説明

非水系二次電池用炭素材、及び負極、並びに、非水系二次電池

【課題】高い初期容量とレート特性に加え、サイクル特性にも優れた、非水系二次電池、中でもリチウムイオン二次電池を作製するための、非水系二次電池用炭素材を提供すること。
【解決手段】内部空隙率が1%以上20%以下である天然黒鉛粒子(a)とフタル酸ジブチル吸油量が0.31mL/g以上、0.85mL/g以下である炭素質物複合粒子(b)とを含有する非水系二次電池用炭素材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水系二次電池に用いる炭素材と、その材料を用いて形成された負極と、その負極を有するリチウムイオン二次電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の小型化に伴い、高容量の二次電池に対する需要が高まってきている。特に、ニッケル・カドミウム電池や、ニッケル・水素電池に比べ、よりエネルギー密度が高く、大電流充放電特性に優れたリチウムイオン二次電池が注目されてきている。
リチウムイオン二次電池の炭素材としては黒鉛を使用することが知られている。特に、黒鉛化度の高い黒鉛をリチウムイオン二次電池用の負極活物質として用いると、黒鉛のリチウム吸蔵の理論容量である372mAh/gに近い容量が得られ、さらに、コスト・耐久性にも優れることから、活物質として好ましいことが知られている。
【0003】
そこで、負極材として、特許文献1では力学的エネルギー処理を用いて球形化処理を行った炭素材が提案されている。特許文献2では、黒鉛化可能な骨材又は黒鉛と黒鉛化可能なバインダに、黒鉛化触媒を1〜50質量%添加して混合し、黒鉛化触媒が抜けるように、2000℃以上で焼成、黒鉛化処理した後粉砕した炭素材が提案されている。特許文献3では、球状化黒鉛に黒鉛を被覆した炭素材が提案されている。
【0004】
しかしながら、上記炭素材では、初期効率、サイクル特性、負荷特性などの要求特性をバランス良く、十分に満足することはできず、改良が必要であった。
そこで、上述した要求特性を満足する方法として、特許文献4では、球状黒鉛を等方的に加圧処理する方法(以下、「CIP処理」と称する場合がある)や、特許文献5では、特許文献2に記載されているような負極材にCIP処理を行うことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−158005号公報
【特許文献2】特開2000−340232号公報
【特許文献3】特開2007−042611号公報
【特許文献4】特開2005−50807号公報
【特許文献5】特開2000−294243号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら本発明者らの検討によると、上述したように特許文献1〜3に記載の炭素材を非水系二次電池の負極材として用いても、高容量、優れたサイクル特性、及び高負荷特性を維持する点において改良の余地があった。
また、特許文献4に記載の炭素材を非水系二次電池の負極材として用いても、黒鉛を加圧処理しているだけのために、電極の密度が高く、不可逆容量が大きくなり、さらには、炭素材への電解液の浸液性も確保できないことから、改善の余地があった。更に特許文献5は、負極材に等方的加圧処理を施す技術が開示されているが、特許文献4と同様に不可逆容量を小さくする点において改善の余地があった。
【0007】
そこで、本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、炭素材表面と非水系電解液との反応を抑制し、電池用電極として用いた場合に、電解液の浸液性を損ねることなく、初期容量、及びレート特性に優れ、さらにサイクル特性に優れた非水系二次電池、中で
もリチウムイオン二次電池を作製するための炭素材を提供し、さらにその結果として、高容量、且つサイクル特性に優れた非水系二次電池、中でも、リチウムイオン二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、今まで提案されてきた多数の負極用炭素材から、特定の2種の炭素材を選択し、これらを含有する炭素材を非水系二次電池用炭素材に適用すると、意外にもサイクル特性と初期容量が共に優れたリチウムイオン二次電池を得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち本発明の要旨は、以下の<1>〜<7>に示すものである。
<1>内部空隙率が1%以上20%以下である天然黒鉛粒子(a)とフタル酸ジブチル吸油量が0.31mL/g以上、0.85mL/g以下である炭素質物複合粒子(b)とを含有する非水系二次電池用炭素材。
<2>前記炭素質物複合粒子(b)が炭素質物被覆黒鉛である、<1>に記載の非水系二次電池用炭素材。
<3>前記天然黒鉛粒子(a)は、表面に凹凸を有しており、前記凹凸の凹部分の直径(D)が前記天然黒鉛粒子(a)の平均粒径(d50)に対して0.15倍以上、7倍以下である<1>または<2>に記載の非水系二次電池用炭素材。
<4>前記炭素質物複合粒子(b)の比表面積が0.5m/g以上、6.5m/g以下、ラマンR値が0.03以上、0.19以下、及びタップ密度が0.7g/cm以上、1.2g/cm以下である<1>〜<3>のいずれか1項に記載の非水系二次電池用炭素材料。
<5>前記天然黒鉛粒子(a)と前記炭素質物複合粒子(b)の質量比((a)/{(a)+(b)})が、0.1以上0.9以下である<1>〜<4>のいずれか1項に記載の非水系二次電池用炭素材。
<6>集電体と、前記集電体上に形成された活物質層とを備える非水系二次電池用負極であって、前記活物質層が、<1>〜<5>のいずれか1項に記載の非水系二次電池用炭素材を含有する、非水系二次電池用負極。
<7>正極及び負極、並びに、電解質を備える非水系二次電池であって、前記負極が、<6>に記載の非水系二次電池用負極である、非水系二次電池。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る非水系二次電池用炭素材を用いることにより、サイクル特性と初期容量が共に優れた非水系二次電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、天然黒鉛粒子(a)のSEM写真及び当該天然黒鉛粒子(a)の表面に有する凹凸における凹面の近似円の直径(D)を示した図である。
【図2】図2は、Hgポロシメトリー測定による内部空隙量算出方法を示した解説図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の内容を詳細に述べる。なお、以下に記載する発明構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はその要旨をこえない限り、これらの形態に特定されるものではない。
また、ここで“重量%”は“質量%”と、“重量部”は“質量部”と、それぞれ同義である。
【0013】
<天然黒鉛粒子(a)>
本明細書において、天然黒鉛粒子(a)とはリチウムイオンを吸蔵・放出可能な天然黒鉛粒子(a)を表し、少なくとも内部空隙率が1%以上20%以下の条件を満たすものである。
(1)天然黒鉛粒子(a)の物性
本発明における天然黒鉛粒子(a)は以下の物性を示すものが好ましい。
(i)内部空隙率
天然黒鉛粒子(a)の内部空隙率は1%以上、好ましくは3%以上、より好ましく5%以上、更に好ましくは7%以上である。また20%以下、好ましくは18%以下、より好ましくは15%以下、更に好ましくは12%以下である。この内部空隙率が小さすぎると粒子内の液量が少なくなり、充放電特性が悪化する傾向があり、内部空隙率が大きすぎると、電極にした場合に粒子間空隙が少なく、電解液の拡散が不十分になる傾向がある。
【0014】
内部空隙率は、例えば、図2に示す様に、公知のHgポロシメトリー測定(水銀圧入法)により得られた細孔分布(積分曲線)(L)を元に傾きの最小値に対して接線(M)を引き、当該接線(M)と前記積分曲線(L)の分岐点(P)を求め、その分岐点よりも小さい細孔容積を粒子内細孔量(cm/g)(V)として定義する。得られた粒子内細孔量と黒鉛の真密度から内部空隙率を算出できる。算出に用いる黒鉛の真密度は、一般的な黒鉛の真密度である2.26g/cmを用いる。算出式を式1に示す。
【0015】
式1
内部空隙率(%)=[粒子内細孔量/{粒子内細孔量+(1/黒鉛の真密度)}]×100
(ii)平均粒径(d50)に対する凹部分の直径(D)の比率(凹部分の直径(D)/d50)
【0016】
天然黒鉛粒子(a)は、力学的エネルギーを加えて表面を粗面化処理を施した(凹凸を形成した)黒鉛粒子を原料に用いることが内部空隙率を減らし、粒子の充填密度が高くなり、電極内で配向しにくくなる点から、さらに好ましい。
天然黒鉛粒子(a)のSEM画像の表面の凹部分を円であると仮定して近似円の直径を(D)とした場合、天然黒鉛粒子(a)のd50に対する、天然黒鉛粒子(a)表面の凹部分の直径(D)の比率である(凹部分の直径(D)/d50)は通常0.15倍以上、7倍以下である。好ましくは0.2倍以上、より好ましくは0.3倍以上である。また上限は通常7倍以下のうち、好ましくは5倍以下、より好ましくは3倍以下である。
(凹部分の直径(D)/d50)の比率が大きすぎると粒子が偏平になりやすくなり、電極にした際に電極と平行方向に配向しやすくなる傾向がある。また天然黒鉛粒子(a)の凹部分の(直径(D)/d50)の比率が小さすぎると、電極にした際に粒子同士の接触性が悪くなり、十分なサイクル特性が得られない傾向がある。
【0017】
天然黒鉛粒子(a)の凹部分の直径(D)はSEM画像を用いて算出する。
SEM画像の測定方法は、例えば株式会社キーエンス社製のVE−7800を用い、加速電圧5kVで測定する。
得られた天然黒鉛粒子(a)のSEM画像の表面の凹部分を円であると仮定して近似円を描き、その近似円の直径を天然黒鉛粒子(a)の凹部分の直径(D)とする。そして下記測定方法で測定した天然黒鉛粒子(a)のd50を用いて(凹部分の直径(D)/d50)を算出する。
例として実施例1及び比較例3に用いた天然黒鉛粒子(a)のSEM画像と凹部分に近似した円を図1に示す。
【0018】
凹部分の直径(D)は、通常0.1μm以上、好ましくは1μm以上、より好ましくは5μm以上、更に好ましくは10μm以上であり、通常100μm以下、好ましくは70
μm以下、より好ましくは50μm以下、更に好ましくは30μm以下である。この直径(D)が大きすぎると凹凸形状が緩やかになることから偏平粒子になってしまい、電極にした際に電極に対して並行に配向してしまう傾向があり、一方、直径(D)が小さすぎると粒子間の接触性が悪くなる傾向がある。
【0019】
平均粒径d50の測定方法は、まず、界面活性剤であるポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート(例として、Tween20(登録商標))の0.2質量%水溶液10mLに、サンプル0.01gを懸濁させ、市販のレーザー回折/散乱式粒度分布測定装置「HORIBA製LA−920」に導入し、28kHzの超音波を出力60Wで1分間照射した後、測定装置における体積基準のメジアン径として測定したものを、d50とする。
【0020】
また、天然黒鉛粒子(a)の平均粒径(d50)は、通常5μm以上、好ましくは10μm以上、より好ましくは15μm以上であり、通常40μm以下、好ましくは35μm以下、より好ましくは30μm以下である。平均粒径が小さすぎると、比表面積が大きくなり不可逆容量の増加を防ぎにくくなる傾向がある。また、平均粒径が大きすぎると、電解液と炭素質物複合粒子(b)との接触面積が減ることによる急速充放電性の低下を防ぎにくくなる。
【0021】
(iii)X線パラメータ
天然黒鉛粒子(a)の学振法によるX線回折で求めた天然黒鉛粒子(a)のc軸方向の結晶子サイズ(Lc)、及びa軸方向の結晶子サイズ(La)は、30nm以上であることが好ましく、中でも100nm以上であることが更に好ましい。結晶子サイズがこの範囲であれば、天然黒鉛粒子(a)に充電可能なリチウム量が多くなり、高容量を得易いので好ましい。
【0022】
(iv)ラマンR値、ラマン半値幅
天然黒鉛粒子(a)のラマンR値は、アルゴンイオンレーザーラマンスペクトル法を用いて測定した値であり、通常0.01以上、好ましくは0.03以上、更に好ましくは0.1以上であり、また、通常1.5以下であり、好ましくは1.2以下、更に好ましくは1以下、特に好ましくは0.5以下である。
【0023】
ラマンR値が小さすぎると、粒子表面の結晶性が高くなり過ぎて、充放電に伴ってLiイオンが層間に入るサイトが少なくなる傾向がある。即ち、充電受入性が低下する場合がある。また、集電体に天然黒鉛粒子(a)を含む活物質層を塗布して得られた負極をプレスすることによって高密度化した場合に、電極板と平行方向に結晶が配向しやすくなり、負荷特性の低下を招く場合がある。ラマンR値が0.1以上であると、負極表面に好適な被膜を形成し、これにより保存特性やサイクル特性、負荷特性を向上させることができ、より好ましい。
一方、ラマンR値が大きすぎると、粒子表面の結晶性が低下し、非水系電解液との反応性が増し、充放電効率の低下やガス発生の増加を招く傾向がある。
【0024】
負極活物質の1580cm−1付近のピークのラマン半値幅は特に制限されないが、通常10cm−1以上、好ましくは15cm−1以上であり、また、通常100cm−1以下、好ましくは80cm−1以下、更に好ましくは60cm−1以下、特に好ましくは40cm−1以下である。
ラマン半値幅が小さすぎると、粒子表面の結晶性が高くなり過ぎて、充放電に伴ってLiイオンが層間に入るサイトが少なくなる傾向がある。即ち、充電受入性が低下する場合がある。また、集電体に天然黒鉛粒子(a)を含む活物質層を塗布して得られた負極をプレスすることによって高密度化した場合に、電極板と平行方向に結晶が配向しやすくなり、負荷特性の低下を招く傾向がある。
一方、ラマン半値幅が大きすぎると、粒子表面の結晶性が低下し、非水系電解液との反応性が増し、充放電効率の低下やガス発生の増加を招く傾向がある。
【0025】
ラマンスペクトルの測定は、ラマン分光器(例えば、日本分光社製ラマン分光器)を用いて、試料を測定セル内へ自然落下させて充填し、セル内のサンプル表面にアルゴンイオンレーザー光を照射しながら、セルをレーザー光と垂直な面内で回転させることにより行なう。
得られるラマンスペクトルについて、1580cm−1付近のピークPの強度Iと、1360cm−1付近のピークPの強度Iとを測定し、その強度比R(R=I/I)を算出する。当該測定で算出されるラマンR値を、本発明の負極活物質のラマンR値と定義する。また、得られるラマンスペクトルの1580cm−1付近のピークPの半値幅を測定し、これを本発明の負極活物質のラマン半値幅と定義する。
【0026】
上記のラマンスペクトルの測定条件は、次の通りである。
・アルゴンイオンレーザー波長 :514.5nm
・試料上のレーザーパワー :15〜25mW
・分解能 :10〜20cm−1
・測定範囲 :1100cm−1〜1730cm−1
・ラマンR値、ラマン半値幅解析 :バックグラウンド処理・スムージング処理(単純平均、コンボリューション5ポイント)
【0027】
(v)BET比表面積
天然黒鉛粒子(a)のBET比表面積(SA)は、BET法を用いて測定した比表面積の値であり、通常0.1m・g−1以上、好ましくは0.7m・g−1以上、更に好ましくは1.0m・g−1以上、特に好ましくは1.5m・g−1以上であり、また、通常20m・g−1以下、好ましくは17m・g−1以下、更に好ましくは14m・g−1以下、特に好ましくは10m・g−1以下である。
【0028】
BET比表面積の値が小さすぎると、充電時にリチウムイオンの受け入れ性が悪くなりやすく、リチウムが電極表面で析出しやすくなり、安定性が低下する傾向がある。一方、BET比表面積の値が大きすぎると、非水系電解液との反応性が増加し、ガス発生が多くなりやすく、好ましい電池が得られにくい傾向がある。
BET法による比表面積の測定は、例えば表面積計(大倉理研製全自動表面積測定装置)を用いて、試料に対して窒素流通下350℃で15分間、予備乾燥を行なった後、大気圧に対する窒素の相対圧の値が0.3となるように正確に調整した窒素ヘリウム混合ガスを用いて、ガス流動法による窒素吸着BET1点法によって行なう。当該測定で求められる比表面積を、本発明の天然黒鉛粒子(a)のBET比表面積と定義する。
【0029】
(vi)タップ密度
天然黒鉛粒子(a)のタップ密度は、通常0.1g・cm−3以上、好ましくは0.5g・cm−3以上、更に好ましくは0.7g・cm−3以上、特に好ましくは0.8g・cm−3以上であり、また、通常2g・cm−3以下、好ましくは1.8g・cm−3以下、更に好ましくは1.6g・cm−3以下である。
タップ密度が小さすぎると、負極とした場合に充填密度が上がり難く、高容量の電池を得にくくなる傾向がある。また、タップ密度が大きすぎると、電極中の粒子間の空隙が少なくなり過ぎ、粒子間の導電性が確保され難くなり、好ましい電池特性が得られにくい傾向がある。
【0030】
タップ密度の測定は、目開き300μmの篩を通過させて、例えば20cmのタッピングセルに試料を落下させてセルの上端面まで試料を満たした後、粉体密度測定器(例え
ば、セイシン企業社製タップデンサー)を用いて、ストローク長10mmのタッピングを1000回行なって、その時の体積と試料の質量からタップ密度を算出する。該測定で算出されるタップ密度を、本発明の天然黒鉛粒子(a)のタップ密度として定義する。
【0031】
(vii)配向比
天然黒鉛粒子(a)の粉体の配向比は、通常0.005以上、好ましくは0.01以上、更に好ましくは0.015以上であり、また、通常0.6以下、好ましくは0.5以下、より好ましくは0.4以下である。配向比が上記範囲を下回ると、高速充放電特性が低下する傾向が見られる場合がある。なお、上記範囲の通常の上限である0.6とは、炭素質材料の配向比の理論上限値である。
【0032】
配向比は、試料を加圧成型してからX線回折測定により測定する。例えば、試料0.47gを直径17mmの成型機に充填し荷重600kgで圧縮して得た成型体を、粘土を用いて測定用試料ホルダーの面と同一面になるようにセットしてX線回折を測定する。得られた炭素の(110)回折と(004)回折のピーク強度から、{(110)回折ピーク強度/(004)回折ピーク強度}で表わされる比を算出する。当該測定で算出される配向比を、本発明の天然黒鉛粒子(a)の配向比と定義する。
【0033】
X線回折測定条件は次の通りである。なお、「2θ」は回折角を示す。
・ターゲット:Cu(Kα線)グラファイトモノクロメーター
・スリット :発散スリット=0.5度
受光スリット=0.15mm
散乱スリット=0.5度
・測定範囲、ステップ角度及び計測時間:
(110)面;75度≦2θ≦80度,1度/60秒
(004)面;52度≦2θ≦57度,1度/60秒
【0034】
(2)天然黒鉛粒子(a)の形状
本発明における天然黒鉛粒子(a)は図1に示すように表面に凹凸を有していることが好ましい。当該凹凸のうち凸部分とは、球形化黒鉛の丸みをそのまま維持した部分のことであり、凹部分とは、加圧処理、好ましくは等方的に加圧したCIP処理により他の黒鉛粒子によって圧縮された部分のことを意味する。
【0035】
(3)天然黒鉛粒子(a)の製造方法
本発明の天然黒鉛粒子(a)の製造方法は、上述した物性を満たせば特に制限はない。以下に好ましい製造方法の一例を記載する。
例えば、天然黒鉛粒子(a)のは、原料天然黒鉛粒子を加圧により成型する工程(加圧処理)を行うことが好ましい。
【0036】
・天然黒鉛粒子(a)及び原料となる天然黒鉛粒子の種類
天然黒鉛は、商業的にも容易に入手可能であり、理論上372mAh/gの高い充放電容量を有することができ、さらに他の負極活物質を用いた場合よりも高電流密度での充放電特性の改善効果が著しく大きいために好ましい。
【0037】
天然黒鉛としては、不純物の少ないものが好ましく、必要に応じて種々の精製処理を施して用いる。また、黒鉛化度の大きいものが好ましく、具体的には、X線広角回折法による(002)面の面間隔(d002)が、3.37Å(0.337nm)未満のものが好ましい。
天然黒鉛としては、例えば、高純度化した鱗片状黒鉛や球形化した黒鉛を用いることができる。中でも、粒子の充填性や充放電レート特性の観点から、球形化処理を施した球状
黒鉛が特に好ましい。
【0038】
球形化処理に用いる装置としては、例えば、衝撃力を主体に粒子の相互作用も含めた圧縮、摩擦、せん断力等の機械的作用を繰り返し粒子に与える装置を用いることができる。
具体的には、ケーシング内部に多数のブレードを設置したローターを有し、そのローターが高速回転することによって、内部に導入された炭素材に対して衝撃圧縮、摩擦、せん断力等の機械的作用を与え、表面処理を行なう装置が好ましい。また、炭素材を循環させることによって機械的作用を繰り返して与える機構を有するものであるのが好ましい。
好ましい装置として、例えば、ハイブリダイゼーションシステム(奈良機械製作所社製)、クリプトロン(アーステクニカ社製)、CFミル(宇部興産社製)、メカノフュージョンシステム(ホソカワミクロン社製)、シータコンポーザ(徳寿工作所社製)等が挙げられる。これらの中で、奈良機械製作所社製のハイブリダイゼーションシステムが好ましい。
【0039】
例えば前述の装置を用いて処理する場合は、回転するローターの周速度を30〜100m/秒にすることが好ましく、40〜100m/秒にすることがより好ましく、50〜100m/秒にすることが更に好ましい。また、球形化処理は炭素質物を単に装置内を通過させるだけでも可能であるが、30秒以上装置内を循環又は滞留させて処理することが好ましく、1分以上装置内を循環又は滞留させて処理することがより好ましい。
【0040】
・原料天然黒鉛粒子を加圧により成型する工程(加圧処理)
本工程では、原料天然黒鉛粒子を加圧して成型する。好ましくは、等方的に加圧処理(
CIP)する。なお、原料天然黒鉛粒子を等方的に加圧する処理することは、黒鉛粒子表
面に凹凸を形成させて均一に粒子内空隙を減らすことで、所定の内部空隙率となるため好ましい。
【0041】
加圧処理によって成型する方法は、特に限定されず、静水圧プレス機、ロールコンパクター、ロールプレス、プリケット機、及びタブレット機により、等方的に加圧処理することが好ましい。
また、必要があればロールに彫り込まれたパターンどおりに、黒鉛粒子を加圧と同時に成型することも可能である。また、黒鉛粒子間に存在する空気を排気し、真空プレスする方法も適用できる。
【0042】
原料天然黒鉛粒子を加圧する圧力は、特に限定されるものではないが、通常50kgf/cm以上、好ましくは100kgf/cm、より好ましくは300kgf/cm以上、更に好ましくは500kgf/cm以上、特に好ましくは700kgf/cm以上である。また、加圧処理の上限は特に限定されないが、通常2000kgf/cm以下、好ましくは1800kgf/cm以下、より好ましくは1600kgf/cm以下、更に好ましくは1500kgf/cm以下である。
圧力が低すぎると、粒子内空隙量の減少、及び粒子表面における凹凸の形成が不十分になる傾向があり、圧力が高すぎると粉砕時に余計な力が必要となるため粒子が破壊され本来の特性を十分に発揮できなくなる傾向がある。
【0043】
加圧する時間は、通常1分以上、好ましくは2分以上、より好ましくは3分以上、さらに好ましくは4分以上である。また、通常30分以下、好ましくは25分以下、より好ましくは20分以下、更に好ましくは15分以下である。時間が長すぎると、生産性が著しく低下してしまう傾向があり、時間が短すぎると十分に処理が施されない傾向がある。
必要に応じて、加圧処理された天然黒鉛を解砕する工程を行ってもよい。その形状は任意であるが、通常は平均粒径(d50)が2〜50μmの粒状とする。平均粒径が5〜35μm、特に8〜30μmとなるように粉砕・分級することが好ましい。
【0044】
<炭素質物複合粒子(b)>
炭素質物複合粒子(b)は、炭素質物が複合化されているものであれば、特に制限はなく下記に記載の物性を満足すれば特に制限はない。
(1)炭素質物複合粒子(b)の物性
炭素質物複合粒子(b)の物性の測定方法は、特に制限がなければ天然黒鉛粒子(a)に記載の方法に準じるものとする。
【0045】
(i)DBP(フタル酸ジブチル)吸油量
本発明の炭素質物複合粒子(b)のフタル酸ジブチル吸油量(以下「DBP吸油量」と称する。)は、通常0.31mL/g以上0.85mL/g以下であり、好ましくは0.42mL/g以上、より好ましくは0.45mL/g以上、更に好ましくは0.50mL/g以上、また上限は通常0.85mL/g以下に対して、好ましくは0.80mL/g以下、更に好ましくは0.76mL/g以下である。
DBP吸油量がこの範囲よりも小さすぎると、非水系電解液の浸入可能な空隙が少なくなる為、急速充放電をさせた時にリチウムイオンの挿入脱離が間に合わなくなり、それに伴いリチウム金属が析出しサイクル特性が悪化する傾向がある。一方、この範囲よりも大きすぎると、極板作製時にバインダーが空隙に吸収され易くなり、それに伴い極板強度の低下や初期効率の低下を招く傾向がある。
【0046】
なお、DBP吸油量の測定は、測定材料を用いて以下の手順で行なうことができる。
DBP吸油量の測定はJIS K6217規格の粘度に準拠し、測定材料を40g投入し、滴下速度4ml/min、回転数125rpmとし、トルクの最大値が確認されるまで測定を実施し、測定開始から最大トルクを示す間の範囲で、最大トルクの70%のトルクを示した時の滴下油量から算出された値によって定義される。
【0047】
(ii)BET比表面積
本発明の炭素質物複合粒子(b)の比表面積は、BET法を用いて測定した比表面積の値であり、通常0.5m・g−1以上6.5m・g−1以下であり、好ましくは1.0m・g−1以上、更に好ましくは1.3m・g−1以上、特に好ましくは1.5m・g−1以上であり、また、通常6.5m・g−1以下に対して、好ましくは6.0m・g−1以下、更に好ましくは5.5m・g−1以下、特に好ましくは5.0m・g−1以下である。
比表面積の値がこの範囲を下回ると、負極材料として用いた場合の充電時にリチウムイオンの受け入れ性が悪くなりやすく、リチウム金属が電極表面で析出しやすくなり、サイクル特性が悪化する傾向がある。一方、この範囲を上回ると、負極材料として用いた時に非水系電解液との反応性が増加し、初期充放電効率が低下しやすく、好ましい電池が得られ難い。
【0048】
(iii)ラマンR値、ラマン半値幅
本発明の炭素質物複合粒子(b)からなる粒子のラマンR値は、アルゴンイオンレーザーラマンスペクトル法を用いて測定した値であり、通常0.03以上0.19以下であり、好ましくは0.05以上、更に好ましくは0.07以上であり、また、通常0.19以下に対して、好ましくは0.18以下、更に好ましくは0.16以下、特に好ましくは0.14以下である。
【0049】
ラマンR値が上記範囲を下回ると、粒子表面の結晶性が高くなり過ぎて、充放電に伴ってリチウムイオンが層間に入るサイトが少なくなる場合がある。即ち、充電受入性が低下しサイクル特性が悪化する場合がある。また、集電体に塗布した後、プレスすることによって負極を高密度化した場合に電極板と平行方向に結晶が配向しやすくなり、負荷特性の
低下を招く場合がある。一方、上記範囲を上回ると、粒子表面の結晶性が低下し、非水系電解液との反応性が増し、初期効率の低下やガス発生の増加を招く場合がある。
【0050】
(iv)表面官能基量O/C
本発明の炭素質物複合粒子(b)の表面官能基量O/Cは、下記式2で表されるO/Cの値が通常0.1%以上、好ましくは0.2%以上、更に好ましくは0.3%以上、特に好ましくは0.5以上であり、通常2.2%以下、好ましくは2.0%以下、更に好ましくは1.8%以下である。表面官能基量O/Cが小さすぎると、電解液との反応性に乏しく、安定なSEI形成ができずにサイクル特性が悪化する虞がある。一方、表面官能基量O/Cが大きすぎると、粒子表面の結晶が乱れ、電解液との反応性が増し、不可逆容量の増加やガス発生の増加を招く虞がある。
【0051】
式2
O/C(%)={X線光電子分光法(XPS)分析におけるO1sのスペクトルのピーク面積に基づいて求めたO原子濃度/XPS分析におけるC1sのスペクトルのピーク面積に基づいて求めたC原子濃度}×100
本発明における表面官能基量O/CはX線光電子分光法(XPS)を用いて測定することができる。
【0052】
表面官能基量O/Cは、X線光電子分光法測定としてX線光電子分光器を用い、測定対象を表面が平坦になるように試料台に載せ、アルミニウムのKα線をX線源とし、マルチプレックス測定により、C1s(280〜300eV)とO1s(525〜545eV)のスペクトルを測定する。得られたC1sのピークトップを284.3eVとして帯電補正し、C1sとO1sのスペクトルのピーク面積を求め、更に装置感度係数を掛けて、CとOの表面原子濃度をそれぞれ算出する。得られたOとCの原子濃度比O/C(O原子濃度/C原子濃度)を負極材の表面官能基量O/Cと定義する。
【0053】
(v)タップ密度
本発明の炭素質物複合粒子(b)のタップ密度は、通常0.7g・cm−3以上、好ましくは0.8g・cm−3以上、更に好ましくは0.9g・cm−3以上であり、また、通常1.25g・cm−3以下、好ましくは1.2g・cm−3以下、更に好ましくは1.18g・cm−3以下、特に好ましくは1.15g・cm−3以下である。
中でも0.7g・cm−3以上1.2g・cm−3以下であることが好ましい。
タップ密度が、上記範囲を下回ると、負極として用いた場合に充填密度が上がり難く、高容量の電池を得ることができない場合がある。また、上記範囲を上回ると、電極中の粒子間の空隙が少なくなり過ぎ、粒子間の導電性が確保され難くなり、好ましい電池特性が得られにくい場合がある。
【0054】
(vi)平均粒径d50
本発明の炭素質物複合粒子(b)の体積基準平均粒径は、レーザー回折・散乱法により求めた体積基準の平均粒径d50(メジアン径)が、通常1μm以上、好ましくは3μm以上、更に好ましくは5μm以上、特に好ましくは7μm以上であり、また、通常100μm以下、好ましくは50μm以下、更に好ましくは40μm以下、特に好ましくは30μm以下である。
平均粒径d50が小さすぎると、不可逆容量が増大して、初期の電池容量の損失を招くことになる場合がある。また、大きすぎると、塗布により電極を作製する際に、不均一な塗面になりやすく、電池作製工程上、望ましくない場合がある。
【0055】
(vii)X線パラメータ
本発明の炭素質物複合粒子(b)の学振法によるX線回折で求めた炭素質材料のc軸方
向の結晶子サイズ(Lc)、及びa軸方向の結晶子サイズ(La)は、30nm以上であることが好ましく、中でも100nm以上であることが更に好ましい。結晶子サイズがこの範囲であれば、負極材に充電可能なリチウム量が多くなり、高容量を得易いので好ましい。
【0056】
(viii)配向比
本発明の炭素質物複合粒子(b)の粉体の配向比は、通常0.005以上、好ましくは0.01以上、更に好ましくは0.015以上であり、また、通常0.67以下、好ましくは0.5以下、より好ましくは0.4以下である。
配向比が上記範囲を下回ると、高密度充放電特性が低下する傾向が見られる場合がある。なお、上記範囲の通常の上限は、炭素質材料の配向比の理論上限値である。
【0057】
(2)炭素質物複合粒子(b)の形態及び構造 本発明の炭素質物複合粒子(b)からなる粒子の形態は、特に限定はされないが、球状、楕円状、塊状、板状、多角形状などが挙げられ、中でも球状、楕円状、塊状、多角形状が負極とした時に粒子の充填性を向上することができるので好ましい。
また、炭素質物複合粒子(b)は上述した物性を満たし、炭素質物が複合化されていれば特に制限はないが、具体的には炭素層を備える黒鉛粒子が挙げられる。
【0058】
黒鉛粒子は、例えば鱗片状、塊状又は板状の天然に産出される黒鉛、並びに石油コークス、石炭ピッチコークス、石炭ニードルコークス及びメソフェーズピッチ等を2500℃以上に加熱して製造した人造黒鉛に、球形化処理を与えることで粒子状に形成された球形化黒鉛粒子を用いることができる。これらの中でも、球形化天然黒鉛が特に好ましい。
また炭素層は、非晶質炭素又は黒鉛からなるものが挙げられる。炭素層を備える黒鉛粒子の形態としては、炭素質物が被覆されている黒鉛(炭素質物被覆黒鉛)の構造であることが好ましく、非晶質炭素が被覆された黒鉛粒子、黒鉛質物が被覆された黒鉛粒子がより好ましく、黒鉛質物で被覆された黒鉛粒子が、電解液との界面である粒子表面を効率的に改質できる点から特に好ましい。
「炭素質物が被覆されている」とは、「表面の少なくとも一部に炭素層を備えた」とも表現でき、炭素層が黒鉛粒子の表面の一部又は全部を層状に覆う形態のみならず、炭素層が表面の一部又は全部に付着・添着する形態をも包含する。炭素層は、表面の全部を被覆するように備えていてもよく、一部を被覆あるいは付着・添着していてもよい。
【0059】
(3)炭素質物複合粒子(b)の製造方法
炭素質物複合粒子(b)は、上記性状を具備していれば、どのような製法で作製しても問題ないが、例えば、日本国特開2007−042611号公報や国際公開第2006−025377号等に記載の製造方法を参考にして製造することで得ることができる。
具体的には、上述した天然黒鉛粒子(a)に記載した炭素材を原料として用いることができる。この中でも、例えば、鱗片状、鱗状、板状および塊状の天然で産出される黒鉛、並びに石油コークス、石炭ピッチコークス、石炭ニードルコークスおよびメソフェーズピッチなどを2500℃以上で加熱して製造した人造黒鉛に、前述のような力学的エネルギー処理を与えて製造した球形化黒鉛粒子を原料として用いることが好ましい。さらに当該球形化黒鉛粒子に力学的エネルギーを加えて表面を粗面化処理を施した(凹凸を形成した)黒鉛粒子を原料に用いることが、内部空隙を減らすことで粒子の充填密度が高くなり、電極内で配向しにくくなる点からさらに好ましい。
【0060】
炭素質物複合粒子(b)が、黒鉛質物で被覆された黒鉛粒子である場合、炭素質物被覆黒鉛粒子は、前記球形化黒鉛粒子に、石油系および石炭系のタールおよびピッチ、並びにポリビニルアルコール、ポリアクリルニトリル、フェノール樹脂およびセルロース等の樹脂を、必要により溶媒等を使って混合し、非酸化性雰囲気で好ましくは1500℃以上、
より好ましくは1800℃、特に好ましくは2000℃以上で焼成することで得られる。当該焼成後、必要により粉砕分級を行うこともある。
【0061】
球形化黒鉛粒子を被覆している黒鉛質炭素の量を示す被覆率は、0.1〜50%の範囲であることが好ましく、0.5〜30%の範囲であることがより好ましく、1〜20%の範囲であることが特に好ましい。
被覆率を0.1%以上とすることで、黒鉛質炭素で被覆したことによる不可逆容量の低減効果、すなわち核となる球形化黒鉛粒子の持つ不可逆容量を黒鉛質炭素で被覆することで生じる不可逆容量の低減効果を充分に生かすことができる。
また、被覆率を50%以下とすることで、焼成後の被覆黒鉛質炭素による粒子同士の結着力が強くなりすぎることを防ぐことにより、当該焼成後に結着した粒子を元に戻すために行う粉砕工程において、粉砕回転数を高めたり、多段粉砕にする等の操作を不要とすることができる。また、被覆率を50%以下とすることで、前記被覆黒鉛質炭素による粒子同士の結着力が強くなることに伴い、黒鉛質炭素被覆黒鉛粒子のBET比表面積増加による不可逆容量の増加を防ぐことができる。
【0062】
<非水系二次電池用炭素材>
本発明に係る非水系二次電池用炭素材は、少なくとも天然黒鉛粒子(a)及び炭素質物複合粒子(b)を含有する混合物である。また、本発明の負極材は、製造方法によらず上述した特定条件の天然黒鉛粒子(a)及び炭素質物複合粒子(b)を適宜選択し、それらを混合することにより本発明の効果を発揮することができる。
【0063】
(1)天然黒鉛粒子(a)及び炭素質物複合粒子(b)の混合方法
天然黒鉛粒子(a)及び炭素質物複合粒子(b)との混合に用いる装置としては、特に制限はないが、例えば、回転型混合機の場合には円筒型混合機、双子円筒型混合機、二重円錐型混合機、正立方型混合機、鍬形混合機;固定型混合機の場合には螺旋型混合機、リボン型混合機、Muller型混合機、Helical Flight型混合機、Pugmill型混合機、流動化型混合機等を用いることができる。
【0064】
(2)天然黒鉛粒子(a)及び炭素質物複合粒子(b)の混合割合
本発明の負極材は、上記の天然黒鉛粒子(a)及び炭素質物複合粒子(b)を含む混合炭素材である。本発明の負極材において、天然黒鉛粒子(a)及び炭素質物複合粒子(b)の総量に対する天然黒鉛粒子(a)の割合(質量比(a)/((a)+(b)))は、通常0.1以上0.9以下であり、好ましくは0.2以上、より好ましくは0.3以上、また、通常0.9以下に対して好ましくは0.8以下、より好ましくは0.7以下、更に好ましくは0.6以下である。
【0065】
天然黒鉛粒子(a)及び炭素質物複合粒子(b)の総量に対する天然黒鉛粒子(a)の割合が多すぎると、不可逆容量の増加を防ぎにくくなる傾向がある。また、天然黒鉛粒子(a)の割合が少なすぎると、天然黒鉛粒子(a)の特に優れた特性であるサイクル特性が充分に生かしきれない電極となる傾向があり、非水系二次電池用炭素材としてより良好なサイクル特性が得られにくい傾向がある。
【0066】
(3)非水系二次電池用炭素材の物性
本発明に係る非水系二次電池用炭素材は、少なくとも天然黒鉛粒子(a)と炭素質物複合粒子(b)とを含んでいるものであるが、その代表的な物性値を以下に示す。
(i)BET法による比表面積
本発明の非水系二次電池用炭素材のBET法による比表面積は、通常10m/g以下であることが好ましく、7m/g以下であることがより好ましい。また、2m/g以上であることが好ましく、3m/g以上であることがより好ましい。
本発明の非水系二次電池用炭素材の比表面積が大きすぎると、不可逆容量の増大による容量の低下を防ぎにくくなる傾向がある。また、比表面積が小さすぎると、電解液と負極材との接触面積が小さくなることから、十分な充放電負荷特性が得られない傾向がある。
【0067】
(ii)(002)面の面間隔(d002
本発明の非水系二次電池用炭素材のX線広角回折法による(002)面の面間隔(d002)は、通常3.37Å以下、好ましくは3.36Å以下である。また結晶子サイズLcは、通常900Å以上、好ましくは950Å以上である。(002)面の面間隔(d002)が大きすぎると、炭素材料の粒子の表面を除くほとんどの部分の結晶性が低くなり、非晶質炭素材料に見られるような不可逆容量が大きいことによる容量低下が見られる傾向がある。また結晶子サイズLcが小さすぎると、結晶性が低くなる傾向がある。
【0068】
(iii)タップ密度
本発明の非水系二次電池用炭素材のタップ密度は、通常1.2g/cm以下、好ましくは1.1g/cm以下、より好ましくは1.0g/cm以下である。また0.8g/cm以上、好ましくは0.9g/cm以上である。
負極材のタップ密度が大きすぎると、電極にした際に粒子間の接点が取りにくくなる傾向がある。また、タップ密度が小さすぎると電極を作製するときのスラリー特性が悪化し、電極の作製が難しくなる傾向がある。
【0069】
(iv)ラマンR値
本発明の非水系二次電池用炭素材のアルゴンイオンレーザーラマンスペクトルにおける1580cm−1付近のピーク強度に対する1360cm−1付近のピーク強度比であるラマンR値は、通常0.001以上、好ましくは0.005以上であり、より好ましくは0.01以上であり、通常0.7以下、好ましくは0.6以下、より好ましくは0.5以下であることが好ましい。
ラマンR値が小さすぎると、粒子表面の結晶性が高くなり過ぎて、高密度化した場合に電極板と平行方向に結晶が配向し易くなり、負荷特性の低下を招く虞がある。一方、ラマンR値が大きすぎると、粒子表面の結晶が乱れ、電解液との反応性が増し、充放電効率の低下やガス発生の増加を招く傾向がある。
【0070】
(v)アスペクト比
本発明の非水系二次電池用炭素材のアスペクト比は、通常15以下、好ましくは10以下、より好ましくは5以下である。アスペクト比が大きすぎると、電極にした際に、配向しやすい傾向がある。
(vi)平均粒径
本発明の非水系二次電池用炭素材の平均粒径(d50)は、通常5μm以上、好ましくは10μm以上、より好ましくは15μm以上であり、通常35μm以下、好ましくは30μm以下、より好ましくは25μm以下である。平均粒径が小さすぎると、比表面積が大きくなり不可逆容量の増加を防ぎにくくなる傾向がある。また、平均粒径が大きすぎると、電解液と炭素質物複合粒子(b)との接触面積が減ることによる急速充放電性の低下を防ぎにくくなる。
【0071】
<負極>
本発明の負極材を用いて負極を作製するためには、負極材に結着樹脂を配合したものを水性または有機系媒体でスラリーとし、必要によりこれに増粘材を加えて集電体に塗布し、乾燥すればよい。
結着樹脂としては、非水電解液に対して安定で、かつ非水溶性のものを用いるのが好ましい。例えば、スチレン、ブタジエンゴム、イソプレンゴムおよびエチレン・プロピレンゴム等のゴム状高分子;ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレートお
よび芳香族ポリアミド等の合成樹脂;スチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体やその水素添加物、スチレン・エチレン・ブタジエン、スチレン共重合体、スチレン・イソプレンおよびスチレンブロック共重合体並びにその水素化物等の熱可塑性エラストマー;シンジオタクチック−1,2−ポリブタジエン、エチレン・酢酸ビニル共重合体、およびエチレンと炭素数3〜12のα−オレフィンとの共重合体等の軟質樹脂状高分子;ポリテトラフルオロエチレン・エチレン共重合体、ポリビニリデンフルオライド、ポリペンタフルオロプロピレンおよびポリヘキサフルオロプロピレン等のフッ素化高分子などを用いることができる。
有機系媒体としては、例えば、N−メチルピロリドンおよびジメチルホルムアミドを挙げることができる。
【0072】
結着樹脂によって負極材相互間や負極材と集電体との結着力が十分となり、負極から負極材が剥離することによる電池容量の減少およびリサイクル特性の悪化を防ぐことができることから、負極材100重量部に対して通常は0.1重量部以上、好ましくは0.2重量部以上用いることが好ましい。
また、負極の容量減少を防ぎ、かつリチウムイオンの負極材への出入が妨げられるなどの問題を防ぐことができることから、結着樹脂は負極材100重量部に対して10重量部以下とするのが好ましく、7重量部以下とするのがより好ましい。
【0073】
負極材と結着樹脂のスラリーに添加する増粘材としては、例えば、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロースおよびヒドロキシプロピルセルロース等の水溶性セルロース類、ポリビニルアルコール並びにポリエチレングリコール等を用いればよい。なかでも好ましいのはカルボキシメチルセルロースである。増粘材は負極材100重量部に対して、通常は0.1〜10重量部、好ましくは0.2〜7重量部となるように用いるのが好ましく、結着樹脂が少なすぎると電極の強度が維持できにくい傾向があり、結着樹脂が多すぎると電池容量の低下や抵抗の増大を招く。
【0074】
負極集電体としては、従来からこの用途に用い得ることが知られている、例えば、銅、銅合金、ステンレス鋼、ニッケル、チタンおよび炭素などを用いればよい。集電体の形状は通常はシート状であり、その表面に凹凸を形成したものや、ネットおよびパンチングメタルなどを用いるものも好ましい。
集電体に負極材と結着樹脂のスラリーを塗布・乾燥した後は、加圧して集電体上に形成された電極密度を大きくし、もって負極層単位体積当たりの電池容量を大きくすることが好ましい。電極の密度は通常1.2g/cm以上、好ましくは1.3g/cm以上であり、通常1.8g/cm以下、好ましくは1.6g/cm以下ある。
電極の密度が小さすぎると、電極の厚みの増大に伴う電池の容量の低下を防ぎにくくなる傾向がある。また、電極密度が大きすぎると、電極内の粒子間空隙が減少に伴い空隙に保持される電解液量が減り、Liイオンの移動性が小さくなり急速充放電特性が低くなることを防ぎにくくなる傾向がある。
【0075】
[非水系二次電池]
本発明に係る非水系二次電池は、上記の負極を用いる以外は、常法に従って作製することができる。
正極材料としては、例えば、基本組成がLiCoOで表されるリチウムコバルト複合酸化物;LiNiOで表されるリチウムニッケル複合酸化物;LiMnOおよびLiMnで表されるリチウムマンガン複合酸化物等のリチウム遷移金属複合酸化物、二酸化マンガン等の遷移金属酸化物、並びにこれらの複合酸化物混合物等を用いればよい。
さらにはTiS、FeS、Nb、Mo、CoS、V、CrO、V、FeO、GeOおよびLiNi0.33Mn0.33Co0.33等を用いることもできる。
【0076】
前記正極材料に結着樹脂を配合したものを適当な溶媒でスラリー化して集電体に塗布・乾燥することにより正極を作製できる。なおスラリー中にはアセチレンブラックおよびケッチェンブラック等の導電材を含有させることが好ましい。また所望により増粘材を含有させてもよい。増粘材および結着樹脂としてはこの用途に周知のもの、例えば負極の作製に用いるものとして例示したものを用いればよい。
【0077】
正極材料100重量部に対する導電剤の配合比率は通常0.2重量部以上、好ましくは0.5重量部以上、より好ましくは1重量部以上であり、通常20重量部以下、好ましくは15重量部以下、より好ましくは10重量部以下である。
正極材料100重量部に対する結着樹脂の配合比率は、結着樹脂を水でスラリー化するときは0.2〜10重量部が好ましく、特に0.5〜7重量部が好ましい。結着樹脂をN−メチルピロリドンなどの結着樹脂を溶解する有機溶媒でスラリー化するときには0.5〜20重量部、特に1〜15重量部が好ましい。
【0078】
正極集電体としては、例えば、アルミニウム、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、ニオブおよびタンタル等並びにこれらの合金が挙げられる。なかでもアルミニウム、チタンおよびタンタル並びにその合金が好ましく、アルミニウムおよびその合金が最も好ましい。
電解液も従来周知の非水溶媒に種々のリチウム塩を溶解させたものを用いることができる。
非水溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネートおよびビニレンカーボネート等の環状カーボネート;ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネートおよびジエチルカーボネート等の鎖状カーボネート;γ−ブチロラクトンなどの環状エステル;クラウンエーテル、2−メチルテトラヒドロフラン、テトラヒドロフラン、1,2−ジメチルテトラヒドロフランおよび1,3−ジオキソラン等の環状エーテル;1,2−ジメトキシエタン等の鎖状エーテルなどを用いればよい。
通常はこれらをいくつか併用する。なかでも環状カーボネート及び鎖状カーボネート、又はこれに更に他の溶媒を併用することが好ましい。
【0079】
また電解液にはビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、無水コハク酸、無水マレイン酸、プロパンスルトンおよびジエチルスルホン等の化合物やジフルオロリン酸リチウムのようなジフルオロリン酸塩等が添加されていても良い。更に、ジフェニルエーテルおよびシクロヘキシルベンゼン等の過充電防止剤が添加されていても良い。
非水溶媒に溶解させる電解質としては、例えば、LiClO、LiPF、LiBF、LiCFSO、LiN(CFSO、LiN(CFCFSO、LiN(CFSO)(CSO)およびLiC(CFSOなどを用いることができる。電解液中の電解質の濃度は通常は0.5〜2mol/L、好ましくは0.6〜1.5mol/Lである。
【0080】
正極と負極との間に介在させるセパレーターには、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィンの多孔性シートや不織布を用いることが好ましい。
本発明に係る非水系二次電池は、負極/正極の容量比を1.01〜1.5に設計することが好ましく1.2〜1.4に設計することが電池の劣化を抑制できる点からより好ましい。
【実施例】
【0081】
以下に、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
[負極炭素材(炭素材)の物性評価]
(1)内部空隙率
Hgポロシメトリー解析により天然黒鉛粒子(a)の内部空隙率を算出した。まず、Hgポロシメトリーの測定方法は粉体を正確に秤量し、真空下(50μm/Hgx10分)で前処理した後、マイクロメリッテクス社製オートポアIV9520型を用いて、水銀圧入法により細孔分布を測定した。
【0082】
内部空隙率の算出方法は、得られた細孔分布(積分曲線)(L)を元に、傾きの最小値に対して接線(M)を引き、接線と積分曲線の分岐点(P)を求め、それよりも小さい細孔容積を粒子内細孔量(V)として定義する(図2)。得られた粒子内細孔量と黒鉛の真密度から内部空隙率を算出した。算出に用いた黒鉛の真密度は一般的な黒鉛の真密度の2.26g/cmを用いた。算出式を式1に示す。
【0083】
式1
内部空隙率(%)=[粒子内細孔量/{粒子内細孔量+(1/黒鉛の真密度)}]×100
【0084】
(2)凹部分の直径D/d50
SEM画像と断面SEM画像から天然黒鉛粒子(a)の表面の凹凸のうち、凹部分の近似円における直径(D)を求めた。SEM画像の測定方法は株式会社キーエンス社製VE−7800を用い、加速電圧5kVで測定した。得られた天然黒鉛粒子(a)のSEM画像の凹部分を円であると仮定して円近似をし、当該近似円の直径を天然黒鉛粒子(a)の凹部分の直径(D)とした。例として実施例1、比較例3に用いた天然黒鉛粒子(a)のSEM画像と近似した円を図1に示した。
天然黒鉛粒子(a)の平均粒径(d50)は、界面活性剤であるポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート(例として、Tween20(登録商標))の0.2質量%水溶液10mLに、サンプル0.01gを懸濁させ、市販のレーザー回折/散乱式粒度分布測定装置「HORIBA製LA−920」に導入し、28kHzの超音波を出力60Wで1分間照射した後、測定装置における体積基準のメジアン径として測定したものを、平均粒径(d50)とした。
【0085】
(3)フタル酸ジブチル(DBP)吸油量
本発明の炭素質物複合粒子(b)のうち、炭素質物被覆黒鉛粒子の物性の一つとして、DBP吸油量を測定した。
DBP吸油量の測定は、負極材を用いて以下の手順で行なった。
DBP吸油量の測定はJIS K6217規格の粘度に準拠し、測定材料を40g投入し、滴下速度4ml/min、回転数125rpmとし、トルクの最大値が確認されるまで測定を実施し、測定開始から最大トルクを示す間の範囲で、最大トルクの70%のトルクを示した時の滴下油量から算出された値によって定義した。
【0086】
(4)BET比表面積(SA)
炭素質物複合粒子(b)の比表面積を、比表面積測定装置(AMS8000、大倉理研社製)を用いて、窒素ガス吸着流通法によりBET1点法にて測定した。サンプル0.4gをセルに充填し、350℃に加熱して前処理を行った後、液体窒素温度まで冷却して、窒素30%、He70%のガスを飽和吸着させ、その後室温まで加熱して脱着したガス量を計測し、得られた結果から、通常のBET法により比表面積を算出した。
【0087】
(5)タップ密度
炭素質物複合粒子(b)のタップ密度は、粉体密度測定器(タップデンサーKYT−4000、(株)セイシン企業社製)を用い、直径1.6cm、体積容量20cmの円筒状タップセルに、目開き300μmの篩を通して、サンプルを落下させ、セルに満杯に充
填した後、ストローク長10mmのタップを1000回行なった後の体積と試料の重量から求めた。
【0088】
(6)ラマンR値
レーザーラマン分光光度計(NR−1800、日本分光社製)を用い、サンプルを測定セル内へ自然落下させることで試料充填し、測定セル内にアルゴンイオンレーザー光を照射しながら、測定セルをアルゴンイオンレーザー光と垂直な面内で回転させながら以下の条件により炭素質物複合粒子(b)を測定した。
【0089】
アルゴンイオンレーザー光の波長 :514.5nm
試料上のレーザーパワー :25mW
分解能 :4cm−1
測定範囲 :1100cm−1〜1730cm−1
ピーク強度測定、ピーク半値幅測定:バックグラウンド処理、スムージング処理(単純平均によるコンボリューション5ポイント)
ラマンR値は、1580cm−1付近の最大ピークP(Gバンド)と1358cm−1付近の最大ピークP(Dバンド)とのピーク強度Iの比、すなわちI/Iで定義した(F.Tuinstra,J.L.Koenig,J.Chem.Phys,53,1126[1970])。
【0090】
[負極シートの作製]
得られた天然黒鉛粒子(a)と炭素質物複合粒子(b)を含む負極炭素材を用い、活物質層密度1.75±0.03g/cmである活物質層を有する極板を作製した。
具体的には、上記負極炭素材20.00±0.02gに、1質量%カルボキシメチルセルロースNa塩(セロゲン4H、第一工業製薬社製)水溶液を20.00±0.02g(固形分換算で0.200g)、および重量平均分子量27万のスチレン・ブタジエンゴム水性ディスパージョン(BM400B、日本ゼオン社製)0.5±0.02g(固形分換算で0.1g)を、キーエンス製ハイブリッドミキサーで5分間撹拌し、30秒脱泡してスラリーを得た。
前記スラリーを、集電体である厚さ18μmの銅箔上に、負極材が12.8±0.2mg/cm付着するように、ドクターブレード法で、幅5cmに塗布し、室温で風乾を行った。更に110℃で30分乾燥後、直径20cmのローラを用いてロールプレスして、活物質層の密度が1.75g/cmになるよう調整し負極シートを得た。
【0091】
[負極シートの評価]
前記の方法で作製した負極シートの初期容量、サイクル維持率を下記方法により測定した。その結果を表1に示す。
(1)ラミネート型電池の作製方法
上記方法で作製した負極シートを6cm×4cmの長方形に切り出して負極とし、LiCoOからなる正極を同面積で切り出して、組み合わせた。負極と正極の間には、エチレンカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジメチルカーボネートの混合溶媒に、LiPFを1.2mol/Lになるように溶解させ、更に添加剤としてビニレンカーボネートを2体積%添加した電解液を含浸させたセパレータ(多孔性ポリエチレンフィルム製)を置き、ラミネート型電池を作製した。セルの作製は、水分値を20ppm以下に調整したドライボックス内で行った。
【0092】
上記の方法で作製したラミネート型電池を、12時間放置した後、電流密度0.2CmA/cmで、両電極間の電位差が4.1Vになるまで充電を行い、その後3Vになるまで0.2CmA/cmで放電を行った。これを2回繰り返し、更に同電流値で、両電極間の電位差が4.2Vになるまで充電し、3.0Vまで放電しコンディショニングを実施
した。
【0093】
(2)サイクル維持率の測定方法
後述の方法で作製したラミネート型電池を、0.8Cで4.2Vまで充電、0.5Cで3.0Vまでの放電を繰り返した。1サイクル目の放電容量を初期容量とした。また初期容量に対する200サイクル目の放電容量×100をサイクル維持率(%)とした。
(3)レート特性の測定方法
1C/0.2C放電レート(%)はサイクルの開始前の電池で0.5Cで4.2Vまで充電、続いて0.2Cで3.0Vまで放電した時の放電容量に対する、0.5Cで4.2Vまで充電、続いて1Cで3.0Vまで放電した時の放電容量の比率から算出した。
【0094】
・天然黒鉛粒子(a)の調製方法
球形化黒鉛を日本研究開発工業株式会社製の静水圧粉末成型装置を用いて処理を行なった。球形化黒鉛をゴム容器に充填しオイルによる加圧処理を行った。条件は加圧圧力を1000または300kgf/cm、加圧時間を5分間とし、成型物を得た。得られた成型物をハンマーミルにて、粒径が元の球形化黒鉛と同等になるまで解砕し、天然黒鉛粒子(a)を得た。
得られた天然黒鉛粒子(a)の内部空隙率、凹部分の直径(D)は上記方法により測定をおこなった。内部空隙率、凹部分の直径(D)/d50の値を表1にまとめた。
【0095】
・炭素質物複合粒子(b)の調製方法
原料黒鉛として体積基準平均粒径が17μmの球状天然黒鉛を用いた。粗面化工程として、アーステクニカ社製のクリプトロンオーブにて回転数6900rpmで原料黒鉛を粉砕し、粗面化黒鉛100重量部に対して原料有機物のピッチを30重量部の割合でニーダーを用いて混合した。得られた混合物を成形した後、不活性雰囲気1000℃で焼成、炭素化し、更に3000℃で黒鉛化した。得られた黒鉛質物被覆黒鉛を粗砕、微粉砕処理し、炭素質物複合粒子(b)の粉末サンプルを得た。得られた炭素質物被覆黒鉛の物性評価の結果(吸油量、比表面積、ラマンR値、及びタップ密度)を表1にまとめた。
【0096】
(実施例1〜4)
天然黒鉛粒子(a)と炭素質物複合粒子(b)である炭素質物被覆黒鉛として粗面化した黒鉛質物被覆黒鉛とを、表1に記載の質量比(a)/(a+b)で混合した。得られた炭素材料を用いて負極を作製し、上記方法によりラミネート型電池を作製して、初期放電容量と200サイクル目の放電容量から、200サイクル維持率を算出した。
また、0.5Cで4.2Vまで充電した後に放電レート0.2Cにおける放電容量に対する0.5Cで4.2Vまで充電した後に放電レート1Cにおける放電容量の比により、放電レート特性の検討を行なった。
結果を表1に示した。
【0097】
(比較例1〜4)
表1に記載の特性を有する天然黒鉛粒子(a)と炭素質物複合粒子(b)とを表1に記載の質量比で混合して炭素材を得た以外は、実施例1と同様の手法で電極を作製し各種測定を行った(比較例1〜3)。また、炭素質物複合粒子(b)を単独で用いて、実施例1と同様の手法で電極を作製し各種測定を行った(比較例4)。その結果を表1に示した。
【0098】
【表1】

【0099】
以上の実施例と比較例とから分かるように、実施例1〜4において天然黒鉛粒子(a)と炭素質物複合粒子(b)を混合することにより初期容量を維持したまま、サイクル維持率の向上が顕著に見られた。
特に実施例1〜3及び比較例4では、天然黒鉛粒子(a)と炭素質物複合粒子(b)との混合物であれば、(a)と(b)の質量比に関わらず、非常に高いサイクル特性を得られることが分かった。
【0100】
また、実施例1、4及び比較例1の結果から、天然黒鉛粒子(a)に加圧処理を施して内部空隙率を下げることにより、サイクル特性の著しい向上が見られた。加圧処理時に負荷する圧力によって、当該内部空隙率は制御することができるが、未処理時の内部空隙率
25%から20%に低減しただけでも、サイクル特性は向上した。
以上より、本発明に係る非水系二次電池用炭素材を電極に用いたリチウムイオン二次電池は、高い初期放電容量と放電レート特性を維持したまま、サイクル特性を向上し、これら3つの電池特性をバランスよく満たすことができる。これらの特性は、本発明における天然黒鉛粒子(a)と炭素質物複合粒子(b)とを混合することによって初めて達成されるものである。
【産業上の利用可能性】
【0101】
本発明に係る炭素材は、非水系二次電池用炭素材として用いることにより、高い初期容量と高いレート特性を維持したまま、サイクル特性に優れた非水系二次電池、中でもリチウムイオン二次電池を提供することができる。
【符号の説明】
【0102】
D:天然黒鉛粒子(a)の表面に形成された凹凸の凹部分における近似円の直径
L:Hgポロシメトリー測定における細孔分布(積分曲線)
M:Hgポロシメトリー測定における積分曲線の傾きの最小値部分に対する接線
P:Hgポロシメトリー測定における積分曲線と接線の分岐点
V:Hgポロシメトリー測定における粒子内細孔量

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部空隙率が1%以上20%以下である天然黒鉛粒子(a)とフタル酸ジブチル吸油量が0.31mL/g以上、0.85mL/g以下である炭素質物複合粒子(b)とを含有する非水系二次電池用炭素材。
【請求項2】
前記炭素質物複合粒子(b)が炭素質物被覆黒鉛粒子である、請求項1に記載の非水系二次電池用炭素材。
【請求項3】
前記天然黒鉛粒子(a)は、表面に凹凸を有しており、前記凹凸の凹部分の直径(D)が前記天然黒鉛粒子(a)の平均粒径(d50)に対して0.15倍以上、7倍以下である請求項1または2に記載の非水系二次電池用炭素材。
【請求項4】
前記炭素質物複合粒子(b)の比表面積が0.5m/g以上、6.5m/g以下、ラマンR値が0.03以上、0.19以下、及びタップ密度が0.7g/cm以上、1.2g/cm以下である請求項1〜3のいずれか1項に記載の非水系二次電池用炭素材料。
【請求項5】
前記天然黒鉛粒子(a)と前記炭素質物複合粒子(b)の質量比((a)/{(a)+(b)})が、0.1以上0.9以下である請求項1〜4のいずれか1項に記載の非水系二次電池用炭素材。
【請求項6】
集電体と、前記集電体上に形成された活物質層とを備える非水系二次電池用負極であって、前記活物質層が、請求項1〜5のいずれか1項に記載の非水系二次電池用炭素材を含有する、非水系二次電池用負極。
【請求項7】
正極及び負極、並びに、電解質を備える非水系二次電池であって、前記負極が、請求項6に記載の非水系二次電池用負極である、非水系二次電池。

【図2】
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【図1】
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【公開番号】特開2012−216537(P2012−216537A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−77466(P2012−77466)
【出願日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】