非対称フィールドフローフラクショネーションを利用した所与の試料系を対象とする分離手法を最適化するための方法および装置
設定された最適化目標にとり最適となる分離チャンネルの幾何パラメータおよび/または最適となる分離工程を実施するためのプロセスパラメータを簡単に算出できるようにする、非対称フィールドフローフラクショネーションを利用した所与の試料系を対象とする分離手法を最適化するための方法を提示するために、本発明により、先ずは、分析対象である試料成分を含有した試料系を対象として、既存の分離チャンネル(1)を用いたテスト測定を一回だけ行うことにより、フラクトグラムを作成することが提案される。次に前記フラクトグラムから、例えば分析対象である拡散係数が異なる二種類の試料成分に属する二つのピークについて、リテンションタイムを読み取る。引き続き第1のピークのリテンションタイムを、フラクトグラムのこの測定結果をもたらす運びとなった、前記分離チャンネル(1)の幾何パラメータの設定値およびプロセスパラメータの設定値と一緒に、コンピュータ(7)に入力すると、前記コンピュータ(7)は、これらのパラメータから、シミュレーションプログラムを使用して、分析対象であるこの試料成分に帰属する拡散係数を計算する。最後に前記シミュレーションプログラムを使用して、前記測定によるフラクトグラムに対応した(計算による)フラクトグラムをディスプレイ画面に表示し、前記コンピュータのディスプレイ画面上に最適フラクトグラムが生じるまで、関連する全てのパラメータを変化させる。この計算による最適フラクトグラムを得るために使用されたパラメータが、最終的に実際に実施されることになる測定および/または新しい分離チャンネル(1)の作成のために使用される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流出ポートに向かって先細りしながらチャンネルの縦軸に沿って延びる輪郭形状を有する分離チャンネルを使用して試料系の分離が行われるようになっている、非対称(非対称流)フィールドフラクショネーション(AF4)を利用した、分析対象である少なくとも一つの試料成分を含有した試料系を対象とする分離手法を最適化するための方法に関する。ほかにも本発明は、この方法を実施するための装置にも関する。
【背景技術】
【0002】
非対称フィールドフローフラクショネーション(asymmetrical field flow fractioning)は、高分子化学、薬学、生化学などの分野に由来する種々の高分子およびその他の粒子(以下では「分析対象である試料成分」とも呼ぶ)の特性を決定できるようにする、すなわちキャラクタライズできるようにする、液体クロマトグラフィーに類似した分離技術である。そこでは試料が、溶解または懸濁された状態で分離チャンネルの内部に装入されて、そこで、分離チャンネルの高さが例えば300μmと僅かであるために、中央部が最大流速、周辺部が流速ゼロとなる、薄層状のフロープロフィールを形成する。
【0003】
分離チャンネルの下面は、メンブレン(集積壁)で覆われたフリットから成っている。チャンネルフローの一部は、下向きに流出するが、それにより、チャンネルの面積全体にわたり搬送方向に対して垂直な明確に定義された力の場を作り出すクロスフローが形成される。この分離力により、分析対象である試料成分は集積壁に向かって押されることになる。粒子サイズの違い、およびそれに伴う拡散係数の違いに基づき、小さい粒子は、大きい粒子よりもチャンネル内に長く留まることになり、またそのために放物線状のキャリア流の流速がより高いフローラインに乗ることになるが、その結果、小さい粒子の方が大きい粒子よりも急速にチャンネル外に溶離されることになる。
【0004】
リテンションタイムtr、すなわち分析対象である試料成分が漂流しながら分離チャンネルを通過する所要時間は、非対称フィールドフローフラクショネーションの場合は、縦方向および横方向の流れ、ならびに分離チャンネルのジオメトリにより実質的に決まり、次の関係式により推定することができる。
【0005】
【数1】
式中、hはチャンネル高さ、kTは熱エネルギー、ηは溶媒の粘度、dは拡散係数に従属した粒子の流体力学的径(ストークス径)、Vc/Vfはチャンネルフローに対するクロスフローの比率である。
【0006】
このようにリテンションタイムは、粒子サイズとチャンネルフローに対するクロスフローの比率の積に比例するために、粒子の溶離挙動は、これらの流れを利用して調整することができる。
【0007】
モル質量差が大きい多分散性試料については、測定時間を最小限に抑えるために、クロスフローを定常に保つのではなく、むしろ時間の経過に伴い、例えば線形または放物線状に減少させることが知られている。それにより一方では、リテンションタイムが増大したときのピークの広がりが小さくなり、他方では測定時間が大幅に短縮される。
【0008】
非対称フィールドフローフラクショネーションにより、数多くの異なる試料系を分析することが確かに可能ではあるが、しかし試料系は、それが何であれ、固有の問題提起や課題を投げかけるのが通例であるために、最適分離手法を達成するためには、異なる試料系に対して、異なる分離チャンネルおよび/または異なるプロセスパラメータが必要となる。
【0009】
上述のリテンションタイムtrの方程式から、確かに特定のストークス径に関してリテンションタイムを大まかに推定することが可能ではあるが、しかしながらそのために必要なデータは、標準的なユーザにとっては、この方程式に代入しなければならない形では、手にすることはできないものとなっている。ほかにもバンド広がり(測定されたそれぞれのフラクトグラムのピークの広がり)については、これを簡単に推定するわけにはいかず、またチャンネルの出口ポートにおける希釈効果についても、上述の方程式では配慮していない。最後に、分離チャンネルの高さの変化が、フラクトグラムにおけるピークの位置および高さに与える影響についても、その推定には困難を極めている。
【0010】
したがって、新しい試料系用の最適分離手法を突き止めるために、実地においては、その時々の最適化目標(例:分析対象である二種類の試料成分から成る混合物については、ピークが完全に分離されること)に関連している、注入時間、流れを集束する時間であるフォーカシング時間、クロスフローなどの、全てのパラメータを系統的に変化させて、測定されるフラクトグラムがどのように変化するかを観察することによって、これらの実験測定において最良の結果をもたらす運びとなったパラメータを用いて、当該新規試料についての測定を実施できるようにするという、時間のかかるテスト測定を実施するのが通例となっている。
【0011】
ほかにも非特許文献1から、クロスフローが指数関数的な輪郭形状を有する場合には、台形形状のチャンネルに関して、リテンションタイムを試料成分の拡散係数の関数として決定することが知られている。その場合は、このケースに関して成立している方程式を、コンピュータにより反復法を利用して評価できるようにしている。
【0012】
この公知である方法では、何よりも特に、その時々の試料成分をキャラクタライズするピークについて、算出されるのはその位置だけに限られており、逆にピーク幅については算出されない点が短所となっている。しかし、シミュレーションにとり突出した重要性を占めているのは、正に互いに重なり合うピークの分離品質であり、所与の条件下で二種類の試料成分を果たして分離できるかどうかという疑問に対する答えなのである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Kirkland,J.J. et al:”Asymmetric-channel flow field-flow fractionation with exponential force-field programming”, Journal of Chromatography vol.593 (1992), p.339-355
【非特許文献2】Caldwell,K.D. et al.: J.Apply.Polym.Sci. 1988, vol.36, p.703
【非特許文献3】Giddings,J.C.: J.Chem.Phys. 1968, vol.49, p.81
【非特許文献4】Giddings,J.C. et al.: E.Sep.Sci. 1975, vol.10, p.447
【非特許文献5】Giddings,J.C.: Sep.Sci.Technol. 1986, vol.21, p.831
【非特許文献6】Litzen,A., Wahlund,K.G.: Anal.Chem. 1991, vol.63, p.1001
【非特許文献7】Litzen,A.: Anal Chem. 1993, vol.65, p.461
【非特許文献8】Martin,M., Giddings,J.C.: J.Phys.Chem. 1981, vol.85, p.727
【非特許文献9】Moon,M.H., Giddings,J.C.: J.Pharm.Biomed.Sci. 1993, vol.11, p.911
【非特許文献10】Wahlund,K.G., Giddings,J.C.: Anal.Chem. 1987, vol.59, p.1332
【非特許文献11】Wahlung,K.G.: 個人情報、2005
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
以上のような背景から、本発明は、設定された最適化目標にとり最適となる分離チャンネルの幾何パラメータおよび/または最適となる分離工程を実施するためのプロセスパラメータを、公知の方法を用いた場合に可能となる以上に簡単に算出できるようにする、所与の試料系を対象とした分離手法を最適化するための方法を提示することを課題として成されたものである。本発明はほかにも、この方法を実施するための装置も開示する。
【課題を解決するための手段】
【0015】
この課題は、本発明により、方法に関しては請求項1の特徴により、装置に関しては請求項8の特徴により解決される。本発明のその他の非常に有利な構成例は、従属請求項に開示される。
【0016】
本発明が依拠する考え方は実質的に、分析対象である試料成分を含有した試料系を対象として、先ずは既存の分離チャンネルを用いてテスト測定を一回だけ行うことによりフラクトグラムを作成することにある。次にこのフラクトグラムから、例えば分析対象である粒子サイズが異なる二種類の試料成分に属する二つのピークについて、リテンションタイムを読み取る。引き続き第1のピークのリテンションタイムを、フラクトグフフのこの測定結果をもたらす運びとなった、分離チャンネルの幾何パラメータの設定値およびプロセスパラメータの設定値と一緒に、計算機に入力すると、計算機は、これらのパラメータから、シミュレーションプログラムを使用して、分析対象であるこの試料成分に帰属する拡散係数を計算する。最後にこのシミュレーションプログラムを使用して、測定によるフラクトグラムに対応した(計算による)フラクトグラムをディスプレイ画面に表示する。
【0017】
続いて、同じパラメータを使用して、第2のピークのリテンションタイムをコンピュータに入力すると、それを受けてシミュレーションプログラムは、二回目の計算サイクルで、第2のフラクトグラムを計算するが、これは、ディスプレイ画面上の第1のフラクトグラムの上に重ねて表示されるようになっており、このため観察者がディスプレイ画面上で目にするのは、二つのピークを持つ一つのフラクトグラムだけとなる。
【0018】
次に、設定された最適化目標を達成するために、関連する全てのパラメータ(分離チャンネルの高さ、クロスフローの経時特性など)が変化されるが、これらの変化の影響は、ディスプレイ画面上に表示されたフラクトグラムを直接的な手がかりとして、トレースされるようになっている。コンピュータのディスプレイ画面上のフラクトグラムが最適フラクトグラムとなると直ちに、コンピュータはこのフラクトグラムのために入力されたパラメータを、実際に実施されることになる測定にも使用する。
【0019】
テスト測定を何度も行って最適化を行う場合は、それに数日を要することが多いのに対して、本発明にしたがった方法は、その時々の最適化目標を顧慮した分離手法の最適化が、数分以内で可能となるという、大きな長所を有している。
【0020】
本発明にしたがった方法では、測定された一つのフラクトグラムを、その測定に使用したパラメータをデフォルト設定としてディスプレイ画面に中継し、引き続きパラメータの変更の影響を、それ以上の測定の追加を不要として、ディスプレイ画面上に表示される(計算による)フラクトグラムにおいてトレースすることを可能とする、新開発のシミュレーションプログラムが使用される点が、かなめとなっている。
【0021】
このため以下では、本発明にしたがった方法のために使用されるシミュレーションプログラムについて詳しく説明する。そこではシミュレーションプログラムの方程式を導出するために、非特許文献2〜11が援用される。
【0022】
そのアルゴリズムは、AF4セルのこの例においては台形形状である先細りする分離チャンネル1を、検出用出口ポートに近づくほど幅bが減少するN個の等距離直方体体積要素により近似できるという考え方に基づくものである(当該チャンネル1の上面図(図1)および断面図(図2)を再現している図1および2も参照のこと)。長さがΔxであるこれらの離散セグメントの内部においては、それぞれの直方体のチャンネル内の流れならびにAF4モデル方程式の有効性に関して、条件は定常であると仮定することができる。このように離散化したことで、チャンネル圧力の低下に基づく試料成分の運動条件の変化に配慮することが可能となるが、これについて、この形式で説明している文献は、これまで皆無である。このため以下では分かり易いように、このシミュレーションプログラムの基礎となるモデルを、キャリア液体用と試料用とで分けて説明する。
【0023】
キャリア液体− 非圧縮性キャリア液体の流れ運動のモデル化は、それぞれの直方体体積要素における質量収支を利用して行われる。メンブレン2(図2)を通過する横向きの流れに基づき、メンブレン2に沿ったチャンネルフロー量には減少を来たすことになる。分離チャンネル1の内部の圧力pは、時間の経過に伴い線形に低下するために、任意の時点tにおける圧力pは、負値である定数Cpを用いて次式のように記述することができる。
【0024】
【数2】
式中、p0は溶離開始時の圧力である。クロスフロー量は、メンブレンの前後の差圧ΔpM、ひいてはメンブレン2の透過係数Pを乗じたチャンネル内の実圧力に直接比例し、次式により求められる。
【0025】
【数3】
ここでAMは、台形形状であるチャンネル下面の合計面積である。したがって、メンブレン2を通過してチャンネル外に出るクロスフロー量は、次式のように、初期値である流入するキャリア液体流量(頭に・点付きのVc,0)から、チャンネル圧力と同じ形で低下せざるを得ないことが明らかである。
【数4】
【0026】
メンブレンに沿った圧力損失は、ストークス流れ条件に基づき、チャンネル内の支配的な圧力よりも数桁分小さくなっている。このためチャンネル1内のクロスフロー密度は、どの地点においてもほぼ定常であると看做すことができ、セルiのクロスフロー量は、この離散セグメントが占める面積AM,i/AMから、次式に基づき計算することができる。
【数5】
【0027】
一つのセグメントのメンブレン面積は、長方形の底面から次式
【数6】
により近似されるが、式中、分離チャンネル1の任意の地点xにおける幅b(x)は、台形形状であるために次式により与えられる。
【数7】
【0028】
チャンネルの内部で横方向に抜き取られることによって生じる、ちょうどメンブレン2のところにおけるキャリア液体のクロスフロー速度w0は、抜き取られる体積流量(頭に・点付きのVc)とこのメンブレン面積とを用いて計算することができる。この速度は、メンブレム2に向かう向きを持つために、ここで使用される座標系では負値をとる。従来のAF4セルでは、w0は定常量である。しかしここに提案されるアルゴリズムでは、いずれにせよ圧力低下のために、w0は時間に従属したパラメータとなっている。任意の時点tにおけるw0については、次式が成立する。
【数8】
【0029】
チャンネル高さhとの関係で生じるクロスフローのフロープロフィールは、非特許文献5から知られており、任意の地点zにおいて、次式により記述することができる。
【数9】
【0030】
セルの出口ポートに配置される検出器は、定常の体積流量を要求する。このため、クロスフロー量が減少するにもかかわらず定常の検出器流量が保証されるように、チャンネル1の入口ポートにおける体積流量についても適合化が不可欠となっている。このため、それぞれのセルiの管理体積の内部の流体流量(頭に・点付きのVf,i)は、位置だけではなく、時間の関数ともなっている。各要素の質量収支は、キャリア液体が非圧縮性であるために、次式にしたがって減少する。
【数10】
【0031】
これから、一つのセルの内部の定常であると仮定される平均軸方向速度(頭に−付きのui(t))は、流れが通過する断面積Ac,iを用いて、次式により求められる。
【数11】
【0032】
層流の速度特性については、チャンネル1内の任意の地点zにおける全高hがわかる場合は次式となる。
【数12】
【0033】
各要素内の液体の平均滞留時間ti0は、次式を用いて平均速度から計算することができる。
【数13】
【0034】
したがって、液体のこのセル内の合計滞留時間については、次式が成立する。
【数14】
【0035】
これらの収支方程式およびモデル方程式を使用して、チャンネル1内のキャリア流体の流れ挙動を、高い位置分解能と時間分解能で、十分に高精度で再現することができる。
試料 − AF4の実験は、三つの個別段階に区分することができる。先ずキャリア液体流が停止されて、いわゆる注入期の間に、明確に定義された体積の試料Vinjがチャンネル1の内部に装入される。引き続いてキャリア流体が、定められた体積流量比で、入口ポートおよび出口ポートを通り抜けるように、チャンネル1の内部に導入されるが、その際に液体はメンブレン2を通っても排出されるようになっている。このフォーカシング期の間に、試料はメンブレン2に向かって押しやられるが、このときには軸方向に移動されることはない。ほかにも試料は、注入地点の近傍に、一つの細長い筋として集束されるようになっている。若干の時間の経過後に、試料は、実質的にクロスフローの速度特性(数式9)により決まる、濃度プロフィールを有することになる。この濃度プロフィールは、次式のように、メンブレン表面で最大値c0に達し、チャンネルの天井に向かって指数関数的に減少するような横断分布を持つように見える(非特許文献10)。
【0036】
【数15】
式中、Iは試料ゾーンの重心からメンブレンまでの平均距離である。この距離は、拡散係数Dとメンブレンのところのクロスフロー速度w0とを用いて、次式により簡単に決定することができる。
【数16】
【0037】
試料が、長さxfocのゾーン内で濃縮状態となると仮定すると、メンブレンの表面における最大試料濃度を、次式のように物質収支を利用して決定することができる(非特許文献11)。
【数17】
【0038】
パラメータcinjは、注入された体積Vinj中の本来の試料の濃度を記述したものである。パラメータbfocは、フォーカシング地点におけるチャンネル幅を記述し、またV0はチャンネル1の合計体積である。
【0039】
第3段階においては、若干のフォーカシング時間の経過後に、チャンネルフローが、チャンネル1の入口ポートから出口ポートに向かって流れるチャンネルフローだけとなるが、その結果、試料が搬送されて、層状の速度特性に基づき最終的に分離されることになる。この溶離期の間に、試料は、メンブレン2の上方の非常に細長い壁面付近の層内だけに位置することになる。この層は、リテンションゾーンとも呼ばれる。このリテンションゾーンの厚みは、一般には平均ゾーン厚みlのチャンネル高さhに対する比を記述したλとして、次式により与ええられる。
【数18】
【0040】
装入された試料のリテンション状態については、一般にはリテンション比Rにより記述される(非特許文献9)が、これは圧力勾配のために、次式のようにリテンションタイムに従属した量としても看做す必要がある。
【数19】
【0041】
したがって、任意の時点およびチャンネル内の任意の地点における試料の実移動速度vs,i(t)は、次式のように記述することができ、
【数20】
最終的には試料の実位置も、これに付属する滞留時間と結合させることができる。その場合、任意のセルiにおける合計リテンションタイムは、t0を数式13で求められるそれぞれのセルの内部におけるキャリア流体の局所的な滞留時間とすると、次式となる。
【数21】
【0042】
バンド広がり − 縦方向の濃度分布は、チャンネル1のどの地点においても一種のガウス分布を呈しているが、そこでは母分散δ2が移動距離に伴い連続的に増大している。一般にクロマトグラフィープロセスにおけるバンド広がりは、分離段高さHにより表現される。非対称フィールドフローフラクショネーションの場合は、フィールドフローフラクショネーションから知られるこの分離段高さに関するモデルが有効となるのは、分離段高さHiだけと局所的に限られている。この高さは、それぞれのセルの管理体積中で、推力効果と縦拡散とによる影響を受ける(非特許文献7)ために、両成分を合計して求められる。
【数22】
【0043】
対称流であるフィールドフローフラクショネーションにおいてはバンド広がりにとり一般に重要な役割を果たす推力効果については、局所的に限定して次のように表現することができる(非特許文献3、非特許文献8)。
【0044】
【数23】
式中、χは次式で与えられるλの複素関数である(非特許文献4)。
【数24】
【0045】
したがって、出口ポートにおける分離段の高さについては、次式により求められるかもしれず(非特許文献6)、
【数25】
式中τは、リテンションタイムtrの経過後にチャンネル1外に出る物質の時間に関する標準偏差である。この標準偏差については、次式が成立する。
【数26】
【0046】
各要素内の縦拡散Hlong,jは、直方体のF3セルにおいては、次式により計算することができる(非特許文献7)。
【数27】
【0047】
拡散に起因して生じた分離段高さの成分は、出口ポートにおいては次のようになる。
【数28】
【0048】
フラクトグラム − ガウス分布の母分散δ2は、推力成分および拡散成分とならび、ほかにもさらにフォーカシングゾーンの幅χfocによっても影響される(非特許文献2)。
【数29】
【0049】
フォーカシング地点を中心とする6σの領域の内部に試料の約99.7%が位置すると仮定すると、注入の母分散は、次式のように記述することができる。
【数30】
【0050】
これに対し他の成分については、チャンネル1の終端部における局所的な分離段高さにより、次式にしたがって把握する必要がある(非特許文献7)。
【数31】
式中、uavは、L/t0で表わされるチャンネル1内の平均理論速度である。出口ポートにおける時間に関する標準偏差は、次式から局所的に計算することができる。
【数32】
【0051】
したがって、それぞれ一つの試料の完全なフラクトグラムを、次に説明するアルゴリズムを用いて計算することができる。
アルゴリズム − 分離の計算では、溶離期だけに配慮する。それに先行する上記で説明した二つの段階は、完結したものと看做される。プログラムは今ではステップバイステップ方式で、入力された材料およびプロセスパラメータに基づき、この要素内の滞留時間の間は状況が定常であるとの仮定の下で、全ての個別セル内の試料のリテンションタイムを計算する。少なくとも二種類の物質を、計算サイクルを個別に実行して求めたそれぞれの拡散係数を用いて表わすことができる。その際に物質が次のセルに入る際には、時間に従属した全ての量が新たに計算されて、この次のセル用の固定量として設定される。次のセルへのこの移行の時点には、チャンネル1の各地点における状況が更新される。試料中に含まれたそれぞれの物質がチャンネル1の出口ポートに到達すると、達成されたリテンションタイムが続いて記録されるようになっている。それと同時に、個々のセルの管理体積を通過する際には、観察される物質の分離段高さへの局所的な寄与分が計算されることによって、通過終了時には、観察されるそれぞれの物質に関して個別にフラクトグラムがリテンションタイムtrおよびτ2との関係で完成されて記録されることになる。
【0052】
その際にリテンションタイムについては、数式8、数式14、数式16および数式18〜数式21から、次式
【数33】
が成立し、また母分散については、数式8、数式14、数式16、数式18〜数式20および数式22〜数式28ならびに数式31および数式32から次式
【数34】
が成立するが、式中、HLは次式で記述される。
【数35】
【0053】
本発明のその他の細部および長所は、以下で図面に基づき説明する実施例から明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】台形形状に先細りする側壁を持つ分離チャンネルの概略的な上面図である。
【図2】図1に示される分離チャンネルの部分領域を、その下側でこれに連続するメンブレンとともに示す断面図である。
【図3a】本発明にしたがった方法を説明するための、測定され計算されたフラクトグラムを示す図である。
【図3b】本発明にしたがった方法を説明するための、測定され計算されたフラクトグラムを示す図である。
【図3c】本発明にしたがった方法を説明するための、測定され計算されたフラクトグラムを示す図である。
【図3d】本発明にしたがった方法を説明するための、測定され計算されたフラクトグラムを示す図である。
【図4】本発明にしたがった方法を実施するための、ディスプレイ画面を有するコンピュータのブロック図である。
【図5a】コンピュータのディスプレイ画面に表示可能な、フラクトグラムの計算に必要なパラメータを入力するための、データ入力フォームを示す図である。
【図5b】コンピュータのディスプレイ画面に表示可能な、フラクトグラムの計算に必要なパラメータを入力するための、データ入力フォームを示す図である。
【図5c】コンピュータのディスプレイ画面に表示可能な、フラクトグラムの計算に必要なパラメータを入力するための、データ入力フォームを示す図である。
【図5d】コンピュータのディスプレイ画面に表示可能な、フラクトグラムの計算に必要なパラメータを入力するための、データ入力フォームを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0055】
図3aには、それ自体としては知られている測定装置の分離チャンネル(図1)を用いて測定された、新しい試料系のフラクトグラム3(リテンションタイムの関数である濃度特性)が示されている。この試料系には、分析対象である、拡散係数が未知である(またそのためにストークス径も未知である)二種類の試料成分が含有される。
【0056】
そこではこの測定装置が、本発明にしたがった方法を実現するために利用される、本発明にしたがった装置の構成部品であるとよく、また本発明にしたがった方法においては、両方の試料成分をキャラクタライズするピーク4および5が、良好に分離された状態で描写されるようになっているが、そのために測定時間の実質的な延長がもたらされることはない。
【0057】
そのためには先ず、図3aに示されるフラクトグラムから、測定されたリテンションタイムtr1およびtr2が取り出されるようになっている。
続いて測定されたこれらのパラメータが、入力装置6(例えばキーボード)を利用して、本発明にしたがった装置のコンピュータ7に入力される(図4)。リテンションタイムのこれらの測定値tr1およびtr2ならびにこの測定の根拠となった幾何パラメータ、プロセスパラメータ、および試料特性などが入力されると、コンピュータ7は、上述のシミュレーションプログラムを使用して、両方の試料成分に帰属する拡散係数(二つの個別計算サイクルで反復して計算)ならびに母分散δ2を計算し、ディスプレイ画面8に両方の試料成分に関して作成された(計算による)フラクトグラムを表示する(図3b)。その際には表示される濃度分布が、送り込まれた試料量の濃度Cinjと、ガウス分布に基づく母分散の計算結果δ2とから計算されて、次の最大値により描写されるようになっている。
【数36】
【0058】
台形形状の分離チャンネル1のN個の等距離体積要素の個数については、計算のために、これらの体積要素の個数をそれ以上増やしても、パラメータの計算結果にもはや何の変化ももたらされないような値に選定される。実地においては、N≦100に選定されるとよいことが判明している。
【0059】
続いて最適化目標に顧慮して、関連するパラメータを変化させることによって、ディスプレイ画面8上に表示される両方の(計算後の)ピーク4’、5’の相応に分離した状態を得るように模索されるが、その際には例えばクロスフローの圧力特性の時間依存性および/または分離チャンネル1の高さhなどが変更されるようになっている。その際にはパラメータの変更が、キーボードからこれらのパラメータを手作業で入力することにより行われるようにするとよい。
【0060】
最適化目標が達成されると直ちに、そのときの両ピーク4”および5”(図3c)に当該するパラメータが、実際の測定のために、ないしは測定を実施するための新しい分離チャンネルなどを構成するために、使用されるようになっている。
【0061】
数多くの実験において判明しているように、本発明にしたがった方法を利用して算出されたパラメータの理論値は、その後の実際に実施されることになる測定にとり極めて良好に使用することができるために、それ以上のテスト実験による最適化を、通常は廃止できるようになる(ピーク4'''および5'''を有する測定されたフラクトグラムを示す図3dも参照のこと。この図においては、図3cを得るためにコンピュータに入力されたパラメータが使用される)。
【0062】
フラクトグラムを計算するためのパラメータの手作業による入力を可能な限り簡単に行えるようにするために、コンピュータのディスプレイ画面を援用して、例えばキーボードから入力された値とならび、そこから計算されるパラメータも表示されるようにすると有利であることが判明している。その場合は、当該パラメータを入力するために、様々なデータ入力フォームが使用されるようにするとよい。
【0063】
その一例として、図5aには、分離チャンネルの幾何パラメータの入力用のデータ入力フォームが示されているが、そこではディスプレイ画面8上に分離チャンネル自体も表示されるほかにも、当該入力パラメータおよびそこから計算されたパラメータが、この分離チャンネルの画像のところに直接表示されるようになっている。
【0064】
図5bには、プロセスパラメータの入力用のデータ入力フォームが示されるが、そこではディスプレイ画面上に分離チャンネル1の内部のクロスフロー量の経時特性が表示されている。
【0065】
図5cおよび5dには、試料特性および補足材料特性に関するパラメータがディスプレイ画面上にリストのように配置されている、データ入力フォームが示されている。
当然ながら本発明は上記で説明した実施例に限定されるものではない。例えば分離チャンネル1の側壁は、最適化目標によっては、台形以外の輪郭形状を有していてもかまわない。ほかにも本発明にしたがった方法により、分析対象である試料が三種類以上ある試料系についても分析が可能となるが、その場合はそれぞれの試料成分について、計算サイクルが個別に実行されることになる。
【符号の説明】
【0066】
1 チャンネル、分離チャンネル
2 メンブレン
3 フラクトグラム
4〜4''' ピーク
5〜5''' ピーク
6 入力装置
7 コンピュータ
8 ディスプレイ画面
【技術分野】
【0001】
本発明は、流出ポートに向かって先細りしながらチャンネルの縦軸に沿って延びる輪郭形状を有する分離チャンネルを使用して試料系の分離が行われるようになっている、非対称(非対称流)フィールドフラクショネーション(AF4)を利用した、分析対象である少なくとも一つの試料成分を含有した試料系を対象とする分離手法を最適化するための方法に関する。ほかにも本発明は、この方法を実施するための装置にも関する。
【背景技術】
【0002】
非対称フィールドフローフラクショネーション(asymmetrical field flow fractioning)は、高分子化学、薬学、生化学などの分野に由来する種々の高分子およびその他の粒子(以下では「分析対象である試料成分」とも呼ぶ)の特性を決定できるようにする、すなわちキャラクタライズできるようにする、液体クロマトグラフィーに類似した分離技術である。そこでは試料が、溶解または懸濁された状態で分離チャンネルの内部に装入されて、そこで、分離チャンネルの高さが例えば300μmと僅かであるために、中央部が最大流速、周辺部が流速ゼロとなる、薄層状のフロープロフィールを形成する。
【0003】
分離チャンネルの下面は、メンブレン(集積壁)で覆われたフリットから成っている。チャンネルフローの一部は、下向きに流出するが、それにより、チャンネルの面積全体にわたり搬送方向に対して垂直な明確に定義された力の場を作り出すクロスフローが形成される。この分離力により、分析対象である試料成分は集積壁に向かって押されることになる。粒子サイズの違い、およびそれに伴う拡散係数の違いに基づき、小さい粒子は、大きい粒子よりもチャンネル内に長く留まることになり、またそのために放物線状のキャリア流の流速がより高いフローラインに乗ることになるが、その結果、小さい粒子の方が大きい粒子よりも急速にチャンネル外に溶離されることになる。
【0004】
リテンションタイムtr、すなわち分析対象である試料成分が漂流しながら分離チャンネルを通過する所要時間は、非対称フィールドフローフラクショネーションの場合は、縦方向および横方向の流れ、ならびに分離チャンネルのジオメトリにより実質的に決まり、次の関係式により推定することができる。
【0005】
【数1】
式中、hはチャンネル高さ、kTは熱エネルギー、ηは溶媒の粘度、dは拡散係数に従属した粒子の流体力学的径(ストークス径)、Vc/Vfはチャンネルフローに対するクロスフローの比率である。
【0006】
このようにリテンションタイムは、粒子サイズとチャンネルフローに対するクロスフローの比率の積に比例するために、粒子の溶離挙動は、これらの流れを利用して調整することができる。
【0007】
モル質量差が大きい多分散性試料については、測定時間を最小限に抑えるために、クロスフローを定常に保つのではなく、むしろ時間の経過に伴い、例えば線形または放物線状に減少させることが知られている。それにより一方では、リテンションタイムが増大したときのピークの広がりが小さくなり、他方では測定時間が大幅に短縮される。
【0008】
非対称フィールドフローフラクショネーションにより、数多くの異なる試料系を分析することが確かに可能ではあるが、しかし試料系は、それが何であれ、固有の問題提起や課題を投げかけるのが通例であるために、最適分離手法を達成するためには、異なる試料系に対して、異なる分離チャンネルおよび/または異なるプロセスパラメータが必要となる。
【0009】
上述のリテンションタイムtrの方程式から、確かに特定のストークス径に関してリテンションタイムを大まかに推定することが可能ではあるが、しかしながらそのために必要なデータは、標準的なユーザにとっては、この方程式に代入しなければならない形では、手にすることはできないものとなっている。ほかにもバンド広がり(測定されたそれぞれのフラクトグラムのピークの広がり)については、これを簡単に推定するわけにはいかず、またチャンネルの出口ポートにおける希釈効果についても、上述の方程式では配慮していない。最後に、分離チャンネルの高さの変化が、フラクトグラムにおけるピークの位置および高さに与える影響についても、その推定には困難を極めている。
【0010】
したがって、新しい試料系用の最適分離手法を突き止めるために、実地においては、その時々の最適化目標(例:分析対象である二種類の試料成分から成る混合物については、ピークが完全に分離されること)に関連している、注入時間、流れを集束する時間であるフォーカシング時間、クロスフローなどの、全てのパラメータを系統的に変化させて、測定されるフラクトグラムがどのように変化するかを観察することによって、これらの実験測定において最良の結果をもたらす運びとなったパラメータを用いて、当該新規試料についての測定を実施できるようにするという、時間のかかるテスト測定を実施するのが通例となっている。
【0011】
ほかにも非特許文献1から、クロスフローが指数関数的な輪郭形状を有する場合には、台形形状のチャンネルに関して、リテンションタイムを試料成分の拡散係数の関数として決定することが知られている。その場合は、このケースに関して成立している方程式を、コンピュータにより反復法を利用して評価できるようにしている。
【0012】
この公知である方法では、何よりも特に、その時々の試料成分をキャラクタライズするピークについて、算出されるのはその位置だけに限られており、逆にピーク幅については算出されない点が短所となっている。しかし、シミュレーションにとり突出した重要性を占めているのは、正に互いに重なり合うピークの分離品質であり、所与の条件下で二種類の試料成分を果たして分離できるかどうかという疑問に対する答えなのである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Kirkland,J.J. et al:”Asymmetric-channel flow field-flow fractionation with exponential force-field programming”, Journal of Chromatography vol.593 (1992), p.339-355
【非特許文献2】Caldwell,K.D. et al.: J.Apply.Polym.Sci. 1988, vol.36, p.703
【非特許文献3】Giddings,J.C.: J.Chem.Phys. 1968, vol.49, p.81
【非特許文献4】Giddings,J.C. et al.: E.Sep.Sci. 1975, vol.10, p.447
【非特許文献5】Giddings,J.C.: Sep.Sci.Technol. 1986, vol.21, p.831
【非特許文献6】Litzen,A., Wahlund,K.G.: Anal.Chem. 1991, vol.63, p.1001
【非特許文献7】Litzen,A.: Anal Chem. 1993, vol.65, p.461
【非特許文献8】Martin,M., Giddings,J.C.: J.Phys.Chem. 1981, vol.85, p.727
【非特許文献9】Moon,M.H., Giddings,J.C.: J.Pharm.Biomed.Sci. 1993, vol.11, p.911
【非特許文献10】Wahlund,K.G., Giddings,J.C.: Anal.Chem. 1987, vol.59, p.1332
【非特許文献11】Wahlung,K.G.: 個人情報、2005
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
以上のような背景から、本発明は、設定された最適化目標にとり最適となる分離チャンネルの幾何パラメータおよび/または最適となる分離工程を実施するためのプロセスパラメータを、公知の方法を用いた場合に可能となる以上に簡単に算出できるようにする、所与の試料系を対象とした分離手法を最適化するための方法を提示することを課題として成されたものである。本発明はほかにも、この方法を実施するための装置も開示する。
【課題を解決するための手段】
【0015】
この課題は、本発明により、方法に関しては請求項1の特徴により、装置に関しては請求項8の特徴により解決される。本発明のその他の非常に有利な構成例は、従属請求項に開示される。
【0016】
本発明が依拠する考え方は実質的に、分析対象である試料成分を含有した試料系を対象として、先ずは既存の分離チャンネルを用いてテスト測定を一回だけ行うことによりフラクトグラムを作成することにある。次にこのフラクトグラムから、例えば分析対象である粒子サイズが異なる二種類の試料成分に属する二つのピークについて、リテンションタイムを読み取る。引き続き第1のピークのリテンションタイムを、フラクトグフフのこの測定結果をもたらす運びとなった、分離チャンネルの幾何パラメータの設定値およびプロセスパラメータの設定値と一緒に、計算機に入力すると、計算機は、これらのパラメータから、シミュレーションプログラムを使用して、分析対象であるこの試料成分に帰属する拡散係数を計算する。最後にこのシミュレーションプログラムを使用して、測定によるフラクトグラムに対応した(計算による)フラクトグラムをディスプレイ画面に表示する。
【0017】
続いて、同じパラメータを使用して、第2のピークのリテンションタイムをコンピュータに入力すると、それを受けてシミュレーションプログラムは、二回目の計算サイクルで、第2のフラクトグラムを計算するが、これは、ディスプレイ画面上の第1のフラクトグラムの上に重ねて表示されるようになっており、このため観察者がディスプレイ画面上で目にするのは、二つのピークを持つ一つのフラクトグラムだけとなる。
【0018】
次に、設定された最適化目標を達成するために、関連する全てのパラメータ(分離チャンネルの高さ、クロスフローの経時特性など)が変化されるが、これらの変化の影響は、ディスプレイ画面上に表示されたフラクトグラムを直接的な手がかりとして、トレースされるようになっている。コンピュータのディスプレイ画面上のフラクトグラムが最適フラクトグラムとなると直ちに、コンピュータはこのフラクトグラムのために入力されたパラメータを、実際に実施されることになる測定にも使用する。
【0019】
テスト測定を何度も行って最適化を行う場合は、それに数日を要することが多いのに対して、本発明にしたがった方法は、その時々の最適化目標を顧慮した分離手法の最適化が、数分以内で可能となるという、大きな長所を有している。
【0020】
本発明にしたがった方法では、測定された一つのフラクトグラムを、その測定に使用したパラメータをデフォルト設定としてディスプレイ画面に中継し、引き続きパラメータの変更の影響を、それ以上の測定の追加を不要として、ディスプレイ画面上に表示される(計算による)フラクトグラムにおいてトレースすることを可能とする、新開発のシミュレーションプログラムが使用される点が、かなめとなっている。
【0021】
このため以下では、本発明にしたがった方法のために使用されるシミュレーションプログラムについて詳しく説明する。そこではシミュレーションプログラムの方程式を導出するために、非特許文献2〜11が援用される。
【0022】
そのアルゴリズムは、AF4セルのこの例においては台形形状である先細りする分離チャンネル1を、検出用出口ポートに近づくほど幅bが減少するN個の等距離直方体体積要素により近似できるという考え方に基づくものである(当該チャンネル1の上面図(図1)および断面図(図2)を再現している図1および2も参照のこと)。長さがΔxであるこれらの離散セグメントの内部においては、それぞれの直方体のチャンネル内の流れならびにAF4モデル方程式の有効性に関して、条件は定常であると仮定することができる。このように離散化したことで、チャンネル圧力の低下に基づく試料成分の運動条件の変化に配慮することが可能となるが、これについて、この形式で説明している文献は、これまで皆無である。このため以下では分かり易いように、このシミュレーションプログラムの基礎となるモデルを、キャリア液体用と試料用とで分けて説明する。
【0023】
キャリア液体− 非圧縮性キャリア液体の流れ運動のモデル化は、それぞれの直方体体積要素における質量収支を利用して行われる。メンブレン2(図2)を通過する横向きの流れに基づき、メンブレン2に沿ったチャンネルフロー量には減少を来たすことになる。分離チャンネル1の内部の圧力pは、時間の経過に伴い線形に低下するために、任意の時点tにおける圧力pは、負値である定数Cpを用いて次式のように記述することができる。
【0024】
【数2】
式中、p0は溶離開始時の圧力である。クロスフロー量は、メンブレンの前後の差圧ΔpM、ひいてはメンブレン2の透過係数Pを乗じたチャンネル内の実圧力に直接比例し、次式により求められる。
【0025】
【数3】
ここでAMは、台形形状であるチャンネル下面の合計面積である。したがって、メンブレン2を通過してチャンネル外に出るクロスフロー量は、次式のように、初期値である流入するキャリア液体流量(頭に・点付きのVc,0)から、チャンネル圧力と同じ形で低下せざるを得ないことが明らかである。
【数4】
【0026】
メンブレンに沿った圧力損失は、ストークス流れ条件に基づき、チャンネル内の支配的な圧力よりも数桁分小さくなっている。このためチャンネル1内のクロスフロー密度は、どの地点においてもほぼ定常であると看做すことができ、セルiのクロスフロー量は、この離散セグメントが占める面積AM,i/AMから、次式に基づき計算することができる。
【数5】
【0027】
一つのセグメントのメンブレン面積は、長方形の底面から次式
【数6】
により近似されるが、式中、分離チャンネル1の任意の地点xにおける幅b(x)は、台形形状であるために次式により与えられる。
【数7】
【0028】
チャンネルの内部で横方向に抜き取られることによって生じる、ちょうどメンブレン2のところにおけるキャリア液体のクロスフロー速度w0は、抜き取られる体積流量(頭に・点付きのVc)とこのメンブレン面積とを用いて計算することができる。この速度は、メンブレム2に向かう向きを持つために、ここで使用される座標系では負値をとる。従来のAF4セルでは、w0は定常量である。しかしここに提案されるアルゴリズムでは、いずれにせよ圧力低下のために、w0は時間に従属したパラメータとなっている。任意の時点tにおけるw0については、次式が成立する。
【数8】
【0029】
チャンネル高さhとの関係で生じるクロスフローのフロープロフィールは、非特許文献5から知られており、任意の地点zにおいて、次式により記述することができる。
【数9】
【0030】
セルの出口ポートに配置される検出器は、定常の体積流量を要求する。このため、クロスフロー量が減少するにもかかわらず定常の検出器流量が保証されるように、チャンネル1の入口ポートにおける体積流量についても適合化が不可欠となっている。このため、それぞれのセルiの管理体積の内部の流体流量(頭に・点付きのVf,i)は、位置だけではなく、時間の関数ともなっている。各要素の質量収支は、キャリア液体が非圧縮性であるために、次式にしたがって減少する。
【数10】
【0031】
これから、一つのセルの内部の定常であると仮定される平均軸方向速度(頭に−付きのui(t))は、流れが通過する断面積Ac,iを用いて、次式により求められる。
【数11】
【0032】
層流の速度特性については、チャンネル1内の任意の地点zにおける全高hがわかる場合は次式となる。
【数12】
【0033】
各要素内の液体の平均滞留時間ti0は、次式を用いて平均速度から計算することができる。
【数13】
【0034】
したがって、液体のこのセル内の合計滞留時間については、次式が成立する。
【数14】
【0035】
これらの収支方程式およびモデル方程式を使用して、チャンネル1内のキャリア流体の流れ挙動を、高い位置分解能と時間分解能で、十分に高精度で再現することができる。
試料 − AF4の実験は、三つの個別段階に区分することができる。先ずキャリア液体流が停止されて、いわゆる注入期の間に、明確に定義された体積の試料Vinjがチャンネル1の内部に装入される。引き続いてキャリア流体が、定められた体積流量比で、入口ポートおよび出口ポートを通り抜けるように、チャンネル1の内部に導入されるが、その際に液体はメンブレン2を通っても排出されるようになっている。このフォーカシング期の間に、試料はメンブレン2に向かって押しやられるが、このときには軸方向に移動されることはない。ほかにも試料は、注入地点の近傍に、一つの細長い筋として集束されるようになっている。若干の時間の経過後に、試料は、実質的にクロスフローの速度特性(数式9)により決まる、濃度プロフィールを有することになる。この濃度プロフィールは、次式のように、メンブレン表面で最大値c0に達し、チャンネルの天井に向かって指数関数的に減少するような横断分布を持つように見える(非特許文献10)。
【0036】
【数15】
式中、Iは試料ゾーンの重心からメンブレンまでの平均距離である。この距離は、拡散係数Dとメンブレンのところのクロスフロー速度w0とを用いて、次式により簡単に決定することができる。
【数16】
【0037】
試料が、長さxfocのゾーン内で濃縮状態となると仮定すると、メンブレンの表面における最大試料濃度を、次式のように物質収支を利用して決定することができる(非特許文献11)。
【数17】
【0038】
パラメータcinjは、注入された体積Vinj中の本来の試料の濃度を記述したものである。パラメータbfocは、フォーカシング地点におけるチャンネル幅を記述し、またV0はチャンネル1の合計体積である。
【0039】
第3段階においては、若干のフォーカシング時間の経過後に、チャンネルフローが、チャンネル1の入口ポートから出口ポートに向かって流れるチャンネルフローだけとなるが、その結果、試料が搬送されて、層状の速度特性に基づき最終的に分離されることになる。この溶離期の間に、試料は、メンブレン2の上方の非常に細長い壁面付近の層内だけに位置することになる。この層は、リテンションゾーンとも呼ばれる。このリテンションゾーンの厚みは、一般には平均ゾーン厚みlのチャンネル高さhに対する比を記述したλとして、次式により与ええられる。
【数18】
【0040】
装入された試料のリテンション状態については、一般にはリテンション比Rにより記述される(非特許文献9)が、これは圧力勾配のために、次式のようにリテンションタイムに従属した量としても看做す必要がある。
【数19】
【0041】
したがって、任意の時点およびチャンネル内の任意の地点における試料の実移動速度vs,i(t)は、次式のように記述することができ、
【数20】
最終的には試料の実位置も、これに付属する滞留時間と結合させることができる。その場合、任意のセルiにおける合計リテンションタイムは、t0を数式13で求められるそれぞれのセルの内部におけるキャリア流体の局所的な滞留時間とすると、次式となる。
【数21】
【0042】
バンド広がり − 縦方向の濃度分布は、チャンネル1のどの地点においても一種のガウス分布を呈しているが、そこでは母分散δ2が移動距離に伴い連続的に増大している。一般にクロマトグラフィープロセスにおけるバンド広がりは、分離段高さHにより表現される。非対称フィールドフローフラクショネーションの場合は、フィールドフローフラクショネーションから知られるこの分離段高さに関するモデルが有効となるのは、分離段高さHiだけと局所的に限られている。この高さは、それぞれのセルの管理体積中で、推力効果と縦拡散とによる影響を受ける(非特許文献7)ために、両成分を合計して求められる。
【数22】
【0043】
対称流であるフィールドフローフラクショネーションにおいてはバンド広がりにとり一般に重要な役割を果たす推力効果については、局所的に限定して次のように表現することができる(非特許文献3、非特許文献8)。
【0044】
【数23】
式中、χは次式で与えられるλの複素関数である(非特許文献4)。
【数24】
【0045】
したがって、出口ポートにおける分離段の高さについては、次式により求められるかもしれず(非特許文献6)、
【数25】
式中τは、リテンションタイムtrの経過後にチャンネル1外に出る物質の時間に関する標準偏差である。この標準偏差については、次式が成立する。
【数26】
【0046】
各要素内の縦拡散Hlong,jは、直方体のF3セルにおいては、次式により計算することができる(非特許文献7)。
【数27】
【0047】
拡散に起因して生じた分離段高さの成分は、出口ポートにおいては次のようになる。
【数28】
【0048】
フラクトグラム − ガウス分布の母分散δ2は、推力成分および拡散成分とならび、ほかにもさらにフォーカシングゾーンの幅χfocによっても影響される(非特許文献2)。
【数29】
【0049】
フォーカシング地点を中心とする6σの領域の内部に試料の約99.7%が位置すると仮定すると、注入の母分散は、次式のように記述することができる。
【数30】
【0050】
これに対し他の成分については、チャンネル1の終端部における局所的な分離段高さにより、次式にしたがって把握する必要がある(非特許文献7)。
【数31】
式中、uavは、L/t0で表わされるチャンネル1内の平均理論速度である。出口ポートにおける時間に関する標準偏差は、次式から局所的に計算することができる。
【数32】
【0051】
したがって、それぞれ一つの試料の完全なフラクトグラムを、次に説明するアルゴリズムを用いて計算することができる。
アルゴリズム − 分離の計算では、溶離期だけに配慮する。それに先行する上記で説明した二つの段階は、完結したものと看做される。プログラムは今ではステップバイステップ方式で、入力された材料およびプロセスパラメータに基づき、この要素内の滞留時間の間は状況が定常であるとの仮定の下で、全ての個別セル内の試料のリテンションタイムを計算する。少なくとも二種類の物質を、計算サイクルを個別に実行して求めたそれぞれの拡散係数を用いて表わすことができる。その際に物質が次のセルに入る際には、時間に従属した全ての量が新たに計算されて、この次のセル用の固定量として設定される。次のセルへのこの移行の時点には、チャンネル1の各地点における状況が更新される。試料中に含まれたそれぞれの物質がチャンネル1の出口ポートに到達すると、達成されたリテンションタイムが続いて記録されるようになっている。それと同時に、個々のセルの管理体積を通過する際には、観察される物質の分離段高さへの局所的な寄与分が計算されることによって、通過終了時には、観察されるそれぞれの物質に関して個別にフラクトグラムがリテンションタイムtrおよびτ2との関係で完成されて記録されることになる。
【0052】
その際にリテンションタイムについては、数式8、数式14、数式16および数式18〜数式21から、次式
【数33】
が成立し、また母分散については、数式8、数式14、数式16、数式18〜数式20および数式22〜数式28ならびに数式31および数式32から次式
【数34】
が成立するが、式中、HLは次式で記述される。
【数35】
【0053】
本発明のその他の細部および長所は、以下で図面に基づき説明する実施例から明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】台形形状に先細りする側壁を持つ分離チャンネルの概略的な上面図である。
【図2】図1に示される分離チャンネルの部分領域を、その下側でこれに連続するメンブレンとともに示す断面図である。
【図3a】本発明にしたがった方法を説明するための、測定され計算されたフラクトグラムを示す図である。
【図3b】本発明にしたがった方法を説明するための、測定され計算されたフラクトグラムを示す図である。
【図3c】本発明にしたがった方法を説明するための、測定され計算されたフラクトグラムを示す図である。
【図3d】本発明にしたがった方法を説明するための、測定され計算されたフラクトグラムを示す図である。
【図4】本発明にしたがった方法を実施するための、ディスプレイ画面を有するコンピュータのブロック図である。
【図5a】コンピュータのディスプレイ画面に表示可能な、フラクトグラムの計算に必要なパラメータを入力するための、データ入力フォームを示す図である。
【図5b】コンピュータのディスプレイ画面に表示可能な、フラクトグラムの計算に必要なパラメータを入力するための、データ入力フォームを示す図である。
【図5c】コンピュータのディスプレイ画面に表示可能な、フラクトグラムの計算に必要なパラメータを入力するための、データ入力フォームを示す図である。
【図5d】コンピュータのディスプレイ画面に表示可能な、フラクトグラムの計算に必要なパラメータを入力するための、データ入力フォームを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0055】
図3aには、それ自体としては知られている測定装置の分離チャンネル(図1)を用いて測定された、新しい試料系のフラクトグラム3(リテンションタイムの関数である濃度特性)が示されている。この試料系には、分析対象である、拡散係数が未知である(またそのためにストークス径も未知である)二種類の試料成分が含有される。
【0056】
そこではこの測定装置が、本発明にしたがった方法を実現するために利用される、本発明にしたがった装置の構成部品であるとよく、また本発明にしたがった方法においては、両方の試料成分をキャラクタライズするピーク4および5が、良好に分離された状態で描写されるようになっているが、そのために測定時間の実質的な延長がもたらされることはない。
【0057】
そのためには先ず、図3aに示されるフラクトグラムから、測定されたリテンションタイムtr1およびtr2が取り出されるようになっている。
続いて測定されたこれらのパラメータが、入力装置6(例えばキーボード)を利用して、本発明にしたがった装置のコンピュータ7に入力される(図4)。リテンションタイムのこれらの測定値tr1およびtr2ならびにこの測定の根拠となった幾何パラメータ、プロセスパラメータ、および試料特性などが入力されると、コンピュータ7は、上述のシミュレーションプログラムを使用して、両方の試料成分に帰属する拡散係数(二つの個別計算サイクルで反復して計算)ならびに母分散δ2を計算し、ディスプレイ画面8に両方の試料成分に関して作成された(計算による)フラクトグラムを表示する(図3b)。その際には表示される濃度分布が、送り込まれた試料量の濃度Cinjと、ガウス分布に基づく母分散の計算結果δ2とから計算されて、次の最大値により描写されるようになっている。
【数36】
【0058】
台形形状の分離チャンネル1のN個の等距離体積要素の個数については、計算のために、これらの体積要素の個数をそれ以上増やしても、パラメータの計算結果にもはや何の変化ももたらされないような値に選定される。実地においては、N≦100に選定されるとよいことが判明している。
【0059】
続いて最適化目標に顧慮して、関連するパラメータを変化させることによって、ディスプレイ画面8上に表示される両方の(計算後の)ピーク4’、5’の相応に分離した状態を得るように模索されるが、その際には例えばクロスフローの圧力特性の時間依存性および/または分離チャンネル1の高さhなどが変更されるようになっている。その際にはパラメータの変更が、キーボードからこれらのパラメータを手作業で入力することにより行われるようにするとよい。
【0060】
最適化目標が達成されると直ちに、そのときの両ピーク4”および5”(図3c)に当該するパラメータが、実際の測定のために、ないしは測定を実施するための新しい分離チャンネルなどを構成するために、使用されるようになっている。
【0061】
数多くの実験において判明しているように、本発明にしたがった方法を利用して算出されたパラメータの理論値は、その後の実際に実施されることになる測定にとり極めて良好に使用することができるために、それ以上のテスト実験による最適化を、通常は廃止できるようになる(ピーク4'''および5'''を有する測定されたフラクトグラムを示す図3dも参照のこと。この図においては、図3cを得るためにコンピュータに入力されたパラメータが使用される)。
【0062】
フラクトグラムを計算するためのパラメータの手作業による入力を可能な限り簡単に行えるようにするために、コンピュータのディスプレイ画面を援用して、例えばキーボードから入力された値とならび、そこから計算されるパラメータも表示されるようにすると有利であることが判明している。その場合は、当該パラメータを入力するために、様々なデータ入力フォームが使用されるようにするとよい。
【0063】
その一例として、図5aには、分離チャンネルの幾何パラメータの入力用のデータ入力フォームが示されているが、そこではディスプレイ画面8上に分離チャンネル自体も表示されるほかにも、当該入力パラメータおよびそこから計算されたパラメータが、この分離チャンネルの画像のところに直接表示されるようになっている。
【0064】
図5bには、プロセスパラメータの入力用のデータ入力フォームが示されるが、そこではディスプレイ画面上に分離チャンネル1の内部のクロスフロー量の経時特性が表示されている。
【0065】
図5cおよび5dには、試料特性および補足材料特性に関するパラメータがディスプレイ画面上にリストのように配置されている、データ入力フォームが示されている。
当然ながら本発明は上記で説明した実施例に限定されるものではない。例えば分離チャンネル1の側壁は、最適化目標によっては、台形以外の輪郭形状を有していてもかまわない。ほかにも本発明にしたがった方法により、分析対象である試料が三種類以上ある試料系についても分析が可能となるが、その場合はそれぞれの試料成分について、計算サイクルが個別に実行されることになる。
【符号の説明】
【0066】
1 チャンネル、分離チャンネル
2 メンブレン
3 フラクトグラム
4〜4''' ピーク
5〜5''' ピーク
6 入力装置
7 コンピュータ
8 ディスプレイ画面
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非対称フィールドフローフラクショネーション(AF4)を利用した、分析対象である少なくとも一つの試料成分を含有した所与の試料系のための分離手法を最適化するための方法であって、流出ポートに向かって先細りしながらチャンネルの縦軸の向きに沿って延びる輪郭形状を有するとともに、チャンネルの下側に横力を発生するための、キャリア流に対して垂直なクロスフローが通過するようになっているメンブレン(2)を有している分離チャンネル(1)を利用して、前記試料系の分離が行われるようになっており、またその際に前記メンブレン(2)がチャンネル形状に依存したメンブレン面積を有している、前記最適化方法において、
a)分離チャンネル(1)を使用して、それ自体公知の方法にて、前記試料系のフラクトグラムを測定し、そこから分析対象である試料成分をキャラクタライズする濃度ピークについて、リテンションタイムtrを確認する工程、
b)実験により確認された前記リテンションタイムtrおよびその測定のために使用された前記分離チャンネル(1)の幾何パラメータ、ならびに前記測定のために選定されたプロセスパラメータから、コンピュータ(7)を利用して、次式から、反復法により拡散係数Dを決定する工程、
【数37】
またその際、そのために前記先細りする分離チャンネル(1)を、前記分離チャンネルの先細り状態に対応した幅bi(i=1〜N)を持つN個の等距離直方体体積要素により近似する、なお、前記式中、
hは、分離チャンネル高さ、
AMは、チャンネル形状に依存したチャンネル面積、
頭に・点付きのVc(ti)は、前記分離チャンネルのi個目の体積要素内の体積流量、
Riは、前記i個目の体積要素内のリテンション比、
ti0は、前記分離チャンネルの前記i個目の体積要素内の液体の平均滞留時間であり、その際にti0については次の関係式を使用して決定されること、
【数38】
(式中、Δxは、分離チャンネルのそれぞれの要素の長さであり、頭に・点付きのVf,0(ti)は、分離チャンネルの入口ポートのところのクロスフロー量である)、
c)続いて、前記コンピュータ(7)に接続されたディスプレイ画面(8)上に、前記測定されたフラクトグラム(3)に対応したフラクトグラムを表示する工程、その際に、前記試料成分をキャラクタライズする濃度ピークが、先に測定されたリテンションタイムtrのときに最大値をとるガウス分布を有すること、またその際に前記ガウス分布の母分散τ2を、前記コンピュータ(7)を用いて、次の関係式から計算する工程、
【数39】
式中、HLは、分離段高さであって、次の関係式から算出されること
【数40】
(式中、Lは分離チャンネルの長さであり、またxi(λi)は、λiを前記分離チャンネルの前記i個目の体積要素内のリテンションゾーンの厚みとすると、次式で与えられること)、
【数41】
d)設定された最適化目標に顧慮して、前記コンピュータ(7)の前記ディスプレイ画面(8)上に最適分離結果が表示されるまで、前記数式37および数式39に代入される前記分離チャンネルの幾何パラメータおよび/または前記測定を実施するために必要であったプロセスパラメータを変化させる工程、
e)引き続いて、コンピュータシミュレーションにより前記最適化目標が達成されたときに得られた幾何パラメータおよび/またはプロセスパラメータを、対応する試料の実際に実施されることになる分析測定のために受け継ぐ工程、
から成ることを特徴とする、最適化方法。
【請求項2】
請求項1に記載の最適化方法において、
前記試料系が、拡散係数が異なる少なくとも二種類の分析対象である試料成分から成る混合物を含有すること、および、
それぞれの試料成分について、同じ幾何パラメータとプロセスパラメータで、計算を行い、リテンションタイムと母分散を表示することを特徴とする、最適化方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の最適化方法において、
分離チャンネル(1)として、台形形状に先細りするチャンネルが使用されることを特徴とする、最適化方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の最適化方法において、
予め設定可能な或る一定のタイムスロット内に線形に減少するように、クロスフロー量である前記頭に・点付きのVc(t)を選定することを特徴とする、最適化方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の最適化方法において、
前記最適化目標が、前記分離チャンネルの幾何寸法の最適化にあることを特徴とする、最適化方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の最適化方法において、
前記最適化目標が、試料系の注入時間、フォーカシング時間などのプロセスパラメータ、ならびに前記分離チャンネルの内部の前記横力を決定する前記クロスフローの最適化にあることを特徴とする、最適化方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の最適化方法において、
前記幾何パラメータおよび/またはプロセスパラメータの入力および/または表示のために、前記ディスプレイ画面を使用することを特徴とする、最適化方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の最適化方法を実施するための装置であって、
a)前記装置に、入力装置(6)とディスプレイ画面(8)を有するコンピュータ(7)が含まれること、
b)実験により求められたリテンションタイムtr、前記リテンションタイムtrの測定のために使用した分離チャンネル(1)の幾何パラメータ、ならびに、前記測定のために選定されたプロセスパラメータが入力されると、前記数式37から拡散係数Dを決定するように、前記コンピュータ(7)が構成されること、および、
c)続いて前記コンピュータ(7)に接続された前記ディスプレイ画面(8)上に、前記測定されたフラクトグラム(3)に対応したフラクトグラムが表示されること、その際に、前記試料成分をキャラクタライズする濃度ピークが、先に測定されたリテンションタイムtrのときに最大値をとるガウス分布を有すること、またその際に前記コンピュータ(7)が前記数式39から前記ガウス分布の母分散τ2を計算すること、
を特徴とする、最適化方法実施装置。
【請求項9】
請求項8に記載の最適化方法実施装置において、
分析対象である試料成分のリテンションタイムを決定するための、分離チャンネルを有する測定装置が含まれることを特徴とする、最適化方法実施装置。
【請求項10】
請求項8または9に記載の最適化方法実施装置において、
前記コンピュータ(7)と前記コンピュータ(7)の前記ディスプレイ画面(8)が互いに協働するように接続されることによって、前記ディスプレイ画面(8)が、前記フラクトグラムの表示以外にも、前記入力装置(6)から前記コンピュータ(7)に入力された(幾何パラメータやプロセスパラメータのような)値、ならびにそこから計算されたパラメータを表示するためにも利用されることを特徴とする、最適化方法実施装置。
【請求項1】
非対称フィールドフローフラクショネーション(AF4)を利用した、分析対象である少なくとも一つの試料成分を含有した所与の試料系のための分離手法を最適化するための方法であって、流出ポートに向かって先細りしながらチャンネルの縦軸の向きに沿って延びる輪郭形状を有するとともに、チャンネルの下側に横力を発生するための、キャリア流に対して垂直なクロスフローが通過するようになっているメンブレン(2)を有している分離チャンネル(1)を利用して、前記試料系の分離が行われるようになっており、またその際に前記メンブレン(2)がチャンネル形状に依存したメンブレン面積を有している、前記最適化方法において、
a)分離チャンネル(1)を使用して、それ自体公知の方法にて、前記試料系のフラクトグラムを測定し、そこから分析対象である試料成分をキャラクタライズする濃度ピークについて、リテンションタイムtrを確認する工程、
b)実験により確認された前記リテンションタイムtrおよびその測定のために使用された前記分離チャンネル(1)の幾何パラメータ、ならびに前記測定のために選定されたプロセスパラメータから、コンピュータ(7)を利用して、次式から、反復法により拡散係数Dを決定する工程、
【数37】
またその際、そのために前記先細りする分離チャンネル(1)を、前記分離チャンネルの先細り状態に対応した幅bi(i=1〜N)を持つN個の等距離直方体体積要素により近似する、なお、前記式中、
hは、分離チャンネル高さ、
AMは、チャンネル形状に依存したチャンネル面積、
頭に・点付きのVc(ti)は、前記分離チャンネルのi個目の体積要素内の体積流量、
Riは、前記i個目の体積要素内のリテンション比、
ti0は、前記分離チャンネルの前記i個目の体積要素内の液体の平均滞留時間であり、その際にti0については次の関係式を使用して決定されること、
【数38】
(式中、Δxは、分離チャンネルのそれぞれの要素の長さであり、頭に・点付きのVf,0(ti)は、分離チャンネルの入口ポートのところのクロスフロー量である)、
c)続いて、前記コンピュータ(7)に接続されたディスプレイ画面(8)上に、前記測定されたフラクトグラム(3)に対応したフラクトグラムを表示する工程、その際に、前記試料成分をキャラクタライズする濃度ピークが、先に測定されたリテンションタイムtrのときに最大値をとるガウス分布を有すること、またその際に前記ガウス分布の母分散τ2を、前記コンピュータ(7)を用いて、次の関係式から計算する工程、
【数39】
式中、HLは、分離段高さであって、次の関係式から算出されること
【数40】
(式中、Lは分離チャンネルの長さであり、またxi(λi)は、λiを前記分離チャンネルの前記i個目の体積要素内のリテンションゾーンの厚みとすると、次式で与えられること)、
【数41】
d)設定された最適化目標に顧慮して、前記コンピュータ(7)の前記ディスプレイ画面(8)上に最適分離結果が表示されるまで、前記数式37および数式39に代入される前記分離チャンネルの幾何パラメータおよび/または前記測定を実施するために必要であったプロセスパラメータを変化させる工程、
e)引き続いて、コンピュータシミュレーションにより前記最適化目標が達成されたときに得られた幾何パラメータおよび/またはプロセスパラメータを、対応する試料の実際に実施されることになる分析測定のために受け継ぐ工程、
から成ることを特徴とする、最適化方法。
【請求項2】
請求項1に記載の最適化方法において、
前記試料系が、拡散係数が異なる少なくとも二種類の分析対象である試料成分から成る混合物を含有すること、および、
それぞれの試料成分について、同じ幾何パラメータとプロセスパラメータで、計算を行い、リテンションタイムと母分散を表示することを特徴とする、最適化方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の最適化方法において、
分離チャンネル(1)として、台形形状に先細りするチャンネルが使用されることを特徴とする、最適化方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の最適化方法において、
予め設定可能な或る一定のタイムスロット内に線形に減少するように、クロスフロー量である前記頭に・点付きのVc(t)を選定することを特徴とする、最適化方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の最適化方法において、
前記最適化目標が、前記分離チャンネルの幾何寸法の最適化にあることを特徴とする、最適化方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の最適化方法において、
前記最適化目標が、試料系の注入時間、フォーカシング時間などのプロセスパラメータ、ならびに前記分離チャンネルの内部の前記横力を決定する前記クロスフローの最適化にあることを特徴とする、最適化方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の最適化方法において、
前記幾何パラメータおよび/またはプロセスパラメータの入力および/または表示のために、前記ディスプレイ画面を使用することを特徴とする、最適化方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の最適化方法を実施するための装置であって、
a)前記装置に、入力装置(6)とディスプレイ画面(8)を有するコンピュータ(7)が含まれること、
b)実験により求められたリテンションタイムtr、前記リテンションタイムtrの測定のために使用した分離チャンネル(1)の幾何パラメータ、ならびに、前記測定のために選定されたプロセスパラメータが入力されると、前記数式37から拡散係数Dを決定するように、前記コンピュータ(7)が構成されること、および、
c)続いて前記コンピュータ(7)に接続された前記ディスプレイ画面(8)上に、前記測定されたフラクトグラム(3)に対応したフラクトグラムが表示されること、その際に、前記試料成分をキャラクタライズする濃度ピークが、先に測定されたリテンションタイムtrのときに最大値をとるガウス分布を有すること、またその際に前記コンピュータ(7)が前記数式39から前記ガウス分布の母分散τ2を計算すること、
を特徴とする、最適化方法実施装置。
【請求項9】
請求項8に記載の最適化方法実施装置において、
分析対象である試料成分のリテンションタイムを決定するための、分離チャンネルを有する測定装置が含まれることを特徴とする、最適化方法実施装置。
【請求項10】
請求項8または9に記載の最適化方法実施装置において、
前記コンピュータ(7)と前記コンピュータ(7)の前記ディスプレイ画面(8)が互いに協働するように接続されることによって、前記ディスプレイ画面(8)が、前記フラクトグラムの表示以外にも、前記入力装置(6)から前記コンピュータ(7)に入力された(幾何パラメータやプロセスパラメータのような)値、ならびにそこから計算されたパラメータを表示するためにも利用されることを特徴とする、最適化方法実施装置。
【図1】
【図2】
【図3a】
【図3b】
【図3c】
【図3d】
【図4】
【図5a】
【図5b】
【図5c】
【図5d】
【図2】
【図3a】
【図3b】
【図3c】
【図3d】
【図4】
【図5a】
【図5b】
【図5c】
【図5d】
【公表番号】特表2011−501690(P2011−501690A)
【公表日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−527357(P2010−527357)
【出願日】平成20年9月26日(2008.9.26)
【国際出願番号】PCT/EP2008/008184
【国際公開番号】WO2009/046887
【国際公開日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【出願人】(510003287)ワイアット テクノロジー ヨーロッパ ゲーエムベーハー (5)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年9月26日(2008.9.26)
【国際出願番号】PCT/EP2008/008184
【国際公開番号】WO2009/046887
【国際公開日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【出願人】(510003287)ワイアット テクノロジー ヨーロッパ ゲーエムベーハー (5)
【Fターム(参考)】
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