説明

静電荷像現像用正帯電性トナー及び画像形成方法

【課題】帯電特性に優れると共に、印字耐久性に優れた静電荷像現像用正帯電性トナーを提供すること。
【解決手段】着色剤と結着樹脂とを含有する正帯電性着色粒子と外添剤とを含む静電荷像現像用正帯電性トナーにおいて、該外添剤が、仕事関数が4.3〜5.3eVであり、該仕事関数の測定において、励起エネルギー(単位=eV)を横軸とし、単位光量子当たりの光電子収率の0.5乗で表される規格化光電子収率を縦軸とするグラフに、励起エネルギーに対する規格化光電子収率の測定値をプロットしたとき、励起エネルギーに対する規格化光電子収率の傾きが5.0〜30.0であり、抵抗率が10Ω・cm以上であり、かつ、負帯電極性を示す負帯電性外添剤を含有する静電荷像現像用正帯電性トナー。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真法による複写機、ファクシミリ、プリンター等の画像形成装置において、感光体表面に形成された静電潜像の現像に用いられる静電荷像現像用正帯電性トナーに関する。また、本発明は、該静電荷像現像用正帯電性トナーを用いた画像形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、電子写真法(静電記録法を含む)による画像形成装置において、感光体表面を一様かつ均一に帯電する工程;像露光により感光体上に静電潜像を形成する工程;静電荷像現像用トナー(現像剤)を用いて感光体上の静電潜像を現像する工程;現像により形成されたトナー像を被転写材上に転写する工程;被転写材上の未定着トナー像を定着する工程;感光体上の残留トナーを除去するクリーニング工程;の各工程によって画像が形成されている。
【0003】
感光体上の静電荷像を現像するための現像剤として、着色剤と結着樹脂とを含有する着色粒子からなる静電荷像現像用トナーが用いられている。静電荷像現像用トナー(以下、単に「トナー」ということがある)には、着色粒子と外添剤とを含有する一成分現像剤と、着色粒子とキャリアとの混合物からなる二成分現像剤とがある。外添剤は、着色粒子と混合して用いられ、着色粒子の表面に付着することにより、トナーの流動性、クリーニング性、保存性(耐ブロッキング性)などの特性を向上させている。二成分現像剤に用いられる着色粒子の表面にも、外添剤を付着させることが多い。
【0004】
着色粒子は、重合法により得られる着色重合体粒子(重合トナー)と、粉砕法により得られる着色樹脂粒子(粉砕トナー)とに大別される。重合トナーは、懸濁重合法、乳化重合法、凝集法、分散重合法などの各種方法により製造されている。例えば、懸濁重合法では、重合性単量体と着色剤と各種添加剤とを含む重合性単量体組成物を水系分散媒体中で懸濁重合することにより、着色重合体粒子を形成している。重合性単量体の重合により生成した重合体が結着樹脂となる。粉砕トナーは、結着樹脂と着色剤と各種添加剤とを溶融混練して得られた樹脂組成物を粉砕し、分級することにより粉砕トナーを得ている。
【0005】
近年、電子写真方式の画像形成装置では、カラー化のニーズが高まっている。カラー印字では、高度の解像度が必要とされ、それに対応し得る高品質で小粒径のカラートナーが求められている。また、印字コスト低減のために、トナーに対しては、印字耐久性の向上が要求されている。印字耐久性は、カブリやクリーニング不良が発生するまでの連続印字枚数によって評価されるトナー特性の一つである。
【0006】
静電荷像現像用トナーを用いて現像するには、該トナーを帯電させて感光体上の静電潜像に付着させる必要がある。電子写真法による画像形成方法は、感光体の種類によって、正帯電性トナーを用いて画像を形成する正帯電方式と、負帯電性トナーを用いて画像を形成する負帯電方式とに分けられる。電子写真法による画像形成装置では、光導電性物質により形成した感光体を用いて、該感光体上に静電荷像を形成する。感光体は、その表面の帯電極性によって、正帯電性感光体と負帯電性感光体とに分けられる。
【0007】
感光体表面の帯電極性は、感光体の形成に用いられる感光層の材質と関係している。セレン感光体やアモルファスシリコン感光体など無機材料により形成された感光層を有する無機感光体では、正帯電性トナーを用いた正帯電方式による画像形成方法が採用されている。近年、有機感光体が主流になっているため、負帯電性トナーを用いた負帯電方式による画像形成方法が一般的となっている。しかし、負帯電方式は、オゾンの発生量が比較的多いため、環境に悪影響を及ぼすという問題がある。そこで、オゾン発生の少ない正帯電方式に対応できる正帯電用の有機感光体が開発されるに至っている。それに伴って、有機感光体に対応できる正帯電性トナーの開発が進められているが、帯電特性や印字耐久性が十分ではないという問題があった。
【0008】
特開2005−283745号公報(特許文献1)には、着色樹脂粒子と外添剤とを含有する正帯電性トナーであって、外添剤として、2級アミン化合物で処理された微粒子と、特定のBET比表面積を有する微粒子とを併用した正帯電性トナーが開示されている。
【0009】
特開2005−345975号公報(特許文献2)には、樹脂、離型剤、着色粒子を含有するトナーであって、トナー粒子表面における陽イオン性界面活性剤濃度がトナー粒子中心部よりも高い正帯電性トナーが開示されている。
【0010】
特開2006−18251号公報(特許文献3)には、アミン、アンモニウム塩を分子内に含有する共重合体を、トナー粒子表面部分に含有する正帯電性トナーが開示されている。特許文献3には、負帯電性シリカを外添剤として用いることが記載されている。
【0011】
特開2006−184638号公報(特許文献4)には、着色重合体粒子と外添剤とを含んでなる正帯電性トナーにおいて、外添剤として、平均一次粒径が異なる2種類の疎水化処理されたシリカ微粒子と、特定の比表面積と比抵抗とを有する酸化チタン微粒子とを用いた正帯電性トナーが開示されている。
【0012】
これらの正帯電性トナーは、それぞれ優れた特性を示すものの、負帯電性外添剤を用いた場合には、環境安定性が十分ではなく、正帯電性外添剤を用いた場合には、帯電特性が十分ではない。また、これらの正帯電性トナーには、印字耐久性の更なる向上が求められている。
【0013】
【特許文献1】特開2005−283745号公報
【特許文献2】特開2005−345975号公報
【特許文献3】特開2006−18251号公報
【特許文献4】特開2006−184638号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の課題は、帯電特性に優れると共に、印字耐久性に優れた静電荷像現像用正帯電性トナーを提供することにある。特に、本発明の課題は、正帯電方式の画像形成装置で用いた場合に、優れた帯電特性及び印字耐久性を示す静電荷像現像用正帯電性トナーを提供することにある。
【0015】
本発明の他の課題は、正帯電性有機感光体を用いた正帯電方式の画像形成方法において、優れた帯電特性及び印字耐久性を示す静電荷像現像用正帯電性トナーを用いた画像形成方法を提供することにある。
【0016】
本発明者は、前記課題を解決するために鋭意研究した結果、帯電性トナーにおいて、外添剤として、仕事関数が特定の範囲にあり、励起エネルギーに対する規格化光電子収率の傾きが特定の範囲にあり、抵抗率が大きく、かつ、負帯電極性を示す負帯電性外添剤を含有する外添剤を用いることにより、帯電特性と印字耐久性に優れた静電荷像現像用正帯電性トナーの得られることを見出した。
【0017】
正帯電性トナーの外添剤が負極性を示す負帯電性外添剤を含み、そして、該負帯電性外添剤の仕事関数が特定の範囲内にあり、励起エネルギーに対する規格化光電子収率の傾きが特定の範囲にあり、かつ、抵抗率が大きいことにより、正帯電性トナーの帯電特性が向上することが判明した。
【0018】
画像形成装置により繰り返し印字を行うと、画像形成装置の現像ユニット内に劣化したトナーが蓄積される。本発明で規定する特定の負帯電性外添剤を用いることにより、現像ユニット内の劣化した正帯電性トナーを帯電しやすくすることができ、それによって、印字耐久性が向上する。
【0019】
その機構は、現段階では完全には明らかではないけれども、負帯電性外添剤の仕事関数が小さいと、該負帯電性外添剤の表面部分から電子を放出しやすくなると考えられる。同様に、負帯電性外添剤の励起エネルギーに対する規格化光電子収率の傾きが大きいと、同じエネルギーでも電子を多く放出すると考えられる。負帯電性外添剤が、このような特性を持つと、正帯電性トナーの帯電を助長する働きをする。
【0020】
他方、負帯電性外添剤の仕事関数が大きすぎたり、前記傾きが小さすぎると、負帯電性外添剤自体の帯電性が大きくなりすぎて、正帯電性トナーの正帯電を打ち消してしまう。そのために、負帯電性外添剤は、それぞれ特定の範囲内の仕事関数と前記傾きとを有することが必要である。
【0021】
本発明の静電荷像現像用正帯電性トナーは、前記特定の負帯電性外添剤を小割合で用いることにより、帯電性と印字耐久性とを向上させることができるため、負帯電性外添剤の使用による環境安定性の低下がない。トナーの流動性、クリーニング性、保存性などの観点から、外添剤の使用割合を増大させる必要がある場合には、疎水化シリカ微粒子など他の外添剤を併用することにより、それらの諸特性を保持または向上させることができる。本発明は、これらの知見に基づいて完成するに至ったものである。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明によれば、着色剤と結着樹脂とを含有する正帯電性着色粒子と外添剤とを含む静電荷像現像用正帯電性トナーにおいて、該外添剤が、(a)仕事関数が4.3〜5.3eVであり、(b)該仕事関数の測定において、励起エネルギー(単位=eV)を横軸とし、単位光量子当たりの光電子収率の0.5乗で表される規格化光電子収率を縦軸とするグラフに、励起エネルギーに対する規格化光電子収率の測定値をプロットしたとき、励起エネルギーに対する規格化光電子収率の傾きが5.0〜30.0であり、(c)抵抗率が10Ω・cm以上であり、かつ、(d)負帯電極性を示す負帯電性外添剤を含有することを特徴とする静電荷像現像用正帯電性トナーが提供される。また、本発明によれば、前記静電荷像現像用正帯電性トナーを用いて、正帯電性有機感光体上に現像を行う工程を含む画像形成方法が提供される。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、帯電特性に優れると共に、印字耐久性に優れた静電荷像現像用正帯電性トナーが提供される。特に、本発明によれば、正帯電方式の画像形成装置で用いた場合に、優れた帯電特性及び印字耐久性を示す静電荷像現像用正帯電性トナーが提供される。さらに、本発明によれば、正帯電性有機感光体を用いた正帯電方式の画像形成方法において、優れた帯電特性及び印字耐久性を示す静電荷像現像用正帯電性トナーを用いた画像形成方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明で使用する静電荷像現像用正帯電性トナーは、着色剤と結着樹脂とを含有する正帯電性着色粒子と外添剤とを含むものである。正帯電性着色粒子は、着色剤及び結着樹脂を含有するものであればよく、その製造方法によって特に制限されない。正帯電性着色粒子は、着色粒子を正帯電性にするために、正帯電性の帯電制御剤を含有させることが好ましい。
【0025】
正帯電性着色粒子の如き着色粒子(以下、「トナー粒子」ということがある)の製造方法としては、粉砕法と重合法があり、重合法としては、例えば、乳化重合法、凝集法、分散重合法、懸濁重合法などが挙げられる。重合法によれば、ミクロンオーダーのトナー粒子を、比較的小さい粒径分布で、直接得ることができる。本発明で用いるトナー粒子は、着色粒子の表面に樹脂被覆層を形成したコアシェル型トナー粒子(「カプセルトナー」ともいう)であってもよい。本発明のトナー粒子は、懸濁重合法によって得られる着色重合体粒子(重合トナー)であることが、現像剤特性の観点から好ましい。
【0026】
懸濁重合による重合トナーは、分散安定剤を含有する水系分散媒体中で、重合性単量体、着色剤、及び帯電制御剤など各種添加剤を含有する重合性単量体組成物を懸濁重合することにより得ることができる。重合性単量体が重合して生成する重合体が結着樹脂となる。
【0027】
着色重合体粒子を製造するには、先ず、重合性単量体、着色剤などを混合し、重合性単量体組成物を調製する。重合性単量体組成物には、必要に応じて、架橋性単量体、マクロモノマー、分子量調整剤、帯電制御剤、離型剤、滑剤、分散助剤などの各種添加剤を含ませることができる。次に、該重合性単量体組成物を、分散安定剤を含有する水系媒体中に投入し、高速攪拌機等により高剪断力で攪拌して、水系媒体中に重合性単量体組成物の微小な液滴を形成する。
【0028】
重合性単量体組成物の液滴形成においては、先ず、体積平均粒径が50〜1000μm程度の一次液滴を形成する。重合開始剤は、早期重合を避けるため、水系媒体中での一次液滴の大きさが均一になってから水系分散媒体に添加することが好ましい。水系分散媒体中に重合性単量体組成物の一次液滴が分散した懸濁液に重合開始剤を添加混合し、さらに、高速回転剪断型撹拌機を用いて、液滴の粒径が目的とする着色重合体粒子に近い小粒径になるまで撹拌する。このようにして、体積平均粒径が2〜15μm程度の微小粒径の二次液滴を形成する。
【0029】
液滴形成の方法は、特に限定されないが、例えば、(インライン型)乳化分散機(株式会社荏原製作所製、商品名「マイルダー」)、高速乳化・分散機(特殊機化工業製、商品名「T.K.ホモミキサー MARK II型」)等の強攪拌が可能な装置を用いて行う。分散安定剤としては、酸で可溶な無機化合物またはアルカリで可溶な無機化合物が好ましく用いられる。
【0030】
水系媒体中に液滴として分散した重合性単量体組成物を、重合開始剤の存在下に重合して、着色重合体粒子を生成させる。重合温度は、通常50℃以上、好ましくは60〜95℃である。重合の反応時間は、通常1〜20時間、好ましくは2〜15時間である。生成した着色重合体粒子を含有する水分散液を濾過し、次いで、洗浄、脱水、及び乾燥の各工程を経て、着色重合体粒子を回収する。
【0031】
コアシェル構造を有する重合トナーは、スプレイドライ法、界面反応法、in situ 重合法、相分離法などの方法により製造することができるが、in situ 重合法や相分離法は、製造効率がよく好ましい。具体的には、分散安定剤を含有する水系分散媒体中で、重合性単量体組成物を懸濁重合することにより得られた着色重合体粒子をコアとし、該コアの存在下にシェル用重合性単量体を懸濁重合することによりシェルを形成することができる。シェル用単量体が重合して形成される重合体層が樹脂被覆層となる。
【0032】
重合性単量体としては、モノビニル系単量体が好ましい。具体的には、スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン等のスチレン系単量体;アクリル酸、メタクリル酸;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリルアミド、メタクリルアミド等のアクリル酸またはメタクリル酸の誘導体;エチレン、プロピレン、ブチレン等のエチレン性不飽和モノオレフィン;塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル等のハロゲン化ビニル;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル;ビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテル等のビニルエーテル;ビニルメチルケトン、メチルイソプロペニルケトン等のビニルケトン;2−ビニルピリジン、4−ビニルピリジン、N−ビニルピロリドン等の含窒素ビニル化合物;などが挙げられる。モノビニル系単量体は、それぞれ単独で、あるいは複数の単量体を組み合わせて用いることができる。モノビニル系単量体のうち、スチレン系単量体と(メタ)アクリル酸の誘導体とを併用するのが好適である。
【0033】
重合性単量体と共に架橋性単量体及び/または架橋性重合体を用いると、耐ホットオフセット性の改善に有効である。架橋性単量体は、2以上の重合可能な炭素−炭素不飽和二重結合を有する単量体であり、例えば、ジビニルベンゼン、ジビニルナフタレン、これらの誘導体等の芳香族ジビニル化合物;エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート等のジエチレン性不飽和カルボン酸エステル;1,4−ブタンジオール、1,9−ノナンジオール等の脂肪族両末端アルコール由来の(メタ)アクリーレート;N,N−ジビニルアニリン、ジビニルエーテル等のジビニル化合物;3個以上のビニル基を有する化合物;などを挙げることができる。
【0034】
架橋性重合体としては、分子内に2個以上の水酸基を有するポリエチレンやポリプロピレン、ポリエステルやポリシロキサン由来の(メタ)アクリレート等を挙げることができる。これらの架橋性単量体及び架橋性重合体は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。架橋性単量体及び/または架橋性重合体は、重合性単量体100重量部に対して、通常10重量部以下、好ましくは0.01〜5重量部、より好ましくは0.1〜2重量部の割合で使用される。
【0035】
重合性単量体と共にマクロモノマーを用いると、保存性やオフセット防止性と低温定着性とのバランスを改善することができる。マクロモノマーは、分子鎖の末端に重合可能な官能基(例えば、炭素−炭素二重結合のような不飽和基)を有する比較的長い線状分子である。マクロモノマーとしては、数平均分子量が通常1,000〜30,000のオリゴマーまたはポリマーが好ましい。数平均分子量が小さいマクロモノマーを用いると、トナー粒子の表面部分が柔らかくなり、保存性が低下する。逆に、数平均分子量が大きいマクロモノマーを用いると、マクロモノマーの溶融性が悪く、トナーの定着性が低下する。
【0036】
マクロモノマーの具体例としては、スチレン、スチレン誘導体、メタクリル酸エステル、アクリル酸エステル、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等を単独でまたは2種以上を重合して得られる重合体、ポリシロキサン骨格を有するマクロモノマーなどが挙げられる。マクロモノマーの中でも、結着樹脂のガラス転移温度より高いガラス転移温度を有する重合体が好ましく、特にスチレンとメタクリル酸エステル及び/またはアクリル酸エステルとの共重合体マクロモノマーやポリメタクリル酸エステルマクロモノマーが好適である。マクロモノマーを使用する場合、その配合割合は、重合性単量体100重量部に対して、通常0.01〜10重量部、好ましくは0.03〜5重量部、より好ましくは0.05〜1重量部である。マクロモノマーの使用割合が大きすぎると、定着性が低下する傾向を示す。
【0037】
着色剤としては、カーボンブラックやチタンホワイトなどのトナーの分野で用いられている各種顔料及び染料を使用することができる。黒色着色剤としては、カーボンブラック、ニグロシンベースの染顔料類;コバルト、ニッケル、四三酸化鉄、酸化鉄マンガン、酸化鉄亜鉛、酸化鉄ニッケル等の磁性粒子;などを挙げることができる。カーボンブラックを用いる場合、一次粒径が20〜40nmであるものを用いると良好な画質が得られ、また、トナーの環境への安全性も高まるので好ましい。
【0038】
カラートナー用着色剤としては、イエロー着色剤、マゼンタ着色剤、シアン着色剤などを使用することができる。イエロー着色剤としては、例えば、C.I.ピグメントイエロー3、12、13、14、15、17、62、65、73、83、90、93、97、120、138、155、180、181;ネフトールイエローS、ハンザイエローG、C.I.バットイエロー等が挙げられる。
【0039】
マゼンタ着色剤としては、アゾ系顔料、縮合多環系顔料等が挙げられ、より具体的には、例えば、C.I.ピグメントレッド48、57、58、60、63、64、68、81、83、87、88、89、90、112、114、122、123、144、146、149、163、170、184、185、187、202、206、207、209、251;C.I.ピグメントバイオレット19等が挙げられる。
【0040】
シアン着色剤としては、銅フタロシアニン化合物及びその誘導体、アントラキノン化合物等が挙げられ、より具体的には、例えば、C.I.ピグメントブルー2、3、6、15、15:1、15:2、15:3、15:4、16、17、60;フタロシアニンブルー、C.I.バットブルー、C.I.アシッドブルーなどが挙げられる。
【0041】
着色重合体粒子中での着色剤の分散状態を向上させるために、顔料分散剤により着色剤の表面を処理することが好ましい。顔料分散剤としては、アルミニウムカップリング剤、シランカップリング剤、及びチタンカップリング剤等のカップリング剤が好ましい。着色剤は、結着樹脂または結着樹脂を形成する重合性単量体100重量部に対して、通常0.1〜50重量部、好ましくは1〜20重量部の割合で用いられる。
【0042】
分子量調整剤としては、例えば、t−ドデシルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン等のメルカプタン類;四塩化炭素、四臭化炭素等のハロゲン化炭化水素類;などを挙げることができる。これらの分子量調整剤は、重合開始前、あるいは重合途中に添加することができる。分子量調整剤は、重合性単量体100重量部に対して、通常0.01〜10重量部、好ましくは0.1〜5重量部の割合で用いられる。
【0043】
着色剤の均一分散のために、オレイン酸、ステアリン酸等の脂肪酸、脂肪酸とNa、K、Ca、Mg、Zn等の金属とからなる脂肪酸金属塩などの滑剤;シラン系またはチタン系カップリング剤などの分散助剤;を使用することができる。滑剤及び分散剤は、着色剤の重量を基準として、それぞれ通常1/1000〜1/1程度の割合で使用される。
【0044】
静電荷像現像用トナーの正帯電性を向上させるために、各種の正帯電性の帯電制御剤を用いることが好ましい。トナー粒子が正帯電性を示す範囲内で、正帯電性帯電制御剤と負帯電性帯電制御剤を併用してもよい。正帯電性帯電制御剤としては、例えば、ニグロシン染料、4級アンモニウム塩、トリアミノトリフェニルメタン化合物、イミダゾール化合物、ポリアミン樹脂、4級アンモニウム(塩)基含有共重合体などが挙げられる。これらの中でも、4級アンモニウム塩基含有スチレン−アクリレート共重合体などの正帯電性帯電制御樹脂が好ましい。
【0045】
負帯電性帯電制御剤としては、Cr、Co、Al、Feなどの金属を含有するアゾ染料、サリチル酸金属化合物、アルキルサルチル酸金属化合物、スルホン酸(塩)基含有共重合体、カルボン酸(塩)基含有共重合体などが挙げられる。
【0046】
本発明では、正帯電性トナー粒子を得るために、正帯電性帯電制御剤を用いることが好ましく、正帯電性帯電制御樹脂を用いることがより好ましい。帯電制御樹脂は、結着樹脂との相溶性に優れることに加えて、無色であるため、カラートナーの製造に適している。正帯電性帯電制御剤と負帯電性帯電制御剤とを併用してもよいが、正帯電性帯電制御剤を単独で使用することが印字耐久性の観点から好ましい。帯電制御剤は、結着樹脂または結着樹脂を形成する重合性単量体100重量部に対して、通常0.01〜10重量部、好ましくは0.1〜7重量部の割合で用いられる。
【0047】
離型剤としては、例えば、低分子量ポリエチレン、低分子量ポリプロピレン、低分子量ポリブチレンなどの低分子量ポリオレフィンワックス類;分子末端酸化低分子量ポリプロピレン、分子末端をエポキシ基に置換した低分子量末端変性ポリプロピレン、及びこれらと低分子量ポリエチレンのブロックポリマー、分子末端酸化低分子量ポリエチレン、分子末端をエポキシ基に置換した低分子量ポリエチレン、及びこれらと低分子量ポリプロピレンのブロックポリマーなどの末端変性ポリオレフィンワックス類;キャンデリラ、カルナウバ、ライス、木ロウ、ホホバなどの植物系天然ワックス;パラフィン、マイクロクリスタリン、ペトロラクタムなどの石油系ワックス及びその変性ワックス;モンタン、セレシン、オゾケライト等の鉱物系ワックス;フィッシャートロプシュワックスなどの合成ワックス;多価アルコールの脂肪酸エステル化合物;これらの混合物などが挙げられる。
【0048】
離型剤の中でも、多価アルコールの脂肪酸エステル化合物が、トナーの低温定着性を向上させ、印字耐久性を悪化させないことから好ましい。多価アルコールの脂肪酸エステル化合物としては、例えば、ペンタエリスリトールテトラミリステート、ペンタエリスリトールテトラパルミテート、ペンタエリスリトールテトラステアレート、ペンタエリスリトールテトララウレート等のペンタエリスリトールエステル;ジペンタエリスリトールヘキサミリステート、ジペンタエリスリトールヘキサパルミテート、ジペンタエリスリトールヘキサラウレート等のジペンタエリスリトールエステル;ポリグリセリンの脂肪酸エステル化合物;などが挙げられる。
【0049】
離型剤は、結着樹脂または結着樹脂を形成する重合性単量体100重量部に対して、0.1〜20重量部の割合で用いるのが好ましく、1〜15重量部の割合で用いるのがより好ましい。
【0050】
重合開始剤としては、ラジカル重合開始剤が好適に用いられる。具体的には、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩;4,4′−アゾビス(4−シアノ吉草酸)、2,2′−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩酸塩、2,2′−アゾビス−2−メチル−N−1,1−ビス(ヒドロキシメチル)−2−ヒドロキシエチルプロピオアミド、2,2′−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2′−アゾビスイソブチロニトリル、1,1′−アゾビス(1−シクロヘキサンカルボニトリル)等のアゾ化合物;イソブチリルパーオキサイド、2,4−ジ−クロロベンゾイルパーオキサイド、3,5,5′−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド等のジアシルパーオキサイド系;ビス(4−t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジ−カーボネート、ジ−n−プロピルパーオキシジ−カーボネート、ジ−イソプロピルパーオキシジ−カーボネート、ジ−2−エトキシエチルパーオキシジ−カーボネート、ジ(2−エチルエチルパーオキシ)ジ−カーボネート、ジ−メトキシブチルパーオキシジ−カーボネート、ジ(3−メチル−3−メトキシブチルパーオキシ)ジ−カーボネート等のパーオキシジ−カーボネート類;(α,α−ビス−ネオデカノイルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン、クミルパーオキシネオデカノエート、1,1′,3,3′−テトラメチルブチルパーオキシネオデカノエート、1−シクロヘキシル−1−メチルエチルパーオキシネオデカノエート、t−ヘキシルパーオキシネオデカノエート、t−ブチルパーオキシネオデカノエート、t−ヘキシルパーオキシピバレート、t−ブチルパーオキシピバレート、メチルエチルパーオキシド、ジ−t−ブチルパーオキシド、アセチルパーオキシド、ジクミルパーオキシド、ラウロイルパーオキシド、ベンゾイルパーオキシド、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、ジ−イソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ−t−ブチルパーオキシイソフタレート、t−ブチルパーオキシイソブチレート等の他の過酸化物類などが例示される。これら重合開始剤と還元剤とを組み合わせたレドックス開始剤を使用することもできる。
【0051】
これらの重合開始剤の中でも、重合性単量体に可溶な油溶性ラジカル開始剤が好ましく、必要に応じて、水溶性の開始剤をこれと併用することもできる。重合開始剤の使用割合は、重合性単量体100重量部に対して、通常0.1〜20重量部、好ましくは0.3〜15重量部、より好ましくは0.5〜10重量部である。この使用割合が小さすぎると重合速度が遅くなり、大きすぎると分子量が低くなるので、好ましくない。重合開始剤は、単量体組成物中に予め添加することができるが、早期重合を避ける目的で、水系分散媒体中での単量体組成物の造粒工程終了後に懸濁液中に添加することもできる。重合開始剤の使用割合は、水系分散媒体基準で、通常0.001〜3重量%程度である。
【0052】
本発明で用いられる分散安定剤としては、硫酸バリウム、硫酸カルシウムなどの硫酸塩;炭酸バリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウムなどの炭酸塩;リン酸カルシウムなどのリン酸塩;酸化アルミニウム、酸化チタン等の金属酸化物;水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化第二鉄等の金属水酸化物;ポリビニルアルコール、メチルセルロース、ゼラチン等の水溶性高分子;アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、両性界面活性剤等の界面活性剤;などを挙げることができる。これらの中でも、硫酸塩、炭酸塩、金属酸化物、金属水酸化物などの金属化合物が好ましく、難水溶性の金属化合物のコロイドがより好ましい。特に、難水溶性の金属水酸化物のコロイドは、トナー粒子の粒径分布を狭くすることができ、画像の鮮明性が向上するので好適である。
【0053】
難水溶性金属化合物のコロイドは、その製法による制限はないが、水溶性多価金属化合物の水溶液のpHを7以上に調整することによって得られる難水溶性の金属水酸化物のコロイド、特に水溶性多価金属化合物と水酸化アルカリ金属塩との水相中の反応により生成する難水溶性の金属水酸化物のコロイドが好ましい。難水溶性金属化合物のコロイドは、個数粒径分布D50(個数粒径分布の50%累積値)が0.5μm以下で、D90(個数粒径分布の90%累積値)が1μm以下であることが好ましい。コロイドの粒径が大きくなりすぎると、重合の安定性が崩れ、また、トナーの保存性が低下する。
【0054】
分散安定剤は、重合性単量体100重量部に対して、好ましくは0.1〜20重量部、より好ましくは0.3〜10重量部の割合で使用する。この使用割合が小さすぎると、十分な重合安定性を得ることが困難となり、重合凝集物が生成しやすくなる。逆に、この使用割合が大きすぎると、微粒子の増加によりトナー粒子の粒径分布が広がったり、水溶液粘度が大きくなって重合安定性が低くなる。
【0055】
着色重合体粒子を形成するのに用いる重合性単量体は、それを重合して得られる重合体のガラス転移温度Tgが通常80℃以下、好ましくは40〜80℃、より好ましくは50〜70℃になるように選択することが望ましい。重合性単量体を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用することにより、生成する重合体のガラス転移温度を所望の範囲に調整することができる。
【0056】
コアシェル型着色重合体粒子の場合、シェルを構成する重合体のガラス転移温度が、コアの着色重合体粒子を構成する重合体のガラス転移温度より高いことが好ましく、5℃以上高いことがより好ましく、10℃以上高いことが特に好ましい。シェル用重合性単量体としては、80℃を超える高いガラス転移温度を持つ重合体を形成することができるスチレン、メチルメタクリレート、アクリロニトリル、これらの混合物などが好ましい。
【0057】
シェル用重合性単量体の重合に用いる重合開始剤としては、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸金属塩;2,2′−アゾビス〔2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミド〕、2,2′−アゾビス−[2−メチル−N−〔1,1−ビス(ヒドロキシメチル)2−ヒドロキシエチル〕プロピオンアミド]等のアゾ系開始剤;等の水溶性重合開始剤を挙げることができる。重合開始剤の添加量は、シェル用重合性単量体100重量部に対して、好ましくは、0.1〜30重量部、より好ましくは1〜20重量部である。シェル層の重合温度は、好ましくは50℃以上、より好ましくは60〜95℃である。重合の反応時間は、好ましくは1〜20時間、より好ましくは2〜15時間である。
【0058】
重合により生成した着色重合体粒子(コアシェル型を含む)を含有する水分散液は、分散安定剤を含んでいるため、着色重合体粒子の表面には、多数の分散安定剤の微粒子が付着している。分散安定化剤として、酸で可溶な無機水酸化物等の無機化合物を使用した場合には、生成した着色重合体粒子を含有する水分散液に酸を添加し、分散安定化剤を水に溶解させて除去する。分散安定化剤がアルカリで可溶な無機化合物である場合には、着色重合体粒子を含有する水分散液にアルカリを添加して、分散安定化剤を水に溶解させて除去する。
【0059】
例えば、分散安定剤として水酸化マグネシウムコロイドなどの難水溶性金属水酸化物のコロイドを用いた場合には、水分散液に硫酸の如き酸を加えて分散安定剤を水に可溶化させる(これを「酸洗浄」という)。酸洗浄により、水分散液のpHを通常6.5以下、好ましくは2〜6.5、より好ましくは3〜6.0に調整する。添加する酸としては、硫酸、塩酸、硝酸等の無機酸;蟻酸、酢酸等の有機酸;を用いることができる。
【0060】
酸洗浄またはアルカリ洗浄工程で得られた水分散液を濾過して、着色重合体粒子を濾別する。次に、濾別した着色重合体粒子を、水で洗浄し、先浄水を濾過する。水洗工程では、濾液(濾過した先浄水)の電気伝導度が1,000μS/cm以下となるまで水で洗浄し、先浄水を濾過することが好ましい。水洗工程は、バッチ式で繰り返し行ってもよく、あるいはベルトフィルターなどを用いて連続的に行ってもよい。水洗浄に用いる洗浄装置としては、例えば、ベルトフィルター、ロータリーフィルター、及びフィルタープレスのいずれか1つもしくはこれらの複数を組み合わせて用いることが好ましい。
【0061】
洗浄工程後、湿潤状態の着色重合体粒子は、脱水工程により脱水され、乾燥される。脱水を行う前に、湿潤状態の着色重合体粒子に水を加えて、固形分濃度が5〜50重量%、好ましくは10〜30重量%の水分散液とすることが、処理操作上好ましい。脱水の方法は、特に制限されない。脱水方法としては、例えば、遠心濾過法、真空濾過法、加圧濾過法などを挙げることができる。
【0062】
本発明のトナー粒子(コアシェル型を含む)の体積平均粒径(Dv)は、通常2〜12μm、好ましくは3〜11μm、より好ましくは4〜10μmである。高解像度を得る場合は、トナー粒子の体積平均粒径(Dv)を小さくすることが好ましい。本発明のトナー粒子の体積平均粒径(Dv)/個数平均粒径(Dp)で表される粒径分布は、通常1.7以下、好ましくは1.5以下、より好ましくは1.4以下、特に好ましくは1.3以下である。Dv/Dpの下限値は、好ましくは1.0である。トナー粒子の体積平均粒径が大きすぎると、解像度が低下しやすくなる。トナー粒子の粒径分布が大きいと、大粒径のトナー粒子の割合が多くなり、解像度が低下しやすくなる。
【0063】
本発明のトナー粒子の平均円形度は、好ましくは0.96〜0.995、より好ましくは0.97〜0.99である。トナー粒子の平均円形度が小さすぎると、静電荷像現像用正帯電性トナーの流動性と転写性が低下しやすくなる。トナー粒子の平均円形度が大きすぎると、感光体上に残留するトナーのクリーニング性が低下傾向を示す。トナー粒子の平均円形度が上記範囲内にあることによって、静電荷像現像用正帯電性トナーの流動性、転写性、及びクリーニング性が高度にバランスされる。
【0064】
平均円形度は、粒子の投影面積に等しい円の周囲長Lと該粒子投影像の周囲長Lとの比(L/L)によって求めることができる。平均円形度は、0.6〜400μmの円相当径を有するトナー粒子について測定した各粒子の円形度の平均値である。平均円形度の測定は、フロー式粒子像分析装置を用いて行うことができる。平均円形度は、トナー粒子形状の凹凸の度合いを示す指標であり、トナー粒子が完全な円形の場合には、1.0を示し、形状が複雑になるほど平均円形度は小さな値を示す。
【0065】
本発明で用いる着色粒子は、コアシェル構造を持つものを含む。コアシェル型トナー粒子におけるシェルの平均厚みは、通常0.001〜1μm、好ましくは0.003〜0.5μm、より好ましくは0.005〜0.2μm、特に好ましくは0.02〜0.05μm(20〜50nm)である。シェル厚みが大きすぎると定着性が低下し、小さすぎると保存性が低下する。重合トナーのコア粒径及びシェルの厚みは、電子顕微鏡により観察できる場合は、その観察写真から無作意に選択した粒子の大きさ及びシェル厚みを直接測ることにより得ることができる。電子顕微鏡でコア粒子とシェルとを区別して観察することが困難な場合は、コア粒子の体積平均粒径とシェルを形成する重合性単量体の使用量とから、シェルの厚みを算出することができる。
【0066】
本発明の静電荷像現像用正帯電性トナーは、着色剤と結着樹脂とを含有する正帯電性着色粒子(正帯電性トナー粒子)と外添剤とを含有するものである。該外添剤は、(a)仕事関数が4.3〜5.3eVであり、(b)該仕事関数の測定において、励起エネルギー(単位=eV)を横軸とし、単位光量子当たりの光電子収率の0.5乗で表される規格化光電子収率を縦軸とするグラフに、励起エネルギーに対する規格化光電子収率の測定値をプロットしたとき、励起エネルギーに対する規格化光電子収率の傾きが5.0〜30.0であり、(c)抵抗率が10Ω・cm以上であり、かつ、(d)負帯電極性を示す負帯電性外添剤を含有するものである。
【0067】
トナーの帯電性と印字耐久性、環境安定性などの諸特性を高度にバランスさせる上で、該負帯電性外添剤の使用割合を小さくすることが好ましい。その場合、トナーの流動性、クリーニング性、保存性などの諸特性を改善するために、その他の外添剤を併用することが好ましい。
【0068】
本発明で使用する負帯電性外添剤は、前記(a)乃至(d)の特性を備えておれば良く、その材質等は特に限定されないが、無機層状粘土化合物に4級アンモニウムイオンをインターカレーションした層間化合物であることが好ましい。無機層状粘土化合物の種類、4級アンモニウムイオンの種類とインターカレーション量などを調整することにより、前記(a)乃至(d)の特性を備えた負帯電性外添剤を製造することができる。
【0069】
無機層状粘土化合物としては、例えば、カオリナイト、ディッカイト、ハロイサイト、リザーサイト等のカオリン族;モンモリロナイト、ハイデライト、ノントロナイト、ヘクトライト、サポナイト等のスメクタイト族;金雲母、黒雲母、白雲母、パラゴナイト、セリサイト等の雲母(マイカ)族;クリノクロア、シャモサイト、ペナンタイト、ドンバサイト等の緑泥石族;タルク、ウィレムサイト、ケロライト、パイロフィライト等のタルク−パイロフィライト群;等が挙げられる。これらの中でも、モンモリロナイト、ハイデライト、ノントロナイト、ヘクトライト、サポナイト等のスメクタイト族が好ましく、モンモリロナイトを主成分とする粘土であるベントナイトがより好ましい。
【0070】
無機層状粘土化合物は、通常、その層間にアルカリ金属やアルカリ土類金属のカチオンが存在している。これらのカチオンは、結合力が弱く、他のカチオンを含む溶液と接触すると、カチオンの交換反応が起こる。このような層間に異種のイオンまたは分子を取り込ませる反応は、インターカレーションといわれる。
【0071】
インターカレーションを行う方法としては、無機層状粘土化合物を低級アルコールや水等の媒体中に分散し、そこへ4級アンモニウム塩を添加したのち、攪拌下に、加熱する方法が挙げられる。この攪拌に際し、例えば、インライン型乳化分散機(荏原製作所社製、商品名:マイルダー)、高速乳化分散機(特殊機化工業製、商品名:T.K.ホモミキサー MARK II型)等の強攪拌が可能な装置を用いることが好ましい。
【0072】
インターカレーションに用いる4級アンモニウム塩としては、テトラアルキルアンモニウムカチオン、ベンジル基とアルキル基とを有するアンモニウムカチオン、ピリジニウムカチオン等が使用できる。これらの4級アンモニウム塩を構成するアニオンとしては、水酸化イオン、ハロゲンイオン(フッ素イオン、塩素イオン、臭素イオン、及びヨウ素イオン)、硝酸イオン、亜硝酸イオン、メトサルフェートイオン等が挙げられる。これらの中でも、塩素イオンが好ましい。
【0073】
テトラアルキルアンモニウムカチオンとしては、例えば、炭素数1〜22のアルキル基からなるアンモニウムカチオンが挙げられる。この4級アンモニウム塩としては、例えば、ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド、ジラウリルジメチルアンモニウムクロライド、ジデシルジメチルアンモニウムクロライド、セチルトリメチルアンモニウムクロライド、ジメチルジオクチルアンモニウムブロマイド、トリメチルステアリルアンモニウムブロマイド、ジメチルジステアリルアンモニウムクロライド、セチルトリメチルアンモニウムメトサルフェート、ステアラミドエチルジエチルメチルアンモニウムメトサルフェート、及びラウリルアミドエチルジエチルメチルアンモニウムメトサルフェートが挙げられる。
【0074】
ベンジル基とアルキル基とを有するアンモニウムカチオンとしては、例えば、ベンジル基と炭素数1〜22のアルキル基とを有するアンモニウムカチオンが使用できる。このアンモニウム塩としては、例えば、ベンジルラウリルジメチルアンモニウムクロライド(即ち、塩化ベンザルコニウム)、及びベンジルジメチルオクチルアンモニウムメトサルフェートが挙げられる。
【0075】
ピリジニウムカチオンとしては、例えば、アルキル基(炭素数8〜22)を有するピリジニウムカチオンが使用できる。このアンモニウム塩としては、例えば、N−セチルピリジニウムクロライド、N−オレイルピリジニウムクロライド、N−ラウリルピリジニウムクロライド、及びN−ラウリルピリジニウムメトサルフェートが挙げられる。
【0076】
4級アンモニウムイオンをインターカレーションした無機層状粘土化合物は、疎水化処理することが好ましい。疎水化処理剤としては、例えば、シランカップリング剤、シリコーンオイル、脂肪酸、脂肪酸金属塩が挙げられる。これらの中でも、シランカップリング剤及びシリコーンオイルが好ましい。シランカップリング剤としては、例えば、ヘキサメチルジシラザン等のジシラザン;環状シラザン;トリメチルシラン、トリメチルクロルシラン、ジメチルジクロルシラン、メチルトリクロルシラン、アリルジメチルクロルシラン、ベンジルジメチルクロルシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、イソブチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、トリメチルメトキシシラン、ヒドロキシプロピルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、n−ブチルトリメトキシシラン、n−ヘキサデシルトリメトキシシラン、n−オクタデシルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、γ−メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、及びビニルトリアセトキシシラン等のアルキルシラン化合物、並びにγ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)3−アミノプロピルトリメトキシシラン、及びN−β−(N−ビニルベンジルアミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノシラン化合物;などが挙げられる。シリコーンオイルとしては、ジメチルポリシロキサン、メチルハイドロジェンポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、アミノ変性シリコーンオイル等が挙げられる。疎水化処理剤は、上記のうち、1種あるいは2種以上含有してもよく、シリコーンオイルまたはシランカップリング剤を用いると、得られるトナーは、高画質が得られるものとなるのでより好ましい。
【0077】
無機層状粘土化合物を疎水化処理する方法としては、乾式法、湿式法が挙げられる。具体的には、無機層状粘土化合物の微粒子を高速で撹拌しながら、上記疎水化処理剤を滴下または噴霧する方法、及び上記疎水化処理剤を有機溶媒に溶解し、処理剤を含む有機溶媒を撹拌しながら微粒子を添加する方法が挙げられる。疎水化処理における疎水化度は、メタノール法で測定する疎水化度が好ましくは40%以上であり、より好ましくは55%以上である。疎水化度がこの範囲にあると、トナーの環境による影響を小さくすることができる。
【0078】
インターカレーションに用いる無機層状粘土化合物は、個数平均一次粒径が好ましくは0.1〜3μm、より好ましくは0.2〜0.8μm、特に好ましくは0.3〜0.7μmの微粒子である。
【0079】
4級アンモニウムイオンをインターカレーションした無機層状粘土化合物(層間化合物)などの負帯電性外添剤は、仕事関数が前記範囲内にあり、かつ、励起エネルギーに対する規格化光電子収率の傾きが前記範囲内にあることが必要である。
【0080】
仕事関数とは、物質の最外部から電子を取り出すのに必要な最小エネルギーを意味しており、各物質に固有の値である。物質の仕事関数が小さいほど電子を放出しやすく、反対に、仕事関数が大きいほど電子を放出しにくいことを示す。物質の励起エネルギーに対する規格化光電子収率の傾きが大きいほど、より多くの電子を放出しやすい状態にあることを示している。
【0081】
本発明で使用する負帯電性外添剤は、仕事関数(以下、「仕事関数X」で示すことがある)が4.3〜5.3eV、好ましくは4.5〜5.2eVである。正帯電性トナーの帯電性と印字耐久性を高度に改善する上で、負帯電性外添剤の仕事関数は、4.5〜5.0eVであることが特に好ましい。負帯電性外添剤の仕事関数が小さすぎると、それ自体の帯電性が強くなりすぎて、正帯電性トナーの帯電量が低下し、その結果、カブリが発生しやすくなる。負帯電性外添剤の仕事関数が大きすぎると、正帯電性トナーの帯電補助能力が低下し、特に印字開始直後の正帯電性トナーの帯電性が低下する。正帯電性トナーは、現像ユニットにおけるトナー層厚規制ブレードと帯電ロール(現像ロール)により摩擦帯電されるが、負帯電性外添剤の仕事関数が大きすぎると、現像可能なトナー帯電量になるまでに時間がかかる。即ち、いわゆる立ち上がりの悪いトナーとなる。
【0082】
本発明で使用する負帯電性外添剤は、仕事関数の測定において、励起エネルギー(単位=eV)を横軸とし、単位光量子当たりの光電子収率の0.5乗で表される規格化光電子収率を縦軸とするグラフに、励起エネルギーに対する規格化光電子収率の測定値をプロットしたとき、励起エネルギーに対する規格化光電子収率の傾き(以下、「傾きY」ということがある)が5.0〜30.0、好ましくは5.5〜28.0である。正帯電性トナーの帯電性と印字耐久性を高度に改善する上で、負帯電性外添剤の規格化光電子収率の傾きYは、10.0〜25.0であることが特に好ましい。
【0083】
負帯電性外添剤の前記傾きYが小さすぎると、それ自体の帯電性が強くなりすぎて、正帯電性トナーの帯電量が低下する。負帯電性外添剤の前記傾きYが大きすぎると、正帯電性トナーの帯電補助能力が低下し、特に印字開始直後の正帯電性トナーの帯電性が低下する。本発明で使用する負帯電性外添剤は、その極性(ブローオフ帯電)が負帯電極性を示すことが必要である。
【0084】
負帯電性外添剤の仕事関数Xと規格化光電子収率の傾きYの測定方法は、次のとおりである。試料0.5gを、光電子分光装置(理研計器製「MODEL AC−2」)の測定用ホルダーに均一に広げて載置する。試料を励起するためのUV光源として500nWの重水素光源を用い、単色化された入射光(スポットサイズ2〜4mm)のエネルギーを4.2eVから6.2eVまで0.1eVごとにスキャンしながら試料に照射して、試料の表面から放出される光電子をカウンターにより計測し、励起エネルギーに対する規格化光電子収率を求める。規格化光電子収率は、単位光量子当たりの光電子収率の0.5乗(平方根)で表される値である。
【0085】
前記測定より得られた測定値から、次の方法により、外添剤の仕事関数X及び励起エネルギーに対する規格化光電子収率の傾きYを決定した。励起エネルギーが4.2〜4.7eVの範囲で、0.1eVおきの6点の規格化光電子収率の値から平均値を求め、小数点2桁目を四捨五入して、ベースラインとした。仕事関数の値が4.7eV以下であると予想される場合は、6点の規格化光電子収率が求まらないため、4.2eVから0.1eVおきの3〜5点の規格化光電子収率の値の平均値を求め、ベースラインとした。
【0086】
規格化光電子収率の傾きYの測定において、規格化光電子収率の平方根がベースラインの平均値より連続3点以上増加し、かつ、平均値の0.8以上となった仕事関数値(eV)を基点とした。基点から6.20eVまでの範囲で最小二乗法により一次直線を求め、その傾きを励起エネルギーに対する規格化光電子収率の傾きY(単位=1/eV)と決定した。また、上記の一次直線とベースラインとの交点における励起エネルギーを仕事関数X(単位=eV)と決定した(小数点2桁目で四捨五入した)。
【0087】
図1は、外添剤の仕事関数の測定において、横軸に励起エネルギー(単位=eV)をとり、縦軸に規格化光電子収率をとったグラフの一般的な傾向を示したものである。規格化光電子収率は、単位光電子当りの光電子収率を0.5乗した値である。図1のグラフにおいて、入射光による励起エネルギーを低い方からスキャンすると、励起エネルギーが低レベルの領域では、規格化光電子収率が変化しない平坦部が続き、励起エネルギーがある一定のレベルに達したときに、規格化光電子収率が急激に増加し始める。この規格化光電子収率が増加し始める変化点が仕事関数X(単位=eV)である。
【0088】
励起エネルギーが仕事関数Xの値以上の領域において、グラフの変化率が安定した領域の傾きが、励起エネルギーに対する規格化光電子収率の傾きY(単位=1/eV)である。励起エネルギーが低レベル領域での規格化光電子収率が変化しない平坦部分は、この傾きYの値に影響を及ぼさない。
【0089】
負帯電性外添剤の抵抗率(比抵抗)は、好ましくは10Ω・cm以上、より好ましくは10Ω・cm以上、特に好ましくは10Ω・cm以上である。この抵抗率の上限は、1013Ω・cm程度である。負帯電性外添剤の抵抗率が低すぎると、正帯電性トナーに対する帯電補助能力が弱くなり、印字開始時の立ち上がりが悪くなり、印字耐久性も低下する。負帯電性外添剤の抵抗率が高いことによって、発生した電子が逃げることなく、正帯電性トナーの帯電性の向上に寄与することができる。
【0090】
外添剤の帯電極性は、そのブローオフ帯電量の測定により判定することができる。本発明で用いる負帯電性外添剤は、弱い負帯電性を示すものであることが、環境安定性を保持しつつ、正帯電性トナーの帯電性と印字耐久性を向上させる上で好ましい。
【0091】
4級アンモニウムイオンをインターカレーションした無機層状粘土化合物の如き負帯電性外添剤の含有割合は、正帯電性着色粒子100重量部に対して、通常0.01〜1.0重量部、好ましくは0.02〜0.70重量部である。正帯電性トナーの帯電性と印字耐久性を高度に向上させる観点からは、負帯電性外添剤の含有割合は、さらに好ましくは0.05〜0.50重量部、特に好ましくは0.10〜0.30重量部である。負帯電性外添剤の含有割合が小さすぎると、正帯電性トナーに対する帯電補助機能が低下し、印字耐久性も低下する。負帯電性外添剤の含有割合が大きすぎても、同様に、正帯電性トナーに対する帯電補助機能が低下し、印字耐久性も低下する。
【0092】
本発明の正帯電性トナーは、外添剤として、前記特定の負帯電性外添剤とともに、その他の外添剤を併用することができる。その他の外添剤としては、この技術分野において一般に用いられている無機粒子や有機樹脂粒子が挙げられる。無機粒子としては、例えば、シリカ、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化錫、炭酸カルシウム、燐酸カルシウム、及び酸化セリウムが挙げられる。有機樹脂粒子としては、例えば、メタクリル酸エステル重合体、アクリル酸エステル重合体、スチレン−メタクリル酸エステル共重合体、スチレン−アクリル酸エステル共重合体、メラミン樹脂、及びコアがスチレン重合体でシェルがメタクリル酸エステル重合体で形成されたコアシェル型粒子が挙げられる。
【0093】
その他の外添剤としては、個数平均一次粒径が好ましくは5nm以上20nm未満、より好ましくは5〜15nmの微粒子(以下、「微粒子A」という)、及び個数平均一次粒径が好ましくは20〜200nm、より好ましくは25〜100nmの微粒子(以下、「微粒子B」という)を併用することが望ましい。これらの微粒子としては、シリカ微粒子及び酸化チタン微粒子が好ましく、シリカ微粒子がより好ましい。
【0094】
上記微粒子Aの個数平均一次粒径が前記範囲にあると、正帯電性トナーの流動性が良好で、カスレのない印字画像が得られる。上記微粒子Bの個数平均一次粒径が前記範囲にあると、カブリの少ない正帯電性トナーが得られ、印字耐久性においても、負帯電性外添剤による効果が得られやすい。微粒子A及びBは、疎水化処理剤を用いて微粒子の表面を疎水化処理しものであることが好ましく、疎水化シリカ微粒子であることがより好ましい。疎水化処理剤及び疎水化処理の方法は、無機層状粘土化合物の微粒子の疎水化の場合と同様である。
【0095】
その他の外添剤は、正帯電性であることが好ましい。したがって、微粒子A及びBは、いずれも正帯電性の疎水化シリカ微粒子であることが好ましい。疎水化シリカ微粒子などの微粒子Aの含有割合は、着色粒子100重量部に対し、好ましくは0.1〜3重量部、より好ましくは0.3〜1.5重量部である。疎水化シリカ微粒子などの微粒子Bの含有割合は、着色粒子100重量部に対し、好ましくは0.1〜3重量部、より好ましくは0.3〜2重量部である。
【0096】
正帯電性トナーに外添剤を含有させるには、ヘンシェルミキサー等の高速撹拌機を用いて、着色粒子、負帯電性外添剤、及び必要に応じてその他の外添剤を混合する。得られた正帯電性トナーは、一成分現像剤、好ましくは非磁性一成分現像剤として使用することができる。正帯電性トナーには、公知となっている種々の方法により、フェライトや鉄粉等のキャリア粒子を混合して、二成分現像剤とすることもできる。
【0097】
2種類以上の外添剤を併用する場合は、着色粒子と全外添剤を高速撹拌機に入れて混合してもよいが、着色粒子と粒径の大きい外添剤のみを高速撹拌機に入れて混合したのち、より粒径の小さい外添剤をさらに加えて混合を行うことが好ましい。これらの外添剤は、正帯電性トナーの表面に付着する。
【0098】
本発明の静電荷像現像用正帯電性トナーは、電子写真法を利用した画像形成装置において、現像剤として用いられる。感光体を構成する光導電層は、例えば、有機感光体、セレン感光体、酸化亜鉛感光体、アモルファスシリコン感光体などが挙げられる。本発明の正帯電性トナーは、正帯電性有機感光体を用いた画像形成方法において、正帯電方式により現像して画像を形成することができる。
【0099】
現像方式としては、正帯電性トナーを感光体表面に接触させて現像を行う接触現像法、正帯電性トナーを感光体表面と接触させずに、飛翔させて現像する非接触現像法のいずれでもよい。また、現像ユニットにおいて、現像と同時に、感光体上に未転写のままで残っている残留トナーをクリーニングする現像同時クリーニング方式を採用することもできる。これらの現像方式は、それぞれ当業界に周知である。
【0100】
したがって、本発明は、本発明の静電荷像現像用正帯電性トナーを用いて、正帯電性有機感光体上に現像を行う工程を含む画像形成方法をも提供するものである。この画像形成方法は、正帯電性感光体を用いた正帯電方式による画像形成方法に属するものである。その他の工程としては、前述の帯電工程、露光工程、転写工程、定着工程などがある。
【実施例】
【0101】
以下、製造例、実施例及び比較例を挙げて、本発明について、より具体的に説明する。部及び%は、特に断りのない限り、重量基準を意味する。本発明における各種物性及び特性の測定法及び評価法は、次のとおりである。
【0102】
(1)体積平均粒径と粒径分布:
着色粒子の体積平均粒径(Dv)、及び粒径分布即ち体積平均粒径と個数平均粒径(Dp)との比(Dv/Dp)は、マルチサイザー(ベックマン・コールター社製)により測定した。このマルチサイザーによる測定は、アパーチャー径=100μm、媒体=イソトンII、濃度=10%、測定粒子個数=100000個の条件で行った。
【0103】
(2)平均円形度:
着色粒子の平均円形度は、シスメックス社製フロー式粒子像分析装置「FPIA−2100」を用いて、水分散系で測定し得られた値である。測定方法としては、容器中に予めイオン交換水10mlを用意し、その中に分散剤として界面活性剤(アルキルベンゼンスルホン酸塩)を加えた後、試料0.02gを加え、均一に分散させる。分散手段としては、超音波分散機を用いて、60W、3分間の条件で分散処理を行った。測定時の着色粒子の濃度は、3000〜10000個/μlとなるように調整した。着色粒子1000個から10000個の円形度(粒子の投影面積に等しい円の周囲長/粒子投影像の周囲長)を計測した。このデータを用いて、平均円形度を求めた。
【0104】
(3)抵抗率(比抵抗):
外添剤を230kg/cmの圧力で加圧成型を行い、直径25.4mm、厚さ3.3mmのペレット状とし、電気抵抗をデジタルLCRメーター(横河HP社製、機器名「4261A」)を用いて測定した。測定した電気抵抗値を抵抗率(比抵抗;単位=Ω・cm)に換算した。
【0105】
(4)個数平均一次粒径:
外添剤の個数平均一次粒径は、以下の方法で得られた値である。先ず、各外添剤粒子の電子顕微鏡写真を撮影し、その写真を画像処理解析装置(ニレコ社製、商品名:ルーゼックスIID)により、フレーム面積に対する粒子の面積率=最大2%、トータル処理粒子数=100個の条件で粒子の投影面積に対応する円相当径を算出し、その算術平均値を求めた。
【0106】
(5)仕事関数及び規格化光電子収率の傾き:
外添剤の仕事関数Xと励起エネルギーに対する規格化光電子収率の傾きYを、光電子分光装置(理研計器製、型式名「AC−2」)を用いて、前記方法により測定した。
【0107】
(6)ブローオフ帯電量:
キャリア(パウダーテック社製、商品名「EF−80B2」)9.5gと、試料0.5gを秤量し、容積200ccのSUS製ポットに入れ、30分間、150回転/分の回転数で回転させた後、ブローオフメーター(東芝ケミカル社製、商品名「TB−200])を用い、窒素ガス1kg/cmの圧力でブローオフし、ブローオフ帯電量を測定した。測定は、温度23℃、相対湿度50%で行った。トナー及び外添剤のブローオフ帯電量の測定により、トナーの帯電極性及び外添剤の帯電極性が分かる。
【0108】
(7)印字耐久性:
市販の非磁性一成分現像方式のプリンターを用い、印字用紙をセットし、現像装置にトナーを入れた。温度23℃、湿度50%RHの常温常湿(NN)環境下で24時間放置した後、同環境にて、5%印字濃度で連続印字を行った。500枚毎にベタ印字(印字濃度100%)を行い、反射式画像濃度計(マクベス社製、商品名:RD918)でそのベタ印字部の印字濃度を測定した。さらに、その後、白ベタ印字(印字濃度0%)を行い、白ベタ印字の途中でプリンターを停止させ、現像後の感光体(有機感光体)上にある非画像部のトナーを粘着テープ(住友スリーエム社製、製品名:スコッチメンディングテープ810−3−18)に付着させ、それを印字用紙に貼り付けた。
【0109】
次に、その粘着テープを貼り付けた印字用紙の白色度Bを白色度計(日本電色社製)で測定し、同様にして、未使用の粘着テープだけを印字用紙に貼り付け、その白色度Aを測定した。白色度の差(B−A)をカブリ値(%)とした。この値が小さい方が、かぶりが少なく良好であることを示す。印字濃度が1.3以上で、かつ、カブリ値が3%以下の画質を維持できる連続印字枚数を調べ、その枚数を耐久印字枚数とした。
【0110】
[製造例1]
イオン交換水100部に、個数平均一次粒径0.5μmのベントナイト2部を添加して水分散液を調製した。この水分散液を70℃に加熱し、その中に、ジメチルジステアリルアンモニウム(4級アンモニウム塩)のメタノール溶液を、ベントナイト100g当り、100ミリ当量となる割合で添加した。ジメチルジステアリルアンモニウム(4級アンモニウム塩)の添加量は、ベントナイトの陽イオン交換容量(94meq/100g)の1.0倍当量に該当する。
【0111】
この分散液を、高速乳化分散機(特殊機化工業製、商品名:T.K.ホモミキサー MARK II型)により2時間攪拌した。その後、分散液を濾別して、固形分を得た。この固形分を脱イオン水で繰り返し洗浄した後、脱水し、真空乾燥機により、70℃で24時間乾燥し、ジメチルジステアリルアンモニウムが層間にインターカレーションされた無機層状粘土化合物微粒子(a)を得た。
【0112】
この無機層状粘土化合物微粒子(a)の仕事関数は4.9であり、励起エネルギーに対する規格化光電子収率の傾きは23.1であり、抵抗率は10Ω・cm以上であり、帯電極性はマイナスであった。
【0113】
[製造例2]
個数平均一次粒径0.5μmのベントナイトに代えて、個数平均一次粒径0.4μmのベントナイトを用いたこと以外は、製造例1と同様にして、ジメチルジステアリルアンモニウムが層間にインターカレーションされた無機層状粘土化合物微粒子(b)を得た。
【0114】
この無機層状粘土化合物微粒子(b)の仕事関数は5.2であり、励起エネルギーに対する規格化光電子収率の傾きは6.1であり、抵抗率は10Ω・cm以上であり、帯電極性はマイナスであった。
【0115】
[実施例1]
1.重合性単量体組成物の調製:
重合性単量体としてスチレン83部とn−ブチルアクリレート17部(得られる共重合体の計算Tg=60℃)、カーボンブラック(三菱化学社製、商品名:#25B)7部、帯電制御剤(4級アンモニウム塩基含有スチレン/アクリル樹脂、藤倉化成社製、商品名:FCA−207P)1部、ジビニルベンゼン0.6部、t−ドデシルメルカプタン1.9部、及びポリメタクリル酸エステルマクロモノマー(東亜合成化学工業社製、商品名:AA6)0.25部を撹拌、混合した後、メディア型湿式粉砕機により、湿式粉砕した。湿式粉砕により得られた組成物に、離型剤としてジペンタエリスリトールヘキサミリステート5部を添加、溶解して、重合性単量体組成物を得た。
【0116】
2.水系分散媒体の調製:
室温で、イオン交換水250部に塩化マグネシウム10.2部を溶解した水溶液に、イオン交換水50部に水酸化ナトリウム6.2部を溶解した水溶液を、撹拌下で徐々に添加して、水酸化マグネシウムコロイド(難水溶性の金属水酸化物コロイド)分散液を調製した。
【0117】
3.液滴形成工程:
上記により得られた水酸化マグネシウムコロイド分散液に、上記重合性単量体組成物を投入、撹拌し、そこに、重合開始剤としてt−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート(日本油脂社製、商品名:パーブチルO)6部を添加後、インライン型乳化分散機(荏原製作所社製、商品名:エバラマイルダー)を用いて、高剪断撹拌して、液滴形成を行なった。
【0118】
4.懸濁重合工程:
前記の液滴を形成した重合性単量体組成物の水分散液を反応器へ入れ、90℃に昇温し、重合反応を行った。重合転化率がほぼ100%に達したときに、そこへ、メチルメタクリレート1部(シェル用重合性単量体)とイオン交換水10部とを混合して得られた分散液、及びイオン交換水20部に溶解した2,2′−アゾビス〔2−メチル−N−(2−ハイドロキシエチル)−プロピオンアミド〕(シェル用重合開始剤、和光純薬社製、商品名:VA−086)0.3部を添加した。その後、更に4時間、90℃で維持して、重合を継続した後、室温まで冷却し、着色重合体粒子の水分散液を得た。
【0119】
5.後処理工程:
得られた着色重合体粒子の水分散液に、硫酸を添加してpHを6.5以下にして酸洗浄を行ない、濾過により脱水した後、再び、イオン交換水500部を加えて再スラリー化する、水洗浄を行った。その後、同様に、脱水と水洗浄を、数回繰り返し、濾過により脱水した後、乾燥機の容器内に入れ、温度45℃で48時間、乾燥し、乾燥した着色重合体粒子を得た。乾燥した着色重合体粒子の体積平均粒径(Dv)は9.7μmであり、体積平均粒径(Dv)/個数平均粒径(Dp)は1.14であり、平均円形度は0.97であった。
【0120】
6.着色重合体粒子と正帯電性トナー:
上記で得られた着色重合体粒子100部に、正帯電性の疎水化処理されたシリカ微粒子(クラリアント社製、商品名「HDK2150」、個数平均一次粒径12nm)0.9部と、疎水化処理されたシリカ微粒子(日本アエロジル社製、商品名「NA50Y」、個数平均一次粒径30nm)1.3部、及び製造例1で得られた無機層状粘土化合物微粒子(a)0.25部を添加し、高速攪拌機(三井鉱山社製、商品名:ヘンシェルミキサー)を用いて、6分間、周速30m/sで混合し、外添を行い、非磁性一成分現像剤の静電荷像現像用正帯電性トナーを調製した。結果を表1に示す。
【0121】
[実施例2]
実施例1において、外添剤として、層間化合物である製造例1で製造した無機層状粘土化合物微粒子(a)0.25部に代えて、製造例2で製造した無機層状粘土化合物微粒子(b)0.20部を用いたこと以外は、実施例1と同様にして静電荷像現像用正帯電性トナーを調製した。結果を表1に示す。
【0122】
[実施例3]
実施例1において、無機層状粘土化合物微粒子(a)の配合割合を0.25部から0.02部に変更したこと以外は、実施例1と同様にして静電荷像現像用正帯電性トナーを調製した。結果を表1に示す。
【0123】
[実施例4]
実施例1において、無機層状粘土化合物微粒子(a)の配合割合を0.25部から0.70部に変更したこと以外は、実施例1と同様にして静電荷像現像用正帯電性トナーを調製した。結果を表1に示す。
【0124】
[比較例1]
実施例1において、無機層状粘土化合物微粒子(a)0.25部に代えて、酸化マグネシウム(テイカ社製、商品名「MGP−01」)0.20部を用いたこと以外は、実施例1と同様にして静電荷像現像用正帯電性トナーを調製した。この酸化マグネシウム(c)の仕事関数は4.6であり、励起エネルギーに対する規格化光電子収率の傾きは8.2であり、抵抗率は10Ω・cm以上であり、帯電極性はプラスであり、個数平均一次粒径は15nmであった。結果を表1に示す。
【0125】
[比較例2]
実施例1において、無機層状粘土化合物微粒子(a)0.25部に代えて、炭酸カルシウム(丸尾カルシウム製、商品名「CUBE−03」)0.20部を用いたこと以外は、実施例1と同様にして静電荷像現像用正帯電性トナーを調製した。この炭酸カルシウム(d)の仕事関数は5.5であり、励起エネルギーに対する規格化光電子収率の傾きは7.6であり、抵抗率は1011Ω・cm以上であり、帯電極性はプラスであり、個数平均一次粒径は300nmであった。結果を表1に示す。
【0126】
[比較例3]
実施例1において、無機層状粘土化合物微粒子(a)0.25部に代えて、導電性酸化チタン(チタン工業社製、商品名「EC300」)0.20部を用いたこと以外は、実施例1と同様にして静電荷像現像用正帯電性トナーを調製した。この導電性酸化チタン(e)の仕事関数は5.1であり、励起エネルギーに対する規格化光電子収率の傾きは15.3であり、抵抗率は10Ω・cmであり、帯電極性はマイナスであり、個数平均一次粒径は300nmであった。結果を表1に示す。
【0127】
【表1】

【0128】
表1に示されるように、実施例1の静電荷像現像用正帯電性トナーは、負帯電性外添剤(a)の仕事関数、規格化光電子収率の傾き、抵抗率、及び含有割合がいずれも好ましい範囲内にあり、優れた帯電性と印字耐久性(連続印字枚数が15,000以上)を示すものであった。
【0129】
実施例2の静電荷像現像用正帯電性トナーは、負帯電性外添剤(b)の仕事関数が小さいものの、規格化光電子収率の傾きが比較的小さく、優れた帯電特性と良好な印字耐久性を示すものの、実施例1に比べて、少し劣る結果であった。
【0130】
実施例3の静電荷像現像用正帯電性トナーは、負帯電性外添剤(a)の含有割合が小さいため、実施例2に比べて、少し劣る結果を示した。同様に、実施例4の静電荷像現像用正帯電性トナーは、負帯電性外添剤(a)の含有割合が大きいため、実施例2に比べて、少し劣る結果を示した。
【0131】
比較例1及び2の静電荷像現像用正帯電性トナーは、外添剤(c)及び(d)がいずれもプラスの帯電極性を示す正帯電性であり、帯電性及び印字耐久性が不満足なものであった。
【0132】
比較例3の静電荷像現像用正帯電性トナーは、外添剤(e)の抵抗率が著しく低く、印字耐久性が不満足なものであった。
【産業上の利用可能性】
【0133】
本発明の外添剤を含有する静電荷像現像用正帯電性トナーは、電子写真法を用いた複写機、ファクシミリ、プリンター等の画像形成装置において、現像剤として利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0134】
【図1】仕事関数の測定において、励起エネルギー(単位=eV)を横軸とし、単位光量子当たりの光電子収率の0.5乗で表される規格化光電子収率を縦軸とするグラフに、励起エネルギーに対する規格化光電子収率の測定値をプロットしたときの励起エネルギーに対する規格化光電子収率の傾きを説明するためのグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
着色剤と結着樹脂とを含有する正帯電性着色粒子と外添剤とを含む静電荷像現像用正帯電性トナーにおいて、該外添剤が、
(a)仕事関数が4.3〜5.3eVであり、
(b)該仕事関数の測定において、励起エネルギー(単位=eV)を横軸とし、単位光量子当たりの光電子収率の0.5乗で表される規格化光電子収率を縦軸とするグラフに、励起エネルギーに対する規格化光電子収率の測定値をプロットしたとき、励起エネルギーに対する規格化光電子収率の傾きが5.0〜30.0であり、
(c)抵抗率が10Ω・cm以上であり、かつ、
(d)負帯電極性を示す
負帯電性外添剤を含有することを特徴とする静電荷像現像用正帯電性トナー。
【請求項2】
該負帯電性外添剤の含有割合が、該正帯電性着色粒子100重量部に対して、0.01〜1.0重量部である請求項1記載の静電荷像現像用正帯電性トナー。
【請求項3】
該外添剤が、該負帯電性外添剤と疎水化シリカ微粒子とを含有するものである請求項1または2記載の静電荷像現像用正帯電性トナー。
【請求項4】
該正帯電性着色粒子が、着色剤、正帯電性帯電制御剤及び結着樹脂を含有し、体積平均粒径が2〜12μmで、平均円形度が0.96以上の正帯電性着色重合体粒子である請求項1乃至3のいずれか1項に記載の静電荷像現像用正帯電性トナー。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の静電荷像現像用正帯電性トナーを用いて、正帯電性有機感光体上に現像を行う工程を含む画像形成方法。

【図1】
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