説明

非水電解液二次電池の製造方法

【課題】非水電解液を短時間で電極体内に含浸させることができる非水電解液二次電池の製造方法を提供する。
【解決手段】非水電解液140を、非水電解液140の溶質含有率よりも低い溶質含有率を有する第1液と、非水電解液140から第1液の成分を除いた残りの成分からなる第2液とに分けて用意する(ステップS2)。次いで、第1注入工程(ステップS3)において、電極体150を収容した電池ケース110内に、第1液を注入する。その後、第1含浸工程(ステップS4)において、第1液を電極体150内に含浸させる。次に、第2注入工程(ステップS5)において、第2液を電池ケース110内に注入する。その後、第2含浸工程(ステップS6)において、第2液を電極体150内に含浸させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解液二次電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池等の非水電解液二次電池は、携帯機器の電源として、また、電気自動車やハイブリッド自動車などの電源として注目されている。非水電解液二次電池の製造方法として、様々な方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−50339号公報
【0004】
特許文献1には、次のようなリチウムイオン二次電池の製造方法が提案されている。円筒型のリチウムイオン二次電池に、非水電解液を注入し、減圧下で含浸させる。特許文献1の実施例では、この注液を複数回繰り返す。また、減圧時には、減圧と加圧とを間欠的に繰り返し行う。これにより、電解液の含浸性が向上することが記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1には、非水電解液の注液を複数回に分割して注入することで、電解液の含浸性を向上できることが記載されている。具体的には、特許文献1では、非水電解液の全量を単純に分割(成分含有率が非水電解液と等しい液に分割)して、同等の非水電解液を分割して注入している。
【0006】
しかしながら、近年、非水電解液二次電池の製造時間について、より一層の短縮が求められている。このため、非水電解液を短時間で電極体内に含浸させる技術が求められていた。
【0007】
本発明は、かかる現状に鑑みてなされたものであって、非水電解液を短時間で電極体内に含浸させることができる非水電解液二次電池の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、正極、負極、及び、セパレータを有する電極体と、上記電極体を収容する電池ケースと、上記電極体内に含浸している非水電解液と、を有する非水電解液二次電池の製造方法において、上記非水電解液を、上記非水電解液の溶質含有率よりも低い溶質含有率を有する第1液と、上記非水電解液から上記第1液の成分を除いた残りの成分からなる第2液と、に分けて用意し、上記電極体を収容した上記電池ケース内に、上記第1液を注入する第1注入工程と、上記第1液を上記電極体内に含浸させる第1含浸工程と、上記第2液を上記電池ケース内に注入する第2注入工程と、上記第2液を上記電極体内に含浸させる第2含浸工程と、を備える非水電解液二次電池の製造方法である。
【0009】
上述の製造方法では、非水電解液を電池ケース内に注入する工程を、第1注入工程と第2注入工程の2回に分けている。しかも、非水電解液を電池ケース内に注入するにあたり、非水電解液の全量を単純に分割(成分含有率が非水電解液と等しい2液に分割)するのではなく、非水電解液の溶質含有率よりも低い溶質含有率を有する第1液と、非水電解液から第1液を除いた残りの成分からなる第2液と、に分けて用意する。
【0010】
そして、まず、第1注入工程において、電極体を収容した電池ケース内に、上記第1液を注入する。その後、第1含浸工程において、第1液を電極体内に含浸させる。非水電解液の溶質含有率よりも低い溶質含有率を有する第1液は、非水電解液よりも、電極体内への含浸速度が速くなる。すなわち、第1液の電極体内への含浸速度は、非水電解液の含浸速度よりも速くなる。液中に含まれる溶質は、電極体内への液の含浸速度を低下させるものであるが、第1液では、溶質の含有率が、非水電解液よりも低くなっているからである。
【0011】
次に、第2注入工程において、上記第2液を電池ケース内に注入し、その後、第2含浸工程において、上記第2液を電極体内に含浸させる。電極体は、既に、第1液(溶媒)によって濡れているので、溶質含有率の高い第2液でも、速やかに(短時間で)電極体内に含浸させることができる。
【0012】
以上より、上述の製造方法によれば、非水電解液を短時間で電極体内に含浸させることができる。
【0013】
なお、「非水電解液の溶質含有率よりも低い溶質含有率を有する第1液」には、溶質含有率が0wt%の第1液も含まれる。すなわち、非水電解液に含まれる溶媒の一部のみからなる第1液も含まれる。
また、第1含浸工程において第1液が完全に電極体内に含浸せず、第1液の一部が電極体外に残留している場合、第2含浸工程では、第2液と共に、この残留している第1液の一部も、電極体内に含浸される。
【0014】
さらに、上記の非水電解液二次電池の製造方法であって、前記第1液は、前記非水電解液に含まれる溶媒の一部からなる非水電解液二次電池の製造方法とすると良い。
【0015】
上述の製造方法では、非水電解液に含まれる溶媒の一部を、第1液としている。すなわち、第1注入工程において、非水電解液に含まれる溶媒の一部を、電池ケース内に注入すし、その後、第1含浸工程において、この溶媒を、電極体内に含浸させる。電極体内への溶媒の含浸速度は、非水電解液の含浸速度に比べて、極めて速くなる。しかも、第2含浸工程における第2液の含浸速度も速くすることができる。
従って、上述の製造方法によれば、非水電解液を、より短時間で電極体内に含浸させることができる。
【0016】
なお、非水電解液に含まれる溶媒が複数種類の成分(例えば、DMCとEMC)からなる場合、「非水電解液に含まれる溶媒の一部」としては、例えば、溶媒のうちの1種類の溶媒成分(例えば、DMCのみ)が挙げられる。また、複数種類の成分(例えば、DMCとEMC)を有するが、その液量を、非水電解液に含まれる溶媒の全量に対する一部の量(例えば、DMCの一部とEMCの一部)としたものであっても良い。
【0017】
また、「非水電解液に含まれる溶媒の一部」には、微量の溶質成分を含有したものも含まれる。すなわち、上述の第1液は、実質的に、非水電解液に含まれる溶媒の一部からなるものをいい、微量(電極体への含浸速度に影響を及ぼさない量)の溶質成分を含有したものを排除するものではない。
【0018】
さらに、上記いずれかの非水電解液二次電池の製造方法であって、前記第1含浸工程及び前記第2含浸工程では、前記電池ケース内を減圧した後加圧する操作を、複数回繰り返し行う非水電解液二次電池の製造方法とすると良い。
【0019】
上述の製造方法では、第1含浸工程及び第2含浸工程において、電池ケース内を減圧した後加圧する操作を、複数回繰り返し行う。これにより、電極体内への第1液及び第2液の含浸速度を、より一層高めることができる。
【0020】
なお、電池ケース内を「減圧した後加圧する」操作としては、例えば、電池ケース内を、大気圧状態から減圧した後、大気圧まで上昇(大気開放)させる操作が挙げられる。
また、第1含浸工程及び第2含浸工程では、電池ケース内を減圧した後加圧する操作を複数回繰り返し行った後、所定時間、電池ケース内を一定の圧力状態(例えば、大気圧状態)として、放置するようにしても良い。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】非水電解液二次電池の断面図である。
【図2】同非水電解液二次電池の電極体の斜視図である。
【図3】同電極体を構成する正極を示す図である。
【図4】同電極体を構成する負極を示す図である。
【図5】同電極体を形成するときの様子を示す図である。
【図6】実施形態にかかる非水電解液二次電池の製造方法の流れを示すフローチャートである。
【図7】実施形態にかかる非水電解液二次電池の製造方法を説明する図である。
【図8】非水電解液の含浸完了時間を比較した図である。
【図9】電極体内におけるLiPF6の濃度分布を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
まず、本実施形態の製造方法により製造される非水電解液二次電池100について説明する。
非水電解液二次電池100は、図1に示すように、直方体形状の電池ケース110と、正極外部端子121と、負極外部端子131とを備える、角形密閉式のリチウムイオン二次電池である。このうち、電池ケース110は、直方体形状の収容空間をなす金属製の角形収容部111と金属製の蓋部112とを有するハードケースである。電池ケース110(角形収容部111)の内部には、電極体150などが収容されている。
【0023】
電極体150は、シート状の正極155、負極156、及びセパレータ157を扁平形状に捲回した扁平型の捲回電極体である(図2参照)。
【0024】
正極155は、図3に示すように、長手方向DAに延びる帯状で、アルミニウム箔からなる正極集電部材151と、この正極集電部材151の両面に、それぞれ長手方向DAに延びる帯状に配置された2つの正極合材層152とを有している。正極合材層152は、正極活物質153と、アセチレンブラックからなる導電材と、PVdF(結着剤)とを、89:8:3(重量比)の割合で含んでいる。
【0025】
正極155のうち、正極合材層152が塗工されている部位を、正極合材層塗工部155cという。一方、正極合材層152を有することなく、正極集電部材151のみからなる部位を、正極合材層未塗工部155bという。正極合材層未塗工部155bは、正極155の一方長辺に沿って、正極155の長手方向DAに帯状に延びている。この正極合材層未塗工部155bは、捲回されて渦巻き状をなし、電極体150の軸線方向(図1において左右方向)一方端部(図1及び図2において右端部)に位置している。
なお、本実施形態では、正極活物質153として、LiNi1/3Co1/3Mn1/32を用いている。
【0026】
また、負極156は、図4に示すように、長手方向DAに延びる帯状で、銅箔からなる負極集電部材158と、この負極集電部材158の両面に、それぞれ長手方向DAに延びる帯状に配置された2つの負極合材層159とを有している。負極合材層159は、負極活物質154とSBR(結着剤)とCMC(増粘剤)とを、98:1:1(重量比)の割合で含んでいる。
【0027】
負極156のうち、負極合材層159が塗工されている部位を、負極合材層塗工部156cという。一方、負極合材層159を有することなく、負極集電部材158のみからなる部位を、負極合材層未塗工部156bという。負極合材層未塗工部156bは、負極156の一方長辺に沿って、負極156の長手方向DAに帯状に延びている。この負極合材層未塗工部156bは、捲回されて渦巻き状をなし、電極体150の軸線方向他方端部(図1及び図2において左端部)に位置している。
なお、本実施形態では、負極活物質154として、黒鉛を用いている。
【0028】
正極合材層未塗工部155bは、正極接続部122を通じて、正極外部端子121に電気的に接続されている(図1参照)。また、負極合材層未塗工部156bは、負極接続部132を通じて、負極外部端子131に電気的に接続されている。なお、正極外部端子121と正極接続部122とは一体に形成され、正極集電端子部材120を構成している。また、負極外部端子131と負極接続部132とは一体に形成され、負極集電端子部材130を構成している。
【0029】
セパレータ157は、PP(ポリプロピレン)/PE(ポリエチレン)/PP(ポリプロピレン)の3層からなるセパレータである。このセパレータ157は、正極155と負極156との間に介在して、これらを離間させている。セパレータ157には、リチウムイオンを有する非水電解液140を含浸させている。
【0030】
なお、本実施形態では、非水電解液140として、DMC(ジメチルカーボネート)とEMC(エチルメチルカーボネート)と添加剤とを混合した非水溶媒中に、Li塩である六フッ化燐酸リチウム(LiPF6)とEC(エチレンカーボネート)とを溶解した非水電解液を用いている。詳細には、非水電解液140は、40.1gのDMC(ジメチルカーボネート)と、28.6gのEMC(エチルメチルカーボネート)と、2.5gの添加剤と、16.0gのLiPF6 と、37.8gのEC(エチレンカーボネート)とを有している。この非水電解液140では、溶質含有率が43.0wt%となる。また、非水電解液140中のLiPF6のモル濃度は、1.1mol/Lとなる。
【0031】
次に、本実施形態にかかる非水電解液二次電池の製造方法について説明する。
まず、ステップS1において、電池を組み立てる。具体的には、図3に示すように、帯状の正極集電部材151の表面(両面)に正極合材層152が塗工された正極155を用意する。さらに、図4に示すように、帯状の負極集電部材158の表面(両面)に負極合材層159が塗工された負極156を用意する。
【0032】
次に、図5に示すように、負極156、セパレータ157、正極155、及びセパレータ157を、この順に重ねて捲回する。詳細には、正極155の正極合材層未塗工部155bと負極156の負極合材層未塗工部156bとが、幅方向(図5において左右方向)について互いに反対側に位置するようにして、負極156、セパレータ157、正極155、及びセパレータ157を扁平形状に捲回して、電極体150を形成する(図2参照)。
【0033】
次いで、電極体150の正極合材層未塗工部155bと正極集電端子部材120の正極接続部122とを溶接する。また、電極体150の負極合材層未塗工部156bと負極集電端子部材130の負極接続部132とを溶接する。その後、正極集電端子部材120及び負極集電端子部材130が溶接された電極体150を、角形収容部111内に収容すると共に、蓋部112で角形収容部111の開口を閉塞する。次いで、蓋部112と角形収容部111とを溶接する。これにより、電池ケース110内に電極体150が収容された組み立て体101が完成する(図7参照)。なお、蓋部112の中央には、蓋部112を貫通する注液孔112bが形成されている。
【0034】
次に、ステップS2に進み、第1液及び第2液を用意する。具体的には、非水電解液140を、非水電解液140の溶質含有率よりも低い溶質含有率を有する第1液と、非水電解液140から第1液の成分を除いた残りの成分からなる第2液とに分けて用意する。
【0035】
次いで、ステップS3(第1注入工程)に進み、電池ケース110の注液孔112bを通じて、第1液を電池ケース110内に注入する。
【0036】
その後、ステップS4(第1含浸工程)に進み、第1液を電極体150内に含浸させる。具体的には、電池ケース110内を減圧した後加圧する操作を、複数回(本実施形態では5回)繰り返し行う。詳細には、真空ポンプ(図示なし)を用いて、電池ケース110の注液孔112bを通じて、電池ケース110内のガスを外部に排出し、電池ケース110内を減圧(本実施形態では、大気圧から100kPa減圧)する。次いで、電池ケース110内を大気圧まで上昇(大気開放)させる。この操作を、複数回(本実施形態では5回)繰り返し行う。これにより、電極体150内への第1液の含浸速度を高めることができる。その後、一定時間(本実施形態では20分)、電池ケース110内を大気圧とした状態で放置する。
【0037】
次に、ステップS5(第2注入工程)に進み、電池ケース110の注液孔112bを通じて、第2液を電池ケース110内に注入する。
【0038】
その後、ステップS6(第2含浸工程)に進み、第2液を電極体150内に含浸させる。具体的には、ステップS4と同様に、電池ケース110内を減圧した後加圧する操作を、複数回(本実施形態では5回)繰り返し行う。詳細には、真空ポンプ(図示なし)を用いて、電池ケース110の注液孔112bを通じて、電池ケース110内のガスを外部に排出し、電池ケース110内を減圧(本実施形態では、大気圧から100kPa減圧)する。次いで、電池ケース110内を大気圧まで上昇(大気開放)させる。この操作を、複数回(本実施形態では5回)繰り返し行う。これにより、電極体150内への第2液の含浸速度を高めることができる。その後、電池ケース110内を大気圧とした状態で放置して、第1液及び第2液(非水電解液140)の含浸を完了させる。第1液及び第2液が電極体150内に含浸することで、電極体150内に非水電解液140が含浸したことになる。
【0039】
なお、ステップS4(第1含浸工程)において第1液が完全に電極体150内に含浸せず、第1液の一部が電極体150の外に残っている場合、ステップS6(第2含浸工程)では、第2液と共に、この残存する第1液の一部も、電極体150内に含浸される。
以上のようにして、電極体150内に非水電解液140を含浸させることができる。
【0040】
次に、注液孔112bを注液蓋114で封止した後、ステップS7に進み、非水電解液二次電池の初期充電を行う。例えば、1Cの定電流で、電池電圧値が4.1Vに至るまで充電し、その後、電池電圧値を4.1Vに保持しつつ充電を行い、充電電流値が0.1Aに低下した時点で充電を終了する。これにより、非水電解液二次電池をSOC100%にする。
以上のようにして、非水電解液二次電池100が完成する。
【0041】
なお、1Cは、定格容量値(公称容量値)の容量を有する電池を定電流放電して、1時間で放電終了となる電流値である。例えば、非水電解液二次電池の定格容量(公称容量)が5.0Ahである場合は、1C=5.0Aとなる。
【0042】
(実施例1)
実施例1では、第1液として、24gのDMC(ジメチルカーボネート)と16gのEMC(エチルメチルカーボネート)とを混合した溶媒を用いた(表1参照)。従って、第1液の溶質含有率=〔0/40〕×100=0(wt%)となる。
【0043】
また、第2液として、非水電解液140から、上記第1液の成分(24gのDMCと16gのEMC)を除いた残りの成分からなる液を用いた。具体的には、第2液として、16.1gのDMC(ジメチルカーボネート)と12.6gのEMC(エチルメチルカーボネート)と2.5gの添加剤とを混合した溶媒に、16gのLiPF6 と37.8gのEC(エチレンカーボネート)を溶解した液を用いた(表1参照)。従って、第2液の溶質含有率=〔(16.0+37.8)/85〕×100=63.3(wt%)となる。
【0044】
【表1】

【0045】
以上のように、本実施例1では、第1液の溶質含有率を、0wt%としている。従って、本実施例1では、第1液の溶質含有率は、非水電解液140の溶質含有率(43.0wt%)よりも低い値となる。また、本実施例1では、第2液の溶質含有率を、63.3wt%としている。従って、第2液の溶質含有率は、非水電解液140の溶質含有率(43.0wt%)よりも高い値となる。
なお、本実施例1の第1液と第2液とが混合することにより、125gの非水電解液140となる。
【0046】
(実施例2)
実施例2では、第1液として、13.6gのDMC(ジメチルカーボネート)と9.7gのEMC(エチルメチルカーボネート)と0.9gの添加剤とを混合した溶媒に、2.9gのLiPF6 と12.9gのEC(エチレンカーボネート)を溶解した液を用いた(表1参照)。従って、第1液の溶質含有率=〔(2.9+12.9)/40〕×100=39.5(wt%)となる。
【0047】
また、第2液として、26.5gのDMC(ジメチルカーボネート)と18.9gのEMC(エチルメチルカーボネート)と1.6gの添加剤とを混合した溶媒に、13.1gのLiPF6 と24.9gのEC(エチレンカーボネート)を溶解した液を用いた(表1参照)。従って、第2液の溶質含有率=〔(13.1+24.9)/85〕×100=44.7(wt%)となる。
【0048】
以上のように、本実施例2では、第1液の溶質含有率を、39.5wt%としている。従って、本実施例2では、第1液の溶質含有率は、非水電解液140の溶質含有率(43.0wt%)よりも低い値となる。また、本実施例2では、第2液の溶質含有率を、44.7wt%としている。従って、第2液の溶質含有率は、非水電解液140の溶質含有率(43.0wt%)よりも高い値となる。
なお、本実施例2の第1液と第2液とが混合することにより、125gの非水電解液140となる。
【0049】
(比較例)
比較例では、非水電解液140を第1液と第2液とに分けることなく、1回の注入工程で、125gの非水電解液140を、電池ケース110内に注入した(表1参照)。その後、実施形態のステップS4と同様に、電池ケース110内を減圧した後加圧する操作を、複数回(具体的には5回)繰り返し行った。その後、電池ケース110内を大気圧とした状態で放置して、非水電解液140の含浸を完了させた。
【0050】
(含浸完了時間の比較)
実施例1,2及び比較例について、非水電解液の含浸完了時間を調査した。その結果を図8に示す。
【0051】
比較例1では、125gの非水電解液140を電池ケース110内に注入し終えたときから、電極体150内への非水電解液140の含浸が完了するまでの時間を調査した。詳細には、多数の電池を組み立てて用意し、これらの電池にそれぞれ非水電解液140を注入した。その後、それぞれの電池について、上述のように減圧加圧操作を行った後、一定時間が経過する毎に、電池を1つずつ抽出して、電極体150内への非水電解液140の含浸が完了しているか否かを調査した。
【0052】
なお、含浸完了したか否かの判断は、抽出した電池について初期充電を行い、その後、電池を分解して分析を行って、負極またはセパレータの表面にLiが析出しているか否かで判断した。Liが検出された場合は、未だ、電極体150内への非水電解液140の含浸が完了していていないと判断することができる。一方、Liが検出されなかった場合は、電極体150内への非水電解液140の含浸が完了したと判断することができる。このようにして、Liが検出されなかった電池について、非水電解液140を電池ケース110内に注入し終えたときから、当該電池を抽出するまで(初期充電を開始するまで)の経過時間を、含浸完了時間とした。
【0053】
その結果、比較例では、含浸完了時間が28時間となった(図8参照)。すなわち、非水電解液140を電池ケース110内に注入してから、電極体150内への非水電解液140の含浸が完了するまでに、28時間を費やした。
【0054】
なお、Liが検出されなかった比較例の電池について、電極体150内に非水電解液140が均一に含浸されたかどうかを調査した。電極体150内に非水電解液140が均一に含浸されていなければ、電池反応が不均一となる。従って、電極体150内に非水電解液140を均一に含浸させることができない方法は、不適切であるといえる。そのような理由から、電極体150内に非水電解液140が均一に含浸されたかどうかを調査している。
【0055】
具体的には、電極体150を解体(捲回を巻き戻して)、負極合材層塗工部156cの表面の3カ所について、LiPF6 の濃度を測定した。測定箇所は、負極合材層塗工部156cの幅方向(図4において左右方向)中央部と、負極合材層塗工部156cの幅方向両端(図4において左端と右端)からそれぞれ10mmだけ中央よりの部位(左端側部と右端側部)との計3カ所である。
【0056】
調査の結果、いずれの箇所でも、LiPF6 の濃度は1.1mol/L付近の値となり、非水電解液140のLiPF6 の濃度(1.1mol/L)とほぼ同等の値となった(図9参照)。この結果より、Liが検出されなかった比較例の電池では、電極体150内に非水電解液140を均一に含浸させることができたといえる。
【0057】
実施例1,2では、ステップS3(第1注入工程)において、第1液を電池ケース110内に注入し終えたときから、電極体150内への非水電解液140(第1液及び第2液)の含浸が完了するまでの時間を調査した。詳細には、多数の電池を組み立てて用意し、これらの電池にそれぞれ、ステップS3〜S5の処理を行った。その後、それぞれの電池について、前述のように、ステップS6において、減圧加圧操作を行った後、一定時間が経過する毎に、電池を1つずつ抽出して、電極体150内への非水電解液140(第1液及び第2液)の含浸が完了しているか否かを調査した。
【0058】
なお、含浸完了したか否かの判断は、比較例と同様に、Li析出の有無で判断した。このようにして、Liが検出されなかった電池について、第1液を電池ケース110内に注入し終えたときから、当該電池を抽出するまで(初期充電を開始するまで)の経過時間を、含浸完了時間とした。
【0059】
その結果、実施例2では、含浸完了時間が24時間となった(図8参照)。すなわち、第1液を電池ケース110内に注入してから、電極体150内への非水電解液140(第1液及び第2液)の含浸が完了するまでに、24時間を費やした。このように、実施例2では、比較例に比べて、含浸時間を4時間低減することができた。この結果より、実施例2の方法によれば、非水電解液を短時間で電極体内に含浸させることができるといえる。
【0060】
含浸完了時間を短縮することができた理由は、実施例2では、非水電解液を電池ケース内に注入する工程を、第1注入工程と第2注入工程の2回に分けているからである。しかも、先の第1注入工程では、非水電解液の溶質含有率よりも低い溶質含有率を有する第1液を注入し、後の第2注入工程では、非水電解液から第1液を除いた残りの成分からなる第2液(非水電解液よりも溶質含有率が高くなる)を注入しているからである。
【0061】
非水電解液の溶質含有率よりも低い溶質含有率を有する第1液は、非水電解液よりも、電極体内への含浸速度が速くなる。すなわち、第1液の電極体内への含浸速度は、非水電解液の含浸速度よりも速くなる。さらに、第2注入工程において第2液を注入するときは、既に電極体が第1液(溶媒)によって濡れているので、溶質含有率の高い第2液でも、速やかに(短時間で)電極体内に含浸させることができる。その結果、第1液及び第2液からなる非水電解液を、短時間で電極体内に含浸させることができる。
【0062】
また、実施例1では、含浸完了時間が8時間となった(図8参照)。すなわち、第1液を電池ケース110内に注入してから、電極体150内への非水電解液140(第1液及び第2液)の含浸が完了するまでに、8時間しか費やさなかった。このように、実施例1では、比較例(28時間)に比べて、含浸時間を20時間も低減することができた。しかも、実施例2(24時間)に比べて、含浸時間を16時間も低減することができた。この結果より、実施例1の方法によれば、非水電解液を極めて短時間で電極体内に含浸させることができるといえる。
【0063】
含浸完了時間をより一層短縮することができた理由は、実施例1では、非水電解液に含まれる溶媒の一部を、第1液としているからである。すなわち、第1注入工程において、非水電解液に含まれる溶媒の一部(具体的には、DMCの一部とEMCの一部)を、電池ケース内に注入し、その後、第1含浸工程において、この溶媒を、電極体内に含浸させているからである。電極体内への溶媒の含浸速度は、非水電解液の含浸速度(さらに言えば、溶質を含む液体の含浸速度)に比べて、極めて速くなる。しかも、第2液を注入する前に、電極体を溶媒(具体的には、DMCとEMC)で濡らしておくことで、溶質含有率の高い第2液の含浸速度も速くすることができる。その結果、第1液及び第2液からなる非水電解液を、極めて短時間で電極体内に含浸させることができる。
【0064】
なお、Liが検出されなかった実施例1,2の電池について、前述の比較例の電池と同様にして、電極体150内に非水電解液140が均一に含浸されたかどうかを調査した。調査の結果、図9に示すように、Liが検出されなかった実施例1の電池では、いずれの箇所でも、LiPF6 の濃度は1.1mol/L付近の値となり、非水電解液140のLiPF6 の濃度(1.1mol/L)とほぼ同等の値となった。この結果より、Liが検出されなかった実施例1の電池では、電極体150内に非水電解液140を均一に含浸させることができたといえる。実施例2の結果は図示していないが、実施例1と同様な結果となった。
【0065】
以上より、実施例1,2の製造方法は、電極体内に非水電解液を均一に含浸させることができる適切な方法であり、しかも、短時間で電極体内に非水電解液(第1液と第2液)を含浸させることができる優れた方法であるといえる。
【0066】
以上において、本発明を実施形態に即して説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で、適宜変更して適用できることはいうまでもない。
【0067】
例えば、実施例1では、非水電解液140に含まれる溶媒の一部を、第1液とした。具体的には、「非水電解液に含まれる溶媒の一部」として、DMCの一部とEMCの一部を選択して、第1液とした。しかしながら、「非水電解液に含まれる溶媒の一部」として、DMCのみを選択して、DMCのみを第1液としても良い。また、「非水電解液に含まれる溶媒の一部」としてEMCのみを選択して、EMCのみを第1液としても良い。
【符号の説明】
【0068】
100 非水電解液二次電池
110 電池ケース
112 蓋部
112b 注液孔
140 非水電解液
150 電極体
155 正極
156 負極
157 セパレータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極、負極、及び、セパレータを有する電極体と、
上記電極体を収容する電池ケースと、
上記電極体内に含浸している非水電解液と、を有する
非水電解液二次電池の製造方法において、
上記非水電解液を、上記非水電解液の溶質含有率よりも低い溶質含有率を有する第1液と、上記非水電解液から上記第1液の成分を除いた残りの成分からなる第2液と、に分けて用意し、
上記電極体を収容した上記電池ケース内に、上記第1液を注入する第1注入工程と、
上記第1液を上記電極体内に含浸させる第1含浸工程と、
上記第2液を上記電池ケース内に注入する第2注入工程と、
上記第2液を上記電極体内に含浸させる第2含浸工程と、を備える
非水電解液二次電池の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の非水電解液二次電池の製造方法であって、
前記第1液は、前記非水電解液に含まれる溶媒の一部からなる
非水電解液二次電池の製造方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の非水電解液二次電池の製造方法であって、
前記第1含浸工程及び前記第2含浸工程では、前記電池ケース内を減圧した後加圧する操作を、複数回繰り返し行う
非水電解液二次電池の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−62050(P2013−62050A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−198113(P2011−198113)
【出願日】平成23年9月12日(2011.9.12)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】