説明

非接触式情報通信システム

【課題】
コストを低廉に抑えつつも、通信距離を大幅に長くすることができる非接触式情報通信システムを提供する。
【解決手段】
ICタグ20に対して情報を読み書きする非接触式情報通信システムについて、送電アンテナ3を有するLC回路2と、送電アンテナ3の共鳴周波数に応じた信号を前記LC回路に入力する変調器5とを具備する送電装置1と、受電アンテナ13を有するLC回路12を具備する受電装置11とを備え、送電アンテナ3及び受電アンテナ13は平坦なループアンテナとして、送電アンテナ3と受電アンテナ13との間で電磁共鳴を生じさせる。そして、送電装置1は、電磁共鳴された磁界内に位置するICタグに対し、発生された電磁共鳴によって電力を供給し、送電アンテナがICタグからの返信波を受信する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁共鳴現象を利用してICタグに対して情報を読み書きする非接触式情報通信システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から非接触式情報通信システムによって、ICタグに対して情報の読み書きを行う技術が知られている。そのなかでも、ICタグのコイルとリーダ・ライタのアンテナコイルを磁束結合させて、エネルギー・信号を伝達する電磁誘導方式による情報通信システムが一般に知られている。
【0003】
例えば、パッシブタグでは、リーダ・ライタからの電波をエネルギー源として動作するRFタグで、電池を内蔵する必要がない。タグのアンテナはリーダ・ライタからの電波の一部を反射し、ID情報はこの反射波に乗せて返される。
【0004】
一方、アクティブタグは、電池を内蔵したICタグである。このアクティブタグは、通信時に自らの電力で電波を発するものである。
【0005】
このようなICタグを利用した情報通信システムについては、例えば、鉄道の料金管理システムに代表されるように、種々の技術が実用化されている。また、そのほかにも、以下のように種々の技術が提案されている。
【0006】
例えば、特許文献1には、内部に収容され、RFIDタグが取り付けられている物品の情報にアクセス可能な運搬用物品収容ケースに関する技術が提案されている。この運搬用物品収容ケースは、RFIDタグと通信する内蔵アンテナは少なくとも1つのパッチアンテナを含み、内蔵アンテナのアンテナ面がRFIDタグのアンテナと対向する位置に設けられる。そして、内蔵アンテナに接続されたケースの外表面に設けられ、RFIDリーダ・ライタと通信するための通信用構造体を備え、RFIDリーダ・ライタはケースを開けずに内部の物品の情報にアクセスすることができるようにしたものである。
【0007】
他にも、特許文献2には、管理情報を読取可能に記憶したコイルオンチップが装着された記憶媒体を収納する収納ケースに関する技術が提案されている。この収納ケースは、コイルオンチップが通信可能な範囲に設けられ、コイルオンチップが行う非接触通信を中継するブースターを備えたものである。そして、リーダ・ライタ装置は、このブースターを介して、コイルオンチップとの間で非接触通信を行って、管理情報を読み取っている。
【0008】
また、非接触で情報通信を行うに際し、電磁誘導を行うためのアンテナの形体についても種々の技術が提案されている。
【0009】
例えば、特許文献3には、誘電体基板の両端部に形成された一対の主アンテナ素子と、この一対の主アンテナ素子の間に形成された補助アンテナ素子と、一対の主アンテナ素子の間に接続された整合部とを備えたアンテナに関する技術が提案されている。このアンテナは、一対の主アンテナ素子、補助アンテナ素子及び整合部が、誘電体基板の片面に形成され、補助アンテナ素子は、両端部が一対の主アンテナ素子の整合部が接続されている側の近傍に設けられており、補助アンテナ素子の両端部の形状が、一対の主アンテナ素子の前記整合部が接続されている側の形状に沿った形状とされている。
【0010】
また、特許文献4には、非接触型のICカードに対してデータの書き込み及び読み出しを行うためのリーダ・ライタ用のアンテナ装置に関する技術が提案されている。このアンテナ装置は、電磁界を放射しICカード側のループコイルと磁気結合してデータの送受信を行うループコイルを有し、ループコイルは、その中心部を挟んで相対向する各巻線間の間隔を異ならせた非対称形状とされている。
【0011】
他方、非接触式情報通信システムでは、電磁誘導方式とは異なり、電波方式で通信を行う技術もある。この電波方式では、タグ内部に整流回路が内蔵されており、リーダ・ライタからの電波を整流して直流に直し、それを電源として、ICタグ内のICが動作する。通常、リーダ・ライタからの電波は、プリアンブルに続きコマンドbit列で変調されたものであり、その後に無変調のキャリアが続く。プリアンブルの部分で、ICの初期動作に必要なだけのエネルギーが蓄えられ、コマンドbit列を復調して解釈し、無変調キャリアの部分で反射波に返答を乗せて情報を返すというものである。
【0012】
例えば、特許文献5には、RFIDタグと通信を行う読書き機と別体の電波発信手段を使用し、該電波発信手段から発信される電力生成用電波をRFIDタグの電力供給に用いた非接触式情報通信システムに関する技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2008−107888公報
【0014】
【特許文献2】特開2005−339663公報
【0015】
【特許文献3】特開2005−244778公報
【0016】
【特許文献4】特開2004−118440公報
【0017】
【特許文献5】特開2006−217393公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
上述の特許文献1〜4に記載された技術は、パッシブタグを利用したものであり、係るパッシブタグはICタグに電源を設けていないため、システムを安価にすることができる反面、通信距離が短く、最大でも約1m程度しかないという不都合な点がある。
【0019】
一方、アクティブタグは、電池を内蔵したICタグである。このアクティブタグは、通信時に自らの電力で電波を発するため、通信距離がパッシブタグに比べ長く取れる。その反面、電池をICタグに設けなければならないため、高価となってしまう。また、特許文献5に記載された技術では、電波を発信させる必要が生じる。
【0020】
本発明者は、こうした問題点を解決するために研究を進めてきた。本発明者は、この研究の過程で、非接触式情報通信システムにおいて、ICタグの情報を読み込むための限界を向上させることについても取り組んできた。こうした研究の結果、本発明者は、リーダ・ライタが、ICタグから返信された負荷変調による信号を確実に受信することが限界を向上させるために最も重要な条件であることを解明した。
【0021】
本発明はこのような課題を解決するためになされたものであり、その目的は、第1に、コストを低廉に抑えつつも、通信距離を大幅に長くすることができる非接触式情報通信システムを提供することであり、第2に、ICタグの情報を読み込むための限界を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0022】
上記課題を解決するために本発明では、ICタグに対して情報を読み書きする非接触式情報通信システムであって、送電アンテナを有するLC回路と、前記送電アンテナの共鳴周波数に応じた信号を前記LC回路に入力する変調器とを具備する送電装置と、受電アンテナを有するLC回路を具備する受電装置と、を備え、前記送電アンテナ及び前記受電アンテナは平坦なループアンテナであり、前記送電アンテナと前記受電アンテナとの間で電磁共鳴を生じさせ、前記送電装置は、電磁共鳴された磁界内に位置するICタグに対し、発生された電磁共鳴によって電力を供給し、前記送電アンテナが前記ICタグからの返信波を受信することを特徴とする。
【0023】
この発明によれば、電磁共鳴現象を利用するので、従来の電磁誘導方式の通信とは異なり、通信距離を大幅に長くすることができる。
【0024】
本発明に係る非接触式情報通信システムにおいて、前記送電アンテナは、前記ICタグからの返信波を転送する転送用アンテナと、この転送用アンテナから転送された前記ICタグからの返信波を受信可能な受信用アンテナとから構成され、前記送電装置は、前記転送用アンテナに接続された無変調送信部をさらに備え、前記受信用アンテナは、直列に接続された複数のアンテナから構成され、前記転送用アンテナは、前記受信用電アンテナの間に配置され、前記転送用アンテナと前記受信用アンテナとの間で電磁共鳴を発生させていることを特徴とする。
【0025】
この発明によれば、ICタグからの返信波が受信用アンテナの出力波によって妨げられることがなくなり、受信用アンテナが確実にICタグからの返信波を受信する。そのため、ICタグの情報を読み込むための限界を向上させることができる。
【0026】
本発明に係る非接触式情報通信システムにおいて、前記転送用アンテナと前記受信用アンテナとは、前記ICタグからの返信波を前記送電アンテナと前記送電専用アンテナとの間で電磁共鳴させる範囲内に配置させていることを特徴とする。
【0027】
この発明によれば、転送用アンテナと受信用アンテナとの間でICタグからの返信波を電磁共鳴させるので、受信用アンテナが確実にICタグからの返信波を受信する。
【0028】
本発明に係る非接触式情報通信システムにおいて、前記送電アンテナ及び前記受電アンテナが、基板と、該基板に導電性材料を略渦巻状に積層した導電性材料層とから構成されたことを特徴とする。
【0029】
この発明によれば、送電アンテナ及び受電アンテナを所望の形態に容易に形成することができる。このため、電磁共鳴現象を発生させやすい形態のループアンテナを容易に形成できると共に、同アンテナをICタグからの反射波を受信するために好適な形態のアンテナとすることが容易に可能となる。
【0030】
本発明に係る非接触式情報通信システムにおいて、非接触式情報通信システムは、前記送電アンテナと前記受電アンテナとが、前記導電性材料層を有する面を相互に対向して配置されていることを特徴とする。
【0031】
この発明によれば、送電を極めて遠距離で行うことができる。
【0032】
本発明に係る非接触式情報通信システムにおいて、非接触式情報通信システムは、前記送電アンテナと前記受電アンテナとは前記導電性材料層を有する面を同一方向に向けて配置されていることを特徴とする。
【0033】
この発明では、同一平面上に送電アンテナと受電アンテナを配置してシステムを構成することができる。このため、床面や机に送電アンテナ及び受電アンテナを配置してシステムを構築することができる。
【0034】
本発明に係る非接触式情報通信システムにおいて、前記送電アンテナ及び前記受電アンテナの誘電性材料層は、前記送電アンテナ及び前記受電アンテナによって形成される磁界を相互に相手方に向けて偏向させるように、偏心して前記基板に積層されていることを特徴とする。
【0035】
この発明によれば、同一平面上に送電アンテナと受電アンテナを配置してシステムを構成した場合においても、電磁共鳴現象を発生させやすくする。
【0036】
本発明に係る非接触式情報通信システムにおいて、前記受電装置は、前記受電アンテナの共鳴周波数に応じた信号を前記受電装置のCL回路に入力させる変調器を備え、前記受電アンテナと前記送電アンテナとの間で電磁共鳴を生じさせ、前記受電装置は、電磁共鳴された磁界内に位置するICタグに対し、発生された電磁共鳴によって電力を供給し、前記受電アンテナが前記ICタグからの返信波を受信することを特徴とする。
【0037】
この発明によれば、受電装置をレピータ装置として機能させるだけにとどまらず、受電装置をリーダ・ライタ装置として機能させることができる。
【0038】
本発明に係る非接触式情報通信システムにおいて、前記受電アンテナが受信する受信波と前記送電アンテナが受信する受信波とを同期させる同期手段を備えたことを特徴とする。
【0039】
この発明によれば、送電アンテナがICタグからの反射波を受信する際に受電アンテナからの送電アンテナに対する送電によりICタグからの反射波がマスキングされてしまうことを防止でき、送電アンテナが受信したICタグからの反射波を適切に変調・復調できる。同様に、受電アンテナが受信したICタグからの反射波を適切に変調・復調できる。
【発明の効果】
【0040】
本発明によれば、伝送方式として電磁共鳴現象を利用するので、従来の電磁誘導方式の通信とは異なり、通信距離を大幅に長くすることができる。そのため、従来ではICタグが伝送装置の1m程度の範囲に存在しなければICタグに対して情報の読み書きを行えなかったものを数十m〜百数十m離れた位置からでもICタグに対して情報の読み書きを行うことができるようになる。
【0041】
また、システムをLC回路と変調器とで構成することができるので低廉なコストでシステムを構築することができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の一実施形態に係る非接触式情報通信システムの基本構成を示すブロック図である。
【図2】図1に示す非接触式情報通信システムに使用される送電アンテナ及び受電アンテナの一例を示すループアンテナの平面図である。
【図3】図1に示す非接触式情報通信システムに使用される送電アンテナ及び受電アンテナの別の一例を示すループアンテナの平面図である。
【図4】図1に示す非接触式情報通信システムに使用される送電アンテナ及び受電アンテナの別の一例を示すループアンテナの平面図である。
【図5】図1に示す非接触式情報通信システムに使用される送電アンテナ及び受電アンテナの別の一例を示すループアンテナの平面図である。
【図6】送電アンテナ及び受電アンテナの導電性材料層を有する面を相互に対向して配置して構成した非接触式情報通信システムの説明図である。
【図7】送電アンテナ及び受電アンテナの導電性材料層を有する面を同方向に向けて配置して構成した非接触式情報通信システムの説明図である。
【図8】送電アンテナと受電アンテナとの間の結合係数を変化させた際の電磁共鳴現象の発生状態を表すグラフである。
【図9】受電装置からも送電を行った非接触式情報通信システムの基本構成を示すブロック図である。
【図10】ICタグからの返信波を受信するために必要な条件を検討するために用いた実験装置を構成する送電装置の概要を示すブロック図である。
【図11】図1とは別形態に係る本発明の非接触式情報通信システムを構成する送電装置の基本構成を示すブロック図である。
【図12】図10に示す送電装置に用いられている転送用アンテナ及び無変調送信部のブロック図である。
【図13】図11とは別形態に係る本発明の非接触式情報通信システムを構成する送電装置の基本構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0043】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
【0044】
図1は、本発明の非接触式通信システムの一実施形態の基本構成に関するブロック図を示している。
【0045】
本発明に係る非接触式通信システムは、所定の電磁共鳴周波数で電磁共鳴現象を発生させ、発生された電磁共鳴現象を利用して通信を行うシステムである。この非接触式通信システムは、電磁共鳴現象を発生させて電力を送信する送電装置1と、発生された電磁共鳴現象によって電力を受信する受電装置11とを備えている。
【0046】
送電装置1は、信号発信部6と、LC回路2と、信号発信部6からの信号を受けてLC回路2に対し所定の電磁共鳴周波数の信号を印加する変調・復調器5とを備えている。LC回路2はコンデンサ4とコイルとから構成された共振回路である。このLC回路2を構成しているコイルが電力を送信するための送電アンテナ3である。そして、送電アンテナ3は、平坦なループアンテナとして構成されている。一方、受電装置11は、信号発信部16と、LC回路12と、信号発生器16からの信号を受けてLC回路12に対して所定の電磁共鳴周波数の信号を印加する変調・復調器15とを備えている。LC回路12はコンデンサ14とコイルとからなる共振回路であり、コイルが送電された電力を受信する受電アンテナ13として構成されている。そして、受電アンテナ13も、平坦なループアンテナとして構成されている。
【0047】
送電装置1の信号発信部6は、ある周波数の信号を変調・復調器5に出力する。信号が入力された変調・復調器5は、信号を所定の電磁共鳴周波数の信号に変調してLC回路2に出力する。さらに、信号発信部6は、所定のデータ信号を変調・復調器5に出力する。この信号が入力された変調・復調器5は、データ信号を所定の電磁共鳴周波数の信号に変調してLC回路2に出力する。
【0048】
これらの信号を受けたLC回路2は共振現象が生じる。そして、LC回路2のコイルを構成する送電アンテナ3は、電磁共鳴現象を生じさせ、この電磁共鳴現象を利用して伝送電力を受電装置11の受電アンテナ13に対して送電する。
【0049】
受電アンテナ13は、送電装置1の送電アンテナ3から電磁磁気共鳴現象によって伝送されてきた伝送電力を受信する。受信された電力はLC回路12を介して図示しない負荷部等へ出力され、この負荷部等で消費される。なお、受電アンテナ13が受信したデータ信号は、変調・復調器16へ入力され、データ信号の復元が可能となっている。
【0050】
このような非接触式通信システムを利用して、送電装置1をリーダ・ライタ装置として機能させてICタグ20との間で情報通信が次のようにして行われる。
【0051】
一般に、ICタグ20には、起電力を発生させるアンテナコイルと、このアンテナコイルに接続されたICチップが設けられている。このようなICタグ20を、送電装置1と受電装置11との間で電磁共鳴現象が生じている空間内に位置させると、ICタグ20は、送電装置1からの送電を内部に設けられたコイルが受電する。ICタグ20のアンテナコイルは送電装置1からの送電を受けて起電力を生じさせる。そして、送電装置1からの送電波の一部を反射し、ICタグ20に記録された情報はこの反射波に乗せて返される。これにより、ICタグ20に記録された情報を読み込む。また、送電装置1から送られるデータ信号に基づいてICタグ20への情報の書き込みが行われる。
【0052】
また、上述したように、受電装置11は受信した信号を復元可能に構成されており、レピータ装置として機能する。すなわち、送電装置1が読み込んだICタグ20の情報等のデータ信号は、送電装置1から受電装置11に対しても送信される。受電装置11は受信したデータ信号を変調・復調器15へ入力させ、この変調・復調器15で復元する。
【0053】
なお、本発明の非接触式通信システムで読み書きされるICタグ20は、シールラベル、コイン、キー、カプセル、カードなど様々な形状のものを対象としている。また、携帯電話などの携帯端末も情報を読み書きする対象に含めることができる。
【0054】
次に、この非接触式通信システムの送電アンテナ3及び受電アンテナ13を構成するループアンテナの種々の形態について説明する。
【0055】
図2は、形成される磁界を偏向させないループアンテナ30の一例を示している。
【0056】
このループアンテナ30は、板状の基板31と、基板31の表面に積層された導電性材料層32とから構成されている。導電性材料層32は、導電性材料が基板31の表面に、基板31の外形である四角形を外から内へ順次小さくして略渦巻状に積層して形成されている。この図2に示したループアンテナ30は、導電性材料層32を外から内へ4重にループさせてコイルを形成させている。そして、基板31の中央部33にはコイルを構成する導電性材料層32が存在しない部位が設けられている。なお、ループの数は、必要に応じ、2重、3重、又は5重以上に形成してもよい。
【0057】
図3は、別の形態のループアンテナ40を示している。
【0058】
この図3に示すループアンテナ40は、2重ループとなるように導電性材料層42が基板41に積層されたものである。外側の第1ループ43は、基板41の外縁のやや内側を基板の外縁に沿って略四角形に形成されている。一方、内側の第2ループ44は、その外形が略十字となるように形成されている。すなわち、第2ループ44は四角形の4角の部位を内側に折り込ませ、太字の十字の外縁を沿うような形状をなしている。そして、基板41の中央部45にはコイルを構成する導電性材料層42が存在しない部位が設けられている。なお、このループアンテナ40についても、必要に応じ、3重以上のループを形成させてもよい。
【0059】
図4は、さらに別の形態のループアンテナ50を示している。
【0060】
図4に示したループアンテナ50は、4重ループとなるように導電性材料層52が基板51に積層されたものである。このループアンテナ50の各ループ53,54,55,56は、内外の方向に対して凹凸する部位がループの延びる周方向に連なるように導電性材料層52が基板51の表面に積層されている。このため、外側のループと内側のループとの間に形成される隙間部分は矩形波のように形成されている。
【0061】
なお、中央部57にはループアンテナ50の長手方向に複数の導電性材料帯58が延びるように設けられている。この導電性材料帯58自体はアンテナのコイルそれ自体を構成するものではなく、形成する磁界を適宜制御するためのものである。
【0062】
このループアンテナ50についても、必要に応じ、2重、3重、又は5重以上にループを形成してもよい。
【0063】
図5は、さらに別の形態に係るループアンテナ60を示している。
【0064】
このループアンテナ60は2重ループのアンテナである。基板61の中央部65にはアンテナのコイルである導電性材料層62の存在しない略十字に形成された部位が存在する。コイルを構成する導電性材料層62はその周囲に配される。なお、説明容易のため、図5の左端に示すように、図5の横方向をX方向、縦方向をY方向として説明する。
【0065】
このループアンテナ60は、Y方向において、中心線CLより上側に磁界が偏向して形成されるように偏心させてループが形成されている。外側の第1ループ63は、中心線CLの下側では、Y方向について狭く形成された部位63bを間に挟んで広く形成された部位63aがX方向に並ぶようにして形成されている。Y方向に広く形成された部位63aは、その内縁端が中心線CLより上側に位置するように形成されている。一方、中心線の上側でも、Y方向について狭く形成された部位63dを間に挟んで広く形成された部位63cがX方向に並ぶようにして形成されている。そして、Y方向に広く形成された部位63cは、その内縁端が中心線CLより上側に位置するように形成されている。中心線CLの下側の部位と上側の部位とは、図5に示された状態で、基板61の右縁部で一定の幅に形成された部位63eで相互に連絡されている。
【0066】
内側に位置する第2ループ64は、その外縁が第1ループの凹凸に沿って形成されている。一方、第2ループ64の内縁は、上述の導電性材料層の存在しない略十字に形成された中央部65に沿って形成されている。そのため、X方向の両端には、Y方向に張り出す部位64aが形成されている一方で、中央の部位は矩形波のように形成されている。
【0067】
そして、ループアンテナ60の中央に設けられた導電性材料層の存在しない略十字に形成された中央部65には、複数の導電性材料帯66が配列されている。この導電性材料帯66自体も、アンテナのコイルを構成しないものである。
【0068】
以上に説明した図2〜図5に示したループアンテナ30,40,50,60を使用する場合、電磁共鳴を効果的に発生させるためには、LC回路2に13MHz〜14MHzの周波数の信号を入力するとよい。この場合、送電アンテナ3と受電アンテナ13とが数m〜百数十mの間隔で配置されていても、送電アンテナ3から受電アンテナ13に送電させることができる。このため、ICタグ20が電磁共鳴現象の生じている空間内にさえ存在すれば、リーダ・ライタ装置として機能する送電装置1から数m〜百数十m離れていたとしても、確実にICタグ20に対して情報を読み書きさせることができる。
【0069】
なお、本発明に係る非接触式情報通信システムは、送電アンテナ3と受電アンテナ13とを相互に対向させて配置する場合、送電アンテナ3及び受電アンテナ13の導電性材料層が設けられた面を双方共に同一の向きに向けて配置する場合のいずれについても適用することができる。
【0070】
図6は、送電アンテナ3の導電性材料層が設けられた面と、受電アンテナ13の導電性材料層が設けられた面とを対向させて送電する場合の例を示したものである。この態様で送電する際には、例えば、図2〜図4に示したループアンテナ30,40,50のように磁界を偏向させずに形成するループアンテナを使用するとよい。この図6に示すように送電アンテナ3及び受電アンテナ13双方の導電性材料層が設けられた面を対向させて配置した場合、通信距離を長くとることができる。
【0071】
図7は、送電アンテナ3の導電性材料層が設けられた面及び受電アンテナ13の導電性材料層が設けられた面を、双方共に上側に向けて送電する場合の一例を示している。この態様で送電する場合には、電磁共鳴現象を生じ易くするために、例えば図5に示したループアンテナ60のように、相手方のアンテナに向けて磁界が偏向して形成されるループアンテナを使用することが好ましい。もっとも、磁界を偏向させずに形成するループアンテナを使用することを何ら妨げない。
【0072】
次に、電磁共鳴現象と、送電アンテナ3と受電アンテナ13との間の結合係数の関係について説明する。
【0073】
送電アンテナ3と受電アンテナ13との間で生じる電磁共鳴現象は、送電アンテナ3と受電アンテナ13との結合係数に影響を受ける。ここで送電アンテナ3と受電アンテナ13と間の結合係数をk、送電アンテナ3のQ値をQ1、受電アンテナ13のQ値をQ2とすると、結合係数kと二つのコイルのQ1,Q2値との間には(1)式に示す関係が成立する。
【0074】
k=1/√(Q1・Q2)・・・(1)
【0075】
この(1)式から明らかなように、結合係数はQ値が大きくなれば小さくなり、Q値が小さくなれば大きくなる。
【0076】
また、Q値は次の(2)式のように表すことができる。
【0077】
Q=1/R・√(L/C)・・・(2)
【0078】
この(2)式から明らかなように、LC回路の抵抗値RとコンデンサCの容量が大きくなればQ値は小さくなり、インダクタンスLの値が大きくなればQ値は大きくなる。
【0079】
したがって、(1)式、(2)式から、送電アンテナ3と受電アンテナ13との結合係数kは、LC回路の抵抗値R又はコンデンサCの容量を大きくするか、あるいはインダクタンスLの値を小さくすることで大きくすることができる。逆に、LC回路の抵抗値R又はコンデンサCの容量を小さくするか、あるいはインダクタンスLの値を大きくすることで小さくすることができる。
【0080】
そして、LC回路において、共振現象を生じさせる周波数は次の(3)式のように表すことができる。
【0081】
f=1/(2π√(L・C))・・・(3)
【0082】
図8は、送電装置1の回路に関し、電力が3.5W、回路抵抗が50Ωとなるように設計した際に、電磁共鳴現象の発生状態が結合係数kにより理論的にどのように変化をするかを示したグラフである。図8の横軸は周波数を、縦軸はマグニチュードをそれぞれ表している。
【0083】
図8において、Aの曲線は、結合係数kの値が大きい場合(例えば、k=0.14)、即ち、送電アンテナ3と受電アンテナ13とは密結合の状態にある場合を示している。この場合、周波数が約12MHz〜約15MHzの間では、ピークとなる共振周波数は、約13MHzのときと、約14.2MHzのときの2つとなる。Bの曲線に示すように、結合係数kを小さくすると(例えばk=0.08)、ピークとなる共振周波数は次第に接近し、約13.2MHzのときと約13.8MHzのときの2つとなる。
【0084】
図8のCの曲線に示すように、結合係数kをさらに小さくすると(例えば、k=0.06)、ピークとなる共振周波数は、約13.56MHzのときの1ヶ所だけとなる。このとき、送電アンテナ3と受電アンテナ13とは臨界結合の状態にある。そして、図8のDの曲線やEの曲線に示すように結合係数kを臨界結合の状態からさらに小さくすると(例えば、k=0.04,k=0.02)、送電アンテナ3と受電アンテナ13とは疎結合の状態となり、共鳴の強さが小さくなる。
【0085】
以上に示した(1)式から(3)式、及び図8に示した電磁共鳴現象の発生状況により、電磁共鳴現象を利用してICタグ20に対して情報を読み書きするのに好適な抵抗値R、コンデンサCの容量及びインダクタンスLの値を決定することになる。
【0086】
以上、送電装置1から受電装置11に向けて送電する形態の非接触式情報通信システムについて説明したが、受電装置11からも送電装置1に向けて送電を行い、送電装置1及び受電装置11の双方をリーダ・ライタ装置として機能させて非接触式情報通信システムを形成することもできる。
【0087】
図9は、その構成を図1に示した非接触式情報通信システムと同様である。この図9に示す実施形態では、受電装置11からも送電を行っている。
【0088】
受電装置11の信号発信部16は、ある周波数の信号を変調・復調器15に出力する。信号が入力された変調・復調器15は、信号を所定の電磁共鳴周波数の信号に変調してLC回路12に出力する。さらに、信号発信部16は、所定のデータ信号を変調・復調器15に出力する。この信号が入力された変調・復調器15は、データ信号を所定の電磁共鳴周波数の信号に変調してLC回路12に出力する。
【0089】
これらの信号を受けたLC回路12は共振現象が生じる。そして、LC回路12のコイルを構成する送電アンテナ3は、電磁共鳴現象を生じさせ、この電磁共鳴現象を利用して伝送電力を送電装置1の送電アンテナ3に対して送電する。
【0090】
このため、ICタグ20を、送電装置1と受電装置11との間で電磁共鳴現象が生じている空間内に位置させると、ICタグ20は、受電装置11からの送電を受けて起電力を生じさせる。そして、受電装置11からの送電波の一部を反射し、ICタグ20に記録された情報はこの反射波に乗せて返される。これにより、ICタグ20に記録された情報を読み込む。また、受電装置11から送られるデータ信号に基づいてICタグ20への情報の書き込みも行われる。
【0091】
このようにして送電装置1のみならず、受電装置11からも送電を行った場合、送電装置1の送電アンテナ3がICタグ20からの反射波を受信する際に、受電アンテナ13からの送電をも受信し、ICタグ20からの反射波を適切に受信できないことが想定できる。すなわち、ICタグ20からの反射波は、この反射波と同一の搬送波周波数である受電装置11からの強い送電によりマスキングされてしまう。そのため、送電装置1はICタグ20からの反射波の存在を確認できなくなる。
【0092】
こうした不都合を回避するため、この非接触式情報通信システムでは、次のように同期する手法を採用することが挙げられる。
【0093】
この非接触式情報通信システムにおいて、無変調送信機として別回路で磁界出力する場合、送電アンテナ3からの送電と受電アンテナ13からの送電とを同期するように位相制御を行う。例えば、送電アンテナ3から送電されて受電アンテナ13が受信する送電波と、受電アンテナ13から送電されて送電アンテナ3が受信する送電波とを比較し、両者の位相が一致するように制御部を設け、この制御部によって同期を行うようにする。そうすれば、ICタグ20からの反射波を送電アンテナ11が受信する際に、送電装置11での変調・復調の妨害を阻止でき、同様に、ICタグ20からの反射波を受電アンテナ13が受信する際に、受電装置11での変調・復調の妨害を阻止できる。
【0094】
この他に、アンテナを直列に接続することによって変調・復調の妨害が生じることを防止する方法がある。一般に、機器を直列に接続すること、即ち、数珠つなぎにすることをデイジーチェーンという。こうしたデイジーチェーンでアンテナをつなぎ、2枚のアンテナ11,13同士を同期させる手段を採ることも挙げられる。すなわち、この非接触情報通信システムにおいて、送電装置1及び受電装置11の双方に設けられたLC回路を利用して、2枚のアンテナの周波数、位相がずれないように制御する。この手段を採って出力先を一つにすれば、位相のずれが生じることがなく、変調・復調の妨害が生じることを確実に防止できる。
【0095】
こうしたデイジーチェーンでアンテナをつなぐ構成について、さらに詳細を説明する。
【0096】
一般に、ICタグに記録されている情報を読み込むためには、次の3つの条件が満たされることが必要であると考えられている。
【0097】
即ち、(1)ICタグを起電させるために必要な電力が、送信電波を送り出すリーダ・ライタ側から送信されていること、(2)ICタグが、リーダ・ライタから送信された送信信号を確実に受信すること、及び(3)リーダ・ライタが、ICタグから返信された負荷変調による信号を確実に受信することである。
【0098】
本発明者は、こうした条件について、図10に示す実験装置を用いて様々な実験を行った。この図10に示す装置は、非接触情報通信システムの送電装置100であり、この送電装置100はリーダ・ライタ101の他に無変調送信部105をさらに備えている。また、送電アンテナは、ICタグ20からの返信波を転送する転送用アンテナ108と、この転送用アンテナ108から転送されたICタグ20からの返信波を受信可能な受信用アンテナ103とから構成されている。そして、転送用アンテナ108は無変調送信部105に接続され、受信用アンテナ103はリーダ・ライタ101に接続されている。こうした送電装置100は、転送用アンテナ108と受信用アンテナ103との間で電磁共鳴を発生させている。
【0099】
こうした実験装置を用いて実験を重ねた結果、上記の条件(1)及び条件(2)は、ICタグ20に記録されている情報を読み込むための限界を向上させることに、ほとんど寄与していないことが判明した。
【0100】
即ち、無変調送信部105の送信出力に対するICタグ20と転送用アンテナ108との距離を十分に短く設定したにも拘わらず、ICタグ20と受電アンテナとの距離を伸長させることができなかったのである。ICタグ20と送電アンテナとの距離を十分に短く設定しているので、ICタグ20は確実に起電されている。ICタグ20が起電されているにも拘わらず、情報を読み取ることができないという結果しか得られなかったのである。
【0101】
こうした結果から、ICタグ20を起電させるために必要な電力が、送信電波を送り出すリーダ・ライタ101側から送信されていることは、ICタグ20に記録されている情報を読み込むための限界を向上させることに、ほとんど影響を与えないということを意味する。
【0102】
本発明者は、受電装置と受電装置との間で行われている強い送電が、ICタグ20からの反射波を受信することの妨げになっていることに着目した。そして、ICタグ20からの反射波を受信することを妨げないようにシステムを組むことにした。以下、こうした非接触式情報通信システムについて説明する。
【0103】
図11は、送電装置120の受信用アンテナ102,103をデイジーチェーンで接続した非接触式情報通信システムをモデル的に示した図である。なお、図11は、非接触式情報通信システムの送電装置120のみを示し、受電装置は特に示していないが、図1に示した非接触式情報通信システムと同様に、送電装置120により発生された電磁共鳴現象によって電力を受信する受電装置とを備えている。
【0104】
送電装置120は、リーダ・ライタ101と、無変調送信部105と、3つの送電アンテナとを備えている。なお、図11に示した送電装置120の構成と図10に示した送電装置100の構成とが同一のものについては図面に同一の符号を付している。
【0105】
3つの送電アンテナのうち、図11の左右両側に配置された2つのアンテナは受信用アンテナ102,103であり、中央に配置された1つのアンテナは転送用アンテナ108である。2つの受信用アンテナ102,103は、デイジーチェーンで接続され、リーダ・ライタ101に接続されている。転送用アンテナ108は、無変調送信部105に接続されている。2つの受信用アンテナ102,103は、ある程度の距離を空けて配置され、転送用アンテナ108は、これら2つの受信用アンテナ102,103の間に配置されている。転送用アンテナ108と2つの受信用アンテナ102,103とのそれぞれの間隔は、ICタグ20からの返信波を転送用アンテナ108と受信用アンテナ102,103との間で電磁共鳴させることができる範囲内に設定される。
【0106】
リーダ・ライタ101は、図1に示した非接触式情報通信システムの送電装置120と基本構成が同様であり、特に図示していないが、信号発信部、LC回路、及び信号発信部からの信号を受けてLC回路に対し所定の電磁共鳴周波数の信号を印加する変調・復調器と、を備えている。ただし、図11に示す送電装置120のLC回路を構成しているコイルは、2つの受信用アンテナ102,103である。この2つの受信用アンテナ102,103は、平坦なループアンテナである。
【0107】
図12は、転送用アンテナ108及び無変調送信部105のブロック図を示している。無変調送受信部105は、電源部110と、所望の周波数の信号を発信する発振部112と、この発振部112からの信号を増幅させる電力増幅部114と、発振部112からの信号を所望のタイミングで電力増幅部114へ発信するように制御している制御部111と、を備えている。制御部111と発振部112とは電源部110にパラレルに接続されている。これらの制御部111及び発振部112は、ゲート回路113を介して電力増幅部114に接続されている。ゲート回路113は、2つの入力信号が同時に入力された場合にのみ出力信号を出力するAND回路である。そして、転送用アンテナ108は、電力増幅部114に接続されている。
【0108】
無変調送信部105は、発振部112と制御部111とがAND回路からなるゲート回路113で接続されているので、発振部112及び制御部111の双方から信号が発振された場合にのみ電力増幅部114に信号を送るようになっている。
【0109】
こうした送電装置120は、無変調送信部105に接続された転送用アンテナ108が大きな出力によって、伝送電力を受電装置の受電アンテナに対して送電する。これに対して、受信用アンテナ102,103は2つのアンテナに分割され、2つの受信用アンテナ102,103がデイジーチェーンで接続されている。そのため、各々の受信用アンテナ102,103の出力は小さく抑えられている。受信用アンテナ102,103の出力は小さく抑えられているので、ICタグ20からの返信波は、受信用アンテナ102,103の出力に妨げられることなく確実に受信用アンテナ102,103に受信される。
【0110】
こうし送電装置120の送電アンテナは、2つの受信用アンテナ102,103の出力が低く、かつ、ある程度の距離を空けて配置されているため、2つの受信用アンテナ102,103の間で電磁共鳴が生じることはない。一方、2つの受信用アンテナ102,103と転送用アンテナ108との間では、それぞれ電磁共鳴される。
【0111】
送電装置120は、さらに、無変調送信部105の出力時間を制御する同期手段(不図示)を備えている。この同期手段はコンピュータによって制御され、無変調送電部105に接続された転送用アンテナ108からの送電波と受信用アンテナ102,103からの送電波とを同期させている。具体的には、転送用アンテナ108からの送電波と受信用アンテナ102,103からの送電波とを比較し、両送電波の位相が一致するように位相の制御を行っている。
【0112】
このような位相制御を行って両送電波の同期を行うことによって、受信用アンテナ102,103が受信したICタグ20からの反射波をリーダ・ライタ101が変調・復調する際に、転送用アンテナ108からの送電波が、リーダ・ライタ101の変調・復調を妨害してしまうことを阻止できる。
【0113】
こうした非接触式情報通信システムは次のように作用する。
【0114】
まず、無変調送信部105の動作を具体的に説明する。この無変調送信部105をAC電源に接続すると、発振部112は動作する。この発振部112は13.56MHzの信号を発信する。そして制御部111からの信号と発振部112から信号とによってゲート回路113が作動し、電力増幅部114への信号をON/OFFする。ゲート回路113がONされて電力増幅部114に信号が発信されると、電力増幅部114によって増幅され、転送用アンテナ108から送信される。
【0115】
なお、転送用アンテナ108の出力と送受信用アンテナ102,103の出力とは、同期するように制御されている。そのため、出力波が形成する波の形状は、図8と同様に示した場合に、中央の左右両側で1つずつ山が形成されることがなく、中央で1つの山が形成される。
【0116】
こうした転送用アンテナ108と受信用アンテナ102,103とからなる送電アンテナは、電磁共鳴現象を生じさせ、この電磁共鳴現象を利用して伝送電力を受電装置の受電アンテナに対して送電する。送電装置120と受電装置との間に位置するICタグ20は、送電装置1201からの送電によって起電され、ICタグ20に記録された情報は、送電装置120に返信される。
【0117】
無変調送信部105は送信機としてのみ機能するので、無変調送電部105に接続された転送用アンテナ108は、ICタグ20からの返信波を受信することはない。ICタグ20からの返信波は、転送用アンテナ108と送受信用アンテナ102,103との間で電磁共鳴されて受信用アンテナ102,103に転送される。既述のように、各々の受信用アンテナ102,103の出力は小さく抑えられているので、ICタグ20からの返信波は、受信用アンテナ102,103の出力によって妨げられることなく受信用アンテナ102,103によって受信される。
【0118】
なお、本発明者は、図11に示す非接触式情報通信システムを用いて動作の確認テストを行ったところ、電源部110としてACアダプターに接続すれば、送信出力がない場合でも以上に説明した作用効果と同様の作用効果を得ることができることを確認することができた。こうした原理について考察する。
【0119】
ACアダプターに接続されるだけで動作するということは、ゲート回路113がOFFの状態でも、無変調送信部105の電源部110を構成している電源回路を経由して、わずかな信号が転送用アンテナ108側に供給されているということができる。こうした信号は漏れ電力であるから、その電力はわずか数十mW以下であると考えられる。
【0120】
無変調送信部105からの送電波は、電源回路を経由した漏れ電力に基づくものであるため、信号源のインピーダンスは、数Ωから数百kΩと非常に高いと考えられる。これに対し、ICタグ20の変調方式は負荷変調であり、アンテナを介して送信出力回路の負荷を可変させて変調するものである。そして、リーダ・ライタ101は、送信出力の電圧の微妙な変化を、フィルターを通して取り出すことによって復調している。そのため、負荷変調の場合、信号源インピーダンスが高いと負荷による影響が大きくなり、変調率が高くなる。
【0121】
無変調送信部105から送電される漏れ電力に基づく送電波は、リーダ・ライタ101からの送電波に比べて大きく変調されたと考えられる。また、無変調送電部からの漏れ送電出力は小さいため、変調電力に換算しても大きくないが、リーダ・ライタ101の読み取り可能なレベルに達したと考えられる。
【0122】
ここで、変調されるのは、リーダ・ライタ101からの出力ではなく、無変調送信部105からの出力である。この無変調送電部105に接続された転送用アンテナ108上の変調波は、リーダ・ライタ101に接続された受信用アンテナ102,103と無変調送電部に接続された転送用アンテナ108が比較的近い距離に配置されている場合に、アンテナ間の電磁共鳴現象によって受信用アンテナ102,103に伝わる。
【0123】
こうした原理に基づいて、電源部110としてACアダプターに接続すれば、送信出力がない場合でも同様の作用効果を得ることができると考察される。
【0124】
なお、図11に示す非接触式情報通信システムの送電装置120を用いた場合、無変調送信部105の電源をOFFにした場合に、ICタグ20からの返信波を最も効果的に読み取ることができる。こうした結果は、無変調送信部105に設けられているLC回路が効果的に機能したことによると、考察することができる。すなわち、無変調送信部105は、直列に過大なコイルとキャパシタとが存在することによるものである。
【0125】
次に、図13を参照して、図11とは別形態の非接触式情報通信システムの送電装置130について説明する。この送電装置130は、2つの無変調送信部105を備えている。なお、送電装置130は、無変調送電部が2つ設けられていること以外は、図11に示す送電装置130と基本構成は、同様である。そのため、図13の各構成には、図11と同様の符号を付して送電装置130の概要を説明する。なお、図13は、非接触式情報通信システムの送電装置130のみを示し、受電装置は特に示していないが、非接触式情報通信システムは、送電装置130により発生された電磁共鳴現象によって電力を受信する受電装置を備えている。
【0126】
送電装置130は、リーダ・ライタ101と、無変調送信部105と、4つの送電アンテナとを備えている。
【0127】
4つのアンテナのうち、図13の左右両側に配置された2つのアンテナは受信用アンテナ102,103であり、中央に配置された2つのアンテナは転送用アンテナ108である。2つの受信用アンテナ102,103は、デイジーチェーンで接続され、リーダ・ライタ101に接続されている。転送用アンテナ108は、無変調送電部105に接続されている。2つの受信用アンテナ102,103は、ある程度の距離を空けて配置され、2つの転送用アンテナ108は、これら2つの受信用アンテナ102,103の間に配置されている。これらの転送用アンテナ108と受信用アンテナ102,103との間隔は、ICタグ20からの返信波を転送用アンテナ108と受信用アンテナ102,103との間で電磁共鳴させることができる範囲内に設定される。
【0128】
リーダ・ライタ101は、図1に示した非接触式情報通信システムの送電装置130と基本構成が同様であり、信号発振部、LC回路、及び信号発振部からの信号を受けてLC回路に対し所定の電磁共鳴周波数の信号を印加する変調・復調器と、を備えている。なお、LC回路を構成しているコイルは、2つの受信用アンテナ102,103である。この2つの受信用アンテナ102,103は、平坦なループアンテナである。
【0129】
無変調送受信機は、図12に示したブロック図のように、電源部110と、所望の周波数の信号を発信する発振部112と、この発振部112からの信号を増幅させる電力増幅部114と、発振部112からの信号を所望のタイミングで電力増幅部114へ発信するように制御している制御部111と、を備えている。制御部111と発振部112とはAC電源部110にパラレルに接続されている。これらの制御部111及び発振部112は、ゲート回路113を介して電力増幅部114に接続されている。ゲート回路113は、2つの入力信号が同時に入力された場合にのみ出力信号を出力するAND回路である。そして、転送用アンテナ108は、電力増幅部114に接続されている。
【0130】
なお、図13に示す送電装置130についても、無変調送信部105の出力時間を制御する同期手段(不図示)を備えことによって、無変調送電部105に接続された2つの転送用アンテナ108からの送電波と受信用アンテナ102,103からの送電波とを同期させるとよい。送電装置130に同期手段を設けることによって、両送電波の同期を行うことによって、受信用アンテナ102,103が受信したICタグ20からの反射波をリーダ・ライタ101が変調・復調する際に、転送用アンテナ108からの送電波が、リーダ・ライタ101の変調・復調を妨害することを阻止する。
【0131】
こうした図13に示す送電装置130を用いれば、ICタグ20からの返信波を読み取ることができる距離をさらに伸ばすことができる。
【符号の説明】
【0132】
1…送電装置
2…LC回路
3…送電コイル
4…コンデンサ
5…変調・復調器
6…信号発信部
11…送電装置
12…LC回路
13…送電コイル
14…コンデンサ
15…変調・復調器
16…信号発信部
20…ICタグ
30…ループアンテナ(送電アンテナ、受電アンテナ)
31…基板
32…導電性材料層
40…ループアンテナ(送電アンテナ、受電アンテナ)
41…基板
42…導電性材料層
50…ループアンテナ(送電アンテナ、受電アンテナ)
51…基板
52…導電性材料層
60…ループアンテナ(送電アンテナ、受電アンテナ)
61…基板
62…導電性材料層
100…送電装置
101…リーダ・ライタ
102…受信用アンテナ
103…受信用アンテナ
105…無変調送信部
108…転送用アンテナ
110…電源部
111…制御部
112…発振部
113…ゲート回路
114…電力増幅部
120…送電装置
130…送電装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ICタグに対して情報を読み書きする非接触式情報通信システムであって、
送電アンテナを有するLC回路と、前記送電アンテナの共鳴周波数に応じた信号を前記LC回路に入力する変調器とを具備する送電装置と、
受電アンテナを有するLC回路を具備する受電装置と、を備え、
前記送電アンテナ及び前記受電アンテナは平坦なループアンテナであり、
前記送電アンテナと前記受電アンテナとの間で電磁共鳴を生じさせ、
前記送電装置は、電磁共鳴された磁界内に位置するICタグに対し、発生された電磁共鳴によって電力を供給し、前記送電アンテナが前記ICタグからの返信波を受信することを特徴とする非接触式情報通信システム。
【請求項2】
前記送電アンテナは、前記ICタグからの返信波を転送する転送用アンテナと、この転送用アンテナから転送された前記ICタグからの返信波を受信可能な受信用アンテナとから構成され、
前記送電装置は、前記転送用アンテナに接続された無変調送信部をさらに備え、
前記受信用アンテナは、直列に接続された複数のアンテナから構成され、
前記転送用アンテナは、前記受信用電アンテナの間に配置され、
前記転送用アンテナと前記受信用アンテナとの間で電磁共鳴を発生させていることを特徴とする請求項1に記載の非接触式情報通信システム。
【請求項3】
前記送電装置は、前記転送用アンテナからの送電波と前記受信用アンテナからの送電波とを同期させる同期手段を備えたことを特徴とする請求項2に記載の非接触式情報通信システム。
【請求項4】
前記転送用アンテナと前記受信用アンテナとは、前記ICタグからの返信波を前記送電アンテナと前記送電専用アンテナとの間で電磁共鳴させる範囲内に配置させていることを特徴とする請求項2又は3に記載の非接触式情報通信システム。
【請求項5】
前記送電アンテナ及び前記受電アンテナは、基板と、該基板に導電性材料を略渦巻状に積層した導電性材料層とから構成されたことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の非接触式情報通信システム。
【請求項6】
前記送電アンテナと前記受電アンテナとは、前記導電性材料層を有する面を相互に対向して配置されていることを特徴とする請求項5に記載の非接触式情報通信システム。
【請求項7】
前記送電アンテナと前記受電アンテナとは前記導電性材料層を有する面を同一方向に向けて配置されていることを特徴とする請求項5に記載の非接触式情報通信システム。
【請求項8】
前記送電アンテナ及び前記受電アンテナの誘電性材料層は、前記送電アンテナ及び前記受電アンテナによって形成される磁界を相互に相手方に向けて偏向させるように、偏心して前記基板に積層されていることを特徴とする請求項7に記載の非接触式情報通信システム。
【請求項9】
前記受電装置は、前記受電アンテナの共鳴周波数に応じた信号を前記受電装置のCL回路に入力させる変調器を備え、
前記受電アンテナと前記送電アンテナとの間で電磁共鳴を生じさせ、
前記受電装置は、電磁共鳴された磁界内に位置するICタグに対し、発生された電磁共鳴によって電力を供給し、前記受電アンテナが前記ICタグからの返信波を受信することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の非接触式情報通信システム。
【請求項10】
前記受電アンテナが受信する受信波と前記送電アンテナが受信する受信波とを同期させる同期手段を備えたことを特徴とする請求項9に記載の非接触式情報通信システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2013−51869(P2013−51869A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−165716(P2012−165716)
【出願日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.コイル オン チップ
【出願人】(511185656)アールエフ・アンテナ株式会社 (1)
【Fターム(参考)】