説明

非同期機の対称インピーダンス及び非対称インピーダンスをシミュレートする装置

本発明は、非同期機の対称インピーダンス及び非対称インピーダンスを同時にシミュレートする装置に関する。この装置は、非同期機の3つの相をシミュレートする3つの部分回路を備える。各部分回路は好ましくは、入力端子と出力端子との間に好ましくは直列回路を含み、当該直列回路は、それぞれキャパシタ及び抵抗器を介して平行に接地されている励磁インダクタ、漏れインダクタ、及び抵抗器から成る。部分回路の励磁インダクタのために、磁気結合が実現されるか、又は磁気結合の効果がシミュレートされる。この装置は、有利には、EMVフィルタの測定において非同期機の代わりに利用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に10kHz〜30MHzのEMV(電磁両立性)の周波数範囲内で3相非同期機の対称インピーダンス及び非対称インピーダンスをシミュレートする装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子部品及び電子モジュールのモデルは、数十年の間、シミューレションとして既知である。これは、例えばBoglietti他著「Induction Motor High Frequency Model」(Industry Applications Conference, 1999, 34th IAS Annual Meeting Conference Report of the IEEE, Vol. 3, 1999、1551ページ〜1558ページ)のモデリング手法のような、非同期機の種々のモデルにも関する。そのようなモデルにおいて、シミュレートされる機械における周波数領域でのインピーダンス測定に基づいてパラメータ化が行われる。しかし、非同期機の、周波数に応じる対称インピーダンスも非対称インピーダンスも良好にシミュレートすると共に、それによってハードウェアにおいて実際に実現することを可能にする非同期機のモデルは知られていない。したがって、例えばBogliettiのモデルによって、対称インピーダンス、及び同時に非対称インピーダンスを十分正確にシミュレートすることは不可能である。
【0003】
回転数が変化する3相駆動システム(変換器−機械−システム)用のEMVフィルタは通常、フィルタ製造業者において測定される。変換器のほかに、フィルタ製造業者はこのために、対応するモータを必要とする。これは、購入費用を課すだけでなく、モータの重量が重く且つ体積が大きいため、著しい物流費用ももたらす。およそ、15kWの変換器の重量は5kgであるのに対して、15kWの非同期機の重量は300kgである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、非同期機の、周波数に応じるインピーダンスをシミュレートする装置であって、周波数に応じるインピーダンスの対称挙動も非対称挙動も十分にシミュレートし、わずかな数の部品で実現することができる、装置を提示することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この課題は、請求項1による装置によって解決される。この装置の有利な実施の形態は、従属請求項の主題であるか、又は以下の記載及び実施例から見てとることができる。
【0006】
非同期機の、周波数に応じるインピーダンスをシミュレートする提案される装置は、非同期機の3つの相をシミュレートするための、それぞれが入力端子及び出力端子を備える3つの部分回路を含む。各部分回路は、入力端子と出力端子との間に全インダクタを、好ましくは励磁インダクタ及び漏れインダクタの直列回路として、1つの抵抗器と平行に相互接続して備える。入力側及び出力側は、それぞれキャパシタ及び抵抗器を介して、接地又は基準電位と直列に接続している。部分回路の励磁インダクタのために、磁気結合が実現されるか、又は磁気結合の効果がシミュレートされる。
【0007】
装置のこの実施の形態によって、所定の周波数範囲、好ましくは10kHz〜30MHzにおける非同期機のインピーダンス、すなわち周波数に応じる抵抗を完全にシミュレートすることができる。シミュレーションのために、シミュレートされる非同期機におけるインピーダンスをまず測定し、それによって、装置の個々の部品の必要な固有値を算出する。ここで、「完全に」とは、導線に関する、互いに対するインピーダンス、及び、接地又は基準電位に対する導線のインピーダンスとして理解される。装置は、適度な部品コストで実現することができ、有利な一実施の形態では24個の部品のみから成る。したがって、装置は本質的に、良好なコスト効率で製造することができ、本物のモータとして取り扱うことができる。
【0008】
非同期機の、周波数に応じる抵抗は、駆動システムの電磁両立性に対して大きい影響を有する。したがって、本装置の好ましい使用は、EMVフィルタの測定及び寸法決めのために、非同期機の挙動をシミュレートする本装置を、当該非同期機の代わりに利用することにある。それによって、もはや本物の機械を製造及び輸送する必要がないため、フィルタ製造業者にとって、費やされるコストは大幅に低下する。
【0009】
好ましくは、本装置において、磁気結合しないインダクタ部分は、各部分回路内の、励磁インダクタに直列に接続されている漏れインダクタによってシミュレートされる。
【0010】
提案される装置の好ましい一実施の形態では、励磁インダクタは、分離しているコア又はコイルによって形成され、当該コア又はコイルは好ましくはそれぞれ2本の巻線(選択された巻数の固有値を対応して有する)を含む。これによって、3つ全ての相を通じて形成される結合のシミュレーションが可能になる。ここで、1つのインダクタは2つの相に対して作用し、これらの相を結合する。したがって、3つ全ての相を結合するために、3つのインダクタが必要となる。各インダクタは逆位相で巻かれている。
【0011】
本装置のさらなる一実施の形態では、個々の部分回路を流れる電流は、低周波数において、励磁インダクタに直列に接続されているさらなる抵抗器によって制限される。この抵抗器は、高い周波数において(>150kHz)インピーダンスに影響を与えてはならないため、当該抵抗器の値はそれに対応して小さく選択される。
【0012】
本装置は、以下において、図面に関連する実施例に基づいてさらにより詳細に説明される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
提案される装置の実現において、まず、非同期機の、周波数に応じる対称インピーダンス及び非対称インピーダンスを10kHz〜30MHzの周波数範囲内で完全にシミュレートすることができる等価回路網又はモデルが開発される。非対称インピーダンスは、広い周波数範囲にわたって容量的に振る舞い、高周波数範囲において有効な静電容量は低周波数範囲におけるよりも低い。対称インピーダンスは、まず誘導的に振る舞い、そして高い周波数において同様に容量的に振舞う。ここで対称実効インダクタンスは非対称実効インダクタンスよりも大きい。ここから、各相の3つのインダクタは磁気結合されていなけらばならないと結論付けられる。周波数が非常に高い場合、両方のインピーダンスは誘導的に振舞う。これの観察を組み合わせることによって、図1において示されている等価回路図が生成される。ここで、この図の左側の部分図は1つの相に関し、右側の部分図は3つ全ての相に関する。損失は、簡潔にするために図示されていない。
【0014】
重要なのは挙動モデルであるが、各等価部品に物理的意味を関連付けることができる。したがって、Cg1及びCg2は、巻線と固定子積層鉄心との間のキャパシタを表す。Rg1及びRg2は、鉄の経路(Eisenpfad: iron path)の抵抗器をシミュレートする。L及びMは、個々の相の磁気結合されているインダクタを表し、Rは固有の損失を表す。リードインダクタLzuは、モータ内部の接続ケーブルのインダクタを表す。抵抗銅損(ohmischen Kupferverluste: ohmic copper losses)のシミュレーションは、当該抵抗銅損の影響を、観察される周波数領域において無視することができるため、行われない。しかし、この解釈可能性にもかかわらず、物理モデルは重要ではない。これは、インピーダンス、すなわち周波数挙動に専ら基づいてパラメータ化が行われ、幾何学的形状のような物理量との相関は不可能であるためである。
【0015】
モデルのパラメータ化のために、モデル化されるモータの対称インピーダンス及び非対称インピーダンスが測定される。その後、その測定値から対応する値が読み取られ、続いてモデルパラメータがこの値に基づいて算出される。このために、例えば測定された対称インピーダンス及び非対称インピーダンスの、可能な限り一義的な挙動を有する重要な点を観察することができる。これは、容量挙動において、インピーダンスが低下しており、位相位置が−90度である場合に該当する。誘導挙動の場合、インピーダンスは上昇し、位相位置は+90度である。この方法では、システムに関する利用可能な情報が、場合によっては依然として十分ではないため、さらに共振点が求められる。ここで、並列共振(局所的インピーダンス最大値)及び直列共振(局所的インピーダンス最小値)が生じる。前もって測定から確定されたキャパシタ及びインダクタと関連して、この方法でさらなる部品をパラメータ化することができる。最後に、抵抗器の形態の損失が各共振点において考慮される。非同期機の対称的構成に基づいて、均一に分布していることに起因して全てのパラメータが3つの相にもたらされる。
【0016】
提示及びパラメータ化されたモデル又は等価回路図に基づいて、以下では、本装置の構成の一例が記載される。モータシミュレーションを実現するための本質的な要素は励磁インダクタである。当該励磁インダクタは、対称の場合も、非対称の場合も、モータシミュレーションのために正しいインピーダンスを生成しなければならないため、特別なことを要求される。必要とされるのは、生じた磁束を各時点において加えることを可能にする3相変圧器構成である。ここで、図2において示されているように、3相変圧器は、それぞれ2本の巻線を有する3つのインダクタに分割される。ここで、巻線の使用によって、磁束の方向は各相において任意に調整することができ、その結果、個々の磁束が各時点において加えられる。したがって、実際の実現のために、対応するコアを有する3つのコイル(L1/L3用、L4/L5用、及びL2/L6用)が必要とされる。この提案される実現において、結合されていない部分は、別個に1つのインダクタでシミュレートされる。
【0017】
励磁インダクタは、本例において、Vacuumschmelze社のコアW848によって実現される。このリングコアはナノ結晶材料から成る。このコアは、非常に高い飽和磁束密度及び非常に小さいコア損失を特徴とする。15kWの非同期機のシミュレーションに必要な、L=|M|=2mHの励磁インダクタンス、及び26μHのコイルコアのA値のために、11の巻数が必要とされる。1つのコアには、それに対応して、それぞれ11の巻数を有する2本の巻線がもたらされる。
【0018】
漏れインダクタLStrは、Vogt社の材料「893」によって実現される。このリングコアは鉄粉から成る。このコアは、非常に高い飽和磁束密度及び非常に小さいコア損失を特徴とする。LStr=L−|M|=4.6mHの必要な励磁インダクタンス、及び281μHのコイルコアのA値のために、68の巻数が必要とされる。このコアには、68の巻数を有する1本の巻線がもたらされる。
【0019】
ここで、コア寸法は、飽和が決して達成されないように定められる。リードインダクタLzuは280nHを有し、空心コイルとして実施されるほど小さい。コイルは、必要な値が達成されるまで、約1cmの直径で巻き付けられ、測定され、短くされる。
【0020】
構成要素Cg1、Cg2、Rg1、及びRg2には、SMD型が利用される。これは、SMD型がそれ自体で、可能な限り理想的な挙動を有するためである。コンデンサは、全動作電圧がかかるため、十分に高い耐電圧を有しなければならない。Rg1及びRg2にはSMD抵抗器が利用される。これは、当該SMD抵抗器の電力損失が、エネルギーの少ない高周波数の信号部分によって生じると共に、当該信号部分が当該電力損失を超えることはないためである。低周波数の信号部分は各コンデンサによって捕捉される。上記で求められた抵抗器の値は必ずしも利用可能でないため、コンデンサ又は抵抗器の適切な並列回路によって所望の値に近似することができる。図3において同様に見てとれる抵抗器R及びRは、当該抵抗器において生じる損失が著しいため、電力抵抗器である。R(680Ω)を通じて、相毎に全電流(最大0.45A)が流れる。これによって、P=138Wの最大電力損失が生じる。この理由から、Rはヒートシンク上に取り付けられなければならない。Rは、磁気構成要素の損失を表し、したがって共振を抑制する役割を担う。この抵抗器は、この例では、8kΩで2Wの電力損失となるように実験的に寸法を定められた。
【0021】
図3は、本例のモータシミュレーションの完全な配線図を示す。モータシミュレーションのレイアウトにおける構成要素の配置は、この配線図の配置に従う。そのレイアウトでは、導線インダクタによるさらなる影響を回避するために導線を可能な限り短くするように注意が払われた。しかし、重要なのは、十分な絶縁距離と、広い導体経路全体の十分な電流耐性である。幾何学的配置を通じての漏れインダクタの結合は、励磁インダクタと比べて非常にわずかである。図4は、本例による非同期機の実際のモデルの写真を示す。完成した装置は24個の部品のみから成る。左側には、3つの相及び接地のための、面積の大きいねじ端子が存在する。リードインダクタは空芯コイルとして比較的小さく実施されている。さらに幾らか右に進むと、相毎にそれぞれCg1及びRg1がSMD構成要素として存在している。その後に直列電力抵抗器Rが続くが、それはヒートシンクの裏側に存在しているため、そこから見てとれるのはねじのみである。そして、この構成では、漏れインダクタンスのための3つの大きいコイルと、右側にある、励磁インダクタンスを実現するための3つのさらなるコイルの配置とが際立っている。コイル群の間には電力抵抗器Rが存在している。右側の縁部ではさらにCg2及びRg2が存在している。
【0022】
この装置によって、15kWの非同期機がシミュレートされる。本物の機械の重量は約300kgである。モデルの重量は3kg未満であり、必要とされるのはモータ体積の一部のみであり、12×21×13cmの体積である。他のモータ性能の種類への適合は問題なく可能である。
【0023】
図5は、シミュレートされる非同期機の使用と、モデル、すなわちこの例において提示される装置の使用とにおける雑音スペクトルの比較を示す。測定は、比較可能性を保証するために規格に準拠した構成で行われた。この比較測定から容易に見てとれるように、一致は非常に良好である。ここで、10MHzを超えた領域におけるわずかなずれは無視することができ、実際には何の意味もない。高周波数の挙動のみがシミュレートされるため、流れるのは負荷電流の一部のみである。モデルは対応して設計された。
【0024】
非同期機又は非同期モータの、周波数に応じるインピーダンス挙動をシミュレートするそのような装置によって、有利には、EMVの周波数領域における、非同期機の伝導される雑音の測定を実施することができる。この装置は、特にEMVフィルタの製造業者に適しており、その結果、この装置を利用して対応するフィルタを測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本装置の基礎としての等価回路図である。
【図2】3つのコアを有する3つの励磁インダクタのための等価回路図である。
【図3】本装置の回路図の一例である。
【図4】本装置の写真である。
【図5】本物のモータの使用と、モデルの使用とにおける雑音スペクトルの比較を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非同期機の対称インピーダンス及び非対称インピーダンスを同時にシミュレートする装置であって、
前記非同期機の相毎に、それぞれ1つの入力端子及び出力端子を備えるそれぞれ1つの部分回路を備え、
各部分回路は、前記入力端子と前記出力端子との間に全インダクタを備え、該全インダクタは、入力側及び出力側において、キャパシタ及び抵抗器を介して基準電圧に接続しており、前記部分回路の励磁インダクタ用に、磁気結合が実現されるか、又は磁気結合の効果がシミュレートされる、装置。
【請求項2】
前記全インダクタは、各部分回路において別個の励磁インダクタ及び漏れインダクタによって形成されている、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記励磁インダクタはそれぞれ、複数のコア又はコイルによって形成されている、請求項1又は2に記載の装置。
【請求項4】
各部分回路の前記励磁インダクタはそれぞれ、2本の巻線を有する1つのコイルによって形成されている、請求項1〜3のいずれか一項に記載の装置。
【請求項5】
両方の前記巻線は対向して使用される、請求項4に記載の装置。
【請求項6】
各部分回路において、前記励磁インダクタに直列に抵抗器が接続されている、請求項1〜5のいずれか一項に記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図4】
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【公表番号】特表2009−529127(P2009−529127A)
【公表日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−557590(P2008−557590)
【出願日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際出願番号】PCT/DE2007/000424
【国際公開番号】WO2007/104282
【国際公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【出願人】(591037214)フラウンホッファー−ゲゼルシャフト ツァ フェルダールング デァ アンゲヴァンテン フォアシュンク エー.ファオ (259)
【出願人】(508269488)テヒニシェ ユニバーシテート ベルリン (1)
【Fターム(参考)】