説明

非定常回流水槽

【課題】
実験装置で急激な増水、洪水、濁流のような非定常で非一様な種々の水流を再現する回流水槽を提供する。
【解決手段】
定常で一様流を生成する回流水槽1に水槽先端非定常波面調整機器2と駆動部5、水流流速分布調整機器4と駆動部7、流路内気泡調整機器3と駆動部6および水位高さ調整機器8を取付け、回流水槽で生成される定常で一様流れの波面形状と流速分布、高さを調整して回流水槽1の計測部10で所定の非定常非一様流を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は回流する水の流れを用いて、物体の抵抗計測や物体周りの流れの可視化を行う回流水槽に関する。
【背景技術】
【0002】
豪雨による河川の急激な増水、鉄砲水、堤防の決壊に伴なう洪水、砕波後の津波の濁流等の水流は大規模な非定常現象であり、実際の現象の再現は不可能のため、これを実験により解明していく試みは必要不可欠である。津波に関しては大規模な港湾に押し寄せる津波試験装置、住宅地に押し寄せる津波試験装置により、津波を再現させることを主とした実験が成されている。
【0003】
急激な増水、鉄砲水、洪水、津波の砕波後の濁流等は複雑な様相を示している。流れは渦巻き上下方向の速度は大きく異なり、且つ急激な増水の先端部は急傾斜面を持ちながら波立ち、それに後続する流れはほぼ高さが等しい一様流に近い流れである場合がしばしば見受けられる。これら複雑な流れは、周囲の状況に大いに影響を受けるため、解明および被害の軽減には基本的な現象の把握と系統的な実験による対策作りが重要となる。非定常一様流の本格的な基礎研究は未だ成されていないが、定常一様流で水位、流速を変え、その中で人が歩行できるかと調べた回流水槽実験が成されている。
【0004】
図2に従来用いられている回流水槽を示す。周回する流路を持つ回流水槽本体1にプロペラ駆動モータ12およびプロペラ13を取付け流路に水を入れプロペラを回転させる。回流する水は流速分布調整用ダクト15を通り、計測部14において自由表面16の高さを一定にし、一様な流速分布の定常流を実験に供することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−304419号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
急激な増水、洪水、濁流等の水流に関する自然災害は近年、その規模を拡大しており、被害を減らす必要がある。これら水流は時間とともに形状も威力も変化しており、威力が少ない早い段階から水流を操作し、巨大な水流になる程十分に発達することがないようにすることが有効となる。
【0007】
急激な増水、洪水、濁流の状況は、発生した地域の地形、流路、家屋等の種々の要因により大きく異なり、且つ非常に危険を伴うため状況の把握も十分に行なうことはできない。したがって渦巻きながら波状になって、時には大きな岩をも巻き込んで進むというこれら水流のデータが非常に不足し、引いては実データから導かれる基礎実験に必要な基礎データが不足している。これら基礎データの集積は被害を減らすための基礎実験を行う上では不可欠である。
【0008】
急激な増水、洪水、濁流による被害が大きい理由としてそれらの流れの特殊性、大きく渦巻き、襲来する先端の波形は立っており、後続する流れも先端波形が崩れれば、入れ替わって先端波形を構成するいわゆるエネルギーの大きい流れである。被害を減らす上で、これらエネルギーの大きい流れの要素が被害に大きく影響するかの基礎データが不足しており、被害を定量的に推定できない大きな要因となっている。
【0009】
急激な増水、洪水、濁流の流れを簡略化して水槽で再現し、その流れの変化、威力を求め実際の流れにおける水流のメカニズムと威力の推定データを提供し、被害の軽減を図ることが重要である。これを行うことにより、逆に実際の流れのデータも基礎実験に提供されるようになり、基礎実験の精度も上がり軽減策の信頼度も向上すると考えられる。
【0010】
そこで本発明の目的は急激な増水、洪水、濁流の解析に必要な簡便な基礎実験装置として定常一様流用の回流水槽にそれら水流の再現ができる機能を有した非定常非一様流用の回流水槽を開発し上記水流により被害の軽減を図ることである。
【0011】
前記目的を達成するため、定常回流水槽を用い、これに付属装置を取り付けて水流解析用の非定常回流水槽を開発する。すなわち、定常回流水槽計測部流路上流に水流先端非定常波面調整機器、水流後部流速分布調整用機器および水流高さ調整仕切り板を用意し、それぞれ、非定常性の強い水流先端部、定常性の強い水流後半部、水や土の可能性を有す水流底部の水流を所定の状態に調整している。流路内気泡調整機器も取り付けられ、流路から非定常波面が生成されるたびに流路に気泡が侵入して、運転に支障をきたすのを防ぐために取り付けられている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記目的を達成するために、本発明は定常で一様な水流を生成する回流水槽に水流調整機器を取付け、急激な増水、洪水、濁流に相当する非定常で非一様流な水流を生成し、急激な増水、洪水、濁流に関する基礎実験を可能とするものである。
【0013】
非定常で非一様流を生成する水流調整機器は水流先端非定常波面調整機器、水流流速分布調整機器、水流高さ調整機器および流路内気泡調整機器から成り、これらの機器はそれぞれ非定常性の強い水流先端部、比較的定常性のある水流後半部、水や土の可能性のある水流下部境界を生成する。流路内気泡調整機器は自由水面高さの急激な変化に伴ない流路に混入する気泡の調整を行う。これら機器は回流水槽計測部上流に取付けられ計測部の流れは所定の非定常性を持ち、所定の非一様速度分布を持つ。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、定常で一様速度分布の水流を供給している回流水槽の設計部の流れを所定の非定常性を持ち、所定の非一様速度分布を持つような流れに変える調整機器を取付けて非定常回流水槽とすることにより、急激な増水、洪水、濁流に相当する水流の基礎試験ができるという優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の非定常回流水槽の斜視図である。
【図2】従来の回流水槽の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の好適な実施形態を添付図面に基づいて詳述する。
図1に示すように、本実施形態に係る回流水槽1は計測部10の上流に水流先端非定常波面調整機器2と駆動部5、流路内気泡調整機器3と駆動部6、水流流速分布調整機器4と駆動部7、および回流水槽1を運転し仕切板よりなる水流高さ調整機器8が取付けられている。計測部自由水面は運動前9Aと運動後9Bで異なるように設定される。
【0017】
次に本実施形態の作用を説明する。
本実施形態においては、水流先端非定常波面調整機器2の駆動部5は複数個の密閉可能な扉から成っており、試験前には全て閉じておく。回流水槽1を運転し回流水槽1の計測部10の水位を運動後9Bの高さから運動前9Aまで水面を提げた状態にする。次に所定の順番と時間で開け、扉の後部の水が所定の分布になるべく放出され、非定常水流の先端部が形成される。扉の後部の水の後方には定常流が回流しており、開扉により向きを変えて非定常水流の後から所定の流速で流れる。
【0018】
本実施形態においては、水流流速分布調整機器4の駆動部7は複数の案内板から成り立ち、定常に回流する流れを所定の流速分布になる制御部で設定し、計測部10に入る流れは所定の流速分布を持つ水流が形成される。
【0019】
本実施形態においては、水流先端非定常波面調整機器2の駆動部7の扉が開くに伴ない計測部10における水面は水面位置を運動前9Aから一度ほぼ水面位置を運動後9Bまで急激に変化する。これに伴い計測部10の空気が水流に巻き込まれ、結果として回流水槽1の流路内に多量の気泡が入り、一時的に試験が続行できなくなる。これを回避するために流路内気泡調整機器3に制御部(図示略)および駆動部6を取付けている。
【0020】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態には限定されず他の様々な実施形態を採ることが可能である。
【0021】
例えば、水流先端非定常波面調整機器の駆動部2は複数箇で与えられるが、1箇でも十分水流を模擬することは可能である。同様に水流流速分布調整機器の駆動部が1箇或いは固定でも十分水流流速分布を模擬することは可能である。
【符号の説明】
【0022】
1 回流水槽
2 水流先端非定常波面調整機器
3 流路内気泡調整機器
4 水流流速分布調整機器
5 水流先端非定常波面調整機器の駆動部
6 流路内気泡調整機器の駆動部
7 水流流速分布調整機器の駆動部
8 水流高さ調整機器
9A 計測部自由水面の運動前
9B 計測部自由水面の運動後
10 回流水槽計測部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
定常で一様な水流を生成する回流水槽に水流先端非定常波面調整機器、水流流速分布調整機器、水流高さ調整機器を取付け、急激な増水、洪水、濁流に相当する非定常で非一様な水流を生成し、これらの水流に関する基礎実験を可能とする非定常回流水槽。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−163848(P2011−163848A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−25227(P2010−25227)
【出願日】平成22年2月8日(2010.2.8)
【出願人】(596034919)五十嵐工業株式会社 (2)
【出願人】(599035627)学校法人加計学園 (43)
【Fターム(参考)】