説明

非孔質および半多孔質基体用のコーティング材料

基体上へのインクジェットインク画像形成と関連して適用される基体コーティングが提供される。このコーティングは、黒色および特殊な非黒色カラーインクジェットプリントの耐久性を向上させる。本発明のコーティング材料は、プレプリントコーティングとして、任意の非孔質または半多孔質基体に適用できる。このコーティングは、2種のポリマー、すなわちポリエチレンイミンとアクリルポリマーの組み合わせと、DMEAと、MEKと、前記2種のポリマー間の不都合な相互作用を抑制するためのアルコールとを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット印刷に関し、より詳細には、耐久性および画像品質の向上を達成するために特別にコーティングされた基材に対する黒色およびカラーインクの適用に関する。
【背景技術】
【0002】
コンティニュアス式インクジェット印刷では、インクは、典型的には線状配列で並んだ複数のオリフィスにインクを分配するマニホールド領域に加圧下で供給される。インクはオリフィスからフィラメント状に放出され、放出されたインクは分断されて滴の流れとなる。これらの滴の流れで印刷する場合の方法は、特定の滴を選択的に帯電させ、そしてそれらの通常の軌道から偏向させるものである。グラフィックな再現は、滴の流れを選択的に帯電させ、そしてプリント受容媒体上にそれらの滴の少なくとも一部を付着させるとともに、他の滴を滴捕集装置に当てることにより達成される。コンティニュアス流インクジェット印刷法は、例えば、米国特許第4,255,754号、第4,698,123号および第4,751,517号に記載されており、これらの各々の開示全体を本明細書で援用する。
【0003】
インクジェット印刷の耐久性および黒さの改善を達成することは、印刷業界において最優先事項であった。金属およびプラスチックへの印刷などの非孔質および半多孔質基体分野でインクジェット事業が成長するには、耐水性、プリント品質、および画像のプリント接着性の著しい改善が実証されねばならない。
【0004】
染料系水性インクは、それらの固有の高い表面張力およびそれらが非孔質基体を濡らすことができないために、金属またはプラスチック上への印刷には適していなかった。濡れ性を改善するのに十分なほど表面張力を低下させる場合であっても、インクは、表面浸透がないために表面に付着しない。非孔質および半多孔質基体は、染料系水性インクの妨げになっていた。なぜなら、プリント画像は適切な耐水堅牢性を有しておらず、また、汚染またはブリードに対する抵抗性がないためである。溶剤系インクのみが耐摩擦堅牢性画像をそれらの表面に生成することができるが、高揮発性有機化合物、安全性および健康上の問題についての固有の欠点があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、非孔質または半多孔質基体上に印刷された場合に環境上安全な水性の黒色または非黒色の染料系インクの耐水堅牢性を最適化するとともにそれらの汚染およびブリードを最低限に抑える改良された方法が必要とされていると考えられる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この必要性は、汚染およびブリードに対する抵抗性がある黒色および特殊な非黒色カラーインクジェットプリントの耐久性の向上が達成される本発明に係るコーティング材料によって満たされる。本発明のコーティング材料を使用すると、プラスチックおよび金属などの非孔質材料を、その表面に当該コーティング材料をプレコートした場合に、水性インクにより印刷することができる。このコーティング材料は、アクリルポリマーとポリエチレンイミン(PI)またはエトキシル化ポリエチレンイミン(EPI)との組み合わせを有し、そしてこれらの2種のポリマー間の相互作用を抑制するためにDMEAを用いる。乾燥のために、アルコールとMEKの混合物を使用できる。
【0007】
本発明の1つの側面に従うと、インクジェット印刷システムでの使用に適した非孔質または半多孔質基体上に適用するのに適するコーティング材料は、ポリエチレンイミンポリマーと組み合わされたアクリルポリマーと、これらの2種のポリマー間の不都合な相互作用を抑制するためにDMEAを含む。このコーティング材料が非孔質または半多孔質基体に適用された場合に、耐水堅牢性プリントが生成し、この耐水堅牢性プリントは、湿分にさらされた場合の汚染またはブリードに対する抵抗性を有する。
【0008】
本発明の他の目的および利点は、以下の説明および添付の特許請求の範囲から明らかになるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明は、非孔質または半多孔質基体上への適用に適するコーティング材料を提案する。この適用は、吹き付けなどの任意の好適な適用手段を使用して、印刷前にプレコートとして行われる。コーティング材料は、金属またはプラスチックなどの非孔質または半多孔質基体に対して使用するのに特に都合よい。この基体コーティングは、基体上でのインクジェット画像形成の耐久性を高めて、湿分にさらされた場合でも汚染またはブリードに対する抵抗性のある耐水堅牢性プリントを生成する。
【0010】
本発明によると、コーティング組成物は、ポリエチレンイミンまたはエトキシル化ポリエチレンイミンポリマーと組み合わされたアクリルポリマーを含む。アクリルポリマーは、様々な非孔質基体に対して有効な皮膜形成材であることが知られている。しかしながら、アクリルポリマーのアニオン性のために、かかるポリマーは染料定着性が不十分である。なぜなら、インクジェットインク中の染料もアニオン性であるからである。インクジェットインク染料に対してより優れている定着剤はポリエチレンイミンまたはエトキシル化ポリエチレンイミンポリマーである。PIおよびEPIは強カチオン性ポリマーである。従って、PIおよびEPIは、インクジェットインク染料を定着することができ、インクジェットインクを不溶性かつ耐水性にせしめる。
【0011】
そのため、アクリルポリマーをプレコーティング流体中のPIまたはEPIと組み合わせることができ、非孔質基体に対する良好な接着性を有する定着された染料がもたらされるかのように見える。残念ながら、そのような混合物は、それらのポリマーの反対の電荷のために、即座に白色沈殿物を生じる。
【0012】
本発明によると、アクリルポリマーをPIまたはEPIと組み合わせて安定なコーティング流体を生成できる。特に、特定量のDMEAをこのコーティング流体中に使用して、当該コーティング流体中の2種のポリマー間の不都合な相互作用を抑制する。
【0013】
以下の実施例により本発明のコーティング流体に適する安定な配合を例示する。
【実施例】
【0014】
実施例1
アクリルポリマー30%水溶液 45.0%
DMEA 5.0%
エトキシル化ポリエチレンイミン37%溶液 5.0%
変性アルコール 15.0%
MEK 30.0%
【0015】
実施例2
アクリルポリマー30%水溶液 45.0%
DMEA 4.0%
ポリエチレンイミン50%溶液 4.0%
変性アルコール 17.0%
MEK 30.0%
【0016】
実施例2のプレコートと比較した場合に、実施例1の組成物をコートした非孔質または半多孔質基体に適用されたインクの耐久性およびプリント品質には違いが無かった。すなわち、エトキシル化ポリエチレンイミンよりもむしろ非エトキシル化ポリエチレンイミンを使用した場合に、プレコートされた表面に適用されたインクの性能は同等であった。
【0017】
実施例1において、アクリルポリマー水溶液は、例えばWestvacoから入手可能な30%アクリルポリマー水溶液IJX8154−99などの市販のアクリルポリマーのいずれであってもよい。本発明の好ましい態様において、アクリルポリマーはスチレンアクリルコポリマーを含む。実施例1におけるEPIは、BASFから37%溶液として入手可能なLupasol SC−61Bなどの、好適な市販のEPIのいずれであってもよい。実施例2において、PIは、Aldrichから50%溶液として市販されているものである。実施例1および2の両方において、記載した成分によって製造されたコーティング流体は安定であった。
【0018】
実施例3
変性アルコール 50.0%
エトキシル化ポリエチレンイミン37%溶液 5.0%
MEK 45.0%
【0019】
実施例3に従って製造されたコーティングは安定であった。しかしながら、アルミニウム基体およびプラスチック基体に適用された場合、1036インクで画像形成すると、プリントは耐久性を持たず、水で洗い落ちた。このことは、皮膜の形成および接着のためには、アクリルポリマー成分が必要であることを示唆している。好ましい態様において、アクリルポリマーは、スチレンアクリルコポリマーを含む。
【0020】
実施例4
アクリルポリマー30%水溶液 45.0%
DMEA 5.0%
エトキシル化ポリエチレンイミン37%溶液 5.0%
MEK 45.0%
【0021】
組成物から変性アルコールを除外した場合には、実施例4に示されるように、得られた混合物は濁っており、2層に分離した。このことは、上記アルコールが、構成成分を溶液中に保つのに必要な手段を与えることを示唆している。
【0022】
実施例5
アクリルポリマー30%水溶液 50.0%
エトキシル化ポリエチレンイミン50%溶液 5.0%
変性アルコール 45.0%
【0023】
実施例5に従って配合されたコーティング溶液は、最初は濁っており、その後、容器の底部に白色沈殿物が形成された。どうやら、DMEAを含めないことにより、コーティング溶液の目的を損ねるほどに、アニオン性ポリマーとカチオン性ポリマーとが相互作用したようである。さらに、たった2%のDMEAを含めたのでは依然として濁りを生じ、混合物は分離し、そのためポリマーの不都合な相互作用は抑制されなかったので、DMEAの量は、溶液の2%を超えなくてはならないようである。
【0024】
上記の各実施例における溶液の有効性を求めるために、様々なタイプの非孔質または半多孔質基体、例えばアルミニウム箔およびプラスチック製クレジットカードに各実施例の溶液をプレコートし、次に、1036黒色水性インクを用いてマーキングおよびドローダウン(drawdown)を行った。生成した画像を、湿潤および乾燥摩擦に対する耐久性について評価した。
【0025】
コーティング流体の実際の適用は、吹付け装置などのいかなる好適な手段によっても可能であり、その後、好適なプリンターにより実際の印刷が行われる。吹き付けられ画像形成された基体のプリントを、耐水堅牢性、ブリードおよび印刷強度(print intensity)について評価した。以下の表は、実施例1のプレコートを使用した場合および使用しなかった場合に、ドローダウンにより基体を1036黒色インクを用いて画像形成したときの耐水堅牢性およびプリント品質を比較したものである。
【0026】
【表1】

【0027】
これらの結果から、十分な量のDMEAは、DMEAが存在しない場合に2種のポリマー間で起こる不都合な相互作用を抑制するという利点を有することが分かる。このことは、換言すれば、画像の耐水堅牢性を高め、乾燥または湿潤摩擦に対して抵抗性であるプリントを生成することを意味する。アルコールとMEKの45%溶剤混合物は、乾燥を促進するために画像形成前にコートされた表面を乾燥させるために乾燥機を必要とせず、かつ、濡れを促進する好ましい配合物として選択される。アルコールを除外して45%MEKを使用した場合には、流体は安定でなく、実際に別個の層に分離した。DMEAおよびMEKを実施例1の配合物から除外した場合には、流体は再び不安定になり、別個の層に分離した。好ましい態様において、EPI上のカチオン電荷を最低限に保つことにより、コートされた表面を水性インクを用いて画像形成するまでアクリルポリマーとの相互作用を抑制するには、5%もの多量のDMEAの添加が必要である。
【0028】
従って、本発明の好ましい態様において、水性コーティング溶液は、37%溶液でEPIまたは50%溶液でPIを5〜10%(100%基準で)と、最低5%のDMEAを含む。アクリルポリマーは、スチレンアクリルコポリマーを、30%の質量基準で約20〜50質量%、好ましくは45質量%の量で含むことができる。好ましい態様はさらにMEKとアルコールの両方を含む。アルコールはコーティング中の構成成分に対してMEKよりも好ましい溶剤として機能し、一方、MEKは、当該流体が基体の表面により良好に浸入するためには、基体をエッチングする際にアルコールよりも好ましい。アルコールに対するMEKの比率は、コーティング流体の安定性および基体に対する最適な接着性をもたらすように選ばれ、好ましい態様におけるMEKとアルコールとの好適な比率は約2:1である。
【0029】
コーティング溶液は、例えば吹付け、ローラー配置、またはインクを適用するプリントヘッドに沿って配置されたプリントヘッドによる適用などのいかなる好適な手段によってもよい。コーティング溶液を適用するためにプリントヘッドを使用する場合には、基体の全領域というよりもむしろコーティング材料によりプリント画像領域のみを覆うという選択肢がある。画像の適用後、ヒートガンを用いるなどしてプリントを乾燥させ、画像を定着させる。
【0030】
プレコート適用法は、画像形成中の色間ブリード(color−to−color bleed)をなくすという利点をもたらすことができる。なぜなら、プレコートされた基体のインクが接触したら染料が即座に定着されるからである。さらに、プレコーティングによって、画像がより暗く見え、かつ、よりはっきりしたエッジ解像力を有する。なぜなら、当該コーティングがインクの浸透を最低限に抑えるとともに、表面に染料をより強く定着させるからである。最後に、プレコートされた基体の完全な乾燥は必要でないであろう。従って、乾燥は、画像形成後に一回行うことができ、エネルギーのかなりの節約をもたらす。
【0031】
画像形成は、連続ウェブに対して行うことができる。その場合に、基体を本発明のコーティング材料にさらす。画像形成は、例えば基体に対して90度の角度を成して配置されたプリントヘッドを使用して、移動するバインダリライン上で行なうことができる。様々なカラーのヘッドは、基体がヘッドの下方を通過する際にそれらのヘッドが基体上に画像を逐次形成するように縦に配列される。高品質のカラー画像を得るために、各カラーインクの多数の滴を各画素位置でプリントする。ジェット間隔は、0.7〜0.9ミル(mil)のオリフィス直径を用いた場合に240〜300dpiである。刺激頻度は100kHzであり、すべてのヘッドを同期させる。
【0032】
当業者には明らかなように、上記コーティングを構成する成分は市販されている。耐水堅牢性は染料によって異なり、達成される耐水堅牢性の程度の変動があり、特に基体に適用されるインクが変化する場合に顕著であることも当然理解されており、当該技術分野で知られている。様々な物品基体上に適用されている殆ど全てのインクジェットインクは、非常に様々な画像品質を与える。光学濃度、さえ(brilliance)、耐久性、乾燥性およびドット解像度に違いが生じる。本発明の基体コーティング組成物は、金属およびプラスチックなどの非孔質および半多孔質基体上に耐久性のある画像を印刷するのに特に適合する。本発明の範囲から離れることなく上記配合物に追加の任意の添加剤を含めることができることも当業者に明らかであろう。例えば、追加の任意の添加剤としては、濡れ性をさらに高めるためにZonylなどのフッ素系界面活性剤、および上記流体を細菌を含まない状態に保つ殺生物剤が挙げられる。
【0033】
本発明の特定の好ましい態様を特に参照して本発明を詳しく説明したが、当然のことながら、本発明の範囲内で様々な変更および改良を行える。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非孔質および半多孔質基体上でのインクジェット画像の耐久性を向上させるためのコーティング流体であって、
ポリエチレンイミンポリマーおよびアクリルポリマーと、
これらのポリマー間の相互作用を抑制するためのDMEAと、
MEKとアルコールの混合物と、
を含む、コーティング流体。
【請求項2】
前記ポリマーがエトキシル化ポリエチレンイミンを含む請求項1記載の基体コーティング。
【請求項3】
前記エトキシル化ポリエチレンイミンが、37%の質量基準に基づいて約3〜10質量%を構成する請求項2記載の基体コーティング。
【請求項4】
前記エトキシル化ポリエチレンイミンが5質量%を構成する請求項3記載の基体コーティング。
【請求項5】
前記ポリマーがポリエチレンイミンを含む請求項1記載の基体コーティング。
【請求項6】
前記ポリエチレンイミンが、50%の質量基準に基づいて約3〜10質量%を構成する請求項5記載の基体コーティング。
【請求項7】
前記ポリエチレンイミンが4質量%を構成する請求項6記載の基体コーティング。
【請求項8】
前記アクリルポリマーがスチレンアクリルコポリマーを含む請求項1記載の基体コーティング。
【請求項9】
前記スチレンアクリルコポリマーが、30%の質量基準に基づいて約20〜50質量%の量で存在する請求項8記載の基体コーティング。
【請求項10】
前記スチレンアクリルコポリマーが45質量%を構成する請求項9記載の基体コーティング。
【請求項11】
前記DMEAが約3〜8質量%の量で存在する請求項1記載の基体コーティング。
【請求項12】
前記DMEAが5質量%を構成する請求項11記載の基体コーティング。
【請求項13】
前記インクジェットインクの耐水堅牢度がほぼ100%に改善された請求項1記載の基体コーティング。
【請求項14】
前記アルコールが約10〜20質量%の量で存在する請求項1記載の基体コーティング。
【請求項15】
前記アルコールが約15質量%の量で存在する請求項14記載の基体コーティング。
【請求項16】
前記MEKが約20〜50質量%の量で存在する請求項1記載の基体コーティング。
【請求項17】
前記MEKが約30質量%の量で存在する請求項16記載の基体コーティング。

【公表番号】特表2007−502223(P2007−502223A)
【公表日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−523425(P2006−523425)
【出願日】平成16年8月13日(2004.8.13)
【国際出願番号】PCT/US2004/026441
【国際公開番号】WO2005/016657
【国際公開日】平成17年2月24日(2005.2.24)
【出願人】(590000846)イーストマン コダック カンパニー (1,594)
【Fターム(参考)】