説明

静電荷像現像用トナーおよびその製造方法

【課題】 基本的に高画質の画像を形成することができ、さらに、優れた低温定着性を有しながら優れた耐高温オフセット性を有する静電荷像現像用トナーを、安定的に製造することができるトナーの製造方法の提供。
【解決手段】 トナーの製造方法は、(a)重合性不飽和二重結合を含有する非晶性ポリエステル樹脂、結晶性ポリエステル樹脂を、有機溶媒中に溶解または分散させる油相液調製工程、(b)水系媒体中に前記油相液による油滴を形成させる油滴の水系分散液調製工程、(c)前記油滴の水系分散液にラジカル重合開始剤を添加し、架橋構造を有する非晶性ポリエステル樹脂を含む油滴を生成させる架橋構造形成工程、(d)有機溶媒を除去してトナー粒子を形成させる有機溶媒除去工程を経ることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真方式の画像形成に用いられる静電荷像現像用トナー(以下、単に「トナー」ともいう。)およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子写真方式の画像形成装置として、地球環境対応の観点から、省エネルギー化が図られたものが求められており、特に、画像形成装置の中でも多量のエネルギーを使用する定着システムの省エネルギー化が求められている。
従来から、シャープメルト性の高い樹脂、具体的には結晶性ポリエステル樹脂を結着樹脂としてトナーに用いることが低温定着に効果的な方法の1つとして知られており、さらに、結晶性ポリエステル樹脂を用いた場合に生じる耐高温オフセット性や耐熱保管性に劣るという問題を解消するために、高温下における弾性に優れた架橋構造を有するポリエステル樹脂を用いる方法が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
しかしながら、このような架橋構造を有するポリエステル樹脂を含有するトナーの製造方法においては、小粒径のトナーを製造することは困難であり、従って、このようなトナーによっては、高画質な画像を形成することができない。
一方、一般に、重合法を採用することによって小粒径のトナーを製造することができることが知られている。
然るに、重合法によって架橋構造を有するポリエステル樹脂を含有するトナーを作製することは困難である。
すなわち、ポリエステル樹脂は脱水縮合反応により生成するため、水中で十分に反応を進めることが困難である。これに対する施策として、予め脱水縮合反応により生成したポリエステル樹脂を有機溶媒に溶解し、転相乳化法などによって水系媒体中に分散させて乳化液を得、これによってトナー粒子を造粒する方法が提案されているが、このような方法によっても、架橋構造を有するポリエステル樹脂は有機溶媒に溶解/分散し難く、溶解/分散に多大なエネルギーを要するために、やはり困難である、という問題がある。
【0004】
上記の問題を解決するために、イソシアネート基が導入されたポリエステル樹脂を用い、造粒時に架橋構造を形成することが行われている(例えば、特許文献2参照。)。
【0005】
しかしながら、このようなトナーの製造方法においては、極めて高い反応性を有するイソシアネート基を用いるために反応のコントロールが難しく、安定的に製造することができない、という問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−223281号公報
【特許文献2】特開2008−262166号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、以上のような事情に基づいてなされたものであって、その目的は、基本的に高画質の画像を形成することができ、さらに、優れた低温定着性を有しながら優れた耐高温オフセット性を有する静電荷像現像用トナーを、安定的に製造することができる静電荷像現像用トナーの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の静電荷像現像用トナーの製造方法は、少なくとも架橋構造を有する非晶性ポリエステル樹脂、および結晶性ポリエステル樹脂からなる結着樹脂を含有するトナー粒子を含む静電荷像現像用トナーを製造する方法であって、
(a)重合性不飽和二重結合を含有する非晶性ポリエステル樹脂、および結晶性ポリエステル樹脂を、有機溶媒中に溶解または分散させる油相液調製工程、
(b)水系媒体中に前記油相液による油滴を形成させる油滴の水系分散液調製工程、
(c)前記油滴の水系分散液にラジカル重合開始剤を添加し、架橋構造を有する非晶性ポリエステル樹脂を含む油滴を生成させる架橋構造形成工程、
(d)有機溶媒を除去してトナー粒子を形成させる有機溶媒除去工程
を経ることを特徴とする。
本発明の静電荷像現像用トナーに製造方法においては、前記油滴の水系分散液調製工程において調製される水系分散液における油滴の分散径が、60〜1000nmであることが好ましい。
【0009】
本発明の静電荷像現像用トナーは、上記の静電荷像現像用トナーの製造方法によって得られることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明のトナーの製造方法によれば、基本的に、水系媒体にポリエステル樹脂を微粒子状に分散させた状態において架橋構造の形成が行われるために、高画質の画像を形成することができ、さらに、優れた低温定着性を有しながら優れた耐高温オフセット性を有するトナーを少ないエネルギーで製造することができる。
【0011】
また、本発明のトナーの製造方法によれば、極めて高い反応性を有するイソシアネート基を導入することなく重合性不飽和二重結合を用いたラジカル重合反応により架橋構造の形成が行われるために、反応のコントロールが容易となり、安定的に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について具体的に説明する。
【0013】
〔トナーの製造方法〕
本発明のトナーの製造方法は、少なくとも架橋構造を有する非晶性ポリエステル樹脂(以下、「架橋非晶性ポリエステル樹脂」ともいう。)、および結晶性ポリエステル樹脂を含む結着樹脂を含有するトナー粒子からなるトナーを製造する方法であって、
重合性不飽和二重結合を含有する非晶性ポリエステル樹脂(以下、「不飽和非晶性ポリエステル樹脂」ともいう。)、および結晶性ポリエステル樹脂を、有機溶媒中に溶解または分散させる油相液調製工程、
水系媒体中に前記油相液による油滴を形成させる油滴の水系分散液調製工程、
油滴の水系分散液にラジカル重合開始剤を添加し、架橋構造を有する非晶性ポリエステル樹脂を含む油滴を生成させる架橋構造形成工程、
有機溶媒を除去してトナー粒子を形成させる有機溶媒除去工程を経ることを特徴とする方法である。
【0014】
このようなトナーの製造方法の具体的な一例としては、
(1−A)結晶性ポリエステル樹脂を合成する結晶性ポリエステル樹脂合成工程、
(1−B)不飽和非晶性ポリエステル樹脂を合成する不飽和非晶性ポリエステル樹脂合成工程、
(2)結晶性ポリエステル樹脂、不飽和非晶性ポリエステル樹脂、および必要に応じて着色剤、離型剤、荷電制御剤などのトナー構成成分の混合組成物を有機溶媒中に溶解または分散させた油相液を調製する油相液調製工程、
(3)水系媒体中に油相液による油滴を形成させる油滴の水系分散液調製工程、
(4)油滴の水系分散液にラジカル重合開始剤を添加し、架橋構造を有する非晶性ポリエステル樹脂を含む油滴を生成させる架橋構造形成工程、
(5)有機溶媒を除去してトナー粒子を形成させる有機溶媒除去工程、
(6)得られるトナー粒子を水系媒体中より濾別し、当該トナー粒子から界面活性剤などを洗浄除去する濾過・洗浄工程、
(7)洗浄処理されたトナー粒子の乾燥工程、
から構成され、必要に応じて
(8)乾燥処理されたトナー粒子に外添剤を添加する外添剤添加工程
を加えることができる。
【0015】
(1−A)結晶性ポリエステル樹脂合成工程
この結晶性ポリエステル樹脂合成工程は、トナー粒子を構成する結着樹脂の材料となる結晶性ポリエステル樹脂を合成する工程である。
本発明において、結晶性ポリエステル樹脂とは、示差走査熱量測定法(DSC)において、階段状の吸熱量変化ではなく、明確な吸熱ピークを有するポリエステル樹脂をいう。このような結晶性ポリエステル樹脂であれば、特に限定されず、例えば、結晶性ポリエステル樹脂による主鎖に他成分を共重合させた構造を有する樹脂について、この樹脂が上記のように明確な吸熱ピークを示すものであれば、本発明でいう結晶性ポリエステルに該当する。
【0016】
本発明において使用される結晶性ポリエステル樹脂は、その融点が30〜99℃の範囲であることが好ましく、45〜88℃の範囲であることがより好ましい。
ここに、結晶性ポリエステル樹脂の融点は、吸熱ピークのピークトップの温度を示し、示差走査カロリメーター「DSC−7」(パーキンエルマー製)および熱分析装置コントローラー「TAC7/DX」(パーキンエルマー製)を用いて示差走査熱量分析によってDSC測定したものである。
具体的には、結晶性ポリエステル樹脂0.5mgをアルミニウム製パン(KITNO.0219−0041)に封入し、これを「DSC−7」のサンプルホルダーにセットし、測定温度0〜200℃で、昇温速度10℃/分、降温速度10℃/分の測定条件で、Heat−cool−Heatの温度制御を行い、その2nd.Heatにおけるデータをもとに解析を行った。ただし、リファレンスの測定には空のアルミニウム製パンを使用した。
【0017】
この結晶性ポリエステル樹脂は、テトラヒドロフラン(THF)可溶分のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による数平均分子量(Mn)が好ましくは100〜10,000、さらに好ましくは800〜5,000、重量平均分子量(Mw)が好ましくは1,000〜50,000、さらに好ましくは2,000〜30,000である。
【0018】
GPCによる分子量測定は、以下のように行った。すなわち、装置「HLC−8220」(東ソー社製)およびカラム「TSKguardcolumn+TSKgelSuperHZM−M3連」(東ソー社製)を用い、カラム温度を40℃に保持しながら、キャリア溶媒としてテトラヒドロフラン(THF)を流速0.2ml/minで流し、測定試料(結晶性ポリエステル樹脂)を室温において超音波分散機を用いて5分間処理を行う溶解条件で濃度1mg/mlになるようにテトラヒドロフランに溶解させ、次いで、ポアサイズ0.2μmのメンブランフィルターで処理して試料溶液を得、この試料溶液10μLを上記のキャリア溶媒と共に装置内に注入し、屈折率検出器(RI検出器)を用いて検出し、測定試料の有する分子量分布を単分散のポリスチレン標準粒子を用いて測定した検量線を用いて算出する。検量線測定用の標準ポリスチレン試料としては、Pressure Chemical社製の分子量が6×102 、2.1×103 、4×103 、1.75×104 、5.1×104 、1.1×105 、3.9×105 、8.6×105 、2×106 、4.48×106 のものを用い、少なくとも10点程度の標準ポリスチレン試料を測定し、検量線を作成した。また、検出器には屈折率検出器を用いた。
【0019】
結晶性ポリエステル樹脂は、ジカルボン酸成分とジオール成分とから生成させることができる。
【0020】
ジカルボン酸成分としては、脂肪族ジカルボン酸を用いることが好ましく、芳香族ジカルボン酸を併用してもよい。脂肪族ジカルボン酸としては、直鎖型のものを用いることが好ましい。ジカルボン酸成分は、1種類のものに限定されるものではなく、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0021】
脂肪族ジカルボン酸としては、例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼリン酸、セバシン酸、1,9−ノナンジカルボン酸、1,10−デカンジカルボン酸、1,11−ウンデカンジカルボン酸、1,12−ドデカンジカルボン酸、1,13−トリデカンジカルボン酸、1,14−テトラデカンジカルボン酸、1,16−ヘキサデカンジカルボン酸、1,18−オクタデカンジカルボン酸などが挙げられ、また、これらの低級アルキルエステルや酸無水物を用いることもできる。上記の脂肪族ジカルボン酸の中でも、入手容易性の観点から、アジピン酸、セバシン酸、1,10−デカンジカルボン酸を用いることが好ましい。
【0022】
脂肪族ジカルボン酸と共に用いることのできる芳香族ジカルボン酸としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、オルトフタル酸、t−ブチルイソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ビフェニルジカルボン酸などが挙げられる。これらの中でも、入手容易性および乳化容易性の観点から、テレフタル酸、イソフタル酸、t−ブチルイソフタル酸を用いることが好ましい。
芳香族ジカルボン酸の使用量は、結晶性ポリエステル樹脂を形成するためのジカルボン酸成分全体を100構成モル%とした場合の20構成モル%以下とされることが好ましく、より好ましくは10構成モル%以下、特に好ましくは5構成モル%以下である。芳香族ジカルボン酸の使用量が20構成モル%以下とされることにより、結晶性ポリエステル樹脂の結晶性を確保することができて製造されるトナーに優れた低温定着性が得られ、最終的に形成される画像に光沢性が得られると共に融点降下による画像保存性の低下が抑制され、さらに、当該結晶性ポリエステル樹脂を含む油相液を用いて油滴を形成させるときに、確実に乳化状態を得ることができる。
【0023】
また、ジオール成分としては、脂肪族ジオールを用いることが好ましく、必要に応じて脂肪族ジオール以外のジオールを含有させてもよい。
ジオール成分としては、脂肪族ジオールの中でも、主鎖を構成する炭素原子の数が2〜22である直鎖型の脂肪族ジオールを用いることがより好ましく、さらに、入手容易性や確実な低温定着性の発現、高い光沢性を有する画像が得られるという観点から、主鎖を構成する炭素原子の数が2〜14である直鎖型の脂肪族ジオールを用いることが特に好ましい。
用いる直鎖型の脂肪族ジオールの主鎖を構成する炭素原子の数が2〜22であることにより、ジカルボン酸成分として芳香族ジカルボン酸が併用される場合においても低温定着性が阻害されるレベルの融点を有するポリエステル樹脂が形成されることがなく、製造されるトナーに十分な低温定着性が得られ、また、最終的に形成される画像に高い光沢性が得られる。
ジオール成分としては、分岐型の脂肪族ジオールを用いることもできるが、この場合、結晶性の確保の観点から、直鎖型の脂肪族ジオールと共に使用し、かつ、当該直鎖型の脂肪族ジオールの割合を高めにして使用することが好ましい。このように直鎖型の脂肪族ジオールの割合を高めにして使用することによって、結晶性が確保されて製造されるトナーに優れた低温定着性が確実に得られ、最終的に形成される画像において融点降下による画像保存性の低下が抑制され、さらには耐ブロッキング性が確実に得られる。
ジオール成分は、1種類のものに限定されるものではなく、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0024】
結晶性ポリエステル樹脂を形成するためのジオール成分としては、脂肪族ジオールの含有量が80構成モル%以上とされることが好ましく、より好ましくは90構成モル%以上である。ジオール成分における脂肪族ジオールの含有量が80構成モル%以上とされることにより、結晶性ポリエステル樹脂の結晶性を確保することができて製造されるトナーに優れた低温定着性が得られると共に最終的に形成される画像に光沢性が得られる。
【0025】
脂肪族ジオールとしては、例えば、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−ドデカンジオール、1,11−ウンデカンジオール、1,12−ドデカンジオール、1,13−トリデカンジオール、1,14−テトラデカンジオール、1,18−オクタデカンジオール、1,20−エイコサンジオールなどが挙げられ、これらの中でも、エチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオールを用いることが好ましい。
【0026】
脂肪族ジオール以外のジオールとしては、二重結合を有するジオール、スルホン酸基を有するジオールなどが挙げられ、具体的には、二重結合を有するジオールとしては、例えば、2−ブテン−1,4−ジオール、3−ブテン−1,6−ジオール、4−ブテン−1,8−ジオールなどが挙げられる。
ジオール成分における二重結合を有するジオールの含有量は20構成モル%以下とされることが好ましく、より好ましくは2〜10構成モル%である。二重結合を有するジオールの含有量が20構成モル%以下であることにより、得られるポリエステル樹脂が融点の大幅に低減されたものとなることがなく、従って、フィルミングが発生するおそれが小さい。
【0027】
上記のジカルボン酸成分とジオール成分との使用比率は、ジオール成分のヒドロキシル基[OH]とジカルボン酸成分のカルボキシル基[COOH]との当量比[OH]/[COOH]が、1.5/1〜1/1.5とされることが好ましく、さらに好ましくは1.2/1〜1/1.2である。
ジカルボン酸成分とジオール成分との使用比率が上記の範囲にあることにより、所望の分子量を有する結晶性ポリエステル樹脂を確実に得ることができる。
【0028】
(1−B)不飽和非晶性ポリエステル樹脂合成工程
この不飽和非晶性ポリエステル樹脂合成工程は、トナー粒子を構成する結着樹脂の材料となる架橋非晶性ポリエステル樹脂を得るための不飽和非晶性ポリエステル樹脂を合成する工程である。
本発明において、非晶性ポリエステル樹脂とは、上記の結晶性ポリエステル樹脂以外のポリエステルをいい、通常は融点を有さず、比較的高いガラス転移点温度(Tg)を有するものである。
【0029】
不飽和非晶性ポリエステル樹脂は、少なくともいずれかに重合性不飽和二重結合が含有されてなる多価アルコールと多価カルボン酸とを用い、上記の結晶性ポリエステル樹脂の合成工程と同様にして合成することができる。
少なくともいずれかに重合性不飽和二重結合が含有されてなる多価ジオールと多価ジカルボン酸とは、(1)全部または一部が重合性不飽和二重結合を有する多価アルコールと、全く重合性不飽和二重結合を有さない多価カルボン酸、(2)全く重合性不飽和二重結合を有さない多価アルコールと、全部または一部が重合性不飽和二重結合を有する多価カルボン酸、(3)全部または一部が重合性不飽和二重結合を有する多価カルボン酸と、全部または一部が重合性不飽和二重結合を有する多価カルボン酸、のいずれかの組み合わせをいう。
【0030】
この不飽和非晶性ポリエステル樹脂のガラス転移点温度(Tg)は、20〜90℃であることが好ましく、特に35〜65℃であることが好ましい。
また、この不飽和非晶性ポリエステル樹脂の軟化点は、80〜220℃であることが好ましく、特に80〜150℃であることが好ましい。
ここに、不飽和非晶性ポリエステル樹脂のガラス転移点温度(Tg)は、示差走査カロリメーター「DSC−7」(パーキンエルマー製)、および熱分析装置コントローラー「TAC7/DX」(パーキンエルマー製)を用いて測定したものである。具体的には、不飽和非晶性ポリエステル樹脂4.50mgをアルミニウム製パン「KITNO.0219−0041」に封入し、これを「DSC−7」のサンプルホルダーにセットし、リファレンスの測定には空のアルミニウム製パンを使用し、測定温度0〜200℃で、昇温速度10℃/分、降温速度10℃/分の測定条件で、Heat−cool−Heatの温度制御を行い、その2nd.Heatにおけるデータを取得し、第1の吸熱ピークの立ち上がり前のベースラインの延長線と、第1の吸熱ピークの立ち上がり部分からピーク頂点までの間で最大傾斜を示す接線との交点をガラス転移点温度(Tg)として示す。なお、1st.Heat昇温時は200℃にて5分間保持する。
また、軟化点は、以下のように測定したものである。すなわち、まず、20℃、50%RHの環境下において、不飽和非晶性ポリエステル樹脂1.3gをシャーレに入れ平らにならし、12時間以上放置した後、成型器「SSP−10A」(島津製作所製)によって3820kg/cm2 の力で30秒間加圧し、直径1cmの円柱型の成型サンプルを作成する。次いで、この成型サンプルを、24℃、50%RHの環境下において、フローテスター「CFT−500D」(島津製作所製)により、荷重196N(20kgf)、開始温度60℃、予熱時間300秒間、昇温速度6℃/分の条件で、円柱型ダイの穴(1mm径×1mm)より、直径1cmのピストンを用いて予熱終了時から押し出し、昇温法の溶融温度測定方法でオフセット値5mmの設定で測定したオフセット法温度Toffsetを、不飽和非晶性ポリエステル樹脂の軟化点とした。
【0031】
この不飽和非晶性ポリエステル樹脂は、THF可溶分のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による数平均分子量(Mn)が好ましくは2,000〜10000、より好ましくは2,500〜8,000、重量平均分子量(Mw)が好ましくは3,000〜100,000、より好ましくは4,000〜70,000である。
GPCによる分子量測定は、測定試料として不飽和非晶性ポリエステル樹脂を用いたことの他は結晶性ポリエステル樹脂の分子量測定と同様の方法によって行われる。
【0032】
不飽和非晶性ポリエステル樹脂を形成すべき多価アルコールとしては、例えば、上述の脂肪族ジオールに加え、ビスフェノールA、ビスフェノールFなどのビスフェノール類、およびこれらのエチレンオキサイド付加物、プロピレンオキサイド付加物などのビスフェノール類のアルキレンオキサイド付加物などを挙げることができ、また、3価以上の多価アルコールとしては、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビトールなどが挙げられる。さらに、製造コストや環境性から、シクロヘキサンジメタノールやネオペンチルアルコールなどを用いることが好ましい。これらは、1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
不飽和非晶性ポリエステル樹脂の不飽和二重結合を多価アルコールから導入する場合は、不飽和非晶性ポリエステル樹脂を形成すべき多価アルコールとして、重合性不飽和二重結合を有する多価アルコール、具体的には、2−ブチン−1,4ジオール、3−ブチン−1,4ジオール、9−オクタデゼン−7,12ジオールなどのアルケンジオールなどを挙げることができる。これらは、1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0033】
また、不飽和非晶性ポリエステル樹脂を形成すべき多価カルボン酸としては、上述の脂肪族ジカルボン酸に加え、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸が挙げられ、得られる不飽和非晶性ポリエステル樹脂の溶融粘度を適当なものにする目的で、トリメリット酸、ピロメリット酸などの3価以上の多価カルボン酸を用いてもよい。これらは、1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
不飽和非晶性ポリエステル樹脂の不飽和二重結合を多価カルボン酸から導入する場合は、不飽和非晶性ポリエステル樹脂を形成すべき多価カルボン酸として、重合性不飽和二重結合を有する多価カルボン酸、具体的には、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、グルタコン酸、イソドデセニルコハク酸、n−ドデセニルコハク酸、n−オクテニルコハク酸などの不飽和脂肪族ジカルボン酸;およびこれらの酸無水物または酸塩化物;コーヒー酸などの不飽和芳香族カルボン酸などを挙げることができ、特に、優れたラジカル重合性を示すことから、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸を用いることが好ましい。これらは、1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0034】
(2)油相液調製工程
この油相液調製工程は、結晶性ポリエステル樹脂、不飽和非晶性ポリエステル樹脂、および必要に応じて着色剤、離型剤、荷電制御剤などのトナー構成成分の混合組成物を有機溶媒中に溶解または分散させた油相液を調製する工程である。
【0035】
本発明において、油相液には、結着樹脂を形成する成分として、少なくとも結晶性ポリエステル樹脂および不飽和非晶性ポリエステル樹脂が含まれていればよく、重合性不飽和二重結合を有さない非晶性ポリエステル樹脂やその他の樹脂がさらに含有されていてもよい。
すなわち、得られるトナーにおいて、結着樹脂が少なくとも結晶性ポリエステル樹脂および架橋非晶性ポリエステル樹脂を含めばよく、必要に応じて、重合性不飽和二重結合を有さない非晶性ポリエステル樹脂やその他の樹脂が含まれて構成されていてもよい。
【0036】
油相液の調製に使用される有機溶媒としては、有機溶媒除去工程において除去処理が容易である観点から、沸点が低く、かつ、水への溶解性が低いものが好ましく、具体的には、例えば酢酸メチル、酢酸エチル、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、トルエン、キシレンなどが挙げられる。これらは1種単独であるいは2種以上組み合わせて用いることができる。
有機溶媒の使用量は、結着樹脂を形成する成分100質量部に対して、通常1〜300質量部、好ましくは1〜100質量部、さらに好ましくは25〜70質量部である。
【0037】
この油相液において、結晶性ポリエステル樹脂と不飽和非晶性ポリエステル樹脂との相対的な含有割合は、質量比で1:99〜40:60であることが好ましく、より好ましくは10:90〜40:60である。油相液における結晶性ポリエステル樹脂と不飽和非晶性ポリエステル樹脂の含有割合を上記の範囲内にすることにより、低温定着性と機械的強度とを高いレベルで両立して得ることができる。
【0038】
〔着色剤〕
着色剤としては、一般に知られている染料および顔料を用いることができる。
黒色のトナーを得るための着色剤としては、ファーネスブラック、チャンネルブラックなどのカーボンブラック、マグネタイト、フェライトなどの磁性体、染料、非磁性酸化鉄を含む無機顔料などの公知の種々のものを任意に使用することができる。
カラーのトナーを得るための着色剤としては、染料、有機顔料などの公知のものを任意に使用することができ、具体的には、有機顔料としては例えばC.I.ピグメントレッド5、同48:1、同53:1、同57:1、同81:4、同122、同139、同144、同149、同166、同177、同178、同222、同238、同269、C.I.ピグメントイエロー14、同17、同74、同93、同94、同138、同155、同180、同185、C.I.ピグメントオレンジ31、同43、C.I.ピグメントブルー15;3、同60、同76などを挙げることができ、染料としては例えばC.I.ソルベントレッド1、同49、同52、同58、同68、同11、同122、C.I.ソルベントイエロー19、同44、同77、同79、同81、同82、同93、同98、同103、同104、同112、同162、C.I.ソルベントブルー25、同36、同69、同70、同93、同95などを挙げることができる。
各色のトナーを得るための着色剤は、各色について、1種または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0039】
この油相液において、着色剤の含有量は、例えば油相液における固形分全体において1〜15質量%、好ましくは4〜10質量%とされる。着色剤の含有量が過少である場合は、所望の着色力が得られないおそれがあり、一方、着色剤の含有量が過多である場合は、着色剤の遊離やキャリアなどへの付着が発生し、帯電性に影響を与える場合がある。
【0040】
〔離型剤〕
離型剤としては、特に限定されるものではなく、公知のものを使用することができる。具体的には、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテンなどの低分子量ポリオレフィン類;合成エステルワックス、カルナウバワックス、ライスワックス、キャンデリラワックス、木ロウ、ホホバ油などの植物系ワックス;モンタンワックス、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、フィッシャートロプシュワックスなどの鉱物、石油系ワックス;これらの変性物などが挙げられる。
この油相液における離型剤の含有量は、最終的に得られるトナー粒子中における結着樹脂100質量部に対して通常0.5〜25質量部、好ましくは3〜15質量部となる量とされる。
【0041】
〔荷電制御剤〕
荷電制御剤としては、公知の種々の化合物を用いることができる。
この油相液における荷電制御剤の添加量は、最終的に得られるトナー粒子中における結着樹脂100質量部に対して通常0.1〜10質量部、好ましくは0.5〜5質量部となる量とされる。
【0042】
(3)油滴の水系分散液調製工程
この油滴の水系分散液調製工程は、上記のように調製した油相液を、転相乳化法などによって水系媒体中に分散させる工程である。
【0043】
ここに、「水系媒体」とは、少なくとも水が50質量%以上含有されたものをいい、水以外の成分としては、水に溶解する有機溶剤を挙げることができ、例えばメタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、アセトン、メチルエチルケトン、ジメチルホルムアミド、メチルセルソルブ、テトラヒドロフランなどが挙げられる。これらのうち、樹脂を溶解しない有機溶剤であるメタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノールのようなアルコール系有機溶剤を使用することが好ましい。
【0044】
水系媒体の使用量は、油相液100質量部に対して、50〜2,000質量部であることが好ましく、100〜1,000質量部であることがより好ましい。
水系媒体の使用量を上記の範囲とすることで、水系媒体中において油相液を所望の粒径に乳化分散させることができる。
【0045】
油相液の乳化分散は、機械的エネルギーを利用して行うことができ、乳化分散を行うための分散機としては、特に限定されるものではなく、低速せん断式分散機、高速せん断式分散機、摩擦式分散機、高圧ジェット式分散機、超音波分散機などが挙げられ、具体的には例えばTK式ホモミキサー(特殊機化工業社製)などを挙げることができる。
油滴の分散径は60〜1000nmとされることが好ましく、さらに好ましくは80〜500nmである。
油滴の分散径は、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置「LA−750」(株式会社堀場製作所製)を用いて測定した体積基準のメジアン径である。この油滴の分散径は、乳化分散時の機械的エネルギーの大きさによりコントロールすることができる。
油滴の分散径が60〜1000nmの範囲とされることにより、架橋反応が生じる油滴の表面積が好ましい大きさとなり、低温定着性と耐高温オフセット性とを高いレベルで両立して得ることができる。
【0046】
水系媒体中には、分散安定剤が溶解されていてもよく、また、この水系媒体中には、油滴の分散安定性を向上させる目的で、界面活性剤や樹脂微粒子などが添加されていてもよい。
分散安定剤としては、リン酸三カルシウム、炭酸カルシウム、酸化チタン、コロイダルシリカ、ヒドロキシアパタイトなどの無機化合物を挙げることができるが、得られるトナー母体粒子中より分散安定剤を除去する必要があることから、リン酸三カルシウムなどのように酸やアルカリに可溶性のものを使用することが好ましく、または環境面の視点からは、酵素により分解可能なものを使用することが好ましい。
界面活性剤としては、アルキルベンゼンスルホン酸塩、α−オレフィンスルホン酸塩、リン酸エステルなどのアニオン性界面活性剤、アルキルアミン塩、アミノアルコール脂肪酸誘導体、ポリアミン脂肪酸誘導体、イミダゾリンなどのアミン塩型や、アルキルトリメチルアンモニム塩、ジアルキルジメチルアンモニウム塩、アルキルジメチルベンジルアンモニウム塩、ピリジニウム塩、アルキルイソキノリニウム塩、塩化ベンゼトニウムなどの4級アンモニウム塩型のカチオン性界面活性剤、脂肪酸アミド誘導体、多価アルコール誘導体などの非イオン界面活性剤、アラニン、ドデシルジ(アミノエチル)グリシン、ジ(オクチルアミノエチル)グリシンやN−アルキル−N,N−ジメチルアンモニウムベタインなどの両性界面活性剤などが挙げられ、また、フルオロアルキル基を有するアニオン性界面活性剤やカチオン性界面活性剤も使用することができる。
また、分散安定性の向上のための樹脂微粒子としては、粒径が0.5〜3μmのものが好ましく、具体的には、粒径が1μmおよび3μmのポリメタクリル酸メチル樹脂微粒子、粒径が0.5μmおよび2μmのポリスチレン樹脂微粒子、粒径が1μmのポリスチレン−アクリロニトリル樹脂微粒子などが挙げられる。
【0047】
(4)架橋構造形成工程
この架橋構造形成工程は、油滴の水系分散液にラジカル重合開始剤を添加して、不飽和非晶性ポリエステル樹脂の重合性不飽和二重結合をラジカル重合反応させて架橋構造を形成することにより高弾性成分である架橋非晶性ポリエステル樹脂を生成させる工程である。
ラジカル重合開始剤としては、例えば2,2’−アゾビス−(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、2,2’−アゾビス−4−メトキシー2,4−ジメチルバレロニトリル、アゾビスイソブチロニトリルなどのアゾ系またはジアゾ系重合開始剤、ベンゾイルパーオキサイド、メチルエチルケトンペルオキサイド、ジイソプロピルペルオキシカーボネート、クメンヒドロペルオキサイド、t−ブチルヒドロペルオキサイド、ジ−t−ブチルペルオキサイド、ジクミルペルオキサイド、2,4−ジクロロベンゾイルペルオキサイド、ラウロイルペルオキサイド、2,2−ビス−(4,4−t−ブチルペルオキシシクロヘキシル)プロパン、トリス−(t−ブチルペルオキシ)トリアジンなどの過酸化物系重合開始剤や過酸化物を側鎖に有する油溶性重合開始剤などを挙げることができ、また、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]二塩酸塩、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]二硫酸塩無水物、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩、2,2’−アゾビス[N−(2−カルボキシエチル)−2−メチルプロピオンアミジン]水和物、2,2’−アゾビス{2−[1−(2−ヒドロキシエチル)−2−イミダゾリン−2−イル]プロパン}二塩酸塩、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]、2,2’−アゾビス(1−イミノ−1−ピロリジノ−2−エチルプロパン)二塩酸塩、2,2’−アゾビス{2−メチル−N−[1,1−ビス(ヒドロキシメチル)−2−ヒドロキシエチル]プロピオンアミド}、2,2’−アゾビス[2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]など水溶性アゾ開始剤;過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムなどの過硫酸塩、アゾビスアミノジプロパン酢酸塩、アゾビスシアノ吉草酸およびその塩、過酸化水素などの水溶性重合開始剤を挙げることができる。これら1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0048】
(5)有機溶媒除去工程
この有機溶媒除去工程は、油滴の水系分散液調製工程を行った後、当該油滴における有機溶媒を除去する工程である。この工程は、所望の全ての架橋構造の形成後を含むタイミングにおいて行われればよく、架橋反応のコントロールなどの観点から、複数回に分けて行ってもよい。具体的には、例えば、ラジカル重合開始剤の投入前にある程度の有機溶媒を除去して油滴中のポリエステル濃度を高めておき、その状態でラジカル重合開始剤を投入して架橋反応を行い、所望の全ての架橋構造の形成後に、最終的に有機溶媒を除去してトナー粒子を形成する方法を挙げることができる。
【0049】
有機溶媒の除去処理としては、公知の有機溶媒を除去する方法を採用することができる。具体的には、油滴が水系媒体中に分散された状態の分散液全体を、減圧下で撹拌しながら徐々に昇温し、一定の温度域において溶媒を留去するなどの操作により行うことができる。
また、分散安定剤を用いてトナー粒子を形成する場合は、有機溶媒の除去処理に加えて、酸やアルカリを添加して混合することにより、当該分散安定剤の除去処理も行う。
【0050】
(5−2)形状制御工程
本発明のトナーの製造方法においては、上記の有機溶媒除去工程の後に、トナー粒子の形状を制御する形状制御工程を行ってもよい。
この形状制御工程は、得られたトナー粒子の分散液を、ミクロンオーダーのフィルター通過処理やアニュラー型連続撹拌ミルなどの撹拌操作により、トナー粒子の長短軸比が所定範囲の値になるように、トナー粒子の形状を制御することにより、トナー粒子を所望の形状に成形する工程である。
トナー粒子の形状制御処理を行う具体的方法としては、例えば、ギャップやフィルター、細孔を通過させる方法や高速回転などによりトナー粒子に遠心力を付与して形状を制御する方法などが挙げられる。また、トナー粒子の具体的な形状制御処理装置としては、前述のアニュラー型連続湿式撹拌ミルの他に、ピストン型高圧式均質化機、インラインスクリューポンプなどが挙げられる。
所望の形状のトナー粒子は、例えば形状の制御に係る処理の処理時間、処理温度、および処理速度などの因子を制御することにより、実現される。
このようにして、トナー粒子の形状が制御され、所定範囲の長短軸比を有するトナー粒子が製造される。
なお、この形状制御工程は、上記の有機溶媒除去工程の前、具体的には、架橋構造形成工程と有機溶媒除去工程との間に行ってもよい。
【0051】
(6)濾過・洗浄工程
この濾過・洗浄工程では、得られたトナー粒子の分散液を冷却し、この冷却されたトナー粒子の分散液からトナー粒子を固液分離してトナー粒子を濾別する濾過処理と、濾別されたトナー粒子(ケーキ状の集合物)から界面活性剤などの付着物を除去する洗浄処理とが施される。具体的な固液分離および洗浄の方法としては、遠心分離法、ヌッチェなどを使用する減圧濾過法、フィルタープレスなどを使用する濾過法などが挙げられ、これらは特に限定されるものではない。
【0052】
(7)乾燥工程
この乾燥工程では、洗浄処理されたトナー粒子を乾燥処理が施される。この乾燥工程で使用される乾燥機としては、スプレードライヤー、真空凍結乾燥機、減圧乾燥機、静置棚乾燥機、移動式棚乾燥機、流動層乾燥機、回転式乾燥機、撹拌式乾燥機などが挙げられ、これらは特に限定されるものではない。なお、乾燥処理されたトナー粒子中の水分量は、5質量%以下であることが好ましく、さらに好ましくは2質量%以下とされる。
【0053】
ここに、トナー粒子の水分量の測定はカール・フィッシャー電量滴定法にて実施される。具体的には、水分計「AO−6、AQI−601」(AQ−6用インターフェイス)、加熱気化装置「LE−24S」からなる自動熱気化水分測定システム「AQS−724」(平沼産業社製)を用い、20℃、50%RHの環境下にて24時間放置したトナー粒子0.5gをガラス製20mlのサンプル管に精密に秤量して入れ、テフロン(登録商標)コートのシリコーンゴムパッキングを用いて密栓し、以下の測定条件および試薬にてこの密栓した環境中に存在する水分量の測定を行う。さらに、この密栓した環境中の水分量を補正するため、空のサンプルを同時に2本測定する。
・試料加熱温度:110℃
・試料加熱時間:1分
・窒素ガス流量:150ml/分
・試薬:対極液(陰極液);ハイドラナール クーロマット CG−K(HYDRANAL(R)−Coulomat CG−K)、発生液(陽極液);ハイドラナール クーロマット AK(HYDRANAL(R)−Coulomat AK)
【0054】
また、乾燥処理されたトナー粒子同士が、弱い粒子間引力で凝集して凝集体を形成している場合には、当該凝集体を解砕処理してもよい。ここに、解砕処理装置としては、ジェットミル、ヘンシェルミキサー、コーヒーミル、フードプロセッサーなどの機械式の解砕装置を使用することができる。
【0055】
(8)外添剤添加工程
この外添剤添加工程は、乾燥処理されたトナー粒子に、流動性、帯電性の改良およびクリーニング性の向上などの目的で、荷電制御剤や種々の無機微粒子、有機微粒子、および滑剤などの外添剤を添加する工程であって、必要に応じて行われる。外添剤を添加するために使用される装置としては、タービュラーミキサー、ヘンシェルミキサー、ナウターミキサー、V型混合機などの種々の公知の混合装置を挙げることができる。
無機微粒子としては、シリカ、チタニア、アルミナなどの無機酸化物粒子の使用が好ましく、さらに、これら無機微粒子はシランカップリング剤やチタンカップリング剤などによって疎水化処理されていることが好ましい。
この外添剤の添加量は、トナー中に0.1〜5.0質量%、好ましくは0.5〜4.0質量%であることが好ましい。また、外添剤としては種々のものを組み合わせて使用してもよい。
【0056】
以上のような製造方法によれば、水系媒体にポリエステル樹脂を微粒子状に分散させた状態において架橋構造の形成が行われるために、優れた耐高温オフセット性が付与されたトナーを製造することができる。また、以上のような製造方法によれば小粒径のトナーを容易に製造することができるため、高画質の画像を形成するトナーを容易に製造することができる。さらに、架橋構造を有する樹脂を分散させる工程を経ないために、優れた低温定着性を有しながら優れた耐高温オフセット性を有するトナーを少ないエネルギーで製造することができる。またさらに、重合性不飽和二重結合を用いたラジカル重合反応により架橋構造の形成が行われるために、反応のコントロールが容易であり、その結果、前記のようなトナーを安定的に製造することができる。
【0057】
以上のような製造方法によって得られた本発明のトナーは、そのガラス転移点温度(Tg)が30〜60℃、特に35〜54℃であることが好ましく、また、軟化点が70〜140℃、特に80〜137℃であることが好ましい。
ここに、ガラス転移点温度(Tg)および軟化点は、測定試料をトナーとしたことの他は上記と同様の方法によって測定されるものである。
【0058】
〔トナー粒子の粒径〕
以上のような製造方法によって得られるトナー粒子は、その粒径が体積基準のメディアン径で3〜8μmであることが好ましい。このトナー粒子の粒径は、架橋非晶性ポリエステル樹脂形成工程において形成させる油滴の粒径や分散安定剤の量などによって制御することができる。体積基準のメジアン径が3〜8μmであることにより、静電潜像に忠実なドット再現が可能となり、細線再現性やハーフトーン画質を向上することができる。
また、トナーの粒度分布は、CV値が16〜35であることが好ましく、さらに好ましくは18〜22である。
CV値は、下記式(x)によって求められるものである。ただし、算術平均粒径とは25,000個のトナー粒子について、体積基準の粒子径xの平均値であり、この算術平均粒径は「コールターマルチサイザーIII 」(ベックマン・コールター社製)によって測定されるものである。
式(x):CV値(%)={(標準偏差)/(算術平均粒径)}×100
【0059】
トナーの体積基準のメディアン径は、「コールターマルチサイザーIII 」(ベックマン・コールター社製)に、データ処理用のコンピューターシステム(ベックマン・コールター社製)を接続した装置を用いて測定・算出したものである。
具体的には、トナー0.02gを、界面活性剤溶液20mL(トナーの分散を目的として、例えば界面活性剤成分を含む中性洗剤を純水で10倍希釈した界面活性剤溶液)に添加して馴染ませた後、超音波分散を1分間行い、トナー分散液を調製し、このトナー分散液を、サンプルスタンド内の電解液「ISOTONII」(ベックマン・コールター社製)の入ったビーカーに、測定装置の表示濃度が5〜10%になるまでピペットにて注入する。ここで、この濃度範囲にすることにより、再現性のある測定値を得ることができる。測定装置において、測定粒子カウント数を25,000個、アパーチャ径を50μmにし、測定範囲1〜30μmの範囲を256分割しての頻度値を算出し、体積積算分率が大きい方から50%の粒子径(体積D50%径)を体積基準のメディアン径とする。
【0060】
〔トナー粒子の平均円形度〕
また、以上のような製造方法によって得られるトナーは、このトナーを構成する個々のトナー粒子について、転写効率の向上の観点から、平均円形度が0.930〜1.000であることが好ましく、より好ましくは0.945〜0.995である。
この平均円形度が0.930〜0.995の範囲にあることにより、記録材に転写されたトナー層におけるトナー粒子の充填密度が高くなって定着性が向上し、定着オフセットが発生しにくくなる。また、個々のトナー粒子が破砕しにくくなって摩擦帯電付与部材の汚染が減少し、トナーの帯電性が安定する。
【0061】
トナー粒子の平均円形度は、「FPIA−2100」(Sysmex社製)を用いて測定した値である。具体的には、トナーを界面活性剤入り水溶液にてなじませ、超音波分散処理を1分間行って分散させた後、「FPIA−2100」(Sysmex社製)によって、測定条件HPF(高倍率撮像)モードにて、HPF検出数3,000〜10,000個の適正濃度で撮影を行い、個々のトナー粒子について下記式(y)に従って円形度を算出し、各トナー粒子の円形度を加算し、全トナー粒子数で除することにより算出した値である。HPF検出数が上記の範囲であれば、再現性が得られる。
式(y):
円形度=(粒子像と同じ投影面積をもつ円の周囲長)/(粒子役影像の周囲長)
【0062】
〔現像剤〕
以上のようなトナーは、例えば磁性体を含有させて一成分磁性トナーとして使用する場合、いわゆるキャリアと混合して二成分現像剤として使用する場合、非磁性トナーを単独で使用する場合などが考えられ、いずれも好適に使用することができる。
【0063】
二成分現像剤を構成するキャリアとしては、鉄、フェライト、マグネタイトなどの金属、それらの金属とアルミニウム、鉛などの金属との合金などの従来から公知の材料からなる磁性粒子を用いることができ、特にフェライト粒子を用いることが好ましい。
キャリアとしては、その体積平均粒径としては15〜100μmのものが好ましく、25〜60μmのものがより好ましい。キャリアの体積平均粒径の測定は、代表的には湿式分散機を備えたレーザ回折式粒度分布測定装置「ヘロス(HELOS)」(シンパティック(SYMPATEC)社製)により測定することができる。
キャリアとしては、さらに樹脂により被覆されているもの、あるいは樹脂中に磁性粒子を分散させたいわゆる樹脂分散型キャリアを用いることが好ましい。被覆用の樹脂組成としては、特に限定はないが、例えば、オレフィン系樹脂、スチレン系樹脂、スチレン−アクリル系樹脂、シリコーン系樹脂、エステル系樹脂あるいはフッ素含有重合体系樹脂などが用いられる。また、樹脂分散型キャリアを構成するための樹脂としては、特に限定されず公知のものを使用することができ、例えば、アクリル系樹脂、スチレン−アクリル系樹脂、ポリエステル樹脂、フッ素系樹脂、フェノール系樹脂などを使用することができる。
【0064】
〔画像形成方法〕
以上のようなトナーは、接触加熱方式による定着工程を含む画像形成方法に好適に用いることができる。画像形成方法としては、具体的には、以上のようなトナーを使用して、例えば像担持体上に静電的に形成された静電潜像を、現像装置において現像剤を摩擦帯電部材によって帯電させることにより顕在化させてトナー像を得、このトナー像を記録材に転写し、その後、記録材上に転写されたトナー像を接触加熱方式の定着処理によって記録材に定着させることにより、可視画像が得られる。
【0065】
以上、本発明の実施形態について具体的に説明したが、本発明の実施形態は上記の例に限定されるものではなく、種々の変更を加えることができる。
【実施例】
【0066】
以下、本発明の具体的な実施例について説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0067】
〔不飽和非晶性ポリエステル樹脂の合成例A〕
撹拌装置、窒素導入管、温度センサー、精留塔を備えた反応容器に、
多価カルボン酸
・フマル酸:4.2質量部
・テレフタル酸:78質量部
多価アルコール
・2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンプロピレンオキサイド2モル付加物:152質量部
・2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンエチレンオキサイド2モル付加物:48質量部
を仕込み、反応系の温度を1時間かけて190℃に上昇させ、反応系内が均一に撹拌されていることを確認した後、触媒としてTi(OBu)4 を、多価カルボン酸全量に対して0.006質量%となる量を投入し、さらに、生成される水を留去しながら反応系の温度を同温度から6時間かけて240℃に上昇させ、さらに240℃に維持した状態で6時間脱水縮合反応を継続して重合反応を行うことにより、不飽和非晶性ポリエステル樹脂〔A〕を得た。
得られた不飽和非晶性ポリエステル樹脂〔A〕は、数平均分子量(Mn)が3,100、ガラス転移点(Tg)が63℃であった。不飽和非晶性ポリエステル樹脂〔A〕の分子量、ガラス転移点(Tg)は、上述の通りに測定した。
【0068】
〔結晶性ポリエステル樹脂の合成例B〕
撹拌装置、窒素導入管、温度センサー、精留塔を備えた反応容器に、
多価カルボン酸
・1,10−ドデカン二酸:200質量部
多価アルコール
・1,9−ノナンジオール:140質量部
を仕込み、反応系の温度を1時間かけて190℃に上昇させ、反応系内が均一に撹拌されていることを確認した後、触媒としてTi(OBu)4 を、多価カルボン酸全量に対して0.006質量%となる量を投入し、さらに、生成される水を留去しながら反応系の温度を同温度から6時間かけて240℃に上昇させ、さらに240℃に維持した状態で6時間脱水縮合反応を継続して重合反応を行うことにより、結晶性ポリエステル樹脂〔B〕を得た。
得られた結晶性ポリエステル樹脂〔B〕は、数平均分子量(Mn)が2,900、融点が65℃であった。結晶性ポリエステル樹脂〔B〕の分子量および融点は、上述の通りに測定した。
【0069】
〔トナーの製造例1〕
(油相液調製工程)
撹拌装置、温度センサー、冷却管および窒素導入装置を取り付けた反応槽に、酢酸エチル450質量部、不飽和非晶性ポリエステル樹脂〔A〕267質量部、結晶性ポリエステル樹脂〔B〕37質量部、銅フタロシアニンブルー4質量部、カーボンブラック4質量部、ペンタエリスリトールテトラステアレート15質量部を、温度70℃で2時間にわたって撹拌することにより、トナー組成物からなる油相液〔1〕を得た。
(油滴の水系分散液調製工程)
一方、別の反応槽に、イオン交換水600質量部およびドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.3質量部を入れ、「TKホモミキサーMarkII 2.5型」(プライミクス株式会社製)によって、温度70℃において12000rpmで撹拌しながら、トナー組成物からなる油相液〔1〕を投入し、30分間撹拌することによって水系分散液〔1〕を得た。油滴の分散径(体積基準のメジアン径)は230nmであった。なお、油滴の分散径は、上述の通りに測定した。以下において同じである。
(架橋構造形成工程および有機溶媒除去工程)
その後、撹拌装置、温度センサー、精留管および窒素導入装置を取り付けた別の反応槽に40℃まで冷却した水系分散液〔1〕を投入し、50mmHgの減圧下で酢酸エチルを380質量部留去させ、常圧に戻した後、温度70℃まで昇温し、過硫酸カリウム6.3質量部をイオン交換水42質量部に溶解させた開始剤水溶液を投入し、粒子が体積基準のメジアン径で5.5μmまで成長した時点でリン酸三カルシウム60質量部とドデシル硫酸ナトリウム0.3質量部を添加して2時間反応を行った。その後、40℃まで冷却し、50mmHgの減圧下で酢酸エチルを除去し、さらに、35%濃塩酸120質量部を添加してトナー粒子表面のリン酸三カルシウムを溶出させた。
(濾過・洗浄・乾燥工程)
次いで、固液分離し、脱水したトナーケーキをイオン交換水に再分散し固液分離する操作を3回繰り返して洗浄したのち、40℃で24時間乾燥させることにより、トナー粒子〔1〕によるトナー〔1X〕を得た。
トナー〔1X〕におけるトナー粒子〔1〕の体積基準のメディアン径は5.2μm、平均円形度は0.964であった。
(外添剤添加工程)
得られたトナー〔1X〕100質量部に、疎水性シリカ(数平均一次粒子径=12nm、疎水化度=68)0.6質量部および疎水性酸化チタン(数平均一次粒子径=20nm、疎水化度=63)1.0質量部を添加し、「ヘンシェルミキサー」(三井三池化工機社製)により回転翼周速35mm/sec、32℃で20分間混合した後、45μmの目開きのフルイを用いて粗大粒子を除去する外添剤処理を施すことにより、トナー〔1〕を製造した。
【0070】
〔トナーの製造例2〜5〕
トナーの製造例1において、不飽和非晶性ポリエステル樹脂〔A〕の代わりに、下記の不飽和非晶性ポリエステル樹脂〔A2〕〜〔A5〕を用いたことの他は同様にして、トナー〔2〕〜〔5〕を得た。
【0071】
〔不飽和非晶性ポリエステル樹脂の合成例A2〕
不飽和非晶性ポリエステル樹脂の合成例Aにおいて、多価カルボン酸として
・イタコン酸:2.4質量部
・テレフタル酸:36質量部
・イソフタル酸:5.2質量部
を用いたことの他は同様にして、不飽和非晶性ポリエステル樹脂〔A2〕を得た。
得られた不飽和非晶性ポリエステル樹脂〔A2〕は、数平均分子量(Mn)が2,900、ガラス転移点(Tg)が66℃であった。
【0072】
〔不飽和非晶性ポリエステル樹脂の合成例A3〕
不飽和非晶性ポリエステル樹脂の合成例Aにおいて、多価カルボン酸および多価アルコールとして
多価カルボン酸
・テレフタル酸:37質量部
・イソフタル酸:6質量部
多価アルコール
・2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンプロピレンオキサイド2モル付加物:71質量部
・2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンエチレンオキサイド2モル付加物45:19質量部
・2−ブチン−1,4−ジオール:71質量部
を用いたことの他は同様にして、不飽和非晶性ポリエステル樹脂〔A3〕を得た。
得られた不飽和非晶性ポリエステル樹脂〔A3〕は、数平均分子量(Mn)が3,200、ガラス転移点(Tg)が65℃であった。
【0073】
〔不飽和非晶性ポリエステル樹脂の合成例A4〕
不飽和非晶性ポリエステル樹脂の合成例Aにおいて、多価カルボン酸として
・マレイン酸:9.8質量部
・テレフタル酸:36質量部
を用いたことの他は同様にして、不飽和非晶性ポリエステル樹脂〔A4〕を得た。
得られた不飽和非晶性ポリエステル樹脂〔A4〕は、数平均分子量(Mn)が3,500、ガラス転移点(Tg)が61℃であった。
【0074】
〔不飽和非晶性ポリエステル樹脂の合成例A5〕
不飽和非晶性ポリエステル樹脂の合成例Aにおいて、多価カルボン酸として
・イタコン酸:5.8質量部
・テレフタル酸:36質量部
・イソフタル酸:5.2質量部
を用いたことの他は同様にして、不飽和非晶性ポリエステル樹脂〔A5〕を得た。
得られた不飽和非晶性ポリエステル樹脂〔A5〕は、数平均分子量(Mn)が4,400、ガラス転移点(Tg)が59℃であった。
【0075】
〔トナーの製造例6〜10〕
トナーの製造例1において、油滴の分散径(体積基準のメジアン径)を表1に示した値に制御したことの他は同様にして、トナー〔6〕〜〔10〕を製造した。
【0076】
〔トナーの製造例11(比較用)〕
トナーの製造例1と同様にして水系分散液〔1〕を得、架橋構造形成工程および有機溶媒除去工程に代えて、以下のような操作を行った。
すなわち、撹拌装置、温度センサー、精留管および窒素導入装置を取り付けた別の反応槽に40℃まで冷却した水系分散液〔1〕を投入し、50mmHgの減圧下で酢酸エチルを除去し、常圧に戻した後、温度80℃まで昇温し、粒子が体積基準メディアン径で5.5μmまで成長した時点でリン酸三カルシウム60質量部とドデシル硫酸ナトリウム0.3質量部を添加し2時間反応を行った。その後、40℃まで冷却し50mmHgの減圧下で酢酸エチルを除去し、さらに、35%濃塩酸120質量部を添加してトナー粒子表面のリン酸三カルシウムを溶出させた。
その後、トナーの製造例1の濾過・洗浄・乾燥工程および外添剤添加工程と同様の工程を経ることにより、比較用のトナー〔11〕を得た。
【0077】
〔キャリアの製造例〕
重量平均粒径50μmのマンガン・マグネシウムフェライトに、シリコーン樹脂(オキシム硬化タイプ、トルエン溶液)を固形分として85質量部、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン(カップリング剤)を10質量部、アルミナ粒子(粒子径100nm)を3質量部、カーボンブラック2質量部よりなるコート剤をスプレーコートし、190℃において6時間焼成し、その後、常温に戻し、樹脂コーティング型のキャリアを得た。樹脂コートの平均膜厚は0.2μmであった。
【0078】
〔現像剤の製造例1〜11〕
以上のように製造したキャリア94質量部と、上記のように製造したトナー〔1〕〜〔10〕および比較用のトナー〔11〕の各々6質量部とをV型混合機で混合処理することにより、現像剤〔1〕〜〔10〕および比較用の現像剤〔11〕のそれぞれを製造した。なお、混合処理は、トナー帯電量が20〜23μC/gとなった時点で混合を停止し、一旦、ポリエチレンポットに排出した。
【0079】
〔評価1:定着オフセット性についての評価〕
現像剤〔1〕〜〔11〕について、市販の複合プリンタのフルカラー複写機「bizhub PRO C6501」(コニカミノルタビジネステクノロジーズ社製)において、定着装置を定着用ヒートローラの表面温度を100〜210℃の範囲で変更することができるように改造したものを用い、未定着画像を形成したA4(坪量80g/m2 )普通紙を縦送りで搬送し、5℃刻みで定着温度を変更して定着させ、低温側、高温側で定着オフセットによる画像汚れの発生する温度を調べた。未定着画像は、搬送方向に対して垂直に5mm幅のベタ帯画像および20mm幅のハーフトーン画像を形成したものとした。
低温側における定着オフセットによる画像汚れ、高温側における定着オフセットによる画像汚れが観察された定着温度を、それぞれ、低温オフセット温度、高温オフセット温度とした。結果を表1に示す。
【0080】
〔評価2:下限定着温度についての評価〕
現像剤〔1〕〜〔11〕について、市販の複合プリンタのフルカラー複写機「bizhub PRO C6501」(コニカミノルタビジネステクノロジーズ社製)において、定着装置を定着用ヒートローラの表面温度を100〜210℃の範囲で変更することができるように改造したものを用い、A4(坪量80g/m2 )普通紙上に、トナー付着量11mg/10cm2 のベタ画像を定着させる定着実験を、設定される定着温度を100℃、105℃・・・と5℃刻みで増加させるよう変更しながら繰り返し行った。
各定着温度に係る定着実験において得られたプリント物を、折り機でベタ画像部分に面圧で100kPaをかけて折り、この折り目部分に0.35MPaの圧縮空気を吹き付け、限度見本を参照して、折り目部分の状態を下記の評価基準に示す5段階にランク付けし、ランク3となる定着実験における定着温度を、下限定着温度とした。結果を表1に示す。
−評価基準−
ランク5:折り目部分に剥離が全くない。
ランク4:折り目に従った剥離が一部ある。
ランク3:折り目に従った剥離が細かい線状にある。
ランク2:折り目に従った剥離が太い線状にある。
ランク1:大きな剥離あり。
【0081】
【表1】





【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも架橋構造を有する非晶性ポリエステル樹脂、および結晶性ポリエステル樹脂からなる結着樹脂を含有するトナー粒子を含む静電荷像現像用トナーを製造する方法であって、
(a)重合性不飽和二重結合を含有する非晶性ポリエステル樹脂、結晶性ポリエステル樹脂を、有機溶媒中に溶解または分散させる油相液調製工程、
(b)水系媒体中に前記油相液による油滴を形成させる油滴の水系分散液調製工程、
(c)前記油滴の水系分散液にラジカル重合開始剤を添加し、架橋構造を有する非晶性ポリエステル樹脂を含む油滴を生成させる架橋構造形成工程、
(d)有機溶媒を除去してトナー粒子を形成させる有機溶媒除去工程
を経ることを特徴とする静電荷像現像用トナーの製造方法。
【請求項2】
前記油滴の水系分散液調製工程において調製される水系分散液における油滴の分散径が、60〜1000nmであることを特徴とする請求項1に記載の静電荷像現像用トナーの製造方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の静電荷像現像用トナーの製造方法によって得られることを特徴とする静電荷像現像用トナー。