平衡させるのに十分な有機溶媒の量を含む移動相を使用して、前記化合物を溶離させること、
を含む前記方法。
【請求項10】
前記化合物を定組成的に溶離させる、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
塩濃度勾配、pH勾配、極性勾配、減少有機溶媒量勾配又はそれらの勾配の組み合わせを用いて前記化合物を溶離させる、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記化合物が、核酸及びヌクレオチドからなる群から選択される分子の帯電誘導体である、請求項9に記載の方法。
【請求項13】
水、アセトニトリル、メタノール、エタノール、プロパノール及びHILIC用に適した他の溶媒からなる群から選択される溶媒の移動相の濃度を調節することによって、前記移動相の極性を増加又は減少させる、請求項9に記載の方法。
【請求項14】
前記移動相のpHを変えることによって前記固定相の正味荷電を増加又は減少させる、請求項9に記載の方法。
【請求項15】
前記塩がトリエチルアミンホスフェート、トリエチルアミンメチルホスホネート、ナトリウムメチルホスホネート、及びHILIC移動相と適合可能な他の塩からなる群から選択される、請求項11に記載の方法。
【請求項16】
ホスホペプチド化合物で静電的反発作用-親水性相互作用クロマトグラフィーを実施する方法であって、
約4未満のpHでアニオン交換材料のカラムを準備すること;及び
固定相の静電的反発作用と親水性相互作用とを実質的に平衡させるのに十分な有機溶媒の量を含む移動相を使用して、前記化合物を溶離させること、
を含む前記方法。
【請求項17】
前記化合物を定組成的に溶離させる、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
塩濃度勾配、pH勾配、極性勾配、またはそれらの勾配の組み合わせを用いて前記化合物を溶離させる、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
水、アセトニトリル、メタノール、エタノール、プロパノール及びHILIC用に適した他の溶媒からなる群から選択される溶媒の移動相での濃度を調節することによって、前記移動相の極性を増加又は減少させる、請求項16に記載の方法。
【請求項20】
前記塩がトリエチルアミンホスフェート、トリエチルアミンメチルホスホネート、ナトリウムメチルホスホネート、及びHILIC移動相と適合可能な他の塩からなる群から選択される、請求項18に記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【公開番号】特開2008−292456(P2008−292456A)
【公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2008−49649(P2008−49649)
【出願日】平成20年2月29日(2008.2.29)
【出願人】(508064540)ポリ エルシー・インコーポレーテッド (1)
【公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−49649(P2008−49649)
【出願日】平成20年2月29日(2008.2.29)
【出願人】(508064540)ポリ エルシー・インコーポレーテッド (1)
[ Back to top ]