説明

非対称アジン化合物の製造方法

【課題】非対称アジン化合物の製造方法の提供。
【解決手段】アルコール、水、又はアルコールと水との混合溶媒中、アルデヒド化合物とヒドラジンとを反応させて反応液を得る工程1、得られた反応液からヒドラゾン化合物を単離する工程2、及び、単離したヒドラゾン化合物とアルデヒド化合物とを反応させる工程3を有することを特徴とする、非対称アジン化合物(I)の製造方法。


(R、RはOH基又はCOOH基を、X〜XはHH、−C(=O)−OR等を、Rはアルキル基等を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶化合物の製造中間体等として有用な非対称アジン化合物を、工業的に有利に製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、液晶性化合物として、下記式(A)
【0003】
【化1】

【0004】
(式中、Raはアルキル基を表し、Rbはアルキル基、シアノ基、フッ素原子、トリフルオロメトキシ基等を表す。)で表される非対称アジン化合物が知られている。
上記に代表される非対称アジン化合物は液晶相を示す温度範囲が広く、化学的に比較的安定で安価に製造できる等の特性を有する優れた液晶材料である。
【0005】
従来、かかる非対称アジン化合物を製造する方法としては、例えば、特許文献1に記載された、第1のアルデヒド化合物とヒドラジンとを反応させてヒドラゾンを調製し、得られたヒドラゾンを第2のアルデヒド化合物と反応させる方法が知られている。
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載された製造方法には、不均化反応が生じることにより、目的物が収率よく得られないという問題があった。
この問題を解決すべく、特許文献2には、アルコール中、式(B)
【0007】
【化2】

【0008】
(式中、Raは前記と同じ意味を表す。)で表されるアルデヒドを大過剰のヒドラジンと反応させて、式(C)
【0009】
【化3】

【0010】
(式中、Raは前記と同じ意味を表す。)で表されるヒドラゾン化合物を含む反応液を得、得られた反応液から式(C)で表されるヒドラゾン化合物を単離した後、このものと、式(D)
【0011】
【化4】

【0012】
(式中、Rbは前記と同じ意味を表す。)で表されるアルデヒドを、アミン類の存在下に反応させることにより、目的とする式(A)で表される非対称アジン化合物を得る方法が記載されている。
【0013】
しかしながら、特許文献2に記載された方法をそのまま適用して、分子内に水酸基やカルボキシル基等極性基を有する非対称アジン化合物を製造する場合においては、中間体であるヒドラゾン化合物の水溶性が高いため、該ヒドラゾン化合物を反応系から単離することが困難であった。
【0014】
また、上述した不均化反応は酸によって促進されることが知られており、分子内に水酸基やカルボキシル基等の極性基が存在する場合においては、よりいっそう不均化反応が進行し易くなる。そのため、分子内に水酸基やカルボキシル基等の極性基を有する非対称アジン化合物を収率よく製造することが困難となる。
【0015】
この問題を解決すべく、極性基を適当な保護基で保護したアルデヒド化合物を使用することが考えられるが、反応選択性を向上させることはできるものの、高価な保護基を使用するため、製造コストの面からは工業的に有利な製造方法とはいえない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開昭54−87688号公報
【特許文献2】特開平10−59919号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明は、上述した従来技術の実情に鑑みてなされたものであり、分子内に水酸基やカルボキシル基等の極性基を有する非対称アジン化合物を、高い反応選択性で、高い純度で収率よく、かつ工業的に有利に製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、アルコール、又はアルコールと水との混合溶媒中、4位に水酸基又はカルボキシル基の如き酸性基を有するベンズアルデヒドとヒドラジンとを1:1〜1:3のモル比で反応させると、高い純度で、中間体であるヒドラゾン化合物が析出すること、そして、この析出した高純度のヒドラゾン化合物を単離し、アルデヒド化合物と反応させると、高収率で目的とする非対称アジン化合物を製造できることを見出した。また、反応の進行とともに目的物である非対称アジン化合物が反応系外に優先して析出してくるため、極めて簡便なろ過操作だけで高純度な非対称アジン化合物を高収率で得られることを見出し、これらの知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0019】
かくして本発明によれば、下記(1)〜(6)の非対称アジン化合物の製造方法が提供される。
(1)式(I)
【0020】
【化5】

【0021】
〔式中、R、Rはそれぞれ独立して、水酸基又はカルボキシル基を表す。
〜Xはそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、置換基を有してもよい炭素数1〜10のアルキル基、シアノ基、ニトロ基、−OR、−O−C(=O)−R、−C(=O)−OR、−O−C(=O)−OR、−NR−C(=O)−R、−C(=O)−N(R)(R)、又は−O−C(=O)−N(R)(R)を表す。ここで、R、R、Rはそれぞれ独立して、水素原子又は置換基を有してもよい炭素数1〜10のアルキル基を表す。R、R及び/又はRがアルキル基である場合、当該アルキル基には、−O−、−S−、−O−C(=O)−、−C(=O)−O−、−O−C(=O)−O−、−NR−C(=O)−、−C(=O)−NR−、−NR−、又は−C(=O)−が介在していてもよい(ただし、−O−及び−S−がそれぞれ2以上隣接して介在する場合を除く。)。ここで、Rは水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基を表す。
ただし、下記式(IX)
【0022】
【化6】

【0023】
(式中、R、X〜Xは前記と同じ意味を表す。)で表される基と、式(X)
【0024】
【化7】

【0025】
(式中、R、X〜Xは前記と同じ意味を表す。)で表される基は同一ではない。〕で表される非対称アジン化合物の製造方法であって、アルコール、水、又はアルコールと水との混合溶媒中、式(II)
【0026】
【化8】

【0027】
(式中、R、X〜Xは前記と同じ意味を表す。)で表される化合物とヒドラジンとを、(式(II)で表される化合物):(ヒドラジン)のモル比で、1:1〜1:3の割合で反応させて、式(III)
【0028】
【化9】

【0029】
(式中、R、X〜Xは前記と同じ意味を表す。)で表される化合物を含む反応液を得る工程(1)、
次いで、得られた反応液から前記式(III)で表される化合物を単離する工程(2)、及び、単離した前記式(III)で表される化合物と下記式(IV)
【0030】
【化10】

【0031】
(式中、R、X〜Xは前記と同じ意味を表す。)で表される化合物を反応させる工程(3)を有することを特徴とする、前記式(I)で表される非対称アジン化合物の製造方法。
【0032】
(2)前記アルコールとして、炭素数1〜3のアルコールを用いることを特徴とする(1)に記載の非対称アジン化合物の製造方法。
(3)前記アルコールとして、メチルアルコールを用いることを特徴とする(1)に記載の非対称アジン化合物の製造方法。
(4)前記式(I)で表される化合物が、下記式(V)で表される化合物であることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の非対称アジン化合物の製造方法。
【0033】
【化11】

【0034】
(式中、X〜Xは前記と同じ意味を表す。)
(5)前記式(I)で表される化合物が、下記式(VI)で表される化合物であることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の非対称アジン化合物の製造方法。
【0035】
【化12】

【0036】
(式中、Xは前記と同じ意味を表す。)
(6)前記式(I)で表される化合物が、下記式(VII)で表される化合物であることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の非対称アジン化合物の製造方法。
【0037】
【化13】

【0038】
(式中、X11は、ハロゲン原子、置換基を有してもよい炭素数1〜10のアルキル基、シアノ基、−OR、−O−C(=O)−R、又は−C(=O)−ORを表す。ここで、Rは前記と同じ意味を表す。)
【発明の効果】
【0039】
本発明によれば、分子内に水酸基やカルボキシル基等の極性基を有する非対称アジン化合物を、高い反応選択性で、高い純度で収率よく、かつ工業的に有利に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の製造方法は、前記式(I)で表される非対称アジン化合物の製造方法であって、アルコール、水又はアルコールと水との混合溶媒中、前記式(II)で表される化合物(アルデヒド化合物(II))とヒドラジンとを、(アルデヒド化合物(II)):(ヒドラジン)のモル比で、1:1〜1:3の割合で反応させて、前記式(III)で表されるヒドラゾン化合物(ヒドラゾン化合物(III))を含む反応液を得る工程(1)、得られた反応液から、ヒドラゾン化合物(III)を単離する工程(2)、単離したヒドラゾン化合物(III)に、前記式(IV)で表されるアルデヒド化合物(アルデヒド化合物(IV))を反応させる工程(3)を有することを特徴とする。
【0041】
本発明の製造方法は、前記式(I)で表される非対称アジン化合物(非対称アジン化合物(I))を製造するものである。
式(I)中、R、Rはそれぞれ独立して、水酸基又はカルボキシル基を表し、ともに水酸基であるのが好ましい。
【0042】
〜Xはそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、置換基を有してもよい炭素数1〜10のアルキル基、シアノ基、ニトロ基、−OR、−O−C(=O)−R、−C(=O)−OR、−O−C(=O)−OR、−NR−C(=O)−R、−C(=O)−N(R)(R)、又は−O−C(=O)−N(R)(R)を表す。
【0043】
〜Xのハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等が挙げられる。
〜Xの置換基を有してもよい炭素数1〜10のアルキル基のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基等が挙げられる。
その置換基としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子、シアノ基等が挙げられる。
【0044】
〜Rはそれぞれ独立して、水素原子又は置換基を有してもよい炭素数1〜10のアルキル基を表す。
〜Rの置換基を有してもよい炭素数1〜10のアルキル基としては、前記X〜Xの置換基を有してもよい炭素数1〜10のアルキル基の具体例として列記したものと同様のものが挙げられる。
【0045】
また、R〜Rがアルキル基である場合、該アルキル基には、−O−、−S−、−O−C(=O)−、−C(=O)−O−、−O−C(=O)−O−、−NR−C(=O)−、−C(=O)−NR−、−NR−、又は−C(=O)−が介在していてもよい。ただし、−O−及び−S−がそれぞれ2以上隣接して介在する場合を除く。
【0046】
ここで、Rは、水素原子;又は、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基等の炭素数1〜6のアルキル基;を表す。
【0047】
ただし、式(I)中、前記式(IX)で表される基と、式(X)で表される基は同一ではない。
【0048】
本発明においては、前記式(I)で表される非対称アジン化合物は、前記式(V)で表される化合物であることが好ましく、より高純度の化合物がより高収率で得られることから、前記式(VI)で表される化合物がより好ましく、式(VII)で表される化合物が特に好ましい。
【0049】
前記式(VII)中、X11は、ハロゲン原子、置換基を有してもよい炭素数1〜10のアルキル基、シアノ基、−OR、−O−C(=O)−R、又は−C(=O)−ORを表す。ここで、Rは前記と同じ意味を表す。
なかでも、X11は、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基、−OR31、−C(=O)−OR31が好ましい。ここで、R31は、−O−が介在していてもよい炭素数1〜5のアルキル基を表す。
【0050】
前記式(I)で表される非対称アジン化合物の具体例としては、下記のものが挙げられる。
【0051】
【化14】

【0052】
【化15】

【0053】
【化16】

【0054】
本発明の製造方法の概要を下記に示す。
【0055】
【化17】

【0056】
すなわち本発明の非対称アジン化合物(I)の製造方法は、
(1)アルコール、水又はアルコールと水との混合溶媒中、アルデヒド化合物(II)とヒドラジンを反応させて、対応するヒドラゾン化合物(III)を含む反応液を得る工程(工程(1))、
(2)得られた反応液からヒドラゾン化合物(III)を単離する工程(工程(2))、及び
(3)単離したヒドラゾン化合物(III)とアルデヒド化合物(IV)を反応させる工程(工程(3))を有する。
【0057】
工程(1)で用いるアルコールとしては、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、イソブチルルコール、sec−ブチルアルコール、t−ブチルアルコール、n−ペンチルアルコール、アミルアルコール等の炭素数1〜10のアルコールが挙げられる。これらの中でも、炭素数1〜3のアルコールが好ましく、メタノールが特に好ましい。
【0058】
アルコールと水との混合溶媒におけるアルコールと水との混合割合は、アルコール:水の重量比で、通常1:0.1〜1:10、好ましくは1:0.3〜1:5、より好ましくは1:0.5〜1:3である。
【0059】
これらの中でも、工程(1)で用いる、アルコール、水、又はアルコールと水との混合溶媒(以下、「溶媒」ということがある。)としては、ヒドラジン及びアルデヒド化合物に対する溶解力に優れ、ヒドラゾン化合物に対しては貧溶媒となる、炭素数1〜3のアルコール、又は炭素数1〜3のアルコールと水との混合溶媒が好ましく、炭素数1〜3のアルコールと水との混合溶媒がより好ましく、メチルアルコールと水との混合溶媒が特に好ましい。このような溶媒を用いることで、反応液の流動性が向上する。また、ヒドラゾン化合物(III)を単離する際のろ過性が改善し、選択的かつ高収率で目的物を得ることができる。
【0060】
溶媒の使用量は、特に限定されず、用いるアルデヒド化合物の種類や反応規模等を考慮して適宜定めることができるが、ヒドラジン(ヒドラジン1水和物)1gに対し、通常1〜100gである。
【0061】
なお、溶媒には、反応収率を向上させる目的で、トリエチルアミン等のアミン化合物を添加することもできる。
【0062】
本発明においては、工程(1)と工程(3)で2種類のアルデヒド化合物を用いるが、その多くは公知物質であり、公知の方法で製造し、入手することができる。また、市販品をそのままで、あるいは所望により精製して用いることもできる。
【0063】
2種類のアルデヒド化合物のうち、どちらのアルデヒド化合物を先に使用するかは特に制限されないが、相対的にヒドラジンに対する反応性が低いものを先にヒドラジンと反応させるのが、高純度かつ高収率で目的物とする非対称アジン化合物(I)を製造する観点、及び製造コストの面から好ましい。
【0064】
本発明において、ヒドラジンとしては、通常1水和物のものを用いても良い。ヒドラジンは、市販品をそのまま使用することもできる。
【0065】
工程(1)におけるアルデヒド化合物(II)とヒドラジンの使用割合は、アルデヒド化合物(II):ヒドラジンのモル比で、1:1〜1:3、好ましくは1:1.5〜1:2.5、特に好ましくは略1:2である。
【0066】
工程(1)における反応温度は、通常、−10℃から用いる溶媒の沸点までの温度範囲、好ましくは−5℃〜+30℃である。
反応時間は反応規模にも依存するが、通常1分から数時間である。
【0067】
工程(2)は、工程(1)で得られる反応液からヒドラゾン化合物(III)を単離する工程である。
上述のように、工程(1)において、炭素数1〜3のアルコール又は炭素数1〜3のアルコールと水との混合溶媒を用いる場合には、通常、得られる反応液からヒドラゾン化合物(III)が優先して析出する。よって、通常のろ過操作を行うことにより、高純度のヒドラゾン化合物(III)を簡便に単離することができる。
【0068】
本発明においては、ヒドラゾン化合物(III)を一旦単離する工程を設けることにより、後述するように、次工程における反応選択性を向上させ、目的物を高純度、高収率で得ることができる。
【0069】
工程(3)では、単離したヒドラゾン化合物(III)とアルデヒド化合物(IV)とを、(ヒドラゾン化合物(III)):(アルデヒド化合物(IV))のモル比で、好ましくは1:1〜1:2、より好ましくは1:1〜1:1.5、特に好ましくは1:1.3の割合で反応させる。
【0070】
工程(3)で用いる溶媒としては、目的物が高純度、高収率で得られる観点から、アルコールが好ましい。用いるアルコールとしては、前記工程(1)で例示したのと同様のものが挙げられる。
また、析出したヒドラゾン化合物(III)に対する溶解力に優れる、テトラヒドロフラン等の溶媒を使用することもできる。
【0071】
工程(3)における反応温度は、通常、−10℃から用いる溶媒の沸点までの温度範囲、好ましくは−5℃〜+40℃である。
反応時間は反応規模にも依存するが、通常数十分から1日である。
【0072】
得られる反応液には、目的とする非対称アジン化合物(I)のほかに、下記式に示す、アジン化合物(XI)(2分子のアルデヒド化合物(II)がヒドラジンと反応して生成した化合物)、及びアジン化合物(XII)(2分子のアルデヒド化合物(IV)がヒドラゾン化合物(IV)の不均化反応により生じるヒドラジンと反応して生成した化合物)も含まれている。しかしながら、反応の進行とともに目的物である非対称アジン化合物(I)が反応系外に優先して析出してくるため、極めて簡便なろ過操作を行うだけで、高純度な非対称アジン化合物(I)を単離することができる。
【0073】
【化18】

【0074】
目的物の構造は、NMRスペクトル、IRスペクトル、マススペクトルの測定、ガスクロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー等の公知の分析手段によって、同定、確認することができる。
【実施例】
【0075】
以下、実施例及び比較例により、本発明を更に詳細に説明する。但し、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0076】
高速液体クロマトグラフィーの条件
高速クロマトグラフィーは以下の条件で測定した。
装置;アジレント社製1100シリーズ
溶離液;アセトニトリル:テトラヒドロフラン:水(バッファー:KHPO 20mM)=65:15:20(容積比)
カラム;アジレント社製 ZORBAX Eclipse XDB−C18(4.6mmφ×250mm長)
温度;40℃
流速;1ml/分
検出UV;254nm
【0077】
(実施例1)1−(3−メトキシカルボニル−4−ヒドロキシベンジリデン)−2−(4−ヒドロキシベンジリデン)ヒドラジンの合成
【0078】
【化19】

【0079】
ヒドラジン1水和物8.0g(160mmol)を、メチルアルコール28.8gと水28.8gの混合溶媒に溶解した溶液を0℃に冷却した。この溶液中に、3−メトキシカルボニル−4−ヒドロキシベンズアルデヒド(II−1)14.4g(80mmol)をメチルアルコール28.8gと水65.8gの混合溶媒に混合して得たスラリー液を、0℃〜10℃で添加し、全容を5℃を保った状態で3時間撹拌した。析出した結晶をヌッチェにて吸引濾過し、水14.4gで洗浄して、3−メトキシカルボニル−4−ヒドロキシベンズアルデヒド=ヒドラゾン(III−1)の含水結晶21.7gを得た。
【0080】
次に、4−ヒドロキシベンズアルデヒド(IV−1)12.7g(104mmol)のメチルアルコール25.6g溶液に、上記で得たヒドラゾン(III−1)の含水結晶21.7gを、0℃〜10℃で2時間かけて徐々に加えた。得られた反応混合物を、15℃に昇温して2時間撹拌し、さらに、メチルアルコール51.2gを添加して25℃で5時間撹拌した。析出した結晶をヌッチェにて吸引濾過し、メチルアルコール20.0gで洗浄することで、19.6gの白色固体を得た。この化合物の純度は94%で、収率77%であった。
【0081】
この淡黄色固体の組成を高速液体クロマトグラフィーで分析したところ、4−ヒドロキシベンズアルデヒドアジン(XI−1):1−(3−メトキシカルボニル−4−ヒドロキシベンジリデン)−2−(4−ヒドロキシベンジリデン)ヒドラジン(I−1):3−メトキシカルボニル−4−ヒドロキシベンズアルデヒドアジン(XII−1)=1:96:3であった。
【0082】
(実施例2)1−(3−メトキシカルボニル−4−ヒドロキシベンジリデン)−2−(4−ヒドロキシベンジリデン)ヒドラジンの合成
【0083】
ヒドラジン1水和物4.0g(80mmol)をメチルアルコール14.4gに溶解した溶液を5℃に冷却した。この溶液中に、3−メトキシカルボニル−4−ヒドロキシベンズアルデヒド(II−1)7.2g(40mmol)をメチルアルコール19.2gと水9.2gの混合溶媒に混合して得たスラリー液で5℃〜10℃にて添加し、全容を5℃に保った状態で3時間撹拌した。流動性が悪化したため、さらに水を7.2gを添加して5℃で14時間撹拌した。析出した結晶をヌッチェにて吸引濾過し、3−メトキシカルボニル−4−ヒドロキシベンズアルデヒド=ヒドラゾン(III−1)の含水結晶9.0gを得た。
【0084】
次に、4−ヒドロキシベンズアルデヒド(IV−1)6.4g(50mmol)のメチルアルコール12.8g溶液に、上記で得たヒドラゾン(III−1)の含水結晶9.0gを、0℃〜10℃で2時間かけて徐々に加えた。得られた反応混合物を15℃に昇温して5時間撹拌し、さらに、メチルアルコール25.6gを添加して25℃に昇温し、16時間撹拌した。析出した結晶をヌッチェにて吸引濾過し、メチルアルコール10.0gで洗浄して乾燥することで、8.3gの淡黄色固体を得た。この化合物の純度は93%で、収率65%であった。
【0085】
この淡黄色固体の組成を高速液体クロマトグラフィーで分析したところ、4−ヒドロキシベンズアルデヒドアジン(XI−1):1−(3−メトキシカルボニル−4−ヒドロキシベンジリデン)−2−(4−ヒドロキシベンジリデン)ヒドラジン(I−1):3−メトキシカルボニル−4−ヒドロキシベンズアルデヒドアジン(XII−1)=1:95:4であった。
【0086】
(実施例3)1−(3−メトキシカルボニル−4−ヒドロキシベンジリデン)−2−(4−ヒドロキシベンジリデン)ヒドラジンの合成
ヒドラジン1水和物14.0g(280mmol)を水68.4gに溶解した溶液を3℃に冷却した。この溶液中に、3−メトキシカルボニル−4−ヒドロキシベンズアルデヒド(II−1)36.0g(200mmol)を水102.5gに混合して得たスラリー液を、3℃〜5℃で添加した。全容を5℃を保った状態で2時間撹拌し、析出した結晶をヌッチェにて吸引濾過、水38.1gで洗浄して、3−メトキシカルボニル−4−ヒドロキシベンズアルデヒド=ヒドラゾン(III−1)の含水結晶79.8gを得た。ただし、結晶は細かく、ろ過性は非常に悪かった。
【0087】
次に、4−ヒドロキシベンズアルデヒド(IV−1)31.8g(260mmol)のメチルアルコール128.2g溶液に、上記で得たヒドラゾン(III−1)の含水結晶79.8gを、0℃〜5℃で6時間かけて徐々に加えた。得られた反応混合物を5℃で1時間撹拌し、さらに、25℃に昇温して2時間撹拌した。析出した結晶をヌッチェにて吸引濾過し、メチルアルコール86.5gで洗浄して乾燥することで、51.2gの淡黄色固体を得た。この化合物の純度は91%で、収率78%であった。
【0088】
この淡黄色固体の組成を高速液体クロマトグラフィーで分析したところ、4−ヒドロキシベンズアルデヒドアジン(XI−1):1−(3−メトキシカルボニル−4−ヒドロキシベンジリデン)−2−(4−ヒドロキシベンジリデン)ヒドラジン(I−1):3−メトキシカルボニル−4−ヒドロキシベンズアルデヒドアジン(XII−1)=3:93:4であった。
【0089】
(比較例1)1−(3−メトキシカルボニル−4−ヒドロキシベンジリデン)−2−(4−ヒドロキシベンジリデン)ヒドラジンの合成
ヒドラジン1水和物0.5g(10mmol)を、2−プロピルアルコール20gに溶解し、40℃にした。この溶液中に、3−メトキシカルボニル−4−ヒドロキシベンズアルデヒド(II−1)1.8g(10mmol)を添加し、40℃を保った状態で2時間撹拌した。反応混合物に、4−ヒドロキシベンズアルデヒド(IV−1)1.22g(10mmol)を添加して2時間撹拌し、その後、20℃まで冷却し、結晶を充分析出させた後吸引濾過し、2.2gの淡黄色固体を得た。
【0090】
この淡黄色固体の組成を高速液体クロマトグラフィーで分析したところ、4−ヒドロキシベンズアルデヒドアジン(XI−1):1−(3−メトキシカルボニル−4−ヒドロキシベンジリデン)−2−(4−ヒドロキシベンジリデン)ヒドラジン(I−1):3−メトキシカルボニル−4−ヒドロキシベンズアルデヒドアジン(XII−1)=5:70:25であった。
【0091】
以上の結果から、実施例1〜3においては、比較例1に比して、目的とする1−(3−メトキシカルボニル−4−ヒドロキシベンジリデン)−2−(4−ヒドロキシベンジリデン)ヒドラジン(I−1)を、高選択的に、高収率で得られることがわかる。
【0092】
(比較例2)1−(3−メトキシカルボニル−4−ヒドロキシベンジリデン)−2−(4−ヒドロキシベンジリデン)ヒドラジンの合成
特許文献2に記載の実施例1に従い、アルデヒドとして、3−メトキシカルボニル−4−ヒドロキシベンズアルデヒド及び4−ヒドロキシベンズアルデヒドを用いて、1−(3−メトキシカルボニル−4−ヒドロキシベンジリデン)−2−(4−ヒドロキシベンジリデン)ヒドラジンの合成を試みたところ、ジクロロメタン層には何も抽出されなかった。その結果、目的物(非対称アジン化合物)も全く得られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明の製造方法によれば、高い光学異方性(Δn)を有する、PCT/JP2008/57696において開示されている新規重合性液晶化合物等の中間体として有用な非対称アジン化合物を、高純度、高収率で、かつ工業的に有利に製造することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)
【化1】

〔式中、R、Rはそれぞれ独立して、水酸基又はカルボキシル基を表す。
〜Xはそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、置換基を有してもよい炭素数1〜10のアルキル基、シアノ基、ニトロ基、−OR、−O−C(=O)−R、−C(=O)−OR、−O−C(=O)−OR、−NR−C(=O)−R、−C(=O)−N(R)(R)、又は−O−C(=O)−N(R)(R)を表す。ここで、R、R、Rはそれぞれ独立して、水素原子又は置換基を有してもよい炭素数1〜10のアルキル基を表す。R、R及び/又はRがアルキル基である場合、当該アルキル基には、−O−、−S−、−O−C(=O)−、−C(=O)−O−、−O−C(=O)−O−、−NR−C(=O)−、−C(=O)−NR−、−NR−、又は−C(=O)−が介在していてもよい(ただし、−O−及び−S−がそれぞれ2以上隣接して介在する場合を除く。)。ここで、Rは水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基を表す。
ただし、下記式(IX)
【化2】

(式中、R、X〜Xは前記と同じ意味を表す。)で表される基と、式(X)
【化3】

(式中、R、X〜Xは前記と同じ意味を表す。)で表される基は同一ではない。〕で表される非対称アジン化合物の製造方法であって、アルコール、水、又はアルコールと水との混合溶媒中、式(II)
【化4】

(式中、R、X〜Xは前記と同じ意味を表す。)で表される化合物とヒドラジンとを、(式(II)で表される化合物):(ヒドラジン)のモル比で、1:1〜1:3の割合で反応させて、式(III)
【化5】

(式中、R、X〜Xは前記と同じ意味を表す。)で表される化合物を含む反応液を得る工程(1)、
次いで、得られた反応液から前記式(III)で表される化合物を単離する工程(2)、及び、単離した前記式(III)で表される化合物と下記式(IV)
【化6】

(式中、R、X〜Xは前記と同じ意味を表す。)で表される化合物を反応させる工程(3)を有することを特徴とする、前記式(I)で表される非対称アジン化合物の製造方法。
【請求項2】
前記アルコールとして、炭素数1〜3のアルコールを用いることを特徴とする請求項1に記載の非対称アジン化合物の製造方法。
【請求項3】
前記アルコールとして、メチルアルコールを用いることを特徴とする請求項1に記載の非対称アジン化合物の製造方法。
【請求項4】
前記式(I)で表される化合物が、下記式(V)で表される化合物であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の非対称アジン化合物の製造方法。
【化7】

(式中、X〜Xは前記と同じ意味を表す。)
【請求項5】
前記式(I)で表される化合物が、下記式(VI)で表される化合物であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の非対称アジン化合物の製造方法。
【化8】

(式中、Xは前記と同じ意味を表す。)
【請求項6】
前記式(I)で表される化合物が、下記式(VII)で表される化合物であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の非対称アジン化合物の製造方法。
【化9】

(式中、X11は、ハロゲン原子、置換基を有してもよい炭素数1〜10のアルキル基、シアノ基、−OR、−O−C(=O)−R、又は−C(=O)−ORを表す。ここで、Rは前記と同じ意味を表す。)