説明

非極性ゴム組成物

【課題】補強剤として配合されるモンモリトナイト等の無機層状フィラーを効率よく分散・剥離させた非極性ゴム組成物を提供する。
【解決手段】(A)アルキル基の炭素数が8以上である長鎖アルキルカチオン分子50〜99.9モル%および(B)ゴムと相互作用する官能基または不飽和アルキル基を有するカチオン分子0.1〜50モル%を同時に無機層状フィラーの層間にイオン結合により吸着させた層状化合物を有する非極性ゴム組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非極性ゴム組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
タイヤなどに使用される非極性ゴム組成物は、天然ゴム(NR)などの有機高分子のほかに、カーボンブラックやシリカなどの補強剤や、架橋剤など、様々な物質が練り込まれたナノコンポジットである。従来から、補強剤として、無機フィラーが使用されているが、近年、構造秩序性の有する層状化合物を利用することがすすめられている。非極性ゴム組成物の物性は、フィラーの性質や分散状態などに大きく左右され、一般に、アスペクト比(縦横比)の大きい無機物を含有すると、物性に優れることが知られている。そこで、層状化合物を使用する場合、層を1枚1枚剥離し、アスペクト比を増大させることが重要となる。
【0003】
現在、無機フィラーとしては、電荷密度が低く、有機化が容易であり、剥離させやすいという理由から、モンモリロナイトなどのスメクタイト族が用いられている。モンモリロナイトを直接ゴム中に導入した場合、層間のナトリウムイオンが、負電荷を有する層同士を強く引きつけるため、層同士の相互作用が非常に強く、剥離させられないという問題があった。そこで、アルキルアンモニウムイオンは、層間で2分子層配向し、層同士の距離を大きく広げるだけでなく、層の負電荷を中和するため、層同士の結合力が弱くなるので、層間にイオンや分子を挿入するインターカレーション反応により、層間のナトリウムイオンをアルキルアンモニウムイオンとイオン交換し、疎水的な性質に変え、層同士の相互作用を弱い状態にすると、ゴム中への分散や剥離が進行しやすくなることが知られている。しかし、この手法では、極性高分子への剥離には効果があるが、NRなどのような非極性ゴムに対しては、相互作用に乏しいため、剥離に成功した例はほとんどない。
【0004】
たとえば、モンモリロナイト中にポリプロピレンを導入することで剥離を試みた例があり、200℃という高温で部分的な剥離には成功しているものの、高温での混練りを必要としており、完全な剥離には到っていない。また、有機化したモンモリロナイトをNRなどに混練りした例が報告されているが、全く剥離できていない。ラテックス状態のゴムと混練りした場合、分散性に優れる場合があるが、不都合な点が多い。
【0005】
特許文献1には、エポキシ基を有するゴムと、カルボキシル基、アミノ基およびチオール基のいずれかを有する有機化合物がイオン結合することにより有機化された層状粘土鉱物を配合したゴム組成物が開示されている。しかし、天然ゴムなどのエポキシ基を有さないゴムには好適に使用することはできないという問題があった。
【0006】
【特許文献1】特開2004−250473号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、層状フィラーを効率よく分散・剥離させた非極性ゴム組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、(A)アルキル基の炭素数が8以上である長鎖アルキルカチオン分子および(B)官能基を有するカチオン分子が同時に吸着した層状化合物を有する非極性ゴム組成物に関する。
【0009】
前記カチオン分子(B)は、下記式
123+4またはR123+4
(式中、R1〜R3は、水素または炭素数が1〜3の短鎖アルキル基であり、R4は、−(CH23NHCOCH=CH2、−CH2CONHNH2、−CH2CH(OH)CH2COOHまたは−Cn2nCH=CH2で表される官能基または不飽和アルキル基である)
で表されることが好ましい。
【0010】
前記層状化合物の層間に導入できる分子中のカチオン分子(A)の含有率は、50〜99.9モル%であり、カチオン分子(B)の含有率は、0.1〜50モル%であることが好ましい。
【0011】
前記層状化合物は、電荷を有することが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、所定の層状化合物を有することで、層状フィラーを効率よく分散・剥離させた非極性ゴム組成物を提供することができる。該非極性ゴム組成物は、使用するフィラー量を低減させ、新しい機能を有するゴムの作製が期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の非極性ゴム組成物は、ゴム成分および層状化合物を含有する。
【0014】
ゴム成分としては、とくに制限はなく、たとえば、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブチルゴム(IIR)、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)などがあげられる。
【0015】
前記層状化合物は、長鎖アルキルカチオン分子(以下、カチオン分子(A)とする)および官能基または不飽和アルキル基を有するカチオン分子(以下、カチオン分子(B)とする)が同時に吸着したものである。ここで、吸着したカチオン分子(A)は、層同士を剥離し、カチオン分子(B)は、ゴムおよび層状化合物と強いイオン結合を形成する。
【0016】
層状化合物としては、たとえば、パイロフィライト、タルクなどのパイロフィライト・タルク族、モンモリロナイト、サポナイト、ヘクトライトなどのスメクタイト族、バーミキュライト族、白雲母、セリサイトなどの雲母族、マーガライトなどの脆雲母族などがあげられ、層電荷のないパイロフィライト・タルク族以外は使用することができるが、層電荷が低く、層間のカチオンの交換が容易であり、剥離しやすいため、スメクタイト族が好ましい。なお、これらの層状化合物は、層単位の厚さは、約1nmである。
【0017】
カチオン分子(A)におけるカチオンとしては、たとえば、アンモニウムイオン、ホスホニウムカチオンなどがあげられるが、層状化合物中にイオン交換で導入され、電荷バランスに優れ、層状物質と強いイオン結合を持つという理由から、アンモニウムイオンが好ましい。
【0018】
カチオン分子(A)の長鎖アルキル基の炭素数は8以上、好ましくは12以上である。炭素数が8未満では、層間における疎水相互作用が弱く、剥離が進行しにくい。また、炭素数は50以下が好ましく、40以下がより好ましい。炭素数が50をこえると、カチオン分子(A)が層間に侵入しにくくなる傾向がある。
【0019】
層状化合物の層間に導入できる分子数に対して、カチオン分子(A)の含有率は50モル%以上が好ましく、70モル%以上がより好ましい。カチオン分子(A)の含有率が50モル%未満では、層間における疎水相互作用が弱く、剥離が進行しにくい傾向がある。また、カチオン分子(A)の含有率は99.9モル%以下が好ましく、98モル%以下がより好ましい。カチオン分子(A)の含有率が99.9モル%をこえると、カチオン分子(B)の存在割合が減少するため、カチオン分子(B)によるゴムおよび層状化合物との相互作用が弱まる傾向がある。
【0020】
カチオン分子(B)は、官能基を含有する。
【0021】
官能基とは、ゴムと相互作用する官能基であり、たとえば、不飽和アルキル基、−(CH23NHCOCH=CH2、−CH2CONHNH2、−CH2CH(OH)CH2COOH、−(CH2nCOOH(n:1〜18)、―(CH2nNH2(n:1〜18)、などがあげられる。
【0022】
不飽和アルキル基とは、不飽和官能基を有するアルキル基のことであり、たとえば、−Cn2nCH=CH2(n:1〜18)、−Cn2nCH=CHCH3(n:1〜18)などがあげられる。
【0023】
カチオン分子(B)におけるカチオンとしては、たとえば、アンモニウムイオン、ホスホニウムイオンなどがあげられるが、モンモリロナイト中にイオン交換で導入され、電荷バランスに優れ、層状物質と強いイオン結合を有することから、アンモニウムイオンが好ましい。
【0024】
なかでも、カチオン分子(B)としては、下記式
123+4またはR123+4
(式中、R1〜R3は、水素または短鎖アルキル基であり、R4は、−(CH23NHCOCH=CH2、−CH2CONHNH2、−CH2CH(OH)CH2COOHまたは−Cn2nCH=CH2で表される官能基もしくは不飽和アルキル基である)
で表されるものが好ましい。
【0025】
式中、R1〜R3は、水素または短鎖アルキル基が好ましく、短鎖アルキル基がより好ましく、メチル基がさらに好ましい。
【0026】
また、R4は、−(CH23NHCOCH=CH2、−CH2CONHNH2、−CH2CH(OH)CH2COOHまたは−Cn2nCH=CH2で表される官能基もしくは不飽和アルキル基が好ましく、−(CH23NHCOCH=CH2がより好ましい。
【0027】
層状化合物の層間に導入できる分子数に対して、カチオン分子(B)の含有率は0.1モル%以上が好ましく、2モル%以上がより好ましい。カチオン分子の含有率が0.1モル量%未満では、剥離に働く力が弱くなる傾向がある。また、カチオン分子の含有率は50モル%以下が好ましく、30モル%以下がより好ましい。カチオン分子の含有率が50モル%をこえると、カチオン分子どうしの結合力が強くなり、剥離しにくくなる傾向がある。
【0028】
上記条件をみたす層状化合物は、カチオン分子(A)が隣接する層を引き離し、カチオン分子(B)がゴム高分子と相互作用するため、室温における混練りのみで混練りすることができ、ゴム中に均一に分散させることができる。
【0029】
層状化合物の含有量は、ゴム成分100重量部に対して0.5重量部以上が好ましく、1重量部以上がより好ましい。層状化合物の含有量が0.5重量部未満では、フィラーとしての効果が小さくなる傾向がある。また、層状化合物の含有量は50重量部以下が好ましく、30重量部以下がより好ましい。層状化合物の含有量が50重量部をこえると、分散が悪化し、剥離しにくくなる傾向がある。
【0030】
本発明の非極性ゴム組成物には、前記ゴム成分および層状化合物以外にも、カーボンブラック、シリカなどの補強剤、各種軟化剤、各種老化防止剤、ステアリン酸、酸化亜鉛、加硫剤、各種加硫促進剤などを適宜含有することができる。
【0031】
混練り後の層状化合物のアスペクト比は5以上が好ましく、30以上がより好ましい。アスペクト比が5未満では、層状化合物による補強性などの機械特性およびガスバリア性能などが悪化する傾向がある。また、アスペクト比は10000以下が好ましく、1000以下がより好ましい。アスペクト比が10000をこえると、加工性が悪化する傾向がある。
【0032】
本発明の非極性ゴム組成物は、とくに限定されるわけではないが、タイヤとして使用することが好ましい。
【実施例】
【0033】
実施例に基づいて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0034】
次に、実施例および比較例で用いた各種薬品を説明する。
天然ゴム(NR):TSR20
層状化合物(モンモリロナイト):クニミネ工業(株)製のクニピアF
カチオン分子(A)(2C18N):東京化成工業(株)製の塩化ジメチルジステアリルアンモニウム((CH3(CH2172+(CH32Cl-
カチオン分子(B)(AP):東京化成工業(株)製の塩化(3−アクリルアミドプロピル)トリメチルアンモニウム(CH2=CHCONH(CH23+(CH33Cl-
【0035】
実施例1
(モンモリロナイトへのAPの吸着(工程1))
まず、純粋5L中に、モンモリロナイト50gを、少量ずつ、撹拌しながら添加し、その後、1日以上撹拌して分散させた。その後、モンモリロナイトのカチオン交換当量(115mEq/100g)の5倍量のAP(59g)を、少量ずつ、撹拌しながら添加した。その後、8000rpmの条件下で10分間遠心分離し、上澄み液を除去し、APを吸着させたモンモリロナイト(Mont−AP)を60g得た。
【0036】
(Mont−APへの2C18Nの導入(工程2))
工程1におけるAP導入量の0.95倍(31g)の2C18Nを80℃に昇温させた純水5Lに溶解させた。得られた水溶液に、工程1で得られたMont−AP(60g)を、少量ずつ、撹拌しながら添加した。1日撹拌した後、8000rpmの条件下で10分間遠心分離し、上澄み液を除去し、2C18Nを吸着させたMont−APを得た。
【0037】
(表面に付着した2C18Nの除去(工程3))
純水5L中に、工程2で得られた2C18Nを吸着させたMont−APを添加し、70〜80℃に達するまで加熱し、30分間撹拌した。その後、ろ過し、得られたろ液に対し、0.1mol/Lの硝酸銀(AgNO3)水溶液を用いて、白沈検定を行った。その後、白沈が生じなくなるまで洗浄およびろ過を繰り返したところ、洗浄およびろ過を4〜5回要した。その後、オーブンにて、120℃の条件下で乾燥させ、粉末状のAPおよび2C18Nを吸着させたモンモリロナイト(Mont−AP/2C18N)を得た。
【0038】
比較例1
工程1のみを行い、比較例1のMont−APを得た。
【0039】
比較例2
工程1において、APの代わりに2C18Nを用い、工程2を行わないことで、比較例2の2C18Nを吸着させたモンモリロナイト(Mont−2C18N)を得た。
【0040】
(X線回折パターン)
実施例1および比較例1〜2にて得られた層状化合物のX線回折(XRD)パターンを測定した。
【0041】
結果を図1に示す。
【0042】
実施例1のMont−AP/2C18Nでは、ピークがみられず、層状化合物中の層の規則性が大幅に低下していることがわかる。このことから、APおよび2C18Nが層間に同時に吸着していることがわかる。
【0043】
比較例1のMont−APでは、基本面間隔が1.5nm、比較例2のMont−2C18Nでは、基本面間隔が4.0nmであり、Mont−AP/2C18Nとは異なる。
【0044】
(CHN元素分析)
実施例1および比較例1〜2にて得られた層状化合物を、CHN元素分析および熱重量(TG)分析を行い、測定した炭素量およびチッ素量から、層間に存在するAPおよび2C18Nの量を算出した。この際、TG分析における100℃までの重量減少値から求めた吸着水の量を考慮した。
【0045】
Mont−APでは、モンモリロナイト1ユニットに対して0.86mol吸着していたAPが、2C18Nを吸着させることで、0.16molに低減させることができたことがわかる。
【0046】
CHN元素分析およびTG分析の結果を表1に示す。
【0047】
【表1】

【0048】
(非極性ゴム組成物の混練り)
NR50gおよび実施例1および比較例2のそれぞれで得られた層状化合物1.5gをロールに投入し、5〜6分間混練りし、実施例1および比較例2の非極性ゴム組成物を得た。
【0049】
実施例1の非極性ゴム組成物の低倍率および高倍率のTEM写真を、それぞれ図2(a)および(b)に示す。
【0050】
図2(a)の低倍率のTEM写真では、モンモリロナイトの断片がほとんど確認できない。これは、均一に剥離が進行し、その剥離断片は、低倍率のTEM写真には写らないことを示している。
【0051】
図2(b)の高倍率のTEM写真では、いたるところでモンモリロナイトの剥離した断片を確認することができた。
【0052】
以上から、APおよび2C18Nを吸着させることで、モンモリロナイトを均一に分散、剥離させることが可能であることがわかる。
【0053】
次に、比較例2の非極性ゴム組成物の低倍率のTEM写真を、図3に示す。
【0054】
図3では、低倍率でも、板状フィラーの断片を観測することができ、剥離が充分に進行していないことが明白である。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】実施例1および比較例1〜2にて得られた層状化合物のXRDパターンを示す図である。
【図2】実施例1の非極性ゴム組成物の低倍率および高倍率のTEM写真を示す図である。
【図3】比較例2の非極性ゴム組成物の低倍率および高倍率のTEM写真を示す図である。
【符号の説明】
【0056】
1 NR
2 モンモリロナイト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)アルキル基の炭素数が8以上である長鎖アルキルカチオン分子および
(B)官能基を有するカチオン分子が同時に吸着した層状化合物を有する非極性ゴム組成物。
【請求項2】
カチオン分子(B)が、下記式
123+4またはR123+4
(式中、R1〜R3は、水素または炭素数が1〜3の短鎖アルキル基であり、R4は、−(CH23NHCOCH=CH2、−CH2CONHNH2、−CH2CH(OH)CH2COOHまたは−Cn2nCH=CH2で表される官能基または不飽和アルキル基である)
で表される請求項1記載の非極性ゴム組成物。
【請求項3】
層状化合物の層間に導入できる分子数に対して、カチオン分子(A)の含有率が50〜99.9モル%であり、カチオン分子(B)の含有率が0.1〜50モル%である請求項1または2記載の非極性ゴム組成物。
【請求項4】
層状化合物が、電荷を有する層状化合物である請求項1、2または3記載の非極性ゴム組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−302714(P2007−302714A)
【公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−129435(P2006−129435)
【出願日】平成18年5月8日(2006.5.8)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)
【Fターム(参考)】