説明

非アルコール性脂肪性肝炎を推定するための検出方法

【課題】簡便に判定可能な非アルコール性脂肪肝性肝炎と推定するための検出方法、または診断用バイオマーカー、その抗体、診断薬、診断方法、及び血液または血清の検出方法を提供する。
【解決手段】被験者の特定生体物質(血清)中におけるMnSODの濃度を測定することを特徴とする該特定生体物質(血清)により、被験者が非アルコール性脂肪性肝炎であると推定するための検出う方法である。特定生体物質のMnSOD濃度測定は免疫学的方法により測定し、その濃度が受信者動作特性曲線によって算出される閾値以上であった場合に非アルコール性脂肪性肝炎であると推定する方法である。
MnSODは、その抗体、キット、診断薬、診断方法、あるいは血中濃度の測定を通じて、非アルコール性脂肪性肝炎の診断や検診に簡便に利用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非アルコール性脂肪性肝炎を推定するための検出方法、特に被検者由来の特定生体物質の測定により、特定生体物質の提供者を非アルコール性脂肪性肝炎と推定する検出方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に非アルコール性脂肪肝疾患(non-alcoholic fatty liver disease; 以下「NAFLD」と云う。)は、単純性脂肪肝(simple steatosis; 以下「SS」という。)と、SSから進展した非アルコール性脂肪性肝炎(non-alcoholic steatohepatitis; 以下「NASH」という。)からなると云われている。NASHは、慢性肝炎、肝硬変、肝細胞がんなど予後不良な疾患へ進展するおそれがある。NAFLDとNASHは、超音波診断をするのが普通であるが、特にNASHの正確な診断を期すには、肝生検による病理診断が必要である。肝生検は、患者の負担が大きく、簡便性を欠く。このため、生活習慣病検診には不向きである。従って、簡便な測定方法、例えば血清診断マーカーを検出することにより、NASHの早期検診をすることができれば、脂肪肝の速やかな進展抑制、治療を施すことが出来る。
【0003】
スーパーオキシドディスムターゼ(Superoxide dismutase;(以下、「SOD」という)は、生体内で酸素毒性を示す活性酸素を分解する酵素である。SODはその活性中心に銅(Cu)イオンと亜鉛(Zn)イオン、またはマンガン(Mn)イオンや、鉄(Fe)イオンなど、金属イオンをもった酵素で、細胞質やミトコンドリアに多く局在している。中でもマンガンイオンを持つ酵素は、マンガネーゼスーパーオキシドディスムターゼ(Manganese superoxide dismutase;以下「MnSOD」という)と呼ばれ、ミトコンドリア特有の酵素である。これらのSODは、活性酸素による細胞の損傷を防御する作用を有すると考えられている。一方、活性酸素には、一重項酸素・スーパーオキシドアニオン・過酸化水素・ヒドロキシラジカルがあげられる。MnSODは活性酸素の中でもスーパーオキシドアニオンを過酸化水素にする働きがあり、この過酸化水素はさらにカタラーゼやペルオキシダーゼで無毒化される。特許文献1では肝細胞性不全症の予防または治療処置用医薬品を得るためのMnSOD類似体が開示されている。しかし、NASHの推定に関する言及はない。
【0004】
非特許文献1では、原発性胆汁性肝硬変患者の血清中のMnSOD濃度が、肝細胞がん、肝硬変、慢性肝炎患者の血清中のそれよりも有意に高いことが記載されているが、NASHである、と推定することについての記載はない。
【0005】
非特許文献2は、NASH患者の血清中のチオレドキシン濃度が、健常者またはSS患者血清よりも有意に高いことを開示しているが、MnSOD濃度については一切触れられていない。チオレドキシンはジスルフィド結合を持つ酸化還元酵素である。MnSODと同じく、活性酸素を無毒化する作用を有するが、チオレドキシンが無毒化する活性酸素は一重項酸素やヒドロキシラジカルであり、MnSODが無毒化するスーパーオキシドアニオンではない。そのため、活性酸素の過剰な発生が原因でチオレドキシンが検出できたとしても、同様にMnSODが検出できるとはいえない。
【0006】
非特許文献3は、肝硬変患者および肝細胞がん患者の血清中のMnSODの酵素活性が健常者に比べ有意に高いことを記載している。しかし、NASHとの関連は一切示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表2003−528152号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Ono M. et al ‘Elevated level of serumMn-Superoxide dismutase in patients with primary biliary cirrhosis: possibleinvolvement of free radicals in the pathogenesis in primary biliary cirrhosis.’J Lab Clin Med, [118]476-483(1991).
【非特許文献2】Sumida Y.et al ‘Serum thioredoxin levels as a predictor of steatohepatitis in patientswith nonalcoholic fatty liver disease’J Hepatol, [38], 32-38 (2003)
【非特許文献3】Clemente C. et al ‘Manganese superoxidedismutase activity and incidence of hepatocellular carcinoma in patients withChild-Pugh class A liver cirrhosis: a 7-year follow-up study’ Liver Int, [27], 791-7 (2007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、被験者の特定生体物質を用いて、NASHを簡便に推定する検出方法を提供することを目的としている。
【0010】
また本発明は、健常者とNASH患者、あるいはNAFLDに含まれるSSとNASHを区別するための検出方法を提供することを目的としている。
【0011】
さらに本発明は、被検者の特定生体物質によりNASHを簡便に診断する抗体、診断薬、これらを搭載したキットを提供することを目的としている。
【0012】
さらにまた本発明は、健常者とNASH患者、NAFLDに含まれるSSとNASHを推定するための抗体又は診断薬を搭載したキットを提供することを目的にしている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、SSとNASHを区別すべく健常者およびSS患者の血清と、NASH患者の血清を用いて鋭意研究を進めた結果、NASH患者の血清で有意に濃度が高値であるタンパク質を見出し、本発明に至った。
【0014】
本発明は、かかる知見にもとづくもので、次の各項の態様を含むことを特徴としている。
項1:被験者由来の特定生体物質におけるMnSODの濃度を測定することを特徴とする、当該特定生体物質の被検者がNASHであると推定するための検出方法。
項2:特定生体物質が血清である請求項1記載の検出方法。
項3:MnSOD濃度が、受信者動作特性曲線によって算出される閾値以上であることを指標として、NASHであると推定する請求項1又は2の検出方法。
項4:MnSODである、NASHを推定するためのバイオマーカー。
項5:MnSODを抗原とし、当該抗原を認識して結合し得る抗体を有効成分とする、NASHを推定するための診断薬。
項6:請求項5の診断薬を搭載した、NASHを推定するための診断キット。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、健常者あるいはSS患者と比較し、NASH患者の血清中でのMnSODの発現量の差が大きく、NASHの的確な診断に寄与できる。特に、これまでの被検者にとって負担の大きい肝生検によることなく、被検者の血清から簡単にNASHの診断ができるので、NASHの検査が簡便且つ迅速となり、多数の被検者の診断が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】ELISA法による健常者、SS患者及びNASH患者の血清MnSOD濃度を測定した結果を示すグラフである。
【図2】MnSOD、血小板、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(以下「AST」という)、コリンエステラーゼの受信者動作特性曲線と閾値、並びに閾値における感度・特異度を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、血清中MnSOD濃度をELISA法などで測定することにより、特異的にNASHを推定する方法である。
【0018】
本発明で推定される疾患はNAFLDに含まれるNASHである。
【0019】
特定生体物質としては、MnSODタンパク質が含まれる可能性のある試料であれば特に制限されないが、好ましくはヒトから採取された試料である。特定生体物質の具体的な例としては、例えば、血液、間質液、血漿、血管外液、脳脊髄液、滑液、胸膜液、血清、リンパ液、唾液、尿などを挙げることができるが、好ましいのは血液、血清、又は血漿である。特に好ましいのは血清である。
【0020】
本発明によれば、被験者試料中にMnSODタンパク質が検出された場合、その濃度が、健常者またはNAFLD患者に含まれるSS患者の特定生体物質と比較して有意に高いと判断された場合、NASHであると推定される。
【0021】
また本発明によれば、受信者動作特性曲線(receiveroperating characteristic curve; ROC曲線)より算出される閾値をNASHの判断とするのが望ましい。その理由は後述する実施例1の図2から明らかなように受信者動作特性曲線に基づく閾値で判断すると、NASHの診断に利用可能な検査項目である血小板数、AST、コリンエステラーゼなどに比べてもMnSODタンパク質のNASH予測能が最も信頼性があると推定できるからである。
【0022】
特定生体物質に含まれるMnSODタンパク質の検出方法は、抗MnSOD抗体を用いた免疫学的方法により行われる。免疫学的方法としては、例えば、ラジオイムノアッセイ、エンザイムイムノアッセイ、蛍光イムノアッセイ、発光イムノアッセイ、免疫沈降法、免疫比濁法、ウエスタンブロット、免疫染色、免疫拡散法などを挙げることができるが、好ましくはエンザイムイムノアッセイであり、特に好ましいのは酵素結合免疫吸着定量法(enzyme-linked immunosorbent assay : 以下、「ELISA」と云う。)(例えば、sandwich ELISA)である。ELISAなどの上述した免疫学的方法は当業者に公知の方法により行うことが可能である。
【0023】
抗MnSOD抗体を用いた一般的な検出方法としては、例えば、抗MnSOD抗体を支持体に固定し、ここに特定生体物質を加え、インキュベートを行い、抗MnSOD抗体とMnSODタンパク質をそれぞれ結合した後に洗浄して、抗MnSOD抗体を介して支持体に結合したMnSODタンパク質を検出することにより、特定生体物質中のMnSODタンパク質の検出を行う方法を挙げることができる。
【0024】
抗MnSOD抗体とMnSODタンパク質とのそれぞれの結合は、通常、緩衝液中で行われる。緩衝液としては、例えば、リン酸緩衝液、Tris緩衝液、クエン酸緩衝液、ホウ酸塩緩衝液、炭酸塩緩衝液などが使用される。また、インキュベーションの条件としては、すでによく用いられている条件、例えば、4℃〜37℃にて1時間〜24時間のインキュベーションが行われる。インキュベート後の洗浄は、抗MnSOD抗体とMnSODタンパク質とのそれぞれの結合を妨げないものであれば何でもよく、例えば、Tween20(登録商標)等の界面活性剤を含む緩衝液などが使用される。
【0025】
本発明のMnSODタンパク質の検出方法においては、MnSODタンパク質を検出したい特定生体物質の他に、コントロール試料を用いてもよい。コントロール試料としては、MnSODタンパク質を含まない陰性コントロール試料やMnSODタンパク質を含む陽性コントロール試料などがある。この場合、MnSODタンパク質を含まない陰性コントロール試料で得られた結果と、MnSODタンパク質を含む陽性コントロール試料で得られた結果と比較することにより、特定生体物質中のMnSODタンパク質を検出することが可能である。また、濃度を段階的に変化させた一連のコントロール試料を調製し、各コントロール試料に対する検出結果を数値として得て、標準曲線を作成し、特定生体物質の数値から標準曲線に基づいて、特定生体物質に含まれるMnSODタンパク質を定量的に検出することも可能である。
【0026】
抗MnSOD抗体を介して支持体に結合したMnSODタンパク質の検出の好ましい態様として、標識物質で標識された抗MnSOD抗体を用いる方法を挙げることができる。例えば、支持体に固定された抗MnSOD抗体に特定生体物質を接触させ、洗浄後に、MnSODタンパク質を特異的に認識する標識抗体を用いて検出する。
【0027】
抗MnSOD抗体の標識は通常知られている方法により行うことが可能である。標識物質としては、蛍光色素、酵素、補酵素、化学発光物質、放射性物質などの当業者に公知の標識物質を用いることが可能であり、具体的な例としては、ラジオアイソトープ(32P、14C、125I、3H、131I など)、フルオレセイン、ローダミン、ダンシルクロリド、ウンベリフェロン、ルシフェラーゼ、ペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、β-ガラクトシダーゼ、β-グルコシダーゼ、ホースラディッシュパーオキシダーゼ、グルコアミラーゼ、リゾチーム、サッカリドオキシダーゼ、マイクロペルオキシダーゼ、ビオチン、ルテニウムなどを挙げることができる。標識物質としてビオチンを用いる場合には、ビオチン標識抗体を添加後に、ペルオキシダーゼなどの酵素を結合させたストレプトアビジンをさらに添加することが好ましい。標識物質と抗MnSOD抗体との結合には、グルタルアルデヒド法、マレイミド法、ピリジルジスルフィド法、過ヨウ素酸法、などの公知の方法を用いることができる。
【0028】
具体的には、抗MnSOD抗体を含む溶液をプレートまたはビーズなどの支持体に加え、抗MnSOD抗体を支持体に固定する。プレート、またはビーズを洗浄後、タンパク質の非特異的な結合を防ぐため、例えばウシ血清アルブミン(BSA)、ゼラチンなどでブロッキングする。再び洗浄し、特定生体物質をプレートまたはビーズに加える。インキュベートの後、洗浄し、標識抗MnSOD抗体を加える。適度なインキュベーションの後、プレートまたはビーズを洗浄し、支持体に残った標識抗 MnSOD抗体を検出する。検出は当業者に公知の方法により行うことができ、例えば、放射性物質による標識の場合には液体シンチレーションやRIA法により 検出することができる。酵素による標識の場合には基質を加え、基質の酵素的変化、例えば発色を吸光度計により検出することができる。基質の具体的な例としては、2,2−アジノビス(3−エチルベンゾチアゾリン−6−スルホン酸)ジアンモニウム塩(ABTS)、1,2−フェニレンジアミン(オルソ−フェニレ ンジアミン)、3,3',5,5'−テトラメチルベンジジン(TMB)などを挙げることができる。蛍光物質または化学発光物質の場合にはルミノメーターにより検出することができる。
【0029】
本発明のMnSODタンパク質検出方法の特に好ましい態様として、ビオチンで標識された抗MnSOD抗体と、ストレプトアビジンを用いる方法を挙げることができる。具体的には、抗MnSOD抗体を含む溶液をプレートなどの支持体に加え、抗MnSOD抗体を固定する。プレートを洗浄後、タンパク質の非特異的な結合を防ぐため、例えばBSAなどでブロッキングする。再び洗浄し、特定生体物質をプレートに加える。インキュベートの後、洗浄し、ビオチン標識抗MnSOD抗体を加える。適度なインキュベーションの後、プレートを洗浄し、アルカリホスファターゼ、ペルオキシダーゼなどの酵素と結合したストレプトアビジンを加える。インキュベーション後、プレートを洗浄し、ストレプトアビジンに結合している酵素に対応した基質を加え、基質の酵素的変化による発色を指標にMnSODタンパク質を検出する。
【0030】
本発明のMnSODタンパク質検出方法の他の態様として、MnSODタンパク質を特異的に認識する一次抗体を一種類以上、および該一次抗体を特異的に認識する二次抗体を一種類以上用いる方法を挙げることができる。例えば、支持体に固定された一種類以上の抗MnSOD抗体に特定生体物質を接触させ、インキュベーションした後、洗浄し、洗浄後に結合しているMnSODタンパク質を、抗MnSOD抗体および該一次抗体を特異的に認識する一種類以上の二次抗体により検出する。この場合、二次抗体は好ましくは標識物質により標識されている。
【0031】
本発明のMnSODタンパク質の検出方法の他の態様としては、凝集反応を利用した検出方法を挙げることができる。該方法においては、抗MnSOD抗体を感作した担体を用いてMnSODタンパク質を検出することができる。抗体を感作する担体としては、不溶性で、非特異的な反応を起こさず、かつ安定である限り、いかなる担体を使用してもよい。例えば、ラテックス粒子、ベントナイト、コロジオン、カオリン、固定羊赤血球等を使用することができるが、ラテックス粒子を使用するのが好ましい。ラテックス粒子としては、例えば、ポリスチレンラテックス粒子、スチレン−ブタジエン共重合体ラテックス粒子、ポリビニルトルエンラテックス粒子等を使用することができるが、ポリスチレンラテックス粒子を使用するのが好ましい。感作した粒子を試料と混合し、一定時間攪拌する。試料中に MnSODタンパク質が高濃度で含まれるほど粒子の凝集度が大きくなるので、凝集を肉眼でみることによりMnSODタンパク質を検出することができる。また、凝集による濁度を分光光度計等により測定することによっても検出することが可能である。
【0032】
本発明のMnSODタンパク質の検出方法の他の態様としては、例えば、表面プラズモン共鳴現象を利用したバイオセンサーを用いた方法を挙げることができる。表面プラズモン共鳴現象を利用したバイオセンサーはタンパク質−タンパク質間の相互作用を微量のタンパク質を用いてかつ標識することなく、表面プラズモン共鳴シグナルとしてリアルタイムに観察することが可能である。例えば、BIAcore(BiacoreInternational AB社製)等のバイオセンサーを用いることにより抗MnSOD抗体とMnSODタンパク質との結合をそれぞれ検出することが可能である。具体的には抗MnSOD 抗体を固定化したセンサーチップに、特定生体物質を接触させ抗MnSOD抗体に結合するMnSODタンパク質を共鳴シグナルの変化としてそれぞれ検出することができる。
【0033】
本発明の検出方法は、種々の自動検査装置を用いて自動化することもでき、一度に大量の試料について検査を行うことも可能である。
【0034】
本発明は、NASHの診断のための特定生体物質中のMnSODタンパク質を検出するための診断薬またはキットの提供をも目的とするが、当該診断薬またはキットは少なくとも抗MnSOD抗体を含む。当該診断薬またはキットがELISA法等のEIA法に基づく場合は、抗体を固相化する担体を含んでいてもよく、抗体があらかじめ 担体に結合していてもよい。該診断薬またはキットがラテックス等の担体を用いた凝集法に基づく場合は抗体が吸着した担体を含んでいてもよい。また、該キットは、適宜、ブロッキング溶液、反応溶液、反応停止液、試料を処理するための試薬等を含んでいてもよい。
【0035】
本発明で用いられる抗MnSOD抗体はMnSODタンパク質にそれぞれ特異的に結合すればよく、その由来、種類(モノクローナル、ポリクローナル)および形状を問わない。具体的には、マウス抗体、ラット抗体、トリ抗体、ヒト抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体などの公知の抗体を用いることができる。抗体はポリクローナル抗体でもよいが、モノクローナル抗体であることが好ましい。また、それら抗体は高感度で特異的な測定が可能であれば、市販されている抗体を使用してもよい。
【0036】
支持体に固定される抗MnSOD抗体と標識物質で標識される抗MnSOD抗体はMnSODタンパク質の同じエピトープを認識してもよいが、異なるエピトープを認識することが好ましく、部位は特に制限されない。
【0037】
本発明で使用される抗MnSOD抗体は、公知の手段を用いてポリクローナルまたはモノクローナル抗体として得ることができる。本発明で使用される抗MnSOD 抗体として、哺乳動物由来あるいはトリ由来モノクローナル抗体が好ましい。特に、哺乳動物由来のモノクローナル抗体が好ましい。哺乳動物由来のモノクローナル抗体は、ハイブリドーマにより産生されるもの、および遺伝子工学的手法により抗体遺伝子を含む発現ベクターで形質転換した宿主に産生されるものを含む。
【0038】
モノクローナル抗体産生ハイブリドーマは、基本的には公知技術を使用し、以下のようにして作製できる。すなわち、MnSODタンパク質を感作抗原として使用して、これを通常の免疫方法にしたがって免疫し、得られる免疫細胞を通常の細胞融合法によって公知の親細胞と融合させ、通常のスクリーニング法により、モノクローナルな抗体産生細胞をスクリーニングすることによって作製できる。具体的には、モノクローナル抗体を作製するには次のようにすればよい。
【0039】
先ず、抗体取得の感作抗原として使用されるMnSODタンパク質を、GenBank番号(NM_001024465、NM_001024466またはNM_000636)に開示されたMnSODタンパク質の遺伝子/アミノ酸配列を発現することによって得る。すなわち、MnSODタンパク質をコードするそれぞれの遺伝子配列を公知の発現ベクター系に挿入して適当な宿主細胞に形質転換させた後、その宿主細胞中または培養上清中から目的のMnSODタンパク質を公知の方法で精製する。また、天然のMnSODタンパク質を精製して用いることもできる。
【0040】
精製したMnSODタンパク質をマウスに免疫し、その抗体産生細胞とミエローマ細胞とを融合させ、得られるハイブリドーマから抗MnSODモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを選択し、これを培養して生産されたモノクローナル抗体を回収することにより得ることができる。
【0041】
モノクローナル抗体の代表的な作製方法を以下に記載する。抗原で免疫した動物から得られる抗体産生細胞と、ミエローマ(骨髄腫)細胞との細胞融合によりハイブリドーマを調製し、得られるハイブリドーマからこれらの抗原を特異的に認識する抗体を産生するクローンを選択することにより調製することができる。
【0042】
動物の免疫に用いる抗原としてはMnSODを使用する。上記の抗原を哺乳動物、例えばマウス、ラット、モルモット、ウマ、サル、ウサギ、ヤギ、ヒツジ、ブタなどの宿主動物に投与する。他に免疫動物としては、ニワトリなどの鳥類を用いることもできる。免疫は、既存の方法であればいずれの方法を用いることもできるが、主として静脈内注射、皮下注射、腹腔内注射などにより行う。また、免疫の間隔は特に限定されず、数日から数週間で、好ましくは4〜21日間隔で免疫する。
【0043】
最終の免疫日から一定期間後に抗体産生細胞を採集する。抗体産生細胞としては脾臓細胞、リンパ節細胞、末梢血細胞等が挙げられるが、脾臓細胞が一般体である。抗原の免疫は、例えば、1回にマウス1匹当たり、100μg用いられる。
【0044】
免疫した動物の免疫応答レベルを確認し、また、細胞融合処理後の細胞から目的とするハイブリドーマを選択するため、免疫した動物の血中抗体価、又は抗体産生細胞の培養上清中の抗体価を測定する。抗体検出の方法としては、公知技術、例えばエンザイムイムノアッセイ(EIA)、ラジオイムノアッセイ(RIA)、ELISAなどが挙げられる。
【0045】
抗体産生細胞と融合させるミエローマ細胞として、マウス、ラット、ヒトなど種々の動物に由来し、当業者が一般に入手可能な株化細胞を使用する。使用する細胞株としては、薬剤抵抗性を有し、未融合の状態では選択培地(例えばHAT 培地)で生存できず、融合した状態でのみ生存できる性質を有するものが用いられる。一般的に8-アザグアニン耐性株が用いられことが多く、この細胞株は、ヒポキサンチン−グアニン−ホスホリボシルトランスフェラーゼを欠損し、ヒポキサンチン・アミノプリテン・チミジン(HAT)培地に生育できないものである。
【0046】
ミエローマ細胞としては、例えば、P3x63Ag8.653、P3x63Ag8U.1、NS-1、MPC-11、SP2/0、F0、S194、R210などを挙げることが出来る。
【0047】
抗体産生細胞は、脾臓細胞、リンパ節細胞などから得られる。即ち、前記各種動物から脾臓、リンパ節などを摘出又は採取し、これら組織を破砕する。得られる破砕物をPBS、DMEM、RPMI-1640などの培地又は緩衝液に懸濁し、ステンレスメッシュなどで濾過後、遠心分離を行うことにより、目的とする抗体産生細胞を調製する。
【0048】
次に、上記ミエローマ細胞と抗体産生細胞とを細胞融合させる。細胞融合は、MEM、DMEM、RPMI-1640培地などの動物細胞培養用の培地中で、ミエローマ細胞と抗体産生細胞とを、例えば、混合比1:1〜1:10で融合促進剤の存在下、30〜37℃で1〜15分間接触させることによって行われる。細胞融合を促進させるためには、平均分子量1,000〜6,000のポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール又はセンダイウイルスなどの融合促進剤や融合ウイルスを使用することが出来る。また、電気刺激(例えばエレクトロポレーション)を利用した市販の細胞融合装置を用いて抗体産生細胞とミエローマ細胞とを融合させることもできる。
【0049】
細胞融合処理後の細胞から目的とするハイブリドーマを選別する。その方法として、選択培地における細胞の選択的増殖を利用する方法などが挙げられる。即ち、細胞懸濁液を適切な培地で希釈後、マイクロタイタープレート上に撒き、各ウェルに選択培地(HAT 培地など)を加え、以後適当に選択培地を交換して培養を行う。その結果、生育してくる細胞をハイブリドーマとして得ることができる。
【0050】
ハイブリドーマのスクリーニングは、限界希釈法、蛍光励起セルソーター法などによって行い、最終的にモノクローナル抗体産生ハイブリドーマを取得する。取得したハイブリドーマからモノクローナル抗体を採取する方法としては、通常の細胞培養法や腹水形成法などが挙げられる。細胞培養法においては、ハイブリドーマを、例えば、10〜20%ウシ胎児血清含有RPMI-1640、MEM、又は無血清培地などの動物細胞培養用培地中で、通常の培養条件(例えば37°C、5% CO)で2〜14日間培養し、その培養上清から抗体を取得する。腹水形成法においては、ミエローマ細胞由来の哺乳動物と同種の動物の腹腔内にハイブリドーマを投与し、ハイブリドーマを大量に増殖させる。そして、1〜4週間後に腹水又は血清を採取する。
【0051】
上記抗体の採取方法において、抗体の精製が必要とされる場合は、硫安塩析法、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィーなどの公知の方法を適宜に選択して、又はこれらを組み合わせることにより精製する。
【0052】
本発明の抗MnSOD抗体としては、市販あるいは報告されている公知のポリクローナル、あるいはモノクローナル抗体の中から、本発明のMnSODを認識するものの中から選抜することが出来る。また、上述の方法などで新たに調製することも出来る。
【0053】
ポリクローナル抗体としては、MnSODをウサギに免疫して得られる抗体が好ましい。例えば、MnSOD antibody(GENETEX社製)やMnSOD Polyclonal Antibody(Stressgen社製)が挙げられる。モノクローナル抗体としては、Anti-MnSOD,clone MnS-1(Chemicon社製)が挙げられる。
【0054】
上述の本発明のマーカーを用いて定法により診断薬を調製することが出来る。さらに、上述の各種の抗体を用いてキット化して簡易な診断に利用することもできる。
【0055】
本発明によれば図1及び2に示すようにMnSOD濃度71.8ng/mLを指標にして、健常者とNASH患者、またはNAFLD患者でのSS患者とNADH患者を簡便に識別することができる。
【実施例1】
【0056】
HumanSuperoxide Dismutase 2 ELISA(AbFRONTIER社製、Catalog Number:LF-EK0104)を用い、添付文書記載の方法に従い測定を行った。
【0057】
(1) 材料と方法
血清試料として健常者20例、NASH29例、単純性脂肪肝15例を用いた。
【0058】
抗Human MnSOD抗体が固定化された96ウェルプレートにIncubation bufferを300マイクロL/ウェル添加し、室温で5分間インキュベートした。Washing buffer(300マイクロL/ウェルで2回)でプレートを洗浄したのち、human MnSOD標準液及び200倍に希釈した血清試料を100マイクロL/ウェルで添加し、2時間反応させた。反応後、Washing buffer(300マイクロL/ウェルで3回)でプレートを洗浄し、Working Secondary Antibody Solution(ビオチン化抗human MnSOD抗体希釈液)を100マイクロL/ウェル添加しさらに1時間反応させた。反応後、Washing buffer(300マイクロL/ウェルで3回)でプレートを洗浄し、Working AV-HRP Solutionを100マイクロL/ウェル添加し30分間反応させた。Washing buffer(300マイクロL/ウェルで3回)でプレートを洗浄し、Substrate(TMB; 3,3’,5,5’-テトラメチルベンチジン溶液)を100マイクロL/ウェル添加し約10分間発色させた。最後にStop Solutionを100マイクロL/ウェル加えて反応を停止し、450nmで比色定量を行った。
【0059】
測定結果における統計学的な有意差の有無をKruskal Wallis検定により判定し、続いて各群の対比較をDunn法による多重比較検定により行った。年齢、性別並びに高血糖、高脂血症及び高血圧症の有無による臨床検査値の有意差の有無はFischerの確率法により検定した。また、受信者動作特性曲線を作成し、各群の閾値、曲線下面積(area under the curve; AUC)並びに感度、特異度を算出した。
【0060】
(2) 結果
図1に示す通り、血清中MnSOD濃度は、健常者で平均値±標準偏差(ng/mL)=51.3±13.9。SS患者では、平均値±標準偏差(ng/mL)=60.2±20.4。NASH患者では、平均値±標準偏差(ng/mL)=103.6±66.2であり、NASH患者での血清MnSOD濃度が、健常者及びSS患者のそれに比べ、有意に高値であった。図1の中で示されるバーは中央値を示し、それぞれ、50.7, 56.5及び77.4 ng/mLであった。
【0061】
本発明で使用した検体の臨床検査値データを表1に示す。検査値の解析の結果、年齢、性別、血小板数、AST及びコリンエステラーゼの5項目でSSとNASH間で有意差が認められた。MnSODと血小板、AST及びコリンエステラーゼのAUCを比較するとMnSODがAUC = 0.760と最も高く、次いで、Plt及びASTがそれぞれ、0.733及び0.726であり、MnSODのNASH予測能が最も高いと推測された(図2)。また、NASH予測のための閾値は71.8 ng/mLと算出され、この値における感度及び特異度はそれぞれ69.0%及び80.0%であった(図2)。以上の結果から、血清MnSOD濃度が71.8 ng/mL以上のとき80%の特異度でSSとNASHを区別することができる。
【0062】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明のMnSODは、健常者またはNAFLD患者に含まれるSS患者の血清中に含まれる濃度に比べてNASH患者の血清中に含まれる濃度が有意に高いことが認められるところから、NASHの推定に有用な測定方法として利用できる。これらは、また医師の診断はもとより、血液または血清の測定、検定にも利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者由来の特定生体物質におけるマンガネーゼスーパーオキシドディスムターゼの濃度を測定することを特徴とする、当該特定生体物質の被検者が非アルコール性脂肪性肝炎であると推定するための検出方法。
【請求項2】
特定生体物質が血清である請求項1記載の検出方法。
【請求項3】
マンガネーゼスーパーオキシドディスムターゼ濃度が、受信者動作特性曲線によって算出される閾値以上であることを指標として、非アルコール性脂肪性肝炎であると推定する請求項1又は2の検出方法。
【請求項4】
マンガネーゼスーパーオキシドディスムターゼである、非アルコール性脂肪性肝炎を推定するためのバイオマーカー。
【請求項5】
マンガネーゼスーパーオキシドディスムターゼを抗原とし、該抗原を認識して結合し得る抗体を有効成分とする、非アルコール性脂肪性肝炎を推定するための診断薬。
【請求項6】
請求項5の診断薬を搭載した、非アルコール性脂肪性肝炎を推定するための診断キット。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−164548(P2010−164548A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−131853(P2009−131853)
【出願日】平成21年6月1日(2009.6.1)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成15年度〜平成20年度、独立行政法人化学技術振興機構、委託研究「地域結集型共同研究事業」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(306024609)財団法人宮崎県産業支援財団 (23)
【出願人】(504258527)国立大学法人 鹿児島大学 (284)